(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-217082(P2016-217082A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】プレキャストコンクリートスラブ
(51)【国際特許分類】
E04B 5/32 20060101AFI20161125BHJP
E04B 5/38 20060101ALI20161125BHJP
E04B 5/43 20060101ALI20161125BHJP
【FI】
E04B5/32 B
E04B5/38 A
E04B5/43 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-106027(P2015-106027)
(22)【出願日】2015年5月26日
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502107621
【氏名又は名称】株式会社向山工場
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】坂上 教夫
(72)【発明者】
【氏名】中澤 元宏
(72)【発明者】
【氏名】向山 敦
(72)【発明者】
【氏名】大和 雅明
(57)【要約】
【課題】ハーフプレキャスト合成スラブの一部を構成し、かつハーフプレキャスト合成スラブの残部の場所打ちコンクリート層との間にボイドが設けられるプレキャストコンクリートスラブにおいて、耐火性を確保し、かつ異物がボイド内に残置されるおそれを防止する。
【解決手段】ハーフプレキャスト合成スラブ1用のプレキャストコンクリートスラブ10にボイド用凹部15を形成する。ボイド用凹部15は、場所打ちコンクリート層30の積層面10aに開口されている。ボイド用凹部15の積層面10aへの開口を網状部材30にて覆う。網状部材30は、好ましくは金属製のラス網にて構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハーフプレキャスト合成スラブの一部を構成し、かつ前記ハーフプレキャスト合成スラブの残部の場所打ちコンクリート層との間にボイドが設けられるプレキャストコンクリートスラブであって、
前記場所打ちコンクリート層が積層される積層面に開口されて前記ボイドとなるべきボイド用凹部と、
前記ボイド用凹部の前記積層面への開口を覆う網状部材と
を備えたことを特徴とするプレキャストコンクリートスラブ。
【請求項2】
前記網状部材が、金属製のラス網にて構成されていることを特徴とする請求項1に記載のプレキャストコンクリートスラブ。
【請求項3】
前記ボイド用凹部の内側面と前記積層面との角部に、前記網状部材の端部を係止する係止凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャストコンクリートスラブ。
【請求項4】
前記網状部材が上へ凸になるよう湾曲されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のプレキャストコンクリートスラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハーフプレキャスト合成スラブの一部を構成するプレキャストコンクリートスラブに関し、特に、ハーフプレキャスト合成スラブの残部の場所打ちコンクリート層との間にボイドが設けられるプレキャストコンクリートスラブに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートスラブにおいて、コンクリートの打設量を減らして軽量化するために、ボイド部材を埋設することが知られている。このボイド部材によってボイド(コンクリートの欠損部)が形成される。通常、ボイド部材は、軽量な発泡スチロール樹脂にて構成されている(特許文献1等参照)。
特許文献2においては、ハーフプレキャスト合成スラブの下半分を構成するプレキャストコンクリートスラブの上面に凹溝を形成し、この凹溝の上端開口を仕切板で覆い、その上に場所打ちコンクリート層を積層している。これによって、凹溝の内部空間が空洞(ボイド)となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5259465号公報
【特許文献2】実開平5−30313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発泡スチロール樹脂製のボイド部材を有するコンクリートスラブは耐火性を確保するための諸制約を受ける。
また、特許文献2のハーフプレキャスト合成スラブ用のプレキャストコンクリートスラブにおいては、仕切板で覆った凹溝の内部に水やゴミ等の異物が入り込んでいても気付きにくく、そのまま場所打ちコンクリート層を打設してしまうことが考えられる。
本発明は、このような事情に鑑み、ボイドを有するハーフプレキャスト合成スラブ用のプレキャストコンクリートスラブにおいて、耐火性を確保し、かつ異物がボイド内に残置されるおそれを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記問題点を解決するために、本発明は、ハーフプレキャスト合成スラブの一部を構成し、かつ前記ハーフプレキャスト合成スラブの残部の場所打ちコンクリート層との間にボイドが設けられるプレキャストコンクリートスラブであって、
前記場所打ちコンクリート層が積層される積層面に開口されて前記ボイドとなるべきボイド用凹部と、
前記ボイド用凹部の前記積層面への開口を覆う網状部材と
を備えたことを特徴とする。
このハーフプレキャスト合成スラブ用のプレキャストコンクリートスラブによれば、場所打ちコンクリート層を打設積層する際、網状部材によってコンクリートがボイド用凹部内に入り込むのを阻止できる。これによって、ボイドの容積を確保できる。しかも、網状部材は、網目があるために特許文献2の仕切板よりも小重量かつ小体積にできる。したがって、網状部材がたとえ可燃性材質であったとしても、燃えたときの発熱量を特許文献2の仕切板よりも小さくでき、ハーフプレキャスト合成スラブの耐火性を十分に確保することができる。
加えて、場所打ちコンクリート層を積層する際に、ボイド用凹部に水やゴミ等の異物が入り込んでいたときは容易に見つけて除去することができる。したがって、ボイド内に異物が残置されるのを防止できる。
また、場所打ちコンクリート層のコンクリートが網状部材の網目に入り込むことによって、場所打ちコンクリート層と網状部材との密着性を高めることができる。更には、ボイドの天井面を凸凹にすることで、防音性を高めることができる。
【0006】
前記網状部材が、金属製のラス網にて構成されていることが好ましい。
これによって、網状部材を不燃性とすることができ、ひいてはハーフプレキャスト合成スラブの耐火性を確実に確保することができる。また、材料コストを低廉化できる。
【0007】
前記ボイド用凹部の内側面と前記積層面との角部に、前記網状部材の端部を係止する係止凹部が形成されていることが好ましい。
これによって、網状部材をプレキャストコンクリートスラブに安定的に保持させることができる。
【0008】
前記網状部材が上へ凸になるよう湾曲されていることが好ましい。
これによって、網状部材を弾性力によってプレキャストコンクリートスラブにしっかりと保持させることができる。加えて、網状部材が場所打ちコンクリートの打設時の重みで凹むのを抑制又は防止でき、ボイドの容積を確保できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボイド形成部材として網状部材を用いることによって耐火性を確保できる。また、ボイド用凹部に水やゴミ等の異物が入り込んでいたときは容易に見つけて除去することができ、ボイド内に異物が残置されるのを防止できる。さらに、防音性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るハーフプレキャスト合成スラブを、その一部を構成するプレキャストコンクリートスラブを実線にて示し、残部の場所打ちコンクリート層を二点鎖線にて示す、
図2のI−I線に沿う正面断面図である。
【
図2】
図2は、前記プレキャストコンクリートスラブの平面図である。
【
図3】
図3は、前記ハーフプレキャスト合成スラブの一部を拡大して示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の第2実施形態に係るハーフプレキャスト合成スラブを、その一部を構成するプレキャストコンクリートスラブを実線にて示し、残部の場所打ちコンクリート層を二点鎖線にて示す正面断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の第3実施形態に係るハーフプレキャスト合成スラブを、その一部を構成するプレキャストコンクリートスラブを実線にて示し、残部の場所打ちコンクリート層を二点鎖線にて示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るハーフプレキャスト合成スラブ1を示したものである。ハーフプレキャスト合成スラブ1は、プレキャストコンクリートスラブ10と、同図において二点鎖線にて示す場所打ちコンクリート層20とを備えている。プレキャストコンクリートスラブ10の上側に場所打ちコンクリート層20が積層されている。ハーフプレキャスト合成スラブ1の内部における、プレキャストコンクリートスラブ10と場所打ちコンクリート層20との間には、ボイド1a(空洞又はコンクリート欠損部)が形成されている。
【0012】
図1及び
図2に示すように、プレキャストコンクリートスラブ10は、コンクリート11と、その内部に配筋された鉄筋12とを含む鉄筋コンクリート構造になっている。プレキャストコンクリートスラブ10は、底板部13と、複数の凸条部14とを有している。底板部13は前後左右に広がる平板状になっている。この底板部13の上面に複数の凸条部14が上方へ突出するように設けられている。各凸条部14は、例えば概略四角形の断面を有して、前後方向(
図1の紙面と直交する方向、
図2の上下方向)へ延びている。複数の凸条部14が、左右に間隔を置いて並べられている。
【0013】
隣り合う凸条部14,14どうしの間にボイド用凹部15が形成されている。ボイド用凹部15は、凸条部14の上面ひいてはプレキャストコンクリートスラブ10の上面10a(積層面)に達して開口されるとともに、前後方向へ延びる溝形状になっている。このボイド用凹部15の内部空間が、ボイド1aとなる。
【0014】
図1及び
図2に示すように、プレキャストコンクリートスラブ10は、網状部材30を更に含む。網状部材30は、ボイド用凹部15と同方向に長く延びている。この網状部材30が、隣接する凸条部14,14の上端部どうし間に跨ることによって、ボイド用凹部15の上端開口を全体的に覆っている。網状部材30は、ラス網にて構成されている。ラス網の材質は、例えば、鋼、鉄、ステンレス等の金属である。好ましくは、網状部材30は、パンチングメタル製のラス網にて構成されている。網状部材30の網目31の大きさは、場所打ちコンクリート層20中の砂利、砕石等の粗骨材(図示省略)が通過不能な大きさであることが好ましく、例えば長径5mm〜20mm程度、短径3mm〜15mm程度である。網状部材30の各線材32の太さは、0.1mm〜3mm程度である。
【0015】
凸条部14の側面14b(ボイド用凹部15の内側面)と上面10aとの角部には、係止凹部16が形成されている。網状部材30の幅方向の端部30eが係止凹部16に係止されている。網状部材30を平坦にしたときの幅寸法は、ボイド用凹部15の幅よりも大きい。そのため、網状部材30は、上へ凸になるように幅方向に沿って湾曲されている。
【0016】
図3に示すように、プレキャストコンクリートスラブ10ひいては網状部材30上に場所打ちコンクリート層20が積層されている。この場所打ちコンクリート層20のコンクリート21の一部21aが網目31に入り込んだり、さらには線材32を包み込んだりしている。この一部のコンクリート21a及び網状部材30によって、ボイド1aの天井面1bが画成されている。ボイド1aの天井面1bは、凸凹面になっている。
【0017】
前記のハーフプレキャスト合成スラブ1は、次のようにして作製される。
プレキャストコンクリート製造工場において、プレキャストコンクリートスラブ10用の型枠を構築する。型枠内には鉄筋12を配筋する。なお、網状部材30を型枠に取り付ける必要はない。
次に、型枠内にコンクリート11を打設する。
コンクリート11が硬化するまで養生したら、型枠を撤去する。
【0018】
このコンクリート11のボイド用凹部15に網状部材30を取り付ける。このとき、網状部材30を上へ凸になるように湾曲させて、網状部材30の幅方向の両端部30e,30eを係止凹部16,16に係止する。湾曲された網状部材30は弾性によって平坦な状態に戻ろうとするため、両端部30e,30eが係止凹部16,16の内面又は隅部に強く当たって引っ掛かる。これによって、網状部材30をプレキャストコンクリートスラブ10に安定的に設置できる。
発泡スチロールのようなボイド全体を埋める大きなボイド部材を設置する場合と比べて、設置作業の労力及び手間を簡素化できる。
【0019】
前記のように作製したプレキャストコンクリートスラブ10を建物の施工現場へ運搬して設置する。
このプレキャストコンクリートスラブ10の周囲に場所打ちコンクリート層20用の型枠を組むとともに、プレキャストコンクリートスラブ10の上方に鉄筋22を配筋して、コンクリート21を打設する。これによって、プレキャストコンクリートスラブ10上に場所打ちコンクリート層20が積層される。
【0020】
コンクリート21を打設する際、網状部材30によってコンクリート21がボイド用凹部15の内部に充填されるのを阻止できる。これによって、ボイド用凹部15の内部空間を空洞として残置でき、ボイド1aの容積を確保できる。
コンクリート21の一部21aは、網目31に入り込む。これによって、網状部材30をコンクリート21と一体化できる。
コンクリート21中の砕石等の粗骨材は、網目31を通過するのが阻止される。なお、砂等の細骨材は網目31を通過し得るが、このような細骨材はコンクリート21a内に十分に保持されるため、ボイド1aの底部へ落下するのを防止できる。
【0021】
プレキャストコンクリートスラブ10によれば、ボイド形成部材が網状部材30であるため、一般的な発泡スチロール製のボイド部材を用いた場合よりも軽量化でき、更には網目31が形成されている分だけ、特許文献2の仕切板を用いた場合よりも確実に軽量化できる。
また、網状部材30を金属ラス網にて構成することによって、耐火性を十分に確保できるだけでなく、材料コストを低廉化できる。
さらに、施工現場において場所打ちコンクリート層20を積層する際、水やゴミ等の異物がボイド用凹部15内に入り込んでいたら、網目31を通して目視によって簡単に異物を発見できる。したがって、異物を除去したうえで、コンクリート21を打設できる。これによって、ハーフプレキャスト合成スラブ1内に異物が残置されてしまうのを防止することができる。
また、網状部材30が上へ凸になるよう湾曲されているため、コンクリート21の打設時の荷重に対する強度を発現させることができる。これによって、ボイド1aの容積を確保することができる。
さらに、ボイド1aの天井面が、網状部材30及びその網目31に入り込んだコンクリート21aによって形成され、凸凹になっているため、音がハーフプレキャスト合成スラブ1を通過する際、前記凸凹な天井面に当たって散乱される。これによって、ハーフプレキャスト合成スラブ1の防音性を向上できる。
【0022】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
図2は、本発明の第2実施形態を示したものである。第2実施形態の網状部材30Bは、主部35と、一対の脚部36とを含む。主部35は、平坦になっている。この主部35の幅方向の両端部が下方へ略直角に折り曲げられることによって、脚部36となっている。この脚部36が係止凹部16に係止されている。
【0023】
図3は、本発明の第3実施形態を示したものである。第3実施形態の網状部材30Cは、全体が平坦になっている。網状部材30Cの両端部が、係止凹部16に収容されるとともに、コンクリート釘34によってコンクリート11に定着されている。
【0024】
本発明は、前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変をなすことができる。
例えば、網状部材は、金属製に限られず、樹脂製等であってもよい。網状部材は軽質量かつ小体積であるために、可燃性であったとしても、発泡スチロール製のボイド部材や特許文献2の仕切板よりも、燃えたときの発熱量を小さくでき、耐火性に優れている。
第1、第2実施形態の網状部材30,30Bについても、第3実施形態のコンクリート釘34でコンクリート11に定着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、例えば鉄筋コンクリート構造物の構築に適用できる。
【符号の説明】
【0026】
1 ハーフプレキャスト合成スラブ
1a ボイド
10 プレキャストコンクリートスラブ
10a 上面(積層面)
14b 側面(ボイド用凹部の内側面)
15 ボイド用凹部
16 係止凹部
20 場所打ちコンクリート層
30,30B,30C 網状部材
30e 端部