【実施例】
【0075】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0076】
触媒製造例1<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3Fe
4O
12の製造>
(1)クエン酸錯体重合法による前駆体の製造:
まず、クエン酸錯体重合法により、以下の手順でCaCu
3Fe
4O
12の前駆体混合酸化物を調製した。即ち、CaCO
3:Cu(NO
3)
2・3H
2O:Fe(NO
3)
3・9H
2O:クエン酸=1:3:4:40(モル比)の割合となるように、各原料を用意する。ホットプレート付きマグネットスターラー上に蒸発皿をセットして、撹拌用マグネットを入れ、蒸留水5mlを添加した。次いで、0.775gのCaCO
3(和光純薬社品)を添加して混合撹拌を開始した。そこへ硝酸2mlを添加してCaCO
3を溶解し、次いで、0.561gのCu(NO
3)
2・3H
2O(和光純薬社品)、1.25gのFe(NO
3)
3・9H
2O(和光純薬社品)、及び5.95gの無水クエン酸(和光純薬社品)を添加して撹拌を継続し、若干加熱して全てを溶解させた。次いで、エチレングリコール2mlを加え、沸騰しない程度に加熱した。溶液の温度は赤外線放射温度計(AD−5611A)でチェックした。溶液の温度が90℃付近で褐色のNO
2が放出される。NO
2の放出が終わると、溶液の粘度が徐々に上がりだすので、マグネットを取り出し、溶液が乾燥するまで加熱し続ける。乾固した後に、電気炉で400℃、1時間の高温処理を行い、ポリマー錯体に含まれる有機物をある程度分解除去して、前駆体を得た。この前駆体をメノウ乳鉢で混合し、アルミナ坩堝に入れて、675℃で12時間の高温処理をすることで、有機物等を完全に除去して前駆体0.3gを得た。
【0077】
(2)高圧合成法によるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造
次に、Kawai型高圧合成装置を用いて、前記で製造した前駆体からAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造を以下の様に行なった。
図6に示した炭化タングステン(WC)超硬アンビルで組んだセル(MgO八面体(1辺が10mm)が圧媒体である)の中に、前記(1)で得た前駆体酸化物粉末0.0285gとKClO
4(和光純薬社品)0.0040gを充填した試料部を入れ、15GPa及び1000℃で30分間、その状態を維持した。次いで、加熱電力を遮断することにより、数秒間で室温付近まで急冷(クエンチ)した。その後、12時間程度かけて、徐々に脱圧し、常圧に戻した。このクエンチ操作により、高圧での生成物(Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物)を準安定相として凍結することができる。得られた生成物を粉末X線回折(株式会社リガク製のUltimaIV:Cu−Kα線照射にて測定)することにより、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物構造のCaCu
3Fe
4O
12であることを確認した(
図5を参照せよ。)。この物の走査型電子顕微鏡(SEM)像からの粒径分布を元に算出された比表面積は0.32m
2g
−1であり、BET吸着法により測定された比表面積は0.45m
2g
−1であった。
【0078】
触媒製造例2<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3Mn
4O
12の製造>
(1)高圧合成法によるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造
CaO、CuO、及びMnO
2(共に、和光純薬社品)を1:3:4のモル比となるように混合してKawai型高圧合成装置を用いて、触媒製造例1(2)に準じてAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の製造を行なった。合成条件は12GPa及び1000℃で30分間であった。得られた生成物の粉末X線回折により、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物構造のCaCu
3Mn
4O
12であることを確認した(
図5を参照せよ。)。この物の走査型電子顕微鏡(SEM)像からの粒径分布を元に算出された比表面積は0.42m
2g
−1であった。
【0079】
触媒製造例3<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3B
4O
12(B=Ti又はRu)の製造>
(1)常圧合成法によるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造
CaCO
3、CuO、及びBO
2(B=Ti又はRu)(共に、和光純薬社品)を1:3:4のモル比となるように混合して常圧・高温合成法によりAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造を行なった。合成条件は空気中、1000℃で15時間であった。得られた生成物の粉末X線回折(XRD)により、それぞれ、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物構造のCaCu
3Ti
4O
12及びCaCu
3Ru
4O
12であることを確認した(
図5にはB=TiのXRDプロファイルを示した。)。この物の走査型電子顕微鏡(SEM)像からの粒径分布を元に算出された比表面積はそれぞれ、0.24m
2g
−1(B=Ti)及び0.12m
2g
−1(B=Ru)であった。
【0080】
触媒製造例4<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaMn
7O
12の製造>
(1)クエン酸錯体重合法による前駆体の製造:
触媒製造例1(1)のクエン酸錯体重合法に準じ、CaCO
3:Mn(NO
3)
2:クエン酸=1:7:40(モル比)混合物から前駆体酸化物を得た。
【0081】
(2)常圧合成法によるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造
前記(1)で得た前駆体を用い、空気中、950℃で12時間、常圧合成を行なって、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaMn
7O
12を製造した。生成物のX線回折プロファイルを
図17に示す。このプロファイルより、不純物相の無いAサイト秩序型ペロブスカイト構造であることを確認した。SEM像から算出した比表面積は2.73m
2g
−1であった。
【0082】
触媒製造例5<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒LaMn
7O
12(以後、Aサイト秩序型であることを明示すべく、「LaMn
3Mn
4O
12」と記載することあり。)の製造>
(1)高圧合成法によるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の製造
La
2O
3及びMnO(共に、和光純薬社品)を1:14のモル比となるように混合し、Kawai型高圧合成装置を用いて、触媒製造例1(2)に準じて6.5GPa、700℃で30分間、高圧合成を行なった。得られた酸化物は粉末X線回折の結果、微量の不純物相(LaMnO
3)の混入は見られるものの、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒LaMn
7O
12であることが確認された(
図18)。SEM像から算出した比表面積は0.48m
2g
−1であった。
【0083】
実施例1<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒(CaCu
3Fe
4O
12(略称:CCFO))の酸素発生触媒性能>
上記で得られたAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の触媒電極を用いて、Ptワイヤ電極を対極とし、0.10M−KOH水溶液で満たされたHg/HgO電極を参照電極としてOER触媒の電気化学的特性が測定された。全ての測定は酸素飽和下、室温で行なわれ、O
2/H
2O酸化還元対の平衡電位を0.304Vvs.Hg/HgO(1.23Vvs.RHE)に固定して実施された。OER反応に対するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の触媒特性評価のために、触媒で修飾されたグラッシーカーボン部分の電位は、10mVs
−1の電位掃引速度に於いて、Hg/HgOに対して0.3〜0.9Vvs.Hg/HgO(1.23〜1.83Vvs.RHE)に制御された。以下の実施例に於いて、全てのOER電流は、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒の推定表面積当たりの相対的電流値を基本として示されている。補助的に、酸化物触媒重量当たりの相対的電流値を示している場合もある。また、電位は電解液の抵抗成分(交流インピーダンス法によりおよそ43Ωと決定)によるiRドロップの補正を行い、RHE基準の電位(E−iR/Vvs.RHE)として示されている。
【0084】
図9及び
図10は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒(CaCu
3Fe
4O
12(略称:CCFO))の掃引電位に対するOER電流を測定した結果(OER電流・電位曲線)(実施例1)である。従来触媒であるRuO
2及びIrO
2の電流・電位曲線を測定した結果も比較例として表示してある。
図9は触媒単位質量あたりのOER電流・電位曲線を表す図であり、
図10は触媒単位表面積あたりのOER電流・電位曲線を表す図である。触媒単位質量あたり、及び触媒単位表面積あたり共に、CCFOの触媒性能が、RuO
2及びIrO
2の性能を凌駕していることが分かる。
【0085】
実施例2<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒(ACu
3Fe
4O
12(「A=Ca、Sr、Y、La又はCeを表す。)の酸素発生触媒性能>
図11及び
図12は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒であるACu
3Fe
4O
12(「ACFO」と略する。A=Ca、Sr、Y、La又はCeを表す。)の掃引電位に対するOER電流を測定した結果を表す図である。この測定において、グラッシーカーボン上の触媒層は以下の組成を有する:0.25mg酸化物cm
−2ディスク、0.05mg
ABcm
−2ディスク、及び、0.05mg
Nafioncm
−2ディスク。
図11は単位質量あたりの、及び、
図12は単位表面積あたりのOER電流・電位曲線をそれぞれ表す。単位表面積あたりで比較すると、ACFO間で有意な触媒性能の差は無いことが分かる。
【0086】
実施例3<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3Fe
4O
12(CCFO)の繰返し使用時の耐久性>
図13及び
図14は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3Fe
4O
12(CCFO)のOERでの繰返し使用時の耐久性を測定した結果を示す。この測定では、電極ディスクへ付着した酸素バブルを取り除くためディスク回転数を毎分3200回とした。比較例として、単純ペロブスカイト酸化物CaFeO
3触媒の繰返し使用時の耐久性測定結果も
図13及び
図14に併記されている。
図13は繰返し使用時(100回目)のOER電流・電位曲線を表し、
図14は繰返し使用時(100回目)に於ける電流密度の変化を表す。Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒のCCFOは、単純プロブスカイト酸化物に比して高いOER触媒活性及び耐久性を有することが分かる。
【0087】
実施例4<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3B
4O
12(B=Fe、Mn、Ru又はTiを表す)の酸素発生触媒性能>
図15は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaCu
3B
4O
12(B=Fe、Mn、Ru又はTiを表す)によるOERの電流・電位曲線の立ち上がり部分の拡大図である。Bサイトの遷移金属BがTi、Mn、Ru、Feの順に過電圧が単調に減少して行き、触媒性能が向上していることが分かる。
【0088】
実施例5<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒AMn
3Mn
4O
12(式中、A=La又はCaを表す)のOER触媒性能>
図16は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒AMn
3Mn
4O
12(式中、A=La又はCaを表す)のOER電流・電位曲線を表す。比較例として、単純ペロブスカイト型酸化物であるLaMnO
3及びCaMnO
3のOER電流・電位曲線も併記してある。なお、図中、LaMn
7O
12及びCaMn
7O
12なる表記は、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物LaMn
3Mn
4O
12及びCaMn
3Mn
4O
12と同義である。
図16より、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒のOER電流・電位曲線の立ち上がりが、単純ペロブスカイト酸化物触媒の立ち上がりより急峻であり、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒のOER触媒性能が、単純ペロブスカイト酸化物触媒よりも優れていることが分かる。
【0089】
実施例6<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaMn
3Mn
4O
12のOER触媒性能の繰返し使用時の耐久性>
図19は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaMn
3Mn
4O
12(CaMn
7O
12と同義である)のOERでの繰返し使用時の耐久性を測定した結果(OER電流・電位曲線)を示す。比較例として、単純ペロブスカイト酸化物CaMnO
3触媒の繰返し使用時の耐久性測定結果(OER電流・電位曲線)も
図20に併せて示す。Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒CaMn
3Mn
4O
12は、単純プロブスカイト酸化物触媒に比して高いOER触媒活性及び耐久性を有することが分かる。
【0090】
実施例7<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒LaMn
3Mn
4O
12のOER触媒性能の繰返し使用時の耐久性>
図21は、本発明を適用するAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒LaMn
3Mn
4O
12(LaMn
7O
12と同義である)のOERでの繰返し使用時の耐久性を測定した結果(OER電流・電位曲線)を示す。比較例として、単純ペロブスカイト酸化物触媒LaMnO
3の繰返し使用時の耐久性測定結果(OER電流・電位曲線)も
図22に示す。Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒LaMn
3Mn
4O
12は、単純プロブスカイト酸化物触媒に比してOER電流・電位曲線の立ち上がりが急峻であり、且つ、繰返し使用後も急峻性を維持している。このことから、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒は、単純プロブスカイト酸化物触媒に比して、優れたOER触媒活性及び耐久性を有することが分かる。
【0091】
性能比較1<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒と単純ペロブスカイト酸化物触媒とのOER触媒性能の比較>
図23は、本発明のCaCu
3Fe
4O
12触媒(CCFOと略す)のOER電流・電位曲線(実施例1)と、J.−I.Jung等(非特許文献5)の(Ba
0.5Sr
0.5)Co
0.8Fe
0.2O
3―δ(BSCFと略す)及びA.Grimaud等(非特許文献4)の(Pr
0.5Ba
0.5)CoO
3−δ(PBCOと略す)のOER電流・電位曲線との比較を表す図である。ここに示す二種類の単純ペロブスカイト酸化物は、今までに論文として報告されたペロブスカイト酸化物触媒の中では、OERに対して最も触媒活性が高いものと推定されている。従って、
図23より、本発明のCCFO触媒が、これら既知の単純ペロブスカイト酸化物と比べて、優れたOER触媒性能を有することが分かる。
【0092】
性能比較2<Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物触媒と単純ペロブスカイト酸化物触媒及び貴金属酸化物触媒とのOER触媒性能の比較>
図24は、本発明を適用するCCFO触媒と、BSCF、PBCO、RuO
2及びIrO
2触媒とのOER電位・電流曲線の比較を表す図である。この図より、同じ電位値(縦軸)に於いて、CCFOでは他に比べて一桁〜数桁大きな電流(横軸)が流れ、酸素発生反応(OER)が効率的に生じていることが分かる。
【0093】
性能比較3<特許文献1に示された触媒との性能比較>
特許文献1のLa
0.7Sr
0.3CoO
3と本発明のCaCu
3Fe
4O
12との酸素発生触媒の性能の比較を
図1及び
図2に示す。本発明品の方が、はるかに良い性能を示した。