【解決手段】突起部22は、第1面21Sに沿って延びる形状を有し、第1面21Sから離れた1つの線状を有する頂辺24cと、頂辺24cを共有する2つの主側面23Aであって、頂辺24cの第1端と第1面21Sとを繋ぐ辺である側辺24dを別々に有した2つの主側面23Aと、2つの主側面23Aの各々と側辺24dを共有し、2つの主側面23Aと共に1つの角部を構成する副側面23Bとを備える。主側面23Aにおいて側辺24dと頂辺24cとのなす角は鈍角であり、副側面23Bにおいて2つの側辺24dによって挟まれる角は鋭角である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(第1の実施形態)
図1〜
図7を参照して、第1の実施形態として、経皮投与デバイスの実施形態について説明する。
【0028】
[経皮投与デバイスの全体構成]
図1を参照して、経皮投与デバイスの全体構成について説明する。
図1に示されるように、経皮投与デバイス10は、投与部20と、粘着シート30とを備えている。
【0029】
投与部20は、板状を有する基体21と、基体21から突き出た複数の突起部22とを備えている。基体21は、突起部22の形成された面である第1面21Sと、第1面21Sとは反対側の面である第2面21Tとを有し、第1面21Sは突起部22の基端を支持している。
【0030】
粘着シート30は、基材シート31と、基材シート31の有する2つの面のうちの一方の面を覆う粘着層32とを備えている。粘着層32の有する粘着面の一部には、基体21の第2面21Tが貼り付けられている。
【0031】
[突起部の構成]
図2および
図3を参照して、突起部の詳細な構成について説明する。
図2に示されるように、突起部22は、台形形状を有する平面である2つの主側面23Aと、三角形形状を有する平面である2つの副側面23Bと、長方形形状を有する平面である1つの底面23Cとによって囲まれる中身の詰まった立体である。
【0032】
底面23Cは、基体21の第1面21S内にて区画されている面である。底面23Cを区画する四辺のうち、2つの長辺24aの延びる方向が第1方向であって、長辺24aよりも短い辺である2つの短辺24bの延びる方向が第2方向である。第1方向と第2方向とは、第1面21Sと平行な方向であって、第1方向と第2方向とは互いに直交している。また、第1面21Sに直交する方向、すなわち、第1方向および第2方向に直交する方向が第3方向である。
【0033】
2つの主側面23Aの各々は、互いに同一の等脚台形形状を有しており、2つの主側面23Aのうちの一方は2つの長辺24aのうちの一方を境界として底面23Cと接続し、2つの主側面23Aのうちの他方は2つの長辺24aのうちの他方を境界として底面23Cと接続している。各主側面23Aは、第3方向に対して傾斜し、2つの主側面23Aは、各主側面23Aにて長辺24aと平行な対辺となる頂辺24cを境界として互いに接続している。すなわち、2つの主側面23Aは、頂辺24cを共有し、側辺24dを別々に有している。頂辺24cの両端のうち、一方の端は第1端であり、他方の端は第2端である。頂辺24cの第1端から延びる2つの側辺24dは第1側辺であり、頂辺24cの第2端から延びる2つの側辺24dは第2側辺である。
【0034】
2つの副側面23Bの各々は、互いに同一の二等辺三角形形状を有しており、2つの副側面23Bのうちの一方である第1副側面は2つの短辺24bのうちの一方を境界として底面23Cと接続し、2つの副側面23Bのうちの他方である第2副側面は2つの短辺24bのうちの他方を境界として底面23Cと接続している。各副側面23Bは、第3方向に対して傾斜し、各副側面23Bにて二等辺三角形の等辺となる2つの側辺24dの一方を境界として2つの主側面23Aのうちの一方と接続し、2つの側辺24dのうちの他方を境界として2つの主側面23Aのうちの他方と接続している。すなわち、各副側面23Bは、2つの主側面23Aの各々と側辺24dを共有している。換言すれば、第1副側面は、2つの主側面23Aの各々と第1側辺を共有し、第2副側面は、2つの主側面23Aの各々と第2側辺を共有している。そして、2つの主側面23Aとこれらの主側面23Aによって挟まれる1つの副側面23Bとによって1つの角部が形成されている。すなわち、突起部22は、2つの主側面23Aと第1副側面とから形成される角部と、2つの主側面23Aと第2副側面とから形成される角部とを有している。
【0035】
突起部22においては、頂辺24cが先端となる。すなわち、突起部22の先端は、第1方向に沿って延びる線状に形成されている。
このように、突起部22は、第1方向に沿って延びる刃状を有する。
【0036】
突起部22の高さHは、基体21の第1面21Sから突起部22の先端までの第3方向に沿った長さである。高さHは、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、この範囲のなかで、突起部22が投与対象に形成する孔、すなわち、薬剤を皮内に投与するための通路に必要な深さに応じて決定される。
【0037】
投与対象が人体の皮膚であって、孔の底が角質層内に設定される場合、高さHは10μm以上300μm以下であることが好ましく、30μm以上200μm以下であることがより好ましい。孔の底が角質層を貫通し、かつ、神経層へ到達しない深さに設定される場合、高さHは200μm以上700μm以下であることが好ましく、200μm以上500μm以下であることがより好ましく、200μm以上300μm以下であることがさらに好ましい。孔の底が真皮に到達する深さに設定される場合、高さHは200μm以上500μm以下であることが好ましい。孔の底が表皮に到達する深さに設定される場合、高さHは200μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0038】
突起部22における第1方向の幅D1は、第1方向における突起部22の長さの最大値である。また、突起部22における第2方向の幅D2は、第2方向における突起部22の長さの最大値である。すなわち、幅D1は長辺24aの長さであり、幅D2は短辺24bの長さであり、幅D1は、幅D2よりも大きい。具体的には、幅D1は、200μm以上2000μm以下であることが好ましく、幅D2は、1μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0039】
突起部22における先端の長さLは、突起部22のなかで基体21の第1面21Sから最も離れた線状部分の長さ、すなわち、頂辺24cの長さである。先端の長さLは、幅D1よりも小さく、幅D2よりも大きい。具体的には、先端の長さLは、100μm以上1000μm以下であることが好ましい。
【0040】
図3を参照して、主側面23Aおよび副側面23Bの形状について詳細に説明する。
図3に示されるように、主側面23Aにおいて、突起部22の先端を構成する辺である頂辺24cと、頂辺24cの端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ辺である側辺24dとのなす角である主先端角の角度θ1は、90度よりも大きく180度よりも小さい鈍角である。具体的には、主先端角の角度θ1は110度以上150度以下であることが好ましい。
【0041】
主側面23Aの高さHsは、等脚台形の高さ、すなわち、長辺24aから頂辺24cまでの最短の長さであって、主側面23Aのアスペクト比Asは、長辺24aの長さ、すなわち、突起部22の幅D1に対する高さHsの比(As=Hs/D1)である。アスペクト比Asは、1よりも小さいことが好ましく、0.05以上0.8以下であることがより好ましい。
【0042】
副側面23Bにおいて、二等辺三角形の頂角、すなわち、2つの側辺24dによって挟まれる角である副先端角の角度θ2は、90度よりも小さい鋭角である。具体的には、副先端角の角度θ2は10度以上60度以下であることが好ましい。
【0043】
副側面23Bの高さHfは、二等辺三角形の高さ、すなわち、短辺24bから副側面23Bの頂点までの最短の長さであって、副側面23Bのアスペクト比Afは、二等辺三角形の底辺である短辺24bの長さ、すなわち、突起部22の幅D2に対する高さHfの比(Af=Hf/D2)である。アスペクト比Afは、1よりも大きいことが好ましく、1.2以上4.6以下であることがより好ましい。
【0044】
なお、上記構成においては、突起部22を第2方向に沿った方向からみた場合、突起部22の先端を構成する辺と、突起部22の先端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ辺とのなす角は角度θ1よりも大きい鈍角となる。また、突起部22を第1方向に沿った方向からみた場合、突起部22の先端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ2つの辺によって挟まれる角は角度θ2よりも大きく、鋭角であることが好ましい。
【0045】
[突起部の配列]
図4を参照して、突起部の配列を中心に、経皮投与デバイスの詳細構成について説明する。
【0046】
図4に示されるように、基体21の第1面21Sと対向する方向から見て、基体21は、第2方向よりも第1方向に長い外形を有している。例えば、基体21は、第2方向よりも第1方向に長い長方形形状や楕円形形状を有している。
【0047】
基体21の第1面21Sと対向する方向から見て、粘着シート30は、基体21よりも大きく、かつ、第2方向よりも第1方向に長い外形を有している。例えば、粘着シート30は、基体21と相似形の長方形形状や楕円形形状を有している。基体21の第1面21Sと対向する方向から見て、基体21の外側には、粘着シート30がはみ出し、粘着層32の粘着面が露出している。
【0048】
上記構成においては、基体21の第1面21Sと対向する方向から見て、突起部22の延びる方向と、基体21の延びる方向と、粘着シート30の延びる方向とが揃っている。換言すれば、基体21の第1面21Sと対向する方向から見て、突起部22の先端の延びる方向と、基体21の長辺もしくは長径に沿った方向である長軸方向と、粘着シート30の長辺もしくは長径に沿った方向である長軸方向とが揃っている。
【0049】
突起部22の数は1以上であれば特に限定されない。投与部20が複数の突起部22を有する場合、複数の突起部22の各々は、
図4に示されるように、各突起部22の先端の延びる方向を揃えて配置される。各突起部22の先端の延びる方向が揃い、かつ、複数の突起部22に、基体21の延びる方向において互いに異なる位置に配置された突起部22が含まれる構成であれば、複数の突起部22の各々は、基体21の第1面21Sに規則的に並んでいてもよいし、不規則に並んでいてもよい。要は、各突起部22について、突起部22の先端の延びる方向と、基体21の長軸方向と、粘着シート30の長軸方向とが揃い、かつ、長軸方向において異なる位置に突起部22が位置する構成であればよい。例えば、
図4に示される例では、複数の突起部22が第1方向と第2方向とに沿って並ぶ格子状に配置されている。
【0050】
[経皮投与デバイスの形成材料]
第1の実施形態の経皮投与デバイス10の形成材料について説明する。
投与部20は、シリコン、金属、セラミック、樹脂、もしくは、皮膚の有する水分によって溶解する材料等から形成することができる。投与部20の形成材料としては、生体適合性を有する材料が用いられることが好ましい。投与部20の形成に用いられる金属材料としては、ステンレス鋼、チタン、あるいはマンガン等を用いることができ、投与部20の形成に用いられるセラミック材料としては、ガラス、アルミナ等を用いることができる。ただし、投与部20の形成材料はこれらに限定されない。投与部20の形成に用いられる樹脂としては、医療用シリコーン樹脂、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカプロラクトン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン、あるいは環状オレフィンコポリマー等の樹脂等を用いることができる。ただし、投与部20の形成材料はこれらに限定されない。
【0051】
投与部20が、皮膚の有する水分によって溶解する材料から形成される構成では、突起部22は、皮膚に刺された後に皮膚の内部で溶解する。皮膚の有する水分によって溶解する材料、すなわち、水溶性材料としては、水溶性高分子や二糖類が挙げられる。
【0052】
水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリエチレンオキシド(PEO)、プルラン、アルギン酸塩、ペクチン、キトサン、キトサンサクシナミド、オリゴキトサンが挙げられる。上述の材料のなかでも、キトサン、オリゴキトサン、キトサンサクシナミド、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)は、生物学的に安全性が高いため、突起部22の材料として特に好ましい。ただし、投与部20の形成材料はこれらに限定されない。
【0053】
二糖類としては、トレハロースやマルトースを用いることが好ましい。特に、トレハロースは、二糖類のなかでも結晶構造が水に近いため、突起部22が薬剤としてタンパク質を含む場合、このタンパク質を保護し、安定化する機能を有する。ただし、投与部20の形成材料はこれらに限定されない。
【0054】
また、突起部22は、水溶性高分子や二糖類の他に、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。
投与部20によって投与される薬剤は、皮内に投与されることにより機能する物質であれば、その種類は特に限定されない。薬剤は、突起部22の表面に塗布され、突起部22による孔の形成とともに皮内に送り込まれてもよいし、突起部22が上述のように溶解性を有する材料から形成されている場合には、突起部22の内部に含まれて、突起部22の溶解とともに皮内に送り込まれてもよい。また、突起部22が皮膚に刺される前あるいは後に、液状の薬剤が皮膚に塗布され、突起部22によって形成された孔から、薬剤が皮内に送り込まれてもよい。さらには、これらの方式が組み合わされた形態によって、薬剤が投与されてもよい。なお、突起部22が溶解性を有する材料から形成されている場合には、突起部22を構成する水溶性高分子が薬剤として機能してもよい。
【0055】
薬剤としては、例えば、各種タンパク質や、薬理活性物質や、化粧品組成物等が挙げられ、目的に応じて選択される。
薬理活性物質としては、例えば、インフルエンザ等のワクチン、癌患者等のための鎮痛薬、インスリン、生物製剤、遺伝子治療薬、注射剤、経口剤、または、皮膚適用製剤等が挙げられる。投与部20を用いた経皮投与では、皮膚に形成された孔に薬剤が投与される。そのため、投与部20を用いた経皮投与は、従来の経皮投与に用いられる薬理活性物質以外に、皮下注射が必要な薬理活性物質の投与にも利用できる。特に、投与部20を用いた経皮投与は、投与の際に痛みを伴わないため、小児に対するワクチン等の注射剤の投与に適している。また、投与部20を用いた経皮投与は、投与の際に薬剤を飲む必要がないため、経口剤を飲むことが困難な小児に対する経口剤の投与に適している。
【0056】
化粧品組成物は、化粧品あるいは美容品として用いられる組成物である。化粧品組成物としては、例えば、保湿剤、色料、香料、または、シワやニキビや妊娠線等に対する改善効果や脱毛に対する改善効果等の美容効果を示す生理活性物質等が挙げられる。化粧品組成物として芳香を有する材料を用いると、投与部20に匂いを付与することができるため、美容品に適した経皮投与デバイス10が得られる。
【0057】
なお、基体21と突起部22とは、互いに同一の組成を有する材料から形成されてもよいし、互いに異なる組成を有する材料から形成されてもよい。基体21と突起部22とが互いに同一の組成を有する材料から形成される構成では、基体21と突起部22とを一体形成によって容易に形成することができる。また、基体21が溶解性を有する材料から形成されている場合には、基体21にも薬剤が含まれていてもよい。基体21に含まれる薬剤は、基体21が皮膚表層で溶解することによって、皮膚表層に導入される。
【0058】
粘着シート30の材料は特に限定されないが、基材シート31としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート等からなる樹脂フィルムが用いられ、粘着層32は、例えば、エポキシ系やアクリル系の粘着剤から形成される。粘着剤としては、皮膚貼付に適した性質の材料を用いることが好ましく、滅菌工程に耐えられる材料を用いることがさらに好ましい。
【0059】
[作用]
図5〜
図7を参照して、経皮投与デバイス10によって皮膚へ薬剤が投与される過程を説明しつつ、経皮投与デバイス10の作用について説明する。
【0060】
経皮投与デバイス10の使用時には、突起部22が投与対象の皮膚に向けられて、基体21が皮膚に押し付けられ、基体21の外側に露出する粘着シート30が皮膚に貼り付けられる。
【0061】
このとき、基体21や粘着シート30はある程度の面積を有するものであり、また、投与対象の皮膚の表面は完全な平坦面ではないため、基体21を皮膚の表面に対して平行に配置して第1面21Sの全面を同時に皮膚に押し付けることは困難であり、通常は、粘着シート30と基体21とは、その端の方から皮膚に押し付けられる。
【0062】
したがって、
図5に示されるように、皮膚の表面Sに対して基体21が傾斜した状態で、突起部22は皮膚に刺されるため、突起部22は、2つの主側面23Aとこれらの主側面23Aによって挟まれる副側面23Bとによって形成される角部Gから皮膚に刺さる。このとき、皮膚の抵抗によって、角部Gには、角部Gを皮膚の表面Sと離れる方向に押す力がかかり、特に角部Gの副側面23Bには、角部Gを第1方向に沿って押す反力Fがかかる。
【0063】
ここで、第1の実施形態では、主側面23Aにおける主先端角が鈍角であるため、主先端角が直角や鋭角である場合と比較して、角部Gの強度が高くなる。そのため、角部Gが曲がったり潰れたりすることが抑えられる。
【0064】
一方、副側面23Bにおける副先端角が鋭角であるため、副先端角が直角や鈍角である場合と比較して、角部Gは鋭利になる。したがって、主先端角が鈍角であっても、角部G全体としての鋭利さが過度に低下することが抑えられる。
【0065】
また、
図6に示されるように、角部Gが皮膚に刺さった後、突起部22の先端が角部Gに近い部位から徐々に皮膚に刺さりつつ、突起部22が皮膚の内部に進入していき、そして、突起部22の全体が皮膚に刺さる。ここで、主側面23Aにおける主先端角が鈍角であるため、主先端角が直角や鋭角である場合と比較して、最初に角部Gによって切り開かれる孔が大きくなる。その結果、角部Gによって切り開かれた孔を起点として、突起部22の先端が皮膚に刺さりやすくなり、結果として、突起部22の全体が皮膚に刺さりやすくなる。
【0066】
また、
図7に示されるように、経皮投与デバイス10の使用者にとって、粘着シート30を介して、粘着シート30および基体21の長軸方向に沿って基体21を皮膚に押し付けることは、その他の方向に沿って基体21を皮膚に押し付けることよりも容易である。
【0067】
一方、突起部22を皮膚に刺すためには、突起部22をその先端の延びる方向に沿って皮膚に押し付けることが必要である。
第1の実施形態においては、突起部22の先端の延びる方向と、基体21の長軸方向と、粘着シート30の長軸方向とが揃っているため、経皮投与デバイス10の使用者にとって、基体21を皮膚に押し付け易い方向が、突起部22を皮膚に押し付けるべき方向と一致している。したがって、突起部22を容易に皮膚に刺すことができる。
【0068】
例えば、
図7においては、使用者の指によって、粘着シート30の端から、粘着シート30の長軸方向、すなわち、第1方向に沿って粘着シート30が押されることによって、基体21は、その端から第1方向に沿って皮膚に押し付けられる。その結果、突起部22は先端の延びる方向に沿って皮膚に押し付けられ、先の
図5および
図6に示したように、角部Gから皮膚に刺さる。
【0069】
さらに、従来のマイクロニードルが有する突起部のような針状に延びる突起部と比較して、第1の実施形態の突起部22は、容積や表面積を大きく確保しやすいため、突起部22に含有可能な薬剤の量や、突起部22の表面に塗布可能な薬剤の量を大きく確保しやすい。また、従来のマイクロニードルが有する上述の突起部と比較して、第1の実施形態の突起部22は、基体21の第1面21S内に区画される底面の面積を大きく確保しやすいため、後述する投与部の製造工程において、凹版に投与部の材料を充填する際に、突起部に対応する凹部に材料を充填しやすい。
【0070】
こうした観点から、突起部22は、上述の材料のなかでも、水溶性材料から形成されること、または、水溶性材料と薬剤とから形成されることが好ましい。このとき、突起部22の変形が抑えられることに加えて、突起部22によって皮内に送り込まれる物質の量、すなわち、水溶性材料の量、および、薬剤の量の少なくとも一方を増大させることができる。従来の突起部は、上述のように、円錐形状や角錐形状のような、基体21の第1面21Sと直交する方向に細長く延びる錐体形状を有することが多かった。錐体形状の突起部は、その体積が十分ではないため、錐体形状の突起部によって皮内に送り込まれる物質の量は不十分である場合があった。これに対し、本実施形態の経皮投与デバイス10における突起部22は、錐体形状の突起部と比較して突起部の体積が大きい。したがって、突起部によって皮内に送り込まれる物質の量を増大させることができる。
【0071】
なお、突起部22は、水溶性材料から形成されること、または、水溶性材料と薬剤とから形成されることが好ましいが、上述のように、突起部22は、これらの物質に加えて、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0072】
このように、第1の実施形態の経皮投与デバイス10は、従来のマイクロニードルと同様に、微小な突起部を用いるため患者に痛みや恐怖心を与えることを抑えることが可能であり、かつ、大掛かりな装置を用いずとも薬剤の投与を行うことが可能であって、さらに、突起部22の変形を抑えることができる。本発明者は、皮膚を刺して薬剤が投与される通路を形成するという突起部22の機能、特に、突起部22がどのような向きで皮膚を刺し、皮膚の内部に入っていくかということに着目して、本実施形態の突起部22の形状を発明するに至った。
【0073】
以上説明したように、第1の実施形態の経皮投与デバイスによれば、以下の効果が得られる。
(1)主側面23Aにおける主先端角の角度θ1が鈍角であり、副側面23Bにおける副先端角の角度θ2が鋭角であるため、主側面23Aと副側面23Bとによって形成される角部Gの第1方向から見た鋭利さが過度に低下することを抑えつつ、第1方向に沿って受ける外力に対する角部Gの強度が高められる。したがって、突起部22の変形を抑えることができる。
【0074】
(2)副側面23Bのアスペクト比Afが1よりも大きいため、副側面23Bのアスペクト比Afが1以下である場合と比較して、副側面23Bがより尖った形状となる。その結果、角部Gがより鋭利になるため、突起部22がより皮膚に刺さりやすくなる。
【0075】
(3)副側面23Bが頂辺24cの端を頂点とする三角形形状を有した平面であるため、主先端角や副先端角の角度の設計が容易であり、また、突起部22の形成も容易である。
【0076】
(4)突起部22の先端の延びる方向と、基体21の延びる方向と、粘着シート30の延びる方向とが揃っているため、経皮投与デバイス10の使用者にとって、基体21を皮膚に押し付け易い方向が、突起部22を皮膚に押し付けるべき方向と一致している。したがって、突起部22を容易に皮膚に刺すことができる。
【0077】
(第2の実施形態)
図8および
図9を参照して、第2の実施形態として、経皮投与デバイスの実施形態について説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と比較して、突起部の有する副側面が曲面である点が異なる。以下では、第1の実施形態との相違点を中心に説明し、第1の実施形態と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0078】
[突起部の構成]
図8に示されるように、第2の実施形態の突起部25は、平面である2つの主側面23Dと、曲面である2つの副側面23Eと、1つの底面23Cとによって囲まれる中身の詰まった立体である。
【0079】
2つの主側面23Dは、互いに同一の形状を有し、各主側面23Dは、互いに平行な長辺24aおよび頂辺24cと、長辺24aと頂辺24cとを結ぶ曲線状の2つの側辺24eとによって囲まれている。各主側面23Dは、第3方向に対して傾斜し、頂辺24cを境界として互いに接続されている。頂辺24cは、突起部25の先端を構成し、突起部25の先端は、第1方向に沿って延びる線状に形成されている。なお、各主側面23Dは、長辺24aの垂直二等分線に対して線対称な形状を有する。
【0080】
2つの副側面23Eは、互いに同一の形状を有し、各副側面23Eは、短辺24bと2つの側辺24eとによって囲まれた、突起部25の内部に向かってへこむ曲率を有した曲面である。各副側面23Eは、第3方向に対して傾斜し、2つの側辺24eの一方を境界として2つの主側面23Dのうちの一方と接続し、2つの側辺24eのうちの他方を境界として2つの主側面23Dのうちの他方と接続している。
【0081】
すなわち、第1の実施形態の突起部22において側辺24dが直線状を有することに対し、第2の実施形態の突起部25において側辺24eは曲線状を有している。
ここで、副側面23Eにおける3つの頂点を結ぶ1つの平面、すなわち、2つの側辺24eの交点である頂点P1と、短辺24bとを含む1つの平面は、仮想平面Nとして規定される。仮想平面Nに直交する方向は、
図8にて矢印で示される法線方向Mである。
【0082】
突起部25の高さHや、第1方向の幅D1や、第2方向の幅D2や、先端の長さLは、第1の実施形態の突起部22の高さHや、第1方向の幅D1や、第2方向の幅D2や、先端の長さLとして挙げた範囲内にて設定されることが好ましい。
【0083】
図9を参照して、主側面23Dおよび副側面23Eの形状について詳細に説明する。なお、
図9においては、副側面23Eを仮想平面Nに投影して表している。
図9に示されるように、主側面23Dにおいて、突起部25の先端を構成する辺である頂辺24cと、頂辺24cの端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ辺である側辺24eとのなす角である主先端角の角度θ3は、90度よりも大きく180度よりも小さい鈍角である。具体的には、主先端角の角度θ3は90度を超え135度以下であることが好ましい。
【0084】
ここで、主先端角は、主側面23Dにおける頂辺24cと側辺24eとの交点である頂点P2から、側辺24eに対して引かれた接線Taと、頂辺24cとのなす角とされる。
主側面23Dの高さHsは、長辺24aから頂辺24cまでの最短の長さであって、主側面23Dのアスペクト比Asは、突起部22の幅D1に対する高さHsの比(As=Hs/D1)である。アスペクト比Asは、1よりも小さいことが好ましく、0.05以上0.8以下であることがより好ましい。
【0085】
副側面23Eにおいて、2つの側辺24eによって挟まれる角である副先端角の角度θ4は、90度よりも小さい鋭角である。具体的には、副先端角の角度θ4は10度以上60度以下であることが好ましい。
【0086】
ここで、副先端角は、上述の仮想平面Nに直交する法線方向Mから副側面23Eを見たときに、すなわち、仮想平面Nに副側面23Eを投影した場合に、各側辺24eに挟まれる角、つまり、2つの側辺24eの交点である頂点P1から各側辺24eに対して引かれた接線である2つの接線Tbのなす角とされる。
【0087】
副側面23Eの高さHfは、上述の仮想平面Nに副側面23Eを投影した場合における短辺24bから副側面23Eの頂点P1までの最短の長さであって、副側面23Eのアスペクト比Afは、突起部22の幅D2に対する高さHfの比(Af=Hf/D2)である。アスペクト比Afは、1よりも大きいことが好ましく、1.2以上4.6以下であることがより好ましい。
【0088】
なお、上記構成においては、突起部25を第2方向に沿った方向からみた場合、突起部25の先端を構成する辺と、突起部25の先端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ辺とのなす角は鈍角となり、突起部25を第1方向に沿った方向からみた場合、突起部25の先端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ2つの辺によって挟まれる角は鋭角となる。
【0089】
第2の実施形態の経皮投与デバイスでは、第1の実施形態と同様に、基体21の第1面21Sと対向する方向から見て、突起部25の延びる方向と、基体21の延びる方向と、粘着シート30の延びる方向とが揃うように、投与部20と、粘着シート30とが配置される。第2の実施形態の経皮投与デバイスも、第1の実施形態の経皮投与デバイスの形成材料として例示した材料から形成されている。
【0090】
[作用]
第2の実施形態の経皮投与デバイスの作用について説明する。
第2の実施形態の経皮投与デバイスも、第1実施形態と同様に、主側面23Dにおける主先端角が鈍角であり、副側面23Eにおける副先端角が鋭角であるため、2つの主側面23Dと1つの副側面23Eとによって形成される角部の鋭利さが過度に低下することを抑えつつ、角部の強度が高められる。したがって、突起部22の変形を抑えることができる。
【0091】
また、第2の実施形態においては、副側面23Eが曲面である。先の
図5および
図6に示したように、突起部25は、2つの主側面23Dと1つの副側面23Eとから形成される角部が皮膚に刺さった後、突起部25の先端が角部に近い部位から徐々に皮膚に刺さりつつ、突起部25が皮膚の内部に進入することによって、皮膚に刺さる。このとき、角部を構成する副側面23Eは、皮膚をえぐるように皮膚に刺さっていく。したがって、副側面23Eが平面である構成よりも、副側面23Eが突起部25の内部に向かってへこむ曲率を有した曲面である構成の方が、突起部25が皮膚に刺さりやすい。
【0092】
以上説明したように、第2の実施形態の経皮投与デバイスによれば、第1の実施形態の(1),(2),(4)の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(5)副側面23Eが突起部25の内部に向かってへこむ曲率を有した曲面であるため、突起部25がより皮膚に刺さりやすくなる。
【0093】
[変形例]
第1および第2の実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・第1および第2の実施形態において、主側面23A,23Dや副側面23B,23Eは、段差や溝や孔を有していてもよい。孔は、突起部22,25および基体21を第3方向に貫通してもよいし、貫通していなくてもよい。また、こうした溝や孔に薬剤が充填されていてもよい。
【0094】
・主側面23A,23Dは、曲面であってもよいし、底面23Cは長方形でなくてもよい。要は、突起部が第1面21Sに平行な1つの方向に沿って延びる形状を有し、線状の先端である頂辺を共有する2つの主側面の各々において、主先端角が鈍角であり、主側面の双方と接続される副側面において、副先端角が鋭角であれば、各面についてその他の形状は限定されない。
【0095】
なお、主側面が曲面である場合には、頂辺の両端と、側辺の両端とを含む仮想平面が投影面として定められ、投影面の法線方向に沿って投影面に投影された主側面の像において主先端角は定められる。
【0096】
また、短辺が曲線状である場合には、第2の実施形態と同様に、2つの側辺の各々の両端を含む仮想平面Nが投影面として定められ、投影面の法線方向に沿って投影面に投影された副側面の像において副先端角は定められる。また、仮想平面Nに副側面を投影した場合の短辺の両端間に対する副側面の高さの比が、アスペクト比Afとされればよい。
【0097】
・上記各実施形態においては、主側面23A,23Dは、長辺24aの垂直二等分線に対して線対称とされたが、主側面23A,23Dは線対称な図形でなくてもよい。すなわち、2つの主側面の各々において、頂辺と2つの側辺のうちの一方とのなす角の角度と、頂辺と2つの側辺のうちの他方とのなす角の角度とが、互いに異なっていてもよい。2つの主側面の各々において、頂辺と2つの側辺の各々とのなす角のうちの少なくとも一方が主先端角として鈍角であり、一方の主側面にて鈍角の主先端角を構成する側辺と他方の主側面にて鈍角の主先端角を構成する側辺とによって1つの副側面が挟まれ、この副側面の副先端角が鋭角であればよい。すなわち、各主側面にて第1側辺と頂辺とのなす角が鈍角であり、第1副側面において2つの第1側辺によって挟まれる角が鋭角であればよい。
【0098】
こうした構成であれば、鈍角である主先端角と鋭角である副先端角とから形成される角部から突起部22,25が皮膚に刺されることによって、上記(1)の効果は得られる。主側面の各々において、頂辺と2つの側辺の各々とのなす角のうちの一方が鋭角である場合には、鈍角である主先端角と鋭角である副先端角とから形成される角部から突起部22,25が皮膚に刺さるように、基体21を皮膚に押し付ける方向が、例えば粘着シート30への印字等によって使用者に指示されればよい。
【0099】
・突起部が、基体21の第1面21Sに沿って延びる形状、すなわち、第3方向よりも第1方向に長い形状を有していれば、頂辺は、第1方向と異なる方向に沿って延びていてもよい。例えば、
図10に示されるように、突起部26の有する頂辺24fは、第1面21Sに対して傾斜していてもよい。
【0100】
この場合、
図11に示されるように、1つの主側面23Fを構成する2つの側辺24gの長さは互いに異なる。そして、主側面23Fにおいて、頂辺24fと2つの側辺24gのうちの一方とのなす角と、頂辺24fと2つの側辺24gのうちの他方とのなす角とは、ともに鈍角であるが、角度は互いに異なる。また、2つの副側面23Gの形状は互いに異なるが、各副側面23Gにおいて、副先端角は鋭角である。
【0101】
要は、頂辺の延びる方向は第1方向に限らず、第3方向と異なる方向であればよく、頂辺は、第1面21Sから離れた線状を有する1つの辺であればよい。
・突起部は、線状の先端である頂辺を共有し、第1側辺を別々に有する2つの主側面と、2つの主側面の各々と第1側辺を共有し、2つの主側面と共に1つの角部を構成する第1副側面とを備えていれば、第2副側面を備えていなくてもよい。そして、各主側面にて第1側辺と頂辺とのなす角が鈍角であり、第1副側面において2つの第1側辺によって挟まれる角が鋭角であればよい。
【0102】
例えば、
図12に示されるように、突起部27は、頂辺24hを共有する2つの主側面23Hと、これらの主側面23Hの各々と側辺24iを共有する副側面23Iとを備え、第1方向に沿って副側面23Iと対向する位置には、副側面を備えていなくてもよい。
【0103】
主側面23Hは、台形とこの台形の上底に接続された三角形とからなる形状を有し、第3方向に対する台形部分の傾斜角度よりも、第3方向に対する三角形部分の傾斜角度は大きい。主側面23Hにて、頂辺24hと側辺24iとのなす角である主先端角は鈍角である。副側面23Iも、台形とこの台形の上底に接続された三角形とからなる形状を有し、第3方向に対する台形部分の傾斜角度よりも、第3方向に対する三角形部分の傾斜角度は大きい。副側面23Iにて、2つの側辺24iによって挟まれる角である副先端角は鋭角である。
【0104】
側辺24iは、頂辺24hの第1端と基体21の第1面21Sとを繋ぐ第1側辺であり、折れ線状の辺である。頂辺24hの第2端と基体21の第1面21Sとは、第2側辺である1つの側辺24jによって繋がれている。すなわち、2つの主側面23Hは、側辺24jを共有している。また、突起部27の有する底面23Jは、三角形形状を有する。
【0105】
こうした構成によっても、鈍角である主先端角と鋭角である副先端角とから形成される角部から突起部27が皮膚に刺されることによって、上記(1)の効果は得られる。経皮投与デバイスが突起部27を備える場合、上記角部から突起部27が皮膚に刺さるように、基体21を皮膚に押し付ける方向が、例えば粘着シート30への印字等によって使用者に指示されればよい。
【0106】
・突起部22,25の先端の延びる方向と、基体21の長軸方向とが揃っていなくてもよい。突起部22,25の先端の延びる方向と、基体21の長軸方向とが揃っていない場合であっても、突起部22,25の先端の延びる方向と、粘着シート30の長軸方向とが揃っていれば、経皮投与デバイスの使用者にとって、粘着シート30を皮膚に押し付け易い方向が、突起部22を皮膚に押し付けるべき方向と一致する。そして、基体21は粘着シート30に沿って皮膚に押し付けられるため、上記(4)に準じた効果は得られる。
【0107】
また、突起部22,25の先端の延びる方向と、粘着シート30の長軸方向とが揃っていなくてもよい。例えば、突起部22,25の先端の延びる方向と、粘着シート30の長軸方向とが揃っておらず、突起部22,25の先端の延びる方向と、基体21の長軸方向とが揃っていてもよい。こうした構成においても、経皮投与デバイスの使用者にとって、粘着シート30のなかで基体21に貼り付けられている部分においては、突起部22を皮膚に押し付けるべき方向に、基体21を皮膚に押し付け易いため、上記(4)に準じた効果は得られる。
【0108】
また、突起部22,25の先端の延びる方向が、基体21の長軸方向および粘着シート30の長軸方向のいずれとも一致していなくてもよい。こうした構成においては、例えば、鈍角である主先端角と鋭角である副先端角とから形成される角部から突起部22,25が皮膚に刺さるように、基体21を皮膚に押し付ける方向が、例えば粘着シート30への印字等によって使用者に指示されればよい。
【0109】
・経皮投与デバイス10は、少なくとも投与部20を備えていればよく、粘着シート30を備えていなくてもよい。
(第3の実施形態)
図13および
図14を参照して、第3の実施形態として、経皮投与デバイス包装体の実施形態について説明する。
【0110】
図13は、経皮投与デバイス包装体の一例の、突起部の延びる方向と直交する方向、すなわち、第2方向に沿った断面を示す断面模式図である。
図14は、経皮投与デバイス包装体の一例の斜視構造と平面構造とを示す模式図である。
【0111】
図13に示されるように、経皮投与デバイス包装体は、第1の実施形態、第2の実施形態、および、これらの変形例のいずれかの経皮投与デバイス10、支持容器120、粘着保持部130、および、保護フィルム140を備えている。支持容器120、粘着保持部130、および、保護フィルム140の構成の詳細は、第4の実施形態にて説明する。
【0112】
図13は、経皮投与デバイス包装体が、粘着シート30を有していない経皮投与デバイス10を備えている例を示している。なお、
図13(A)は、経皮投与デバイス10が1つの突起部を備える例を示し、
図13(B)は、経皮投与デバイス10が複数の突起部を備える例を示している。
【0113】
経皮投与デバイス10における、基体に対して突起部の先端とは反対側の部位、すなわち、経皮投与デバイス10が投与部20のみを備える構成においては基体21の第2面21Tには、基体21を支持するための粘着保持部130が配置されている。そして、粘着保持部130が保護フィルム140に貼り付けられていることによって、経皮投与デバイス10は一時的に保護フィルム140に固定されている。なお、経皮投与デバイス10は、保護フィルム140に代えて支持容器120に一時的に固定されていてもよい。
【0114】
図14は、8個の経皮投与デバイス10が支持容器120に固定されている経皮投与デバイス包装体を示す。8個の経皮投与デバイス10は、2行4列に配置されている。
図14(A)は、経皮投与デバイス包装体の斜視図を示し、
図14(B)は、経皮投与デバイス包装体の平面図を示す。このように、経皮投与デバイス包装体は、複数の経皮投与デバイス10と、経皮投与デバイス10ごとに配置された粘着保持部130とを備えていてもよい。
【0115】
こうした経皮投与デバイス包装体によれば、経皮投与デバイス10が包装されているため、経皮投与デバイス10に他の物体がぶつかったり、使用者の手が経皮投与デバイス10に直接触れたりすることが抑えられる。そのため、経皮投与デバイス10の形状が崩れることが抑えられる。
【0116】
(第4の実施形態)
図15〜
図29を参照して、第4の実施形態として、経皮投与デバイスの製造方法および経皮投与デバイス包装体の製造方法の実施形態について説明する。
【0117】
[経皮投与デバイスの製造方法]
第4の実施形態では、第1の実施形態、第2の実施形態、および、これらの変形例の経皮投与デバイス10の製造方法の一例について説明する。
【0118】
経皮投与デバイス10の製造方法は、凹版の有する凹部に投与部20の形成材料を充填して成形物を形成する工程と、成形物を凹版から剥離する工程とを含む。投与部20の形成材料は、単独で凹版に提供されてもよいし、形成材料が溶解または分散された液状物の状態で凹版に提供されてもよい。
【0119】
<凹版の構成>
図15を参照して、経皮投与デバイス10の製造に用いられる凹版について説明する。
経皮投与デバイス製造用の凹版は、経皮投与デバイス10の突起部の形状に追従した形状を有する窪みである凹部を備えている。凹部は、凹版の表面と対向する方向から見た場合における凹部の延びる方向である長手方向が、投与部20の形成材料からなる成形物を凹版から剥離する方向である剥離進行方向となるように配置されている。
【0120】
図15は、ロール状の金型である凹版50の凹部51に投与部20の形成材料が充填され、形成された成形物が凹版50から剥離される様子を示す。
図15に示されるように、凹版50の表面と対向する方向から見た凹部51の平面形状は、いずれも、剥離進行方向、すなわち、凹版50の周方向に延伸する。換言すれば、凹版50の表面と対向する方向から見た凹部51の長手方向が、剥離進行方向と一致している。
【0121】
凹部51がこのように配置されていることで、凹版50から成形物が剥がれやすくなるため、凹版50から投与部20の形成材料への形状の転写の精度が良好になる。
なお、凹版の表面と対向する方向から見た凹部の平面形状が、剥離進行方向に延伸するように凹部が配置されている構成であれば、凹版は平板状であってもよい。
【0122】
<凹版の製造方法>
上述の凹版の製造方法の一例として、経皮投与デバイス10の突起部とほぼ同一の形状を有する突起部と、この突起部を支持する基板とを備えた原版を用いて凹版を製造する方法について説明する。
【0123】
<<原版の製造>>
原版を作製する工程は、原版の形成材料を準備し、微細加工技術を用いて原版を作製する工程である。
【0124】
原版の形成材料は特に制限されず、加工適性や、材料の入手容易性などから選択されることが望ましい。例えば、原版の形成材料としては、ステンレス鋼(SUS)、アルミニウム、チタン等の金属材料、アルミナ、窒化アルミニウム、マシナブルセラミックス等のセラミックス、シリコンやガラス等の硬脆性材料、アクリルやポリアセタール等の有機材料が挙げられる。
【0125】
原版の作製方法は特に制限されず、作製しようとする原版の形状に応じて、公知の手法が用いられればよい。例えば、原版の作製には、半導体装置の製造に用いられる微細加工技術や、機械加工技術を用いることができる。具体的には、原版の作成に用いる微細加工技術としては、例えば、リソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、精密機械加工法等が挙げられる。
【0126】
原版からの凹版の離型性を向上させるために、原版には、表面形状の加工や化学的な表面改質が施されてもよい。具体的には、機械加工による研磨、穴あけ、溝加工や、エッチングプロセスを用いた表面加工および表面改質、もしくは、離型剤の塗布等が好適に用いられる。
【0127】
このようにして得られた原版は、凹版を作製するための基となる版として用いられる。
<<凹版の製造>>
凹版の製造に際しては、原版の表面に凹版の形成材料が供給される。凹版の形成材料の硬化の後、この形成材料から原版を剥離することによって、原版の形状が凹型に複製された凹版を作製することができる。凹版を作製することで、同一の凹版から多数の経皮投与デバイス10を製造することができるため、経皮投与デバイス10の生産コストを抑制し、生産性を高めることが可能となる。
【0128】
凹版の形成材料としては、例えば、ニッケル、ケイ素、炭化ケイ素、タンタル、グラッシーカーボン、石英、シリカ等の無機物や、シリコーン樹脂、ウレタンゴム、ノルボルネン樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、アクリル、液晶ポリマー等の樹脂組成物が挙げられる。これらの材料のなかでも、成形性、微細形状の追従性、離型性に優れているという観点から、シリコーン樹脂、ニッケル、ケイ素、炭化ケイ素、タンタル、グラッシーカーボン、石英、シリカが好ましく、シリコーン樹脂がより好ましく、ポリジメチルシロキサンを含有するシリコーン樹脂が特に好ましい。例えば、ポリジメチルシロキサンに硬化剤を添加したシリコーン樹脂を使用することができる。離型性に優れたシリコーン樹脂を用いることで、固化された凹版の形成材料の剥離性が向上し、剥離時に凹版の形状が崩れることが抑えられる。
【0129】
なお、上述の方法に限らず、凹版は、公知の形状転写法によって形成されればよく、例えば、ニッケル電鋳法によってニッケル製の凹版が製造されてもよい。
また、上述の説明では、凹版の製造方法として、原版を製造し、当該原版から凹版を製造する方法を例示したが、凹版の形成材料を直接加工することによって凹版を製造してもよい。
【0130】
<経皮投与デバイスの製造方法の詳細>
図16〜
図25を参照して、経皮投与デバイスの製造方法を詳細に説明する。
投与部20の形成材料として、熱可塑性の樹脂が用いられる場合には、凹版を用い、形成材料を加熱溶融させて成形を行うことによって投与部20となる成形物が形成される。なお、凹版から形成材料への転写成形方法としては、公知の方法が用いられればよい。
【0131】
投与部20の形成材料として、水溶性高分子や二糖類といった、皮膚の有する水分によって溶解する材料が用いられる場合には、まず、形成材料を水等の溶媒に溶解または分散させた液状物が作製される。次に、液状物を凹版の凹部に充填し、液状物を乾燥させて液状物中の溶媒を除去することにより投与部20となる成形物が形成される。なお、凹版から形成材料への転写成形方法としては、公知の方法が用いられればよい。
【0132】
以下では、投与部20の形成材料として、熱可塑性の樹脂を用いる場合と、水溶性材料を用いる場合との各々について、経皮投与デバイスの製造方法の例を説明する。
なお、経皮投与デバイスの製造方法は、凹版の凹部に、投与部20の形成材料を充填して成形物を形成する工程と、凹版の表面と対向する方向から見た凹部の延びる方向に剥離が進行するように、成形物を凹版から剥離する工程とを含んでいればよく、各工程の詳細は、下記の説明と異なっていてもよい。
【0133】
<<樹脂を用いた場合の経皮投与デバイスの製造方法>>
図16〜
図20を参照して、投与部20の形成材料として熱可塑性の樹脂を用いた場合の経皮投与デバイスの製造方法を説明する。
【0134】
図16に示されるように、まず、上述の製造方法によって作製された凹版60を用意する。凹版60は、製造対象の投与部20が有する突起部の形状に追従した形状を有する凹部61を備えている。凹版60が複数の凹部61を備える場合、複数の凹部61には、凹部61の延びる方向に沿って並ぶ複数の凹部61が含まれる。なお、凹版としては、
図16に示す平板状の凹版60に限らず、
図15に示したようなロール状の凹版も使用できる。
【0135】
図17に示されるように、次に、凹版60の表面に、投与部20の形成材料として熱可塑性の樹脂である樹脂材料70を配置する。このとき、樹脂材料70は加熱された状態で凹版60に供給されてもよい。
【0136】
図18に示されるように、次に、凹版60上の樹脂材料70を加熱溶解し、樹脂材料70を加熱プレスすることによって凹部61に樹脂材料70を充填する。これによって、成形物71が形成される。なお、
図18は、平板状のプレス材80によって加圧を行う例を示しているが、ロール状のプレス材によって加圧を行うことも可能である。
図18における矢印は加圧方向を示す。
【0137】
図19に示されるように、次に、成形物71を凹版60から剥離する。このとき、投与部20の形成材料からなる成形物71を凹版60から剥離する方向が、凹版60の表面と対向する方向から見た場合における凹部61の延びる方向となるように、成形物71を剥離する。
【0138】
図20に示されるように、剥離された成形物71が投与部20であり、以上により、投与部20が形成される。
なお、投与部20の形成材料として樹脂を用いる場合、
図16〜
図20を用いて説明した熱圧縮成形に限らず、例えば、射出成形等により投与部20を製造することも可能である。
【0139】
得られた投与部20は、単独で、または、粘着シート30等の他の部材と貼り合わせられて、経皮投与デバイス10とされる。投与部20と粘着シート30との貼り合わせには、公知の方法を使用することができる。なお、凹版60上に成形物71が形成された段階で、成形物71と粘着シート30との貼り合わせを行い、その後、成形物71と粘着シート30とを凹版60から剥離して、投与部20と粘着シート30とからなる構造物を得てもよい。また、成形物71や成形物71と粘着シート30等との外形は、必要に応じて、トムソン刃等を用いた打ち抜き等によって基体21の外側部分を切断することで調整することができる。
【0140】
<<水溶性材料を用いた場合の経皮投与デバイスの製造方法>>
図21〜
図25を参照して、投与部20の形成材料として皮膚の有する水分によって溶解する材料を用いた場合の経皮投与デバイスの製造方法を説明する。
【0141】
図21に示されるように、まず、上述の製造方法によって作製された凹版62を用意する。凹版62は、製造対象の投与部20が有する突起部の形状に追従した形状を有する凹部63と、製造対象の投与部20が有する基体の外形に追従した外形を有する凹部64とを備えている。凹部63と凹部64とは連通し、凹部63は凹部64よりも凹版62の底部の近くに位置する。凹版62が複数の凹部63を備える場合、複数の凹部63には、凹部63の延びる方向に沿って並ぶ複数の凹部63が含まれる。なお、凹版としては、
図21に示す平板状の凹版62に限らず、
図15に示したようなロール状の凹版も使用できる。
【0142】
図22に示されるように、次に、投与部20の形成材料を溶媒に溶解または分散させた液状物LQを調整し、当該液状物LQを凹版62の凹部63,64に充填する。液状物LQの流動性は、溶媒の量等を適宜調節することによって、液状物LQを凹部63,64に円滑に充填できる程度に調整されることが好ましい。凹版62への液状物LQの供給方法としては、スピンコート法、ディスペンサを用いる方法、キャスティング法、インクジェット法等を用いることができる。凹版62への液状物LQの供給は、常圧下で行われてもよいが、液状物LQをより円滑に凹部63,64に充填するためには、減圧下または真空下で行われることが好ましい。凹版62への液状物LQの供給量は、液状物LQが少なくとも凹部63の全体を覆う程度であることが好ましい。液状物LQの充填に際しては、液状物LQを凹版62の底部に向けて加圧して、液状物LQの凹部63,64への充填を補助してもよい。
【0143】
なお、例えば、製造対象の投与部20において、突起部と基体との組成が異なる場合や、突起部の先端と基端とで組成が異なる場合等には、互いに異なる組成の形成材料を含む液状物を、凹部63,64に順に充填してもよい。
【0144】
図23に示されるように、次に、凹版62の凹部63,64に充填された液状物LQを乾燥させて溶媒を除去する。これによって、成形物72が形成される。
図24に示されるように、次に、成形物72を凹版62から剥離する。このとき、投与部20の形成材料からなる成形物72を凹版62から剥離する方向が、凹版62の表面と対向する方向から見た場合における凹部63の延びる方向となるように、成形物72を剥離する。
【0145】
図25に示されるように、剥離された成形物72が投与部20であり、以上により、投与部20が形成される。
得られた投与部20は、単独で、または、粘着シート30等の他の部材と貼り合わせられて、経皮投与デバイス10とされる。投与部20と粘着シート30との貼り合わせには、公知の方法を使用することができる。なお、凹版62上に成形物72が形成された段階で、成形物72と粘着シート30との貼り合わせを行い、その後、成形物72と粘着シート30とを凹版62から剥離して、投与部20と粘着シート30とからなる構造物を得てもよい。また、成形物72や成形物72と粘着シート30等との外形は、必要に応じて、トムソン刃等を用いた打ち抜き等によって基体21の外側部分を切断することで調整することができる。
【0146】
なお、凹版62の凹部63に突起部の形成材料が充填された後、充填物に基体21の形成材料からなるシートを重ねて加圧することによって、投与部20となる成形物を形成してもよい。
【0147】
<作用および効果>
本実施形態の経皮投与デバイスの製造方法の作用および効果を説明する。
従来から、マイクロニードルの製造方法として、切削加工を用いて突起部の原版を作製し、原版の凹凸を反転させた凹版を形成し、凹版を用いた転写加工成形によって樹脂製の突起部を備える投与部を製造することが提案されている。しかしながら、こうした製造方法では、成形物を凹版から剥離する際に樹脂が凹版に付着する現象である通称トラレが発生する場合があった。トラレが発生すると、凹版から、剥離された成形物への形状の転写の精度が低下する。
【0148】
また、投与部20の形成材料として熱可塑性の樹脂以外の材料が用いられる場合であっても、成形物を凹版から剥離する際に、形成材料の一部が凹版に付着して、凹版から、剥離された成形物への形状の転写の精度が低下することがあった。
【0149】
これに対し、本実施形態の経皮投与デバイスの製造方法では、製造対象の突起部が、基体21の第1面21Sに沿って延びる形状を有するため、この突起部を形成するための凹版の凹部は、凹版の表面と対向する方向から見て1つの方向に延びる形状を有する。そして、凹版からの成形物の剥離が、凹版の表面と対向する方向から見た凹部の延びる方向に進行するため、剥離が、凹部の延びる方向と直交する方向等、凹部の延びる方向とは異なる方向に進行する場合と比較して、成形物が凹版から剥がれやすい。したがって、成形物の剥離に際して、形成材料の一部が凹版に付着することが抑えられるため、凹版から、剥離された成形物への形状の転写の精度が高められる。
【0150】
[経皮投与デバイス包装体の製造方法]
次に、第3実施形態の経皮投与デバイス包装体の製造方法の例として、経皮投与デバイス10が一時的に保護フィルム140に固定された構成を有する経皮投与デバイス包装体の製造方法について説明する。この経皮投与デバイス包装体の製造方法は、経皮投与デバイス10を作製するための上述の各工程と、経皮投与デバイス10における、基体に対して突起部の先端とは反対側の部位に、脱着可能な粘着材を介して、易接着性を有する保護シートを貼り合わせる工程と、経皮投与デバイス10を格納する容器シートを、突起部の先端から経皮投与デバイス10に被せて保護シートに貼り合わせる工程と、貼り合わされた保護シートと容器シートとを断裁する工程とを含む。
【0151】
図26は、経皮投与デバイス包装体の製造工程として、経皮投与デバイス10の投与部20を熱可塑性の樹脂から形成する場合の製造工程を示すフロー図である。
図26に示すステップS1は、投与部20の形成材料である熱可塑性の樹脂を凹版に提供する工程である。
図26に示すステップS2は、熱圧縮成形により、樹脂を凹版の凹部に充填して成形物を形成し、成形物を凹版から剥離して投与部20を得る工程である。すなわち、ステップS1およびステップS2によって、経皮投与デバイス10が製造される。ステップS2の後、ステップS3として、経皮投与デバイス10に粘着材を介して保護シートが貼り合わせられる。続いて、ステップS4として、容器シートが保護シートに貼り合わせられた後、保護シートと容器シートとが打ち抜かれる。
図27は、経皮投与デバイス包装体の製造工程を示す模式図である。
図28は、
図27に示す工程のうち、保護シートに固定された経皮投与デバイス10を形成するまでの工程を抜き出して示す模式図である。
図29は、
図27に示す工程のうち、保護シートに固定された経皮投与デバイス10を容器シートで包装し、保護シートと容器シートとを打ち抜いて経皮投与デバイス包装体を形成する工程を抜き出して示す模式図である。
【0152】
図28に示される送り出し工程では、投与部20の形成材料である樹脂からなるシートが送り出され、熱圧縮成形工程では、凹版に上記樹脂シートが加熱されながら押し付けられることにより、突起部が形成される。続いて、貼り合わせ工程では、樹脂シートにおける突起部が形成されている面とは反対側の面に粘着材を介して保護シートが貼り付けられる。続いて、打ち抜き工程では、樹脂シートと粘着材とが打ち抜かれて、保護シート上に、投与部20と粘着保持部130とが形成される。分離・巻取り・回収工程では、樹脂シートと粘着材とのうちの打ち抜かれた残部、すなわち、投与部20および投与部20と保護シートとの間に位置する粘着保持部130以外の部分が、保護シートから分離され、巻き取られることによって回収される。これにより、粘着保持部130によって保護シートに固定された経皮投与デバイス10が形成される。
【0153】
図29に示される送り出し工程では、支持容器120の形成材料からなる樹脂シートが送り出され、成形工程では、この樹脂シートが、支持容器120の有する複数の凹部が並ぶ形状に成形される。これにより、容器シートが形成される。続いて、貼り合わせ工程では、保護シートに固定された経皮投与デバイス10に凹部を被せるように、容器シートと保護シートとが貼り合わせられる。続いて、打ち抜き工程では、容器シートと保護シートとが打ち抜かれて、経皮投与デバイス包装体が形成される。
【0154】
このように製造される経皮投与デバイス包装体は
図13に示したように、経皮投与デバイス10と、容器シートの打ち抜きによって形成される支持容器120と、保護シートの打ち抜きによって形成される保護フィルム140と、経皮投与デバイス10と保護フィルム140との間に設けられた粘着保持部130とを備える。経皮投与デバイス包装体における経皮投与デバイス10の収容された空間は、支持容器120の開口部を覆う保護フィルム140によって密閉されている。
【0155】
経皮投与デバイス包装体を構成する各部材の詳細な構成について説明する。
<<粘着保持部>>
粘着保持部130は、包装される経皮投与デバイス10を保持できる程度の粘着性を有した材料から形成されればよく、包装される経皮投与デバイス10の仕様に応じて適宜設計されればよい。例えば、粘着保持部130は、粘弾性を備えた樹脂や、粘着剤などから形成されてもよい。
【0156】
また、粘着保持部130は、粘着対象物に対して脱着可能であることが望ましく、特にゲルポリマーから形成されていることが好ましい。ゲルポリマーから形成された粘着保持部130は、粘着性が強く、また、粘着対象物への貼りと剥がしとを容易に繰り返すことができる。また、ゲルポリマーから形成された粘着保持部130は、精製水、純水、エチルアルコール等で洗浄することによって、粘着性能を復活させることが可能であるため、繰り返し使用できる。ゲルポリマーとしては、具体的には、例えば、シリコーンゲル、ウレタンゲルなどが挙げられる。
【0157】
<<支持容器>>
支持容器120は、熱プレスによって成形することができる。例えば上述のように、長尺な帯状のシート材に、真空成形や真空圧空成形等によって、経皮投与デバイス10を収容可能な大きさの多数の凹部をマトリクス状に配置するように形成し、例えば
図14に示したように2行4列に並ぶ8個の凹部ごとに該シート材を裁断することによって、支持容器120が形成される。
【0158】
凹部の形状は、経皮投与デバイス10の形状に応じて適宜に設定可能であり、例えば平面視において、円形状や楕円形状、長円形状や方形状であればよい。なお、1つの支持容器120の有する凹部の個数は、支持容器120に収容する経皮投与デバイス10の個数に応じて任意に設定されればよい。
【0159】
支持容器120の形成に用いられるシート材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂等の周知の合成樹脂材料からなるシート材が挙げられる。さらに、シート材は、ガスバリア性に優れていること、および、支持容器120の外側から経皮投与デバイス10を透視して、凹部内への異物等の侵入を容易に検査できることから、透明な合成樹脂製のシート材であることが好ましい。具体的には、シート材の形成材料は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0160】
<<保護フィルム>>
保護フィルム140の1つの面に粘着保持部130を配置し、粘着保持部130に経皮投与デバイス10を保持させることによって、経皮投与デバイス10が保護フィルム140に固定される。このため、経皮投与デバイス包装体の運搬時等に、経皮投与デバイス10が支持容器120の凹部内で動くことが抑制されるため、好適に経皮投与デバイス10の保管や運搬が可能である。特に、1つの支持容器120に複数の経皮投与デバイス10を収容する場合、経皮投与デバイス10同士の衝突を抑制することができる。
【0161】
支持容器120を保護フィルム140によって密閉する方法としては、ヒートシーラーを用いることができる。すなわち、支持容器120の開口部を覆うように保護フィルム140となる保護シートを設置し、保護シートに熱をかけて熱収縮させることによって、経皮投与デバイス10の収容された凹部を密封することができる。凹部が密封されることによって、環境の変化に伴って経皮投与デバイス10の品質が変化することが抑えられる。
【0162】
保護フィルム140は、支持容器120への接合時には支持容器120に対して強接着性を有し、経皮投与デバイス包装体を開封するために保護フィルム140が支持容器120から剥がされるときには易開封性を有する樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0163】
経皮投与デバイス包装体の使用の際は、使用者は、保護フィルム140を支持容器120から剥がし、保護フィルム140に脱着可能な状態で固定されている経皮投与デバイス10を取り出す。そして、使用者は、経皮投与デバイス10の突起部を皮膚に刺す。このように、経皮投与デバイス10が包装されていることによって、経皮投与デバイス10に他の物体がぶつかったり、使用者の手が経皮投与デバイス10に直接触れたりすることが抑えられる。そのため、経皮投与デバイス10の形状が崩れることが抑えられる。
【0164】
なお、経皮投与デバイス包装体に収容される経皮投与デバイス10には滅菌処理が施されることが好ましい。経皮投与デバイス10を滅菌するためには、例えば、乾燥高温熱風、過酸化水素ガス、エチレンオキサイドガス、電子線照射、γ線照射等を用いることができる。これらのなかで、低温での処理が可能であり、被滅菌物に残留物が残らず、かつ、安全で取り扱い易い方法として低エネルギー電子線を利用する方法が広く採用されている。薬剤が経皮投与デバイス10に塗布されている場合には、高温処理ができないため、また、特に突起部に形成された溝や孔に薬剤が充填されている場合には、突起部の外表面だけでなく薬剤が充填される内側の部位も滅菌しなければならないため、γ線照射による滅菌が行われることが好ましい。このように、経皮投与デバイス10に滅菌処理を施すことによって、経皮投与デバイス包装体における支持容器120の内部を長期間にわたって無菌状態に保つことができる。
【0165】
[変形例]
第4の実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
・経皮投与デバイス包装体が備える経皮投与デバイス10は、第1の実施形態、第2の実施形態、および、これらの変形例の経皮投与デバイス10であれば、第4の実施形態の経皮投与デバイスの製造方法によって製造された経皮投与デバイス10でなくてもよい。経皮投与デバイス包装体として経皮投与デバイス10が包装されることによって、水分、酸素、二酸化炭素、臭気等と経皮投与デバイス10とが接触することを抑えられるため、これらのガスとの接触を避けるべき薬剤を保持する経皮投与デバイス10を好適に保管できる。
【0166】
・第1の実施形態、第2の実施形態、および、これらの変形例の経皮投与デバイス10は、第4の実施形態の製造方法とは異なる方法で製造されてもよい。例えば、凹版から成形物を剥離する際に、凹部の延びる方向とは異なる方向に剥離が進行するように、成形物が剥離されてもよい。
【0167】
さらに、投与部20は、投与部20を形成する材料に応じて、各種の公知技術を用いて製造することが可能である。投与部20は、凹版を用いずに製造されてもよい。例えば、投与部20が樹脂から形成される場合には、射出成形、押出成形、インプリント、ホットエンボス、または、キャスティング等の成形技術によって、投与部20を形成することができる。また例えば、リソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法、サンドブラスト法、レーザー加工法、精密機械加工法等の微細加工技術を用いて投与部20を形成することもできる。また、こうした方法によって原版を作製してもよい。
【0168】
(実施例)
上述した経皮投与デバイスについて、具体的な実施例を用いて説明する。
[実施例1]
<凹版の作製>
精密機械加工によって、アクリル板から、投与部の原版を形成した。突起部の形状は、第1の実施形態の突起部22と同様の形状であり、副側面は平面である。突起部の高さHは約500μmであり、突起部の幅D1は約770μmであり、突起部の幅D2は約280μmであり、先端の長さLは約500μmであり、主側面の高さHsは約520μmであり、副側面の高さHfは約520μmであり、主先端角の角度θ1は約105度であり、副先端角の角度θ2は約30度であった。基体上に、1mm間隔で6列6行の格子状に36本の突起部を配列した。
【0169】
次に、アクリル板からなる原版の突起部表面に熱硬化型シリコーン樹脂を塗布し、加熱硬化後剥離することによりシリコーン製の凹版を形成した。凹版には、36個の突起部に対応する凹部が形成されている。
【0170】
<経皮投与デバイスの作製>
凹版に、投与部の形成材料を含む液状物として、0.1%エバンスブルー/5%キトサンサクシナミド水溶液を充填し、凹版を90℃で10分加熱し、液状物を乾燥固化させた。固化した成形物を円形に打抜き、凹版から剥離して、投与部を得た。
【0171】
得られた投与部における基体の第2面に、基体よりも大きい粘着シートの粘着面を貼り付け、実施例1の経皮投与デバイスを得た。
[実施例2]
精密機械加工によって、アルミ板から、投与部の原版を形成した。突起部の形状は、第2の実施形態の突起部25と同様の形状であり、副側面は曲面である。突起部の高さHは約500μmであり、突起部の幅D1は約1500μmであり、突起部の幅D2は約340μmであり、先端の長さLは約500μmであり、主側面の高さHsは約530μmであり、副側面の高さHfは約707μmであり、主先端角の角度θ3は約135度であり、副先端角の角度θ4は約27度であった。基体上に、1mm間隔で6列6行の格子状に36本の突起部を配列した。
【0172】
その後、実施例1と同様の手順で、凹版を作製し、液状物を凹版に充填して投与部を作製し、投与部に粘着シートを貼り付けて、実施例2の経皮投与デバイスを得た。
[実施例3]
実施例2で得られた凹版に、投与部の形成材料を含む液状物として、2%デキストラン/10%グリシン/10%トレハロース水溶液をインクジェット法によって100nlずつ、突起部に対応する凹部の各々に充填した後、さらに、キトサンサクシナミド5%水溶液を充填した。デキストランは、蛍光標識のあるデキストランである。その後、凹版を90℃で10分加熱し、液状物を乾燥固化させた。固化した成形物を円形に打抜き、凹版から剥離して、突起部の先端部に蛍光物質を集中させた投与部を得た。
【0173】
実施例1と同様の手順で、得られた投与部に粘着シートを貼り付けて、実施例3の経皮投与デバイスを得た。
[検証]
実施例1〜3の経皮投与デバイスを実体顕微鏡で観察した。観察の結果、突起部の形成率、すなわち、原版の総突起部数に対して投与部にて原版と同形の突起部が形成されている割合は、実施例1〜3の各々でいずれも100%であった。
【0174】
実施例1〜3の経皮投与デバイスをマウスに適用した。実施例3については、経皮投与デバイスを適用したマウスの皮膚切片サンプルを作製し、蛍光顕微鏡を用いて観察した。
マウスへの経皮投与デバイスの適用は、突起部の延びる方向に沿って突起部を皮膚に押し付ける方法によって行った。
【0175】
マウスの皮膚のなかで、実施例1,2の経皮投与デバイスを適用した箇所には、青色の着色が見られた。また、実施例3の経皮投与デバイスを適用したマウスの皮膚切片から蛍光発光を確認した。蛍光発光が確認された箇所は表皮以下の箇所であり、経皮投与デバイスによって、薬物を経皮吸収させることが可能であることが示された。
【0176】
[実施例4]
精密機械加工によって、アルミ板から、投与部の原版を形成した。突起部の形状は、第2の実施形態の突起部25と同様の形状であり、副側面は曲面である。突起部の高さHは約470μmであり、突起部の幅D1は約770μmであり、先端の長さLは約500μmであり、主側面の高さHsは約500μmであり、主先端角の角度θ3は約105度であり、副先端角の角度θ4は約60度であった。基体上に、1mm間隔で6列6行の格子状に36本の突起部を配列した。
【0177】
その後、実施例1と同様の手順で、凹版を作製した。投与部の形成材料を含む液状物として、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を凹版に充填した後、凹版を90℃で10分加熱し、液状物を乾燥固化させた。続いて、凹版から固化した成形物を剥離した。このとき、成形物を凹版から剥離する方向が、凹版の表面と対向する方向から見た場合における凹部の延びる方向と一致するように成形物を剥離した。
【0178】
以上によって、投与部からなる実施例4の経皮投与デバイスを得た。
実施例4の経皮投与デバイスを走査型電子顕微鏡を用いて観察したところ、突起部の高さHは、471μmであり、突起部の幅D1は769μmであり、副先端角の角度θ4は59度であった。
図30(A),(B)に、実施例4の経皮投与デバイスを走査型電子顕微鏡によって撮影した画像を示す。
【0179】
[実施例5]
実施例4で得られた凹版における、突起部の形状に追従した形状の凹部に、投与部の形成材料を含む液状物として、0.1%エバンスブルー/5%キトサンサクシナミド水溶液を充填した後、凹版を90℃で10分加熱し、液状物を乾燥固化させた。次に、凹版内の固化した充填物の上に、投与部の形成材料を含む液状物として、30%ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を充填し、凹版を90℃で20分加熱し、液状物を乾燥固化させた。そして、凹版から固化した成形物を剥離した。このとき、成形物を凹版から剥離する方向が、凹版の表面と対向する方向から見た場合における凹部の延びる方向と一致するように成形物を剥離した。
【0180】
以上によって、投与部からなる実施例5の経皮投与デバイスを得た。投与部は、上層、すなわち突起部がキトサンサクシナミドおよびエバンスブルーから形成され、下層、すなわち基体がヒドロキシプロピルセルロースから形成されている。
【0181】
実施例5の経皮投与デバイスを光学顕微鏡を用いて確認したところ、突起部が青色であり、基体が透明であることが確認された。すなわち、実施例5の経皮投与デバイスは、突起部がキトサンサクシナミドおよびエバンスブルーからなり、基体がヒドロキシプロピルセルロースからなる、2層構造を有していることが確認された。
図31(A)〜(D)に、実施例5の経皮投与デバイスをマイクロスコープによって撮影した画像を示す。
【0182】
[実施例6]
幅D1が約800μmであり、幅D2が約400μmであり、高さHが約700μmである突起部を有する原版を作製し、原版の凹凸を反転させて、ロール状の凹版を作製した。凹版には、凹版の周方向に延びる凹部が形成された。換言すれば、凹版の表面と対向する方向から見て、凹部の長辺、すなわち、上記幅D1に対応する800μmの長さの辺が凹版の周方向に延び、凹部の短辺、すなわち、上記幅D2に対応する400μmの長さの辺が凹版の幅方向に延びていた。
【0183】
投与部の形成材料としてポリグリコール酸を用い、熱圧縮成形により、凹版の凹凸を反転させて、経皮投与デバイスを作製した。その結果、経皮投与デバイスには、複数の突起部が形成され、95%以上の突起部が折れ曲がることなく成形できた。
【0184】
上記結果から、凹版の表面と対向する方向から見た凹部の延びる方向に剥離が進行するように、投与部となる成形物を凹版から剥離することによって、凹版から成形物への形状の転写の精度が良好となることが示された。