【解決手段】アクチュエータ15への指令信号Cに対する荷重振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得して、荷重振動が安定する前の過渡状態において、ロードセル16によって計測した荷重値信号Lの平均値がその期待値の範囲に含まれるとき、直前の指令信号からの振幅値の増加量が、直前の指令信号からの平均値の変化量の2倍超となるように指令信号Cを生成し、かつ、荷重値信号Lの平均値がその期待値の範囲に含まれないとき、直前の指令信号からの振幅値の増加量が、直前の指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように指令信号Cを生成する。
被試験体に対して指令信号に示される振幅値及び平均値に応じた振動を与える振動手段と、前記被試験体に加えられた荷重値を計測する荷重値計測手段と、前記荷重値計測手段によって計測された前記荷重値に示される荷重振動の振幅値及び平均値を取得する荷重振動取得手段と、前記荷重振動の振幅値及び平均値が所定の目標振幅値及び目標平均値に近づくように、前記荷重振動の振幅値及び平均値をフィードバックして前記指令信号を生成する指令信号生成手段と、を有する振動試験装置において、
前記指令信号に対する前記荷重振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得する期待値範囲取得手段をさらに有し、
前記指令信号生成手段が、前記荷重振動が安定する前の過渡状態において、前記荷重振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれるとき、直前の前記指令信号に対して荷重振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して前記指令信号を生成し、かつ、前記荷重振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が、直前の前記指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように前記指令信号を生成する構成とされている
ことを特徴とする振動試験装置。
前記指令信号生成手段が、前記荷重振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が0となるように前記指令信号を生成する構成とされていることを特徴とする請求項1に記載の振動試験装置。
被試験体に対して指令信号に示される振幅値及び平均値に応じた振動を与える振動手段と、前記被試験体の変位値を計測する変位値計測手段と、前記変位値計測手段によって計測された前記変位値に示される変位振動の振幅値及び平均値を取得する変位振動取得手段と、前記変位振動の振幅値及び平均値が所定の目標振幅値及び目標平均値に近づくように、前記変位振動の振幅値及び平均値をフィードバックして前記指令信号を生成する指令信号生成手段と、を有する振動試験装置において、
前記指令信号に対する前記変位振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得する期待値範囲取得手段をさらに有し、
前記指令信号生成手段が、前記変位振動が安定する前の過渡状態において、前記変位振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれるとき、直前の前記指令信号に対して変位振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して前記指令信号を生成し、かつ、前記変位振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が、直前の前記指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように前記指令信号を生成する構成とされている
ことを特徴とする振動試験装置。
前記指令信号生成手段が、前記変位振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が0となるように前記指令信号を生成する構成とされていることを特徴とする請求項3に記載の振動試験装置。
【背景技術】
【0002】
このような振動試験装置は、被試験体に所望の荷重振動又は変位振動を与えるアクチュエータを備えている。振動試験装置は、被試験体に与える荷重振動又は変位振動の目標振幅値、目標平均値および周波数を設定して、計測した荷重振動の振幅値及び平均値又は計測した変位振動の振幅値及び平均値が、設定した目標振幅値及び目標平均値に追従するように、アクチュエータに対してフィードバック制御を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
振動試験装置の一例として、
図8に示す振動試験装置801は、フレーム811、アクチュエータ815及びロードセル816を備えた加振部810と、この加振部810を制御する振動制御部820と、を有している。
【0004】
アクチュエータ815は、シリンダ815a及びピストン815bを有しており、振動制御部820からの指令信号に基づいてピストン815bを往復移動させる。アクチュエータ815のピストン815bとロードセル816との間に被試験体TPが配置される。ロードセル816は、ピストン815bの往復移動によって被試験体TPに加えられた荷重値を計測して、計測した荷重値に応じた信号を振動制御部820に出力する。
【0005】
振動制御部820は、被試験体TPに与える荷重振動の目標振幅値At、目標平均値Mt及び周波数f等が設定されている。振動制御部820は、ロードセル816によって計測された荷重値によって示される荷重振動の振幅値A及び平均値Mが、目標振幅値At及び目標平均値Mtに近づくようにこれら振幅値A、平均値M、目標振幅値At、目標平均値Mt及び周波数fを用いて、アクチュエータ815の動作を制御する上記指令信号を生成する。
【0006】
例えば、振動制御部820は、振幅値Aから目標振幅値Atを差し引いた値に所定のゲインGaを乗じた値を、直前の指令信号C’の振幅値Ac’から差し引いて、新たな指令信号Cの振幅値Acとして算出する。また、振動制御部820は、平均値Mから目標平均値Mtを差し引いた値に所定のゲインGmを乗じた値を、直前の指令信号C’の平均値Mc’から差し引いて、新たな指令信号Cの平均値Mcとして算出する。そして、振動制御部820は、これら振幅値Ac、平均値Mc及び周波数fとなる指令信号Cを生成する。振幅値Ac、平均値Mc及び指令信号Cを算出する式の一例を(1)〜(3)式に示す。
Ac=Ac’−(A−At)×Ga・・・(1)
Mc=Mc’−(M−Mt)×Gm・・・(2)
C=(Ac/2)sin(2πft)+Mc・・・(3)
【0007】
このような試験においては、荷重振動の振幅値および平均値を同時に大きく変化させると、試験開始時における荷重振動の過渡状態において振動が不安定になるおそれがあるので、例えば、先に荷重振動の振幅値を目標振幅値に近づけ、それに遅れて荷重振動の平均値を目標平均値に近づけるように制御している。そのため、荷重振動の振幅値におけるその中央値を挟んだ片側の増加量が、荷重振動の平均値の変化量より大きくなるように各ゲイン等が設定されている。換言すると、荷重振動の振幅値の増加量が、荷重振動の平均値の変化量より2倍を超えて大きくなるように設定されている。
【0008】
図9に、振動試験装置801を用いて、柱状ゴムからなる弾性部材で構成された被試験体TPに荷重振動を加えたときの試験開始時の荷重振動の変化の様子の一例を示す。
【0009】
図9に示すように、荷重振動は、試験開始初期の過渡状態において、目標振幅値Atに向けて徐々に振幅値Aが大きくなるとともに、目標平均値Mtに向けて徐々に平均値Mが変化(減少)していく。そして、時刻T1において先に振幅値Aが目標振幅値Atに到達し、そのあと、時刻T2において平均値Mが目標平均値Mtに到達して、振幅値A及び平均値Mが安定した定常状態となり、以降、被試験体TPに、この荷重振動を加えた状態が継続される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
被試験体TPとして、
図10(a)に示すように、柱状ゴムからなる弾性部材81で構成された被試験体80がある。この被試験体80は、伸長方向及び圧縮方向の剛性が均等となる特性を有する。上述した振動試験装置801において、このような被試験体80に対し荷重振動を加えると、
図11に示すように、試験開始後は目標振幅値Atに向かって徐々に荷重の振幅値Aが大きくなっていく。
【0012】
一方、
図10(b)に示すように、柱状ゴムからなる弾性部材81と、弾性部材81より硬質でかつ長さの短い金属などからなる支持部材82と、を組み合わせて構成された複合的な被試験体90がある。支持部材82は、例えば、棒状のステンレスからなる本体部82aと、本体部82aの先端に貼り付けられたゴム製のシートからなる緩衝部82bと、を有している。この被試験体90は、変形量が所定値以下の範囲では伸長方向及び圧縮方向に剛性が均等で、かつ、変形量が所定値を超えると伸長方向の剛性に対して圧縮方向の剛性が急激に高くなる特性を有している。
【0013】
そして、振動試験装置801において、上記被試験体80と同様に、被試験体90に対し荷重振動を加えると、
図12に示すように、試験開始直後は目標振幅値Atに向かって徐々に荷重の振幅値Aが大きくなるが、被試験体90の変形量が所定値を超えた時点の期間P1において、アクチュエータ815のピストン815bが被試験体90の支持部材82に当たって圧縮方向の変位が抑制される。このとき、アクチュエータ815は指令信号に応じた動作(変位)を行おうとするため圧縮方向の荷重が急激に大きくなり、荷重振動の振幅に偏りが生じる。しかし、この期間P1では荷重の振幅値A1が目標振幅値Atに満たないため、その次の期間P2でさらに振幅値Aを大きくするために、アクチュエータ815のピストン815bをより大きく変位させる指令信号が生成される。そして、この指令信号を受けてアクチュエータ815が動作すると、期間P2において圧縮方向の荷重がさらに大きくなり、荷重振動の振幅により大きな偏りが生じて、これにより、荷重の振幅値A2が目標振幅値Atを大きく超え、振動試験装置の安全機構が働いて当該振動試験装置が停止してしまうという問題があった。上記構成は荷重振動をフィードバックするものであったが、ピストン815bの変位振動(即ち、被試験体の変位振動)をフィードバックする構成においても同様の問題があった。
【0014】
そこで、本発明は、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体に対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りを抑制することができる振動試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載された発明は、上記目的を達成するために、被試験体に対して指令信号に示される振幅値及び平均値に応じた振動を与える振動手段と、前記被試験体に加えられた荷重値を計測する荷重値計測手段と、前記荷重値計測手段によって計測された前記荷重値に示される荷重振動の振幅値及び平均値を取得する荷重振動取得手段と、前記荷重振動の振幅値及び平均値が所定の目標振幅値及び目標平均値に近づくように、前記荷重振動の振幅値及び平均値をフィードバックして前記指令信号を生成する指令信号生成手段と、を有する振動試験装置において、前記指令信号に対する前記荷重振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得する期待値範囲取得手段をさらに有し、前記指令信号生成手段が、前記荷重振動が安定する前の過渡状態において、前記荷重振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれるとき、直前の前記指令信号に対して荷重振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して前記指令信号を生成し、かつ、前記荷重振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が、直前の前記指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように前記指令信号を生成する構成とされていることを特徴とする振動試験装置である。
【0016】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、前記指令信号生成
手段が、前記荷重振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信
号からの振幅値の増加量が0となるように前記指令信号を生成する構成とされていること
を特徴とするものである。
【0017】
請求項3に記載された発明は、上記目的を達成するために、被試験体に対して指令信号に示される振幅値及び平均値に応じた振動を与える振動手段と、前記被試験体の変位値を計測する変位値計測手段と、前記変位値計測手段によって計測された前記変位値に示される変位振動の振幅値及び平均値を取得する変位振動取得手段と、前記変位振動の振幅値及び平均値が所定の目標振幅値及び目標平均値に近づくように、前記変位振動の振幅値及び平均値をフィードバックして前記指令信号を生成する指令信号生成手段と、を有する振動試験装置において、前記指令信号に対する前記変位振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得する期待値範囲取得手段をさらに有し、前記指令信号生成手段が、前記変位振動が安定する前の過渡状態において、前記変位振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれるとき、直前の前記指令信号に対して変位振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して前記指令信号を生成し、かつ、前記変位振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が、直前の前記指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように前記指令信号を生成する構成とされていることを特徴とする振動試験装置である。
【0018】
請求項4に記載された発明は、請求項3に記載された発明において、前記指令信号生成手段が、前記変位振動の平均値が前記期待値の範囲に含まれないとき、直前の前記指令信号からの振幅値の増加量が0となるように前記指令信号を生成する構成とされていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載された発明によれば、被試験体に加えられた荷重値を計測し、この荷重値に示される荷重振動の振幅値及び平均値を取得して、これら荷重振動の振幅値及び平均値が目標振幅値及び目標平均値に近づくように、これら荷重振動の振幅値及び平均値をフィードバックして振動手段への指令信号を生成する。そして、指令信号に対する荷重振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得して、荷重振動が安定する前の過渡状態において、荷重振動の平均値がその期待値の範囲に含まれるとき、直前の指令信号に対して荷重振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して指令信号を生成し、かつ、荷重振動の平均値がその期待値の範囲に含まれないとき、直前の指令信号からの振幅値の増加量が、直前の指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように前記指令信号を生成する。
【0020】
荷重振動が安定する前の過渡状態において、荷重振動の平均値がその期待値の範囲から外れたときは、被試験体の剛性の変化により荷重振動の振幅値が片側に大きく振れて偏りが生じたものと考えられる。このようなときに、新たに生成する指令信号において、直前の指令信号からの振幅値の増加量を、直前の指令信号に対して荷重振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して指令信号を生成することで、指令信号全体を、当該指令信号の振幅値におけるその中央値を挟んだ片側の増加量より大きくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への荷重振動の振幅値の増加を抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体に対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りを抑制することができる。
【0021】
請求項2に記載された発明によれば、荷重振動の平均値がその期待値の範囲に含まれないとき、直前の指令信号からの振幅値の増加量が0となるように指令信号を生成する。そのため、指令信号全体を、当該指令信号の振幅値を増加することなくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への荷重振動の振幅値の増加をより確実に抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体に対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りをより確実に抑制することができる。
【0022】
請求項3に記載された発明によれば、被試験体の変位値を計測し、この変位値に示される変位振動の振幅値及び平均値を取得して、これら変位振動の振幅値及び平均値が目標振幅値及び目標平均値に近づくように、これら変位振動の振幅値及び平均値をフィードバックして振動手段への指令信号を生成する。そして、指令信号に対する変位振動の平均値が取りうる期待値の範囲を取得して、変位振動が安定する前の過渡状態において、変位振動の平均値がその期待値の範囲に含まれるとき、直前の指令信号に対して変位振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して指令信号を生成し、かつ、変位振動の平均値がその期待値の範囲に含まれないとき、直前の指令信号からの振幅値の増加量が、直前の指令信号からの平均値の変化量の2倍以下となるように指令信号を生成する。
【0023】
変位振動が安定する前の過渡状態において、変位振動の平均値がその期待値の範囲から外れたときは、被試験体の剛性の変化により変位振動の振幅値が片側に大きく振れて偏りが生じたものと考えられる。このようなときに、新たに生成する指令信号において、直前の指令信号に対して変位振動の振幅値及び平均値が所定の目標値に近づくようにフィードバック制御して指令信号を生成することで、指令信号全体を、当該指令信号の振幅値におけるその中央値を挟んだ片側の増加量より大きくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への変位振動の振幅値の増加を抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体に対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りを抑制することができる。
【0024】
請求項4に記載された発明によれば、変位振動の平均値がその期待値の範囲に含まれないとき、直前の指令信号からの振幅値の増加量が0となるように指令信号を生成する。そのため、指令信号全体を、当該指令信号の振幅値を増加することなくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への変位振動の振幅値の増加をより確実に抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体に対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りをより確実に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の一実施形態の振動試験装置を、
図1〜
図6を参照して説明する。
【0027】
以下に説明する振動試験装置は、例えば、金属やゴムなどの材料で構成された部品等の被試験体に対して圧縮や引っ張りなどの荷重を繰り返し加えることにより当該被試験体の耐久性を評価する試験などに用いられる。本実施形態の振動試験装置は、特に、被試験体に加えられる荷重の変動幅(即ち、荷重振動の振幅値)及びその中央値(即ち、荷重振動の平均値)が一定になるように当該被試験体に荷重振動を加えて行う試験に用いられる。
【0028】
図1、
図2に、振動試験装置(各図において符号1で示す)の構成を示す。
図1は、本発明の一実施形態の振動試験装置の概略構成図である。
図2は、
図1の振動試験装置の機能ブロック図である。
【0029】
振動試験装置1は、被試験体に周期的に変化する荷重としての荷重振動を与える加振部10と、この加振部10を制御する振動制御部20と、を有している。
【0030】
加振部10は、フレーム11と、振動手段としてのアクチュエータ15と、荷重値計測手段としてのロードセル16と、変位値計測手段としての位置センサ17と、を有している。
【0031】
フレーム11は、架台12と、クロスヘッド13と、複数の支柱14と、を有している。
【0032】
架台12は、鉄などの金属を用いて質量の大きな平面視略正方形板状に形成されている。架台12は、例えば、エアバネ等を介して工場等の建物のフロアなどに設置されている。クロスヘッド13は、鉄などの金属を用いて質量の大きな直方体形状に形成されている。クロスヘッド13は、架台12の上方に間隔をあけて対向配置されている。複数の支柱14は、架台上面12aとクロスヘッド下面13aとの間に配置されており、架台12とクロスヘッド13とを互いに固定している。
【0033】
アクチュエータ15は、例えば、シリンダ15a及びこのシリンダ15aに収容されたピストン15bを有する油圧アクチュエータ装置等で構成されている。アクチュエータ15は、油圧を用いてシリンダ15aに対しピストン15bを直線状に移動させる。シリンダ15aはピストン15bの先端をクロスヘッド13に向けるようにして、架台上面12aに固定して取り付けられている。アクチュエータ15は、後述する振動制御部20から周期的に変動する指令信号C(振幅値Ac、平均値Mc)が入力されると、当該指令信号Cに応じた振動となるように、ピストン15bを往復移動させる。本実施形態において、アクチュエータ15は、指令信号Cの平均値Mcに示される位置を中心として、指令信号Cの振幅値Acに示される振幅でピストン15bを変位させるように動作する。
【0034】
ロードセル16は、例えば、計量部16aに加えられた荷重値を計測して当該荷重値に応じた荷重値信号Lを出力する荷重計測装置等で構成されている。この荷重値信号Lは、被試験体TPに与えられた荷重振動を表している。ロードセル16は、計量部16aを架台12に向けるようにして、クロスヘッド下面13aに固定して取り付けられている。これにより、ピストン15bの先端とロードセル16の計量部16aとは互いに対向して配置される。
【0035】
位置センサ17は、例えば、アクチュエータ15のピストン15bの位置を計測して当該位置に応じた変位値信号Hを出力するリニアエンコーダ等で構成されている。この変位値信号Hは、被試験体TPの変位振動を表している。位置センサ17は、アクチュエータ15のピストン15bの位置検出が可能なように、シリンダ15aに取り付けられている。
【0036】
アクチュエータ15(具体的にはピストン15b)とロードセル16との間には、被試験体TPが配置される。本実施形態において、アクチュエータ15とロードセル16とのそれぞれには被試験体TPを掴む掴持部が設けられており、被試験体TPの両端を掴むように保持する。このようにすることで、被試験体TPに伸長方向及び圧縮方向の荷重を加えることができる。さらには、ピストン15bをその軸を中心に回転させる機構を設けることで、被試験体TPにねじり荷重を加えることができる。または、アクチュエータ15とロードセル16とは、被試験体TPを互いに押しつけるようにしてそれら間に挟んで保持する構成も考えられる。
【0037】
振動制御部20は、発振器22と、マイクロコンピュータ30(μCOM30)と、メモリ35と、を有している。
【0038】
発振器22は、後述するμCOM30に接続されており、当該μCOM30からの制御信号に応じて、任意の振幅、平均値、周波数及び波形(例えば、正弦波、三角波等)の周期変動信号を指令信号Cとして出力可能に構成されている。
【0039】
μCOM30は、振動制御部20全体の制御を司り、中央演算処理装置(CPU)、CPUのためのプログラム等を格納した読み出し専用のメモリであるROM、及び、各種のデータを格納するとともにCPUの処理作業に必要なエリアを有する読み出し書き込み自在のメモリであるRAM等を有している。ROMには、CPUによって実行される制御プログラムが記憶されており、CPUが当該制御プログラムを実行することで、μCOM30は、荷重振動取得手段、指令信号生成手段及び期待値範囲取得手段等の各種手段として機能する。
【0040】
μCOM30は、図示しない外部インタフェース部を介して、ロードセル16、位置センサ17及び発振器22に接続されている。μCOM30は、外部インタフェース部を通じて発振器22に対して制御信号を出力する。μCOM30は、ロードセル16から出力された荷重値信号L及び位置センサから出力された変位値信号Hが、外部インタフェース部において量子化(アナログ−デジタル変換)されて入力される。また、μCOM30は、メモリ35が接続されている。
【0041】
メモリ35は、電気的消去/書き換え可能な読み出し専用のメモリ(EEPROM)等の不揮発性メモリで構成されており、μCOM30に読み書き可能に接続されている。メモリ35には、例えば、被試験体TPに与える荷重振動の目標振幅値At、目標平均値Mt、周波数f及び波形(正弦波、三角波等)の情報が記憶されている。また、メモリ35には、後述の加振処理で用いられるフィードバック制御のための振幅値ゲインGa及び平均値ゲインGm、並びに、荷重振動の平均値Mの期待値テーブル、などの情報が記憶されている。
【0042】
メモリ35に記憶されている期待値テーブルは、アクチュエータ15に指令信号C(振幅値Ac、平均値Mc)を与えたときの、当該指令信号Cの平均値Mcとロードセル16から出力された荷重値信号Lに示される荷重振動の平均値Mの期待値の範囲Wとの関係を示す情報テーブルである。この期待値テーブルに指令信号Cの平均値Mcを当てはめることにより、当該平均値Mcの取りうる期待値の範囲Wを得ることができる。この期待値テーブルは、例えば、予備試験やシミュレーションの結果等に基づいて予め作成されて、メモリ35に記憶される。
【0043】
本実施形態において、期待値の範囲Wは、
図10(a)に示す伸長方向及び圧縮方向の剛性が均等となる特性を有する構成の被試験体80について
図3に示す加振処理を実行したときに計測された荷重振動の平均値Mpに、所定の許容誤差値ΔMpを加えた値を上限値(Mp+ΔMp)とし、許容誤差値ΔMpを差し引いた値を下限値(Mp−ΔMp)とする範囲に設定されている(
図5)。または、このような期待値テーブルに代えて、指令信号Cの平均値Mcから期待値の範囲Wを算出する算出式情報等が、メモリ35に格納されていてもよい。
【0044】
次に、振動試験装置1のμCOM30(具体的にはCPU)における処理(過渡状態時の加振処理)の一例について、
図3のフローチャートを参照して説明する。この過渡状態時の加振処理は、試験開始直後から荷重振動が安定するまでの過渡状態において実行される。なお、この過渡状態時の加振処理を終了した後、振動試験装置1は、荷重振動の振幅値Aを目標振幅値Atに近づけ、かつ、荷重振動の平均値Mを目標平均値Mtに近づける一般的(比例制御等)なフィードバック制御を行う通常(定常状態時)の加振処理を実行する。
【0045】
図3のステップS110では、被試験体TPに与えられた荷重振動の振幅値A及び平均値Mを取得する。具体的には、μCOM30は、荷重値信号Lの直近の振動サイクルにおける最大値及び最小値の差分値を荷重振動の振幅値Aとして算出し、これら最大値及び最小値の中央値を平均値Mとして算出する。そして、ステップS120に進む。
【0046】
ステップS120では、ステップS110で取得した荷重振動の平均値Mの取りうる期待値の範囲Wを取得する。具体的には、μCOM30は、後述するステップS160でそのメモリに一時的に格納した直前の指令信号C’の平均値Mc’を読み出し、メモリ35に記憶された期待値テーブルに当てはめて、期待値の範囲Wを取得する。そして、ステップS130に進む。なお、ステップS120の初回実行時は、μCOM30のメモリには直前の指令信号C’の平均値Mc’として所定の初期値が格納されている。
【0047】
ステップS130において、μCOM30は、ステップS110で取得した荷重振動の平均値MがステップS120で取得した期待値の範囲Wに含まれているか否かを判定する。荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれていれば(S130でY)、荷重振動の振幅に偏りがなく平均値Mが通常取りうる値の範囲内であるものとして、ステップS140に進む。または、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれていなければ(S130でN)、荷重振動の振幅に偏りがあり平均値Mが通常取りうる値の範囲を超えたものとして、ステップS150に進む。
【0048】
ステップS140では、直前の指令信号C’に対して荷重振動の振幅値A及び平均値Mをフィードバックして新たな指令信号Cを生成する。
【0049】
具体的には、μCOM30は、メモリ35から目標振幅値At及び振幅値ゲインGaを読み出し、ステップS110で取得した荷重振動の振幅値Aから目標振幅値Atを差し引いた値に振幅値ゲインGaを乗じたものをμCOM30のメモリに一時的に格納している直前の指令信号C’の振幅値Ac’から差し引いた値を、新たな指令信号Cの振幅値Acとして算出する。振幅値Acの算出式を(4)式に示す。
Ac=Ac’−(A−At)×Ga・・・(4)
【0050】
また、μCOM30は、メモリ35から目標平均値Mt及び平均値ゲインGmを読み出し、ステップS110で取得した荷重振動の平均値Mから目標平均値Mtを差し引いた値に平均値ゲインGmを乗じたものをμCOM30のメモリに一時的に格納している直前の指令信号C’の平均値Mc’から差し引いた値を、新たな指令信号Cの平均値Mcとして算出する。平均値Mcの算出式を(5)式に示す。
Mc=Mc’−(M−Mt)×Gm・・・(5)
【0051】
そして、上記で算出した指令信号Cの振幅値Ac及び平均値Mc、並びに、指令信号Cの周波数f及び波形(正弦波)を示す制御信号を発振器22に出力し、ステップS160に進む。発振器22では、この制御信号に基づいて次の(6)式に示される指令信号Cを生成してアクチュエータ15に出力する。
C=(Ac/2)sin(2πft)+Mc・・・(6)
【0052】
このステップS140において、振幅値Acの増加量が平均値Mcの変化量の2倍を超えるように、振幅値ゲインGa及び平均値ゲインGmが設定されている。本明細書において、平均値の変化量とは、その絶対値である。振幅値の増加量と平均値の変化量との関係式を(7)式に示す。
Ac−Ac’>|Mc−Mc’|×2・・・(7)
【0053】
ステップS150では、直前の指令信号C’の振幅値Ac’を維持したまま、荷重振動の平均値Mのみをフィードバックして新たな指令信号Cを生成する。
【0054】
具体的には、μCOM30は、そのメモリに一時的に格納している直前の指令信号C’の振幅値Ac’をそのまま新たな指令信号Cの振幅値Acとする。つまり、振幅値Acの増加量は0となる。振幅値Acの算出式を(8)式に示す。
Ac=Ac’・・・(8)
【0055】
また、μCOM30は、メモリ35から目標平均値Mt及び平均値ゲインGmを読み出し、ステップS110で取得した荷重振動の平均値Mから目標平均値Mtを差し引いた値に平均値ゲインGmを乗じたものをμCOM30のメモリに一時的に格納している直前の指令信号C’の平均値Mc’から差し引いた値を、新たな指令信号Cの平均値Mcとして算出する。平均値Mcの算出式は上記(5)式と同じである。
【0056】
そして、上記で算出した指令信号Cの振幅値Ac及び平均値Mc、並びに、指令信号Cの周波数f及び波形(正弦波)を示す制御信号を発振器22に出力し、ステップS160に進む。発振器22では、この制御信号に基づいて上記(6)式に示される指令信号Cを生成してアクチュエータ15に出力する。
【0057】
ステップS160において、μCOM30は、指令信号Cの振幅値Ac及び平均値Mcを、次回の処理で用いられる直前の指令信号C’の振幅値Ac’及び平均値Mc’として、そのメモリに一時的に記憶(格納)する。そして、ステップS170に進む。
【0058】
ステップS170では、荷重振動が安定したか否かを判定する。具体的には、μCOM30は、荷重振動の振幅値Aが目標振幅値At以上になったか否かを判定して、荷重振動の振幅値Aが目標振幅値At以上であれば、荷重振動が安定したものとして、本フローチャートを終了する。また、荷重振動の振幅値Aが目標振幅値At未満であれば、荷重振動が安定していないものとして、ステップS110に戻る。これ以外にも、荷重振動の振幅値Aと目標振幅値Atとの差分値が所定の判定基準値以下であるか否かによって、荷重振動が安定したか否かを判定する構成としてもよい。または、荷重振動の振幅値Aと目標振幅値Atとの差分値が所定の判定基準値以下であるか否か、及び、荷重振動の平均値Mと目標平均値Mtとの差分値が所定の判定基準値以下であるか否かによって、荷重振動が安定したか否かを判定する構成としてもよい。本発明の目的に反しない限り、荷重振動の安定についての判定方法は任意である。そして、荷重振動が安定することにより本フローチャートを終了した後は、荷重振動の振幅値Aを目標振幅値Atに近づけ、かつ、荷重振動の平均値Mを目標平均値Mtに近づける一般的なフィードバック制御を行う定常状態時の加振処理を実行する。
【0059】
この定常状態時の加振処理においては、上記ステップS110(荷重振動の取得)及びS140(指令信号にフィードバック)における処理と同様の処理を繰り返し実行する。このとき、振幅値ゲインGa及び平均値ゲインGmは、上記S140と同様に、振幅値Acの増加量が平均値Mcの変化量の2倍を超えるように設定してもよく、または、これ以外の設定でもよく、荷重振動の振幅値A及び平均値が目標値に近づくようにフィードバック制御可能な範囲で任意に設定可能である。または、定常状態時の加振処理において、荷重振動の振幅値A及び平均値Mが目標振幅値At及び目標平均値Mtに近づいて安定した後は、制御信号Cに対する荷重振動のフィードバック制御を終了して、そのときの指令信号Cを継続して出力する構成としてもよい。
【0060】
μCOM30は、上述したステップS110を実行することで、荷重振動取得手段の一例として機能し、ステップS120を実行することで、期待値範囲取得手段の一例として機能する。また、μCOM30は、ステップS140及びS150を実行することで、発振器22と合わせて、指令信号生成手段の一例として機能する。
図4に、
図1の振動試験装置の概念的な機能ブロック図を示す。
【0061】
次に、上述した振動試験装置1における本発明に係る動作の一例を、
図5、
図6を参照して説明する。
【0062】
図5は、振動試験の開始直後の過渡状態における荷重振動の変化の様子の一例を示すグラフである。
図6は、振動試験の開始直後の過渡状態から荷重振動が安定した定常状態までの荷重振動の変化の様子の一例を示すグラフである。
【0063】
振動試験装置1は、試験開始直後に上述した過渡状態時の加振処理を実行することにより荷重振動の振幅値A及び平均値Mを目標振幅値At及び目標平均値Mt付近で安定させて、その後に予め設定された目標振幅値At、目標平均値Mt、周波数及び波形(正弦波)となる荷重信号を被試験体に継続的に与える振動試験を行うものである。
【0064】
試験に先立って、試験対象となる被試験体TPとして、
図10(b)に示す被試験体90を、加振部10のピストン15bとロードセル16との間にセットしたのち、上述した過渡状態時の加振処理を実行して振動試験を開始する。
【0065】
まず、振動制御部20は、μCOM30のメモリに格納された直前の指令信号C’の振幅値Ac’及び平均値Mc’の初期値、並びに、ロードセル16からの荷重値信号Lに示される振幅値A及び平均値M(この時点では共に0)に基づいて指令信号Cを生成し、アクチュエータ15に出力する。アクチュエータ15は、この指令信号Cを受けて、当該指令信号Cの平均値Mcに対応する位置を中心として、振幅値Acに対応する変位量で変位させて、期間P1に示すように被試験体90に荷重振動を与える。
【0066】
期間P1において被試験体90に荷重振動が与えられると、ロードセル16からの荷重値信号Lに示される荷重振動に対応する振幅値A(P1)及び平均値M(P1)が得られる。この時点でピストン15bが被試験体90の支持部材82に届いていない(当たっていない)ので、被試験体90における伸長方向及び圧縮方向の剛性が均等である。そのため、荷重振動はその平均値M(P1)を中心とし振幅値A(P1)で振動して、平均値M(P1)は、その期待値の範囲W内に含まれる。そして、振動制御部20は、荷重振動の平均値M(P1)がその期待値の範囲Wに含まれるので、直前の指令信号C’の振幅値Ac’及び平均値Mc’に荷重振動の振幅値A(P1)及び平均値M(P1)をフィードバックして新たに指令信号Cを生成し、アクチュエータ15に出力する。そして、振動制御部20は、μCOM30のメモリに、直前の指令信号C’の振幅値Ac’及び平均値Mc’として、指令信号Cの振幅値Ac及び平均値Mcを格納する。アクチュエータ15は、この指令信号Cを受けて、当該指令信号Cの平均値Mcに対応する位置を中心とし振幅値Acに対応する変位量でピストン15bを変位させて、被試験体90に荷重振動を与える。期間P2〜期間P4においても同様に動作し、これら期間において、荷重振動の振幅値Aが徐々に増加し、平均値Mが徐々に変化する。
【0067】
そして、期間P4において生成された指令信号Cがアクチュエータ15に出力されると、その次の期間P5において、ピストン15bの変位量(即ち、被試験体90の変形量)が所定値を超えて、ピストン15bが被試験体90の支持部材82に当たる。この時点で、被試験体90において伸長方向の剛性に対して圧縮方向の剛性が急激に高くなるので、ピストン15bにおける当該圧縮方向への変位が規制される。すると、アクチュエータ15は、指令信号Cに示される位置までピストン15bを変位させようとして被試験体90の圧縮方向に強い荷重を加える。そのため、被試験体90に与えられた荷重振動の振幅値A(P5)が正方向に急激に増加して振幅に偏りが生じ、これにより、荷重振動の平均値M(P5)が期待値の範囲Wから外れる。このときの荷重振動の振幅値A(P5)は、目標振幅値Atに達していない。これを受けて、振動制御部20は、荷重振動の平均値M(P5)がその期待値の範囲Wに含まれていないので、期間P4で生成された直前の指令信号C’の振幅値Ac’を維持(増加量0)するとともに平均値Mc’に平均値M(P5)をフィードバックして新たに指令信号Cを生成し、アクチュエータ15に出力する。つまり、直前の指令信号C’の振幅値Ac’を増加させずに維持し、平均値Mc’のみ変化させて新たな指令信号Cを生成して、アクチュエータ15に出力する。アクチュエータ15は、この指令信号Cを受けて、直前の動作に対して変位量が同一で中心位置のみ変化するようにピストン15bを変位させて、被試験体90に荷重振動を与える。これにより、ピストン15bにおける被試験体90の圧縮方向について求められる変位量が小さくなり、当該圧縮方向に加えられる荷重も小さくなる。期間P6、P7においても同様に動作し、これら期間において、荷重振動の振幅値Aが変化することなく維持され、平均値Mが徐々に変化する。
【0068】
そして、期間P7において生成された指令信号Cがアクチュエータ15に出力されると、その次の期間P8において、ピストン15bの変位量が所定値を超えて、ピストン15bが被試験体90の支持部材82に当たるものの、ピストン15bにおける被試験体90の圧縮方向について求められる変位量が小さくなり、当該圧縮方向に加えられる荷重も小さくなって荷重振動の振幅の偏りが小さくなり、平均値M(P8)がその期待値の範囲W内に含まれる。そのため、振動制御部20は、期間P1のときと同様に動作して、直前の指令信号C’の振幅値Ac’及び平均値Mc’に荷重振動の振幅値A(P8)及び平均値M(P8)をフィードバックして新たに指令信号Cを生成し、アクチュエータ15に出力する。つまり、直前の指令信号C’の振幅値Ac’を増加させ、かつ、平均値Mc’を変化させて新たな指令信号Cを生成して、アクチュエータ15に出力する。アクチュエータ15は、この指令信号Cを受けて、変位量が増加しかつ中心位置が変化するようにピストン15bを変位させて、被試験体90に荷重振動を与える。
【0069】
そして、期間P8において生成された指令信号Cがアクチュエータ15に出力されると、その次の期間P9において、期間P5のときと同様に、アクチュエータ15が、指令信号Cに示される位置までピストン15bを変位させようとして被試験体90の圧縮方向に強い荷重を加える。そのため、被試験体90に与えられた荷重振動の振幅値A(P9)が正方向に急激に増加して振動に偏りが生じ、これにより、荷重振動の平均値M(P9)が期待値の範囲Wから外れる。そのため、振動制御部は、期間P5のときと同様に動作して、期間P8で生成された直前の指令信号C’の振幅値Ac’を維持(増加量0)するとともに平均値Mc’に平均値M(P9)をフィードバックして新たに指令信号Cを生成し、アクチュエータ15に出力する。つまり、直前の指令信号C’の振幅値Ac’を増加させずに維持し、平均値Mc’のみ変化させて新たな指令信号Cを生成して、アクチュエータ15に出力する。
【0070】
その後も、上記と同様に動作することで、
図6に示すように、荷重振動の振幅値Aが目標振幅値Atに到達し、そのあと、荷重振動の平均値Mが目標平均値Mtに到達して、定常状態となる。そして、これ以降、振動試験装置1は定常状態時の加振処理を実行して、振幅値及び平均値がそれぞれ目標値となる荷重振動が被試験体90に与えられる。
【0071】
また、上述した振動試験装置1の動作の一例では、荷重振動の平均値Mの期待値の範囲Wが、
図10(a)に示す伸長方向及び圧縮方向の剛性が均等となる特性を有する構成の被試験体80について
図3に示す加振処理を実行したときに計測された荷重振動の平均値Mpに、所定の許容誤差値ΔMpを加えた値を上限値(Mp+ΔMp)とし、許容誤差値ΔMpを差し引いた値を下限値(Mp−ΔMp)とする範囲に設定したものであった。そのため、試験開始時において、
図6に示すように、期待値の範囲Wは、時間経過に伴い徐々に目標振幅値Mtに近づくように変化するものであった。
【0072】
そして、上述した振動試験装置1において、このような期待値の範囲Wに代えて、例えば、
図7に示すように、目標平均値Mtに、所定の許容誤差値ΔMtを加えた値を上限値(Mt+ΔMt)とし、所定の許容誤差値ΔMtを差し引いた値を下限値(Mt−ΔMt)とする期待値の範囲W1としてもよい。つまり、期待値の範囲W1は目標平均値Mtを中心として一定となる。
図7は、振動試験の開始直後の過渡状態から荷重振動が安定した定常状態までの荷重振動の変化の様子の他の一例を示すグラフである。
【0073】
このような構成にすることで、(1)荷重振動は、振動試験の開始直後から荷重振動の平均値Mが期待値の範囲W1に含まれるまで、振幅値Aが0(振幅なし)のまま平均値Mのみが徐々に変化していく。(2)次に、荷重振動は、平均値Mが期待値の範囲W1に含まれた時点から、荷重振動の振幅値Aが徐々に増加していく。(3)このとき、被試験体TPの剛性変化により荷重振動の平均値Mが期待値の範囲W1から外れると、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲W1に再度含まれるまで、荷重振動の振幅値Aが維持(増加量0)され、荷重振動の平均値Mのみが徐々に変化していく。(4)そして、荷重振動の振幅値Aが、目標振幅値Atに到達すると、荷重振動が安定したものとして、過渡状態時の加振処理を終了して、引き続き、定常状態時の加振処理を実行する。
【0074】
本実施形態の振動試験装置1は、被試験体TPに対して指令信号Cに示される振幅値Ac及び平均値Mcに応じた振動を与えるアクチュエータ15と、被試験体TPに加えられた荷重値を計測するロードセル16と、ロードセル16によって計測された荷重値(荷重値信号L)に示される荷重振動の振幅値A及び平均値Mを取得するμCOM30からなる荷重振動取得手段と、荷重振動の振幅値A及び平均値Mが所定の目標振幅値At及び目標平均値Mtに近づくように、荷重振動の振幅値A及び平均値Mをフィードバックして指令信号Cを生成するμCOM30及び発振器22からなる指令信号生成手段と、を有している。そして、振動試験装置1は、指令信号Cに対する荷重振動の平均値Mが取りうる期待値の範囲Wを取得するμCOM30からなる期待値範囲取得手段をさらに有し、指令信号生成手段が、荷重振動が安定する前の過渡状態において、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれるとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍超となるように指令信号Cを生成し、かつ、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下となるように指令信号Cを生成する。
【0075】
また、振動試験装置1は、指令信号生成手段が、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が0となるように指令信号Cを生成する。
【0076】
以上より、本実施形態によれば、被試験体TPに加えられた荷重値を計測し、この荷重値に示される荷重振動の振幅値A及び平均値Mを取得して、これら荷重振動の振幅値A及び平均値Mが目標振幅値At及び目標平均値Mtに近づくように、これら荷重振動の振幅値A及び平均値Mをフィードバックしてアクチュエータ15への指令信号Cを生成する。そして、指令信号Cに対する荷重振動の平均値Mが取りうる期待値の範囲Wを取得して、荷重振動が安定する前の過渡状態において、荷重振動の平均値Mがその期待値の範囲Wに含まれるとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍超となるように指令信号Cを生成し、かつ、荷重振動の平均値Mがその期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下となるように指令信号Cを生成する。
【0077】
荷重振動が安定する前の過渡状態において、荷重振動の平均値Mがその期待値の範囲Wから外れたときは、被試験体TPの剛性の変化により荷重振動の振幅値Aが片側に大きく振れて偏りが生じたものと考えられる。このようなときに、新たに生成する指令信号Cにおいて、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量を、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下とすることで、指令信号C全体を、当該指令信号Cの振幅値Acにおけるその中央値を挟んだ片側の増加量より大きくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への荷重振動の振幅値Aの増加を抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体TPに対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りを抑制することができる。
【0078】
また、荷重振動の平均値Mがその期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号Cからの振幅値Acの増加量が0となるように指令信号Cを生成する。そのため、指令信号C全体を、当該指令信号Cの振幅値Acを増加することなくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への荷重振動の振幅値Aの増加をより確実に抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体TPに対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りをより確実に抑制することができる。
【0079】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の振動試験装置は上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0080】
例えば、上述した実施形態では、指令信号Cに荷重振動をフィードバックする構成であったが、これに限定されるものではなく、荷重振動に代えて、指令信号Cにアクチュエータ15のピストン15bの変位振動をフィードバックする構成としてもよい。具体的には、上述した振動試験装置1において、ロードセル16によって出力された荷重値信号Lに示される荷重振動(振幅値A、平均値M)に代えて、位置センサ17によって出力された変位値信号H(振幅値A,平均値M)を用いて、上記実施形態と同様に動作するように構成した振動試験装置1Aとする。
【0081】
この振動試験装置1Aは、被試験体TPに対して指令信号Cに示される振幅値Ac及び平均値Mcに応じた振動を与えるアクチュエータ15と、被試験体TPの変位値を計測する位置センサ17と、位置センサ17によって計測された変位値(変位値信号H)に示される変位振動の振幅値A及び平均値Mを取得するμCOM30からなる変位振動取得手段と、変位振動の振幅値A及び平均値Mが所定の目標振幅値At及び目標平均値Mtに近づくように、変位振動の振幅値A及び平均値Mをフィードバックして指令信号Cを生成するμCOM30及び発振器22からなる指令信号生成手段と、を有している。そして、振動試験装置1Aは、指令信号Cに対する変位振動の平均値Mが取りうる期待値の範囲Wを取得するμCOM30からなる期待値範囲取得手段をさらに有し、指令信号生成手段が、変位振動が安定する前(例えば、変位振動の振幅値Aが、目標振幅値Mtに到達する前)の過渡状態において、変位振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれるとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の前記指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍超となるように指令信号Cを生成し、かつ、変位振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号Cからの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下となるように指令信号Cを生成する構成とされている。
【0082】
このようにすることで、振動試験装置1Aは、被試験体TPの変位値を計測し、この変位値に示される変位振動の振幅値A及び平均値Mを取得して、これら変位振動の振幅値A及び平均値Mが目標振幅値At及び目標平均値Mtに近づくように、これら変位振動の振幅値A及び平均値Mをフィードバックしてアクチュエータ15への指令信号Cを生成する。そして、指令信号Cに対する変位振動の平均値Mが取りうる期待値の範囲Wを取得して、変位振動が安定する前の過渡状態において、変位振動の平均値Mがその期待値の範囲Wに含まれるとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍超となるように指令信号Cを生成し、かつ、変位振動の平均値Mがその期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下となるように指令信号Cを生成する。
【0083】
変位振動が安定する前の過渡状態において、変位振動の平均値Mがその期待値の範囲Wから外れたときは、被試験体TPの剛性の変化により変位振動の振幅値Aが片側に大きく振れて偏りが生じたものと考えられる。このようなときに、新たに生成する指令信号Cにおいて、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量を、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下とすることで、指令信号C全体を、当該指令信号Cの振幅値Acにおけるその中央値を挟んだ片側の増加量より大きくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への変位振動の振幅値Aの増加を抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体TPに対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りを抑制することができる。
【0084】
また、振動試験装置1Aは、指令信号生成手段が、変位振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が0となるように指令信号Cを生成する構成とされていてもよい。
【0085】
このようにすることで、変位振動の平均値Mがその期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が0となるように指令信号Cを生成する。そのため、指令信号C全体を、当該指令信号Cの振幅値Acを増加することなくシフト(平均値を変化)させて、当該片側方向への変位振動の振幅値Aの増加をより確実に抑制することができる。これにより、伸長方向と圧縮方向とで剛性の異なる特性を有する被試験体TPに対して振動を加えたときに生じる恐れのある振動の偏りをより確実に抑制することができる。
【0086】
また、上述した実施形態では、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が0となるように指令信号Cを生成する構成であったが、これに限定されるものではない。これ以外にも、荷重振動の平均値Mが期待値の範囲Wに含まれないとき、直前の指令信号C’からの振幅値Acの増加量が、直前の指令信号C’からの平均値Mcの変化量の2倍以下となるように指令信号Cを生成する構成とされていればよい。このようにしても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。また、上記振動試験装置1Aにおいても、同様である。
【0087】
また、上述した実施形態では、フィードバック制御方式として、比例制御方式を採用したものであったが、これに限定されるものではなく、このような比例制御方式以外にも、例えば、PID制御方式など、本発明の目的に反しない限り、他のフィードバック制御方式を採用してもよい。
【0088】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。かかる変形によってもなお本発明の振動試験装置の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。