(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-216947(P2016-216947A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補強シート及びその製造方法、コンクリート構造物の補強構造
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20161125BHJP
E21D 11/04 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
E04G23/02 E
E21D11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-100541(P2015-100541)
(22)【出願日】2015年5月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【弁理士】
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】上田 康成
【テーマコード(参考)】
2D055
2E176
【Fターム(参考)】
2D055CA03
2D055KB07
2D055KB13
2D055KB16
2D055KC06
2D055LA16
2E176AA01
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】高強度の繊維強化樹脂層を形成すること、接着性に優れる性状の最適な接着剤を自由に用いて高い接着強度でコンクリート構造物の表面に接着することができると同時に、安定した品質の繊維強化樹脂層を短工期で施工することができる。
【解決手段】非通液性のセパレーターフィルム2と、セパレーターフィルム2のコンクリート構造物100への接着側と逆側に積層して設けられ、補強繊維部31と半硬化状態のマトリックス樹脂32で形成されているプリプレグ3とから構成されるコンクリート構造物の補強シート1であり、好適にはセパレーターフィルム2のコンクリート構造物100への接着側と逆側に第1の不織布4を積層して固着し、マトリックス樹脂32が第1の不織布4に含浸された状態でプリプレグ3を第1の不織布4の外側に積層すると共に、セパレーターフィルム2の接着側に接着剤を含浸可能な第2の不織布5を積層して固着する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非通液性のセパレーターフィルムと、
前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に積層して設けられ、補強繊維部と半硬化状態のマトリックス樹脂で形成されているプリプレグと
から構成されることを特徴とするコンクリート構造物の補強シート。
【請求項2】
前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に第1の不織布が積層されて固着され、
前記マトリックス樹脂が前記第1の不織布に含浸された状態で前記プリプレグが前記第1の不織布の外側に積層されていると共に、
前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側に接着剤を含浸可能な第2の不織布が積層されて固着されている
ことを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項3】
前記第1の不織布の坪量が10g/m2〜50g/m2、前記第2の不織布の坪量が10g/m2〜50g/m2であることを特徴とする請求項2記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項4】
前記セパレーターフィルムの幅方向の両側端部に、第2の不織布だけが固着して積層されている領域、若しくは第2の不織布と第1の不織布だけが固着して積層されている領域を有することを特徴とする請求項2又は3記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項5】
前記セパレーターフィルムの厚さが5μm〜50μmであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のコンクリート構造物の補強シート。
【請求項6】
前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に第1の不織布が積層して固着され、前記マトリックス樹脂が前記第1の不織布に含浸するようにして前記プリプレグが前記第1の不織布の外側に積層されていると共に、前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側に接着剤を含浸可能な第2の不織布が積層して固着されている請求項1〜5の何れかに記載のコンクリート構造物の補強シートの製造方法であって、
非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルムの一方の面にマトリックス樹脂を含浸可能な部分を残して第1の不織布を積層して接着し、前記セパレーターフィルムの他方の面に接着剤を含浸可能な部分を残して第2の不織布を積層して接着する第1工程と、
前記セパレーターフィルムの前記第1の不織布に半硬化状態の前記マトリックス樹脂を含浸するようにして、前記セパレーターフィルムに前記プリプレグを積層して固着する第2工程と
を備えることを特徴とするコンクリート構造物の補強シートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れかに記載のコンクリート構造物の補強シートにおける前記セパレーターフィルムの前記接着側がコンクリート構造物に接着剤で接着されると共に、
前記セパレーターフィルムの前記接着側と逆側に、前記プリプレグの前記マトリックス樹脂を硬化して形成されている繊維強化樹脂層が設けられていることを特徴とするコンクリート構造物の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばトンネル、地下施設、建築物等のコンクリート構造物を補強するコンクリート構造物の補強シート及びその製造方法、並びにコンクリート構造物の補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物を補強する代表的な工法としてCFRP工法が知られている。CFRP工法は、コンクリート構造物の表面に、炭素繊維シートにエポキシ樹脂等の含浸接着剤を含浸させながら、この含浸接着剤で炭素繊維シートを接着して一体化するものであり、炭素繊維シートの含浸と接着、強化プラスチック化を同時に実施するものである。
【0003】
CFRP工法は、含浸接着剤で炭素繊維の含浸と炭素繊維の接着を同時に行うものであるが、含浸性向上に求められる性状と接着性向上に求められる性状において硬化速度、粘度等で相反する部分があるため、使用される含浸接着剤は含浸性と接着性の両方を許容範囲で発揮できる性状のものに制限されることになる。即ち、含浸による強度と接着強度のいずれか或いは双方に犠牲になっている部分がある。
【0004】
この問題点を解消するため、特許文献1のコンクリート構造物の補強構造が提案されている。この補強構造は、コンクリート構造物の表面に接着層を接着し、接着層にセパレーターを接着し、セパレーターの接着層と逆側の面に略平面状の補強繊維部を積層し、補強繊維部を含浸層で含浸して、セパレーターにより、接着層側と含浸層側を浸透不能に分離するものである。この補強構造によれば、セパレーターでの分離により、含浸性に優れる性状の含浸剤を用いて強度の高い含浸状態の補強繊維部及び含浸層を形成することができると共に、接着性に優れる性状の接着剤でセパレーターを高い接着強度でコンクリート構造物の表面に接着することが可能となる。尚、その他の先行技術文献として特許文献2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−208954号公報
【特許文献2】特開平7−41546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の補強構造では、セパレーターの補強繊維部側において現場で含浸作業を行う必要があるが、補強繊維部に十分な含浸を行って高強度の繊維強化樹脂層を形成する作業を現場で均質的に行うことは容易でない。更に、現場での含浸作業には時間がかかるため、工期も長期化する。
【0007】
また、コンクリート構造物の補強では、天井面などコンクリート構造物の下面に対して含浸作業を行う必要がある場合も多々生ずるが、斯様な場合に、過剰に塗布された含浸剤が表面に留まって液滴が生ずる虞もある。特に気温が高い場合には、含浸剤が液滴化する可能性は高くなる。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、高強度の繊維強化樹脂層を形成すること、接着性に優れる性状の最適な接着剤を自由に用いて高い接着強度でコンクリート構造物の表面に接着することができると同時に、未硬化の含浸剤の液滴化を生ずることがなく、安定した品質の繊維強化樹脂層を短工期で施工することができるコンクリート構造物の補強シート及びその製造方法、並びにその補強シートを用いるコンクリート構造物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、非通液性のセパレーターフィルムと、前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に積層して設けられ、補強繊維部と半硬化状態のマトリックス樹脂で形成されているプリプレグとから構成されることを特徴とする。
これによれば、非通液性のセパレーターフィルムにより、プリプレグとコンクリート構造物に接着する接着剤とが影響を及ぼし合うことを無くし、プリプレグで高強度の繊維強化樹脂層を形成することができ、接着性に優れる性状の最適な接着剤を自由に用いて高い接着強度でコンクリート構造物の表面に接着することができる。同時に、セパレーターフィルムの接着側と逆側にプリプレグを設け、プリプレグで繊維強化樹脂層を形成することが可能であるから、未硬化の含浸層の剥落や含浸剤の液滴化を生ずることがなく、安定した品質の繊維強化樹脂層を短工期で施工することができる。
【0010】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に第1の不織布が積層されて固着され、前記マトリックス樹脂が前記第1の不織布に含浸された状態で前記プリプレグが前記第1の不織布の外側に積層されていると共に、前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側に接着剤を含浸可能な第2の不織布が積層されて固着されていることを特徴とする。
これによれば、第1の不織布により、プリプレグのマトリックス樹脂を第1の不織布に含浸させ、プリプレグを高い付着強度でセパレーターフィルムに付着させることができる。また、第2の不織布により、コンクリート構造物への接着を担う接着剤を第2の不織布に含浸させ、補強シートを高い接着強度でコンクリート構造物に接着することが可能になる。
【0011】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記第1の不織布の坪量が10g/m
2〜50g/m
2、前記第2の不織布の坪量が10g/m
2〜50g/m
2であることを特徴とする。
これによれば、第1、第2の不織布の坪量を10g/m
2以上とすることにより、マトリックス樹脂、接着剤を不織布に十分に含浸させ、高強度の付着、接着を確実に行うことができる。また、第1、第2の不織布の坪量を50g/m
2以下とすることにより、不織布にマトリックス樹脂、接着剤が含浸していない未含浸部が残留することを確実に防止し、未含浸部に起因して生ずる破損を防止することができる。
【0012】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記セパレーターフィルムの幅方向の両側端部に、第2の不織布だけが固着して積層されている領域、若しくは第2の不織布と第1の不織布だけが固着して積層されている領域を有することを特徴とする。
これによれば、補強シートとプリプレグ或いは補強繊維部の幅を同幅とすると、施工用の接着剤が未硬化時に、セパレーターフィルムとプリプレグで構成される比較的重い補強シートが重みで剥がれ落ちる可能性があるが、両側の側端部に当該領域を設けることにより、当該領域のセパレーターフィルム及び第2の不織布が吸盤のように施工用の接着剤に密着して高強度で固着され、補強シートが剥落することを防止することができる。
【0013】
本発明のコンクリート構造物の補強シートは、前記セパレーターフィルムの厚さが5μm〜50μmであることを特徴とする。
これによれば、セパレーターフィルムの厚さを5μm以上とすることにより、セパレーターフィルムの強度不足でプリプレグを積層する際に破断することを確実に防止することができる。また、セパレーターフィルムの厚さを50μm以下とすることにより、セパレーターフィルムの大きな厚さに起因して剪断荷重がかかり、セパレーターフィルムに歪みが生じてコンクリート構造物への接着層或いは繊維強化樹脂層からの剥離が発生することを確実に防止することができ、更に、非通液性で隔絶する目的以上の材料の無駄な使用を避け、製造コストを低減することができる。
【0014】
本発明のコンクリート構造物の補強シートの製造方法は、前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に第1の不織布が積層して固着され、前記マトリックス樹脂が前記第1の不織布に含浸された状態で前記プリプレグが前記第1の不織布の外側に積層されていると共に、前記セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側に接着剤を含浸可能な第2の不織布が積層して固着されている本発明のコンクリート構造物の補強シートを製造する方法であって、非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルムの一方の面にマトリックス樹脂を含浸可能な部分を残して第1の不織布を積層して接着し、前記セパレーターフィルムの他方の面に接着剤を含浸可能な部分を残して第2の不織布を積層して接着する第1工程と、前記セパレーターフィルムの前記第1の不織布に半硬化状態の前記マトリックス樹脂を含浸するようにして、前記セパレーターフィルムに前記プリプレグを積層して固着する第2工程とを備えることを特徴とする。
これによれば、ドライラミネート等の低コストで簡単な方法を用いてセパレーターフィルムの両面に含浸可能な部分を有する第1、第2の不織布を固着することができる。また、第1の不織布にマトリックス樹脂を含浸してプリプレグを積層して固着することにより、容易な製造工程で、プリプレグをセパレーターフィルムに高い安定性で固着することができる。
【0015】
本発明のコンクリート構造物の補強構造は、本発明のコンクリート構造物の補強シートにおける前記セパレーターフィルムの前記接着側がコンクリート構造物に接着剤で接着されると共に、前記セパレーターフィルムの前記接着側と逆側に、前記プリプレグの前記マトリックス樹脂を硬化して形成されている繊維強化樹脂層が設けられていることを特徴とする。
これによれば、本発明の補強シートの効果が確実に得られる補強構造を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非通液性のセパレーターフィルムにより、プリプレグとコンクリート構造物に接着する接着剤とが影響を及ぼし合うことを無くし、プリプレグで高強度の繊維強化樹脂層を形成することができ、接着性に優れる性状の最適な接着剤を自由に用いて高い接着強度でコンクリート構造物の表面に接着することができる。同時に、セパレーターフィルムの接着側と逆側にプリプレグを設け、プリプレグで繊維強化樹脂層を形成することが可能であるから、未硬化の含浸剤の液滴化を生ずることがなく、安定した品質の繊維強化樹脂層を短工期で施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】(a)は本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強シートを示す斜視図、(b)はその縦断面図。
【
図2】実施形態のコンクリート構造物の補強シートをコンクリート構造物に接着した状態を示す縦断面図。
【
図3】本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強構造を示す縦断面図。
【
図4】実施形態のコンクリート構造物の補強シートを製造する製造工程例を示す説明図。
【
図5】実施形態のコンクリート構造物の補強シートを製造する別の製造工程例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態のコンクリート構造物の補強シート及びその製造方法、コンクリート構造物の補強構造〕
本発明による実施形態のコンクリート構造物の補強シート1は、
図1に示すように、非通液性のセパレーターフィルム2と、セパレーターフィルム2のコンクリート構造物100への接着側と逆側に積層して設けられ、補強繊維部31とマトリックス樹脂32で形成されているプリプレグ3とから構成されている。
【0019】
セパレーターフィルム2のコンクリート構造物100への接着側と逆側には第1の不織布4が積層され、接着層6によって固着されており、プリプレグ3は、マトリックス樹脂32が第1の不織布4に含浸するようにして第1の不織布4の外側に積層されている。また、セパレーターフィルム2のコンクリート構造物100への接着側には、接着剤を含浸可能な第2の不織布5が積層され、接着層7によって固着されている。
【0020】
セパレーターフィルム2は、非通液性と柔軟性を有する適宜の素材で形成し、例えばポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ナイロンフィルムなどの合成樹脂フィルム等とすると良好である。特に、両面に不織布4、5を積層させる場合には、柔軟性や表面の濡れ性等の加工適正、屋外での使用や高強度が掛かる等の使用用途、不織布4、5との貼り合わせに一般的なドレイラミネーターの使用が可能で、品質上、経済性の点で優れている等の観点から、ポリエステルフィルムとすると好適である。
【0021】
ポリエステルフィルム等から構成されるセパレーターフィルム2の厚さは、5〜50μmとすると好ましく、5μm以上とすることでセパレーターフィルムの強度不足でプリプレグを積層する際に破断することを確実に防止することができる。また、50μm以下とすることにより、セパレーターフィルムの大きな厚さに起因して剪断荷重がかかり、セパレーターフィルムに歪みが生じてコンクリート構造物への接着層或いは繊維強化樹脂層からの剥離が発生することを確実に防止することができ、更に、非通液性で隔絶する目的以上の材料の無駄な使用を避け、製造コストを低減することができる。図示例のセパレーターフィルム2には、厚さ12μmで、両面にコロナ処理を施したポリエステルフィルムを使用している。
【0022】
第1の不織布4、第2の不織布5には、マトリックス樹脂32或いは接着剤に少なくとも部分的に含浸可能で、マトリックス樹脂32或いは接着剤による接着層との接着性を高められる適宜の素材を用いることが可能であり、例えばポリエステル繊維で形成される不織布等とするとよい。また、第1、第2の不織布4、5を構成する繊維には、長繊維だと付着強度が低下するため、短繊維を用いることが好ましい。
【0023】
第1の不織布4の坪量、第2の不織布の坪量は、それぞれ10g/m
2〜50g/m
2とすることが好ましく、10g/m
2以上とすることにより、マトリックス樹脂32或いは接着剤を不織布4、5に十分に含浸させ、高強度の付着、接着を確実に行うことができ、又、50g/m
2以下とすることにより、不織布4、5にマトリックス樹脂32或いは接着剤が含浸していない未含浸部が残留することを確実に防止し、未含浸部に起因して生ずる破損を防止することができる。図示例では、第1の不織布4、第2の不織布5の双方とも、ポリエステル短繊維で形成されている坪量20g/m
2の不織布となっている。
【0024】
接着層6、7には、セパレーターフィルム2に第1の不織布4、第2の不織布5を接着可能な適宜の接着剤で形成することが可能であり、例えばセパレーターフィルム2とポリエステルフィルム、第1の不織布4、第2の不織布5をポリエステル繊維で形成される不織布とする場合、ウレタン接着剤等を用いると良好である。また、セパレーターフィルム2に接着層6、7によって第1の不織布4、第2の不織布5を接着する方法は適宜であるが、例えばドライラミネート加工を用いると良好である。
【0025】
図示例の厚さ12μmのポリエステルフィルムの両面に、ポリエステル短繊維で形成されている坪量20g/m
2の第1の不織布4、第2の不織布5をドライラミネート加工で接着する場合、ウレタン接着剤は10g/m
2など5g/m
2〜15g/m
2塗布して用いるとよい。ウレタン接着剤を5g/m
2以上とすることにより、不織布4、5を確実に所要強度で接着することができ、又、15g/m
2以下とすることにより、不織布4、5にウレタン接着剤が多く含浸して未含浸部が減少し、プリプレグ3のマトリックス樹脂32或いはコンクリート構造物100に接着する接着剤の含浸可能な部分が減少して、接着力が不十分になることを確実に防止することができる。
【0026】
プリプレグ3の補強繊維部31は、例えば炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、PBO繊維などの繊維種の中で高強度繊維に分類される繊維で構成することが好ましく、少なくともコンクリート構造物100のコンクリートのヤング率或いは弾性率と同程度以上の繊維を使用すると良好である。また、補強繊維部31には、一方向或いは二方向等に補強繊維が並べられる適宜のものを用いることが可能であり、例えば所定方向に補強繊維を並べて微量の樹脂を含浸して固着した補強繊維シート、所定方向に補強繊維を並べて補助糸で一体化した補強繊維シート、単に所定方向に並べた補強繊維、二方向に繊維が並べられた織布や組布等とすることが可能である。
【0027】
また、補強繊維部31の補強繊維の繊維量は、補強するコンクリート構造物100で求められる補強強度から導き出される繊維量に見合えば適宜であり、例えば100g/m
2〜1200g/m
2とすると良好である。尚、補強繊維部31の補強繊維の繊維量が1200g/m
2を超えると、補強繊維部31にマトリックス樹脂31が含浸し難くなる恐れがある。図示例の補強繊維部31には、一方向に引き揃えられたPAN系炭素繊維600g/m
2(引張強度3400N/mm
2、ヤング率2.45×10
5N/mm
2)が用いられている。
【0028】
プリプレグ3のマトリックス樹脂32には、特定の刺激で硬化してFRP化することが可能な適宜のものを用いることが可能であり、例えば熱硬化型の合成樹脂、湿気硬化型の合成樹脂合成樹脂中に硬化剤が封入されたマイクロカプセルを含ませて熱、溶剤或いは圧力で破壊して硬化させるもの等とすることが可能である。また、SGA樹脂のような2液のラジカル反応により硬化する樹脂の一方の樹脂をマトリックス樹脂32とし、他方の樹脂を刺激剤として、コンクリート構造物100に補強シート1を貼付した後、表面に塗布して硬化させる構成とすることも可能である。
【0029】
マトリックス樹脂32は、硬化後の物性が例えば引張強度10N/mm
2以上、曲げ強度15N/mm
2以上、引張せん断接着強さ2N/mm
2以上のものとすると好適であり、これらの強度、強さを兼ね備えることにより、確実にコンクリート構造物100を補強することができる。図示例では、マトリックス樹脂32として特許文献2記載の低温で熱硬化するエポキシ樹脂を用いており、このエポキシ樹脂は40℃程度の温度で硬化反応が開始されるため、施工現場での施工性に優れている。
【0030】
本実施形態のコンクリート構造物の補強構造を補強シート1で形成する際には、コンクリート構造物100の補強する箇所の表面に、脆弱部、欠損部、漏水、ひび割れ塵埃の付着など、補強シート1の接着に障害になるものを除去する下地処理を実施した後、プライマーを塗布する。プライマーには、コンクリート構造物100への含浸性と付着力、及び後述の施工用の接着剤との付着性に優れるものを用い、好適には搖動性に優れコンクリートに発生する微細なひび割れに毛細管現象で浸入することが可能なものを用いる。
図2の例では、2液混合型エポキシ樹脂プライマーを0.15kg/m
2で塗布し、プライマーをコンクリート構造物100の表面に浸透させてプライマー層8を形成した。プライマー層8は、コンクリート表面を強化すると同時に接着樹脂との付着力を高めるように作用する。
【0031】
その後、
図2に示すように、プライマー層8の上に施工用の接着剤を塗布して接着樹脂層9を形成する。コンクリート構造物100の補強箇所は、天井面のことも多いため、施工用の接着剤にはペースト状のものを用いると好適である。ペースト状の接着剤であれば、天井面に付着させてもダレ難く、補強シート1に積層される第2の不織布5にも含浸し、付着強度に優れる。また、ペースト状の接着剤は、コンクリート表面の微細な凹凸や孔などにも良く追随し、未接着部分が残ることは無く、界面で硬化するため接着力が大変優れている。図示例では、ペースト状の2液混合型エポキシ接着剤を使用し、0.7kg/m
2塗布して接着樹脂層9を形成している。
【0032】
そして、施工用の接着剤が硬化する前に、補強シート1の第2の不織布5側を接着剤に押し付け、第2の不織布5に接着剤が含浸するようにして、接着樹脂層9で接着して補強シート1をコンクリート構造物100に貼り付ける。更に、
図3に示すように、接着樹脂層9を介して積層された補強シート1において、セパレーターフィルム2を挟んでコンクリート構造物100への接着側と逆側に配置されているプリプレグ3に対し、所定の硬化刺激を与えて半硬化状態のマトリックス樹脂32を硬化させて硬化状態のマトリックス樹脂32fとし、プリプレグ3を繊維強化樹脂層3fとして補強構造が形成される。
【0033】
図示例では、低温熱硬化性の半硬化状態のマトリックス樹脂32に対して、ヒーター10で加熱して硬化状態のマトリックス樹脂32を形成しており、より詳細には、補強繊維シートの補強繊維部31及びマトリックス樹脂32の幅0.25m、不通液性のセパレーターフィルム2の幅0.28mであり、マトリックス樹脂32の表面に離型材が貼付されている補強シート1を用い、この補強シート1を接着樹脂層9で貼付し、離型剤を剥がしたのち、ハロゲンヒーター等のヒーター10で表面温度を約80℃にして30分加熱し、マトリックス樹脂32を硬化させ、補強構造を形成している。
【0034】
尚、補強シート1の幅は、0.1〜1.0mが好ましく、0.2〜0.5mとするとより好適である。補強シート1と接着樹脂層9を形成する接着剤との間に空気を咬むと、付着力の低下や、応力集中による設計強度以下での破壊につながる可能性を生ずるが、補強シート1の幅が1.0mを超えると、施工時の管理が難しくなって空気を咬んでしまう可能性が高まる。また、補強シート1の幅が0.1m未満になると、補強効果が低下してしまう。
【0035】
また、補強シート1におけるセパレーターフィルム2の幅は、プリプレグ3或いは補強繊維部31の幅よりも幅広とし、セパレーターフィルム2の幅方向両側の側端部に、それぞれプリプレグ3或いは補強繊維部31が存在せずセパレーターフィルム2及びこれに接着等で固着された第2の不織布5だけで形成される領域、或いはセパレーターフィルム2及びこれに接着等で固着された第2の不織布5と第1の不織布4だけで形成される領域が設けられる補強シート1とすると好適であり、より好ましくは片側の側端部における当該領域の幅を2.5mm以上とするとよい。補強シート1とプリプレグ3或いは補強繊維部31の幅を同幅とすると、施工用の接着剤が未硬化時に、セパレーターフィルム2とプリプレグ3で構成される比較的重い補強シート1が重みで剥がれ落ちる可能性があるが、両側の側端部に当該領域を設けることにより、当該領域のセパレーターフィルム2と第2の不織布5が吸盤のように施工用の接着剤に密着して高強度で固着され、補強シート1が剥落することを防止することができる。
【0036】
また、プリプレグ3のセパレーターフィルム2と逆側の表面には、離型紙或いは離型フィルム等の離型材を貼付するようにすると良好であり、これにより、接着剤等を使用する施工現場、施工作業においてプリプレグ3に対する汚れを防止することができると共に、プリプレグ3の自然硬化を阻害し、保管可能期間を長くすることが可能となる。
【0037】
また、本実施形態のコンクリート構造物の補強シート1は、非通液性のセパレーターフィルム2に対して半硬化状態のマトリックス樹脂32が第1の不織布4に含浸状態になるようにしてプリプレグ3を固着し、積層する適宜の方法で形成することが可能であり、例えば非通液性と柔軟性を有するセパレーターフィルム2の一方の面にマトリックス樹脂32を含浸可能な部分を残して第1の不織布4を積層して接着し、セパレーターフィルム2の他方の面に接着剤を含浸可能な部分を残して第2の不織布5を積層して接着する工程を行い、その後、セパレーターフィルム2の第1の不織布4に半硬化状態のマトリックス樹脂32を含浸するようにして、セパレーターフィルム2にプリプレグ3を積層して固着する工程を行うことにより、補強シート1を得る。
【0038】
図4は斯様な工程を行える製造工程例を示す説明図である。
図4において、11はマトリックス樹脂32となる粘性液体状の合成樹脂32aが貯められている含浸槽、12はスクイズロール、13は乾燥炉、14は離型材である。
図4の工程の前工程として、ドライラミネート加工を施すことにより、セパレーターフィルム2の一方の面に第1の不織布4を積層して接着し、その他方の面に第2の不織布5を積層して接着して基材シート2aを形成し、基材シート2aをスクイズロール12にロール搬送する。他方において、補強繊維シート31aをロール搬送して含浸槽11内の合成樹脂32aに浸し、スクイズロール12にロール搬送する。
【0039】
そして、スクイズロール12において、合成樹脂32aを纏うように付着した補強繊維シート31aと基材シート2aの第1の不織布4とを圧着すると共に、余分な合成樹脂32aを除去する。その後、乾燥炉13内で乾燥させて合成樹脂32aを半硬化状態のマトリックス樹脂32とすることにより、基材シート2aにプリプレグ3が積層されて固着された補強シート1が形成される。補強シート1のマトリックス樹脂32の表面には、ロール搬送される離型材14が貼付される。
【0040】
また、
図5は別の製造工程例を示す説明図である。
図5において、15、19は粘性液体状の合成樹脂32a、32bを押し出すダイ、16は乾燥炉、17、20はニップロール、18は離型材であり、又、
図5の工程の前工程として、
図4の例と同様、ドライラミネート加工を施して、セパレーターフィルム2の一方の面に第1の不織布4、他方の面に第2の不織布5を積層して接着した基材シート2aを形成し、基材シート2aをロール搬送する。
【0041】
ロール搬送される基材シート2aの第1の不織布4側には、ダイ15から合成樹脂32aを押し出して塗布、成膜し、乾燥炉16を通過させて合成樹脂32aをある程度半硬化状態とし、この合成樹脂32a側に別途ロール搬送される補強繊維シート32aをニップロール17で圧着する。また、離型材18の片面にダイ19から合成樹脂32bを押し出して塗布、成膜し、乾燥炉16を通過させて合成樹脂32bをある程度半硬化状態とし、この離型材18の合成樹脂32b側に、基材シート2aに圧着された補強繊維シート31aが配置されるようにし、ニップロール20で補強繊維シート31a及び合成樹脂32aに合成樹脂32bを圧着し、基材シート2aにプリプレグ3が積層されて固着された補強シート1を得ることができる。
【0042】
本実施形態によれば、非通液性のセパレーターフィルム2により、プリプレグ3とコンクリート構造物100に接着する接着剤とが影響を及ぼし合うことを無くし、プリプレグ3で高強度の繊維強化樹脂層3fを形成することができ、接着性に優れる性状の最適な接着剤を自由に用いて高い接着強度でコンクリート構造物100の表面に接着することができる。同時に、セパレーターフィルム2の接着側と逆側にプリプレグ3を設け、プリプレグ3で繊維強化樹脂層3fを形成することが可能であるから、未硬化の含浸層の剥落や含浸剤の液滴化を生ずることがなく、安定した品質の繊維強化樹脂層3fを短工期で施工することができる。
【0043】
また、セパレーターフィルム2に接着させる第1の不織布4により、プリプレグ3のマトリックス樹脂32を第1の不織布4に含浸させ、プリプレグ3を高い付着強度でセパレーターフィルム2に付着させることができる。また、第2の不織布5により、コンクリート構造物100への接着を担う接着剤を第2の不織布5に含浸させ、補強シート1を高い接着強度でコンクリート構造物100に接着することが可能になる。
【0044】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明は、各発明、実施形態、各例の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものを含むものであり、下記変形例も包含する。
【0045】
本発明のコンクリート構造物の補強シートには、非通液性のセパレーターフィルムと、セパレーターフィルムのコンクリート構造物への接着側と逆側に積層して設けられ、補強繊維部と半硬化状態のマトリックス樹脂で形成されているプリプレグとから構成されるものが適宜包含され、上記実施形態の補強シート1以外にも、例えば所要の強度が確保できれば、第1の不織布4を有しない、第2の不織布5を有しない、若しくは第1の不織布4と第2の不織布5の双方を有しないセパレーターフィルムとし、これにプリプレグを積層、固着した補強シート、或いは不織布に代わる含浸可能な別の材料を設ける補強シート等とすることが可能である。
【0046】
また、本発明のコンクリート構造物の補強シートは、上記実施形態の製造工程例以外にも、非通液性のセパレーターフィルムに対して半硬化状態のマトリックス樹脂を密着するように固着し、プリプレグを積層する適宜の方法で形成することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、例えばトンネル、地下施設、建築物等のコンクリート構造物を補強する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1…補強シート 2…セパレーターフィルム 2a…基材シート 3…プリプレグ 31…補強繊維 31a…補強繊維シート 32…マトリックス樹脂 32a、32b…液状樹脂 3f…繊維強化樹脂層 32f…硬化状態のマトリックス樹脂 4…第1の不織布 5…第2の不織布 6、7…接着層 8…プライマー層 9…接着樹脂層 10…ヒーター 11…含浸槽 12…スクイズロール 13…乾燥炉 14…離型材 15…ダイ 16…乾燥炉 17…ニップロール 18…離型材 19…ダイ 20…ニップロール 100…コンクリート構造物