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  • 特開2016216931-耐震補強工法および耐震補強構造 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216931(P2016-216931A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】耐震補強工法および耐震補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20161125BHJP
【FI】
   E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-99993(P2015-99993)
(22)【出願日】2015年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三輪 隆治
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA01
2E176BB28
(57)【要約】
【課題】耐震補強に必要な工期が長期化するのを抑制可能な耐震補強工法を提供する。
【解決手段】耐震補強工法は、アンカー打設工程と、配筋工程と、補強部材設置工程と、スタッド設置工程と、コンクリート打設工程と、を備える。スタッド設置工程では、上下方向において第1の金属筋と第2の金属筋との間に配置された筋補強部の上面に、第1の金属筋の下端よりも上方まで延びる複数の第1のスタッドを設置し、補強部材の下面に、第2の金属筋の上端よりも下方まで延びる複数の第2のスタッドを設置する。コンクリート打設工程では、スタッド設置工程後、第1の金属筋を含むと共に補強部材の上面により区画される第1の領域にコンクリートを打設することによって第1の接続梁を形成し、第2の金属筋を含むと共に補強部材の下面により区画される第2の領域にコンクリートを打設することによって第2の接続梁を形成する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建築物の耐震補強を行う耐震補強工法であって、
前記既存建築物の外部に面する第1の既存梁の前記外部側の表面と、前記第1の既存梁の下方に位置する第2の既存梁の前記外部側の表面とに、アンカー部材を打設するアンカー打設工程と、
前記第1の既存梁の前記表面に配置される第1の接続梁を構成する第1の金属筋と、前記第2の既存梁の前記表面に配置される第2の接続梁を構成する第2の金属筋と、を配設する配筋工程と、
上下方向において前記第1の金属筋と前記第2の金属筋との間であって、水平方向において前記第1の既存梁の一端側に位置する第1の既存柱と前記第1の既存梁の他端側に位置する第2の既存柱との間に、補強部材を設置する補強部材設置工程と、
前記補強部材設置工程後、前記補強部材の上面に、前記第1の金属筋の下端よりも上方まで延びる複数の第1のスタッドを設置し、前記補強部材の下面に、前記第2の金属筋の上端よりも下方まで延びる複数の第2のスタッドを設置するスタッド設置工程と、
前記スタッド設置工程後、前記第1の金属筋を含むと共に前記補強部材の上面により区画される第1の領域にコンクリートを打設することによって、前記第1の接続梁を形成し、前記第2の金属筋を含むと共に前記補強部材の下面により区画される第2の領域にコンクリートを打設することによって、前記第2の接続梁を形成するコンクリート打設工程と、
を備える、耐震補強工法。
【請求項2】
請求項1に記載の耐震補強工法であって、
前記補強部材は、
前記上面を有し、前記第1の接続梁と接続される上方部材と、前記下面を有し、前記第2の接続梁と接続される下方部材と、前記第1の既存柱と接続され、前記上方部材と前記下方部材とを接続する一端側部材と、前記第2の既存柱と接続され、前記上方部材と前記下方部材とを接続する他端側部材と、を含む枠体と、
前記上下方向に対して傾いた状態で前記上方部材と前記下方部材との間に架け渡されるブレースと、
を有する、耐震補強工法。
【請求項3】
請求項2に記載の耐震補強工法であって、
前記補強部材設置工程では、前記上方部材の一部が前記第1の金属筋の下端よりも上方に位置し、かつ、前記下方部材の一部が前記第2の金属筋の上端よりも下方に位置するように、前記補強部材が設置される、耐震補強工法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の耐震補強工法であって、
前記上方部材には複数の第1の貫通孔が形成されており、
前記下方部材には複数の第2の貫通孔が形成されており、
前記第1のスタッドおよび前記第2のスタッドにはネジ山が切られており、
前記スタッド設置工程では、前記第1のスタッドを前記第1の貫通孔に挿入し、前記第1のスタッドの前記ネジ山にナットを螺合することで前記第1のスタッドを前記上面に設置し、前記第2のスタッドを前記第2の貫通孔に挿入し、前記第2のスタッドの前記ネジ山にナットを螺合することで前記第2のスタッドを前記下面に設置する、耐震補強工法。
【請求項5】
既存建築物を耐震補強する耐震補強構造であって、
第1の金属筋を含み、前記既存建築物の外部に面する第1の既存梁の前記外部側の表面に配置される第1の接続梁と、
第2の金属筋を含み、前記第1の既存梁の下方に位置する第2の既存梁の前記外部側の表面に配置される第2の接続梁と、
上下方向において前記第1の接続梁と前記第2の接続梁との間に位置するとともに、水平方向において前記第1の既存梁の一端側に位置する第1の既存柱と前記第1の既存梁の他端側に位置する第2の既存柱との間に位置する補強部材と、
を備え、
前記補強部材は、前記補強部材の上面に設置された第1のスタッドと、前記補強部材の下面に設置された第2のスタッドと、を有し、
前記補強部材の上端は、前記第1の金属筋の下端よりも上方に位置し、
前記第1のスタッドは、前記第1の金属筋の下端よりも上方まで延びており、
前記補強部材の下端は、前記第2の金属筋の上端よりも下方に位置し、
前記第2のスタッドは、前記第2の金属筋の上端よりも下方まで延びている、耐震補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
学校建築物のように、柱が外部側に突出した構造の既存建築物に耐震補強を行う耐震補強工法では、既存建築物の既存梁の外部側の表面(以下、「外面」という)に鉄筋を配筋し、その鉄筋を含む範囲にコンクリートを打設することによって、既存梁と接続する接続梁を形成する。その後、接続梁に対して鉄骨ブレースなどの補強部材を設置し、接続梁と補強部材との間に無収縮モルタル等の充填剤を充填することによって、接続梁と補強部材とを接続する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−214261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の耐震補強工法では、補強部材を設置する前に接続梁を形成する必要があるため、接続梁の形成のために打設されるコンクリートが硬化するまで、補強部材を設置することができないという問題があった。また、設置された補強部材と接続梁とを接続するために、接続梁と補強部材との間に充填剤を充填して硬化させる必要があるという問題があった。つまり、従来の耐震補強工法では、コンクリートの硬化に必要な時間と、充填剤の硬化に必要な時間とがそれぞれ必要となり、耐震補強に必要な工期が長期化するという問題があった。
【0005】
本明細書では、上述した課題の少なくとも一部を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示される技術は、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本明細書に開示される耐震補強工法は、既存建築物の耐震補強を行う耐震補強工法であって、前記既存建築物の外部に面する第1の既存梁の前記外部側の表面と、前記第1の既存梁の下方に位置する第2の既存梁の前記外部側の表面とに、アンカー部材を打設するアンカー打設工程と、前記第1の既存梁の前記表面に配置される第1の接続梁を構成する第1の金属筋と、前記第2の既存梁の前記表面に配置される第2の接続梁を構成する第2の金属筋と、を配設する配筋工程と、上下方向において前記第1の金属筋と前記第2の金属筋との間であって、水平方向において前記第1の既存梁の一端側に位置する第1の既存柱と前記第1の既存梁の他端側に位置する第2の既存柱との間に、補強部材を設置する補強部材設置工程と、前記補強部材設置工程後、前記補強部材の上面に、前記第1の金属筋の下端よりも上方まで延びる複数の第1のスタッドを設置し、前記補強部材の下面に、前記第2の金属筋の上端よりも下方まで延びる複数の第2のスタッドを設置するスタッド設置工程と、前記スタッド設置工程後、前記第1の金属筋を含むと共に前記補強部材の上面により区画される第1の領域にコンクリートを打設することによって、前記第1の接続梁を形成し、前記第2の金属筋を含むと共に前記補強部材の下面により区画される第2の領域にコンクリートを打設することによって、前記第2の接続梁を形成するコンクリート打設工程と、を備える。
【0008】
本耐震補強工法によれば、補強部材が第1の金属筋と第2の金属筋との間に設置された後に、第1のスタッドと第2のスタッドとが補強部材に設置されるので、補強部材が設置される際には、第1の金属筋と第1のスタッドとの干渉、および、第2の金属筋と第2のスタッドとの干渉が防止される。また、補強部材が設置された後には、第1の金属筋の下端よりも上方に延びる第1のスタッドを補強部材に設置することができ、第2の金属筋の上端よりも下方に延びる第2のスタッドを補強部材に設置することができる。そのため、第1の領域にコンクリートが打設されることで、第1の接続梁を、補強部材と接続された状態で形成することができ、第2の領域にコンクリートが打設されることで、第2の接続梁を、補強部材と接続された状態の形成することができる。従って、本耐震補強工法によれば、第1の接続梁および第2の接続梁を形成するためのコンクリートの打設とは別に、第1の接続梁と補強部材とを接続し、第2の接続梁と補強部材とを接続するための充填剤を充填する必要がなく、充填剤の硬化に必要な時間が不要となる。これにより、耐震補強に必要な工期が長期化するのを抑制することができる。
【0009】
さらに、本耐震補強工法によれば、第1のスタッドが、第1の接続梁と補強部材とを接続するためのアンカー筋として機能し、第2のスタッドが、第2の接続梁と補強部材とを接続するアンカー筋として機能する。そのため、第1のスタッドおよび第2のスタッドとは別に、第1の接続梁と補強部材とを接続するためのアンカー筋および第2の接続梁と補強部材とを接続するためのアンカー筋を用いる必要がない。また、第1の金属筋が、第1の領域に打設されたコンクリートの内、第1のスタッド廻りのコンクリートの割裂防止のためのスパイラル筋として機能し、第2の金属筋が、第2の領域に打設されたコンクリートの内、第2のスタッド廻りのコンクリートの割裂防止のためのスパイラル筋として機能する。そのため、第1の金属筋および第2の金属筋とは別にスパイラル筋を用いる必要がない。これにより、耐震補強に必要なコストを削減することができる。
【0010】
(2)上記耐震補強工法において、前記補強部材は、前記上面を有し、前記第1の接続梁と接続される上方部材と、前記下面を有し、前記第2の接続梁と接続される下方部材と、前記第1の既存柱と接続され、前記上方部材と前記下方部材とを接続する一端側部材と、前記第2の既存柱と接続され、前記上方部材と前記下方部材とを接続する他端側部材と、を含む枠体と、前記上下方向に対して傾いた状態で前記上方部材と前記下方部材との間に架け渡されるブレースと、を有する構成としてもよい。本耐震補強工法によれば、補強部材が枠体とブレースとにより構成されているので、補強部材が開口の設けられていない壁体等により構成されている場合に比べて、第1の既存梁と第2の既存梁との間の開口を確保することができる。
【0011】
(3)上記耐震補強工法において、前記補強部材設置工程では、前記上方部材の一部が前記第1の金属筋の下端よりも上方に位置し、かつ、前記下方部材の一部が前記第2の金属筋の上端よりも下方に位置するように、前記補強部材が設置される構成としてもよい。本耐震補強工法によれば、上方部材の一部が第1の金属筋の下端よりも上方に位置し、かつ、下方部材の一部が第2の金属筋の上端よりも下方に位置するように補強部材が設置されるので、上方部材全体部が第1の金属筋の下端よりも下方に位置し、あるいは、下方部材全体が第2の金属筋の上端よりも上方に位置するように補強部材が設置される場合に比べて、上方部材と下方部材とにより、第1の既存梁と第2の既存梁との間の開口が狭くなることを抑制することができる。
【0012】
(4)上記耐震補強工法において、前記上方部材には複数の第1の貫通孔が形成されており、前記下方部材には複数の第2の貫通孔が形成されており、前記第1のスタッドおよび前記第2のスタッドにはネジ山が切られており、前記スタッド設置工程では、前記第1のスタッドを前記第1の貫通孔に挿入し、前記第1のスタッドの前記ネジ山にナットを螺合することで前記第1のスタッドを前記上面に設置し、前記第2のスタッドを前記第2の貫通孔に挿入し、前記第2のスタッドの前記ネジ山にナットを螺合することで前記第2のスタッドを前記下面に設置する構成としてもよい。本耐震補強工法によれば、第1のスタッドをナットにより上方部材に設置し、第2のスタッドをナットによって下方部材に設置するので、溶接等の他の方法により設置する場合に比べて、第1のスタッドおよび第2のスタッドを容易に設置することができる。
【0013】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、耐震補強構造等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】既存建築物10の立面構成を示す図
図2】既存建築物10の平面構成を示す図
図3】耐震補強構造20の詳細構成を示す説明図
図4】アンカー打設工程を示す説明図
図5】配筋工程を示す説明図
図6】補強部材設置工程を示す説明図
図7】スタッド設置工程を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
A.実施形態:
A−1.耐震補強構造20の構成:
図1から図3は、本実施形態における耐震補強工法によって耐震補強された既存建築物10の構成を概略的に示す説明図である。なお、以下の説明では、耐震補強工法によって設けられた構造物を耐震補強構造20という。図1には、既存建築物10の立面構成の一部が示されており、図2には、既存建築物10の2階のレベルにおける平面構成の一部が示されている。
【0016】
既存建築物10は、鉄筋コンクリート造の3階建の建築物であり、複数の既存柱11と、複数の既存梁12と、外壁13とを備える。図2に示すように、本実施形態では、既存建築物10におけるX方向(水平方向)において、複数の既存柱11が並んで配置されており、外壁13が、上記複数の既存柱11の内部側の表面(以下、「内面」という)に沿って設けられている。そのため、既存建築物10におけるX方向の側面では、既存柱11の外面が、外壁13の外面よりも既存建築物10の外部側に突出している。従って、既存建築物10におけるX方向の側面に補強部材50を設けて耐震補強する場合、既存柱11の断面を外部側に拡張する(いわゆる、フカす)必要は無いが、既存梁12の断面を外部側に拡張する(フカす)必要がある。以下では、この拡張部分を「接続梁30」と言う。
【0017】
図1に示すように、本実施形態では、既存建築物10の1階から3階において、第1の既存柱11Aと、第1の既存柱11Aの隣の第2の既存柱11Bとの間のスパンに、補強部材50が設置される。そのため、このスパンにおいて、1階から屋階までの床梁(既存梁12)の断面が拡張される。すなわち、1階から屋階までの既存梁12の外面に、接続梁30が設けられる。
【0018】
以下では、耐震補強構造20の内、2階の補強箇所に注目して説明を行う。2階の補強箇所において、3階の床梁(既存梁12)を第1の既存梁12Aといい、2階の床梁(既存梁12)を第2の既存梁12Bという。また、第1の既存梁12Aの外側に設置される接続梁30を第1の接続梁30Aといい、第2の既存梁12Bの外面に設置される接続梁30を第2の接続梁30Bという。
【0019】
図3は、耐震補強構造20の詳細構成を示す説明図である。図3(A)には、耐震補強構造20の内、2階の補強箇所の構成が拡大して示されており、図3(B)には、図3(A)のB−B断面における断面図が拡大して示されている。第1の接続梁30Aと第2の接続梁30Bとは、鉄筋コンクリート造の構造物である。第1の接続梁30Aは、アンカーボルト33を介して、第1の既存梁12Aと接続され、第2の接続梁30Bは、アンカーボルト33を介して、第2の既存梁12Bと接続されている。
【0020】
補強部材50は、上下方向において第1の接続梁30Aと第2の接続梁30Bとの間であって、X方向において第1の既存柱11Aと第2の既存柱11Bとの間に位置する空間15に設置されている。補強部材50は、鉄骨枠体51と、鉄骨ブレース56とを備える。鉄骨枠体51は、H型鋼の片方のフランジにおけるウェブに対して一方側の部分が除去された断面形状を有する鋼材が枠状に組み立てられたものである。鉄骨枠体51の上辺を構成する上方部材52は、上方部材52に設置された第1のスタッド40Aと第1のスタッド40A周辺に打設されたコンクリート37とにより、第1の接続梁30Aに接続されている。鉄骨枠体51の下辺を構成する下方部材53は、下方部材53に設置された第2のスタッド40Bと第2のスタッド40B周辺に打設されたコンクリート37とにより、第2の接続梁30Bに接続されている。また、後述するように、鉄骨枠体51の左辺を構成する左側部材(一端側部材)54は、第1の既存柱11Aに接続されており、鉄骨枠体51の左辺を構成する右側部材(他端側部材)55は、第2の既存柱11Bに接続されている。
【0021】
鉄骨ブレース56は、H型鋼が鉄骨枠体51の対角線上にX型に配置されたものである。すなわち、鉄骨ブレース56は、上下方向に対して傾いた状態で上方部材52と下方部材53との間に架け渡されている。なお、図3では図示を省略しているが、鉄骨ブレース56と鉄骨枠体51とは溶接またはボルトにより接続されている。補強部材50は、鉄骨ブレース56が主に水平方向の荷重を受け持つことで、耐震性能を向上させる。
【0022】
A−2.耐震補強工法:
図4から図7は、耐震補強工法を示す説明図である。なお、図4から図7では、耐震補強工法をわかりやすく示すために、既存建築物10の外壁13の図示を省略しており、(A)におけるB−B断面を(B)に示す。本実施形態の耐震補強工法は、準備工程と、アンカー打設工程と、配筋工程と、補強部材設置工程と、スタッド設置工程と、コンクリート打設工程とが、この順で行われる。以下、各工程について説明する。
【0023】
(準備工程)
本実施形態の耐震補強工法では、始めに、準備工程が行われる。準備工程では、始めに、第1の既存梁12Aの外面と第2の既存梁12Bの外面との外装材が撤去される。次に、第1の既存梁12Aの外面と第2の既存梁12Bの外面との外装材が撤去された部分の表面が目荒らしされる。
【0024】
(アンカー打設工程)
次に、アンカー打設工程が行われる。図4は、アンカー打設工程を示す説明図である。アンカー打設工程では、第1の既存梁12Aの外面と第2の既存梁12Bの外面とに複数のアンカーボルト33を打設する。具体的には、始めに、第1の既存梁12A内および第2の既存梁12B内の鉄筋(図示を省略)が探索され、探索された鉄筋を避けるように、一定の間隔でアンカーボルト33用の孔32が形成される。次に、孔32に、接着剤31が入ったカプセルが挿入され、その後、アンカー部材としてのアンカーボルト33が挿入される。アンカーボルト33の挿入によりカプセルが破れることで、カプセル内の接着剤31が孔32とアンカーボルト33との間に充填され、アンカーボルト33が設置される。
【0025】
また、アンカー打設工程では、第1の既存柱11Aの第2の既存柱11B側の側面16と、第2の既存柱11Bの第1の既存柱11A側の側面17とに複数のアンカーボルト63を打設する。なお、第1の既存柱11Aと第2の既存柱11Bとにアンカーボルト63を打設する工程は、第1の既存梁12Aと第2の既存梁12Bとにアンカーボルト33を打設する工程と同様であり、具体的な説明を省略する。
【0026】
(配筋工程)
次に、配筋工程が行われる。図5は、配筋工程を示す説明図である。配筋工程では、第1の既存梁12Aの外面上に第1の接続梁30Aを構成する第1の鉄筋34Aを配設し、第2の既存梁12Bの外面上に第2の接続梁30Bを構成する第2の鉄筋34Bを配設する。第1の鉄筋34Aを例に用いて配筋工程を具体的に説明すると、まず、第1の既存梁12Aに平行に配置される鉄筋である主筋35が配設される。主筋35は、第1の既存柱11Aの側面16に形成された孔16Aと、第2の既存柱11Bの側面17に形成された孔17Aとの間に架け渡される。次に、主筋35の直交方向に巻かれる鉄筋である帯筋36が配設される。第2の鉄筋34Bについても同様である。
【0027】
また、配筋工程では、第1の既存柱11Aに打設されたアンカーボルト63の周りに、スパイラル筋69が配筋される。また、第2の既存柱11Bに打設されたアンカーボルト63の周りに、スパイラル筋69が配筋される。
【0028】
(補強部材設置工程)
次に、補強部材設置工程が行われる。図6は、補強部材設置工程を示す説明図である。補強部材設置工程では、上下方向において第1の鉄筋34Aと第2の鉄筋34Bとの間の空間15に補強部材50を設置する。具体的には、上記空間15に補強部材50を仮止めするためのアンカー(図示せず)を別途設置し、当該アンカーに補強部材50の鉄骨枠体51を吊り下げることで、補強部材50を設置する。補強部材設置工程では、鉄骨枠体51を空間15に設置した後に、鉄骨枠体51に鉄骨ブレース56を接続してもよければ、鉄骨枠体51に鉄骨ブレース56が接続された状態の補強部材50を空間15に設置してもよい。
【0029】
補強部材設置工程が行われる前に、鉄骨枠体51の左側部材54と右側部材55とには、スタッド66が設置されている。そのため、空間15に補強部材50が設置されることで、左側部材54に設置されたスタッド66が、第1の既存柱11Aに打設されたアンカーボルト63の周りに配置され、右側部材55に設置されたスタッド66が、第2の既存柱11Bに打設されたアンカーボルト63の周りに配置される。
【0030】
一方、鉄骨枠体51の上方部材52には、第1のスタッド40A(図3(B)参照)が設置されておらず、鉄骨枠体51の下方部材53には、第2のスタッド40B(図3(B)参照)が設置されていない。そのため、本実施形態では、補強部材50を設置する際に、第1のスタッド40Aや第2のスタッド40Bが、第1の鉄筋34Aや第2の鉄筋34Bに干渉することがない。従って、本実施形態では、補強部材50の鉄骨枠体51のサイズを大きくすることができる。具体的には、補強部材50が設置されると、上方部材52のウェブ52Aから上方に突出したフランジ52Bの上端が第1の鉄筋34Aの下端よりも上方に位置し、かつ、下方部材53のウェブ53Aから下方に突出したフランジ53Bの下端が第2の鉄筋34Bの上端よりも下方に位置する。
【0031】
(スタッド設置工程)
次に、スタッド設置工程が行われる。図7は、スタッド設置工程を示す説明図である。スタッド設置工程では、空間15に設置された補強部材50の上方部材52に複数の第1のスタッド40Aを設置し、空間15に設置された補強部材50の下方部材53に複数の第2のスタッド40Bを設置する。
【0032】
上方部材52に第1のスタッド40Aを設置する場合を例に具体的に説明すると、上方部材52のウェブ52Aには、上下方向において、鉄筋34Aの主筋35および帯筋36と重ならない位置に、一定の間隔で第1の貫通孔52Cが形成されている。また、第1のスタッド40Aの一端(図7(B)の下端)にはネジ山が切られている。スタッド設置工程では、第1のスタッド40Aの一端が貫通孔52Cに挿入され、上方部材52のウェブ52Aの上方から第1のスタッド40Aのネジ山に螺合するナット42と、下方から第1のスタッド40Aのネジ山に螺合するナット43とを、上方部材52のウェブ52Aに対して締め付けることによって、上方部材52に第1のスタッド40Aを設置する。下方部材53にスタッド40Bをネジ止めする場合も同様である。
【0033】
第1のスタッド40Aは、上方部材52のウェブ52Aから上方への突出長L3が、上下方向における上方部材52のウェブ52Aの上面と第1の鉄筋34Aの下端との間の距離L4よりも長くなるように、上方部材52に設置される。そのため、第1のスタッド40Aの他端(図7(B)の上端)は、第1の鉄筋34Aの下端よりも上方まで延びている。
【0034】
また、第2のスタッド40Bは、下方部材53のウェブ53Aから下方への突出長L5が、上下方向における下方部材53のウェブ53Aの下面と第2の鉄筋34Bの上端との間の距離L6よりも長くなるように、下方部材53に設置される。そのため、第2のスタッド40Bの他端(図7(B)の下端)は、第2の鉄筋34Bの上端よりも下方まで延びている。
【0035】
(コンクリート打設工程)
最後に、コンクリート打設工程が行われる。コンクリート打設工程では、第1の鉄筋34Aの周囲に型枠(図示せず)を設置して第1の鉄筋34Aを含む第1の領域R1にコンクリート37を打設することによって、第1の接続梁30Aを形成する。また、第2の鉄筋34Bの周囲に型枠(図示せず)を設置して第2の鉄筋34Bを含む第2の領域R2にコンクリート37を打設することによって、第2の接続梁30Bを形成する。
【0036】
第1の接続梁30Aを形成する際に、補強部材50の上方部材52のウェブ52A及びフランジ52Bが型枠の一部として用いられる。すなわち、上方部材52のウェブ52A及びフランジ52Bは、第1の領域R1の一部を区画し、第1の領域R1に打設されたコンクリート37に当接する。従って、第1の領域R1には、第1のスタッド40Aが含まれる。上記の構成では、第1のスタッド40Aが、第1の接続梁30Aと上方部材52とを接続するためのアンカー筋として機能し、第1の鉄筋34Aが、第1の領域R1に打設されたコンクリート37の内、第1のスタッド40A廻りのコンクリート37の割裂防止のためのスパイラル筋として機能する。そのため、第1の領域R1にコンクリート37を打設することによって、第1の接続梁30Aと上方部材52とが接続される。
【0037】
また、第2の接続梁30Bを形成する際に、補強部材50の下方部材53のウェブ53A及びフランジ53Bが型枠の一部として用いられる。すなわち、下方部材53のウェブ53A及びフランジ53Bは、第2の領域R2の下端の一部を区画し、第2の領域R2に打設されたコンクリート37に当接する。従って、第2の領域R2には、第2のスタッド40Bが含まれる。上記の構成では、第2のスタッド40Bが、第2の接続梁30Bと下方部材53とを接続するためのアンカー筋として機能し、第2の鉄筋34Bが、第2の領域R2に打設されたコンクリート37の内、第2のスタッド40B廻りのコンクリート37の割裂防止のためのスパイラル筋として機能する。そのため、第2の領域R2にコンクリート37を打設することによって、第2の接続梁30Bと下方部材53とが接続される。第1の領域R1および第2の領域R2へのコンクリート37の打設後、コンクリート37に所定の強度が発現した後に、補強部材50を仮止めするためのアンカー(図示せず)が撤去される。
【0038】
なお、第1の既存柱11Aに打設されたアンカーボルト63と、左側部材54に設置されたスタッド66と、スパイラル筋69との周囲に無収縮モルタル等の充填剤を充填することによって、第1の既存柱11Aと左側部材54とを接続する。また、第2の既存柱11Bに打設されたアンカーボルト63と、右側部材55に設置されたスタッド66と、スパイラル筋69の周囲に無収縮モルタル等の充填剤を充填することによって、第2の既存柱11Bと右側部材55とを接続する。さらに、上方部材52と第1の既存梁12Aとの間、および、下方部材53と第2の既存梁12Bとの間に無収縮モルタル等の充填剤が充填される。これにより、図3に示す耐震補強構造20が構成される。
【0039】
以上説明したように、本実施形態の耐震補強工法は、補強部材50が第1の鉄筋34Aと第2の鉄筋34Bとの間の空間15に設置された後に、第1のスタッド40Aが補強部材50の上方部材52に設置され、第2のスタッド40Bが補強部材50の下方部材53に設置される。そのため、補強部材50が空間15に設置される際に、第1の鉄筋34Aと第1のスタッド40Aとが干渉すること、および、第2の鉄筋34Bと第2のスタッド40Bとが干渉することを防止することができる。
【0040】
また、補強部材50が空間15に設置された後には、第1の鉄筋34Aの下端よりも上方に延びる第1のスタッド40Aを上方部材52に設置することができ、第2の鉄筋34Bの上端よりも下方に延びる第2のスタッド40Bを上方部材52に設置することができる。そのため、第1の領域R1にコンクリート37が打設されることで、第1の接続梁30Aを、上方部材52と接続された状態で形成することができる。同様に、第2の領域R2にコンクリート37が打設されることで、第2の接続梁30Bを、下方部材53と接続された状態の形成することができる。従って、従来技術のように、第1の接続梁30Aおよび第2の接続梁30Bを形成するためのコンクリート37の打設とは別に、第1の接続梁30Aと上方部材52とを接続するため、あるいは、第2の接続梁30Bと下方部材53とを接続するための充填剤を充填する必要がなく、充填剤の硬化に必要な時間が不要となる。これにより、耐震補強に必要な工期が長期化するのを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態の耐震補強工法は、第1のスタッド40Aが、第1の接続梁30Aと上方部材52とを接続するアンカー筋として機能し、第2のスタッド40Bが、第2の接続梁30Bと下方部材53とを接続するアンカー筋として機能する。そのため、第1のスタッド40Aおよび第2のスタッド40Bとは別に、第1の接続梁30Aと上方部材52とを接続するアンカー筋、あるいは、第2の接続梁30Bと下方部材53とを接続するアンカー筋が不要である。また、第1の鉄筋34Aが、第1の領域R1に打設されたコンクリート37の内、第1のスタッド40A廻りのコンクリート37の割裂防止のためのスパイラル筋として機能し、第2の鉄筋34Bが、第2の領域R2に打設されたコンクリート37の内、第2のスタッド40B廻りのコンクリート37の割裂防止のためのスパイラル筋として機能する。そのため、第1の鉄筋34Aおよび第2の鉄筋34Bとは別にスパイラル筋を用いる必要がない。従って、耐震補強工法に必要なコストを削減することができる。
【0042】
また、本実施形態の耐震補強工法は、補強部材50が鉄骨枠体51と鉄骨ブレース56とにより構成されている。そのため、補強部材50が開口の設けられていない壁体等により構成されている場合に比べて、第1の既存梁12Aと第2の既存梁12Bとの間および第1の既存柱11Aと第2の既存柱11Bとの間の開口を確保することができる。
【0043】
また、本実施形態の耐震補強工法は、上方部材52のフランジ52Bの上端が第1の鉄筋34Aの下端よりも上方に位置し、かつ、下方部材53のフランジ53Bの下端が第2の鉄筋34Bの上端よりも下方に位置する。そのため、フランジ52Bを含む上方部材52の全体が第1の鉄筋34Aの下端よりも下方に位置し、あるいは、フランジ53Bを含む下方部材53の全体が第2の鉄筋34Bの上端よりも上方に位置する場合に比べて、上方部材52あるいは下方部材53により第1の既存梁12Aと第2の既存梁12Bとの間の開口が狭くなることを抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態の耐震補強工法は、第1のスタッド40Aをナット42、43によって上方部材52に設置し、同様に、第2のスタッド40Bをナット42、43によって下方部材53に設置する。そのため、溶接等の他の方法で設置する場合に比べて、第1のスタッド40Aおよび第2のスタッド40Bを容易に設置することができる。
【0045】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0046】
上記実施形態では、第1のスタッド40Aがナット42、43によって上方部材52に設置され、第2のスタッド40Bをナット42、43によって下方部材53に設置されるとしているが、これに限られない。溶接等の他の方法で設置されてもよい。
【0047】
上記実施形態では、上方部材52のフランジ52Bの上端が第1の鉄筋34Aの下端よりも上方に位置し、かつ、下方部材53のフランジ53Bの下端が第2の鉄筋34Bの上端よりも下方に位置するとしているが、これに限られない。例えば、フランジ52Bを含む上方部材52の全体が第1の鉄筋34Aの下端よりも下方に位置していてもよい。この場合でも、上方部材52のウェブ52Aにより区画された第1の領域R1にコンクリート37が打設されることで、第1の接続梁30Aを、補強部材50と接続された状態で形成することができる。また、フランジ52Bを含む上方部材52の全体が第1の鉄筋34Aの下端よりも下方に位置していても、第1のスタッド40Aの上端が第1の鉄筋34Aの下端よりも上側まで延びていれば、第1の接続梁30Aを、補強部材50と強固に接続された状態で形成することができる。フランジ53Bを含む下方部材53の全体が第2の鉄筋34Bの上端よりも上方に位置する場合も同様である。
【0048】
上記実施形態では、補強部材50が鉄骨枠体51と鉄骨ブレース56とにより構成されているとしているが、これに限られない。開口の設けられていない壁体等により構成されていてもよい。
【0049】
上記実施形態では、補強部材50がH型鋼の片方のフランジにおけるウェブに対して一方側の部分が除去された断面形状を有する鋼材により構成されているとしているが、これに限られない。例えば、補強部材50がH型鋼等により構成されていてもよい。ただし、補強部材50が上記特定断面形状を有する鋼材により構成されていると、H型鋼により構成されている場合に比べて、コンクリート打設工程において、コンクリート37を補強部材50の表面に充填しやすい。また、補強部材50を構成するものの材質も鋼材に限られず、鋼以外の金属材でもよい。
【0050】
上記実施形態では、第1の接続梁30Aが第1の鉄筋34Aにより構成され、第2の既存梁12Bが第2の接続梁30Bにより構成されるとしたが、これに限られず、鉄以外の金属筋であってもよい。
【0051】
上記実施形態では、鉄骨ブレース56は、X型に配置されているとしているが、これに限られない。K型、V型、マンサード型、その他一般的な形状の鉄骨ブレースを用いることができる。
【0052】
上記実施形態では、既存柱11の断面を外部側に拡張する必要がなく、既存梁12の断面を外部側に拡張する必要がある場合の例を示したが、これに限られず、既存柱11と既存梁12との両方の断面を外部側に拡張する必要が有る場合にも適用可能である。この場合、耐震補強構造20として、第1の接続梁30Aと第2の接続梁30Bと補強部材50とが設置されると共に、第1の既存柱11Aの外側に第1の接続柱が設置され、第2の既存柱11Bの外側に第2の接続柱が設置される。そして、上記実施形態において、第1の接続梁30Aが上方部材52と接続された状態で形成されるのと同様に、第1の接続柱が左側部材54と接続された状態で形成することができ、第2の接続柱が右側部材55と接続された状態で形成することができる。
【符号の説明】
【0053】
10:既存建築物 11A:第1の既存柱 11B:第2の既存柱 12A:第1の既存梁 12B:第2の既存梁 15:空間 20:耐震補強構造 30A:第1の接続梁 30B:第2の接続梁 33:アンカーボルト 34A:第1の鉄筋 34B:第2の鉄筋 40A:第1のスタッド 40B:第2のスタッド 50:補強部材 51:鉄骨枠体 52:上方部材 53:下方部材 54:左側部材 55:右側部材 56:鉄骨ブレース R1:第1の領域 R2:第2の領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7