【課題】研磨による加工性および生体親和性に優れているだけでなく、フィクスチャーとアバットメントとが擦れあってフィクスチャーがアバットメントにより削られるのを抑制することができ、しかも補綴冠にかかる衝撃を吸収する能力が高いアバットメントを提供すること。
【解決手段】歯槽骨11と結合するように構成されたフィクスチャー12に固定されるアバットメント10aの少なくとも一部が、ポリエーテルケトンケトンあるいはポリエーテルケトンケトンと同等の性質を持つ材料から形成されている。
前記複数のアバットメントの各々の少なくとも一部がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成された請求項8または請求項9に記載のアバットメントアレイ。
前記複数のアバットメントの全体がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成された請求項8または請求項9に記載のアバットメントアレイ。
【背景技術】
【0002】
従来から歯の治療には歯科インプラントが用いられている。歯科インプラントは、失われた天然の歯の代わりに用いられる人工の歯である。
【0003】
図5は、一般的な歯科インプラントを説明するための図であり、
図5(a)は、歯科インプラントが歯槽骨に取り付けられた状態を示し、
図5(b)は、
図5(a)のA−A線部分の断面構造を示し、
図5(c)は、
図5(b)に示されるアバットメントとは構造の異なるアバットメントを示している。
【0004】
歯科インプラント1aは、歯槽骨11に埋め込まれる人工歯根(以下、フィクスチャーという。)2と、フィクスチャー2に固定される支持台(以下、アバットメントという。)3と、このアバットメント3に接着剤などにより取り付けられる人工歯牙(以下、補綴冠という。)1とを有している。
【0005】
フィクスチャー2の外周にはネジ山(図示せず)が形成されている。従って、歯槽骨11に形成されたフィクスチャーの埋込穴にフィクスチャー2をねじ込むことにより、歯槽骨11にフィクスチャー2を固定することができる。アバットメント3にはネジ部材3aを挿通するネジ挿通孔が形成されており、フィクスチャー2の頭部には、ネジ部材3aと螺合する雌ネジ部(ネジ穴)が形成されている。従って、アバットメント3のネジ挿通孔を通してネジ部材3aをフィクスチャー2の雌ネジ部(ネジ穴)に螺合させることにより、フィクスチャー2にアバットメント3を取り外し自在に取り付けることができる。このような構造の歯科インプラント1aでは、フィクスチャー2からアバットメント3を取り外して、アバットメント3と顎骨11の表面を覆う歯茎13との間の清掃やアバットメント3の交換などを行うことができる。
【0006】
なお、このような一般的な歯科インプラントは、例えば、特許文献1(
図1)に開示されている。
【0007】
ところで、歯科インプラントを用いた歯の治療(例えば、前歯の治療)では、フィクスチャーの中心軸に対して補綴冠の中心軸の方向を変えて歯科インプラントを設置しなければならない場合がある。このような場合、補綴冠の中心軸がフィクスチャーの中心軸に対して傾斜した構造の歯科インプラントが用いられる(例えば、特許文献2)。
【0008】
このような歯科インプラントでは、
図5(b)に示すアバットメント3に代わるアバットメント30が用いられる。このアバットメント30は、
図5(c)に示すように、補綴冠1が取り付けられる部分(アバットメント上部)31の中心軸A31が、フィクスチャー2に取り付けられる部分(アバットメント下部)32の中心軸A32に対して傾斜した構造となっている。なぜなら、歯科インプラントは、構造上、補綴冠が取り付けられるアバットメント上部の中心軸を補綴冠の中心軸と一致させ、フィクスチャーに取り付けられるアバットメント下部の中心軸を、フィクスチャーの中心軸と一致させなければならないからである。
【0009】
ところが、フィクスチャーの中心軸に対して補綴冠の中心軸の方向を変えて歯科インプラントを設置する場合、フィクスチャーの中心軸に対する補綴冠の中心軸の傾斜角は、患者の歯の形状によってまちまちであるので、個々の治療のケースで要求される患者の歯の形状に合ったアバットメントを提供するのに、以下のような方法がとられている。
【0010】
1つの方法は、アバットメントの提供者(例えばメーカ)側でアバットメント下部の中心軸に対してアバットメント上部の中心軸を種々の角度で傾斜させた複数の種類のアバットメントを準備しておき、予め準備された複数種類のアバットメントの中から、個々の治療のケース(患者の歯の形状)に応じて、アバットメント上部の中心軸がアバットメント下部の中心軸に対して最適な角度で傾斜したものを選択するというものである。
【0011】
他の1つの方法は、個々の治療のケース毎に、アバットメント上部の中心軸がアバットメント下部の中心軸に対して適切な角度で傾斜したアバットメントをオーダーメイドで作製するというものである。
【0012】
しかしながら、これらの方法では、患者毎にカスタマイズされたアバットメントを患者に提供するのにコストがかかるという問題がある。
【0013】
例えば、複数の種類のアバットメントを準備しておく方法では、実際に必要になるかどうかわからない構造のアバットメントまで準備する必要があり、アバットメントの在庫管理に費用がかかるという問題がある。アバットメントを患者毎にオーダーメイドで作製する方法では、患者の歯の形状に合ったアバットメントが完成するまでに時間とコストがかかるという問題がある。さらに、上記のいずれの方法でも、アバットメント上部の中心軸がアバットメント下部の中心軸に対して傾斜した構造のアバットメントを得るには、アバットメント上部を加工する必要がある。通常アバットメントには、生体親和性を考慮してチタンが用いられているが、チタンは加工しにくい金属であるため、アバットメントの研磨加工自体に時間がかかり、加工費も高くつくという問題もあった。
【0014】
また、アバットメントの生体親和性に加えて研磨によるアバットメントの加工性を考慮してアバットメントの材料にジルコニアを用いると、ジルコニアがチタンなどの金属よりも硬いセラミックであることから、ジルコニアからなるアバットメントによって、チタンなどの金属で形成されたフィクスチャーが削られるといった問題もある。さらに、ジルコニアはセラミックであり、金属に比べると弾力性があまりないので、アバットメントがジルコニアから形成されている場合、噛みあわせの際に補綴冠にかかる衝撃がアバットメントで吸収されずに補綴冠で吸収されることとなり、補綴冠が破損してしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、研磨による加工性および生体親和性に優れているだけでなく、フィクスチャーとアバットメントとが擦れあってフィクスチャーがアバットメントにより削られるのを抑制することができ、しかも補綴冠にかかる衝撃を吸収する能力が高いアバットメントおよびアバットメントアレイを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明にかかるアバットメントは、歯槽骨と結合するフィクスチャーに固定される歯科インプラント用アバットメントであって、該アバットメントの少なくとも一部がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されており、そのことにより上記目的が達成される。
【0018】
本発明の1つの実施形態では、前記アバットメントは、基部と上部とを有し、該基部は前記フィクスチャーに固定され、該上部は患者の歯に合わせてカスタマイズされそこには補綴冠が固定され、かつ該上部の少なくとも一部はポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されていてもよい。
【0019】
本発明の1つの実施形態では、前記基部は1以上の既製品で構成され、前記上部はCAD/CAM装置で作製されていてもよい。
【0020】
本発明の1つの実施形態では、前記上部の全体がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されていてもよい。
【0021】
本発明の1つの実施形態では、前記フィクスチャーとの接触部が該フィクスチャーの材料と同じ硬度の材料で形成されていてもよい。
【0022】
本発明の1つの実施形態では、前記接触部および前記フィクスチャーの材料がチタンであってもよい。
【0023】
本発明の1つの実施形態では、前記アバットメントの全体がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されていてもよい。
【0024】
本発明にかかるアバットメントアレイは、歯科インプラント用アバットメントアレイであって、複数のアバットメントを含み、隣接するアバットメントの一部同士が連結し、該アレイの歯槽骨側には歯槽骨に固定された少なくとも2つのフィクスチャーに対応する位置にアバットメントの一端が突出して該一端が該フィクスチャーに固定され、該アレイの反歯槽骨側には歯槽骨の歯根に対応して並列するアバットメントの他端が突出して該他端に補綴冠が固定され、該複数のアバットメントの少なくとも一部がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されており、そのことにより上記目的が達成される。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、前記複数のアバットメントが患者の歯に合わせてカスタマイズされていてもよい。
【0026】
本発明の1つの実施形態では、前記複数のアバットメントの各々の少なくとも一部がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されていてもよい。
【0027】
本発明の1つの実施形態では、前記複数のアバットメントの全体がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されていてもよい。
【0028】
本発明の1つの実施形態では、前記フィクスチャーに対応する位置に突出する前記アバットメントの一端には、前記フィクスチャーに固定される固定部材が含まれており、該固定部材は、1以上の既製品で形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、研磨による加工性および生体親和性に優れているだけでなく、フィクスチャーとアバットメントとが擦れあってフィクスチャーがアバットメントにより削られるのを抑制することができ、しかも補綴冠にかかる衝撃を吸収する能力が高いアバットメントおよびアバットメントアレイを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明のアバットメントは、歯槽骨と結合するように構成されたフィクスチャーに固定されるものであり、アバットメントの少なくとも一部が、ポリエーテルケトンケトンあるいはポリエーテルケトンケトンと同等の性質を持つ材料から形成されているものである。
【0032】
なお、以下の説明では、ポリエーテルケトンケトン(poly ether ketone ketone)はPEKKといい、ポリエーテルケトンケトンと同等の性質を持つ材料はPEKK同等材料という。ポリエーテルケトンケトンは、例えば「ペクトン」という商品名で市販されている。
【0033】
〔PEKKをアバットメントに用いることにより得られる効果〕
PEKKは、軽量であり機械的強度も高いので、従来から航空機の素材として用いられているが、上記のようにPEKKをアバットメントの少なくとも一部に用いることにより以下の効果が得られる。
【0034】
まず、PEKKは衝撃吸収性が高いという特性を持つので、歯科インプラント用アバットメントのように人の噛む動作により大きな衝撃を何回も受ける部材にPEKKを用いることにより、歯科インプラントにかかる衝撃がPEKKで吸収され、歯科インプラントの補綴冠などの破損を回避できる。しかも、PEKKには研磨による加工性が高いという特性があるので、PEKKを患者毎のカスタマイズが必要なアバットメントに用いることで、カスタマイズされたアバットメントの作製に要する時間とコストを節約することもできる。さらには、PEKKは生体親和性が高い素材であるので、PEKKをアバットメントに用いても患者の口腔内で炎症などのアレルギー反応が生ずることはほとんどない。
【0035】
加えて、PEKKはジルコニアなどのセラミック材料に比べて柔らかいので、PEKKをアバットメントに利用することにより、チタンなどで形成されているフィクスチャーとアバットメントとの接合面で両者が擦れ合うことで交換の困難なフィクスチャーがアバットメントにより傷つけられるのを抑制することができる。
【0036】
〔PEKK同等材料をアバットメントに用いることにより得られる効果〕
PEKK同等材料は、少なくとも、PEKKの上述した特性のうちの以下の第1の特性および第2の特性を備えたものであれば、金属材料、セラミック材料、あるいは樹脂材料であるか否かを問わず、どのようなものでもよい。
【0037】
第1の特性:衝撃吸収性がジルコニアに比べて高いこと
第2の特性:研磨による加工性がチタンに比べて高いこと
上述した第1の特性および第2の特性を備えた材料をアバットメントに用いることにより、アバットメントにジルコニアを用いた場合のデメリット(衝撃吸収性が乏しい点)、およびアバットメントにチタンを用いた場合のデメリット(研磨による加工性が乏しい点)をともに改善したアバットメントを実現することができる。
【0038】
さらに、PEKK同等材料は、チタンやジルコニアと同様に生体親和性が高いというPEKKの特性(第3の特性)を備えていてもよい。第3の特性を備えたPEKK同等材料をアバットメントに用いることにより、アバットメントの衝撃吸収性および研磨による加工性の改善とともに、チタンやジルコニアと遜色のないアバットメントの高い生体親和性を実現することができる。
【0039】
さらに、PEKK同等材料は、セラミックであるジルコニアに比べて柔らかいというPEKKの特性(第4の特性)を備えていてもよい。第4の特性を備えたPEKK同等材料をジルコニアに代えてアバットメントに用いることにより、衝撃吸収性および研磨による加工性の改善とともに、フィクスチャーとアバットメントとの擦れあいによりフィクスチャーが受ける損傷の軽減を図ることができる。
【0040】
本発明の歯科インプラントのためのアバットメントは、上述したように、少なくとも一部がPEKKあるいはPEKK同等材料から形成されているものであればよい。従って、本発明のアバットメントは、アバットメントの一部がPEKKから形成されているものに限定されないが、以下では、本発明のアバットメントの一例として、補綴冠が固定されるアバットメントの上部がPEKKから形成され、フィクスチャーに固定されるアバットメントの基部がチタン素材から形成されているものを実施形態1として説明する。
【0041】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による歯科インプラントのためのアバットメントを説明するための断面図であり、
図1(a)は患者の歯槽骨に歯科インプラントを取り付けた状態を示し、
図1(b)は、歯科インプラントの構成部品を分解して模式的に示す。
【0042】
図1に示す歯科インプラント10は、歯槽骨11に挿入される略円柱状のフィクスチャー(人工歯根)12と、フィクスチャー12に取り付けられるアバットメント(支持台)10aと、アバットメント10aに取り付けられる補綴冠(人工歯牙)18とを有する。
【0043】
〔フィクスチャー12〕
ここで、フィクスチャー12はチタン素材から形成されている。ただしフィクスチャー12の材料は、チタン素材に限定されるものではない。例えば、フィクスチャー12は、生体親和性が良好であってかつ比較的硬度の高い材料であればどのようなものでもよい。
【0044】
フィクスチャー12は、欠如歯部の歯槽骨11内に形成された挿入孔11a内に挿入されて固定されるものである。フィクスチャー12の頭部には、断面非円形の係合穴12aが形成され、係合穴12aの底面部には、フィクスチャー12の中心軸に沿ってフィクスチャー12の先端側に延びるねじ穴12bが形成されている。
【0045】
〔アバットメント10a〕
アバットメント10aは、基部14と上部16とを有する。基部14は、フィクスチャー12の頭部に基部14を取り付け可能に構成されている。上部16には補綴冠18が嵌着される。
【0046】
ここで、上部16は、患者の歯に合わせてカスタマイズされた部分であって、上部16の全体がPEKKから形成されている。ただし、上部16の一部がPEKKから形成されていてもよい。さらに、上部16の一部あるいは全体がPEKKに代わるPEKK同等材料から形成されていてもよい。
【0047】
基部14は、患者の歯に合わせてカスタマイズされていない部分であり、基部14の全体がチタン素材で形成されている。ただし、基部14の一部がチタン素材から構成されていてもよい。
【0048】
以下、アバットメントについて詳述する。
【0049】
アバットメント10aは、歯科インプラント10を患者の口腔内に取り付けた状態では、アバットメント10aの基部14および上部16の周囲が歯肉13により覆われるようになっている。
【0050】
〔アバットメントの基部14〕
基部14の下端部にはフランジ14aおよび被係合部14bが形成されている。被係合部14bは、フィクスチャー12の係合穴12aに挿嵌されるように基部14の下端面の中央部に位置している。フランジ14aは、フィクスチャー12の係合穴12aの周囲に位置する上端面にフランジ14aの下面が当接するように構成されている。
【0051】
フランジ14aの下面の外径はフィクスチャー12の上端面における外径と一致している。フランジ14aの周囲は、
図1に示すように、フィクスチャー12に形成された挿入孔11aの周囲に位置する歯肉13に添って配置される。
【0052】
アバットメントの基部14は具体的には1以上の既製品で構成されており、アバットメントのメーカに対応した所定の形状を有する。従って、アバットメントの基部14にはフィクスチャー12とともに各種メーカーごとに作製されたものを使用することができる。
【0053】
またここでは、アバットメントの基部は、フィクスチャーの頭部のネジ穴12bに固定されるねじ部を有する固着具(スクリュー)17と、固着具に嵌合される合金からなる嵌合部とを含み、これにより、アバットメントの基部をフィクスチャーの頭部にネジによって固定可能な構造となっている。ここで、固着具および嵌合部には既製品を用いることができる。
【0054】
この場合、使用中にアバットメントとフィクスチャーとが微動し、その際、アバットメントの基部とフィクスチャーの頭部とのうちの硬度の低い材料で形成されている部分が磨耗するおそれがある。
【0055】
これに対しては、固着具とフィクスチャーとをほぼ同硬質の材料(例えば、チタン)で形成することにより、両者の磨耗を防止することができると共に、固着具のねじ部の摩耗によるネジの緩みを防止することもできる。
【0056】
〔アバットメントの上部16〕
アバットメントの上部16は、患者の歯にあった形状を有し、PEKKあるいはPEKK同等材料で形成されている。特に、好ましい材料は、PEKKである。PEKKあるいはPEKK同等材料は、CAM処理が行われるような処理装置によって加工できるものである。
【0057】
アバットメントの上部16は、CAD/CAM装置を用いて製作される。ここで、CAD/CAM装置を用いたアバットメントの上部16の作製は、従来より公知の方法を用いて実施することができる。例えば、CAD/CAMシステムでは、特殊なカメラで患者の口腔内を様々な角度から撮影することにより得られた口腔内の構造を示すデータが入力されると、CAD/CAMシステムのコンピュータにより、入力されたデータに基づいてアバットメントの上部16の印象型が設計される。CAD/CAMシステムでは、設計された印象型に基づいて工作機械によりアバットメントの材料が加工され、これによりアバットメントの上部が作製される。なお、CAD/CAMシステムのコンピュータのディスプレイ上には印象型が表示される。
【0058】
あるいは、患者の口腔内の形状は、石膏型などで測定し、石膏型などで測定した口腔内の形状を示すデータをCAD/CAMシステムに入力することによりアバットメントの上部を作製することもできる。
【0059】
次に、歯科インプラントの作製および歯科インプラントを用いた治療の流れについて説明する。
【0060】
まず、患者の顎領域が、3次元記録装置、好ましくはスキャナーによって記録される。スキャン操作によって測定された患者の顎領域の構造を示すデータは、EDP装置によって、基礎データに変換される。なお、EDP装置は、CAD装置、CAM装置、またはCAD/CAM装置に統合できる。これらの基礎データは、後に続く全ての計算や自動処理操作に利用される。例えば、基礎データから、インプラントの傾き、インプラント深さ、位置を決定することができる。
【0061】
また、アバットメントの形状と位置を定めるアバットメントデータは、基礎データから得られたインプラントデータから得ることができる。その後、CAD/CAM装置では、個々のアバットメントの上部がアバットメントデータに基づいて研磨やフライス削りのような金属切削によって製造される。アバットメントの上部のCAD/CAM装置における自動化された製造は、形状的に正確な適合を保証する。
【0062】
次に、本発明の歯科インプラントを用いた具体的な治療方法を説明する。
【0063】
先ず、患者の欠如歯部の歯槽骨11に挿入孔11aが形成され、この挿入孔11a内にインプラントフィクスチャー12が挿入される。
【0064】
アバットメントの基部14とアバットメントの上部16とは予め接着剤(接着セメント)15などで固定されてアバットメント10aとして組み立てられている。
【0065】
次に、アバットメントの基部14の被係合部14bがフィクスチャー12の係合穴12aに挿入されるように、アバットメント10aがフィクスチャー12の頭部上に載置され、アバットメントの基部14がスクリュー17によりフィクスチャー12の頭部に固定される。この状態では、スクリュー17はアバットメント10aを通してフィクスチャー12の雌ねじ穴12bによりねじ込まれている。
【0066】
その後、補綴冠18がアバットメント14の上部16にセメントで嵌着される。
【0067】
このようにアバットメントの基部14とフィクスチャー12の頭部とは、基本は、接着セメントを用いずにスクリューのみで固定され、接着セメントは、アバットメントの基部14とアバットメントの上部16との接着、および補綴冠18とアバットメント14の上部16との接着に用いられる。また、補綴冠の一部がアバットメント14の上部16を兼ねている場合などは、接着セメントは、アバットメントの基部14と補綴冠との接着に用いられる。
【0068】
なお、歯槽骨11に挿入されたフィクスチャー12の中心軸に対して補綴冠18の中心軸を傾斜させて歯科インプラントを口腔内に取り付ける場合には、CAD/CAM装置を用いて製作された、フィクスチャー12の中心軸に対して上部16の中心軸が所定の角度で傾斜するアバットメントの上部16が使用される。
【0069】
図2は、このような構造のアバットメントを示す図であり、
図2(a)〜
図2(d)は種々の症例で用いられるアバットメントの上部の構造を示している。
【0070】
例えば、
図2(a)に示すアバットメントの上部16aは、歯肉の厚い症例に使用するものであり、アバットメントの上部16aの下端部16a1の高さは1−4mm、下端部16a1の外径は2.5−7.5mm、アバットメントの上部16aの高さは8−12mmであり、アバットメントの上部16aの上端部16a2の側辺はその上部の中心軸に対して症例毎に適切な角度傾斜させることができる。
【0071】
図2(b)に示すアバットメントの上部16bは、歯肉の薄い症例の場合に使用するものであり、アバットメントの上部16b、下端部16b1、および上端部16b2の寸法などは
図2(a)に示すアバットメントの上部16aのものと同程度である。ただし、アバットメントの上部16bでは、下端部16b1の断面構造がアバットメントの上部16aのものと異なっている。
【0072】
図2(c)に示すアバットメントの上部16cおよび
図2(d)に示すアバットメントの上部16dでは、上端部16c2、16d2の中心軸がフィクスチャーの中心軸に対して症例毎に適切な角度傾斜させられている。また、
図2(c)に示すアバットメントの上部16cは、歯肉の厚い症例の場合に使用するものであり、
図2(d)に示すアバットメントの上部16dは、歯肉の薄い症例の場合に使用するものである。アバットメントの上部16c、16d、下端部16c1、16d1、および上端部16c2、16d2の寸法などはアバットメントの上部16aのものと同程度である。
【0073】
なお、
図2(a)から
図2(d)に示すアバットメントの上部の構造は、CAD/CAM装置で作製する構造の設計例であり、アバットメントの上部は症例毎に自由に設計可能である。
【0074】
このような構成の実施形態1の歯科インプラント10では、アバットメント10aを、フィクスチャー12の頭部に固定されるアバットメントの基部14と、アバットメントの基部14に固定されるアバットメントの上部16とを含む構造とし、基部14に既製品を用い、上部16の材料に加工しやすいPEKKを用いたので、アバットメントの基部を既製品により比較的安価に提供することができ、しかもPEKKはチタンなどの金属に比べて研磨による加工性が高いことから、アバットメントの上部をCAD/CAM装置による加工(研磨やフライス削りのような金属切削)によって簡単にカスタマイズすることができる。
【0075】
また、アバットメントの上部16が衝撃吸収性能の高いPEKKで形成されていることから、上部16に固定される補綴冠18にかかる衝撃が上部16で吸収されることとなり、補綴冠18が破損するのを抑制することができる。
【0076】
さらにPEKKは生体親和性に富んだ材料であるので、歯肉13のアバットメントの上部16との接触部分で炎症などが起こるなどの不具合を回避できる。
【0077】
またPEKKは高分子材料であるので、PEKKで形成されたアバットメントの上部が、チタンなどの金属で形成されたもののように金属疲労により経年劣化を起こすのを回避できる。
【0078】
さらには、フィクスチャー12に対して取り外し可能に固定されるアバットメントを上記のとおり基部14と上部16とを含む構造とし、上部16にPEKKを用いることで、PEKKの弱点(硬度の低さによる摩耗しやすさ)を引き出すことなく、上述したPEKKの持つアバットメントとして優れた種々の特性を利用することができる。
【0079】
簡単に説明すると、フィクスチャー12が固定される基部14と補綴冠18が固定される上部16とを含む構造のアバットメント10aでは、基部とフィクスチャーとをネジなどで固定することで、上部と基部とを接着剤で固定した場合でも、アバットメントとフィクスチャー12とは取り外し可能とすることができる。従って、基部と上部とを含むアバットメントの上部をPEKKで形成した場合、上部と基部および補綴冠とを接着剤で固定することによりPEKKの摩耗しやすさをカバーしつつ、PEKKの優れた特性を利用することができる。
【0080】
なお、上記実施形態1では、アバットメントの基部はフィクスチャーの頭部にネジによって固定しているが、アバットメントの基部とフィクスチャーとの固定は、接着ピンを接着剤によりアバットメントの基部およびフィクスチャーの頭部に接着することにより行ってもよい。
【0081】
(実施形態1の変形例)
図3は、本発明の実施形態1の変形例を説明するための図であり、
図3(a)〜
図3(c)は、実施形態1の変形例1〜変形例3によるアバットメントを示している。なお、図中、
図1と同一符号は実施形態1のものと同一の部材を示す。
【0082】
これらの変形例1、変形例2、変形例3による歯科インプラント110、210、310はそれぞれ、実施形態1の歯科インプラントと同様に、フィクスチャーとアバットメントと補綴冠とを有するが、それぞれ以下の点で実施形態1のものとは異なる。
【0083】
図3(a)に示す歯科インプラント110では、アバットメント110aの基部114の被係合部114bの中心軸方向の長さが、実施形態1のものに比べて長くなっており、これに伴って、フィクスチャー112の係合穴112aの深さも実施形態1のものに比べて深くなっている。
【0084】
図3(b)に示す歯科インプラント210では、フィクスチャー212の上面に係合突部212aが形成され、この係合突部212aがアバットメントの基部214の下面に形成された係合孔214bに係合するようになっている。係合孔214bの周囲には、フランジ214aがフィクスチャー212の係合突部212aの周囲に密着するように形成されている。従って、アバットメントの基部214が実施形態1のものより太くなっており、このため、アバットメント210aの上部216の基部214が挿入されるスペースは実施形態1のものと比べて大きくなっている。
【0085】
さらに、
図3(c)に示す歯科インプラント310は、補綴冠318の一部がアバットメント310aの上部316を兼ねている点で実施形態1のものと異なる。この変形例3の歯科インプラント310では、補綴冠318の全体をPEKKあるいはPEKK同等材料で形成してもよい。
【0086】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2による歯科インプラント用アバットメントアレイを説明するための斜視図である。
【0087】
図4に示す歯科インプラント500のアバットメントアレイ50は、患者の下顎あるいは上顎に取り付けるものであり、ここでは、患者の下顎あるいは上顎に1つのアバットメントアレイ500が取り付けられる場合を想定している。
【0088】
アバットメントアレイ500は複数のアバットメント50a、50bを含む。隣接するアバットメント50a、50bの一部同士は連結している。アレイの歯槽骨側には歯槽骨に固定された少なくとも2つ(ここでは6本)のフィクスチャー12に対応する位置にアバットメントの複数の一端51が突出して複数の一端51が複数のフィクスチャー12に固定される。ここで、アバットメントの一端51は、アバットメントアレイ50をフィクスチャー12に固定するための第1の固定部となっている。第1の固定部51には、フィクスチャー12に固定される既製品の部材60が組み込まれている。部材60は1つの既製品で構成されていてもよいが、2以上の既製品からなるものでもよい。フィクスチャー12に固定される第1の固定部51は、アバットメントアレイのすべてのアバットメントに対応して設ける必要はないが、第1の固定部51はその位置が患者の歯の歯根の位置に対応するように配置されている。
【0089】
アレイの反歯槽骨側には歯槽骨の歯根に対応して並列するアバットメントの複数の他端52が突出して複数の他端52のそれぞれに補綴冠18が固定される。ここで、アバットメントの他端52は、アバットメントアレイ50に補綴冠を固定するための第2の固定部となっている。補綴冠18が固定される第2の固定部52は、アバットメントアレイのすべてのアバットメントに対応して設けられている。また、第2の固定部52の位置は、患者の歯の歯根の位置に対応している。
【0090】
アバットメントアレイ50のすべてのアバットメント50a、50bは患者の歯に合わせてカスタマイズされており、複数のアバットメント50a、50bの全体がポリエーテルケトンケトンあるいはそれと同等の性質を持つ材料で形成されている。
【0091】
なお、アバットメントアレイ50では、フィクスチャー12が固定される一端(第1の固定部)51は、必ずしも補綴冠の数だけ必要なものではなく、少なくとも2つあればよい。なぜなら、アバットメントアレイ50を歯槽骨に固定することは2つのフィクスチャーがあれば可能であるからである。
【0092】
従って、アバットメントアレイ50には2種類のアバットメント、つまり、補綴冠18が固定される他端52(第2の固定部)のみが形成されているアバットメント50aと、補綴冠18が固定される他端52(第2の固定部)とフィクスチャー12が固定される一端51(第1の固定部)とを含むアバットメント50bとがある。
【0093】
さらに、アバットメントアレイ50におけるアバットメントの個数は、アバットメントアレイ50に装着される補綴冠の個数と同じであり、アバットメントアレイの設計段階で患者の歯牙欠損部分の数に応じて2以上の任意の個数に設定される。
【0094】
なお、上記実施形態2では、患者の上顎あるいは下顎には1つのアバットメントアレイを取り付ける場合について説明したが、患者の上顎あるいは下顎には、2以上のアバットメントアレイを装着してもよい。
【0095】
例えば、2以上のアバットメントアレイを下顎あるいは上顎に歯槽骨に沿って分散させてあるいは隣接させて配置してもよい。