【解決手段】統括制御システム3の制御装置3Bは、複数の治療室4A,4B,4C,4Dのうち、ある治療室4A,4B,4C,4Dが一度加速器1を専有したときは、意図的な加速器専有解除操作またはシステム異常発生時を除き、加速器1の専有を維持するようビーム輸送系2および照射装置40A,40B,40C,40Dを制御する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の粒子線治療システムの実施形態を、
図1乃至
図5を用いて説明する。
図1は本発明の実施形態である粒子線治療システムの構成の一例を示す図、
図2Aは一般的な非連続多門照射制御による第1治療室での待ち時間の一例(全治療室の加速器専有優先度が同一のケース)を示す図、
図2Bは一般的な非連続多門照射制御による第1治療室での待ち時間の一例(第1治療室が他治療室より加速器専有優先度が高いケース)を示す図、
図3は本発明の実施形態である連続多門照射制御による第1治療室の待ち時間の一例を示す図、
図4は一般的な非連続多門照射制御における治療照射時のフローチャート、
図5は本発明の実施形態である連続多門照射制御における治療照射時のフローチャートである。
【0016】
まず、本実施形態における各用語について以下説明する。
【0017】
本発明において、加速器専有とは、複数ある治療室のうちのある治療室が治療フィールド(後述)にてイオンビーム照射を行う際に、所望のビームを加速させるために加速器を独占して使用できる状態のことをいう。ある治療室が加速器専有状態にある場合、他の治療室は加速器専有することはできない。
【0018】
また、加速器専有要求とは、加速器専有を行うために、ある治療室が統括制御システムに対して加速器専有の要求を出す状態のことをいう。加速器専有要求を受けた統括制御システムは、独自の手法とその時々の状況により、その治療室を加速器専有状態もしくは加速器専有待ち状態にする。
【0019】
また、加速器専有待ちとは、ある治療室が加速器専有要求を統括制御システムに出し、その治療室が加速器専有状態になるのを待っている状態のことをいう。加速器専有待ち状態の治療室は複数部屋同時に存在することがある。
【0020】
また、加速器専有解除とは、ある治療室が加速器専有状態から脱却した状態のことをいう。加速器専有解除となるのは、加速器専有状態の治療室で治療照射フィールドを終えた時、異常が検出されてインターロックシステムによって強制的に照射が終了する時、権限のあるオペレータによる意図的な加速器専有解除操作が行われた時などがある。
【0021】
また、治療フィールドとは、治療照射用のフィールドのことをいう。このフィールドで加速器専有を行い、イオンビーム照射が行われ、照射が完了、もしくは異常終了、もしくは権限のあるオペレータによる意図的な終了操作により、フィールド完了となる。
【0022】
また、位置決めフィールドとは、患者位置決め用のフィールドのことをいう。この位置決めフィールドでは、加速器専有とイオンビーム照射を必要としない。
【0023】
また、画像撮像フィールドとは、画像データ撮影用のフィールドのことをいう。この画像撮像フィールドにおいても、加速器専有とイオンビーム照射を必要としない。
【0024】
また、治療照射準備とは、位置決めフィールド、画像撮像フィールドなど、加速器専有を行わなくとも実行可能な照射に必要となる作業を指す。
【0025】
また、加速器専有優先度とは、加速器専有待ち状態の治療室が複数存在する際に、統括制御システムにより次に加速器を専有する治療室を決定するための指標のことをいう。この加速器専有優先度は予め治療室毎に割りつけることや、先に加速器専有待ち状態に入った治療室から先着で加速器専有優先度を割りつけることも可能である。
【0026】
次に、本実施形態の粒子線治療システムについて
図1を参照して以下説明する。
【0027】
本実施形態の粒子線治療システムは、
図1に示すように、加速器1と、4つの治療室4A,4B,4C,4D(以下治療室4とも記載)と、加速器1の下流側に接続されたビーム輸送系2と、統括制御システム3とを備える。
【0028】
加速器1は、イオンビームを加速・出射するための機器であり、イオン源(図示せず)、前段加速器(例えば直線加速器)1Aおよび円形加速器としてシンクロトロン1Bを有する。なお、シンクロトロン1Bに代えて、例えばサイクロトロン等のような前段加速器を有しない加速器や直線加速器を用いてもよい。
【0029】
ビーム輸送系2は、第1ビーム輸送系2Eと、第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dと、切替え電磁石(経路切替え装置)20A,20B,20C,20Dと、各治療室別のシャッタ24A,24B,24C,24Dと、全治療室共通のシャッタ22とを有している。
【0030】
第1ビーム輸送系2Eは、加速器1に接続され、加速器1から出射されたイオンビームを第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dのそれぞれに導く共通のビーム輸送系である。
【0031】
第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dは、第1ビーム輸送系2Eに接続されており、第1ビーム輸送系2Eにより輸送されたイオンビームを複数の治療室4A,4B,4C,4D内の各照射装置40A,40B,40C,40Dに別々に輸送するよう第1ビーム輸送系2Eから分岐するように設けられている。
【0032】
切替え電磁石20A,20B,20C,20Dは、第1ビーム輸送系2Eのビーム経路と、複数の第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dのビーム経路との各接合部にそれぞれ配置され、イオンビームを導くビーム経路を切替えるための電磁石であり、偏向電磁石の一種である。
【0033】
シャッタ24A,24B,24C,24Dは、複数の第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dのそれぞれに設けられ、その第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dのビーム経路を遮断する。シャッタ22は、第1ビーム輸送系2Eに設けられ、第1ビーム輸送系2Eのビーム経路を遮断する。
【0034】
治療室4A〜4Dは、内部にそれぞれ設置された回転ガントリー(図示せず)に取り付けられた照射装置40A〜40Dをそれぞれ備える。治療室4A〜4Dは例えば癌患者用の第1〜第4治療室である。
【0035】
照射装置40A〜40Dは、イオンビームを照射するための機器であり、ビームの軌道に対して垂直な平面内の直交する二方向(以下、まとめて横方向と定義する)に独立にビームが走査させる二台の走査電磁石、ビームモニタ等を備えている。
【0036】
なお、治療室4つが全て同じ構成の場合について説明しているが、治療室4つ全てが同じ構成である必要はなく、各治療に適した各々別個の構成の治療室を複数備えていてもよい。例えば、偏向電磁石、散乱体装置、リングコリメータ、患者コリメータ、ボーラス等を備える照射装置であってもよいし、他の構成を備える照射装置であってもよい。また、照射装置40A〜40Dが、任意の方向からビームを患部へ照射可能とするために回転ガントリーに取り付けられた場合について説明したが、照射装置は固定されていてもよい。これらのような後述する連続多門照射制御を行うことが好適な治療室と好適とまではいえない治療室とを配置する場合、連続多門照射制御を実施することが好適な治療室に対して本発明を適用し、他の治療室は一般的な非連続多門照射制御を実施することが可能である。
【0037】
統括制御システム3は、加速器1、ビーム輸送系2および照射装置40A,40B,40C,40Dを制御するための制御システムであり、記憶装置3Aおよび制御装置3Bを備える。この統括制御システム3は、ビーム輸送系2や加速器1、治療室4に接続されており、記憶装置3Aに記憶されている各種制御パラメータを用いて、制御装置3Bはこれらビーム輸送系2、加速器1、治療室4を構成する各機器(照射装置40A〜40Dや、切替え電磁石20A〜20D、シャッタ24A〜24D、シャッタ22等のビーム輸送系2内の各機器、前段加速器1A,シンクロトロン1Bを構成する各機器)を制御する。
【0038】
また、本実施形態では、この統括制御システム3の制御装置3Bは、複数の治療室4A,4B,4C,4Dのうち、ある治療室4A,4B,4C,4Dが一度加速器1を専有したときは、意図的な加速器専有解除操作またはシステム異常発生時を除き、加速器1の専有を維持するようビーム輸送系2および照射装置40A,40B,40C,40Dを制御する(以下、この加速器1の専有を維持する制御を連続多門照射制御とも記載する)。
【0039】
例えば、統括制御システム3の制御装置3Bは、ある治療室4A,4B,4C,4Dによってある特定の患者に対して治療を行うときには、その特定の患者に処方された治療が全て終わるまでの間、連続多門照射制御を実施する。
【0040】
または、統括制御システム3の制御装置3Bは、粒子線治療を患者に施すセラピストの選択に基づいて、ある特定の治療室4A,4B,4C,4Dが治療照射を行うために加速器1を一度専有した際には、所定の照射を全て終えるまでの間、連続多門照射制御を実施する。
【0041】
または、統括制御システム3の制御装置3Bは、複数の治療室4A,4B,4C,4Dのうち、ある特定の治療室4A,4B,4C,4Dが加速器1を専有したときは、その特定の治療室4A,4B,4C,4Dの加速器専有を維持するよう、連続多門照射制御を実施する。
【0042】
または、統括制御システム3の制御装置3Bは、ある特定の処方箋を不特定の治療室4A,4B,4C,4Dで患者に施すときは、その特定の処方箋の治療が全て終わるまでの間、連続多門照射制御を実施する。
【0043】
更に、統括制御システム3の制御装置3Bは、加速器1の専有が維持される間は、切替え電磁石20A,20B,20C,20Dやシャッタ24A,24B,24C,24Dの制御パラメータを変更せずに同じ動作を維持した状態を保つよう制御する。
【0044】
なお、連続多門照射制御でない制御が選択されたときは、統括制御システム3の制御装置3Bは、非連続多門照射制御を実施する。この際の非連続多門照射制御は、先着順による加速器専有、優先度に基づいた加速器専有など、公知の制御を実施することができる。
【0045】
ここで、意図的な加速器専有解除操作またはシステム異常発生時について説明する。意図的な加速器専有解除操作とは、粒子線治療を患者に施すセラピストがイオンビームの照射を停止したほうが良いと判断した際、例えば患者の容態が急変した非常時等に、統括制御システム3に設けられた非常停止ボタン(インターロック)を作動させる操作のことである。また、システム異常発生時とは、患者の安全を担保するために統括制御システム3とは独立したインターロックシステム(図示せず)が、ビーム輸送系2や加速器1、治療室4内の各機器の状態が異常であることを示す信号を入力した時や、照射装置40A,40B,40C,40D内のビームモニタにおけるビーム異常を検出した時である。これらの場合、統括制御システム3の制御装置3Bは、インターロックシステムからの異常信号をビーム出射停止指令として受信し、シンクロトロン1Bに設けられた出射用の高周波印加装置1B2への出射用高周波信号の印加を停止する。これにより、シンクロトロン1Bはイオンビームの出射を停止する。なお、イオンビームの停止は、シャッタ24A,24B,24C,24Dやシャッタ22を作動させることで行ってもよい。
【0046】
ここで、上述したような連続多門照射制御の詳細について、現在一般的に実施されている非連続多門照射制御と比較しながら説明する。ここでは第1治療室4Aにおける待ち時間を参照に例示する。
【0047】
第1治療室4Aの治療照射フィールドでイオンビーム照射を行っている間、加速器1は第1治療室4A以外の治療室(第2治療室4B,第3治療室4C,第4治療室4D)にはイオンビームは供給されない。そのため、該当する第1治療室4A以外の治療室が加速器専有要求を統括制御システム3に出力しても、照射を行うために加速器専有するには、加速器専有中の第1治療室4Aの加速器専有解除を待つ必要がある。第1治療室4Aが加速器専有解除するには、第1治療室4Aでの現在の治療照射フィールドを終える必要がある。治療照射フィールドが終わるのは、その治療照射フィールドで予定していた治療照射を終える、もしくは意図的にフィールドを中止する、もしくは異常発生による強制終了などがある。
【0048】
一般的な非連続多門照射制御の場合、第1治療室4Aで治療フィールドを終えた際、第1治療室4Aは加速器専有を解除する。この時、加速器専有が解除された状態で、他治療室が加速器専有要求をすることにより、加速器1はその専有要求を行った治療室に専有される(
図2A,
図2Bの15)。その後、再び第1治療室4Aで治療照射を行う、すなわち加速器専有する(
図2A,
図2Bの16)ためには、粒子線治療システムの統括制御システム3の加速器専有フローに従い、加速器専有されるまで待つ必要がある。
【0049】
統括制御システム3の加速器専有フローは多様であり、
図2Aに示すような『先着優先』や
図2Bに示すような『優先レベル』などの方法がある。統括制御システム3は複数ある加速器専有要求を所定の手法で順番を決定し、加速器専有指令を該当コースにイオンビームを入射するために切替え電磁石20A,20B,20C,20Dに指令を出す。
【0050】
ここで、第1治療室4Aが例え最上位の加速器専有優先レベルであったとしても、第1治療室4Aにおける次の照射準備が完了した時点で他治療室が加速器専有中である場合、少なくとも現在加速器専有中である治療室が加速器専有を解除するまで待つ必要がある。このため第1治療室4Aでの待ち時間が生じる。
【0051】
図2Aは、第1治療室4Aの患者Aに対して非連続多門照射制御を適用し、第1治療室4Aとその他の第2治療室4B〜第4治療室4Dの優先度は同レベルであり、加速器専有の割付は先着優先となっているケースである。
図2Aに示す場合、第1治療室4Aが治療フィールドを終え加速器専有を一旦解除すると、次に第1治療室4Aが加速器専有するまで、第2治療室4B〜第4治療室4Dの3室が加速器専有および加速器専有解除を終えるのを待つ必要があり、長時間の待ち時間が発生する。
【0052】
図2Bは、第1治療室4Aの患者Aに対して非連続多門照射制御を適用し、第1治療室4Aの優先度が他の治療室に対して優先される「優先度:高(最優先)」に設定されているケースである。
図2Bに示す場合で、第1治療室4Aが治療フィールドを終え加速器専有を解除した際を考える。この場合は、第2治療室4Bが加速器専有待ちであり、その瞬間において第1治療室4Aは次の治療フィールドの準備中であるために統括制御システム3に対して加速器専有要求を出力しておらず、加速器専有待ち状態ではない。そのため、加速器1は第2治療室4Bに専有される。その後、第1治療室4Aが再び加速器専有要求を出すと、第3治療室4Cや第4治療室4Dの加速器専有要求より優先されるものの、加速器専有するためには第2治療室4Bの加速器専有解除を待つ必要がある。このため、
図2Aに示すケースに比べて待ち時間は短縮されるものの、第1治療室4Aの患者の待ち時間をより短縮することは困難である。
【0053】
このように、一般的な非連続多門照射制御では、第1治療室4Aで治療中の患者に複数の治療フィールドが予定されており、かつ未実施の治療フィールドがある場合、未実施の治療フィールドを実施するための治療照射前準備を終え、再び第1治療室4Aが加速器専有要求を出してから加速器専有されるまで、加速器専有待ち時間が生じるケースが存在する。
【0054】
これに対し、本実施形態における連続多門照射制御の場合、予め統括制御システムが第1治療室4Aを連続多門照射運転中である治療室として認識したときは、
図3に示すように、第1治療室4Aがある治療フィールドを終えても、未実施の治療フィールドが残っている際には第1治療室4Aの加速器専有解除は行われず、他治療室に影響されずに第1治療室4Aにて次の治療フィールドを進行し、全ての治療フィールドが実施されるまで他の治療室が加速器専有とならない。そのため、第1治療室4Aの患者の加速器専有待ちの待ち時間は発生せず、治療時間の大幅な短縮が実現される。
【0055】
次に、本実施形態の粒子線治療システムにおける照射の流れについて説明する。
【0056】
まず、イオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオンまたは炭素イオン等の重粒子イオン)は前段加速器1Aで加速される。前段加速器1Aから出射されたイオンビームはシンクロトロン1Bに入射される。
【0057】
荷電粒子ビーム(粒子線)であるそのイオンビームは、シンクロトロン1Bで、高周波加速空胴1B1から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。シンクロトロン1B内を周回するイオンビームのエネルギーが設定されたエネルギー(例えば100〜200MeV)までに高められた後、出射用の高周波印加装置1B2から高周波がイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ1B3を通ってシンクロトロン1Bから出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン1Bに設けられた四極電磁石1B5および偏向電磁石1B4等の電磁石に導かれる電流が電流設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。高周波印加装置1B2への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン1Bからのイオンビームの出射が停止される。
【0058】
シンクロトロン1Bから出射されたイオンビームは、第1ビーム輸送系2Eより下流側へ輸送される。第1ビーム輸送系2Eに導入されたイオンビームは、第1ビーム輸送系2E内の各種電磁石および切替え電磁石20A,20B,20C,20Dの励磁、非励磁の切り替えによる偏向作用の有無によって、第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2D内の照射装置40A,40B,40C,40Dのいずれかに選択的に導入される。
【0059】
第2ビーム輸送系2A,2B,2C,2Dから治療室4A,4B,4C,4D内に入射したイオンビームは、照射装置40A,40B,40C,40Dから患者内のターゲットに向けて照射される。
【0060】
次に、本実施形態の連続多門照射制御における治療照射時の流れについて、一般的な非連続多門照射制御の治療照射時の流れと比較して、
図4および
図5を参照して以下説明する。
【0061】
まず、一般的な非連続多門照射制御の治療照射時の流れを
図4を参照して説明する。
【0062】
まず、オペレータによって治療の開始が指示される(ステップS40)。次いで、加速器専有要求を統括制御システム3に対して出力し、治療室が加速器専有待ち状態となる(ステップS41)。次いで、他の治療室における加速器専有が終了し、治療室が加速器専有状態となる(ステップS42)。次いで、治療照射が実施される(ステップS43)。その後、治療フィールドが終了したことに基づいて、加速器専有を解除する(ステップS44)。次いで、次の照射の計画があるか否かを判定する(ステップS45)。次の照射の計画が有ると判定されたときはステップS41に処理を戻し、再び加速器専有待ちを行う。これに対し、すべての照射の計画が終了して次の照射の計画が無いと判定されたときはステップS46に処理を進め、治療が終了する(ステップS46)。
【0063】
次に、本実施形態の連続多門照射制御の治療照射時の流れを
図5を参照して説明する。
【0064】
まず、オペレータによって治療の開始が指示される(ステップS10)。
【0065】
次いで、連続多門照射制御を実施するか否かを判定する(ステップS11)。連続多門照射制御を実施すると判定されたときはステップS21に処理を進め、非連続多門照射制御を実施すると判定されたときはステップS12に処理を進める。
【0066】
例えば、ある治療室4A,4B,4C,4Dによってある特定の患者に対して治療を行うときには、本ステップS11では、処方箋における設定やセラピストにおける選択、治療室の仕様に基づく連続多門照射制御が実施される旨の設定が入力される。また、粒子線治療を患者に施すセラピストの選択に基づいてある特定の治療室4A,4B,4C,4Dが治療照射を行うために加速器1を一度専有する場合には、本ステップS11では、セラピストによって連続多門照射制御が実施される旨の選択結果が入力される。また、ある特定の治療室4A,4B,4C,4Dが加速器1を専有する場合は、その特定の仕様の治療室4A,4B,4C,4Dで連続多門照射制御が実施される旨の設定が入力される。また、ある特定の処方箋を不特定の治療室4A,4B,4C,4Dで患者に施すときは、治療室4A乃至4Dの仕様に関わらず、その特定の処方箋において連続多門照射制御が実施される旨の設定が入力される。これらのように、非連続多門照射制御と連続多門照射制御とを操作用の端末等によって統括制御システム3に対して指令が出されることにより、柔軟な切り替えが可能である。
【0067】
ステップS11において連続多門照射制御を実施すると判定されたときは、次いで、加速器専有要求を統括制御システム3に対して出力する(ステップS21)。次いで、他の治療室における加速器専有が終了し、ある治療室が加速器専有状態となる(ステップS22)。次いで、治療照射が実施される(ステップS23)。本実施形態では、このステップS23における治療照射終了後にも、加速器専有保持を行ったままとする。次いで、次の照射の計画があるか否かを判定する(ステップS24)。次の照射の計画が有ると判定されたときはステップS23に処理を戻して次の照射の計画の準備・照射を実施する。これに対し、すべての照射の計画が終了して次の照射の計画が無いと判定されたときはステップS25に処理を進める。続いて、全ての治療フィールドが終了したことに基づいて、加速器専有を解除する(ステップS25)。その後、当該治療室における治療が終了する(ステップS30)。
【0068】
これに対し、ステップS11において非連続多門照射制御を実施すると判定されたときは、加速器専有要求を統括制御システム3に対して出力し、治療室が加速器専有待ち状態となる(ステップS12)。次いで、他の治療室における加速器専有が終了し、治療室が加速器専有状態となる(ステップS13)。次いで、治療照射が実施される(ステップS14)。その後、治療フィールドが終了したことに基づいて、加速器専有を解除する(ステップS15)。次いで、次の照射の計画があるか否かを判定する(ステップS16)。次の照射の計画が有ると判定されたときはステップS11に処理を戻し、すべての照射の計画が終了して次の照射の計画が無いと判定されたときはステップS30に処理を進める。
【0069】
次に、本実施形態の効果について説明する。
【0070】
上述のように、本実施形態では、治療照射フィールドを終える毎に加速器専有解除を行う一般的な照射制御(非連続多門照射制御)である特定の治療に対して、加速器を専有したまま連続して治療を行えないという課題を解決するため、ある処方箋で複数の治療照射フィールドを必要とする場合、治療照射フィールドを終えても同処方箋内に未実施の治療照射フィールドがある場合は加速器専有解除を行わない照射制御(連続多門照射制御)を実施する。
【0071】
このような連続多門照射制御を実施することにより、その処方箋に含まれる全ての治療照射フィールドを、その処方箋の終わりを意味する最終の治療照射フィールド終了時や、意図的な加速器専有解除操作またはシステム異常発生時を除き、加速器専有解除による他治療室の治療による加速器専有時間を待つこと無く完遂できる。すなわち、連続多門照射制御を適用した治療は、一度加速器専有を行えば、平常であればその後は加速器専有を維持したまま治療で予定されている全ての治療照射フィールドを終えることができ、特定の患者の治療時間短縮が実現可能となる。
【0072】
例えば、特定の患者に対して麻酔を併用して治療を行う際に、連続多門照射制御を適用して治療時間を短縮することにより、その特定の患者に施す麻酔の量を低減するなどの面で患者への負担が軽減される。また、治療室の患者治療位置で長時間固定されたまま治療を受けることが困難な小児の治療時間短縮等も有効な利用方法の一例である。
【0073】
ここで、現在実施されている照射の方式または過去に実施されていた照射の方式は、イオンビームを散乱体で散乱させ、散乱されたビームをコリメータでがん患部の形状に合わせて照射するパッシブ照射方式が主に採用されている。このパッシブ照射では、ある治療照射フィールドを終えて次の未実施の治療照射フィールドを実行するまでの間に、オペレータが照射装置にアクセスし、コリメータなどを付け替える作業を行う必要があった。この付け替え作業の時間が必要なために、治療照射フィールドを終えた後は加速器専有を解除し、他の治療室が加速器専有を行うことが全体の治療時間の短縮に大きく寄与するものであり、加速器専有を行うメリットが非常に乏しい状態であった。
【0074】
しかし、加速器などで生成した荷電粒子線をがん患部へ照射する際に細いイオンビームを走査してがん患部へ照射するスキャニング照射方式では、走査電磁石によってイオンビームを走査する。このため、ある治療照射フィールドを終え、次の未実施の治療照射フィールドを実行するまでの間にオペレータが照射装置にアクセスする必要がない。このため、スキャニング方式では、上述したように加速器専有を維持したまま、治療で予定されている全ての治療照射フィールドを終える連続多門照射制御を実施することで、ある特定の患者の治療時間の短縮に大きく寄与することができる。なお、もちろんパッシブ照射方式においても連続多門照射制御を実施することによって、ある特定の患者の治療時間の短縮に寄与することが可能である。
【0075】
また、統括制御システム3の制御装置3Bは、加速器1の専有が維持される間は、切替え電磁石20A,20B,20C,20Dやシャッタ24A,24B,24C,24Dの動作を変更せずに維持した状態を保つよう制御することによって、加速器専有がなされている治療室への治療照射がより安定かつ確実に実施され、特定の患者の治療時間短縮に寄与することができる。
【0076】
なお、本発明は上記の実施形態に限られず、種々の変形、応用が可能なものである。上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。
【0077】
例えば、ある治療室4A,4B,4C,4Dが一度加速器1を専有したときに、意図的な加速器専有解除操作またはシステム異常発生時を除き、連続多門照射制御を実施する場合について説明したが、統括制御システム3の制御装置3Bは、複数の治療室4A,4B,4C,4Dのうち、ある治療室4A,4B,4C,4Dがある特定の患者を治療するために一度加速器1を専有したときは、その特定の患者に処方された治療が全て終わるまでの間、いかなる場合も加速器1の専有を維持するようビーム輸送系および照射装置40A,40B,40C,40Dを制御することができる。
【0078】
このような制御によっても、上述の実施形態で得られるような特定の患者の治療時間短縮が実現可能との効果が得られる。