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特開2016-220590液体還流容器、細胞濃縮装置及び細胞濃縮システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-220590(P2016-220590A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】液体還流容器、細胞濃縮装置及び細胞濃縮システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20161205BHJP
【FI】
   C12M1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-108924(P2015-108924)
(22)【出願日】2015年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】木山 政晴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 美登里
(72)【発明者】
【氏名】橋場 周平
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 由美子
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029DA04
4B029DB13
4B029DC07
4B029DF06
4B029DG08
4B029FA11
4B029GA08
4B029GB01
(57)【要約】
【課題】新規な液体還流容器を有する細胞濃縮装置及び細胞濃縮システムを提供すること
【解決手段】液体還流容器を備える細胞濃縮装置であって、前記液体還流容器は、送液管によって前記液体還流容器外部で接続されている第1の管と第2の管を備え、前記送液管は、内部の液体を両方向に送液することができる送液ポンプおよび細胞濃縮モジュールを備え、第1の管と第2の管は、前記液体還流容器内の液体中に開口端を有し、第1の管は、前記液体還流容器内の気体中に開口部を有し、前記液体が、細胞の懸濁液である、細胞濃縮装置とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の管と第2の管を備える、密閉された液体還流容器であって、
第1の管と第2の管は、送液管によって前記液体還流容器外部で接続されていて、
前記送液管は、内部の液体を両方向に送液することができる送液ポンプを備え、
第1の管と第2の管は、前記液体還流容器内の液体中に開口端を有し、
第1の管は、前記液体還流容器内の気体中に開口部を有する、液体還流容器。
【請求項2】
気体バッグと接続した第3の管を備える、請求項1に記載の液体還流容器。
【請求項3】
前記開口部の開口面積が第1の管の断面積より大きい、請求項1又は2に記載の液体還流容器。
【請求項4】
前記液体が細胞を含む、請求項1〜3のいずれ下に記載の液体還流容器。
【請求項5】
液体還流容器を備える細胞濃縮装置であって、
前記液体還流容器は、送液管によって前記液体還流容器外部で接続されている第1の管と第2の管を備え、
前記送液管は、内部の液体を両方向に送液することができる送液ポンプおよび細胞濃縮モジュールを備え、
第1の管と第2の管は、前記液体還流容器内の液体中に開口端を有し、
第1の管は、前記液体還流容器内の気体中に開口部を有し、
前記液体が、細胞の懸濁液である、細胞濃縮装置。
【請求項6】
気体バッグと接続した第3の管を備える、請求項5に記載の細胞濃縮装置。
【請求項7】
前記気体バッグが5〜10%炭酸ガスを含有する気体を含み、前記細胞の懸濁液が炭酸バッファーである、請求項5又は6に記載の細胞濃縮装置。
【請求項8】
前記開口部の開口面積が第1の管の断面積より大きい、請求項5〜7のいずれか1項に記載の細胞濃縮装置。
【請求項9】
前記細胞濃縮モジュールに開閉弁または逆止弁を介して接続され、前記細胞濃縮モジュールから排出された排出液を保持する排出バッグをさらに備える、請求項5〜8のいずれか1項に記載の細胞濃縮装置。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれか1項に記載の細胞濃縮装置を着脱可能に有する、細胞濃縮システム。
【請求項11】
圧力センサー及び/又は重量センサーをさらに有する、請求項10に記載の細胞濃縮システム。
【請求項12】
前記圧力センサーが、前記細胞濃縮モジュールの上流の圧力を検出する圧力センサー、前記細胞濃縮モジュール下流の圧力を検出する圧力センサー、及び細胞濃縮モジュールのろ液の圧力を検出する圧力センサーからなる群から選択される少なくとも1つの圧力センサーである、請求項11に記載の細胞濃縮システム。
【請求項13】
細胞懸濁液を前記液体還流容器に供給するための試料容器と、
濃縮された前記細胞懸濁液を回収するための回収容器と、
をさらに備える、請求項10〜12のいずれか1項に記載の細胞濃縮システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体還流容器、細胞濃縮装置及び細胞濃縮システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自分の細胞もしくは他人の細胞を用いて疾病の治療を行う再生医療では、細胞を移植治療に用いるのに、生体から採取した細胞を培養して細胞数を増やしたり、しかるべき形に組織を構築させたりする必要がある。治療に用いる細胞の培養や調製は、細胞調製施設(Cell Processing Facility;CPF)という細胞培養用クリー
ンルームの中で、GMP(Good Manufacturing Practice)に準拠して行わなければならない。ここでの課題は、細胞培養は技術者の手作業によって行われるため、患者1名分の細胞の調製に対して労力とコストが非常にかかるという点と、手動で実施することによる生物学的汚染リスクがあるという点、加えて作業ミスが生じる可能性がある点である。
【0003】
これらの課題を解決する手段として、閉鎖系で細胞培養や調製工程を自動化する装置が開発されてきた。つまり、培養容器の蓋を開閉する操作が不要な閉鎖系培養容器を用いることや細胞培養工程を自動化することによって、作業ミスや生物学的汚染リスクの低減が達成される。
【0004】
このうち細胞の濃縮手段としては遠心分離方法とろ過膜を用いた膜濃縮方法がある。一般的に手技培養では細胞懸濁液の細胞濃度を高める場合や、細胞緩衝液を置換するなどの目的で遠心分離法を使用する。遠心分離法ではクリーンベンチ内で細胞懸濁液をふた付きチューブに入れて密閉し、遠心分離機で細胞ペレットと上清に分離させる。再度クリーンベンチ内でチューブのふたを開けて、アスピレータでチューブ底の細胞ペレットを吸わないようにしつつ上清を吸引除去する。ここで別の緩衝液を加えて所定の濃度となるよう細胞懸濁液を調製する。このように遠心分離法は一連の工程が煩雑であるため、自動化が困難であるだけでなく、調製作業は開放系のため、調製作業エリアや器具の滅菌対応にコストを要するなどの課題がある。
【0005】
近年、抗体医薬やワクチンなどのように細胞からの分泌物を薬剤として利用するバイオ医薬の開発が進展しており、その製造過程においては、細胞懸濁液内から細胞を分離する必要がある。従来ではこの濃縮工程に遠心分離が使用されていたが、シングルユース閉鎖系流路によるバイオ医薬品製造技術が確立されつつあり、中でもタンジェンシャルフローろ過(Tangential Flow Filtration:以下TFFと略記)に
よる膜濃縮法が広く使用されるようになってきた。TFF膜濃縮法は処理時間が長くなることや閉鎖系流路及び膜モジュールの設置など作業準備工程が必要であるが、制御機構が簡素で自動化が容易である。このようなTFF膜を用いた細胞濃縮装置の例が、以下の特許文献1および2に開示されている。
【0006】
しかしながら、細胞懸濁液の操作を自動化すると、手作業で細胞を操作するより細胞に与えるダメージが大きくなる。そこで、特許文献1では、細胞懸濁液処理器に対し線速度を特定範囲になるように制御して通液することで、細胞に与えるダメージが少ない方法を開示している。
【0007】
また、細胞を培養する際には、使用する液体培地に重炭酸緩衝系と呼ばれるNaHCO3などの塩基成分を添加し、COの濃度を5−10%に高めたCOインキュベータの
庫内で保持することにより、培地に接する気相との接触で培養中のpH値が大きく変動し
ないように制御するということが通常行われているが、それでも、大気(一般値としてCO0.04%、O20%、N78%ほか)との接触機会が多ければ、pH値が変化しやすい。実際、閉鎖系流路でTFF膜濃縮法を行うときには、細胞懸濁液を送液するためのチューブ内や保持するための容器内での大気と接触するため、液体培地のpH値が変化しやすい。(なお、本明細書では、大気は前記の濃度と同じかほぼ同じ濃度の気体を指し、ガスは大気とは異なる気体組成を有する気体を指すものとする。)
また、TFF膜濃縮法を行う閉鎖系流路においては、細胞懸濁液を送液する際、液体の落下や衝撃で生じる気泡等が発生しやすい。細胞懸濁液が泡立つと、培地と大気の接触が多くなって培地のpH値が変化しやすくなるだけではなく、泡立つ際の培地と大気との間の急激な圧力の変化によって、細胞が死にやすくなる。そこで、特許文献2では、細胞濃縮液中の泡を検知して送液の供給停止を行うことで、泡の発生を止める手段を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015−12837号公報
【特許文献2】WO2015/012174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な液体還流容器を有する細胞濃縮装置及び細胞濃縮システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施態様は、第1の管と第2の管を備える、密閉された液体還流容器であって、第1の管と第2の管は、送液管によって前記液体還流容器外部で接続されていて、前記送液管は、内部の液体を両方向に送液することができる送液ポンプを備え、第1の管と第2の管は、前記液体還流容器内の液体中に開口端を有し、第1の管は、前記液体還流容器内の気体中に開口部を有する、液体還流容器である。気体バッグと接続した第3の管を備えていてもよい。前記開口部の開口面積が第1の管の断面積より大きくてもよい。前記液体が細胞を含んでもよい。
【0011】
本発明の他の一実施態様は、液体還流容器を備える細胞濃縮装置であって、前記液体還流容器は、送液管によって前記液体還流容器外部で接続されている第1の管と第2の管を備え、前記送液管は、内部の液体を両方向に送液することができる送液ポンプおよび細胞濃縮モジュールを備え、第1の管と第2の管は、前記液体還流容器内の液体中に開口端を有し、第1の管は、前記液体還流容器内の気体中に開口部を有し、前記液体が、細胞の懸濁液である、細胞濃縮装置である。気体バッグと接続した第3の管を備えてもよく、前記気体バッグが5〜10%炭酸ガスを含有する気体を含み、前記細胞の懸濁液が炭酸バッファーであってもよい。前記開口部の開口面積が第1の管の断面積より大きくてもよい。前記細胞濃縮モジュールに開閉弁または逆止弁を介して接続され、前記細胞濃縮モジュールから排出された排出液を保持する排出バッグをさらに備えてもよい。
【0012】
本発明のさらなる実施態様は、上記いずれかの細胞濃縮装置を着脱可能に有する、細胞濃縮システムである。圧力センサー及び/又は重量センサーをさらに有してもよい。前記圧力センサーが、前記細胞濃縮モジュールの上流の圧力を検出する圧力センサー、前記細胞濃縮モジュール下流の圧力を検出する圧力センサー、及び細胞濃縮モジュールのろ液の圧力を検出する圧力センサーからなる群から選択される少なくとも1つの圧力センサーであってもよい。細胞懸濁液を前記液体還流容器に供給するための試料容器と、濃縮された前記細胞懸濁液を回収するための回収容器と、をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって、新規な液体還流容器を有する細胞濃縮装置及び細胞濃縮システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる一実施態様における、(A)細胞濃縮装置の構成図(B)流入管の先端部が有する開口部の形状のいくつかの例である。
図2】従来の細胞濃縮装置の構成図の一例である。
図3】本発明にかかる他の一実施態様における、細胞濃縮装置の構成図である。
図4】本発明にかかる一実施態様における、細胞濃縮システムの構成図である。
図5】本発明にかかる一実施態様における、細胞濃縮システムの制御フローチャートである。
図6】本発明にかかる一実施態様における、複数の細胞濃縮装置を有する細胞濃縮システムの構成図である。
図7】本発明にかかる一実施態様における、複数の細胞濃縮モジュールを有する細胞濃縮システムの構成図である。
図8】本発明にかかる一実施例における細胞濃縮装置または従来の細胞濃縮装置を用いて細胞濃縮を行った結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例を挙げながら、本発明の実施形態を詳細に述べる。
【0016】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0017】
<液体還流容器>
本発明の液体還流容器は、第1の管と第2の管を備える、密閉された液体還流容器であって、第1の管と第2の管は、送液管によって液体還流容器外部で接続されていて、送液管は、内部の液体を両方向に送液することができる送液ポンプを備え、第1の管と第2の管は、液体還流容器内の液体中に開口端を有し、第1の管は、液体還流容器内の気体中に開口部を有する、液体還流容器である。なお、本明細書中で、還流容器または液体還流容器の「還流」とは、容器内の液体が容器から流出し、流出した液体の一部または全部が、容器に戻ることをいうものとする。
【0018】
液体還流容器の形状としては特に限定されないが、操作の容易性からボトル状であることが好ましい。素材も特に限定されず、例えば中に入れる液体に対し腐食しないなど、耐液性を有するものが好ましいが、使用方法などにより、使用者が適宜選択可能である。
【0019】
開口部の形状や大きさは特に限定されないが、形状は円、楕円、長円、正方形、長方形などが例示できる。楕円状、長円状、長方形状の場合、第1の管の長軸方向と開口部の長軸方向が一致していることが好ましい。また、液体の流入時に、開口部から第1の管の外に向けて吸引力が発生したり、気泡を生じさせたりしないように、円状であれば直径など、楕円状または長円状であれば中心を通って最も小さい直径など、正方形、長方形であれば短辺など、を第1の管の内径より大きく作成することや、あるいは気体中に開く開口部の面積が第1の管の断面積より大きいことが好ましい。取り扱う液体の粘性によってはさ
らに開口は大きいほうが好ましい。また、液体還流容器内の気体中に開く開口部は1つであっても複数であってもよい。
【0020】
第1の管と第2の管は、送液管によって液体還流容器外部で接続されているため、送液ポンプが第2の管から第1の管の方向へ送液すると、第2の管を通じて液体還流容器から流出した液体は、第1の管から液体還流容器に流入するが、送液ポンプが第1の管から第2の管の方向へ送液すると、第1の管は気体中に開く開口部を有するため、開口部から液体還流容器内の気体が優先的に吸引され、それに伴って送液管内の液体は、液体還流容器に回収され、送液管内は空になる。この機能を有する限り、送液管がどのような装置を備えていてもかまわない。備えていてもよい装置の例としては、弁、フィルター、カラム等が挙げられるが、これらに限定されない。このような装置を設けることによって、液体還流容器内の液体に対し、一旦液体還流容器から外に出して自動的に所望の処理をして、液体還流容器に戻すことが可能になる。なお、第2の管から流出した液体は、そのまま第1の管から戻る必要はなく、例えば、送液管が途中で分岐し、一部の液体が分岐した送液管から流出し、残りの液体だけが液体還流容器に戻るような構成であってもよい。
【0021】
このように、第1の管が開口部を備えることによって、第2の管から第1の管の方向では、液体還流容器内部の液体を循環させることができ、第1の管から第2の管の方向では、送液管内の液体を液体還流容器に回収することができる。そして、第1の管と第2の管が、液体還流容器内の液体中に開口端を有することによって、第1の管から液体を回収する時、穏やかに回収することができ、液体還流容器内部の気体との接触を低減したり、泡立ちなどを防止したりすることができる。
【0022】
この液体還流容器は、気体バッグと接続した第3の管を備えていてもよい。それによって、液体還流容器内部が陰圧になった時、気体バッグから気体を供給することができ、全体としての閉鎖系が保たれる。また、液体還流容器及び送液管内の気体を、所望の気体で満たすことが可能になる。
【0023】
還流するための液体は特に限定されず、溶液であっても、懸濁液であっても構わないが、液体は細胞を含んでもよい。細胞は培養細胞であっても、生体から単離された細胞であってもよいが、生きていることが好ましい。生きた細胞は、泡などによる気体との接触に弱いので、第1の管が開口部を備えるという構成が特に有効に機能する。
【0024】
<細胞濃縮装置>
図1(A)は、一実施態様における細胞濃縮装置1の構成を示す図である。
【0025】
この細胞濃縮装置1は、上述した液体還流容器である、細胞懸濁液を保持するための還流容器2を備える。還流容器2の形状としては特に限定されないが、ボトル状であれば、液体を入れやすく、液量の確認も容易で便利であって、回収時も操作しやすく操作ミスが生じにくい。また、底部が円錐形状であるものは、細胞懸濁液が少量となっても吸排可能であるため好ましい。
【0026】
この還流容器2は、内部を気密に保持できるふた3を有する。ふた3には、気圧調整のための気圧調整管4が設けられていてもよい。この気圧調整管4は、メッシュサイズ0.
22μmのフィルター5を介して気体バッグ6に接続されている。気体バッグ6には予め細胞懸濁液の質的変化を抑制するガスを必要量保持している。ガスは5−10%COであることが好ましい。この気体バッグ6の形状としては特に限定されないが、袋状のものが好ましい。それによって、ガスの充填の際は事前に押しつぶして内部の気体を排出し、その後に所望のガスを充填すれば、所望のガス濃度でその容積内にガスを保持することが容易である。気体バッグの素材としては樹脂材が好適であり、さらに内部をガス保持させ
る必要から、ガス透過性が低いものがよく、エチルビニルアルコールやポリエステル、ポリ塩化ビニルなどが用いられる。
【0027】
還流容器2のふた3にはさらに、吸引管7および流入管8が設けられている。吸引管7は還流容器2の内部に開口端を有するが、還流容器2内に保持されている細胞懸濁液中に開口するように、還流容器2内での長さが調節されている。流入管8も同様に、還流容器2の内部に開口端を有し、還流容器2内に保持されている細胞懸濁液中に開口するように、還流容器2内での長さが調節されているが、流入管8には、さらに還流容器2内の気体に開口する開口部9が設けられている。
【0028】
開口部9の形状、大きさ、数などは特に限定されず、上述した液体還流容器の開口部に準じる。開口部9の形状のいくつかの例を図1(B)に示す。
【0029】
流入管8をこのような構成にすることによって、流入管8を通じて還流容器2に細胞懸濁液が流入するときは、開口端から、還流容器2内に保持されている細胞懸濁液中に直接細胞懸濁液が流入し、逆に流入管8を通じて還流容器2から吸引されると、開口部9から、還流容器2内の気体が還流容器2から流出する。
【0030】
吸引管7に接続された送液管11にはポンプ10が設けられ、送液管11内の細胞懸濁液の流れを調節する。ポンプ10はローラーポンプが好適であるが、特に限定されず、ダイヤフラムポンプ、ギヤポンプ、しごきポンプ、チューブポンプなど他の方式のポンプでも適用できる。細胞濃縮装置では送液のチューブの滅菌性を確保する必要があるため、使用前に内部を滅菌可能であることが好ましいが、使用ごとにチューブを交換可能であるローラーポンプは特に好ましい。
【0031】
送液管11には、細胞懸濁液中の細胞を濃縮するために細胞濃縮モジュール12が設けられる。この細胞濃縮モジュール12は、内部に中空糸膜を管状にした分離膜13を有し、その外側に外筒部を有する。濃縮前の細胞懸濁液は、送液管11に接続された導入口14から分離膜13に送液され、ろ過された成分が通過するろ過ポート15と、ろ過されず残留した液体の排出口16に分離される。
【0032】
ろ過ポート15はろ過管17を制御する開閉弁18に接続され、さらにろ過管17は排出バッグ19に接続されて、細胞濃縮モジュール12から排出された排出液であるろ液は、最終的に排出バッグ19に保持される。排出バッグ19には重量センサー20が設けられてもよい。この重量センサー20により、排出されたろ液の重量が計測され、ろ液の密度からろ液量が算出されて単位時間当たりの流量が計測される。なお、後述するように、開閉弁18は逆止弁としてもよい。
【0033】
一方、細胞濃縮モジュール12の排出口16に接続された送液管11は、圧力調整弁21に接続され、そこから還流容器2の流入管8に接続されている。
【0034】
この細胞濃縮装置1における送液管11、ろ過管17などに使用するチューブには、可とう性を有した樹脂材が好適であり、さらに内部をガスで通過させる必要から、ガス透過性が低いものがよく、エチルビニルアルコール(EVOH)やポリエステル、ポリ塩化ビニルなどが好適に用いられる。また開閉弁において、接続チューブを電磁弁で開閉操作するには高弾性であるゴム素材を使用する必要があるが、ガス透過性の低いゴム素材か、若しくは化学合成されたゴムなどを利用することができる。
【0035】
こうして、還流容器2に保持された細胞懸濁液は、吸引管7を通じてポンプ10を駆動源として細胞濃縮モジュール12に送液され、細胞濃縮モジュール12で濃縮され、細胞
濃縮モジュール12の排出口16より流入管8から還流容器2に戻るように構成された、還流流路となっている。圧力調整弁21はこの還流流路内の圧力を調整する。そして、コントローラー22は、ポンプ10、開閉弁18、圧力調整弁21をタイミングよく制御する。
【0036】
この細胞濃縮装置は閉鎖系であるので、細菌汚染などのリスクなく使用できる。例えば、使用前に、還流容器2、フィルター5、気体バッグ6、ポンプ10のチューブ部位、送液管11、細胞濃縮モジュール12、ろ過管17、排出バッグ19、圧力制御弁21のチューブ部位が接続チューブで繋がった細胞濃縮装置を、クリーンベンチなどの無菌空間で滅菌バックなどから取りだし、還流容器2に濃縮目的のサンプルを入れる。そしてふたをして流路の閉鎖を確認した後、ポンプなどの駆動源を備えた装置に設置することにより、閉鎖された環境を維持した上で濃縮工程を実施することができる。
【0037】
<細胞濃縮装置を用いた細胞濃縮方法>
こうした細胞濃縮装置を用いた細胞濃縮方法を以下に説明する。
【0038】
まず、濃縮させたい細胞懸濁液を還流容器2に入れる。このとき、細胞懸濁液の液量は、吸引管7及び流入管8の開口端より高くし、吸引管7及び流入管8が細胞懸濁液に直接入るようにする。また、流入管8の開口部9の一部又は全部が細胞懸濁液の液面より高くなるようにし、開口部9の一部又は全部が細胞懸濁液上の気体部分に存在するようにするが、開口部9の全部が細胞懸濁液の液面より高いほうが好ましい。
【0039】
そして、還流容器2のふた3を閉めて、還流容器2を密閉し、ろ過管17を制御する開閉弁18を開放しポンプ10を矢印23の送液方向で駆動させると、還流容器2に保持された細胞懸濁液は細胞濃縮モジュール12の排出口14に送液される。細胞懸濁液は細胞濃縮に適した送液圧力に維持されることで、細胞濃縮モジュール12において細胞懸濁液から細胞から分泌された因子や血清成分を含む液体培地が分離される。細胞濃縮モジュール12のろ過ポート15よりこれらの分離物は排出される一方、細胞濃縮モジュール12で濃縮された細胞懸濁液(細胞濃縮液)は流入管8より還流容器2に戻る。このとき、流入管8の開口端が還流容器2の細胞懸濁液内にあるので、細胞濃縮液は、泡を発生することなく、容器に保持された細胞懸濁液に穏やかに流入する。このように、本実施例による構成の還流容器2を使用すれば泡の発生を防止することができる。
【0040】
還流容器2内の細胞懸濁液が所望の液量となったとき濃縮のための送液を停止する。このとき、細胞懸濁液が細胞濃縮モジュール12を含む還流流路内部に多量に保持されているので、ポンプ10の送液方向24を、濃縮時方向と逆向きになるよう逆転させることで、流路内部の細胞懸濁液を還流容器2に回収することができる。その際、ろ過された液体が逆流しないように、事前にろ過管17を制御する開閉弁18を閉じ、更に圧力調整弁21を開放しておくことにより、開口部9より気体が供給されて還流流路内の細胞懸濁液を吸引管7より還流容器2に戻すことができ、細胞回収率を高めることができる。なお、開閉弁18を逆止弁とすることによって、上述したような開閉弁18の開閉の制御が必要なくなる。
【0041】
また、還流容器2の液量が減少した際、気圧調節管4より大気圧で保持された液体の質的変化(例えば、pHの変化)を抑制するガスが気体バッグ6より補充されて還流容器2は満たされる。例えば細胞懸濁液が重炭酸緩衝系である細胞培養用培地や細胞用緩衝液(例えば、MEMやDMEM、あるいはハンクス・バッファーやHEPESバッファー)である場合、炭酸バッファーの強度に応じてガスを5−10%COにしておくことによって、細胞懸濁液のpHの変化を限定的にすることができる。
【0042】
<参考例1>
図2は従来の一般的な還流容器2の形状である細胞濃縮装置29を示す従来例である。還流容器2内の流入管8に図1の開口部9が存在せず、流入管8の開口端が気体中に開いているときは、液体は流入管8の開口端から細胞懸濁液に落下する。その際、落下の衝撃で液体より飛沫が発生し、また底部の細胞懸濁液の液面付近の気体を巻き込んだ気泡が生じることとなる。また、還流容器2内の流入管8の開口部9が細胞懸濁液近傍、あるいは細胞懸濁液内にあるときは、ポンプ10を送液方向24に送液した際、還流容器2内の細胞濃縮液を吸引して再度還流してしまう可能性がある。
【0043】
<参考例2>
図3は、他の実施態様として示す細胞濃縮装置32である。流入管8は開口部を有さず、その開口端を還流容器2内に保持されている細胞懸濁液中に開口するようにし、かつ送液管11を分岐して、開閉弁33とフィルター34を構成している。さらに接続チューブと気体バッグ6と接続し、気体バッグ6内部のガスは還流容器2の気圧調節と、ポンプ10を送液方向24に送液した際の気相の吸気に使用される。この方法により流入管8での泡防止機能と還流容器2内の気相の流入を制限できる。しかしながら、実施例1に比べ流路構成が複雑化しかつ開閉弁33が増えたことにより制御すべき要件が増加している。
【0044】
<細胞濃縮システム>
本発明の細胞濃縮装置を利用した細胞濃縮システムを説明する。図4は細胞濃縮装置1を組み込んで、細胞濃縮工程を全自動で行う細胞濃縮システム40の構成を示したものである。本装置は、第1工程として、液体の質的変化が抑制されるガスを充填する工程、第2工程として洗浄バッファーを送液して細胞濃縮前に細胞濃縮モジュールを馴化し洗浄する工程、第3工程として、細胞懸濁液を細胞濃縮モジュールで濃縮し、細胞濃縮液を製造する工程、第4工程として他の緩衝液を送液して、細胞濃縮液を他の緩衝液で希釈するする工程、第5工程として、細胞濃縮液回収容器で細胞濃縮液を回収する工程、を全自動で実施する。
【0045】
図4に示すように、本システムは着脱可能な細胞濃縮装置と、それを保持して制御する機構部からなる。細胞濃縮装置には基本的に図1の装置を用いる。本システムではさらに、ポンプ10と細胞濃縮モジュール12との接続チューブの間に分岐を設けて、細胞濃縮液回収容器である回収ボトル25と接続し、この接続チューブを制御する開閉弁26を構成する。
【0046】
この細胞濃縮システム40には、細胞流路内の圧力を検出するための圧力センサーが設けられてもよい。例えば、細胞懸濁液の流路(本明細書では細胞流路とも称する)内の圧力を検出するために、圧力センサーを設け、細胞濃縮モジュール12とポンプ10との間の接続チューブに設置してもよい。具体的には、例えば、細胞濃縮モジュール12の上流の圧力を検出する圧力センサーPf(f:Feedの意)27と、細胞濃縮モジュール下流の圧力を検出する圧力センサーPr(r:Retentateの意)28と、細胞濃縮モジュールのろ液の圧力を検出する圧力センサーPp(p:Permeateの意)29の3つの圧力センサーを設け、これらはいずれも疎水性フィルター30を介して接続してもよい。還流する流路内の圧力を調整するコントローラー22は、圧力センサーからの情報を受け、それに基づいてポンプ10の流速を制御し、圧力調整弁21を制御する。このように、本システム40は、細胞濃縮中のせん断速度を調整し、再現よく細胞濃縮を実行するための細胞流路内の膜間差圧を制御でき、再現性確保とGMP基準に準拠するために送液量を制御することができる。また、圧力センサーは、装置の異常動作を検知して安全に濃縮工程を中断などができるので有用である。装置の異常動作の例としては、接続部が外れたり、流路破損によって急に圧力低下したり、接続チューブが閉塞したり、濃縮物が詰まったりすることが考えられ、これらが異常動作として検知され、速やかに細胞濃縮工
程を停止して処理の継続の可否など適切な処理へ移行させることができる。細胞濃縮工程では、過剰な濃縮は細胞へのダメージが飛躍的に上昇するが、これを防止するためには、このような流路内圧力の監視は必須であり、たとえば還流容器2の液体が少なくなって気体交じりの細胞濃縮液が流れ出るようにあっては、細胞濃縮モジュールでは気体はろ過ポートを通過できず、細胞濃縮モジュールに堆積する結果圧力センサーPf、Ppは直ぐに高値を示すようになる。
【0047】
同様に、この細胞濃縮システム40には、上記と同様に過剰な濃縮を防止するために、流路内流速変化の監視重量センサーを設けてもよい。重量センサーは、ろ過速度を検知するとともに、たとえば還流容器2の液体が少なくなって気体交じりの細胞濃縮液が流れ出るようになると、還流容器2の重量変化量が極端に減少したことが検知される。排出バッグ19の重量変化量の情報を元に異常検知することも可能である。例えば、重量センサー31が還流容器2の重量を計測し、還流容器2内に保持する液体の密度から保持量を算出して単位時間当たりの流量を計測してもよい。このように、監視重量センサーによって流路の異常を検知して、より安全に濃縮工程を実施する機能を有していてもよい。
【0048】
還流容器2の流入管8に繋がる接続チューブは分岐されてポンプ41の吐出口と接続される。またポンプ41の吸引口は、洗浄バッファーを保持する洗浄ボトル42の接続チューブを開閉する開閉弁43、および希釈バッファーを保持する希釈バッファーボトル44の接続チューブを開閉する開閉弁45、さらに細胞懸濁液を保持する試料容器であるサンプルボトル46の接続チューブを開閉する開閉弁47を介して、それぞれのボトルと接続されている。またポンプ41の吸引口に繋がる接続チューブは、分岐点39で分岐し、接続チューブを開閉する開閉弁48およびフィルター49を通じて、気体バッグ6と接続している。なお開閉弁43、45、47とそれぞれ接続される洗浄ボトル42、希釈バッファーボトル44、サンプルボトル46は、一般実験環境であってもチューブ同士を無菌的に接続可能にする無菌接続部品50を用いて接続される。
【0049】
気体バッグ6は、接続チューブによりフィルター5を介して洗浄ボトル2の気圧調整管に接続されたフィルター51、および希釈バッファーボトル44の気圧調整管に接続されたフィルター52、およびサンプルボトル46の気圧調整管に接続されたフィルター53を介し、それぞれのボトルと接続されている。加えて、気体バッグ6は、ガス供給源54と開閉弁55を有する接続チューブで接続されており、逆止弁56を有する。なお、図4では気体バッグ6と接続されるチューブは、気体だけが流通する管として破線で表示した。
【0050】
本システム40では、細胞濃縮装置は設置板(図示せず)で一体保持され、細胞濃縮装置組み立て後にガンマ線照射などによる滅菌処理され、使用前にシステム本体に設置してもよい。一方でシステム本体の構成は、ポンプ10および41における駆動源としてのモータ部と、開閉弁18、26、43、45、47、48および55における電磁弁部と、圧力センサー27、28、29における圧力感応部と、重量センサー20および31における重量感応部からなる。これらの機械要素と細胞濃縮装置が着脱可能になっているので、単回使用や、無菌的な細胞濃縮が可能となる。
【0051】
<細胞濃縮システムを用いた細胞濃縮方法>
図5に、細胞濃縮システム40によって細胞懸濁液を濃縮する際の作業工程を示す。本システムにおいては、作業の準備工程として、細胞濃縮システム40に細胞濃縮装置を設置し(S01)、無菌的に、細胞濃縮装置における無菌接続部50に洗浄バッファー42と希釈バッファーボトル43とサンプルボトル46を接続し(S02)、接続チューブにフィルター5、51、52、53、49を設置する(S03)。
【0052】
次に、濃縮工程における液体の質的変化が抑制されるガス(例えば、5−10%CO)を充填する第1工程では、開閉弁55を所定の時間開放して気体バッグ6にガスを充填し(S04)、次いで開閉弁26を開放後に所定の時間でポンプ10を送液方向23に向けて駆動することで、気体バッグ6から還流容器2にガスを充填する(S05)。次いで、細胞濃縮モジュールを馴化し洗浄する第2工程で、ポンプ41によって洗浄液を還流容器2に送液し(S06)、次いで還流容器2の洗浄液を細胞濃縮モジュール12に送液し、ろ液として洗浄バッファーを排出バッグに送液する(S07)。細胞濃縮液を作成する第3工程で、サンプルボトル46の細胞懸濁液を還流容器2に送液し(S08)、次いで還流容器2の細胞懸濁液を細胞濃縮モジュール12に送液し、培地成分、血清成分等をろ液として排出バッグに送液する(S09)。細胞濃縮液を他の緩衝液に再懸濁する第4工程で、希釈バッファーボトル44の希釈バッファーを還流容器2に送液し(S10)、次いで還流容器2の希釈バッファーを細胞濃縮モジュール12に送液し、希釈された培地成分、血清成分等を排出バッグに送液する(S11)。細胞濃縮液を回収する第5工程で、流路内の細胞濃縮液を還流容器2に送液し(S12)、次いで還流容器2の細胞濃縮液を回収ボトル25に送液する(S13)。
【0053】
濃縮作業の後工程として、細胞濃縮液を保持した回収ボトル25を細胞濃縮装置より取り出し(S14)、次いで細胞濃縮装置を細胞濃縮システム40より取り外して(S15)、作業を終了する。
【0054】
S09において細胞濃縮を行うときは、ろ過管17を制御する開閉弁18を開放しポンプ10を矢印23の送液方向で駆動させると、還流容器2に保持された細胞懸濁液は細胞濃縮モジュール12の排出口14に送液される。細胞懸濁液は細胞濃縮に適した送液圧力で維持されることで、細胞懸濁液より細胞を維持するための液体培地や血清成分などが分離される。細胞濃縮モジュール12のろ過ポート15よりこれらの分離物は排出され、一方で細胞濃縮液は還流容器2に流入管8より戻ってくる。このとき、流入管8の開口端が還流容器2の細胞懸濁液中にあるので、細胞濃縮液は流入管8の開口端から穏やかに流入するので、細胞ダメージを最小とし、還流容器2において泡防止が実現される。
【0055】
この細胞濃縮システム40は以下のように自動濃縮工程を行ってもよい。すなわち、膜をはさんだ圧力差の平均である膜間差圧(TMP)は、供給圧をPf、循環圧をPr、透過液圧をPpとすると、TMP=(Pf+Pr)/2−Ppと表される。通常の膜濃縮では、濃縮する細胞ごとに適したTMP値を一定として濃縮を開始し、ある程度濃縮が進行してろ過膜表面にサンプル内の細胞が保持され層状となるとろ過速度が下がる。その場合、圧力調整弁21を連動制御したり、またはポンプ流速を制御したりして、ろ過に最適なTMP値で送液制御を行う。あるいは、フラッシング動作という、ろ過側の開閉弁18を閉じたり、開けたりすることで層状形成を回避する方法も可能である。ろ液の液量を検知する重量センサー20は、単位時間当たりの重量変化をろ過速度として検知しており、フラッシング動作を実行するかどうかのろ過情報として記録保持してもよい。
【0056】
この細胞濃縮システム40は以下のように送液の定量を行ってもよい。目標送液量をVとする。洗浄バッファーの送液例では開閉弁43を開放して、ポンプ41を稼働させると、接続チューブ内の気体を送気し、気体に連なった洗浄ボトル42内の洗浄バッファーが接続チューブ内を通過して送液が開始される。洗浄バッファーはポンプ41を通過し、還流容器2に到達する。還流容器2の重量を測定可能な重量センサー31が、送液量に応じたボトルの重量計測を行う。事前に分岐点39からポンプ41と還流容器2内の流入管8までの接続チューブ内体積は既知でありこれをAとすれば、重量センサー31が(V−A)値を検知したときポンプを一時停止する。次いで開閉弁48を開放すれば、分岐点39から洗浄ボトル42内の接続チューブ内の洗浄バッファーはその落差による位置エネルギーによって洗浄バッファーボトル42にまで戻る。ポンプ41の内部構造により管は閉塞
されており、内部の液体は移動しない。次いでポンプ41を所定時間(排出時間)稼動させると、フィルター49より順次ガス導入がされるとともに接続チューブ内に一時的にとどまった洗浄バッファー(体積A)が還流容器2に移動し、目標の液量Vに相当する液量の送液が完了する。重量センサー31は、完了時の液体重量を検知して記録することができる上に、送液量と送液時間などの細胞濃縮条件をすべて記録することができるように構成してもよい。
【0057】
<複数の細胞濃縮装置を備える細胞濃縮システム>
図6は細胞濃縮液に不要な成分の持込みをさらに低減することを目的とした、複数の細胞濃縮装置を有する細胞濃縮システム60の実施態様である。本実施態様では、第1細胞濃縮装置61が、ポンプ10と細胞濃縮モジュールの間の接続チューブ11から分岐した接続チューブに開閉弁62を介して、第2細胞濃縮装置63と接続している。同様に第2細胞濃縮装置63は開閉弁64を介して、第3細胞濃縮装置65と接続している。各細胞濃縮装置として、これまでに詳述した細胞濃縮装置を用いることができる。
【0058】
この細胞濃縮システム60は以下のように使用することができる。
【0059】
第1細胞濃縮装置61において、細胞懸濁液を還流容器2に添加し、細胞懸濁液を濃縮させて第1の細胞濃縮液を得る。次いで第1細胞濃縮装置61における還流容器2の細胞濃縮液は開閉弁62を開放すると、ポンプ10によって第2細胞濃縮装置63における還流容器2に送液される。ここで第2細胞濃縮装置63における還流容器2に予め希釈バッファーを所定量保持しておけば、不要な成分の持込量を低減できる。その理由は、細胞濃縮モジュールでの分離ではしばしば目的の分離物と、除去したい成分の分子量や粒径は近いものがあり、除去したい成分は細胞濃縮モジュールに残留して詰まりのろ過量が減少する原因となっている。よってこれらの持込み量を低減するために、濃縮液を別の希釈バッファーに再懸濁して濃縮を繰り返すこととなるが、これも濃縮時間の延長を招いている。よって図6に従えば、細胞濃縮装置で濃縮した濃縮細胞を、新しい細胞濃縮モジュールを供えた細胞濃縮装置にて濃縮することで、除去したい不要な成分は使用済みの細胞濃縮装置の細胞濃縮モジュール、あるいは接続チューブや還流容器の内部に残留して、持込み量を低減できる。
【0060】
なお、各細胞濃縮装置における細胞濃縮モジュール12、および64、66をそれぞれ異なった分離能である細胞濃縮モジュールで使い分けてもよい。
【0061】
<複数の細胞濃縮モジュールを備える細胞濃縮システム>
本実施態様は、細胞濃縮液に不要な成分の持込をさらに低減することを目的とした、複数の細胞濃縮モジュールを備える細胞濃縮システム70を示す。細胞濃縮モジュール71は、上述の細胞濃縮装置1と同様の細胞濃縮モジュールを用いる。細胞濃縮装置の基本的な構成は図1を基礎とするが、本実施態様の細胞濃縮装置では、細胞濃縮モジュールを複数設けるものとする。以下、図7を参考に、細胞濃縮モジュールを三つ設けた態様を以下に説明するが、細胞濃縮モジュールは二つ以上であればよく、図7と同様にして四つ以上設けてもよい。
【0062】
すなわち、ポンプ10と細胞濃縮モジュールの間の接続チューブ11に開閉弁72を設け、その直前を分岐した接続チューブに、開閉弁73を介して第2細胞濃縮モジュール74が接続されている。同様に、開閉弁73の直前を分岐した接続チューブには、開閉弁76を介して第3細胞濃縮モジュール77が接続されている。この接続を繰り返すことで、四つ以上の細胞濃縮モジュールを接続することができる。そして、細胞濃縮モジュールにはそれぞれろ過ポートが設けられ、第1細胞濃縮モジュールにおけるろ過管を制御する開
閉弁18、第2細胞濃縮モジュールにおけるろ過管を制御する開閉弁75、第3細胞濃縮
モジュールにおけるろ過管を制御する開閉弁78が設けられ、それぞれのろ過管は排液バッグに接続されている。
【0063】
この実施態様の細胞濃縮システム70は以下のように使用する。まず、細胞懸濁液を還流容器2に保持して、第1細胞濃縮モジュール71のみを使用して細胞懸濁液を濃縮する
。その際の細胞懸濁液の濃縮は、最終目標の液量にならないようにとどめておく(例えば、減量予定量の1/3程度の減量にとどめる)。次いで、開閉弁72を閉じ開閉弁73と
75を開けて、第2細胞濃縮モジュール74のみを使用してさらに細胞懸濁液を濃縮する。その際の細胞懸濁液の濃縮は、再度、最終目標の液量にならないようにとどめておく(減量予定量の2/3程度の減量にとどめる)。次いで、開閉弁73を閉じ開閉弁76と7
8を開けて、第3細胞濃縮モジュール77のみを使用してさらに細胞懸濁液を濃縮する。そして、細胞懸濁液が目標の液量に濃縮されたとき、細胞濃縮工程を終了する。
【0064】
このような細胞濃縮システムとすることにより、部分的に濃縮した細胞懸濁液に対し、新しい細胞濃縮モジュールを用いてさらに濃縮することで、除去したい不要な成分は使用済みの細胞濃縮モジュールに残留するので、より効率よく不要な成分を除去することができる。
【0065】
なお、この細胞濃縮システムにおける細胞濃縮モジュール71、および74、77をそれぞれ異なった分離能である細胞濃縮モジュールで使い分けてもよい
【実施例】
【0066】
以下に図4の細胞濃縮システムを用いた、がん細胞における細胞濃縮方法の実施例について説明する。
【0067】
<細胞濃縮装置の構成>
細胞濃縮モジュール12として、中空糸膜によるSpectrum社製TFF細胞濃縮モジュール、ミディクロスモジュールシリーズ 型番D02−S500−05−P、膜面積190cm2、分子量500kDa)を用いた。
【0068】
開閉弁18、26、43、45、47、48および55における電磁弁にはピンチバルブ(流体圧力0.2 MPa、高砂電気工業社、型番PM−1015W)を使用した。本
電磁弁に対応する接続チューブにはエストラマチューブ(内径1/16インチ、外径1/8インチ サンゴバン社、型番AY242002)を使用した。各ポンプにはチューブポンプ(吐出/吸入圧力 +/−0.1MPa、ウェルコ社、型番WP1000−P3.2
DM4−C)としごき用チューブとしてエストラマチューブ(内径1/8インチ、外径1/4インチ サンゴバン社、型番AY242007)を組み合わせて使用した。本品はローラー部が本体のモータ部から着脱可能であるので、エストラマゴムチューブ(20.5cm長)をローラー部に巻きつけた状態で滅菌操作が可能である。本ポンプの流量は、DC12V入力において、実測結果より1mL/秒であった。電磁弁の閉止部位およびポン
プ部のしごき部位以外のチューブには材質が塩化ビニルであるタイゴンND−100(内径1/16インチ、外径1/8インチ、サンゴバン社、型番 #ADF00002)を使用した。チューブの分岐、および接合部にはSMCカップリング(CPC社)シリーズを使用した。詳細には2分岐接合にY Fitting(接合径1/16インチ、型番#HY291)、直線連結にはStraight Fitting(接合径1/16インチ、型番#HS291)を使用した。
【0069】
還流容器2には、500mLアクセサリ付き遠沈管(コーニング社、型番11750)を改造して使用し、洗浄バッファーボトル42および希釈バッファーボトル44にはサーモフィッシャー社NUNC目盛り付き角型透明ボトル(500mL、型番2015−05
00JP)を使用し、排出バッグ19にはFlexboyバッグ(EVA、EVOH2重構造、容量3L、ザルトリウス社、型番#FFB102812)を使用した。
【0070】
回収ボトル25には、50mLアクセサリ付き遠沈管(コーニング社、型番11705)を使用した。本品は予め滅菌された、容器部とふた部と、ふた部に設けられた気圧調整のための管路と、メッシュサイズ0.22μmのフィルターから成る。
【0071】
気体バッグ6にはFlexboyバッグ(EVA、EVOH2重構造、容量1L、ザルトリウス社、型番#FFB103547)を使用し、ひとつのルアーポート部に接続した逆止弁56にはチェックバルブ(アラム社、型番#PRC15、クラック圧0.2〜1.
5kPa)を使用した。
【0072】
フィルター5、49、51、52、53および疎水性フィルター30にはそれぞれベントフィルター(ZenPURE社、型番D25CUE020LFLM)を使用し、無菌接続部には、コールダープロダクツ社ASPEEPQUICK S 型番AQS17002をペアで使用した。
【0073】
以上の構成部品を安全キャビネット内で無菌的に組み立て細胞濃縮装置を作成した。次いで、細胞濃縮装置を滅菌バックに入れて封止した後、15kGryでガンマ線滅菌処理を行った。
【0074】
<細胞濃縮システムの構成>
圧力センサー27、28、29における圧力感応部には、圧力変換器(Spectrum社、型名ACPM−799−01N)およびロードセルアンプ(M−SYSTEM社、型番M2LCS−155−R/K/N)を接続して、圧力計測を行った。重量センサー20には、台秤タイプのロードセル(A&D社、型番LC4101−K1.5)とアンプ表示器(A&D社、型番AD−4513B)を使用し、重量センサー31には、上皿電子天秤(A&D社、型番EJ−610)を使用し、またコントローラーには、制御コントローラー(Keyence社、KV−5000シリーズ)を用いて自動制御を行った。
【0075】
<細胞の準備>
2.0×10個のがん細胞(HepG2細胞株)を、500ml(細胞濃度4.0×10個/ml)の増殖用培地(ウシ胎児血清10%及びペニシリン・ストレプトマイシ
ン各1%含有DMEM)に分散させ、細胞懸濁液とした。
【0076】
<細胞の自動濃縮工程>
滅菌処理した細胞濃縮装置を設置して細胞濃縮システムを構成し、各々の電磁弁と指定部位の接続チューブ、およびポンプにおけるカセット部を接続した。それぞれ500mLのPBSバッファー(シグマアルドリッチ社、型名D8537)が入った洗浄バッファーボトルと希釈バッファーボトルを、各々所定の無菌接続部に接続し自動細胞濃縮操作を開始した。なお比較対象として従来の循環ボトル(図2の形状に相当)についても、同様に比較実験を行った。気体バッグ6に保持するガス濃度は5%CO、20%O、78%Nとし、充填時送気量は送気流量0.5L/分である。
【0077】
まず、第1工程として、開閉弁55を2.5分間開放し、ガス供給源54から上記組成のガスを気体バッグ6に充填した。ここで、ガス量は気体バッグの容量よりも過剰に送気するが、逆止弁56の作用により、余剰分のガスは大気に放出されるので、気体バッグ6の内圧は大気圧に維持される。
【0078】
次いで、第2工程として洗浄ボトル42から洗浄バッファーを還流容器2に500mL
送液して、細胞濃縮モジュール12を通過させ、モジュール孔径を平均化する目的でモジュール馴化を行った。
【0079】
第3工程として、サンプルボトル46から細胞懸濁液を還流容器2に500mL送液して、細胞濃縮モジュールを通して細胞懸濁液を濃縮した。膜間差圧を40kPaに維持するよう、ポンプの印加電圧を自動制御することにより流速を制御した。還流容器2内の液量が約5mLになったとき、濃縮処理を停止した。
【0080】
第4工程として希釈バッファーボトル44から希釈バッファーを還流容器2に250mL送液し、細胞濃縮液を希釈した後で、再度濃縮処理を実施した。さらにもう一度、希釈バッファーを還流容器2に250mL送液して、さらに濃縮処理を実施し、還流容器2内の液量が約5mLになったとき、濃縮処理を停止した。
【0081】
第5工程として、回収ボトル25に細胞濃縮液を回収したとき、細胞濃縮液は10mLであった。以上で全自動の工程を停止し、回収ボトルを無菌的に濃縮装置より取り外した。
【0082】
<細胞の手技濃縮工程>
対照実験として、手技による遠心操作によって細胞濃縮を行った。細胞濃縮装置を用いた場合と同じ細胞懸濁液を、250ml遠沈管(コーニング社、型番430776)2本に分注して、遠心機(日立工機社、CR21F、ロータNo.RPR12−2)により1、000rpm(150G)で5分間遠心分離したのち、約1ml残して上清を除去した。
【0083】
<濃縮細胞の計測方法工程>
濃縮した細胞は、15mlチューブ1本で再度遠心分離して細胞のペレットを得た後、これを2mlの培地に再分散し、トリパンブルー(ナカライテスク社、型番35525−02)で定法により染色した後、血球計数盤により計数した。
【0084】
<濃縮細胞の評価結果>
図8にがん細胞の懸濁液について濃縮の結果をまとめた。「相対回収率」とはそれぞれの濃縮方法について回収率(=濃縮後回収された生細胞数/投入生細胞数)を求め、対照実験の手技(遠心分離)の回収率を1として標準化したものである。投入生細胞数は、いずれの場合でも1×107cellsである。「生細胞比率」は、回収された生細胞数/回収された全細胞数×100 (%)として求めた。図8には、各々「試行回数」の元での平均値と標準偏差値を示している。その結果、従来の循環ボトルに対し、本発明の循環ボトルを用いた場合、回収率及び生細胞比率のいずれもが改善した。これは細胞懸濁液の濃縮の際における泡の発生を抑制したために、細胞へのダメージが低下して生細胞の回収率が高まったことによるものと考えられる。
【0085】
また最終液量の制御は、濃縮液の重量計測により行っているが、従来の循環ボトルではTFF膜濃縮を通じて、しばしば過剰な濃縮になる場合があった。これは、液量の重量計測において、ボトル内の気体中を落下する液滴による重量変化値を用いて制御していたため、泡が発生しやすい状況では液滴の大きさが不均一になり、液量計測の誤差が大きく、最終的な細胞濃縮液量の調節が損なわれているためである。本発明の循環ボトルでは、送液時に、気体中を落下するのではなく、連続した流れで液中に直接送液されるので、液量の検知は連続的な変化量となり、誤差が生じにくく、正確な細胞濃縮液量が実現できる。
【符号の説明】
【0086】
1…細胞濃縮装置、2…還流容器、3…ふた、4…気圧調整管、5…フィルター、6…気
体バッグ、7…吸引管、8…流入管、9…開口部、10…ポンプ、11…送液管、12…細胞濃縮モジュール、13…分離膜、14…導入口、15…ろ過ポート、16…排出口、17…ろ過管、18…弁、19…排出バッグ、20…重量センサー、21…圧力調整弁、22…コントローラー、23…送液方向(濃縮時)、24…送液方向(回収時)、25…回収ボトル、26…開閉弁、27…圧力センサーPr、28…圧力センサーPp、29…細胞濃縮装置(従来例)30…疎水性フィルター、31…重量センサー、32…細胞濃縮装置、33…開閉弁、34…フィルター、39…分岐点、40…細胞濃縮システム、41…ポンプ、42…洗浄ボトル、43…開閉弁、44…希釈バッファーボトル、45…開閉弁、46…サンプルボトル、47…開閉弁、48…開閉弁、49…フィルター、50…無菌接続部品、51、52、53…フィルター、54…ガス供給源、55…開閉弁、56…逆止弁、60…細胞濃縮システム、61…第1細胞濃縮装置、62…開閉弁、63…第2
細胞濃縮装置、64…開閉弁、65…第3細胞濃縮装置、70…細胞濃縮システム、71…第1細胞濃縮モジュール、72…開閉弁、73…開閉弁、74…第2細胞濃縮モジュー
ル、75…開閉弁、76…開閉弁、77…第3細胞濃縮モジュール、78…開閉弁
図4
図5
図6
図8
図1
図2
図3
図7