【解決手段】深孔鍛造加工装置101は、パンチ11と、パンチスリーブ12と、パンチ11の押し出し側に設けられるダイ13と、ダイ13に固定されるカウンタパンチ15とを備える。パンチ11は、軸方向に移動し素材W1を後方へ押し出す。カウンタパンチ15は、素材W1が押し出されたとき素材W1の下端面10を押圧しつつ、下端面10から軸方向に延びる深孔1を穿設加工する。ダイ13は、パンチ11によって押し出された素材W1との間に隙間を形成するダイ孔21を有する。穿設加工に先立ち、パンチスリーブ12とダイ13は、カウンタパンチ15に対して素材W1を位置決めし固定する。ダイ13は、穿設加工に伴う素材W1の径外方向への変形を許容する。
前記ダイ(13)は、前記パンチによって押し出された前記素材(W1)との間に隙間(C)を形成するダイ孔(21)を有し、前記許容手段を兼ねることを特徴とする請求項1に記載の深孔鍛造加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
〈第1実施形態〉
[構成]
本発明の第1実施形態の深孔鍛造加工装置101について、
図1〜
図4を参照しつつ説明する。本実施形態では、ステンレス材でなる円柱形状の素材W1に、L/D比が10程度の深孔を鍛造加工により形成する。まず、深孔鍛造加工装置101の構成から説明する。なお、本明細書中、以下の各断面図において、切断面の奥に見える線は適宜省略して示している。
【0012】
図1、
図2、
図4の各図に示すように、本実施形態の深孔鍛造加工装置101は、パンチ11と、パンチスリーブ12と、ダイ13と、スライドパンチガイド14と、カウンタパンチ15と、保持具16などを備えている。
【0013】
パンチスリーブ12は、円筒部材であり、内部にパンチ11が挿通される。下型の一部を構成するダイ13は、パンチ11に対してパンチ11の押し出し側に位置し、内部にダイ孔21が形成されている。なお、パンチ11の押し出し側が「後方」であり、本実施形態では「下側」である。また、押し出し側と反対側が「前方」であり、本実施形態では「上側」である。
【0014】
ダイ孔21は、段状になっており、パンチスリーブ12を挿通させる径大孔部22と、スライドパンチガイド14を挿通させる径小孔部23とを有している。径小孔部23は、径大孔部22より押し出し側に位置しており、
図3に示すように、パンチ11により押し出された素材W1が挿通するときに、素材W1の外周との間に隙間Cを有するように形成されている。ここで、パンチスリーブ12とダイ13とが、特許請求の範囲に記載される「固定手段」に相当する。また、ダイ13が、特許請求の範囲に記載される「許容手段」に相当する。
【0015】
スライドパンチガイド14は、カウンタパンチ15に外挿されており、カウンタパンチ15を素材W1に対して垂直に支持する。スライドパンチガイド14は、図示しないスプリングを介して、径小孔部23内において上下方向に摺動自在に配置されている。
【0016】
カウンタパンチ15は、先端が丸くなだらかな曲面状をなすピン部材であり、その基端を保持具16に保持された状態で径小孔部23内に固定されている。カウンタパンチ15の形状が、素材W1に形成される深孔1(
図4参照)の形状として転写される。素材W1の下端面10の中央には、カウンタパンチ15とのセンタリングの際に、カウンタパンチ15の先端が挿入される孔24が軸方向に凹となるように形成されている。孔24は、深孔鍛造加工の前工程で素材W1に形成される。なお、素材W1の径断面積に対するカウンタパンチ15の径断面積の比率、すなわち断面減少率は10%以下である。
【0017】
[作用]
次に、上記深孔鍛造加工装置101による深孔鍛造加工方法について説明する。パンチ11およびパンチスリーブ12を上昇させた状態で、まず、パンチスリーブ12をダイ孔21の径大孔部22へ降下させる。次いで、パンチスリーブ12内に素材W1を投入する。
図1に示すように、素材W1の下端面10はスライドパンチガイド14の上端面に当接する。次いで、パンチ11をパンチスリーブ12でガイドしつつ、素材W1の上端面に当接するまで下降させる。このとき、パンチスリーブ12の外周および底面とダイ13の径大孔部22は嵌合される。また、パンチスリーブ12の内周と素材W1は嵌合される。これにより、ダイ13とパンチスリーブ12との同軸性が確保される。ひいては、カウンタパンチ15に対する素材W1の同軸性が確保される。
【0018】
次いで、パンチ11を僅かに降下させ、
図2に示すように、素材W1に形成されるセンタリング用の孔24の底部にカウンタパンチ15の先端を当接させる。これが穿設加工開始直前の状態であって、ダイ13およびパンチスリーブ12によって素材W1は可動しないように、かつ、カウンタパンチ15に対して真っ直ぐに位置決め固定される。
【0019】
次いで、さらにパンチ11を降下させて、
図4に示すように、素材W1に深孔1を穿設加工する。パンチ11の降下に伴い、素材W1の下端面10はカウンタパンチ15により強大な力で押圧され、下端面10から軸方向に延びる深孔1が徐々に形成されていく。このとき、素材W1の外径は、ダイ孔21(径小孔部23)との隙間C(
図3参照)により非拘束であり、素材W1は径外方向に材料流動が可能である。カウンタパンチ15が挿入されると、挿入された部位の材料はカウンタパンチ15の側面に沿うようにして後方へ押し出される。このとき、通常カウンタパンチ15と素材W1との間には強い摩擦力が作用するが、本実施形態では、隙間Cにより素材W1は径外方向に流動することができるため、摩擦力が軽減される。
【0020】
[効果]
本実施形態によれば、穿設加工中の素材W1の外径を非拘束とすることで、素材W1とカウンタパンチ15との摩擦力が小さくなり、より小さい抵抗で材料を後方へ押し出すことができる。そして、カウンタパンチ15に生じる面圧が低減されることで、カウンタパンチ15の座屈が極力抑制される。これにより、カウンタパンチ15の損傷が減少してカウンタパンチ15の寿命を延ばすことができる。
【0021】
また、これまで例えばL/D比が10以上の深孔を形成する場合には、複数回に分けて多段の鍛造成形を行う必要があったが、本実施形態によれば1回の工程で深孔を形成することができ、加工時間が短縮されて効率的に加工を行うことができる。
【0022】
さらに、断面減少率が10%以下のように小さい場合には、カウンタパンチ15に作用する荷重が大きくなりやすいが、本実施形態によれば断面減少率が10%以下であってもカウンタパンチ15の座屈を効果的に抑制することができる。
【0023】
また、深孔形成に際して、切削により深孔を形成する方法もあるが、切削加工では孔の底部にあたる止まり部分の形状を加工するのが難しく、正確な孔加工を施すには時間を要するという難点がある。その点、本実施形態による鍛造加工では、カウンタパンチ15の先端形状を転写できるため、加工が容易である。また、鍛造加工では素材W1の加工硬化が得られ、昨今の高圧化事情に鑑みると、鍛造加工により素材W1に強度を持たせつつ深孔1を形成することができ、より好適に深孔1を形成することができる。
【0024】
〈第2実施形態〉
[構成]
次に、本発明の第2実施形態の深孔鍛造加工装置102について、
図5〜
図9を参照しつつ説明する。本実施形態における素材W2は、ステンレス材であって、円柱部31とフランジ部32とを有する鍔付き円柱部材である。この素材W2に、L/D比が10程度の深孔を鍛造加工により形成する。まず、深孔鍛造加工装置102の構成から説明する。
【0025】
図5、
図7、
図8の各図に示すように、本実施形態の深孔鍛造加工装置102は、パンチ11と、ダイ33と、カムホルダ34と、スライドカム35と、スライドパンチガイド14と、カウンタパンチ15と、保持具16と、ガスクッション36などを備えている。
【0026】
下型の一部を構成するダイ33は、一端に開口部を有する円筒形状をなし、その内部にカムホルダ34、スライドカム35、スライドパンチガイド14、カウンタパンチ15、保持具16およびガスクッション36の各部材を収容する。なお、パンチ11、カウンタパンチ15、保持具16及びスライドパンチガイド14については、上記第1実施形態とほぼ同様の構造であるため、第1実施形態と同様の符号を付し説明は省略する。
【0027】
カムホルダ34は、肉厚円筒部材であり、ダイ33内に、押し出し方向に摺動自在に配置されている。カムホルダ34の中央部には、スライドパンチガイド14が挿入される孔37が形成されている。カムホルダ34の押し出し側は、ガスクッション36に連結されている。ガスクッション36は、押し出し方向と反対、すなわち前方へのクッション力Fcを発生する。
【0028】
そして、カムホルダ34は、パンチ11の降下に伴いガスクッション36から前方への押圧力を受ける。
図6に示すように、カムホルダ34においてパンチ11側(本実施形態では上側)には、軸方向に延びるスリット38が、周方向等間隔に複数(例えば6個)形成されている。スリット38の下端は径外方向に向かって高さが高くなるテーパ面39として形成されている。
【0029】
スライドカム35は、断面形状が五角形形状をなす薄板部材であり、一辺がカムホルダ34のテーパ面39と同じ傾きをなす傾斜面41として形成されている。スライドカム35は、鉛直方向に真っ直ぐに延びる一辺をカムホルダ34の内径側に位置させ、傾斜面41をカムホルダ34のテーパ面39に対向させて、各スリット38内に一つずつ配置される。
【0030】
そして、スライドカム35には、ガスクッション36による上方向へのクッション力Fcの伝達により、テーパ面39および傾斜面41を介して
図7に示すように径方向内側への付勢力Feが作用するようになっている。パンチ11の降下状態に応じた付勢力Feが作用することで、スライドカム35は、スリット38内で径方向への移動が可能になっている。なお、スライドパンチガイド14は、カムホルダ34の孔37においてスリット38が形成されていない内周面により支持されている。ここで、スライドカム35が、特許請求の範囲に記載される「固定手段」および「許容手段」に相当する。
【0031】
[作用]
次に、上記深孔鍛造加工装置102による深孔鍛造加工方法について説明する。パンチ11を上昇させた状態で、スライドパンチガイド14上に素材W2を投入する。次いで、パンチ11を降下させると、
図5に示すようにパンチ11は素材W2の上端面に当接する。さらに、パンチ11の降下が進むと、
図7に示すように、素材W2のフランジ部32の下端面がスライドカム35の上端面に当接する。このとき、スライドカム35は、付勢力Feを受けて、テーパ面39を滑るようにして径方向内側へ僅かにスライドし、素材W2の外周部を把持する。これにより、素材W2の位置決め固定がなされるとともに、カウンタパンチ15に対する素材W2の同軸性が確保される。
【0032】
次いで、さらにパンチ11を降下させて、
図8に示すように、素材W2に深孔2を穿設加工する。パンチ11の降下に伴い、カムホルダ34は下方へ摺動する。そして、素材W2の下端面20はカウンタパンチ15により強大な力で押圧され、下端面20から軸方向に延びる深孔2が徐々に形成されていく。
【0033】
ここで、
図9は、パンチ11の降下ストロークに伴って生じる付勢力Feおよび流動力Fmを示す図であって、穿設加工開始以降の状態を示している。流動力Fmとは、素材W2が軸方向に押圧されることで外径方向へ変形しようとする力である。素材W2の径方向において、加工中には、素材W2による流動力Fmとスライドカム35による付勢力Feとが作用する。
図9に示すように、流動力Fmは、加工開始後急激に上昇し、ある程度穿設加工が進むと上昇勾配は緩やかになる。一方、付勢力Feは、ガスクッション36によるクッション力Fcに比例し、すなわちストロークに比例して直線的に上昇する。
【0034】
穿設加工開始時および穿設加工開始直後は、付勢力Feの方が流動力Fmより大きく、この付勢力Feにより素材W2は径方向内側へしっかりと把持される。そして、パンチ11のストロークが大きくなり、徐々にカウンタパンチ15が素材W2へ挿入されていくと、ストロークがtとなった早期の段階で流動力Fmが付勢力Feを上回る。すると、
図8に示すように、スライドカム35は、素材W2の流動に追従するように径外方向へテーパ面39を滑るようにして移動する。すなわち、流動力Fmがある程度大きくなると、スライドカム35の移動により素材W2の径外方向への材料流動が許容される。
【0035】
穿設加工開始直後は、素材W2がカウンタパンチ15の外面に沿って後方へ押し出される流動の余地があるため、付勢力Feが上回っていた方が素材W2の固定の観点から好ましい。しかし、穿設加工が進んでいくにつれ、材料は流動しにくくなるため、そのとき外径方向への素材W2の流動を許容することが重要である。
【0036】
以上のように、スライドカム35は、付勢力Feと流動力Fmとのバランスに応じて、素材W2を固定する固定手段および素材W2の変形を許容する許容手段として機能する。すなわち、付勢力Feが流動力Fmより大きいとき、スライドカム35は、付勢力Feにより素材W2を固定する固定手段として機能する。流動力Fmが付勢力Feより大きいとき、スライドカム35は、流動力Fmによる素材W2の径外方向への変形を許容する許容手段として機能する。
【0037】
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏し、さらに鍔付き円柱形状をなす素材W2に対して効率的に鍛造加工により深孔2を形成することができる。また、スライドカム35は、素材W2の径方向外側に放射状に複数設けられているため、素材W2の外周に亘って材料の変形を好適に許容することができる。
【0038】
〈他の実施形態〉
上記第1実施形態では、加工開始位置においてダイ13と素材W1との間に隙間Cを設けているが、必ずしも加工開始位置で隙間Cが形成されていなくても良い。穿設加工が開始され、パンチ11が少し下がった位置でダイ13と素材W1との間に隙間Cができるようにしても良い。要は、素材W1がカウンタパンチ15の外面に沿って後方へ押し出される流動の余地がなくなる段階で、隙間により、素材W1の径方向への流動を許容できる構成であれば良い。
【0039】
上記第2実施形態では、スライドカム35を6枚設ける構成としたが、単数枚、その他3枚等複数枚設ける構成としても良い。カムホルダ34の孔37においてスリット38が形成されていない内周面でスライドパンチガイド14を保持しているが、このスライドパンチガイド14を適度に保持することが可能であれば、さらに6つ以上の複数枚でも良い。
【0040】
上記第2実施形態において、第1実施形態と同様に、素材W2にセンタリング用の孔24を前工程で形成しておいても良い。
【0041】
上記第2実施形態において、素材W2のフランジ部32でスライドカム35を軸方向に押さえるように構成したが、例えば別部材として平板状のカム押圧部材を設けても良い。
【0042】
上記第2実施形態では、ガスクッション36によるクッション力Fcを利用する構成としたが、スライドカム35が素材W2の変形に伴って径外方向へスライド可能であればその他の構成でも良い。例えば、スライド部材の径外方向をばねに連結し、このばねによって、径方向内側に所定の力で付勢されるようにする。そして、素材W2の変形時には、スライド部材が素材W2の変形に追従して径外方向へ移動するようにしても良い。
【0043】
上記第2実施形態において、ガスクッション36に代えて油圧クッションを設け、
図10に示すように、付勢力Feを一定となるようにしても良い。
【0044】
上記各実施形態では、素材W1,W2として共に円柱形状部材としたが、素材の外形形状は種々変形可能であり、例えば、軸方向に長いパイプ状部材や、軸方向と直交する径断面が多角形状をなす部材であっても良い。なお、多角形状をなす部材の場合には、特許請求の範囲に記載の「径外方向」とは、パンチ11の押し出し方向と一致する素材の中心軸から、例えば軸方向と直交する平面における外方向を意味するものとして解釈することができる。
【0045】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。