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特開2016-218049ひび割れ検知センサおよびひび割れモニタリング方法
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  • 特開2016218049-ひび割れ検知センサおよびひび割れモニタリング方法 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-218049(P2016-218049A)
(43)【公開日】2016年12月22日
(54)【発明の名称】ひび割れ検知センサおよびひび割れモニタリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/88 20060101AFI20161125BHJP
【FI】
   G01N21/88 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-71987(P2016-71987)
(22)【出願日】2016年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2015-102062(P2015-102062)
(32)【優先日】2015年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【弁理士】
【氏名又は名称】森村 靖男
(71)【出願人】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】栖原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 昭俊
(72)【発明者】
【氏名】真下 昌章
(72)【発明者】
【氏名】松本 雅夫
(72)【発明者】
【氏名】中沢 広樹
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AA90
2G051AB03
2G051CA11
2G051CB01
2G051CC11
(57)【要約】
【課題】 簡易な構成ひび割れを検知するひび割れ検知センサおよびひび割れモニタリング方法を提供する。
【解決手段】 セメント・コンクリート硬化体Cのひび割れcrを検知するひび割れ検知センサ1であって、表面保護層7と、ガラス球5を封入した少なくとも1層の保持層6と、焦点形成層4と、鏡面反射層3とを含む検知シートSを備え、検知シートSは、表面保護層7と反対側がセメント・コンクリート硬化体Cの表面に貼り付けられる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント・コンクリート硬化体のひび割れを検知するひび割れ検知センサであって、
表面保護層と、ガラス球を封入した少なくとも1層の保持層と、焦点形成層と、鏡面反射層とを含む検知シート
を備え、
前記検知シートは、前記表面保護層と反対側が前記セメント・コンクリート硬化体の表面に貼り付けられる
ことを特徴とするひび割れ検知センサ。
【請求項2】
ガラス球が、直径10〜150μmである
ことを特徴とする請求項1記載のひび割れ検知センサ。
【請求項3】
鏡面反射層が、金属蒸着により形成される層である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のひび割れ検知センサ。
【請求項4】
ひび割れ幅が0.1mm以上のときに前記検知シートのひび割れに沿った位置の色が変化する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のひび割れ検知センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のひび割れ検知センサを用いたセメント・コンクリート硬化体のひび割れモニタリング方法であって、
前記セメント・コンクリート硬化体の表面に発生したひび割れを跨ぐように、前記検知シートを接着剤で貼り付けられ、前記検知シートの反射光の変化によりひび割れの変化を検出する
ことを特徴とするひび割れモニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント・コンクリート硬化体で構成された構造体に発生するひび割れなど
を監視するひび割れ検知センサおよびひび割れモニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築構造物などに使用されるセメント・コンクリートには、材料自身の体積変化や、日射などの環境条件、供用時の外力などによって、ひび割れ、亀裂、凹凸といった変化が生じる。これらの変化は、セメント・コンクリート構造体の維持管理における重要なサインとなる。特にひび割れや亀裂は、ある限界を超えて成長すると、雨水、塩化物イオン、および二酸化炭素などが構造物内部の鉄筋を腐食させる要因となることから、その変化を適切に捉えることが重要である。これらの変化を適切に把握することで、その原因の診断や、適切な対処法を施すことができ、セメント・コンクリート構造体の高耐久化が可能となる。セメント・コンクリート構造体のひび割れなど変状の評価・管理は、例えば、作業員が検査対象箇所まで移動して、直接目視観察する方法がとられている。発見したひび割れや亀裂の成長の程度は、クラックゲージやひずみゲージあるいはパイ型変位計などをひび割れ部分に挟んで設置して、これらセンサや計器で検出されるひび割れ幅の値を定期的に記録し、管理する。
【0003】
多くの場合、これらの作業を容易に行うことは困難である。例えば、橋梁の橋脚や床版下面などでは、検査対象部分に接近できるように足場を構築する必要がある。また、トンネルの天端などの点検・調査では高所作業車を用いる。さらに、交通遮断の制限などがある場合には、夜間調査となることが多いことから、ひび割れなどの変状を見逃す場合があることが課題となっている。暗所でのひび割れの目視調査は極めて難しく、熟練した技量を要する煩雑な作業が要求される。ひび割れがある程度正確に把握できていないと、本来の原因と異なる解釈をし、適切な判断や対処法を施せない場合がある。
【0004】
最近では、IT技術の進歩により、CCDビデオカメラによりコンクリート表面を撮影し画像処理によりひび割れを測定する手法や、コンクリート表面にレーザー光を照射し反射光を検出してひび割れを認識する手法なども開発されている。また、測定機器等が車載式とされることで、一度に広範囲の情報を得ることができる。これら手法は、高価な測定機器の使用に加えて、複雑な処理をするため、現場の作業員が簡単に操作できない。
【0005】
コンクリート構造体を適切に予防保全するために、コンクリートのひび割れを対象とする容易なモニタリング技術が求められている。特に、コンクリート構造体に発生したひび割れをモニタリングして、剥落等の重大な事故に発展するか否かを判断できるデータを収集するために使う簡便で精度の高い検知方法が求められている。
【0006】
特許文献1には、コンクリートのひび割れセンサとして、トンネル内の壁面に発生した複数のひび割れを順次に跨ぐようにして光ファイバを貼り付け、ひび割れの拡大に伴って発生する光ファイバの歪みに応じて光ファイバの端部に表れる信号を受信し演算処理して、ひび割れの進行状況を感知するようにした遠隔監視システムが開示されている。遠隔監視システムでは、光ファイバの始端部にたとえば光ファイバ損失分布測定器や歪み分布測定器などを接続して、光ファイバ内の任意の位置における歪みを測定し、予め対応づけておいた歪み変化量とひび割れ幅変化量の関係を使って、ひび割れの成長量を推定する。遠隔監視システムは、コンクリートのひび割れの成長を監視するために、光ファイバをひび割れ部分に装着する精密な現場工事と施工後の光ファイバの姿勢保持を必要とし、また、高度な計測器を必要とする。さらに、観察期間中に新しくひび割れが発現した場合などには、新しいひび割れを監視対象に含ませるためのセンサ再施工が容易でないなどの課題が残る。
【0007】
特許文献2には、黒鉛粉末と炭素繊維等の短繊維を分散させた棒状のセメント硬化体を検知対象のコンクリートに埋め込んで、セメント硬化体の端部間の抵抗値を測定することにより検知対象のコンクリートのひび割れ状態を推定するセンサが開示されている。セメント硬化体の両端間抵抗値を計測する方法は、常時あるいは適宜モニタすることができるが、予めセメント硬化体を埋め込んだ部分におけるひび割れ状態しか検知しない。また、ひび割れによりセメント硬化体が切断された後は測定信号が得られないので、ひび割れの成長を検知しようとする場合には適用できない。
【0008】
特許文献3には、コンクリート構造体の表面に貼り付けるとコンクリートひび割れの拡大に追従して伸びるゴム板上に複数の金属板を配列したもので、検知したいひび割れの幅に応じて金属板をオーバーラップさせて配置したセンサが開示されている。コンクリートのひび割れが金属板のオーバーラップ幅より大きくなると金属板を通る検出用電気回路が切断されるので、所定幅以上に成長したひび割れを検知することができる。ただし、センサは、監視対象のひび割れが所定幅以上に発達したときに報知するが、その幅に達する前には特別な信号を提供しないので、途中の状況を把握することが難しい。
【0009】
特許文献4には、繊維含有プラスチックの板をコンクリート表面に貼り付け、コンクリートのひび割れが成長して繊維含有プラスチックに引張り応力が働くと繊維含有プラスチックが白化して、コンクリートのひび割れ状態を視認できるひび割れセンサが開示されている。このセンサは、1mm以上のひび割れの拡大があるときに有効だが、ひび割れが小さいものを検出することは難しい。
【0010】
特許文献5には、検出対象物に短時間で簡単に貼り付けることができ亀裂の発生を正確に検出することができる亀裂検出テープおよび亀裂検出システムが開示されている。このテープは、検出対象物に亀裂が発生したときに通電状態が変化する導電層と、前記導電層の表面を被覆してこの導電層を電気的に絶縁する表面絶縁層と、前記導電層の裏面を被覆してこの導電層を電気的に絶縁する裏面絶縁層と、前記裏面絶縁層を前記検出対象物に接着する粘着材層と、を備える亀裂検出テープであって、通電させる工程が必要となり、簡便な方法とはいい難い。
【0011】
特許文献6には、被検知部材の歪を検知する歪センサにおいて、被検知部材と、被検知部材に塗料を塗装した塗膜部分とを有し、塗膜部分は被検知部材が所定の値より大きい歪を受けるとひび割れ部分を生じる。これにより、簡便で安価に歪検知ができ、部材の健全性や地震後等の部材の損傷度を簡単に確認することができることが記載されている。このセンサは、塗料の塗膜厚によってセンサの感度が低下することから、熟練した施術が必要となり、簡便な方法とはいい難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−066117号公報
【特許文献2】特開平10−238139号公報
【特許文献3】特開2005−043220号公報
【特許文献4】特許第5570943号公報
【特許文献5】特開2005−91167号公報
【特許文献6】特開2007−33050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
コンクリートのひび割れは、従来の方法により検出して監視することができる。しかし、日常点検など作業員による目視観察では、ひび割れを経時的に観察するためたびたび高所作業車などを使ってひび割れ近傍に直接行かなくてはならず、測定の負担が大きい。また、パイ型変位計などの計測機器類を設置してひび割れ幅を電気計測する方法では、ひび割れ毎に比較的高価なセンサを設置するため測定費用が膨大なものになる上、機材の搬入や電源の確保などの空間的な制約を受ける。さらに、CCDカメラなどで取得した画像を画像処理してひび割れおよびひび割れ幅を算定する方法では、高価な測定機器を使用して専門家による解析診断が必要となり、普及への制約となっている。
このため、簡易な構成によるひび割れ検知センサやひび割れモニタリング方法に対する要望が高い。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本発明は、(1)セメント・コンクリート硬化体のひび割れを検知するひび割れ検知センサであって、表面保護層と、ガラス球を封入した少なくとも1層の保持層と、焦点形成層と、鏡面反射層とを含む検知シートを備え、検知シートは、表面保護層と反対側がセメント・コンクリート硬化体の表面に貼り付けられることを特徴とするものである。
また、本発明は、(2)ガラス球が、直径10〜150μmである(1)のひび割れ検知センサである。
また、本発明は、(3)鏡面反射層が、金属蒸着により形成される層である(1)または(2)のひび割れ検知センサである。
また、本発明は、(4)ひび割れ幅が0.1mm以上のときに検知シートのひび割れに沿った位置の色が変化する(1)〜(3)のいずれかのひび割れ検知センサである。
また、本発明は、(5)(1)〜(4)のいずれかの検知センサを用いたセメント・コンクリート硬化体のひび割れモニタリング方法であって、セメント・コンクリート硬化体の表面に発生したひび割れを跨ぐように、検知シートを接着剤で貼り付けられ、検知シートの反射光の変化によりひび割れの変化を検出するモニタリング方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明のひび割れ検知センサおよびひび割れモニタリング方法に依れば、熟練技術を要することなく、セメント・コンクリート硬化体の表面に検知シートを貼り付けることで、ひび割れの変動を検出することができるなどの効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1はひび割れ検知センサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明のひび割れ検知センサを示す図である。図1に示すようにひび割れ検知センサ1は検知シートSを備え、図1では、検知シートSがセメント・コンクリート硬化体の表面に接着剤Aで貼り付けられた様子を示す。
【0019】
検知シートSは、表面保護層7、ガラス球5およびガラス球5を保持する1層以上の保持層6、焦点形成層4、および鏡面反射層3を有している。この検知シートSは、表面保護層7が空気側になり、表面保護層7と反対側がセメント・コンクリート硬化体の表面に接着剤Aにより貼り付けられている。
【0020】
ガラス球を保持する保持層6が、セメント・コンクリート硬化体Cのひび割れcrが発生することによって伸び、ガラス球5間の間隔が広がるか、ガラス球5を保持する保持層6自体が切れることで、その背面にある鏡面反射層3または被検知部材が現れ、発生したひび割れcrに沿って変色し、ひび割れcrの存在が目視によって容易に観察できる。すなわち、ひび割れcrに沿った部分の検知シートSの内部の反射構造が部分的に壊されて反射できなくなり、反射構造が壊されていない健全部との光反射の差により、ひび割れcrに沿った部分の検知シートS表面が強調され、ひび割れcrの存在が容易に目視で観察できる。
【0021】
本発明において、検知シートをセメント・コンクリート硬化体Cに貼り付ける場合、予めセメント・コンクリート硬化体Cの表面に接着剤Aを塗布して貼り付ける。接着剤Aの種類としては、特に限定するものではないが、一般に市販されているシアノアクリレート系接着剤、エポキシ系接着剤、エステル系接着剤、アクリル系接着剤、シリコーン系接着剤などが使用できる。これらの中では、シアノアクリレート系接着剤が好ましい。
【0022】
本発明において、検知シートSに接着剤層を設けることができる。接着剤を設けた検知シートSをセメント・コンクリート硬化体Cの表面に貼り付ける場合は、前述した接着剤を用いることができる。接着剤の種類としては特に限定するものではなく、たとえば市販されているアクリレート系の接着剤等が使用できる。
【0023】
本発明に使用する検知シートSの表面保護層7は、全光線透過率60%以上の透明性を有するものが望ましく、検知シートSの表面を保護するための層であって、通常、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂等の樹脂を単独で、あるいは組み合わせて使用して形成される。耐候性、加工性の点からアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂が好ましく、塗工適性や着色する際の着色剤の分散性等を考慮するとアクリル樹脂が特に好ましい。表面保護層7には、透明性を著しく損なわない範囲で、紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、架橋剤等の様々な添加剤を添加することができる。また、表面保護層7として、透明保護フィルムや透明板を利用することもできる。
【0024】
本発明に使用する検知シートのガラス球5を保持する保持層6は、通常、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂、ポリカーボネート等の樹脂を単独で、あるいは組み合わせて使用して形成される。耐候性、加工性の点からアクリル樹脂、ポリエステル、塩化ビニル樹脂が好ましく、塗工適性や着色する際の着色剤の分散性等を考慮するとアクリル樹脂が特に好ましい。なお、保持層6を形成する樹脂の分子量は、特に制限されるものではない。保持層6の厚みは、20〜40μmが好ましい。
また、ガラス球5は、直径10〜150μmであることが好ましく、70〜100μmであることがより好ましく、80〜90μmであることが最も好ましい。ガラス球5を封入したシートは、よく知られており、その反射性を利用して、道路標識、工事標識等の標識類、自動車やオートバイ等の車両のナンバープレート類、衣料、救命具等の安全資材類、看板等のマーキング、各種の認証ステッカー類、可視光、レーザー光あるいは赤外光反射型センサ類の反射板等に広く利用されている。いずれも帰ってくる反射光を認知するものである。
【0025】
本発明に使用する検知シートSの鏡面反射層3は、金属蒸着により形成され、アルミニウム、銀、クロム、ニッケル、マグネシウム、金、スズ等の金属を蒸着して形成することができる。鏡面反射層3の厚みは、0.03μm〜0.30μmが好ましく、0.05μm〜0.20μmがさらに好ましく、0.06〜0.15μmが特に好ましいが、限定されるものではない。
【0026】
本発明に使用する検知シートSの焦点形成層4は、鏡面反射層3を微小ガラス球の焦点位置に配置するための層であって、通常、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル、ウレタン樹脂、ポリカーボネート、ブチラール樹脂等の樹脂を単独で、あるいは組み合わせて使用して形成されるが、耐候性、塗工適性、熱安定性の点からアクリル樹脂、ブチラール樹脂が好ましく、アクリル樹脂が最も好ましい。焦点形成層4には、透明性を著しく損なわない範囲で着色剤や紫外線吸収剤、安定剤、可塑剤、架橋剤等の様々な添加剤を添加することができる。
焦点形成層4の厚みは、入射した光線が鏡面反射層3上に焦点を結ぶように樹脂の屈折率等を勘案して決定されるが、10〜60μmが好ましく、15〜50μmがさらに好ましく、20〜40μmが特に好ましいが、特に限定されるものではない。
【0027】
本発明の検知シートSの伸度は、10〜60%が好ましく、15〜50%が好ましい。10%未満であると、貼り付け時にシートが割れたり、ひび割れcrが発生した時点でシートが完全に破断したりする可能性があり、60%を越えるとひび割れが発生したときの検知感度が鈍くなる可能性がある。
【0028】
本発明のひび割れ検知センサ1は、検知シートSを被検知部材の表面に既に発生したひび割れcrを跨ぐように貼付しておくと、その後、ひび割れcrの幅が拡大したときに拡大量に応じてひび割れcrに沿った部分の検知シートSの反射構造が壊されて反射できなくなり、ひび割れcrの拡大箇所の存在が、前記と同様に容易に目視で観察できるのである。さらに、ひび割れcrが閉じた場合においても、既にひび割れcrに沿った部分の検知シートSの反射構造が壊されているため、その履歴が残ることから、ひび割れcrが発生した部位を目視検知できる。
【0029】
本発明のひび割れ検知センサ1は、検知シートSを用いることで、被検知部材の近傍ではなく、離れた位置からも容易に目視観察できる。さらに、暗がりにおいても、ひび割れcrに沿った部分の検知シートSの反射構造が壊されていることから、一般に市販されている懐中電灯などで検知シートSを照らしたり、デジタルカメラでフラッシュを使って撮影された画像を確認したりすることで、容易にひび割れcrの有無を判断することができる。すなわち、日々の点検などにおいて、通常の作業員が簡単に的確なひび割れcrの監視を実施することができる。
【0030】
本発明のひび割れ検知センサ1は、検知シートSの製造コストが比較的安く、貼付は接着剤Aで簡単に被検知部材に接着することができ、足場や高所作業車など特殊な施設を無くすることができ、また離れたところからも双眼鏡などを用いて測定することができるため、普通の作業員による定期的な巡回監視などによって計測を行うことができる。
【0031】
本発明のひび割れcrの拡大を検出する検知方法は、本発明の検知シートSを表面保護層7が空気層側になるようにして、表面保護層7と反対側をセメント・コンクリート硬化体Cの表面に貼り付けて、ガラス球5を保持する保持層6がひび割れcrの発生によって伸び、ガラス球5間の間隔が広がるか、ガラス球5の保持層6自体が切れることで、その背面にある鏡面反射層3が現れることで、発生したひび割れcrに沿って変色し、ひび割れcrの存在が目視によって容易に観察できるものである。
すなわち、ひび割れcrに沿った部分の検知シートS表面の反射構造が壊されて反射できなくなり、健全部との反射の差により、ひび割れcrに沿った部分の検知シートSの表面が強調され、ひび割れcrの存在が容易に目視で観察できるのである。言い換えると、ひび割れcrは反射しない部分に存在し、ひび割れcrのない部分は反射することから、反射しないひび割れ部分をより強調することを特徴としている。
【0032】
また、本発明は、セメント・コンクリート硬化体表面の目地部を跨ぐように本発明のひび割れ検知センサ1の検知シートSを貼付し、目地部に沿った位置の検知シートSの色の濃さの変化により目地部の拡大を検出することができる。
さらに、本発明は、隣接する異なるセメント・コンクリート硬化体Cの間の表面に、本発明のひび割れ検知センサ1の検知シートSを跨ぐように貼付し、検知シートSの色の濃さの変化によりセメント・コンクリート硬化体Cの間のずれを検出することができる。
さらに、本発明は、上記ひび割れ検知センサ1を用いたセメント・コンクリート硬化体Cの変化を捉えるモニタリング方法として使用できる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を、実験例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0034】
「実験例1」
呼び名が24−12−20Nの普通コンクリートを用いて、JIS A1106の曲げ強度試験を実施した。なお、スパン中央の引張縁には,曲げひび割れを誘発させるために高さが約5mmの切欠きを設けた。検知シートは、市販のシアノアクリレートを主成分とする接着剤を用いて、コンクリート供試体の側面に貼り付けた。
【0035】
本発明の実験例で用いた検知シートは、以下の手順で作製した。
帝人社製の厚さ75μmの透明なポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名、帝人テトロンフィルムS−75)を用い、その上に、恩希愛薄膜有限公司製のアクリル樹脂溶液(商品名、RS−1200)を100質量部に、三和ケミカル社製のメチル化メラミン樹脂溶液(商品名、ニカラックMS−11)を14質量部に、株式会社トクシキ製のセルロース誘導体(商品名、CAB)4質量部に、シプロ化成社製紫外線吸収剤(商品名、シーソーブ103)を0.5質量部に、ビックケミー・ジャパン社製のレべリング剤(商品名、BYK−300)を0.04質量部に、大日本インキ化学工業社製の触媒(商品名、ベッカミンP−198)を0.12質量部に、溶剤としてMIBK/トルエン=8/2の比になるように16.7質量部を加えて、攪拌混合したものを塗布して厚さ36μmの表面保護層を形成した。
表面保護層上に、恩希愛薄膜有限公司製のアクリル樹脂(商品名RS−3000)を100質量部に、住友バイエルウレタン社製のイソシアネート系架橋剤(商品名、スミジュールN−75)を12質量部に、溶剤としてトルエンを21質量部に、MIBKを9質量部混合攪拌したものを表面保護層上に塗布し、80℃で5分間乾燥し、厚み27μmで透過率95%の光入射側の保持層を得た。
焦点形成層側の保持層に恩希愛薄膜有限公司製のガラス球(商品名、NB−45S)を付着させ、145℃で3分30秒熱処理をして、ガラス球を保持層中に沈めた。保持層およびガラス球の上に、恩希愛薄膜有限公司製のアクリル樹脂溶液(商品名、RS−5000)を100質量部に、三和ケミカル社製のメチル化メラミン樹脂溶液(商品名、ニカラックMS−11)を5.5質量部に、溶剤として、MIBK/トルエン=4/6の比率で39.3質量部加えて攪拌混合したものを塗布乾燥して、平均厚みが23μmの焦点形成層を形成した。焦点形成層の上から、アルミニウムを真空蒸着させ、平均厚みが0.1μmの鏡面反射層を形成し、検知シートを得た。検知シートの伸びは、短冊状の試験片(幅25mm×長さ150mm)を引張試験機にて引張速度300mm/分の条件で測定した結果、32%であった。
【0036】
(使用材料)
シアノアクリレート系接着剤:1液常温硬化型 東京測器社製 商品名:CN
【0037】
表1は、ひび割れ幅と、被検知部材から5m離れた位置から、目視で検知シートを観察した結果である。
なお、観察は昼間の屋内において実施した。また、本発明の実施例の検知シートは、ガラス球の直径を10〜150μm(実験No.1−1、検知センサA)、70〜100μm(実験No.1−2、検知センサB)、80〜90μm(実験No.1−3、検知センサC)とした。
比較例(実験No.1−4、検知センサD)は、市販のひび割れ検知センサで繊維含有プラスチックプレートの白化現象を利用したもの、比較例(実験No.1−5、検知センサE)は通常のガラス球を封入していない反射シート、比較例(実験No.1−6、検知センサなし)はシートを添付していない場合である。
評価は3段階とし、「○」は容易に目視可能、「△」はシートの変状は認められるが判断が難しく熟練が必要な場合、「×」は目視不可である。
表1より、本発明品は、0.1mmのひび割れから、5m離れた場所からも容易に肉眼で目視観察できることが分かる。
【0038】
【表1】
【0039】
「実験例2」
実験例1と同様の試験において、試験体を暗室において20mの位置から目視観察した。なお、市販のLEDライトを用いて観察者の位置から光を照射してひび割れの視認性を実験例1と同様に比較した。
【0040】
表2は、ひび割れ幅と、被検知部材から20m離れた位置から、目視で検知シートを観察した結果である。表2より、暗闇であっても、市販のLEDライトを照射することによって、本発明品は、0.1mmのひび割れから、20m離れた場所からも容易に肉眼で目視観察できる。
なお、正対位置ではなく、45℃の斜めからも、表2と同様の結果を得た。夜間調査などへの有効活用が期待できる。
【0041】
【表2】
【0042】
「実験例3」
ガラス球の直径を10〜150μmとして、鏡面反射層と焦点形成層の有無を変えて、5mおよび10mの位置から目視観察した以外は実験例1と同様である。表3に実験結果を示す。
5mの位置から目視観察した場合には、いずれも0.1mmの開きを確認できる。一方、10m位置からでは、見えづらい結果となったが、市販のLEDライトの照射を併用することで、実験例2と同様に目視で確認できる。また、双眼鏡や望遠鏡などの併用することによって、さらに遠方からでも視認することができる。
【0043】
【表3】
【0044】
「実験例4」
実験例2と同様の試験において、接着剤の種類を変えて、試験体を暗室において20mの位置から目視観察した。なお、市販のLEDライトを用いて、ひび割れの視認性を実験例1と同様に比較した。表4に実験結果を示す。
接着剤の種類による差異にあるものの、比較品やシートなしでは視認ができなかったひび割れが、本発明品を用いることで、暗がりにおいても20m離れた位置から視認できる。
【0045】
(使用材料)
エポキシ系接着剤:2液常温硬化型エポキシ樹脂 コニシ社製 商品名:ボンドE205
エステル系接着剤:2液常温硬化型ポリエステル樹脂 東京測器社製 商品名:RP−2
【0046】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の検知センサおよびそれを用いた検知方法は、熟練技術を要することなく、セメント・コンクリート硬化体表面に検知シートを貼付することで、ひび割れ幅が最小0.1mmの変動を検出することができるので、土木・建築分野で広範に適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 ひび割れ検知センサ
3 鏡面反射層
4 焦点形成層
5 ガラス球
6 保持層
7 表面保護層
A 接着剤
C セメント・コンクリート硬化体
S 検知シート
cr ひび割れ
図1