【解決手段】車両用動力伝達装置は、駆動源と、車両の走行形態に応じて駆動力の伝達経路を切り換える切換機構と、駆動源の駆動力によって駆動され、切換機構に所定の出力を供給する機械式オイルポンプと、駆動源から機械式オイルポンプへの駆動力の伝達経路を断接可能なオイルポンプクラッチと、機械式オイルポンプが供給する出力よりも低い出力をオイルポンプクラッチに供給する電動式オイルポンプと、車両の走行形態に応じて切換機構及び電動式オイルポンプの制御を行う制御部とを備える。切替機構は、前進走行時に駆動力が伝達するノーマルクローズ形式の第1クラッチと、後進走行時に駆動力が伝達するノーマルオープン形式の第2クラッチと、エンブレ走行時に駆動力が伝達するノーマルオープン形式の第3クラッチとを有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような大型のクラッチを用いる場合であっても、特許文献2等に記載されているノーマルクローズ形式のクラッチを採用すれば、走行時のクラッチに供給する出力による損失を低減することができる。例えば、特許文献1に記載の車両用駆動力伝達装置が有する前後進切換機構の前進走行のためのクラッチをノーマルクローズ形式とした場合、走行時の当該クラッチに供給する出力による損失を低減することができる。但し、当該車両用駆動力伝達装置が有するクランク式の無段変速機等に故障が発生した際や、後進走行を行う際には、このクラッチを解放する必要があるが、クラッチを解放するための効率が悪いと車両用駆動力伝達装置全体の効率が低下してしまう。
【0005】
本発明の目的は、ノーマルクローズ形式のクラッチを動力伝達経路上に設けたエネルギー効率を向上可能な車両用動力伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
車両の駆動源(例えば、後述の実施形態でのエンジンE)と、
前記車両の走行形態に応じて駆動力の伝達経路を切り換える切換機構(例えば、後述の実施形態での前後進切換機構S)と、
前記駆動源の駆動力によって駆動され、前記切換機構に所定の出力を供給する機械式オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での機械式オイルポンプ101)と、
前記駆動源から前記機械式オイルポンプへの駆動力の伝達経路を断接可能なオイルポンプクラッチ(例えば、後述の実施形態でのオイルポンプクラッチ103)と、
前記機械式オイルポンプが供給する前記所定の出力よりも低い出力を前記オイルポンプクラッチに供給する電動式オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での電動式オイルポンプ105)と、
前記車両の走行形態に応じて前記切換機構及び前記電動式オイルポンプの制御を行う制御部(例えば、後述の実施形態でのマネジメントECU109)と、を備え、
前記切換機構は、
前記車両の前進走行時に前記駆動源からの駆動力が伝達する、ノーマルクローズ形式の第1クラッチ(例えば、後述の実施形態での前進クラッチCf)と、
前記車両の後進走行時に前記駆動源からの駆動力が伝達する、ノーマルオープン形式の第2クラッチ(例えば、後述の実施形態での後進クラッチCr)と、
前記車両の駆動輪から前記駆動源への駆動力が伝達する、ノーマルオープン形式の第3クラッチ(例えば、後述の実施形態での入力クラッチCi)と、を有し、
前記制御部は、
前記車両が前進可能な走行形態が選択された場合、前記第1クラッチが係合状態、前記第2クラッチ及び前記第3クラッチが非係合状態となるよう前記切換機構を制御し、
前記車両が後進可能な走行形態が選択された場合、前記電動式オイルポンプを駆動して前記オイルポンプクラッチを締結し、前記機械式オイルポンプからの出力を前記第1クラッチ及び前記第2クラッチに供給して、前記第1クラッチが非係合状態、前記第2クラッチが係合状態となるよう前記切換機構を制御し、
前記車両の前記駆動輪から前記駆動源へ駆動力が伝達可能な走行形態である場合、前記電動式オイルポンプを駆動し、前記電動式オイルポンプからの出力を前記第3クラッチに供給して、前記第3クラッチが係合状態となるよう前記切換機構を制御する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、
車両の駆動源(例えば、後述の実施形態でのエンジンE)と、
前記車両の走行形態に応じて駆動力の伝達経路を切り換える切換機構(例えば、後述の実施形態での前後進切換機構S)と、
動力源(例えば、後述の実施形態でのアクチュエータ113)からの動力によって駆動され、前記切換機構に所定の出力を供給する機械式オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での機械式オイルポンプ101)と、
前記動力源から前記機械式オイルポンプへの動力の伝達経路を断接可能なオイルポンプクラッチ(例えば、後述の実施形態でのオイルポンプクラッチ103)と、
前記機械式オイルポンプが供給する前記所定の出力よりも低い出力を前記オイルポンプクラッチに供給する電動式オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での電動式オイルポンプ105)と、
前記車両の走行形態に応じて前記切換機構及び前記電動式オイルポンプの制御を行う制御部(例えば、後述の実施形態でのマネジメントECU109)と、を備え、
前記切換機構は、
前記車両の前進走行時に前記駆動源からの駆動力が伝達する、ノーマルクローズ形式の第1クラッチ(例えば、後述の実施形態での前進クラッチCf)と、
前記車両の後進走行時に前記駆動源からの駆動力が伝達する、ノーマルオープン形式の第2クラッチ(例えば、後述の実施形態での後進クラッチCr)と、
前記車両の駆動輪から前記駆動源への駆動力が伝達する、ノーマルオープン形式の第3クラッチ(例えば、後述の実施形態での入力クラッチCi)と、を有し、
前記制御部は、
前記車両が前進可能な走行形態が選択された場合、前記第1クラッチが係合状態、前記第2クラッチ及び前記第3クラッチが非係合状態となるよう前記切換機構を制御し、
前記車両が後進可能な走行形態が選択された場合、前記電動式オイルポンプを駆動して前記オイルポンプクラッチを締結し、前記機械式オイルポンプからの出力を前記第1クラッチ及び前記第2クラッチに供給して、前記第1クラッチが非係合状態、前記第2クラッチが係合状態となるよう前記切換機構を制御し、
前記車両の前記駆動輪から前記駆動源へ駆動力が伝達可能な走行形態である場合、前記電動式オイルポンプを駆動し、前記電動式オイルポンプからの出力を前記第3クラッチに供給して、前記第3クラッチが係合状態となるよう前記切換機構を制御する。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、
前記駆動源に接続された入力軸(例えば、後述の実施形態での入力軸11)の回転を変速して前記駆動輪に接続された出力軸(例えば、後述の実施形態での出力軸12)に伝達する変速ユニット(例えば、後述の実施形態での変速ユニットU)が前記入力軸の軸線からの偏心量が可変であって前記入力軸と共に回転する偏心部材(例えば、後述の実施形態での偏心ディスク18)と、前記出力軸に相対回転自在に支持された揺動リンク(例えば、後述の実施形態でのアウター部材22)と、前記偏心部材及び前記揺動リンクを接続するコネクティングロッド(例えば、後述の実施形態でのコネクティングロッド19)と、前記出力軸及び前記揺動リンク間に配置されたワンウェイクラッチ(例えば、後述の実施形態でのワンウェイクラッチ21)と、前記偏心量を変更する変速アクチュエータ(例えば、後述の実施形態での変速アクチュエータ14)と、を有する変速機構(例えば、後述の実施形態での無段変速機T)と、
前記変速機構の故障の発生を検知するフェール検知部(例えば、後述の実施形態でのフェール検知部107)と、を備え、
前記制御部は、前記フェール検知部が前記変速機構の故障の発生を検知すると、前記電動式オイルポンプを駆動して前記オイルポンプクラッチを締結し、前記機械式オイルポンプからの出力を前記第1クラッチに供給して、前記第1クラッチが非係合状態となるよう前記切換機構を制御する。
【0009】
請求項4に記載の発明では、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明において、
前記第3クラッチは乾式クラッチであり、
前記車両の前記駆動輪から前記駆動源へ駆動力が伝達可能な走行形態である場合、前記電動式オイルポンプを駆動し、前記電動式オイルポンプからの出力を前記第3クラッチに供給すると共に、前記電動式オイルポンプからの出力によって前記オイルポンプクラッチを締結し、前記機械式オイルポンプからの出力を前記第3クラッチに供給して、前記第3クラッチが係合状態となるよう前記切換機構を制御する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1及び2の発明によれば、駆動源からの駆動力が伝達される切換機構の第1クラッチはノーマルクローズ形式であるため、前進走行時には切換機構に出力を供給する必要がない。このため、切換機構に供給する出力による損失がない状態で効率良く前進走行することができる。また、電動式オイルポンプを駆動してオイルポンプクラッチを締結すれば、機械式オイルポンプから切換機構に所定の出力が供給される。機械式オイルポンプから切替機構に出力を供給すれば、第1クラッチを係合状態とし、第2クラッチを非係合状態とすることができるため、後進走行も行える。さらに、切換機構の第3クラッチを締結すれば、エンジンブレーキ走行も行える。
【0011】
機械式オイルポンプを駆動するためには電動式オイルポンプを駆動してオイルポンプクラッチを締結する必要があるが、オイルポンプクラッチを締結するために必要とされる出力は切換機構が有するクラッチよりも低いため、電動式オイルポンプは、低い出力を供給する小さな体格のもので十分である。このため、車両用動力伝達装置における切換機構のクラッチを断接する際のエネルギー効率を向上できる。
【0012】
請求項3の発明によれば、切換機構が有するどのクラッチも非係合状態となるため、車両用動力伝達装置を搭載した車両は、牽引等の退避行動が前進及び後進のいずれも可能なニュートラル状態になる。
【0013】
請求項4の発明によれば、第3クラッチが乾式クラッチである場合、半係合の状態である第3クラッチには発熱が生じるが、機械式オイルポンプからの出力によって第3クラッチが完全に係合状態となるため、第3クラッチにおける発熱を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、一実施形態の車両用動力伝達装置を含む車両の内部構成を示すブロック図である。
図1に示す車両の車両用動力伝達装置は、エンジンEの駆動力を駆動輪W,Wに伝達する。車両用動力伝達装置は、エンジンEと、無段変速機Tと、前後進切換機構Sと、ディファレンシャルギヤDと、機械式オイルポンプ101と、オイルポンプクラッチ103と、電動式オイルポンプ105と、フェール検知部107と、マネジメントECU109とを備える。なお、
図1中の点線の矢印は制御信号又はデータを示し、実線の矢印はクラッチ等への作動油の供給を示す。
【0017】
以下、車両用動力伝達装置の各構成要素について説明する。
【0018】
エンジンEは、車両が走行するための駆動力を出力する駆動源である。無段変速機Tは、エンジンEの回転軸に接続された入力軸11の回転を変速して出力軸12に伝達する。前後進切換機構Sは、車両の走行形態に応じたクラッチの断接によって駆動力の伝達経路を切り換える。ディファレンシャルギヤDは、左右の駆動輪W,Wの回転差を吸収する。
【0019】
機械式オイルポンプ(以下「MOP」という。)101は、オイルポンプクラッチ103が係合した状態でエンジンEの駆動力の一部によって駆動され、前後進切換機構Sに所定の出力(=油圧×流量)を供給する。なお、MOP101は、前後進切換機構Sに設けられたクラッチの断接を行うために十分な出力を供給することができる。電動式オイルポンプ(以下「EOP」という。)105は、図示しないバッテリからの電力供給によって駆動され、オイルポンプクラッチ103に所定の出力を供給する。EOP105は、比較的小型のオイルポンプである。このため、EOP105が供給可能な出力はMOP101が前後進切換機構Sに供給する出力より低く、EOP105は、前後進切換機構Sに設けられたクラッチの断接を行うために十分な出力は供給できない。なお、EOP105の出力は、潤滑が必要とされる他の機構への潤滑油の供給のために用いられても良い。オイルポンプクラッチ103は、EOP105からの出力の供給によって、エンジンEからMOP101までの動力の伝達経路を断接する。オイルポンプクラッチ103は、例えばドグクラッチである。
【0020】
フェール検知部107は、無段変速機Tの故障の発生を検知する。フェール検知部107が検知した無段変速機Tの故障を示す信号は、マネジメントECU109に入力される。また、マネジメントECU109には、アクセルペダル開度(AP開度)を示す信号も入力される。マネジメントECU109は、車両の運転者が操作するセレクトレバー111によって選択された車両のシフトポジションを示す信号、フェール検知部107からの故障信号及びAP開度等に基づいて、前後進切換機構Sに設けられたクラッチの断接及びEOP105の駆動の各制御を行う。
【0021】
以下、無段変速機Tの構造及び作用について、
図2〜
図6を参照して詳細に説明する。
【0022】
図2に示すように、無段変速機Tは同一構造を有する複数個(実施の形態では4個)の変速ユニットUを軸方向に重ね合わせたもので、それらの変速ユニットUは平行に配置された共通の入力軸11及び共通の出力軸12を備えており、入力軸11の回転が減速または増速されて出力軸12に伝達される。
【0023】
以下、代表として一つの変速ユニットUの構造を説明する。エンジンEに接続されて回転する入力軸11は、電動モータのような変速アクチュエータ14の中空の回転軸14aの内部を相対回転自在に貫通する。変速アクチュエータ14のロータ14bは回転軸14aに固定されており、ステータ14cはケーシングに固定される。変速アクチュエータ14の回転軸14aは、入力軸11と同速度で回転可能であり、かつ入力軸11に対して異なる速度で相対回転可能である。
【0024】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを貫通した入力軸11には第1ピニオン15が固定されており、この第1ピニオン15を跨ぐように変速アクチュエータ14の回転軸14aにクランク状のキャリヤ16が接続される。第1ピニオン15と同径の2個の第2ピニオン17,17が、第1ピニオン15と協働して正三角形を構成する位置にそれぞれピニオンピン16a,16aを介して支持されており、これら第1ピニオン15及び第2ピニオン17,17に、円板形の偏心ディスク18の内部に偏心して形成されたリングギヤ18aが噛合する。偏心ディスク18の外周面に、コネクティングロッド19のロッド部19aの一端に設けたリング部19bがボールベアリング20を介して相対回転自在に嵌合する。
【0025】
出力軸12の外周に設けられたワンウェイクラッチ21は、コネクティングロッド19のロッド部19aにピン19cを介して枢支されたリング状のアウター部材22と、アウター部材22の内部に配置されて出力軸12に固定されたインナー部材23と、アウター部材22の内周の円弧面とインナー部材23の外周の平面との間に形成された楔状の空間に配置されてスプリング24で付勢されたローラ25とを備える。
【0026】
図2から明らかなように、4個の変速ユニットUはクランク状のキャリヤ16を共有しているが、キャリヤ16に第2ピニオン17,17を介して支持される偏心ディスク18の位相は各々の変速ユニットUで90°ずつ異なっている。例えば、
図2において、左端の変速ユニットUの偏心ディスク18は入力軸11に対して図中上方に変位し、左から3番目の変速ユニットUの偏心ディスク18は入力軸11に対して図中下方に変位し、左から2番目及び4番目の変速ユニットU,Uの偏心ディスク18,18は上下方向中間に位置している。
【0027】
次に、無段変速機Tの一つの変速ユニットUの作用を説明する。
【0028】
変速アクチュエータ14の回転軸14aを入力軸11に対して相対回転させると、入力軸11の軸線L1まわりにキャリヤ16が回転する。このとき、キャリヤ16の中心O、つまり第1ピニオン15及び2個の第2ピニオン17,17が成す正三角形の中心は入力軸11の軸線L1まわりに回転する。
【0029】
図3及び
図5は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と反対側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最大になって無段変速機TのレシオはOD(オーバードライブ)状態になる。
図4及び
図6は、キャリヤ16の中心Oが第1ピニオン15(つまり入力軸11)に対して出力軸12と同じ側にある状態を示しており、このとき入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量が最小になって無段変速機Tのレシオは無限大のGN(ギヤドニュートラル)状態になる。
【0030】
図5に示すOD状態で、エンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17及び偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。
図5(A)から
図5(B)を経て
図5(C)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を反時計方向(矢印B参照)に回転させる。
図5(A)及び
図5(C)は、アウター部材22の前記矢印B方向の回転の両端を示している。
【0031】
このようにしてアウター部材22が矢印B方向に回転すると、ワンウェイクラッチ21のアウター部材22及びインナー部材23間の楔状の空間にローラ25が噛み込み、アウター部材22の回転がインナー部材23を介して出力軸12に伝達されるため、出力軸12は反時計方向(矢印C参照)に回転する。
【0032】
入力軸11及び第1ピニオン15が更に回転すると、第1ピニオン15及び第2ピニオン17,17にリングギヤ18aを噛合させた偏心ディスク18が反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。
図5(C)から
図5(D)を経て
図5(A)の状態へと回転する間に、偏心ディスク18の外周にリング部19bをボールベアリング20を介して相対回転自在に支持されたコネクティングロッド19は、そのロッド部19aの先端にピン19cで枢支されたアウター部材22を時計方向(矢印B′参照)に回転させる。
図5(C)及び
図5(A)は、アウター部材22の前記矢印B′方向の回転の両端を示している。
【0033】
このようにしてアウター部材22が矢印B′方向に回転すると、アウター部材22とインナー部材23との間の楔状の空間からローラ25がスプリング24を圧縮しながら押し出されることで、アウター部材22がインナー部材23に対してスリップして出力軸12は回転しない。
【0034】
以上のように、アウター部材22が往復回転したとき、アウター部材22の回転方向が反時計方向(矢印B参照)のときだけ出力軸12が反時計方向(矢印C参照)に回転するため、出力軸12は間欠回転することになる。
【0035】
図6は、GN状態で無段変速機Tを運転するときの作用を示すものである。このとき、入力軸11の位置は偏心ディスク18の中心に一致しているので、入力軸11に対する偏心ディスク18の偏心量はゼロになる。この状態でエンジンEで入力軸11を回転させるとともに、入力軸11と同速度で変速アクチュエータ14の回転軸14aを回転させると、入力軸11、回転軸14a、キャリヤ16、第1ピニオン15、2個の第2ピニオン17,17及び偏心ディスク18が一体になった状態で、入力軸11を中心に反時計方向(矢印A参照)に偏心回転する。しかしながら、偏心ディスク18の偏心量がゼロであるため、コネクティングロッド19の往復運動のストロークもゼロになり、出力軸12は回転しない。
【0036】
従って、変速アクチュエータ14を駆動してキャリヤ16の位置を
図3のOD状態と
図4のGN状態との間に設定すれば、無限大レシオ及び所定レシオ間の任意のレシオでの運転が可能になる。
【0037】
無段変速機Tは、並置された4個の変速ユニットUの偏心ディスク18の位相が相互に90°ずつずれているため、4個の変速ユニットUが交互に駆動力を伝達することで、つまり4個のワンウェイクラッチ21の何れかが必ず係合状態にあることで、出力軸12を連続回転させることができる。
【0038】
次に、前後進切換機構Sの構造について、
図7を参照して説明する。
【0039】
図7に示すように、前後進切換機構Sは出力軸12に対して平行に配置された第1カウンタシャフト41及び第2カウンタシャフト42を備える。本実施の形態では、第1カウンタシャフト41が右半部及び左半部に2分割されている。ディファレンシャルギヤDを介して左右の駆動輪W,Wに接続される足軸43が出力軸12に対して同軸上に配置されており、出力軸12及び足軸43の対向端部間に遊星歯車機構Pが配置される。
【0040】
遊星歯車機構Pは、出力軸12に固設された第1要素としてのサンギヤ44と、足軸43に固設された第2要素としてのキャリヤ45と、第3要素としてのリングギヤ46とを備えており、キャリヤ45に支持した複数のピニオン47がサンギヤ44及びリングギヤ46に同時に噛合する。
【0041】
出力軸12に固設した第1ドライブギヤ48が、第1カウンタシャフト41の右半部に相対回転自在に支持した第1ドリブンギヤ49と、第2カウンタシャフト42に固設した第2ドリブンギヤ50とに同時に噛合する。第2カウンタシャフト42に固設した第2ドライブギヤ51が第1カウンタシャフト41の左半部に固設した第3ドリブンギヤ52に噛合する。第1ドリブンギヤ49は、ノーマルクローズ形式の湿式多板型の前進クラッチCfにより第1カウンタシャフト41の右半部に結合可能であり、第1カウンタシャフト41の右半部及び左半部は、ノーマルオープン形式の湿式多板型の後進クラッチCrにより一体に結合可能である。
【0042】
第1カウンタシャフト41の右半部に固設した第3ドライブギヤ53が、遊星歯車機構Pのリングギヤ46の外周に固設した第4ドリブンギヤ54に噛合する。入力軸11に相対回転自在に支持した入力ギヤ55が第3ドライブギヤ53に噛合し、この入力ギヤ55は、ノーマルオープン形式の乾式多板型の入力クラッチCiを介して入力軸11に結合可能である。なお、入力クラッチCiの容量は、前進クラッチCf及び後進クラッチCrの容量に比べて小さい。
【0043】
前後進切換機構Sの前進クラッチCf及び後進クラッチCrの少なくとも一方は、無段変速機Tの4本のコネクティングロッド19の何れかに軸方向にオーバーラップしている。
【0044】
次に、前後進切換機構Sの作用について、
図8〜
図14を参照して説明する。
図8、
図10及び
図12中の点線の矢印は駆動力を示し、実線の矢印は作動油の供給を示す。前後進切換機構Sに含まれる前進クラッチCf、後進クラッチCr及び入力クラッチCiの各係合は、マネジメントECU109からの指示に従い、MOP101から提供される出力によって行われる。
【0045】
マネジメントECU109は、シフトポジションがドライブレンジに選択され、フェール検知部107からの故障信号がない場合、
図8に示すように、EOP105の駆動によってオイルポンプクラッチ103を締結しない。したがって、
図9及び
図14(A)に示すように、シフトポジションがドライブレンジに選択された状態における車両の前進走行時には、前進クラッチCfは係合し、入力クラッチCi及び後進クラッチCrの係合は解除されている。その結果、無段変速機Tの出力軸12の駆動力が遊星歯車機構Pの第1要素であるサンギヤ44に入力するととともに、出力軸12の駆動力が第1ドライブギヤ48→第1ドリブンギヤ49→前進クラッチCf→第1カウンタシャフト41の右半部→第3ドライブギヤ53→第4ドリブンギヤ54の経路で遊星歯車機構Pの第3要素であるリングギヤ46に入力するため、遊星歯車機構Pの第2要素であるキャリヤ45から足軸43に駆動力が出力されて車両は前進走行する。
【0046】
このとき、第1ドライブギヤ48から第2ドリブンギヤ50→第2カウンタシャフト42→第2ドライブギヤ51→第3ドリブンギヤ52の経路で第1カウンタシャフト41の左半部に駆動力が伝達されるが、後進クラッチCrが係合解除しているため、第1カウンタシャフト41の右半部及び左半部間でインターロックが発生することはない。
【0047】
マネジメントECU109は、シフトポジションがリバースレンジに選択され、フェール検知部107からの故障信号がない場合、
図10に示すように、EOP105を駆動して、EOP105からの出力によってオイルポンプクラッチ103を締結する。その結果、エンジンEの駆動力の一部によってMOP101が駆動し、MOP101から前後進切換機構Sに所定の出力が供給される。このとき、マネジメントECU109は、前後進切換機構Sに供給された出力を前進クラッチCf及び後進クラッチCrに供給して、前進クラッチCfを解放し、後進クラッチCrを締結するよう前後進切換機構Sの制御を行う。したがって、
図11及び
図14(B)に示すように、シフトポジションがリバースレンジに選択された状態における車両の後進走行時には、後進クラッチCrは係合し、入力クラッチCi及び前進クラッチCfの係合は解除されている。その結果、無段変速機Tの出力軸12の駆動力が遊星歯車機構Pの第1要素であるサンギヤ44に入力するととともに、出力軸12の駆動力が第1ドライブギヤ48→第2ドリブンギヤ50→第2カウンタシャフト42→第2ドライブギヤ51→第3ドリブンギヤ52→第1カウンタシャフト41の左半部→後進クラッチCr→第1カウンタシャフト41の右半部→第3ドライブギヤ53→第4ドリブンギヤ54の経路で遊星歯車機構Pの第3要素であるリングギヤ46に逆回転となって入力するため、遊星歯車機構Pの第2要素であるキャリヤ45から足軸43に駆動力が逆回転となって出力されて車両は後進走行する。
【0048】
このとき、第1ドライブギヤ48から第1ドリブンギヤ49に駆動力が伝達されるが、前進クラッチCfが係合解除しているため、第1ドリブンギヤ49及び第1カウンタシャフト41の右半部間でインターロックが発生することはない。
【0049】
なお、
図10に示す一点鎖線の矢印は、MOP101からオイルポンプクラッチ103への出力の供給を示す。本実施形態のオイルポンプクラッチ103はドグクラッチであるため、EOP105からの出力の供給によって係合が行われた後は出力を供給し続けなくても係合は維持される。しかし、その後のオイルポンプクラッチ103の係合を確実とするため、又はオイルポンプクラッチ103の係合を解除するために、MOP101からオイルポンプクラッチ103へ出力が供給されても良い。
【0050】
マネジメントECU109は、シフトポジションがドライブレンジに選択され、AP開度が正の値から0になり、フェール検知部107からの故障信号がない場合、
図12に示すように、EOP105を駆動して、前進クラッチCfの係合を維持したまま、EOP105からの出力を入力クラッチCiに供給して、入力クラッチCiを締結するよう前後進切換機構Sの制御を行う。なお、EOP105の出力はMOP101の出力に比べて低いため、入力クラッチCiは半係合の状態である。
【0051】
したがって、、
図13及び
図14(C)に示すように、車両の前進減速走行中には無段変速機Tのワンウェイクラッチ21が係合解除するため、出力軸12は無負荷で回転可能な状態となる。このとき、出力軸12に固設された遊星歯車機構Pのサンギヤ44は、第1ドライブギヤ48→第1ドリブンギヤ49→前進クラッチCf→第1カウンタシャフト41の右半部→第3ドライブギヤ53→第4ドリブンギヤ54の経路で遊星歯車機構Pのリングギヤ46に接続されるため、遊星歯車機構Pのサンギヤ44及びリングギヤ46の回転数比は所定値に固定される。その結果、駆動輪Wから足軸43を経てから遊星歯車機構Pのキャリヤ45に入力された駆動力は、リングギヤ46から第3ドライブギヤ53、入力ギヤ55及び入力クラッチCiを経てエンジンEに伝達され、エンジンブレーキが作動する。このように、クランク式の無段変速機Tは駆動輪W側からエンジンE側への駆動力の逆伝達が不能であるが、入力クラッチCiを係合することで無段変速機Tを迂回した経路で駆動輪W側からエンジンE側への駆動力の逆伝達が可能になるため、エンジンブレーキ機能を支障なく得ることができる。
【0052】
なお、
図12に示す一点鎖線の矢印は、EOP105からオイルポンプクラッチ103への出力の供給を示す。また、
図12に示す二点鎖線の矢印は、MOP101から入力クラッチCiへの出力の供給を示す。その結果、エンジンEの駆動力の一部によってMOP101が駆動し、MOP101から前後進切換機構Sに所定の出力が供給される。このとき、マネジメントECU109は、入力クラッチCiを締結するよう前後進切換機構Sの制御を行っているため、入力クラッチCiはMOP101から供給された出力によって完全に締結される。入力クラッチCiが乾式クラッチである場合、半係合の状態である入力クラッチCiには発熱が生じるが、MOP101からの出力によって入力クラッチCiを完全に締結することによって、入力クラッチCiにおける発熱を防止することができる。
【0053】
次に、フェール検知部107が無段変速機Tの故障の発生を検知した際のマネジメントECU109の制御について、
図15を参照して詳細に説明する。なお、無段変速機Tの故障による影響をエンジンEは受けない。マネジメントECU109は、フェール検知部107から故障信号が入力されると、
図15に示すように、EOP105を駆動して、EOP105からの出力によってオイルポンプクラッチ103を締結する。その結果、エンジンEの駆動力の一部によってMOP101が駆動し、MOP101から前後進切換機構Sに所定の出力が供給される。このとき、マネジメントECU109は、前後進切換機構Sに供給された出力を前進クラッチCfに供給して、前進クラッチCfを解放するよう前後進切換機構Sの制御を行う。こうすれば、前後進切換機構Sに設けられたどのクラッチも係合が解除されているため、車両は、牽引等の退避行動が前進及び後進のいずれも可能なニュートラル状態になる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態によれば、大きなトルクが伝達される足軸43に設けられた前後進切換機構Sの前進クラッチCfは、トルク伝達容量が大きなものであるが、ノーマルクローズ形式であるため、前進走行時には前後進切換機構Sに出力を供給する必要がない。このため、前後進切換機構Sに供給する出力による損失がない状態で効率良く前進走行することができる。また、EOP105を駆動して、EOP105からの出力によってオイルポンプクラッチ103を締結すれば、エンジンEの駆動力の一部によってMOP101を駆動することで、MOP101から前後進切換機構Sに所定の出力が供給される。MOP101から前後進切換機構Sに出力を供給すれば、前進クラッチCfを解放して、後進クラッチCrを締結することができるため、後進走行も行える。さらに、前後進切換機構Sの入力クラッチCiを締結すれば、エンジンブレーキ走行も行える。
【0055】
このように、MOP101を駆動するためにはEOP105を駆動してオイルポンプクラッチ103を締結する必要があるが、オイルポンプクラッチ103を締結するために必要とされる出力は前進クラッチCfや後進クラッチCrよりも低いため、EOP105としては小型のモータを用いることができる。その結果、車両用動力伝達装置における前進クラッチCfや後進クラッチCrを断接する際のエネルギー効率を向上できる。
【0056】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、MOP101は、エンジンEの駆動力の一部によって駆動される形態に限らず、
図16に示すように、車両が走行するための直接的な駆動力を出力するものではないアクチュエータ113からの動力によって駆動されても良い。なお、アクチュエータ113としては変速アクチュエータ14が用いられても良い。