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特開2016-216942コンクリート構造物の補強シート及びコンクリート構造物の補強構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216942(P2016-216942A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補強シート及びコンクリート構造物の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20161125BHJP
   B32B 7/08 20060101ALI20161125BHJP
   B32B 13/14 20060101ALI20161125BHJP
   E21D 11/04 20060101ALN20161125BHJP
【FI】
   E04G23/02 D
   B32B7/08 A
   B32B13/14
   E21D11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-100249(P2015-100249)
(22)【出願日】2015年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 康成
(72)【発明者】
【氏名】大竹 智也
【テーマコード(参考)】
2D055
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2D055CA04
2D055KB11
2D055KB16
2D055LA16
2E176BB29
4F100AE01E
4F100AK01D
4F100AT00A
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100DG01B
4F100DG01C
4F100DG15D
4F100GB07
4F100JD05A
4F100JK07B
4F100JK07C
4F100JK13A
4F100YY00A
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】付着応力を低減して優れたコンクリート構造物の補強効果を発揮できると共に、一連で長尺に形成してロール状に巻いて持ち運びすることが容易であり、更に工期短縮、施工コストの低減を図ることができる補強シートを提供する。
【解決手段】非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルム2と、コンクリート構造物100への接着側となるセパレーターフィルム2の一方の表面側に積層される第1の繊維体3と、第1の繊維体3に含まれる第1の強化繊維31よりもヤング率が高い第2の強化繊維32から構成され、セパレーターフィルム2の他方の表面側に積層される第2の繊維体4とを備え、少なくとも、第2の強化繊維32が縫製によりセパレーターフィルム2に固定されているコンクリート構造物の補強シート1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルムと、
コンクリート構造物への接着側となる前記セパレーターフィルムの一方の表面側に積層される第1の繊維体と、
前記第1の繊維体に含まれる第1の強化繊維よりもヤング率が高い第2の強化繊維から構成され、前記セパレーターフィルムの他方の表面側に積層される第2の繊維体とを備え、
少なくとも、前記第2の強化繊維が縫製により前記セパレーターフィルムに沿うように取り付けられていることを特徴とするコンクリート構造物の補強シート。
【請求項2】
前記セパレーターフィルムの他方の表面側に合成樹脂を含浸可能な不織布が積層され、
前記不織布の外側に前記第2の強化繊維が設けられていることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項3】
前記不織布の坪量が10g/m〜50g/mであることを特徴とする請求項2記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項4】
前記セパレーターフィルムの厚さが5μm〜50μmであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項5】
前記第1の強化繊維の単位幅当たりの引張剛性が前記第2の強化繊維のそれに対して0.05〜5%であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項6】
請求項1〜6の何れかに記載の補強シートの前記第1の繊維体がコンクリート構造物に接着樹脂で接着されると共に、
前記第2の繊維体側に前記第2の繊維体に含浸する含浸樹脂層が設けられることを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル、地下施設、建築物等のコンクリート構造物を補強するコンクリート構造物の補強シート及びコンクリート構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、既設のコンクリート構造物において、構造部材の経年変化による劣化、基準類の変更、より優れた性能への要求などのために、コンクリート構造物に炭素繊維やアラミド繊維などの高強度繊維で構成されるFRPを補強材として接着剤で接着して固定し、コンクリート構造物を補強することが行われている。このような補強構造ではFRPとコンクリート構造物が一体となっている限り、FRPの引張強さに基づく補強効果を発揮することができる。
【0003】
そのため、引張強さの高いFRPを用いれば補強効果が高くなるが、引張強さを高められるようにヤング率の高いFRPを用いるとコンクリート構造物とFRPのヤング率の差が大きくなる。ヤング率の差が大きくなると、一体化したコンクリート構造物とFRPに外力が加わって歪が生じた場合、コンクリート構造物とFRPに発生する応力の差も大きくなり、この応力差でコンクリート構造物とFRPの界面に位置する接着剤に大きな付着応力が生ずる。この付着応力が接着剤の最大付着強さを超えると、接着剤が剥離してFRPによる補強効果が消滅することとなる。
【0004】
このような事態を避けるべく、従来のCFRP工において、応力差による付着応力が接着剤の最大付着強さ以下になるようにCFRPの炭素繊維の目付量を設計すると、最大で概ね600g/mとなる。それ以上の補強効果が求められる場合にはCFRPを積層して対処することになるが、このCFRPの積層構造では、二層目のCFRPのコンクリート構造物の面に沿う主要な補強方向の端部において、接着剤の最大付着強さを超える付着応力が加わるのを避けるべく、コンクリート構造物側の一層目よりも二層目のCFRPを短くする必要があるため、補強する範囲が短くなってしまうという問題がある。
【0005】
この問題を解消可能な補強構造として特許文献1の補強構造がある。この補強構造は、コンクリート構造物の表面に、炭素繊維以外のアラミド繊維等で強化されたヤング率の低い第1のFRPが接着され、炭素繊維等で強化され第1のFRPよりもヤング率の高い第2のFRPが第1のFRPに接着されるものである。この補強構造では、主要な補強を担う第2のFRPとコンクリート構造物との間に、ヤング率が第2のFRPより低く、コンクリート構造物より高い第1のFRPが積層されるため、それぞれの界面の接着剤の付着応力を低くすることが可能である。
【0006】
また、別の補強構造として特許文献2の補強構造がある。この補強構造は、コンクリート構造物の表面に、引張最大荷重時伸びと引張強度が特定の範囲にある合成樹脂の緩衝材を塗布して硬化させ、その上に炭素繊維等で強化されたFRPを貼り付け、付着応力を低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−132556号公報
【特許文献2】特開2002−79604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1の補強構造は、ヤング率の低い第1のFRPとヤング率の高い第2のFRPを個別に成形して互いに接着して積層補強シートとし、この積層補強シートを現場で接着剤によりコンクリート構造物に接着するものであるが、ヤング率の異なるFRPを接着した積層補強シートは、容易に曲げることが困難なものとなる。そのため、ロール状に巻くことができず、長尺の積層補強シートを持ち運びすることが非常に難しく、必然的に短尺の積層補強シートを現場に持ち込むこととなる。
【0009】
斯様な短尺の補強シートでは、コンクリート構造物を広範囲に補強するため補強シートを全体として長く使用する必要がある場合、短尺の補強シートを相互に接合して使用することになる。しかし、短尺の補強シートを相互に接合する接合部には凹凸が形成され、接合部の凹凸により場所によっては設置が困難なケースが生ずる。また、補強する既設のコンクリート構造物に段差や凹凸がある場合には短尺の補強シートを設置できないケースも生ずる。また、短尺の補強シートを頻繁に接合する作業を行う必要があるため、工期の遅れを招いてしまう。
【0010】
また、特許文献2の補強構造は、塗布した緩衝材の硬化を待ってからFRPを貼り付けるため、硬化時間待ちで工期が従来工法よりもかかってしまうと共に、特定の品質を有する緩衝材は高価であるため、施工コストも増加するという問題がある。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、付着応力を低減して優れた補強効果を発揮することができると共に、一連で長尺に形成してロール状に巻いて持ち運びすることが容易であり、更に工期短縮、施工コストの低減を図ることができるコンクリート構造物の補強シート、及びこの補強シートを用いるコンクリート構造物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルムと、コンクリート構造物への接着側となる前記セパレーターフィルムの一方の表面側に積層される第1の繊維体と、前記第1の繊維体に含まれる第1の強化繊維よりもヤング率が高い第2の強化繊維から構成され、前記セパレーターフィルムの他方の表面側に積層される第2の繊維体とを備え、少なくとも、前記第2の強化繊維が縫製により前記セパレーターフィルムに沿うように取り付けられていることを特徴とする。
これによれば、付着応力を低減して優れた補強効果を発揮することができると共に、ヤング率の異なる繊維で構成される第1の強化繊維と第2の強化繊維が直接接着されることなく柔軟性を有するセパレーターフィルムへの縫製により一体化されることから、容易に曲げることが可能な補強シートとなる。従って、一連で長尺に形成してロール状に巻いて持ち運びすることを容易に行うことができ、効率的に施工することができる。また、良好なドレープ性を有し、コンクリート構造物の湾曲部、入り隅部、凹凸部への追随性などコンクリート構造物への追随性にも優れるものとなる。また、非通液性を有するセパレーターフィルムで第1の繊維体と第2の繊維体を隔絶することにより、第1の繊維体をコンクリート構造物に接着する接着剤の硬化、養生の時間待ちなどセパレーターフィルムの一方側の作業完了を待つことなく、第2の繊維体側での含浸樹脂の塗布などセパレーターフィルムの他方側の作業工程を実施することができ、工期短縮を図ることができる。また、特定の品質を有する緩衝材など高価な材料が不要で、工期も短縮されることから、施工コストも低減することができる。
【0013】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記セパレーターフィルムの他方の表面側に合成樹脂を含浸可能な不織布が積層され、前記不織布の外側に前記第2の強化繊維が設けられていることを特徴とする。
これによれば、不織布に含浸樹脂が含浸させて高強度で付着させ含浸樹脂を確実に留まらせることが可能となり、含浸樹脂の性能による補強効果を確実に得ることができる。
【0014】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記不織布の坪量が10g/m〜50g/mであることを特徴とする。
これによれば、10g/m以上の坪量の不織布により、樹脂を含浸可能な不織布の未含浸部を所要量以上確保し、含浸樹脂の付着強度をより確実に高めることができ、50g/m以下の坪量の不織布により、樹脂が含浸しきれない未含浸部が残留し、未含浸部から破損してしまうことを確実に防止することができる。
【0015】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記セパレーターフィルムの厚さが5μm〜50μmであることを特徴とする。
これによれば、セパレーターフィルムの厚さを5μm以上とすることにより、縫製加工の際にセパレーターフィルムが裂ける事態を確実に回避することができ、厚さを50μm以下とすることにより、コンクリート構造物への追随性に必要な柔軟性を確実に得ることができる。
【0016】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記第1の強化繊維の単位幅当たりの引張剛性が前記第2の強化繊維のそれに対して0.05〜5%であることを特徴とする。
これによれば、第1の強化繊維の引張剛性を0.05%以上とすることにより、補強効果を確実に得ることができ、第1の強化繊維の引張剛性を5%以下とすることにより、第1の繊維体に生ずる応力が第2の繊維体に引きずられて補強シートとコンクリート構造物を接着する接着剤で剥離、破損が生ずる虞を回避することができる。
【0017】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、本発明の補強シートの前記第1の繊維体がコンクリート構造物に接着樹脂で接着されると共に、前記第2の繊維体側に前記第2の繊維体に含浸する含浸樹脂層が設けられることを特徴とする。
これによれば、本発明の補強シートの効果が確実に得られる補強構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、付着応力を低減して優れた補強効果を発揮することができると共に、ヤング率の異なる繊維で構成される第1の強化繊維と第2の強化繊維が直接接着されることなく柔軟性を有するセパレーターフィルムへの縫製により一体化され、容易に曲げることが可能な補強シートを得ることができる。従って、補強シートを一連で長尺に形成してロール状に巻いて持ち運びを行い、効率的に施工することができる。また、補強シートが良好なドレープ性を有し、コンクリート構造物の湾曲部、入り隅部、凹凸部への追随性などコンクリート構造物への追随性にも優れるものとなる。
【0019】
また、非通液性を有するセパレーターフィルムで第1の繊維体と第2の繊維体を隔絶することにより、第1の繊維体をコンクリート構造物に接着する接着剤の硬化、養生の時間待ちなどセパレーターフィルムの一方側の作業完了を待つことなく、第2の繊維体側での含浸樹脂の塗布などセパレーターフィルムの他方側の作業工程を実施することができ、工期短縮を図ることができる。また、特定の品質を有する緩衝材など高価な材料が不要で、工期も短縮されることから、施工コストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(a)は本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強シートを示す斜視図、(b)はその縦断面図。
図2】実施形態のコンクリート構造物の補強シートをコンクリート構造物に接着した状態を示す縦断面図。
図3】本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強構造を示す縦断面図。
図4】(a)は本発明による変形例のコンクリート構造物の補強シートを示す縦断面図、(b)はその補強シートによる変形例のコンクリート構造物の補強構造を示す縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔実施形態のコンクリート構造物の補強シート及びコンクリート構造物の補強構造〕
本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強シート1は、図1に示すように、通液性がないセパレーターフィルム2と、セパレーターフィルム2の一方の表面側に積層される第1の繊維体3と、セパレーターフィルム2の他方の表面側に積層される第2の繊維体4とを備え、第1の繊維体3が積層されるセパレーターフィルム2の一方の表面側が、後述するコンクリート構造物100への接着側となる。
【0022】
セパレーターフィルム2は、非通液性と柔軟性を有する適宜の素材で形成することが可能であるが、例えばポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムなどの合成樹脂フィルム等とすると良好であり、特に縫製による積層加工のし易さや強度の観点からはポリエステルフィルムが優れている。また、ポリエステルフィルム等で形成されるセパレーターフィルム2の厚さは、5μm〜50μmとすることが好ましく、5μm以上とすることで縫製加工の際にセパレーターフィルムが裂ける事態を確実に回避することができ、50μm以下とするでコンクリート構造物への追随性に必要な柔軟性を確実に得ることができる。より好ましくは12μm〜38μmとするとよく、図示例では12μmとしている。
【0023】
第1の繊維体3は、本実施形態においては、第1の強化繊維31と、第1の強化繊維31が埋め込まれているようにして設けられている第1の不織布32とから構成され、接着層5での接着により、セパレーターフィルム2の一方の表面側に積層されている。第1の強化繊維31は、後述する第2の強化繊維41よりもヤング率が低い繊維から構成され、例えばポリエステル繊維、ナイロン繊維或いはガラス繊維の強化繊維等とすると良好である。第1の強化繊維31は、図示例では一方向に引き揃えて並べて設けられているが、二方向あるいは3方向以上に引き揃えて交差させるように設ける構成等とすることも可能である。
【0024】
第1の不織布32は、例えば短繊維のポリエステル繊維で形成されるポリエステル不織布等で構成され、第1の不織布32のセパレーターフィルム2と逆側の外側よりの部分は接着剤等の合成樹脂を含浸可能になっている。第1の不織布32の坪量は、10g/m以上とすることで、合成樹脂を含浸可能な不織布の未含浸部を所要量以上確保し、含浸樹脂の付着強度をより確実に高めることができ、50g/m以下とすることで、樹脂が含浸しきれない未含浸部が残留して未含浸部から破損してしまうことを確実に防止できることから、10g/m〜50g/mとすることが好ましい。
【0025】
第1の繊維体3は、例えば第1の強化繊維31が一方向に引き揃えられた繊維シートに第1の不織布32を加熱圧着或いは接着する等により形成される。第1の繊維体3の具体例として、第1の強化繊維31をポリエステル繊維(1670dtex、ヤング率15,000N/mm)を一方向に引き揃えて1m幅当たりの打ち込み本数120本で設け、これに第1の不織布32に相当するポリエステル不織布(30g/m)を加熱圧着して一体化すること等で形成することが可能である。
【0026】
第1の強化繊維31の引張剛性は、後述する第2の強化繊維41の引張剛性に対して0.05〜5%のものを用いると好適であり、0.05%以上とすることにより、補強効果を確実に得ることができ、5%以下とすることにより、第1の繊維体3に生ずる応力が第2の繊維体4に引きずられて補強シート1とコンクリート構造物100を接着する接着剤で剥離、破損が生ずる虞を回避することができる。また、第1の強化繊維31の繊維は、第1の不織布32を構成する繊維と引張剛性が同等以上のものとすると良好であり、より好適には第1の強化繊維31の繊維に第1の不織布32を構成する繊維よりも引張剛性が高いものを用いるとよい。
【0027】
第2の繊維体4は、本実施形態においては、第2の強化繊維41と、第2の強化繊維41のセパレーターフィルム2側に積層されて第2の強化繊維41が載置されるように敷設されている第2の不織布42から構成され、第2の不織布42が接着層6によりセパレーターフィルム4の他方の表面側に接着されている。第2の強化繊維41には、第1の強化繊維31よりもヤング率が高い強化繊維が用いられ、例えば炭素繊維とすると好適であるが、アラミド繊維、PBO繊維、超高密度ポリエチレン繊維、ガラス繊維等としてもよい。第2の強化繊維42は、図示例では第1の強化繊維31と同じ方向で、一方向に引き揃えて並べて設けられているが、二方向に引き揃えて交差させるように設ける構成等とすることも可能である。
【0028】
第2の不織布42は、例えば短繊維のポリエステル繊維で形成されるポリエステル不織布等で構成され、第2の不織布42の少なくとも第2の強化繊維41よりの部分は合成樹脂を含浸可能になっている。第2の不織布42の坪量は、10g/m以上とすることで、合成樹脂を含浸可能な不織布の未含浸部を所要量以上確保し、含浸樹脂の付着強度をより確実に高めることができ、50g/m以下とすることで、樹脂が含浸しきれない未含浸部が残留して未含浸部から破損してしまうことを確実に防止できることから、10g/m〜50g/mとすることが好ましい。
【0029】
第1の繊維体3と第2の不織布42は、セパレーターフィルム2の一方の表面側と他方の表面側とに、両面にドライラミネートによって積層されて固着されている。図示の5、6はドライラミネート製法による接着層である。そして、接着層5、6で一体化されたセパレーターフィルム2、第1の繊維体3、第2の不織布42に対して、第2の強化繊維41が縫製による縫製糸7で縫い付けられてセパレーターフィルム2に沿うように取り付けられている。例えば第2の強化繊維41として、高強度炭素繊維が一方向に引き揃えられた炭素繊維シート(ヤング率2.45×10N/mm、坪量1000g/m以上)が第2の不織布42上に載置され、ステッチ機あるいはキルティング機による縫製が施され、56dtexのポリエステル系等の縫製糸7でセパレーターフィルム2に取り付けられる。尚、縫製する第2の強化繊維41は、所定方向に並べられた強化繊維に微量の樹脂を含浸して固着した繊維シート、所定方向に並べられた強化繊維を補助糸で一体化した繊維シート、単に所定方向に並べた強化繊維、二方向あるいは三方向以上に繊維が並べられた織布や組布等とすることが可能である。
【0030】
このようにして形成されている補強シート1は、第1の強化繊維31で構成される第1の繊維体3と第2の強化繊維41で構成される第2の繊維体4とが、全体に亘って接着されているものではなく、縫製によって一体化されているため、100m程度なら容易に巻ける柔軟性を有する。尚、第2の強化繊維41の繊維は、第2の不織布42を構成する繊維よりも引張剛性が高いものとすることが好ましい。
【0031】
本実施形態のコンクリート構造物の補強構造を補強シート1で形成する際には、コンクリート構造物100の補強する箇所の表面に、脆弱層の除去、凹凸の平滑化など下地処理を実施した後、プライマーを塗布する。図2に示すように、プライマーはコンクリート構造物100の表面に浸透してプライマー層11を形成し、コンクリート表面を強化すると同時に接着樹脂との付着力を高めるように作用する。プライマーには、接着樹脂との親和性の高いプライマーを選定し、例えば粘度1700mPa・sのエポキシ樹脂を0.15kg/mで塗布する。
【0032】
その後、図2に示すように、プライマー層11の上に接着樹脂を塗布して接着樹脂層12を形成する。コンクリート構造物100への補強は上面施工となることが多いため、接着樹脂にはタレ難く、必要な樹脂量が平滑に補強する面に塗布される品質と、補強シート1の第2の不織布42に確実に浸透する品質と、硬化後強固にコンクリート構造物100と補強シート1とを接着する品質を有するものが好ましい。例えば接着樹脂としてペースト状でコンクリートとの付着力が1.5N/mm以上のエポキシ樹脂を用い、0.7kg/mで塗布して接着樹脂層12を形成する。尚、同様な性状のアクリル系樹脂を接着樹脂として用いると、低温時の施工でも反応が開始されるため、厳冬期の施工も可能となる。
【0033】
そして、接着樹脂が硬化する前に、補強シート1の第1の繊維体3における第1の不織布32側を接着樹脂に押し付け、第1の不織布32に接着樹脂が含浸するようにして、接着樹脂層12を介して補強シート1をコンクリート構造物100に貼り付ける。即ち、第1の繊維体3が接着樹脂によって接着され、第1の繊維体3側をコンクリート構造物100側にして補強シート1が取り付けられる。
【0034】
更に、図3に示すように、接着樹脂層12を介して積層された補強シート1において、セパレーターフィルム2の第2の繊維体4側に第2の繊維体4に含浸する含浸樹脂層13が設けられる。含浸樹脂層13を形成する含浸樹脂には、第2の強化繊維41への含浸性、第2の不織布42への含浸性、それ自体の強靱さを有するものが好ましく、例えばチクソトロッピック剤を添加したエポキシ樹脂(含浸樹脂単体の硬化後の性能は、曲げ強さが50N/mm以上、引張強さが40N/mm以上、引張せん断強さが40N/mm以上)を用い、1.2kg/mで塗布して含浸させる。これにより、含浸樹脂層13が形成されたコンクリート構造物の補強構造が形成される。
【0035】
本実施形態によれば、付着応力を低減して優れた補強効果を発揮することができると共に、ヤング率の異なる強化繊維で構成される第1の強化繊維31と第2の強化繊維41が直接接着されることなく柔軟性を有するセパレーターフィルム2への縫製により一体化されることから、容易に曲げることが可能な補強シート1となる。従って、一連で長尺に形成してロール状に巻いて持ち運びすることを容易に行うことができ、効率的に施工することができる。また、良好なドレープ性を有し、コンクリート構造物の湾曲部、入り隅部、凹凸部への追随性などコンクリート構造物への追随性にも優れるものとなる。
【0036】
また、非通液性を有するセパレーターフィルム2で第1の繊維体3と第2の繊維体4を隔絶することにより、第1の繊維体3をコンクリート構造物100に接着する接着樹脂の硬化、養生の時間待ちなどセパレーターフィルム2の一方側の作業完了を待つことなく、第2の繊維体4側での含浸樹脂の塗布などセパレーターフィルム2の他方側の作業工程を実施することができ、工期短縮を図ることができる。また、特定の品質を有する緩衝材など高価な材料が不要で、工期も短縮されることから、施工コストも低減することができる。
【0037】
また、第1の不織布32、第2の不織布42により、接着樹脂、含浸樹脂を含浸させて高強度で付着させることができる。従って、補強シート1を確実にコンクリート構造物100に対して接着することができると共に、含浸樹脂を確実に留まらせ、含浸樹脂の性能による補強効果を確実に得ることができる。
【0038】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明、実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものであり、下記変形例も包含する。
【0039】
例えば本発明の補強シートには、非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルムの一方の表面側に第1の繊維体が積層され、その他方側に第2の繊維体が積層され、第2の繊維体が第1の繊維体に含まれる第1の強化繊維よりもヤング率が高い第2の強化繊維から構成され、少なくとも、第2の強化繊維が縫製によりセパレーターフィルムに沿うように取り付けられる適宜の構成が包含され、図4に示す変形例の補強シート1a等も含むものである。
【0040】
図4の補強シート1aは、上記実施形態と同様のセパレーターフィルム2と、第1の強化繊維31と、第2の強化繊維41を有し、第1の繊維体3aがセパレーターフィルム2の一方の表面側に積層される第1の強化繊維31で構成され、第2の繊維体4aがセパレーターフィルム2の他方の表面側に積層される第2の強化繊維41で構成される。そして、第1の強化繊維31が縫製による縫製糸71でセパレーターフィルム2に沿うように取り付けられていると共に、第2の強化繊維41が縫製による縫製糸72でセパレーターフィルム2に沿うように取り付けられている。尚、縫製糸71、72には縫製糸7と同様のものを適宜用いることができる。
【0041】
補強シート1aによるコンクリート構造物100の補強構造では、例えばコンクリート構造物100の表面にプライマーを塗布してプライマー層11が形成され、その上に接着樹脂を塗布して第1の繊維体3a或いは第1の強化繊維31に接着樹脂が含浸するように補強シート1aが配設され、第1の繊維体3a或いは第1の強化繊維31とセパレーターフィルム2の一方の表面とが接着樹脂層12aを介してコンクリート構造物100に固定される。
【0042】
また、接着樹脂層12aを介して積層された補強シート1aにおいて、セパレーターフィルム2の第2の繊維体4a側に第2の繊維体4a或いは第2の強化繊維41に含浸する含浸樹脂層13が設けられ、補強構造が形成される。尚、プライマー層11を形成するプライマー、接着樹脂層12aを形成する接着樹脂、含浸樹脂層13を形成する含浸樹脂には、上記実施形態のものと同様のもの等を適宜用いることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えばトンネル、地下施設、建築物等のコンクリート構造物を補強する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1、1a…補強シート 2…セパレーターフィルム 3、3a…第1の繊維体 31…第1の強化繊維 32…第1の不織布 4、4a…第2の繊維体 41…第2の強化繊維 42…第2の不織布 5、6…接着層 7、71、72…縫製糸 11…プライマー層 12、12a…接着樹脂層 13…含浸樹脂層 100…コンクリート構造物
図1
図2
図3
図4