【課題】ワイパーアームにおける連結部分において外観不良や動作不良の原因となるおそれのある電食が生じるおそれがあり、当該電食を防止することが難しい、という問題を解決する。
【解決手段】ワイパーアーム基端部に設けられた嵌合穴に圧入され、ワイパーアーム基端部とワイパーアームとを回転自在に連結する際に用いられるワイパーアーム軸受であって、ワイパーアーム軸受は、外面層と、内面層と、の2層構造を有しており、ワイパーアーム軸受の外面層はアルミニウム材で構成され、ワイパーアーム軸受の内面層はステンレス材で構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記引用文献1、2に記載のように、ワイパーアーム基端部とアーム部(アーム本体)とは、ワイパーアーム基端部に圧入されたワイパーアーム軸受(軸受け部)と連結ピンとリベットとなどを用いて回転自在に連結される。
【0007】
ここで、ワイパーアーム基端部などのワイパーアームの各構成は、軽量化や美観などを目的として、アルマイト処理などの絶縁処理をされたアルミニウム材に塗装を施したものが用いられることが知られている。一方、ワイパーアーム基端部に圧入されるワイパーアーム軸受は、一般に、強度を確保するためにステンレス材を用いている。
【0008】
このような構成のため、ワイパーアームの実作動に伴い、柔らかいアルミニウム材で構成されるワイパーアーム基端部が削られるおそれがある。また、異種金属同士の接触部であるワイパーアーム基端部の嵌合穴の内面層とワイパーアーム軸受の外面層との間に水が浸入することで、局部的な電池が形成され、卑な金属であるアルミニウム材が腐食するおそれがある。その結果、アルマイト被膜と塗装の隙間などに腐食生成物が堆積し、外観不良や動作不良の原因となるおそれがあった。
【0009】
このように、ワイパーアームにおいては、連結部分において外観不良や動作不良の原因となるおそれのある電食が生じるおそれがあり、当該電食を防止することが難しい、という問題が生じていた。
【0010】
そこで、本発明の目的は、連結部分において生じるおそれのある外観不良や動作不良の原因となる電食を防止することが難しい、という問題を解決するワイパーアーム軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため本発明の一形態であるワイパーアーム軸受は、
ワイパーアーム基端部に設けられた嵌合穴に圧入され、前記ワイパーアーム基端部とワイパーアームとを回転自在に連結する際に用いられるワイパーアーム軸受であって、
前記ワイパーアーム軸受は、外面層と、内面層と、の2層構造を有しており、
前記ワイパーアーム軸受の外面層はアルミニウム材で構成され、
前記ワイパーアーム軸受の内面層はステンレス材で構成されている
という構成を採る。
【0012】
上記発明によると、ワイパーアーム軸受のうち、ワイパーアーム基端部と接触する外面層がアルミニウム材で構成されている。また、ワイパーアーム軸受のうち、連結ピンと接触する内面層がステンレス材で構成されている。
【0013】
ここで、ワイパーアーム基端部は、軽量化や美観などを目的として、アルミニウム材により構成されている。そのため、上記構成のワイパーアーム軸受を用いることで、アルミニウム材により構成されているワイパーアーム基端部と、アルミニウム材により構成される外面層と、が接触することになる。つまり、同種の金属同士が接触することになる。
【0014】
その結果、ワイパーアームが実作動した際に、柔らかいアルミニウム材で構成されるワイパーアーム基端部が削られるおそれを抑制することが出来る。また、仮にワイパーアーム基端部の嵌合穴とワイパーアーム軸受との間に水が浸入したとしても、両者はともに同種の金属で構成されている。そのため、局部的な電池が形成されることによる電食の発生を抑制することが出来る。
【0015】
また、上記構成によると、ステンレス材により構成される連結ピンとは、同様にステンレス材で構成される内面層が接触することになる。そのため、連結ピンとワイパーアーム軸受との間で電食が発生するおそれも抑制することが出来る。
【0016】
以上より、上記構成のワイパーアーム軸受を用いることで、電食を防止することが可能となる。
【0017】
また、
前記ワイパーアーム軸受の前記外面層と前記内面層とは、当該外面層と当該内面層との間に水が浸入することを抑制する水密構造となるよう互いに結合されている
という構成を採ることが出来る。
【0018】
この構成によると、ワイパーアーム軸受のうちのアルミニウム材により構成される外面層とステンレス材により構成される内面層とが、当該外面層と内面層との間に水が入らない水密構造となるよう互いに結合されている。このような構成により、ワイパーアーム軸受の外面層と内面層との間に水が浸入することを防ぐことが出来る。その結果、ワイパーアーム軸受の外面層と内面層との間に局所的な電池が形成され、電食が発生することを防ぐことが出来る。これにより、より効果的に電食を防止するワイパーアーム軸受を実現することが可能となる。
【0019】
また、
前記ワイパーアーム軸受の外面層と内面層とは、固相接合法を用いて接合されている
という構成を採ることが出来る。
【0020】
この構成によると、ワイパーアーム軸受の外面層であるアルミニウム材と、内面層であるステンレス材と、が、固相接合法を用いて原子レベルで接合されている。これにより、ワイパーアーム軸受の外面層と内面層との間に電食が発生することをより効果的に防ぐことが出来る。その結果、より効果的に電食を防止するワイパーアーム軸受を実現することが可能となる。
【0021】
また、
前記ワイパーアーム軸受の外面層は、前記内面層にめっき処理を行うことで形成されている
という構成を採ることが出来る。
【0022】
この構成によると、ワイパーアーム軸受の外面層は、内面層(ステンレス材)に溶融アルミめっきなどのめっき処理を行うことで形成されている。このようにステンレス材にアルミニウムのめっき処理を行うことでも、固相接合法を用いる場合と同様に、電食の発生を抑制した外面層と内面層とを実現することが出来る。その結果、効果的に電食を防止するワイパーアーム軸受を実現することが可能となる。
【0023】
なお、溶融アルミめっきは、電解めっきや無電解めっきと比較してめっき膜を厚く施すことが可能な方法である。そのため、溶融アルミめっきを行って内面層に外面層を形成することで、十分な厚みをもった外面層を容易に形成することが出来る。つまり、溶融アルミめっきを用いることにより、軸受の圧入時などに生じるおそれのある削れに強い外面層を容易に形成することが出来る。
【0024】
また、
前記ワイパーアーム軸受は、
前記内面層の内側に、コーティング処理を施すことで絶縁性膜を形成している
という構成を採ることが出来る。
【0025】
この構成によると、ステンレス材により構成されたワイパーアーム軸受の内面層の内側に、絶縁性膜が形成されている。具体的には、例えば、ワイパーアーム軸受のうちのステンレス側に、絶縁性膜コーティング処理としてフッ素系樹脂が吹き付けられている。このような構成により、連結ピンとの摺動時に金属と金属とのすれ合う際に生じる異音やがたつきを抑制することが可能となる。
【0026】
また、ワイパーアーム装置のうちのワイパーアーム基端部とワイパーアームとを連結する際に上記説明したワイパーアーム軸受を用いることで、ワイパーアーム基端部とワイパーアームとの連結部分で電食が生じることを抑制したワイパーアーム装置を実現することが出来る。つまり、電食が生じることを抑制したワイパーアーム装置を実現する際には、上記説明したワイパーアーム軸受を用いることが望ましいものと考えられる。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、以上のように構成されることにより、連結部分において生じるおそれのある外観不良や動作不良の原因となる電食を防止することが難しい、という問題を解決するワイパーアーム軸受を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態では、アーム部3とワイパーアーム基端部4との間の連結部分において電食が生じる可能性を抑制するために用いられるワイパーアーム軸受7について説明する。後述するように、本実施形態におけるワイパー装置1は、アーム部3とアルミニウム材により構成されたワイパーアーム基端部4とを連結する際に、アルミニウム材により構成された外面層71とステンレス材により構成された内面層72とを有するワイパーアーム軸受7を用いている。このような構成により、アーム部3とワイパーアーム基端部4とを連結した際に、ワイパーアーム軸受7のうちの外面層71とワイパーアーム基端部4とが接することになる。つまり、接触する外面層71とワイパーアーム基端部4とが、ともに、アルミニウム材により構成されることとなる。その結果、ワイパー装置1が作動した際にワイパーアーム基端部4が削られるおそれを抑制するとともに、仮に外面層71とワイパーアーム基端部4との間に水が浸入したとしても、電食が発生することを抑制することが可能となる。
【0030】
図1を参照すると、本実施形態におけるワイパー装置1は、ワイパーブレード2と、アーム部3と、ワイパーアーム基端部4と、を有している。また、アーム部3とワイパーアーム基端部4とは、ワイパーアーム5を構成している。
【0031】
アーム部3は、ワイパーアーム基端部4に回転自在に連結されている。また、アーム部3の先端では、ワイパーブレード2が取り付けられている。このように、本実施形態におけるワイパー装置1は、ワイパーアーム基端部4と、当該ワイパーアーム基端部4に対して回転自在に連結されているアーム部3と、アーム部3の先端で取り付けられているワイパーブレード2と、から構成されている。なお、本実施形態におけるワイパー装置1は、ワイパーブレード2やアーム部3、ワイパーアーム基端部4の形状や大きさなどには依存せず実施可能である。そのため、ワイパー装置1は、様々な形状のワイパーブレード2やアーム部3、ワイパーアーム基端部4を用いて構わない。また、ワイパー装置1は、例えば、ワイパーブレード2を有していなくても構わない。
【0032】
図2は、ワイパーアーム5を構成するアーム部3とワイパーアーム基端部4とを連結する部分の詳細な構成の一例を示す図である。
図2を参照すると、ワイパーアーム5は、例えば、アーム部3と、ワイパーアーム基端部4と、ワイパーアーム軸受7と、連結ピン8と、リベット9と、スプリング10と、を有している。
【0033】
なお、以下においては、
図2の上側を上側とし、
図2の下側を下側であるものとする。また、
図2のうちの手前側(例えば、取り付け穴31、32のうちの取り付け穴31の側)を左側とし、
図2のうちの奥側(例えば、取り付け穴31、32のうちの取り付け穴32の側)を右側とするものとする。
【0034】
アーム部3は、例えば、アルミニウム材(アルマイト処理された材料)により構成されている。
図2で示すように、アーム部3は、例えば上壁部分と、上壁部分の左右両端から下方に延びる左右の壁部と、を有している。後述するように、上壁部分と、左右の壁部と、の間に形成された空間内に、ワイパーアーム基端部4が挿入されて、アーム部3とワイパーアーム基端部4とが連結されることになる。
【0035】
また、アーム部3のうちの左右の壁部には、それぞれに対応する位置に、左右方向に貫通する取り付け穴31と、取り付け穴32と、が設けられている。後述するリベット9は、取り付け穴31、32を挿通した後、かしめられることになる。
【0036】
ワイパーアーム基端部4は、例えば、アルミニウム材(アルマイト処理された材料)により構成されており、上記アーム部3の上壁部分と左右の壁部との間に形成された空間内に挿入可能な形状を有している。
【0037】
ワイパーアーム基端部4は、一方の端部側に上下方向に貫通する車体取り付け穴を有している。また、ワイパーアーム基端部4は、車体取り付け穴を有する側とは反対側の端部辺りの側面に、左右方向に貫通する取り付け用嵌合穴41を有している。さらに、ワイパーアーム基端部4のうちの取り付け用嵌合穴41が設けられている側の端部には、フック部42が取り付けられている。
【0038】
ワイパーアーム基端部4に設けられた車体取り付け穴には、ワイパーシャフト6(例えば、ワイパーシャフト6と連結する車体側ボルト)が挿通している。ワイパーシャフト6は、ワイパーアーム基端部4に設けられた車体取り付け穴を挿通した後、ワイパーアーム基端部4に固定されている。また、ワイパーシャフト6は、一方の端部がワイパーアーム基端部4に固定される一方で、他方の端部で図示しない駆動モータと連結されている。つまり、ワイパーアーム基端部4は、駆動モータと連結するワイパーシャフト6に固定されていることになる。
【0039】
また、ワイパーアーム基端部4の取り付け用嵌合穴41には、ワイパーアーム軸受7が圧入されている。上述したように、本実施形態では、ワイパーアーム軸受7を用いることで、電食の発生を抑制することを可能としている。ワイパーアーム軸受7の詳細な構成については、後述する。
【0040】
連結ピン8とリベット9とは、例えば、ステンレス材により構成されている。連結ピン8は、例えば、円筒状の形状をしている。アーム部3とワイパーアーム基端部4との連結時には、連結ピン8の内部にリベット9が挿通されることになる。
【0041】
リベット9は、例えば、アーム部3の取り付け穴32を挿通した後、ワイパーアーム基端部4の取り付け用嵌合穴41に圧入されたワイパーアーム軸受7(連結ピン8)内部を挿通する。その後、リベット9は、アーム部3の取り付け穴31を挿通した後、かしめられることになる。
【0042】
スプリング10の一方の端部は、ワイパーアーム基端部4に取り付けられているフック部42に掛けられており、もう一方の端部は、アーム部3に設けられた図示しない係止部に掛けられている。
【0043】
このような構成により、アーム部3とワイパーアーム基端部4とは、所定の方向におさえられながら回転可能に連結することが出来る。
【0044】
図3は、本実施形態におけるワイパーアーム軸受7の構成の一例を示す図である。
図3で示すように、ワイパーアーム軸受7は、例えば、スリットを有する円筒状の形状をしている。なお、ワイパーアーム軸受7は、スリットを有しないパイプ状の形状をしていても構わない。
【0045】
図4(A)、(B)は、ワイパーアーム軸受7の断面図の一例を示している。
図4(A)、(B)に示すように、本実施形態におけるワイパーアーム軸受7は、3層の構造を有している。
【0046】
具体的には、本実施形態におけるワイパーアーム軸受7は、ワイパーアーム軸受7の最も外側に位置する層である外面層71と、外面層71の内側に位置する層である内面層72と、ワイパーアーム軸受7の最も内側に位置する層である絶縁性膜73と、から構成されている。つまり、ワイパーアーム軸受7は、外側から内側に向かって、外側層71、内側層72、絶縁性膜73、の順番に構成されていることになる。
【0047】
ワイパーアーム軸受7の外面層71は、アルミニウム材により構成されている。また、ワイパーアーム軸受7の内面層72は、ステンレス材により構成されている。後述するように、本実施形態におけるワイパーアーム軸受7の外面層71と内面層72とは、例えば、熱間圧延法などの固相接合法を用いて原子レベルで結合されている。このように外面層71と内面層72とが結合された構成を用いることで、外面層71と内面層72との間に水が浸入することを防ぐことになる。つまり、ワイパーアーム軸受7の外面層71と内面層72とは、当該外面層71と内面層72との間に水が浸入することを防ぐ水密構造となるように互いに結合されていることになる。
【0048】
また、絶縁性膜73は、例えば、内面層72であるステンレス材に絶縁性膜コーティング処理としてフッ素系樹脂を吹き付けることで形成されている。このように絶縁性膜のコーティング処理を行うことで、ワイパー装置1の摺動時にも金属と金属(ワイパーアーム軸受7と連結ピン8)の擦れ合う際に生じる異音やがたつきを抑制することが出来る。
【0049】
上記のような構成を有するワイパーアーム軸受7は、例えば、所定の構造のハイブリッド材を、加工機械などを用いて巻き加工することで製造することが出来る。つまり、ワイパーアーム軸受7は、例えば、所定の構造のハイブリッド材を円筒状に巻き加工することで製造される。
【0050】
また、上記ハイブリッド材は、例えば、ステンレス材とアルミニウム材とを熱間圧延法などの固相接合法を用いて結合することで製造したクラッド材に、吹き付け法などにより絶縁性の膜をコーティング処理することで製造することが出来る。つまり、ステンレス材とアルミニウム材とを結合したクラッド材を用意し、当該クラッド材のステンレス材側に絶縁性膜コーティング処理(例えば、フッ素系樹脂を吹き付ける)をすることで、3層積層のハイブリッド材を製造することが出来る。
【0051】
また、上記ハイブリッド材は、例えば、ステンレス材に溶融アルミめっきなどのめっき法(例えば、溶融めっきや電解めっき、無電解めっきなど)を用いてめっき処理を行ってアルミニウム層を形成するとともに、吹き付け法などにより絶縁性の膜をコーティング処理することでも製造することが出来る。
【0052】
なお、外面層71と、内面層72とは、それぞれ所定の厚さを有していることが望ましいものと考えられる。例えば、外面層71と、内面層72とは、厚さが1μm〜1mm程度であることが考えられる。上記のようにワイパーアーム軸受7は、ワイパーアーム基端部4に圧入される。そのため、外面層71を極端に薄く形成すると、圧入される段階で削れてしまうおそれがあるものと考えられる。また、内面層72が薄くなると、軸受としての必要な強度が得られなくなるおそれが考えられる。従って、外面層71と内面層72とは、それぞれが所定の厚さを有していることが望ましい。
【0053】
また、溶融めっきは、電解めっきや無電解めっきと比較して、めっき膜を厚く施すことが出来る。そのため、ステンレス材に溶融アルミめっきを施すことで、必要な厚みを持つアルミニウム層を容易に形成することが出来る。つまり、溶融アルミめっきを用いることで、上記のように圧入による削れを含めても有用な外面層71を容易に形成することが可能である。
【0054】
図5は、
図2で示す各構成を連結した際の様子の一例を示している。
図5を参照すると、アーム部3の内側にワイパーアーム基端部4が配置されている。また、ワイパーアーム基端部4の取り付け用嵌合穴41にはワイパーアーム軸受7が圧入されている。さらに、アーム部3に設けられた取り付け穴31、32を、ワイパーアーム軸受7の内側の空間を介して、連結ピン8とリベット9とが挿通している。
【0055】
つまり、上述した各構成を連結させると、アルミニウム材により構成されたワイパーアーム基端部4と、ワイパーアーム軸受7のうちのアルミニウム材により構成された外面層71と、が接触することになる。また、ステンレス材により構成された連結ピン8と絶縁性膜73とが接触することになる。
【0056】
このように、本実施形態におけるワイパー装置1は、外面層71と内面層72と絶縁性膜73と、を有するワイパーアーム軸受7を用いている。このような構成により、アーム部3とワイパーアーム基端部4との連結時に、アルミニウム材により構成されたワイパーアーム基端部4と、アルミニウム材により構成された外面層71と、が接触することになる。つまり、ワイパーアーム軸受7の外面において、同種の金属同士が接触することになる。その結果、ワイパー装置1が実作動した際に、柔らかいアルミニウム材で構成されるワイパーアーム基端部4が削られるおそれを抑制することが可能となる。また、仮にワイパーアーム基端部4の取り付け用嵌合穴41とワイパーアーム軸受7の外面層71との間に水が浸入したとしても、両者はともに同種の金属で構成されているため、局部的な電池が形成されることによる電食の発生を抑制することが可能となる。
【0057】
また、外面層71と、内面層72とは、例えば、熱間圧延法などの固相接合法を用いて、当該外面層71と当該内面層72との間に水が浸入することを抑制する水密構造となるよう互いに結合されている。このような構成により、外面層71と内面層72との間に水が浸入することを防ぐことが出来る。その結果、ワイパーアーム軸受の外面層71と内面層72との間に局所的な電池が形成され、電食が発生することを防ぐことが出来る。これにより、より効果的に電食を防止するワイパーアーム軸受7を実現することが可能となる。
【0058】
また、上記構成によると、ステンレス材により構成される連結ピン8は、絶縁性膜73と接触することになる。このような構成により、ワイパー装置1の摺動時に、金属と金属(ワイパーアーム軸受7と連結ピン8)の擦れ合う際に生じる異音やがたつきを抑制することが出来る。また、絶縁性膜73の内側は、ステンレス材により構成される内面層72により構成されている。そのため、仮に絶縁性膜73が削れたとしても、連結ピン8と内面層72とが接触することになる。その結果、仮に連結ピン8と内面層72とが接触したとしても、当該接触箇所で電食が発生することを抑制することが出来る。
【0059】
また、上記のように、ワイパーアーム軸受7は、アルミニウム材により構成される外面層71を有するとともに、ステンレス材により構成される内面層72を有している。ここで、アルミニウム材は柔らかい素材である一方で、ステンレス材は固い素材である。そのため、上記のような構成を有することで、電食の発生を抑制するとともに、軸受に必要な強度を確保することが出来る。
[実施例]
【0060】
図6で示すように、上述した構成(外面層71と内面層72と絶縁性膜73)を有するワイパーアーム軸受7をワイパーアーム基端部4に圧入して、連結ピン8とリベット9とを挿入した。このような状態で、ワイパーアーム基端部4とワイパーアーム軸受7との間に水を数滴垂らして放置した。その結果、水を垂らしてから60分経過した後も、水の浸透は観察されなかった。なお、仮に多少の液体が浸入したとしても、上述したように、ワイパーアーム基端部4とワイパーアーム軸受7の外面層71とは、ともにアルミニウム材により構成されている。そのため、電位差が生じることなく電食を防止することが出来ることになる。
【0061】
また、本実施形態で説明したワイパーアーム軸受7(ハイブリッド材)と、数点の試作との、電食耐性などの比較結果を
図7に示す。
図7では、本実施形態で説明するワイパーアーム軸受7(ハイブリッド材)と、アルミ無垢材により構成されたアルミ無垢軸受と、ステンレス材により構成された軸受と、ステンレス材の外径にスズでめっきを行った軸受と、の比較結果を示している。
【0062】
図7を参照すると、ワイパーアーム基端部4と同種のアルミニウム材により構成されたアルミ無垢軸受を用いると、電食の発生は防止することが出来るものの、耐力が無く耐久性がもたないことが分かる。また、スズめっきを用いると、ワイパーアーム基端部4の素材との間の電位差は縮まるものの、依然として卑な金属であるアルミニウムの方が優先的に腐食してしまうことが分かる。つまり、スズめっきでは、ワイパーアーム基端部4との間で生じる電食を防ぐことが難しいことが分かる。さらに、軸受はワイパーアーム基端部4の取り付け用嵌合穴41に圧入されるため、仮にめっきを行ったとしても、圧入時にめっきがはがれてしまう、という問題が生じるおそれがあることが分かる。また、ステンレス材により構成された軸受の場合、電食の発生を抑制することが難しいことが分かる。
【0063】
一方、ワイパーアーム軸受7(ハイブリッド材)においては、外面層71がワイパーアーム基端部4と同一の素材であるため、電食の発生を防止することが出来ていることが分かる。また、ワイパーアーム軸受7(ハイブリッド材)においては、ステンレス系材料とアルミニウム系材料とが結合時(例えば、熱間圧延時)に互いの成分が絡み合い剥がれにくくなる構造を取っている。そのため、圧入による嵌合方法でも剥離することがないことが分かる。
【0064】
図8では、JIS G 0577に則り孔食電位測定法を用いて行った、各種素材及びハイブリッド材におけるワイパーアーム基端部4との電位差の測定結果の一例を示す。測定方法としては、1mol dm
−3塩化ナトリウム溶液を調製し、作用極として測定面積をφ6(0.283cm
−2)になるように作製し、対極に白金電極、参照極には銀・塩化銀電極を用いた。また、上記測定は、実環境に近い状態での測定を考え、室温・大気開放下で行った。
【0065】
図8では、電流密度が急激に増加している電位がその素材の持つ孔食電位であり、腐食が起こり始める境界となることを示している。上述したように、ワイパーアーム基端部4は、例えば、アルマイト処理された材料である。そのため、アルマイト処理された材料において観察される孔食電位に近い値を持つ材料を選定することが電食の防止対策となることになる。
【0066】
なお、アルマイト皮膜はアルミニウム合金を陽極酸化法により形成させているため、膜厚が場所により異なる。そのため、表面層の安定が乏しい為、
図8では、測定開始時に電流密度が立ち上がった状態で観察されている。一方、他の比較材料においては、測定開始電位から不働態域を示すプラトーが観察され、その後に、孔食電位に到達していることが分かる。
【0067】
図8を参照すると、アルマイト処理されたアルミニウム合金は−0.7V付近で電流密度が立ち上がっていることが分かる。一方、従来品であるステンレス材は、0.3V付近で立ち上がっている。つまり、電位の差が1Vと開いていることが分かる。また、スズでめっきしたステンレス材の場合、−0.2V付近の値を示していることが分かる。
【0068】
一方、
図8を参照すると、アルミ無垢材では−0.7V付近であり、アルマイト処理材とほぼ同等の値を示していることが分かる。また、本実施形態で説明したハイブリッド材(ワイパーアーム軸受7)も、−0.7V付近の値を示しており、アルマイト処理材の値と近い値を示していることが分かる。以上より、本実施形態で説明するワイパーアーム軸受7を用いることで、電食の防止に非常に大きな効果が期待できることを確認することが出来る。
【0069】
また、
図9では、実環境に於ける湿潤状態での使用を想定し、JIS Z 2371に則り塩水噴霧試験を行った結果の一例を示す。
図9では、ワイパーアーム軸受7を用いた場合との比較例として、ステンレス系材料に絶縁性コーティングを施した材料(ステンレス系材料絶縁性コーティング材)を用意した。
図9の上側はステンレス系材料絶縁性コーティング材における試験結果の一例を示しており、
図9の下側は、ハイブリッド材(ワイパーアーム軸受7)における試験結果の一例を示している。なお、本試験では、24時間毎に表面状態を確認した。
【0070】
図9を参照すると、ステンレス系材料絶縁性コーティング材の場合、約100時間経過後には白色の生成物が観察され、ワイパーアーム基端部4に内部よりの膨れが生じていることを観察することが出来る(矢印表示)。一方、本実施形態で説明したワイパーアーム軸受7を用いた場合、約100時間経過後に多少の白色生成物は観察されるものの、約200時間しても錆の発生は観察されなかった。
【0071】
この白色生成物は継続的に噴霧している塩化ナトリウム溶液の液だまりにより生じる現象である。また、ステンレス系材料の矢印で表示した箇所には、黒色塗装されている外表面とは違う茶色の変色域が観察される。これはアルミニウムで構成されているワイパーアーム基端部に施されているアルマイト皮膜が、塩化ナトリウム溶液を介した電食反応により溶出又は変態したためと思われる。この現象は本発明品であるハイブリッド材では見られなかった。
【0072】
以上より、
図9を参照すると、塩水噴霧試験の結果、ワイパーアーム軸受7を用いた場合、約200時間経過したとしても錆の発生が観測されなかったことが分かる。
【0073】
以上、各試験結果によると、本実施形態におけるワイパーアーム軸受7を用いることで、電食の発生を抑制することが期待できることが確認された。
【0074】
なお、本実施形態においては、ワイパーアーム軸受7と、当該ワイパーアーム軸受7を用いて連結されるワイパー装置1との一例について説明した。しかしながら、ワイパーアーム軸受7の構成は、アルミニウム材により構成された外面層71とステンレス材により構成された内面層72とを有していれば、本実施形態で説明した場合に限定されない。ワイパーアーム軸受7は、例えば、絶縁性膜73を有していなくても構わない。また、ワイパーアーム軸受7は、例えば、ワイパーアーム基端部4の左右両側から挿入される一対のワイパーアーム軸受7として構成されても構わない。このように、ワイパーアーム軸受7の構成は、当該ワイパーアーム軸受7が圧入されるワイパーアーム基端部4の形状などに応じて、適宜変更されて構わない。
【0075】
以上、上記各実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明の範囲内で当業者が理解しうる様々な変更をすることが出来る。