【解決手段】プッシュパルスを送信してせん断波の伝播状態を検出する超音波診断装置であって、送信プロファイルに基づいてプッシュパルスを送信するプッシュパルス送信部と、プッシュパルスに続き超音波を被検体へ複数回送信し、送信にされた超音波に対応する被検体からの反射超音波を受信して、プッシュパルスに起因するせん断波による変位を検出する変位検出部と、検出した変位に基づいて、せん断波の伝播状態を評価する評価部と、評価結果に基づいて、送信プロファイルを調整するプッシュパルス調整部とを備え、送信プロファイルを調整した場合に、プッシュパルス送信部は調整後の送信プロファイルに基づいて新たなプッシュパルスを送信し、変位検出部は新たなプッシュパルスに起因する変位を検出する。
超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後超音波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の、前記被検体内の着目領域における伝播状態を検出する超音波診断装置であって、
送信プロファイルに基づいてプッシュパルスを送信するプッシュパルス送信部と、
前記プッシュパルスに続き超音波を被検体へ複数回送信し、送信された超音波に対応する被検体からの反射超音波を受信して複数の受信信号を時系列に取得し、前記着目領域内の組織の、前記プッシュパルスに起因するせん断波による変位をそれぞれ検出する変位検出部と、
前記変位検出部による検出結果に基づいて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を評価する評価部と、
前記評価部が評価した結果に基づいて、前記送信プロファイルを調整するプッシュパルス調整部とを備え、
前記プッシュパルス調整部が送信プロファイルを調整した場合に、
前記プッシュパルス送信部は、調整された後の送信プロファイルに基づいて新たなプッシュパルスを送信し、
前記変位検出部は、前記新たなプッシュパルスに起因するせん断波による変位を検出する
ことを特徴とする超音波診断装置。
前記変位検出部が検出した前記複数の受信信号が取得された各時刻に対応する前記着目領域内の組織の変位を用いて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を解析する伝播解析部をさらに備え、
前記評価部は、前記伝播解析部が前記変位検出部による検出結果を解析した結果に基づいて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を評価する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
前記伝播解析部は、前記変位検出部による検出結果に基づいて、前記複数の受信信号が取得された各時刻に対応する、前記着目領域内の各位置におけるせん断波の伝播速度を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載の超音波診断装置。
前記評価部は、前記変位検出部が検出した前記複数の受信信号が取得された各時刻に対応する前記着目領域内の組織の変位を用いて、前記着目領域内におけるせん断波の伝播状態を評価する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記送信プロファイルは、プッシュパルスが集中する位置、プッシュパルスの時間長、プッシュパルスの送信に用いる前記超音波探触子の素子数、又はプッシュパルスの送信回数の少なくとも1つを制御パラメータとして含み、
前記プッシュパルス調整部は、前記制御パラメータのうち少なくとも1つを変更する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
前記送信プロファイルは、プッシュパルスが集中する位置を示す制御パラメータとして、プッシュパルスが集中する深さと、プッシュパルスの伝播する向きと前記超音波探触子との間の角度とを含む
ことを特徴とする請求項6に記載の超音波診断装置。
前記プッシュパルス調整部は、プッシュパルスの送信回数を1から2に変更する場合、被検体内の異なる2つの位置のうち一方を第1のプッシュパルスが集中する位置として、他方を第2のプッシュパルスが集中する位置として選択する
ことを特徴とする請求項6または7に記載の超音波診断装置。
前記プッシュパルス調整部は、前記着目領域において、前記せん断波が伝播していない領域より浅い領域と深い領域とのいずれか一方のみに前記せん断波が伝播している場合、前記せん断波が伝播していない領域にプッシュパルスが集中する位置を近づける
ことを特徴とする請求項9に記載の超音波診断装置。
前記プッシュパルス調整部は、前記着目領域において、前記せん断波が伝播していない領域より深い領域と浅い領域との双方に前記せん断波が伝播している場合、前記超音波探触子の素子配列方向にプッシュパルスが集中する位置を移動させる
ことを特徴とする請求項9に記載の超音波診断装置。
前記プッシュパルス調整部は、前記超音波探触子の素子配列方向において、前記せん断波が伝播していない領域が前記着目領域の一端を含み、かつ、前記せん断波が伝播していない領域より前記着目領域の他端側に前記せん断波が伝播している場合、プッシュパルスのエネルギーを上昇させる、前記せん断波が伝播していない領域の内部または近傍に新たなプッシュパルスが集中する位置を追加する、のいずれかを行う
ことを特徴とする請求項9に記載の超音波診断装置。
前記プッシュパルス調整部は、前記超音波探触子の素子配列方向において、せん断波が伝播している領域に前記せん断波が伝播していない領域が挟まれている場合、前記せん断波が伝播していない領域の近傍に新たなプッシュパルスが集中する位置を追加する
ことを特徴とする請求項9に記載の超音波診断装置。
超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後超音波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の、前記被検体内の着目領域における伝播状態を検出する超音波診断装置の制御方法であって、
送信プロファイルに基づいてプッシュパルスを送信し、
前記プッシュパルスに続き超音波を被検体へ複数回送信し、送信された超音波に対応する被検体からの反射超音波を受信して複数の受信信号を時系列に取得し、前記着目領域内の組織の、前記プッシュパルスに起因するせん断波による変位をそれぞれ検出し、
前記せん断波による変位の検出結果に基づいて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を評価し、
前記せん断波の伝播状態の評価結果に基づいて、前記送信プロファイルを調整し、
前記送信プロファイルを調整した場合、さらに、
調整された後の送信プロファイルに基づいて新たなプッシュパルスを送信し、
前記新たなプッシュパルスに起因するせん断波による変位を検出する
ことを特徴とする制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
発明者は、せん断波を用いて組織の硬さの測定を行う超音波診断装置において、測定精度を向上させるために各種の検討を行った。
上述したように、せん断波の伝播速度は組織の弾性率に応じて変化する。そのため、組織の硬さの測定精度を向上させるには、せん断波の伝播速度を精度よく算出する必要がある。そのためには、せん断波による組織の変位が大きく、せん断波が減衰せず着目領域全体に行きわたることが好ましい。一方で、被検体内の組織に必要以上に変位を生じさせることは、組織への影響の観点から好ましくない。したがって、被検体に負担をかけずに組織の硬さの測定精度を向上させるためには、組織に対して悪影響を与えない範囲内で変位を最大化することが好ましい。
【0011】
また、着目領域に硬さの異なる複数の組織があるなど組織の硬さが不均一である場合、硬さが変化する箇所、例えば、組織の境界において、せん断波の反射や屈折が起きうる。このような場合、せん断波の進行方向が変化したり、進行波と反射波とが干渉したりすることで、せん断波の速度が算出できない、または、精度が低下することがある。
このような問題への対処は、組織の硬さの測定を行う前に行うことが難しい。せん断波の減衰、反射、屈折などは組織の硬さそのものに依存するからである。例えば、特許文献1に開示されているように、超音波画像(Bモード画像)に基づいて着目領域が適切であるか否かの判定を行うことはできるが、プッシュパルスの送信プロファイルの調整は、超音波画像(Bモード画像)や一度行った組織の硬さ測定の結果に基づいて、検査者が手探りで行う必要がある。
【0012】
そこで、発明者は、上記課題に鑑み、プッシュパルスの送信プロファイルを最適化し組織の硬さ測定の精度を向上させる技術について検討を行い、実施の形態に係る超音波診断装置に相当するに至ったものである。
以下、実施の形態に係る超音波診断装置について図面を用いて詳細に説明する。
≪実施の形態≫
実施の形態に係る超音波診断装置1のブロック図を
図1に示す。超音波診断装置1は、制御部11、せん断波励起部12、超音波信号取得部13、変位検出部14、伝播解析部15、評価部16、プッシュパルス調整部17、断層画像記憶部18、変位量記憶部19、波面画像記憶部20、弾性画像記憶部21を備える。また、制御部11には、超音波探触子2と表示部3とがそれぞれ接続可能に構成されている。
図1は超音波診断装置1に超音波探触子2、表示部3が接続された状態を示している。
【0013】
超音波探触子2は、例えば、一次元方向に配列された複数の振動子(不図示)を有する。各振動子は、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)により構成される。超音波探触子2は、せん断波励起部12で生成された電気信号(以下、「ARFI駆動信号」と呼ぶ)、または、超音波信号取得部13で生成された電気信号(以下、「送信駆動信号」と呼ぶ)を制御部11から受け取り、超音波に変換する。超音波探触子2は、超音波探触子2の振動子側外表面を被検体の皮膚表面など表面に接触させた状態で、ARFI駆動信号又は送信駆動信号から変換され、複数の振動子から発せられる複数の超音波からなる超音波ビームを被検体内の測定対象に向けて送信する。そして、超音波探触子2は、送信駆動信号に基づく送信超音波に対する、測定対象からの複数の反射超音波を受信し、複数の振動子によりこれら反射超音波をそれぞれ電気信号(以下、「素子受信信号」と呼ぶ)に変換し、制御部11を介して素子受信信号を超音波信号取得部13に供給する。なお、ここではせん断波励起部12及び超音波信号取得部13を別構成として説明しているが、超音波信号取得部13の送信駆動信号を生成する構成と同一の構成により、ARFI駆動信号を生成してもよい。
【0014】
せん断波励起部12は、プッシュパルスを超音波探触子2に送出させるための電気信号であるARFI駆動信号を生成する。プッシュパルスとは、被検体内にせん断波を発生させるため、被検体内の組織に変位をもたらすためのパルス状の超音波である。具体的には、被検体内の着目領域内のある1点を焦点とする、波数が後述する送信超音波より多い超音波である。したがって、ARFI駆動信号は、超音波探触子2を構成する各振動素子から送出される超音波が焦点に届くように生成される、パルス状の電気信号である。せん断波励起部12は、制御部11から、プッシュパルスの連続送信回数、および各プッシュパルスの焦点位置、送信に用いる振動子、波数または送信時間長などを規定した送信プロファイルを受け取り、送信プロファイルに基づいて1以上のARFI駆動信号を生成する。
【0015】
超音波信号取得部13は、送信超音波を超音波探触子2に送出させるための電気信号である送信駆動信号を生成する。送信駆動信号は、超音波探触子2を構成する各振動素子から送出される送信超音波が送信フォーカス点に同時に届くように生成される、振動素子ごとにタイミングの異なるパルス状の電気信号である。また、超音波信号取得部13は、反射超音波に基づく素子受信信号に整相加算を行って音響線信号を生成する。超音波信号取得部13は、生成した音響線信号を、制御部11を介して断層画像記憶部18に出力する。
【0016】
変位検出部14は、変位検出の対象となる1つの断層画像に係る複数の音響線信号(以下、「断層画像信号」と呼ぶ)と、基準となる1つの断層画像に係る複数の音響線信号(以下、「基準断層画像信号」と呼ぶ)とを、制御部11を介して断層画像記憶部18から取得する。基準断層画像信号とは、断層画像信号からせん断波による変位を抽出するために用いるものであり、具体的には、プッシュパルス送出前に着目領域を撮像した断層画像信号である。そして、変位検出部14は、断層画像信号と基準断層画像信号との差分から、断層画像信号の各画素の変位を検出し、変位を各画素の座標と関連付けて変位画像を生成する。変位検出部14は、生成した変位画像を、制御部11を介して変位量記憶部19に出力する。
【0017】
伝播解析部15は、変位画像を、制御部11を介して変位量記憶部19から取得する。伝播解析部15は、変位画像から、変位画像を取得した各時刻における、せん断波の波面の位置、進行方向および速度を検出し、波面画像を生成する。伝播解析部15は、せん断波の波面の位置、進行方向および速度から、変位画像の各画素に対応する被検体組織の弾性率を算出し、弾性画像を生成する。伝播解析部15は、生成した波面画像を波面画像記憶部20に、弾性画像を弾性画像記憶部21に、制御部11を介してそれぞれ出力する。
【0018】
評価部16は、制御部11を介して波面画像を波面画像記憶部20から取得する。評価部16は、せん断波の波面の位置、進行方向および速度を基に、例えば、着目領域におけるせん断波の伝播の有無、せん断波の伝播の一様性、せん断波の反射や屈折の有無を評価する。評価部16は、評価結果を制御部11に出力する。詳細は後述する。
プッシュパルス調整部17は、制御部11から評価部16が出力した評価結果を取得する。プッシュパルス調整部17は、評価結果を基に、プッシュパルスの送信プロファイルを最適化し、最適化した後の送信プロファイルを制御部11に出力する。詳細は後述する。
【0019】
制御部11は、上述したような各構成要素の制御に加え、伝播解析部15が生成した弾性画像を表示部3に出力する。
断層画像記憶部18、変位量記憶部19、波面画像記憶部20、弾性画像記憶部21は、それぞれ、断層画像、変位画像、波面画像、弾性画像データを記憶する。断層画像記憶部18、変位量記憶部19、波面画像記憶部20、弾性画像記憶部21のそれぞれは、例えば、RAM、フラッシュメモリ、ハードディスク、光学ディスクなどの記憶媒体で実現される。なお、断層画像記憶部18、変位量記憶部19、波面画像記憶部20、弾性画像記憶部21のうち2以上を単一の記憶媒体で実現してもよい。また、断層画像記憶部18、変位量記憶部19、波面画像記憶部20、弾性画像記憶部21のうち1以上は、超音波診断装置1の外部に構成され、インターフェースを介して超音波診断装置1と接続されてもよいし、超音波診断装置1からネットワークを介してアクセス可能に構成された資源、例えば、ファイルサーバやNAS(Network Attached Storage)であってもよい。
【0020】
制御部11、せん断波励起部12、超音波信号取得部13、変位検出部14、伝播解析部15、評価部16、プッシュパルス調整部17のそれぞれは、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Ingegrated Circuit)などのハードウェアにより実現される。なお、これらの一部または全部は、単一のFPGA、または、ASICで実現されてもよい。また、これらは、それぞれ個別に、または、2以上を1まとめとして、メモリと、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)などのプログラマブルデバイスとソフトウェアで実現されてもよい。
【0021】
≪動作≫
実施の形態に係る超音波診断装置1の動作について説明する。
図2は、超音波診断装置1全体の動作を示すフローチャートである。
まず、制御部11が、被検体内に着目領域を設定する(ステップS10)。着目領域を設定する方法は、例えば、表示部3に断層画像記憶部18に記録されている最新の断層画像を表示し、タッチパネル、マウス、トラックボールなどの入力部(図示しない)を通して検査者に着目領域を指定させる。なお、着目領域の設定方法はこの場合に限られず、例えば、断層画像の全域を着目領域としてもよいし、あるいは、断層画像の中央部分を含む一定範囲を着目領域としてもよい。また、着目領域を設定する際に、断層画像を取得してもよい。
【0022】
次に、着目領域に超音波を送受信し、取得した受信信号を記憶する(ステップS20)。具体的には、次のような動作となる。まず、以下のように送信イベントを行う。最初に、超音波信号取得部13が、パルス状の送信信号を生成する。次に、超音波信号取得部13は、送信信号に対して、超音波探触子2の素子毎の遅延時間を設定する送信ビームフォーミングを行い、超音波探触子2の各素子に対応する複数の送信駆動信号を生成する。超音波探触子2の各振動子は対応する送信駆動信号を超音波に変換することで、超音波ビームが被検体内に送出される。次に、超音波探触子2の各振動子は、被検体内から反射された反射超音波を取得して素子受信信号に変換する。超音波信号取得部13は、素子受信信号に整相加算を行い、音響線信号を生成する。制御部11は、送信イベントごとに超音波信号取得部13から音響線信号を取得し、1つの断層画像を構成する複数の音響線信号を、断層画像信号として、断層画像記憶部18に記憶する。
【0023】
次に、プッシュパルスを送信する(ステップS30)。具体的には、せん断波励起部12が、制御部11に保持されている送信プロファイルを用いて、パルス状のARFI信号を生成する。次に、せん断波励起部12は、ARFI信号に対して、超音波探触子2の素子毎の遅延時間を設定する送信ビームフォーミングを行い、超音波探触子2の各素子に対応する複数のARFI駆動信号を生成する。ここで、プッシュパルスを始めて送信する場合は、例えば、着目領域の中央を焦点位置とし、超音波探触子2の振動子列の中心を含む所定数の素子を用いて、1回だけ所定の時間長のプッシュパルスを送信するような初期送信プロファイルを用いる。超音波探触子2の各振動子は対応する送信駆動信号を超音波に変換することで、プッシュパルスが被検体内に送出される。なお、2以上のプッシュパルスを送信する送信プロファイルを用いる場合、それぞれのプッシュパルスを連続して送信する。
【0024】
ここで、プッシュパルスによるせん断波の生成について、
図3(a)〜(e)の模式図を用いて説明する。
図3(a)は、着目領域に対応した被検体内領域の、プッシュパルス印加前における組織を示した模式図である。
図3(a)〜(e)において、個々の“○”は、着目領域における被検体内の組織の一部を、破線の交点は、負荷がない場合の組織”○“の中心位置を、それぞれ示している。ここで、超音波探触子2を皮膚表面100に密接させた状態で焦点101に対してプッシュパルスを印加すると、
図3(b)の模式図に示すように、焦点101に位置していた組織132が、プッシュパルスの進行方向に押されて移動する。また、組織132からプッシュパルスの進行方向側にある組織133は、組織132に押されてプッシュパルスの進行方向に移動する。次に、プッシュパルスの送信が終了すると、組織132、133が元の位置に復元しようとするので、
図3(c)の模式図に示すように、組織131〜133がプッシュパルスの進行方向に沿った振動を開始する。すると、
図3(d)の模式図に示すように、振動が組織131〜133に隣接する、組織121〜123および組織141〜143に伝播する。さらに、
図3(e)の模式図に示すように、振動がさらに組織111〜113および組織151〜153に伝播する。したがって、被検体内において、振動が振動の方向と直交する向きに伝播する。すなわち、せん断波がプッシュパルスの印加場所に発生し、被検体内を伝播する。
【0025】
図2に戻って説明を続ける。次に、着目領域に超音波を複数回送受信し、取得した複数の超音波信号を記憶する(ステップS40)。具体的には、プッシュパルスの送信終了の直後から、例えば、秒間1万回、ステップS20と同じ動作を繰り返し行う。これにより、せん断波の発生直後から伝播が終わるまでの間、被検体の断層画像を繰り返し取得する。
【0026】
次に、各画素の変位を検出する(ステップS50)。具体的には、変位検出部14が、ステップS20で断層画像記憶部18に記憶された断層画像信号を、基準断層信号として取得する。上述したように、基準断層画像信号は、プッシュパルスの送出前、すなわち、せん断波の発生前に取得された断層画像信号である。次に、変位検出部14は、ステップS40で断層画像記憶部18に記憶された各断層画像信号に対し、基準断層画像信号との差分から、当該断層画像信号が取得された時刻における、各画素の変位を検出する。具体的には、例えば、断層画像信号を8ピクセル×8ピクセルなどの所定の大きさの領域に分割し、各領域と基準断層画像信号とをパターンマッチングすることで、断層画像信号の各画素の変位を検出する。パターンマッチングの方法としては、例えば、各領域と基準断層画像信号内の同サイズの基準領域との間で、対応する画素毎に輝度値の差分を算出してその絶対値の合計値を算出し、その合計値が最も小さくなる領域と基準領域との組み合わせについて、領域と基準領域とが同一の領域であるものとし、領域の基準点(例えば、左上の角)と基準領域の基準点との距離を変位として検出する。なお、領域のサイズは8ピクセル×8ピクセル以外であってもよいし、輝度値の差分の絶対値の合計値に替えて、例えば、輝度値の差分の2乗の合計値を用いてもよい。また、変位として、領域の基準点と基準領域の基準点とのy座標の差(深さの差)を算出してもよい。これにより、各断層画像信号の各画素に対応する被検体の組織が、プッシュパルスまたはせん断波によってどれだけ動いたかが変位として算出される。なお、変位の検出方法はパターンマッチングに限られず、例えば、断層画像信号と基準断層画像信号との相関処理など、2つの断層画像信号間の動き量を検出する任意の技術を用いてよい。変位検出部14は、1の断層画像に係る各画素の変位を当該画素の座標と対応付けることで変位画像を生成し、生成した変位画像を変位量記憶部19に出力する。
【0027】
次に、せん断波の伝播解析を行う(ステップS60)。具体的には、各変位画像からせん断波の波面を抽出して波面画像を生成する。この波面画像より、波面の位置、振幅、進行方向および速度を容易に検出することができる。波面画像の生成は、例えば、変位領域の抽出、細線化処理、空間フィルタリング、時間フィルタリングの手順によって行う。
図4を用いて具体的な処理を説明する。
図4(a)は、変位画像の一例を示している。
図3と同じく、図中の“○”は着目領域における被検体内の組織の一部を示しており、プッシュパルスを印加する前の位置は破線の交点である。また、x軸は超音波探触子2における素子の並ぶ方向、y軸は、被検体の深さ方向である。伝播解析部15は、y座標ごとに変位量δを座標xの関数として、動的閾値を用いることで変位量δが大きい領域を抽出する。また、x座標ごとに変位量δを座標yの関数として、動的閾値を用いて、ある閾値を超える領域を変位量δが大きい領域として抽出する。動的閾値とは、対象領域内について信号解析又は画像解析を行って閾値を決定することである。閾値は一定値ではなく、対象領域の信号の幅や最大値などによって異なる値となる。
図4(a)に、y=y
1の直線210上における変位量をプロットしたグラフ211と、x=x
1の直線220上における変位量をプロットしたグラフ221とを示す。これにより、例えば、変位量δが閾値より大きな変位領域230が抽出できる。
【0028】
次に、伝播解析部15は、変位領域に細線化処理をおこなって波面を抽出する。
図4(b)の模式図に示している変位領域240、250は、それぞれ、ステップS52において変位領域として抽出された領域である。伝播解析部15は、例えば、Hilditchの細線化アルゴリズムを用いて、波面を抽出する。例えば、
図4(b)の模式図において、変位領域240から波面241が、変位領域250から波面251が、それぞれ抽出される。なお、細線化のアルゴリズムはHilditchに限らず、任意の細線化アルゴリズムを用いてよい。また、各変位領域に対して、変位量δが閾値以下の座標を変位領域から取り除く処理を、変位領域が幅1ピクセルの線になるまで、閾値を大きくしながら繰り返し行ってもよい。
【0029】
次に、伝播解析部15は、細線化処理後の波面画像データに対して空間フィルタリングを行い、長さが短い波面を除去する。例えば、ステップS53で抽出した各波面の長さを検出し、全ての波面の長さの平均値の1/2よりも長さが短い波面を、ノイズとして削除する。具体的には、
図4(c)の波面画像に示すように、波面261〜264の長さの平均値を算出し、それよりも短い波面263、264を、ノイズとして消去する。これにより、誤検出された波面を消去できる。
【0030】
伝播解析部15は、変位領域の抽出、細線化処理、空間フィルタリングの動作を、全ての変位画像に対して行う。これにより、変位画像に対して1対1で波面画像データが生成される。
最後に、伝播解析部15は、複数の波面画像データに対して時間フィルタリングを行い、伝播していない波面を除去する。具体的には、時間的に連続する2以上の波面画像において、波面位置の時間変化を検出し、速度が異常である波面をノイズとして除去する。伝播解析部15は、例えば、時刻t=t
1の波面画像270、時刻t=t
1+Δtの波面画像280、時刻t=t
1+2Δtの波面画像290との間で、波面位置の時間変化を検出する。例えば、波面271に対して、波面画像280のうち、波面271と同じ位置を中心に、波面と垂直な向き(
図4においてはx軸方向)にΔtの間にせん断波が移動しうる領域276で、波面271との相関処理を行う。このとき、波面271のx軸の正方向(図の右側)と負方向(図の左側)の双方を含む範囲内で相関処理を行う。これは、透過波と反射波の両方を検出するためである。これにより、波面271の移動先が波面画像280内の波面281であると検出し、時間Δtにおける波面271の移動距離を算出する。同様に、波面272、273のそれぞれについて、波面画像280において当該波面と同じ位置を中心に、波面と垂直な向きにΔtの間にせん断波が移動しうる領域で相関処理を行う。これにより、波面272が波面283の位置に、波面273が波面282の位置に、それぞれ移動したことを検出する。波面画像280と波面画像290との間でも同様の処理を行い、波面281が波面291の位置に、波面282が波面292の位置に、波面283が波面293の位置に、それぞれ移動したことを検出する。ここで、波面273、波面282、波面292で示される1の波面については、他の波面と比べて移動距離が著しく小さい(伝播速度が著しく遅い)。このような波面は誤検知である可能性が高いので、ノイズとして消去する。これにより、
図4(e)の波面画像300に示すように、波面301、302が検出できる。
【0031】
伝播解析部15は、生成した時刻ごとの波面画像データと、波面の対応情報とを波面画像記憶部20に出力する。ここで、波面の対応情報とは、同一の波面が各波面画像のどの波面に対応するかを示した情報であり、例えば、波面272が波面283の位置に移動したことが検出された場合、波面283と波面272とが同一の波面であるという情報である。
【0032】
次に、弾性画像を生成して表示する(ステップS70)。伝播解析部15は、弾性画像を生成する。具体的には、時刻ごとの波面画像データと、波面の対応情報とから、各時刻における波面の位置、速度を検出する。さらに、変位画像と断層画像との関係から、断層画像の各画素について複数の変位画像におけるせん断波の最大速度から弾性率を算出し、断層画像の各画素と弾性率とを対応付けて弾性画像を生成する。
図5を用いて弾性画像の生成について説明する。
図5(a)は、ある時刻tにおける波面画像と、時刻t+Δtにおける波面画像を1つの波面画像310として合成したものである。ここで、時刻tにおける波面311と、時刻t+Δtにおける波面312とが同一の波面であるとする対応情報が存在するものとする。伝播解析部15は、対応情報から、波面311上の座標(x
t、y
t)に対応する波面312上の座標(x
t+Δt、y
t+Δt)を検出する。これにより、時刻tに座標(x
t、y
t)を通過したせん断波が、時刻t+Δtに座標(x
t+Δt、y
t+Δt)に到達していると推定できる。したがって、座標(x
t、y
t)を通過したせん断波の速度v(x
t、y
t)は、座標(x
t、y
t)と座標(x
t+Δt、y
t+Δt)との間の距離mを所要時間Δtで割った値と推定できる。すなわち、v(x
t、y
t)=m/Δt=√{(x
t+Δt−x
t)
2+(y
t+Δt−y
t)
2}/Δtとなる。伝播解析部15は、全ての波面に対して上述の処理を行い、波面が通過した全座標についてせん断波の速度を取得し、せん断波の速度を基に、各座標における弾性率を算出する。伝播解析部15は、弾性率に基づいて、色情報をマッピングした弾性画像を生成する。例えば、
図5(b)のように、弾性率が一定値以上の座標は赤、弾性率が一定値未満の座標は緑、弾性率が取得できなかった座標は黒、というように色分けした弾性画像320を生成する。分類は二値化に限られず、所定の段階で分類及び色分けを行ってよい。
図5(b)において、領域322は弾性率が一定値以上の領域であり、内包物321に対応する。なお、
図5(b)では説明のために内包物321を明示しているが、内包物321は実際の弾性画像上には直接現れない。伝播解析部15は、生成した弾性画像を制御部11に出力し、制御部11は弾性画像を弾性画像記憶部21に出力する。さらに、制御部11は、弾性画像に対して画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行い、幾何変換後の弾性画像を表示部3に出力する。
【0033】
次に、せん断波の伝播を評価する(ステップS80)。評価部16は、制御部11を介して波面画像記憶部20から波面画像を取得し、波面の位置、振幅、進行方向および速度から、せん断波がどのように伝播しているのかを評価する。評価部16は、例えば、せん断波が着目領域の全域に伝播しているか否か、せん断波の伝播速度や向きに一様性のない部分があるか否かを評価する。評価の方法としては、例えば、せん断波の伝播の有無を示した伝播範囲図、せん断波の速度分布を示した速度分布図などを生成することで行う。以下、
図6に示すこれらの具体例を用いて説明する。
【0034】
図6(a)は、せん断波の伝播の有無を示した伝播範囲図であり、所定の振幅以上のせん断波が通過した領域を、せん断波伝播領域として示している。伝播範囲
図330においては、着目領域331(x
L≦x≦x
R、y
S≦y≦y
D)の全域が、せん断波伝播領域332となっている。一方、伝播範囲
図340においては、着目領域341(x
L≦x≦x
R、y
S≦y≦y
D)のうち、振幅が十分なせん断波が通過しているのはせん断波伝播領域342(y
S≦y≦y
p)だけで、非伝播領域343(y
p≦y≦y
D)は、せん断波が通過していないか、通過したせん断波の振幅が所定の振幅未満である領域である。また、
図6(b)は、せん断波の速度分布を示した速度分布図であり、せん断波の伝播速度および向きを色で示したものである。速度分布
図350では、せん断波の伝播向きがx軸の負の方向(左向き)で速度が所定範囲の領域352を緑、せん断波の伝播向きがx軸の正の方向(右向き)の領域のうち、速度が所定範囲の領域353を青、速度が所定範囲より速い領域354を赤で示している。一方、速度分布
図360では、せん断波の伝播向きが左向きで速度が所定範囲の領域362を緑、せん断波の伝播向きが右向きの領域のうち、速度が所定範囲の領域363を青、速度が所定範囲より速い領域364を赤で示しており、さらに、せん断波の速度が取得できなかった領域365を黒で示している。なお、分類はこの場合に限られず、例えば、伝播速度をスカラー的に評価して向きに関係なく大きさ(絶対値)のみに依存して色分けを行ってもよいし、速度に対する段階分けをより細かく行ってもよい。
【0035】
次に、プッシュパルスの送信プロファイルを調整して再測定を行う必要があるか否かを判断する(ステップS90)。具体的には、制御部11が、評価部16の評価結果を基に、再測定の要否を判断する。例えば、伝播範囲図中に非伝播領域が存在する、速度分布図中にせん断波の速度が取得できなかった領域が存在する、のいずれかに該当する場合、制御部11は、プッシュパルスの送信プロファイルを調整して再測定を行う必要があると判断する。
【0036】
制御部11は、プッシュパルスの送信プロファイルを調整して再測定を行う必要がないと判断した場合、そのまま処理を終了し、弾性画像を表示したまま、ユーザからの入力を受け付ける。
一方、制御部11がプッシュパルスの送信プロファイルを調整して再測定を行う必要があると判断した場合、送信プロファイルの調整を行う(ステップS100)。プッシュパルス調整部17は、ステップS30で用いたプッシュパルスの送信プロファイルと、ステップS90で評価部16が評価した内容とを、制御部11から取得する。そして、評価部16が評価した内容に基づき、プッシュパルスの送信プロファイルを最適化する。以下、フローチャート及び具体例を用いて送信プロファイルの最適化について説明する。
図7は、プッシュパルスの送信プロファイル動作を示すフローチャートである。
【0037】
まず、プッシュパルス調整部17は、着目領域内にせん断波が伝播していない非伝播領域が存在するか否かを判定する(ステップS110)。着目領域内に非伝播領域が存在する場合には、次に、非伝播領域がどのような形状であるかを判断する。具体的には、まず、非伝播領域が素子列方向に伸びている(x座標にほぼ関わりなくy座標が特定の範囲の領域)か、深さ方向に伸びている(y座標にほぼ関わりなくx座標が特定の範囲の領域)かを判定する(ステップS111)。ここで、非伝播領域がせん断波伝播領域に囲まれている場合(x座標が特定の範囲、かつ、y座標が特定の範囲の領域)は、深さ方向に伸びているとして判定を行う。理由は後述する。
【0038】
非伝播領域が素子列方向に伸びている場合、深さ方向における非伝播領域の位置を判定する(ステップS112)。非伝播領域が浅い側の端、または、深い側の端である場合(着目領域における一定の深さより浅い領域全て、または、一定の深さより深い領域全てが非伝播領域である場合)、プッシュパルスの焦点位置の深さ(y座標)を、非伝播領域に近づけるように調整する(ステップS113)。より詳しくは、深さが一定の深さ以上の領域が非伝播領域である場合は、プッシュパルスの焦点位置をより深い位置にずらし、深さが一定の深さ以下の領域が非伝播領域である場合は、プッシュパルスの焦点位置をより浅い位置にずらす。これは、
図8(a)の伝播範囲
図400に示すように、プッシュパルスの焦点位置402が着目領域401に対して浅すぎるため、着目領域401内に非伝播領域404が発生しているためである。または、
図8(b)の伝播範囲
図410に示すように、プッシュパルスの焦点位置412が着目領域411に対して深すぎるため、着目領域411内に非伝播領域414が発生しているためである。なお、伝播範囲
図400および伝播範囲
図410では、説明のために波面を表示している。
図8(a)の伝播範囲
図400に対しては、せん断波伝播領域403と非伝播領域404との境界線405におけるy座標の平均値y
pを用いて、例えば、新たなプッシュパルスの焦点位置406を、もとのプッシュパルスの焦点位置402から、y軸の正の方向(深さが増す方向)に(y
D−y
p)/2だけ移動させる。同様に、
図8(b)の伝播範囲
図410に対しては、せん断波伝播領域413と非伝播領域414との境界線415におけるy座標の平均値y
pを用いて、例えば、新たなプッシュパルスの焦点位置416を、もとのプッシュパルスの焦点位置412から、y軸の負の方向(深さが減る方向)に(y
p−y
S)/2だけ移動させる。すなわち、非伝播領域の深さ方向(y方向)の平均幅の1/2だけ、プッシュパルスの焦点位置を、非伝播領域が存在する側に移動させる。送信プロファイルとしては、「深さ」のパラメータを変更することとなる。なお、せん断波伝播領域と非伝播領域との境界のy座標y
pとして、非伝播領域がせん断波伝播領域より深い場合はせん断波伝播領域と非伝播領域との境界線のy座標の最大値、非伝播領域がせん断波伝播領域より浅い場合はせん断波伝播領域と非伝播領域との境界線のy座標の最小値を用いてもよい。また、プッシュパルスの焦点位置のy座標の移動距離は、例えば、(y
D−y
p)/4でもよいし、(y
D−y
p)でもよいが、(y
D−y
p)/2が、再度のプッシュパルスの焦点位置の深さ調整を行う必要がなくなる可能性が高いため、より好ましい。
【0039】
一方、非伝播領域が素子列方向に延びており、かつ、非伝播領域がせん断波伝播領域に挟まれている場合(非伝播領域より浅い側と深い側の双方にせん断波伝播領域が存在する場合)、プッシュパルスの焦点位置を素子の並び方向(x方向)にずらす。これは、
図8(c)の伝播範囲
図420に示すように、プッシュパルスの焦点位置422が硬い組織425内に存在するため、プッシュパルスによる組織の移動が十分に発生せず、着目領域421においてせん断波伝播領域423に挟まれるように非伝播領域424が生じていることが想定されるためである。この場合、プッシュパルスの焦点位置を素子の並び方向(x方向)にずらすことで、新たな焦点を硬い組織の外部に設定する。例えば、伝播範囲
図430に示すように、着目領域421の中心を通り深さ方向(y軸方向)と平行な直線431を仮定し、直線431を基準にプッシュパルスの焦点位置422と線対称となる位置を新たなプッシュパルスの焦点位置432とする。具体的には、着目領域421のx座標の範囲がx
L≦x≦x
Rであり、プッシュパルスの焦点位置422のx座標がx
fであるときに、調整後のプッシュパルスの焦点位置432のx座標をx
nf=x
L+x
R−x
fとする。送信プロファイルとしては、「深さ」並びに「プッシュパルスの伝播方向と超音波探触子とがなす角度」を変更することで、焦点位置のx座標が変更させる。これにより、プッシュパルスの焦点位置が硬い組織425の外部に設定され、せん断波伝播領域433が着目領域421全域となることが期待できる。なお、新たなプッシュパルスの焦点位置のx座標は上述のx
nfに限られず、例えば、x
fから所定の量(具体的には、着目領域421のx方向の幅の1/4など)だけ着目領域421の中心方向にずらした位置、としてもよい。
【0040】
一方で、非伝播領域が深さ方向に伸びている場合(非伝播領域がせん断波伝播領域に囲まれている場合を含む)、素子列方向における非伝播領域の位置を判定する(ステップS115)。なお、非伝播領域がせん断波伝播領域に囲まれている場合、非伝播領域がせん断波伝播領域に挟まれているとして判定する。
非伝播領域が深さ方向に伸びている場合において、非伝播領域が素子列方向の一方の端である場合(着目領域における一定のx座標よりxが増加する側全て、または、一定のx座標よりxが減少する側全てが非伝播領域である場合)、プッシュパルスを強めるように調整する(ステップS116)。これは、
図8(e)の伝播範囲
図440に示すように、プッシュパルスの焦点位置442から伝播したせん断波がせん断波伝播領域443の端で減衰してしまい、せん断波が着目領域441全域に行き渡らず、非伝播領域444が生じているためである。具体的には、以下のような調整のいずれかを行う。
(1)プッシュパルスの送出に用いる振動子数、プッシュパルスの送信時間、振動子に印可するARFI駆動信号の電圧値の少なくとも1つを増加させ、プッシュパルスによって生じるせん断波の振幅を増加させる。具体的には、例えば、プッシュパルスの送出に用いる振動子数を4つ増加させる、プッシュパルスの送信時間を20μsだけ増加させる、ARFI駆動信号の電圧値を10%上昇させる、などである。なお、これらの2つ以上を同時に行ってもよい。
(2)連続して送出するプッシュパルスの数を増加させ、非伝播領域内または近傍に新たなプッシュパルスの焦点位置を設けることで、非伝播領域にせん断波を伝播させる。より具体的には、例えば、
図8(f)の伝播範囲
図450に示すように、着目領域441の中心を通り深さ方向(y軸方向)と平行な直線451を仮定し、直線451を基準にプッシュパルスの焦点位置442と線対称となる位置を2つ目のプッシュパルスの焦点位置452とする。
【0041】
なお、調整内容としては、プッシュパルスの連続送出回数を増加させることが最も好ましく、プッシュパルスの送出に用いる素子数の増加、プッシュパルスの送信時間の延長、ARFI駆動信号の電圧値の上昇では、前者が後者より好ましい。これは、以下の理由による。被検体に与える影響を考えると、組織内の変位は小さいことが好ましく、特に、組織内の変位の最大値を小さくすることが好ましい。一方で、硬さの測定精度の向上のためには変位の平均値や最小値が大きいことが好ましい。したがって、この2つを両立するためには、変位の最大値と変位の平均値との差が小さい方が好ましく、強いプッシュパルスを少ない回数送信するよりは、強すぎないプッシュパルスを数多く送信する方がより好ましいからである。また、強いプッシュパルスを送信する場合は、超音波の音圧を上昇させるより超音波の送信時間を長くする方が、さらに、超音波の送信時間を長くするより超音波の通過面積と集束度を上昇させる方が、焦点以外のプッシュパルスの通過範囲にもたらす影響を小さくできるためより好ましい。
【0042】
一方で、非伝播領域が深さ方向に伸びている場合において、非伝播領域がせん断波伝播領域に挟まれている、または囲まれている場合、焦点位置の異なる2つ目のプッシュパルスを送出するように調整する(ステップS117)。このとき、プッシュパルス調整部17は、非伝播領域を素子列方向に挟むように、せん断波伝播領域内に2つのプッシュパルスの焦点位置を設ける。この場合、非伝播領域の内部にせん断波の反射源(例えば、硬い組織)がある可能性が高い。そのため、(i)
図8(g)の伝播分布
図460に示すように、プッシュパルスの焦点462から伝播するせん断波の進行波と、着目領域461内に存在する反射源465から拡がるせん断波の反射波との干渉により、非伝播領域464内でせん断波が正常に検出できない、(ii)反射源が周囲の組織に比べて非常に硬い場合などにおいて、反射源がせん断波の多くを反射してしまい、反射源の内部にせん断波がほとんど伝播しない(この場合、反射源が存在する領域が非伝播領域となる)、のいずれかが考えられる。いずれの場合も、非伝播領域にせん断波を伝播させるためには、非伝播領域の近傍の複数個所をプッシュパルスの焦点位置とすることが好ましく、非伝播領域を素子列方向に挟むように、せん断波伝播領域内に2つのプッシュパルスの焦点位置を設ければよい。例えば、
図8(g)の伝播分布
図460に対しては、せん断波伝播領域463内とせん断波伝播領域466内とにそれぞれ1つずつプッシュパルスの焦点位置を設ける。例えば、新たなプッシュパルスの焦点位置467を断波伝播領域466内に追加する。このとき、せん断波伝播領域463内のプッシュパルスの焦点位置は焦点位置462をそのまま用いてもよい。
【0043】
また、着目領域内にせん断波が伝播していない領域が存在しない場合、せん断波の伝播速度が局所的に速い領域の近傍、および/または、せん断波の速度が一様である領域の内部に、プッシュパルスの焦点位置を設定する(ステップS118)。このとき、プッシュパルスの送信回数を1増加させ、ステップS30におけるプッシュパルスの焦点位置に加えて、新たに設定した焦点位置にもプッシュパルスを送信するようにする。例えば、
図8(h)の速度分布
図470では、着目領域471に対し、せん断波がプッシュパルスの焦点476からx方向(左右)に伝播し、領域472と領域473ではせん断波の伝播速度が一様であるものの、領域474ではせん断波の伝播速度が局所的に速く、領域475ではせん断波の伝播速度が取得できていない。このとき、既存のプッシュパルスの焦点位置476に加え、せん断波の伝播速度が速い領域474の近傍であって、せん断波の伝播速度が一様な領域463の内部にプッシュパルスの焦点477を追加する。このとき、新たなプッシュパルスの焦点477は、次の2条件を満たしていることが好ましい。1つは、せん断波の伝播速度が局所的に変化している領域の近傍にプッシュパルスの焦点が存在していることである。これは、せん断波の伝播速度が局所的に変化している領域に対応する、硬さが周囲と異なる組織に対し、せん断波の振動源であるプッシュパルスの焦点を近づけることで、当該組織に振幅の大きいせん断波を伝播させ、当該組織の硬さを精度よく取得するためである。もう1つは、せん断波の伝播速度が一様である領域の内部にプッシュパルスの焦点が存在していることである。これは、せん断波の伝播速度が局所的に変化している領域以外を原因とするせん断波の屈折や反射をできるだけ防ぎ、せん断波の伝播速度の信頼性を高めるためである。なお、上記2条件は、いずれか一方のみを満たす、としてもよい。また、プッシュパルスの焦点位置を追加した結果、2以上のプッシュパルスの焦点位置が互いに近接することとなった場合は、新たに設定したプッシュパルスの焦点位置の近傍に存在する以前のプッシュパルスの焦点位置にはプッシュパルスを送信しない、としてもよい。
【0044】
図2に戻って説明を続ける。制御部11は、調整後のプッシュパルスの送信プロファイルをプッシュパルス調整部17から受け取ると、調整後のプッシュパルスの送信プロファイルを用いてプッシュパルスの送信と弾性画像の生成を行うため、ステップS30からステップS90を再度実行する。
<まとめ>
上記構成により、せん断波の伝播状況に基づいてプッシュパルスの送信プロファイルを最適化することが可能となる。そのため、検査者が弾性画像に基づいて試行錯誤することなく、着目領域における被検体の組織の硬さを高精度に測定することができる。また、上記構成により、プッシュパルスの送信プロファイルを最適化した後そのまま組織の硬さの再測定が行われる。そのため、検査者は、弾性画像が確定するまで超音波探触子を被検体に当てておくだけでよい。
【0045】
≪変形例1≫
実施の形態では、せん断波が着目領域全体に伝播していない場合について、非伝播領域の位置及び形状に基づいてプッシュパルスの送信プロファイルを調整する場合について説明した。
しかしながら、せん断波が着目領域全体に伝播している場合においても、例えば、せん断波の伝播速度の分布も考慮した上で、プッシュパルスの送信プロファイルを調整してもよい。
【0046】
<送信プロファイルの調整>
図9に具体例を示す。
図9(a)は、
図8(e)と同様に、伝播範囲
図480において、非伝播領域483が着目領域481の素子列方向の一方の端で深さ方向に伸びている場合を示している。なお、プッシュパルスの焦点位置は484であり、領域482はせん断波の伝播領域である。一方、
図9(b)は、
図9(a)の伝播範囲
図480に対応する、せん断波の速度分布
図490である。着目領域481において、非伝播領域483に対応する領域493ではせん断波の速度が取得できていない。一方、せん断波の伝播領域483に対応する領域には、せん断波の速度が一様である領域491と、せん断波の速度が局所的に高い領域492とが存在する。このような場合、新たに追加するプッシュパルスの焦点位置としては、着目領域481の中心を通り深さ方向(y軸方向)と平行な直線を基準にプッシュパルスの焦点位置484と線対称となる位置485よりも、a)せん断波の速度が一様である領域491の内部であって、b)せん断波の速度が局所的に高い領域492の近傍である、の2条件を同時に満たす位置494の方が好ましい。なぜならば、せん断波の速度が局所的に高い領域492の存在から、領域492を含む硬い組織495の存在が推測できる一方で、非伝播領域483(せん断波の速度が取得できていない領域493)における、組織495が占める領域が明確ではない。そのため、非伝播領域483内に新たな焦点位置485を設けた場合、焦点位置485が組織495の内部に存在する危険性がある。したがって、このような場合は、非伝播領域483に近接したせん断波の伝播領域482内に新たなプッシュパルスの焦点位置494を設けることが好ましく、さらに、焦点位置494は、せん断波の速度が一様である領域491の内部であることが好ましく、また、せん断波の速度が局所的に高い領域492の近傍であることが好ましい。
【0047】
なお、この場合に限らず、プッシュパルスの焦点位置を変更、または、追加する場合において、せん断波の伝播速度の分布を考慮し、せん断波の伝播速度が局所的に変化している領域の近傍に、および/または、せん断波の伝播速度が一様である領域の内部に、プッシュパルスの焦点が存在するように制御してよい。
<まとめ>
このようにすることで、プッシュパルスの焦点位置を変更、または、追加する場合において、せん断波が着目領域全体に伝播させるという観点のみならず、硬さの異なる領域における測定精度の向上、および/または、せん断波の伝播速度の信頼性向上を図ることで、再測定後にさらに再測定の必要が生じる可能性を減少させ、組織の硬さの再測定の回数を減らし、測定時間の短縮および被検体への負担を軽減することができる。
【0048】
≪変形例2≫
実施の形態および変形例1では、せん断波が着目領域全域に伝播したか否か、および、せん断波の伝播速度の分布を、せん断波の波面を用いて判断した。
本変形例では、せん断波の伝播有無、および/または、速度分布をより簡易な方法で判断することに特徴がある。
【0049】
<せん断波の伝播有無の解析>
本変形例では、伝播範囲図の作成にあたって、着目領域内の各位置をせん断波が通過したか否かを波面画像から生成せず、代わりに、変位画像から生成する。すなわち、いずれかの時刻において変位が検出された場所は、波面が通過したものとみなす。より具体的には、着目領域内の各位置に対して、複数の変位画像における同一位置の変位の絶対値(大きさ)の最大値を検出し、最大値が所定の閾値以上であれば当該位置をせん断波が通過したものとし、最大値が所定の閾値未満であれば当該位置をせん断波が通過しなかったものとする。
【0050】
したがって、いずれの時刻においても変位が検出できなかった領域があれば、これを非伝播領域であるものとし、この非伝播領域にせん断波が伝播するようにプッシュパルスの送信プロファイルを調整する。
<せん断波の伝播速度の解析>
本変形例では、せん断波の速度の解析にあたって、着目領域内の各位置をせん断波が通過した速度を示す速度分布図を作成せず、代わりに、断層画像をそのまま用いる。すなわち、断層画像において、輝度が局所的に低い領域を、せん断波の速度が局所的に異なる領域とみなす。これは、腫瘍等の硬さの異なる領域は周囲に比べて輝度が低くなることが多く、当該領域が硬さの異なる組織(腫瘍等)である可能性が高いからである。
【0051】
したがって、プッシュパルスの焦点位置を変更、または、追加する場合には、断層画像において輝度が局所的に低い領域ではない箇所に設定する、および/または、断層画像において輝度が局所的に低い領域の近傍に設定する。
<まとめ>
このようにすることで、波面を検出せずに評価を行うことができる。そのため、波面画像記憶部が必要ない。さらに、弾性画像を生成する際、波面画像に基づく方法ではなく、変位画像に直接基づく方法を用いた場合、波面の検出を行う必要がなく、伝播解析部がなくても本発明の実施をすることができる。なお、変位画像に直接基づいて弾性画像を生成する方法としては、例えば、変位画像内の各画素において変位が最初に検出された時刻をせん断波の通過時刻とみなす従来手法を用いることができる。
【0052】
また、断層画像の輝度を用いて腫瘍領域の有無を予測することで、波面速度や弾性が不明でもプッシュパルスの送信プロファイルを調整することができる。そのため、波面速度の算出や弾性測定を行わずにプッシュパルスの送信プロファイルを調整したり、断層画像に基づいて最初のプッシュパルスの送信プロファイルを調整したりすることが可能となる。
【0053】
または、本変形例による簡易評価に直接基づいて送信プロファイルの調整を行うのではなく、簡易評価により再測定が必要であると判定された場合に、波面を検出して波面に基づいた評価を行ったうえでプッシュパルスの送信プロファイルを変更するものとしてもよい。
≪変形例3≫
実施の形態、および変形例1、2では、ステップS60におけるせん断波の伝播解析を、変位領域の抽出、細線化処理、空間フィルタリング、時間フィルタリングの手順によって行った。
【0054】
本変形例では、せん断波の伝播解析を、各場所の変位のピーク時刻検出、時間フィルタリング、空間フィルタリングの手順で行うことに特徴がある。
ステップS60におけるせん断波の伝播解析以外は実施の形態と同様であるため、以下、差分である、せん断波の伝播解析についてのみ説明する。
<せん断波の伝播解析>
最初に、各画素について時間領域毎に変位を相関処理し、変位のピークを検出する。まず、伝播解析部は変位画像を変位量記憶部19から取得する。以下、
図10の模式図を用いて説明する。
図10(a)は、変位画像の一例を示している。
図3、
図4と同じく、図中の“○”は着目領域における被検体内の組織の一部を示しており、プッシュパルスを印加する前の位置は破線の交点である。また、x軸は超音波探触子2における素子の並ぶ方向、y軸は、被検体の深さ方向である。伝播解析部は、座標ごとに変位量δが極値となる時刻を検出する。ここで、極値とは、極大値、および、極小値(変位量δが負の値で、絶対値が極大)のことである。本変形例においては、変位量δが極大値(変位量δが正の値)となる時刻のみを検出することとする。
図10(a)のグラフ510は、座標(x
1,y
1)の点501における変位量δを時間tの関数として示したものである。なお、ここでは、変位量δを1次元ベクトルとして扱うため、変位量δはy軸方向の変位のみを示す値であり、かつ、深い方向(y座標が大きくなる方向)への変位は正の値、浅い方向(y座標が小さくなる方向)への変位は負の値としている。伝播解析部は、例えば、断層画像信号が取得された時間を複数の区間521、522、523に分ける。そして、伝播解析部は、区間521における変位量δ、区間522における変位量δ、区間523における変位量δについて相関処理を行うことで、変位量δがピークとなる時刻t
1、t
2を検出する。ここで、断層画像信号が取得された時間を複数の区間に区切っているのは、着目点を反射波が通過するなど、波面が着目点を複数回通過することがあり得るからである。なお、本変形例では、変位量δが極大となる時刻のみを検出するとしたが、さらに、相関処理において相関値が負の値で絶対値が極大となる時刻、すなわち、変位量δが負の値で、その絶対値が極大となる時刻を検出してもよい。そのようにすることで、位相が反転している波面をさらに検出することができる。
【0055】
次に、伝播解析部は、変位が大きい画素の集合を波面として抽出する。具体的には、伝播解析部は、各時刻について、変位量δがピークとなっている点の集合を変位領域として取得し、変位領域のそれぞれを波面として抽出する。すなわち、
図10(b)の波面画像530に示すように、時刻t
1において、座標(x
1,y
1)の点を含む変位領域531や、変位領域532、533、534、535、536が、それぞれ波面として抽出される。なお、上述したように、変位量δが負の値で絶対値が極大値となっている画素の集合を基に、上記検出した波面とは位相が反転している位相反転波面をさらに抽出してもよい。伝播解析部は、抽出した波面を時刻ごとの波面画像データとして保持する。
【0056】
次に、伝播解析部は、複数の波面画像データに対して時間フィルタリングを行い、伝播していない波面を除去する。具体的には、ステップS60の時間フィルタリングと同様、時間的に連続する2以上の波面画像において、各波面位置の時間変化を検出し、速度が異常である波面をノイズとして除去する。伝播解析部は、例えば、時刻t=t
1の波面画像540と時刻t=t
1+Δtの波面画像550との間、時刻t=t
1+Δtの波面画像550と時刻t=t
1+2Δtの波面画像560との間のそれぞれにおいて、波面位置の時間変化の検出を行う。波面位置の時間変化の検出はステップS60の時間フィルタリングと同様、例えば、波面画像540内の各波面に対し、波面画像550において、当該波面と同じ位置を中心に、波面と垂直な向きにΔtの間にせん断波が移動しうる領域で相関処理することで行う。例えば、波面画像540と波面画像550との間で、波面541が波面551の位置に、波面542が波面552の位置に、波面543が波面553の位置に、それぞれ移動したと検出する。ここで、波面544の移動先が検出されていないのは、以下の理由による。波面Aと波面Bとを含む波面画像Xと、波面Cを含む波面画像Yとの相関処理において、波面画像Yで、波面Aを中心とする領域と波面Bを中心とする領域とが重なっており、その重複領域に波面Cが存在する場合、以下のように移動先を判定する。すなわち、波面Aと波面Cとの相関値と、波面Bと波面Cとの相関値とをそれぞれ算出し、(1)いずれか一方の相関値のみが閾値を超えていれば、波面Aと波面Bのうち、波面Cとの相関値が閾値を超えている側を波面Cの移動元とする、(2)両方の相関値が閾値を超えていれば、波面Aと波面Bのうち、波面Cとの相関値が高い方を波面Cの移動元とする、(3)いずれの相関値も閾値を下回っていれば、波面Cの移動元は存在しない、と判定する。波面542、543、552、553は略同じ長さであるのに対して波面544は他の波面より極端に短いため、波面544と波面553の相関値より波面543と波面553の相関値の方が高い。そのため、波面画像550において波面544と同じ位置を中心とした領域内に、波面544の移動先となる波面が存在しない。移動先が存在しない波面544は、ノイズとして消去する。同様に、波面画像550と波面画像560との間で、波面551が波面561の位置に、波面552が波面562の位置に、波面553が波面563の位置に、それぞれ移動したと検出する。伝播解析部は、時間フィルタリング後の波面画像データを保持する。なお、伝播解析部は、実施の形態で述べたように、さらに、波面の対応情報を保持してもよい。
【0057】
次に、伝播解析部は、時間フィルタリング後の波面画像データに対して空間フィルタリングを行い、長さが短い波面を除去する。具体的には、ステップS60における空間フィルタリングと同様、各波面画像において、波面の長さを検出し、所定の長さより短い波面、例えば、全ての波面の長さの平均値の1/2よりも長さが短い波面を、ノイズとして削除する。具体的には、
図10(d)の波面画像570に示すように、波面571〜573の長さの平均値を算出し、それよりも短い波面571を、ノイズとして消去する。これにより、誤検出された波面を消去できる。なお、伝播解析部は、波面の対応情報から、消去した波面と同一である他の波面画像内の波面をまとめて消去してもよい。
図10(e)に示すように、空間フィルタリング後の波面画像480には、波面472、473のみが残る。
【0058】
伝播解析部は、空間フィルタリング後の複数の波面画像データと、波面の対応情報とを制御部を介して、波面画像記憶部20に出力する。
<まとめ>
本変形例では、組織内の各位置における変位の時間変化に基づいて、伝播解析を行う場合について説明した。各座標について時系列に変位のピークを検出するため、時間変化のない変位を検出せず、基準断層画像信号内のノイズや、基準断層画像信号と断層画像信号との位置ずれなどによる、時間変化しないノイズを変位として誤検出することを防ぐことができる。また、各座標について時系列に変位のピークを複数回検出するため、1つの場所を波面が複数回通過する場合、特に、透過波と反射波が通過するような場合にも、波面を抽出することができる。また、各座標について時系列に変位のピークを検出する際、相関値が負の値で絶対値が極大となる時刻を検出することで、せん断波の位相が反転した場合に、その位相が反転した波面を検出することができ、固定端反射となるようなせん断波の反射に対しても、反射の波面を検出することができる。
【0059】
≪変形例4≫
実施の形態、および、変形例1〜3では、ステップS70において、生成した弾性画像を表示部3に出力するものとした。
本変形例では、プッシュパルスの送信プロファイルが確定するまで、ユーザに通知画面を出力することで、超音波診断装置による被検体の硬さ測定が完了しているか、未完了であるかを通知することに特徴がある。
【0060】
<動作>
本変形例に係るフローチャートを
図11に示す。なお、
図11において、
図2と同様の動作については同じステップ番号を用い、説明を省略する。
ステップS210において、
図12(a)に示すように、測定中を示す表示601を表示部3の画面600に出力する。
【0061】
ステップS270では、ステップS70と同様に弾性画像を生成するが、表示部3には出力しない。
さらに、ステップS100で再測定を行わないとした場合において、制御部は、測定中を示す表示に替えて、最近のステップS70で生成した弾性画像を表示部3に出力する(ステップS220)。
【0062】
<まとめ>
このようにすることで、弾性画像を生成したプッシュパルスが再調整不要となるまで、表示部3に弾性画像が表示されない。したがって、ユーザは、弾性画像が出力されるまでは、超音波探触子を被検体に押し当てたまま待っているだけでよく、弾性画像の表示によって測定終了を知ることができる。
【0063】
なお、ステップS210において表示部3に何も出力せず、ステップS270においても表示部3に何も出力しない、としてもよい。この場合、弾性画像の表示があることでユーザは測定終了を知ることができるので、ユーザは、弾性画像が出力されるまでは、超音波探触子を被検体に押し当てたまま待っているだけでよい。
また、ステップS210において、
図12(b)に示すようなアイコン611を表示部3に出力する画面610に重畳し、ステップS270では、ステップS70と同様に生成した弾性画像612を出力し、ステップS220において、アイコン611の重畳表示を終了するとしてもよい。このようにすれば、アイコンが画面から消えることによりユーザは測定終了を知ることができ、さらに、弾性画像の取得状況を確認することができる。
【0064】
また、ステップS270を、ステップS60とS80の間ではなく、ステップS100で再測定を行わないとした場合において、ステップS220の前に行ってもよい。このようにすることで、表示しない弾性画像を生成する必要がない。この場合、弾性画像記憶部がなくてもよい。
≪実施の形態に係るその他の変形例≫
(1)実施の形態および各変形例では、プッシュパルスの焦点位置を超音波診断装置1が送信プロファイルの初期値に基づいて決定し、せん断波の伝播状況の評価に応じて変更または追加するとした。しかしながら、プッシュパルスの焦点位置をユーザが調整してもよい。例えば、プッシュパルスの焦点位置を表示部3に表示し、ユーザが超音波探触子の位置を変更する、または、超音波診断装置1がプッシュパルスの焦点位置をユーザから受け取る、としてもよい。このとき、超音波診断装置1が受け取るプッシュパルスの焦点位置は、プッシュパルスの焦点位置そのものでもよいし、例えば、焦点が存在しうる範囲であってもよい。このようにすることで、ユーザが断層画像や弾性画像等に基づいて焦点位置を選択できる場合、ユーザの所望する条件で断層画像を生成することができる。
【0065】
(2)実施の形態および各変形例では、2以上のプッシュパルスを送信する送信プロファイルに対して、2以上のプッシュパルスを連続的に送信する場合について説明した。しかしながら、プッシュパルスの送信と、超音波の複数回送受信との組み合わせをプッシュパルスの数だけ繰り返すとしてもよい。このようにすることで、最初のプッシュパルスを振動源とするせん断波の伝播解析において後のプッシュパルスを振動源とするせん断波の影響を防ぐことができ、より高精度な硬さの測定が可能となる。
【0066】
(3)実施の形態および各変形例では、ステップS90でプッシュパルスの送信プロファイルを調整して再測定を行うとした場合に、ステップS100で調整した送信プロファイルを用いてステップS30〜S80を行い、再度、ステップS90でプッシュパルスの送信プロファイルを調整して再測定を行うか否を判断する場合について説明した。しかしながら、例えば、2度目のステップS30〜S80の後については、ステップS90を行わず、そのまま測定を終了するとしてもよい。このようにすることで、例えば、超音波探触子2と着目領域との位置関係上、送信プロファイルをどう調整しても伝播解析で好ましくない結果が出るなどの場合、プッシュパルスの送信プロファイルの調整と再測定とを過度に繰り返すことを防ぐことができる。なお、プッシュパルスの再送信と再測定との上限回数は1回に限らず、被検体への影響や測定時間等を考慮した回数であればよく、例えば、3回であってもよい。この場合においては、例えば、制御部11は、評価部16による評価が最も好ましかった測定の断層画像を表示するとしてもよい。
【0067】
または、評価部16は、評価結果を保持しておき、2度目以降のステップS90において、評価の結果が以前のステップS90における評価の結果より好ましくない場合、評価の結果が最も好ましい送信プロファイルに係る弾性画像を表示して測定を終了するとしてもよいし、あるいは、最後の評価結果を考慮して同一結果とならないようにしながら、保持している評価結果のうち結果が最も好ましいものに基づいて再度送信プロファイルを調整するとしてもよい。このとき、最後の評価結果が所定の基準に達していれば再度送信プロファイルの調整を行い、最後の評価結果が所定の基準に達していなければ評価の結果が最も好ましい送信プロファイルに係る弾性画像を表示して測定を終了するとしてもよい。
【0068】
(4)実施の形態および各変形例では、波面画像を基に生成した伝播範囲図、または、変位画像を基に簡易作成した伝播範囲図に基づいて、せん断波の伝播していない領域に着目してプッシュパルスの送信プロファイルを調整する場合について説明した。しかしながら、せん断波の伝播していない領域を検出せず、例えば、せん断波の伝播の一様性のみに基づいてプッシュパルスの送信プロファイルを調整するとしてもよい。例えば、a)せん断波の伝播が一様な領域内にプッシュパルスの焦点がある、b)せん断波の伝播が局所的に異なる領域の近傍にプッシュパルスの焦点がある、のいずれか一方を、または、両方を同時に、満たすように送信プロファイルを調整する。さらに、せん断波の一様性を評価する際に、実施の形態で説明したように、せん断波の速度と向きを用いて評価を行ってもよいし、変形例2で説明したように断層画像を用いた簡易評価を行ってもよい。あるいは、せん断波の伝播の一様性を評価する際に、弾性画像を用いてもよい。なぜならば、弾性値からせん断波の速度の絶対値(大きさ)を評価することができるからである。したがって、弾性値の一様な領域はせん断波速度の一様な領域、弾性値の局所的に異なる領域はせん断波速度の局所的に異なる領域、と評価することができる。
【0069】
(5)変形例3では、伝播解析部は、相関処理により、変位画像から変位量がピークとなる時刻を検出する場合について説明したが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、相関処理による相関値に対してしきい値を設け、しきい値を上回る相関値が検出された時間帯を検出するとしてもよい。このようにすることで、変位量がピークとなる時刻をピンポイントで検出するだけではなく、その周辺時刻を検出して波面を正確に検出することが可能となる。また、逆に、相関処理による相関値に対して下限しきい値を設け、下限しきい値を下回る相関値が検出された場合、ピークとして検出しないとしてもよい。このようにすることで、波面が通過していない時刻における揺動などを波面と誤検出することを防ぐことができる。
【0070】
(6)実施の形態および各変形例では、ステップS20およびS40において、超音波信号取得部13が、送信超音波が送信フォーカス点に同時に届くように送信ビームフォーミングを行い、送信イベントごとに素子受信信号に整相加算を行い、音響線信号を生成する場合について説明したが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、超音波信号取得部13は、超音波探触子2を構成する各振動素子から同時に超音波を送出することで、平面波状の送信超音波を送出してもよい。この場合、受信フォーカス点を送信フォーカス点の近傍や同一線上に限定する必要がないため、1つの断層画像を構成する音響線信号を、1送信イベントごとに1つではなく1画像分まとめて取得することができる。そのため、断層画像信号のフレームレートを向上させることができ、せん断波の伝播解析や速度測定に対する時間解像度を向上させることができる。なお、送信ビームフォーミングおよび受信ビームフォーミングは例示した方法に限らず、せん断波の伝播状態を取得できるフレームレートで断層画像が得られるような任意のビームフォーミングを行ってよい。
【0071】
(7)実施の形態および各変形例では、変位検出部14において、プッシュパルス送信前の断層画像信号を基準断層画像信号として、プッシュパルス送信後の断層画像信号との間でパターンマッチングや相関処理等による変位検出を行うとしたが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、ステップS20における断層画像信号の取得を行わず、基準断層画像信号として、着目領域を撮像した、断層画像記憶部18に予め記憶されている断層画像信号、または、着目領域の代表的な断層画像信号を用いてもよい。また、プッシュパルス送信後の断層画像信号のうち、一定時間離れた異なる時間における2つの断層画像信号の片方を基準断層画像信号として用いてもよい。
【0072】
(8)実施の形態および各変形例では、超音波信号取得部13が音響線信号を生成し、断層画像記憶部18が音響線信号を記憶し、変位検出部14は1画像分の音響線信号である断層画像信号を用いて変位の検出を行う場合について説明したが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、超音波信号取得部13は断層画像信号に対して包絡線検波、対数圧縮による輝度変換や画面表示用の画像データとなるよう幾何変換を行うことで、断層画像信号を断層画像データに変換し、断層画像記憶部18は断層画像データを記憶するとしてもよい。このようにすることで、制御部11は弾性画像の幾何変換を行わずにそのまま表示部3に表示することが可能となる。また、断層画像記憶部18が記憶している断層画像データについても、対数圧縮による輝度変換や幾何変換をする必要がなく、そのまま表示部3に表示することができる。
【0073】
(9)実施の形態、変形例1、2、4では、伝播解析部15は、変位画像の全域に対して変位領域を抽出するとしたが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、伝播解析部15は、プッシュパルスの印加直後の変位画像に対して、プッシュパルスの印加位置の近傍のみ変位領域を抽出するとしてもよい。このようにすることで、演算量を低減させることができるとともに、明らかにせん断波が存在しない領域を抽出の対象としないことで、ノイズを波面として誤検出することを防ぐことができる。なお、変位領域の抽出範囲の限定はこの場合に限られず、例えば、あるy座標について全くせん断波が検出されない場合には、以降の時刻について当該y座標を変位量位置の抽出範囲から除外してもよい。
【0074】
また、同様に、伝播解析部15は、時間フィルタリングにおいて、プッシュパルスの印加時刻を基に時間フィルタリング処理を行うとしてもよい。例えば、プッシュパルスの印加直後の波面画像に対して、プッシュパルスの印加位置の近傍にない波面をノイズとして削除してもよい。このようにすることで、明らかにせん断波が存在しえない領域に存在するノイズを波面として誤検出することを防ぐことができる。
【0075】
また、伝播解析部15は、空間フィルタリング処理と時間フィルタリング処理とを特定の順に行うのではなく、同時に行ってもよい。
(10)変形例3では、伝播解析部15は、相関処理により、変位画像から変位量がピークとなる時刻を検出する場合について説明したが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、相関処理による相関値に対してしきい値を設け、しきい値を上回る相関値が検出された時間帯を検出するとしてもよい。このようにすることで、変位量がピークとなる時刻をピンポイントで検出するだけではなく、その周辺時刻を検出して波面を正確に検出することが可能となる。また、逆に、相関処理による相関値に対して下限しきい値を設け、下限しきい値を下回る相関値が検出された場合、ピークとして検出しないとしてもよい。このようにすることで、波面が通過していない時刻における揺動などを波面と誤検出することを防ぐことができる。
【0076】
(11)実施の形態および各変形例では、超音波診断装置は表示部3と接続される構成であるとしたが、本発明は必ずしもこの場合に限られない。例えば、超音波診断装置1は表示部3を内蔵しているとしてもよいし、または、超音波診断装置1は表示部3と接続されず、伝播解析部15が生成し弾性画像記憶部21に記憶されている弾性画像データを他の記憶媒体に保存、あるいは、ネットワークを通じて他の装置に出力するとしてもよい。
【0077】
また、同様に、超音波診断装置は超音波探触子2を内蔵しているとしてもよいし、あるいは、超音波探触子2が超音波信号取得部13を備え、超音波信号取得部13を有さない超音波診断装置が超音波探触子2から音響線信号を取得するとしてもよい。
(12)実施の形態および各変形例に係る超音波診断装置は、その構成要素の全部又は一部を、1チップ又は複数チップの集積回路で実現してもよいし、コンピュータのプログラムで実現してもよいし、その他どのような形態で実施してもよい。例えば、伝播解析部と評価部とを1チップで実現してもよいし、超音波信号取得部のみを1チップで実現し、変位検出部等を別のチップで実現してもよい。
【0078】
集積回路で実現する場合、典型的には、LSI(Large Scale Integration)として実現される。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路、又は汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサを利用してもよい。
【0079】
さらには、半導体技術の進歩、又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
また、各実施の形態および各変形例に係る超音波診断装置は、記憶媒体に書き込まれたプログラムと、プログラムを読み込んで実行するコンピュータとで実現されてもよい。記憶媒体は、メモリカード、CD−ROMなどいかなる記録媒体であってもよい。また、本発明に係る超音波診断装置は、ネットワークを経由してダウンロードされるプログラムと、プログラムをネットワークからダウンロードして実行するコンピュータとで実現されてもよい。
【0080】
(13)以上で説明した実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程、工程の順序などは一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない工程については、より好ましい形態を構成する任意の構成要素として説明される。
【0081】
また、発明の理解の容易のため、上記各実施の形態で挙げた各図の構成要素の縮尺は実際のものと異なる場合がある。また本発明は上記各実施の形態の記載によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
さらに、超音波診断装置においては基板上に回路部品、リード線等の部材も存在するが、電気的配線、電気回路について当該技術分野における通常の知識に基づいて様々な態様を実施可能であり、本発明の説明として直接的には無関係のため、説明を省略している。尚、上記示した各図は模式図であり、必ずしも厳密に図示したものではない。
【0082】
≪補足≫
(1)実施の形態に係る超音波診断装置は、超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後超音波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の、前記被検体内の着目領域における伝播状態を検出する超音波診断装置であって、送信プロファイルに基づいてプッシュパルスを送信するプッシュパルス送信部と、前記プッシュパルスに続き超音波を被検体へ複数回送信し、送信された超音波に対応する被検体からの反射超音波を受信して複数の受信信号を時系列に取得し、前記複数の受信信号が取得された時刻における前記着目領域内の組織の、前記プッシュパルスに起因するせん断波による変位をそれぞれ検出する変位検出部と、前記変位検出部による検出結果に基づいて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を評価する評価部と、前記評価部が評価した結果に基づいて、前記送信プロファイルを調整するプッシュパルス調整部とを備え、前記プッシュパルス調整部が送信プロファイルを調整した場合に、前記プッシュパルス送信部は、調整された後の送信プロファイルに基づいて新たなプッシュパルスを送信し、前記変位検出部は、前記新たなプッシュパルスに起因するせん断波による変位を検出することを特徴とする。
【0083】
また、実施の形態に係る超音波診断装置の制御方法は、超音波探触子を用い、被検体内の特定部位に超音波を集中させるプッシュパルスを送信して特定部位にある組織を物理的に押圧した後超音波の送受信を被検体内に対して繰り返し行うことで、押圧された特定部位の組織を振動源とするせん断波の、前記被検体内の着目領域における伝播状態を検出する超音波診断装置の制御方法であって、送信プロファイルに基づいてプッシュパルスを送信し、前記プッシュパルスに続き超音波を被検体へ複数回送信し、送信された超音波に対応する被検体からの反射超音波を受信して複数の受信信号を時系列に取得し、前記複数の受信信号が取得された時刻における前記着目領域内の組織の、前記プッシュパルスに起因するせん断波による変位をそれぞれ検出し、前記せん断波による変位の検出結果に基づいて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を評価し、前記せん断波の伝播状態の評価結果に基づいて、前記送信プロファイルを調整し、前記送信プロファイルを調整した場合、さらに、調整された後の送信プロファイルに基づいて新たなプッシュパルスを送信し、前記新たなプッシュパルスに起因するせん断波による変位を検出することを特徴とする。
【0084】
本開示によれば、上記構成により、せん断波の伝播状態に基づいてプッシュパルスの押圧位置やエネルギーを制御する送信プロファイルを最適化できる。そのため、せん断波の反射や屈折、減衰といった原因により被検体内の組織の硬さの測定精度が低下し、または、測定ができなかった場合に、送信プロファイルを最適化して再測定し、その結果を得ることができる。したがって、被検体内の組織の硬さの測定精度が低下し、または、測定ができなかった場合に、検査者が再測定のため、原因を推測し、それに基づき送信プロファイルの調整を試行錯誤する煩雑さを低減することができる。これにより、検査者にとって簡便な手段で高精度に組織の硬さ測定を行うことができる。
【0085】
(2)また、上記(1)の超音波診断装置は、前記変位検出部が検出した前記複数の受信信号が取得された各時刻に対応する前記着目領域内の組織の変位を用いて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を解析する伝播解析部をさらに備え、前記評価部は、前記伝播解析部が前記変位検出部による検出結果を解析した結果に基づいて、前記着目領域におけるせん断波の伝播状態を評価する、としてもよい。
【0086】
このようにすることで、せん断波の向きや速度、伝播範囲等を解析した結果に基づいて、せん断波の伝播状態の評価やプッシュパルスの送信プロファイルの最適化を行うことができる。
(3)また、上記(2)の超音波診断装置は、前記伝播解析部は、前記変位検出部による検出結果に基づいて、前記複数の受信信号が取得された各時刻に対応する、前記着目領域内の各位置におけるせん断波の伝播速度を算出する、としてもよい。
【0087】
このようにすることで、各時刻におけるせん断波の速度に基づいて、せん断波の伝播状態の評価やプッシュパルスの送信プロファイルの最適化を行うことができる。
(4)また、上記(1)〜(3)の超音波診断装置は、前記評価部は、前記変位検出部が検出した前記複数の受信信号が取得された各時刻に対応する前記着目領域内の組織の変位を用いて、前記着目領域内におけるせん断波の伝播状態を評価する、としてもよい。
【0088】
このようにすることで、せん断波の向きや速度、伝播範囲等を組織の変位に直接基づいて評価を行うことができる。
(5)また、上記(4)の超音波診断装置は、前記評価部は、前記複数の受信信号が取得された時刻における前記着目領域内の各位置について、変位の有無に基づいてせん断波が伝播しているか否かを評価する、としてもよい。
【0089】
このようにすることで、せん断波の伝播解析を行わなくても、せん断波の伝播範囲を評価することができる。
(6)また、上記(1)〜(5)の超音波診断装置は、前記送信プロファイルは、プッシュパルスが集中する位置、プッシュパルスの時間長、プッシュパルスの送信に用いる前記超音波探触子の素子数、又はプッシュパルスの送信回数の少なくとも1つを制御パラメータとして含み、前記プッシュパルス調整部は、前記制御パラメータのうち少なくとも1つを変更する、としてもよい。
【0090】
(7)また、上記(6)の超音波診断装置は、前記送信プロファイルは、プッシュパルスが集中する位置を示す制御パラメータとして、プッシュパルスが集中する深さと、プッシュパルスの伝播する向きと前記超音波探触子との間の角度とを含む、としてもよい。
これらの構成により、プッシュパルスの焦点位置およびプッシュパルスのエネルギー、および、プッシュパルスの焦点の数を調整することができる。
【0091】
(8)また、上記(6)または(7)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス調整部は、プッシュパルスの送信回数を1から2に変更する場合、被検体内の異なる2つの位置のうち一方を第1のプッシュパルスが集中する位置として、他方を第2のプッシュパルスが集中する位置として選択する、としてもよい。
このようにすることで、プッシュパルス1つあたりのエネルギーを上昇させることなく、被検体組織への影響を抑制しながらせん断波の伝播範囲を拡大することができる。
【0092】
(9)また、上記(1)〜(7)の超音波診断装置は、前記評価部は、前記着目領域においてせん断波の伝播の有無を評価し、前記プッシュパルス調整部は、せん断波が伝播していない領域が前記着目領域において占める位置に基づいて、当該せん断波が伝播していない領域にせん断波が到達するように送信プロファイルを調整する、としてもよい。
このようにすることで、せん断波が着目領域全体に行き渡るようにプッシュパルスを送信することができ、弾性値が取得できない領域の発生を抑制することができる。
【0093】
(10)また、上記(9)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス調整部は、前記着目領域において、前記せん断波が伝播していない領域より浅い領域と深い領域とのいずれか一方のみに前記せん断波が伝播している場合、前記せん断波が伝播していない領域にプッシュパルスが集中する位置を近づける、としてもよい。
このようにすることで、例えば、プッシュパルスの焦点の深さが適切でない場合に、せん断波が着目領域全体に行き渡るようにプッシュパルスを送信することができる。
【0094】
(11)また、上記(9)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス調整部は、前記着目領域において、前記せん断波が伝播していない領域より深い領域と浅い領域との双方に前記せん断波が伝播している場合、前記超音波探触子の素子配列方向にプッシュパルスが集中する位置を移動させる、としてもよい。
このようにすることで、例えば、せん断波の屈折等により非伝播領域が生じている場合に、せん断波が着目領域全体に行き渡るようにプッシュパルスを送信することができる。
【0095】
(12)また、上記(9)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス調整部は、前記超音波探触子の素子配列方向において、前記せん断波が伝播していない領域が前記着目領域の一端を含み、かつ、前記せん断波が伝播していない領域より前記着目領域の他端側に前記せん断波が伝播している場合、プッシュパルスのエネルギーを上昇させる、前記せん断波が伝播していない領域の内部または近傍に新たなプッシュパルスが集中する位置を追加する、のいずれかを行う、としてもよい。
【0096】
このようにすることで、例えば、せん断波が伝播途上に減衰している場合に、せん断波が着目領域全体に行き渡るようにプッシュパルスを送信することができる。
(13)また、上記(9)の超音波診断装置は、前記プッシュパルス調整部は、前記超音波探触子の素子配列方向において、せん断波が伝播している領域に前記せん断波が伝播していない領域が挟まれている場合、前記せん断波が伝播していない領域の近傍に新たなプッシュパルスが集中する位置を追加する、としてもよい。
【0097】
このようにすることで、例えば、反射源により反射したせん断波が伝播しているせん断波と干渉を起こしている場合や、反射源の内部にせん断波が伝播していない場合、せん断波が着目領域全体に行き渡るようにプッシュパルスを送信することができる。
(14)また、上記(1)〜(13)の超音波診断装置は、前記評価部は、前記着目領域におけるせん断波の伝播の一様性を評価し、前記プッシュパルス調整部は、せん断波が一様に伝播している領域内にプッシュパルスが集中する位置が存在するように、送信プロファイルを調整する、としてもよい。
【0098】
このようにすることで、せん断波の屈折や反射が発生することを抑制し、せん断波速度の測定精度を向上させることができる。
(15)また、上記(1)〜(14)の超音波診断装置は、前記評価部は、前記着目領域におけるせん断波の伝播の一様性を評価し、前記プッシュパルス調整部は、せん断波の伝播状態が局所的に異なる領域の近傍にプッシュパルスが集中する位置が存在するように、送信プロファイルを調整する、としてもよい。
【0099】
このようにすることで、せん断波の伝播状態が局所的に異なる領域に対応する、弾性値が周囲と異なる組織(例えば、腫瘍など)について、弾性測定の精度を向上させることができる。
(16)また、上記(1)〜(15)の超音波診断装置は、前記変位検出部による検出結果に基づいて、被検体内の各組織の弾性を計測する弾性計測部をさらに備える、としてもよい。
【0100】
このようにすることで、プッシュパルス送信に基づいて、被検体の各組織の弾性を計測することができる。