(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-221786(P2016-221786A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】ボールペン
(51)【国際特許分類】
B43K 1/08 20060101AFI20161205BHJP
【FI】
B43K1/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-109203(P2015-109203)
(22)【出願日】2015年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(71)【出願人】
【識別番号】000111890
【氏名又は名称】パイロットインキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】光崎 嘉人
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA08
2C350HA11
2C350HC01
2C350KF03
2C350NA10
(57)【要約】
【課題】中間ボールとロッド部の前端部との安定した接触状態が得られ、中間ボールを介して確実に筆記ボールを前方に付勢できるボールペンを提供する。
【解決手段】筆記ボール4とスプリング6と間に中間ボール5を介在させる。スプリング6が、ストレート状のロッド部61と、ロッド部61の後端部に複数の巻回により一体に形成されたコイル部62と、ロッド部61の前端部に複数の巻回により一体に形成されたカップ状部63と、を備える。ボール受け座32の中心部のインキ流通孔63内に中間ボール5を配置する。カップ状部63の内面で中間ボール5の後面を抱持する。中間ボール5の前面と筆記ボール4の後面とを当接させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ本体の前端に内向きに前端縁部を設け、前記前端縁部の後方のチップ本体の前端近傍内面にボール受け座を設け、前記前端縁部と前記ボール受け座との間で筆記ボールを回転可能に抱持し、前記筆記ボールの後方に、前記筆記ボールを前方に付勢し且つ前記筆記ボールを前記前端縁部の内面に密接させるスプリングを設け、前記筆記ボールと前記スプリングと間に中間ボールを介在させたボールペンであって、
前記スプリングが、ストレート状のロッド部と、前記ロッド部の後端部に複数の巻回により一体に形成されたコイル部と、前記ロッド部の前端部に複数の巻回により一体に形成されたカップ状部とを備え、前記ボール受け座の中心部に軸方向に貫通するインキ流通孔を設け、前記インキ流通孔内に前記中間ボールを配置し、前記カップ状部の内面で前記中間ボールの後面を抱持し、前記中間ボールの前面と前記筆記ボールの後面とを当接させたことを特徴とするボールペン。
【請求項2】
前記カップ状部は、外径が前方に向かうに従い次第に拡径される形状である請求項1記載のボールペン。
【請求項3】
前記カップ状部の前端部に密着巻部を備える請求項1または2に記載のボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来この種のボールペンにおいて、例えば、特許文献1には、継ぎ手の先方にボールペンのチップを、後方にインキ収容管を有して、インキ収容管には低粘度のインキが充填されて成るボールペンに於いて、複数箇所の内方突起により形成された受け座を有するパイプ状チップが継ぎ手の先端に設けられ、前記受け座に背面を当接すると共にチップ先端部に先端ボールが回転自在に抱持されて、また、受け座の中心部に形成された孔に挿通自在な当接ボールが先端ボールの背面に当接した状態に配設され、さらに、その当接ボールの背面にスプリング先方の棒軸部前端が当接し、棒軸部前端が当接ボールを介して先端ボールの背面を押圧して、先端ボールがチップのボール抱持部の内縁に密接されてインキの流出が阻止されるよう構成されたことを特徴とするボールペンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−198770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1のボールペンは、当接ボール(本願の中間ボールに相当)と棒軸部(本願のロッド部に相当)の前端との接触状態が不安定となりがちであり、当接ボールの後面の中心部と棒軸部の前端部とを確実に接触させることが困難である。そのため、前記特許文献1のボールペンは、非筆記時のボール抱持部の内縁と先端ボール(本願の筆記ボールに相当)との確実な密接状態が得られないおそれや、筆記時の先端ボールの円滑な回転が得られないおそれがある。
【0005】
本発明は、前記従来の問題点を解決するものであり、中間ボールとロッド部の前端部との安定した接触状態が得られ、中間ボールを介して確実に筆記ボールを前方に付勢でき、非筆記時の前端縁部と筆記ボールとの確実なシール性が得られるとともに、筆記時の筆記ボールの円滑な回転が得られるボールペンを提供しようとするものである。
【0006】
尚、本発明において、「前」とはチップ本体側を指し、「後」とはその反対側を指す。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の発明は、チップ本体3の前端に内向きに前端縁部31を設け、前記前端縁部31の後方のチップ本体3の前端近傍内面にボール受け座32を設け、前記前端縁部31と前記ボール受け座32との間で筆記ボール4を回転可能に抱持し、前記筆記ボール4の後方に、前記筆記ボール4を前方に付勢し且つ前記筆記ボール4を前記前端縁部31の内面に密接させるスプリング6を設け、前記筆記ボール4と前記スプリング6と間に中間ボール5を介在させたボールペンであって、前記スプリング6が、ストレート状のロッド部61と、前記ロッド部61の後端部に複数の巻回により一体に形成されたコイル部62と、前記ロッド部61の前端部に複数の巻回により一体に形成されたカップ状部63とを備え、前記ボール受け座32の中心部に軸方向に貫通するインキ流通孔33を設け、前記インキ流通孔33内に前記中間ボール5を配置し、前記カップ状部63の内面で前記中間ボール5の後面を抱持し、前記中間ボール5の前面と前記筆記ボール4の後面とを当接させたことを要件とする。
【0008】
前記第1の発明のボールペン1は、前記スプリング6が、ストレート状のロッド部61と、前記ロッド部61の後端部に複数の巻回により一体に形成されたコイル部62と、前記ロッド部61の前端部に複数の巻回により一体に形成されたカップ状部63とを備え、前記ボール受け座32の中心部に軸方向に貫通するインキ流通孔33を設け、前記インキ流通孔33内に前記中間ボール5を配置し、前記カップ状部63の内面で前記中間ボール5の後面を抱持し、前記中間ボール5の前面と前記筆記ボール4の後面とを当接させたことにより、中間ボール5とロッド部61の前端部との安定した接触状態が得られ、中間ボール5を介して確実に筆記ボール4の中心部を前方に付勢でき、その結果、非筆記時の前端縁部31と筆記ボール4との確実なシール性が得られるとともに、筆記時の筆記ボール4の円滑な回転が得られる。
【0009】
本願の第2の発明は、前記第1の発明のボールペン1において、前記カップ状部63は、外径が前方に向かうに従い次第に拡径される形状であることを要件とする。
【0010】
前記第2の発明のボールペン1は、前記カップ状部63は、外径が後方に向かうに従い次第に縮径される形状であることにより、前記カップ状部63によって中間ボール5の後面を広範囲にわたって抱持することができ、筆記時や落下衝撃時に中間ボール5がカップ状部63から脱落することを回避でき、より一層、中間ボール5とロッド部61前端との安定した接触状態が得られる。
【0011】
本願の第3の発明のボールペン1は、前記第1または第2の発明のボールペンにおいて、前記カップ状部63の前端部に密着巻部を備えることを要件とする。
【0012】
前記第3の発明のボールペン1は、前記カップ状部63の前端部に密着巻部を備えることにより、より一層、前記カップ状部63によって中間ボール5の後面を広範囲にわたって抱持することができ、筆記時や落下衝撃時に中間ボール5がカップ状部63から脱落することを回避でき、中間ボール5とロッド部61の前端部との安定した接触状態が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のボールペンによれば、非筆記時の前端縁部と筆記ボールとの確実なシール性が得られるとともに、筆記時の筆記ボールの円滑な回転が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至
図4に本発明の実施の形態を示す。
【0016】
・ボールペン
本実施の形態のボールペン1は、前端部に筆記ボール4を回転可能に抱持したボールペンチップ2と、前記ボールペンチップ2の後部がその前部81に圧入固着されたホルダー8と、前記ホルダー8の後部83がその前端開口部に圧入固着されたインキ収容筒7と、前記チップ本体3の内部及びホルダー8の内部に収容配置されるスプリング6と、前記スプリング6と筆記ボール4との間に介在される中間ボール5と、前記インキ収容筒7の後端開口部に圧入固着される尾栓9とからなる。前記尾栓9は、インキ収容筒7内と外気とを連通可能にする通気孔を有する
【0017】
・ボールペンチップ
前記ボールペンチップ2は、チップ本体3と筆記ボール4とからなる。前記チップ本体3は、円筒状の金属製筒体よりなる。前記金属製筒体は、例えば、SUS304、SUS305、SUS321等のオーステナイト系ステンレス鋼により得られる。前記チップ本体3の前端近傍内面には、内方への押圧変形により、複数(例えば、4個)の内方突起が周方向に等間隔に形成される。前記内方突起によりボール受け座32が形成される。また、チップ本体3の前端には、周状に内方に押圧変形されることにより、内向きの前端縁部31が形成される。前記ボール受け座32の前面と前記前端縁部31の後面との間には筆記ボール4が回転可能に抱持される。前記内方突起の相互間には、中心部から径方向外方に延び且つ軸方向に貫通するインキ流通孔33が形成される。即ち、前記ボール受け座32には、前記インキ流通孔33が形成される。尚、前記ボール受け座32は、内方変形による複数の内方突起からなる構成の他、切削加工により金属製のチップ本体3の内面に形成される構成でもよい。
【0018】
前記筆記ボール4は、直径が、0.3mm〜0.7mm(好ましくは0.3mm〜0.5mm)の範囲のものが採用される。
【0019】
・ホルダー
前記ホルダー8は合成樹脂(例えば、ポリプロピレン)の射出成形によって得られる筒状体である。前記ホルダー8は、ボールペンチップ2が取り付けられる先細状の前部81と、インキ収容筒7の前端面に当接する鍔部82と、インキ収容筒7の前端開口部に圧入される後部83とからなる。前記ホルダー8の内面には、環状突起または周状に分散配置された複数の突起からなる係止壁部8aが一体に形成される。
【0020】
・インキ収容筒
前記インキ収容筒7は、合成樹脂(例えば、ポリプロピレン)の押出成形により得られる、両端が開口された円筒体である。前記インキ収容筒7の内部には、インキ71と、該インキ71の消費に伴って前進する高粘度流体からなる追従体72が充填される。前記インキ71は、例えば、低粘度の水性または油性インキ、剪断減粘性を有する水性または油性ゲルインキ等が挙げられる。前記追従体72は、例えば、高粘度流体のみからなる構成、または高粘度流体中に固形物を収容させた構成が挙げられる。
【0021】
・スプリング
前記スプリング6は、ストレート状のロッド部61と、該ロッド部61の後端部に螺旋状の複数の巻回により一体に形成されたコイル部62と、前記ロッド部61の前端部に螺旋状の複数の巻回により一体に形成されたカップ状部63とを備える。また、前記コイル部62の後端部に、コイル部62の外径より大きい外径を有する膨出部64が一体に形成される。前記スプリング6は、前記ロッド部61と、前記コイル部62と、前記カップ状部63と、前記膨出部64とが1本の金属線材(例えば、ステンレス鋼製線材)により一体に連設される。前記係止壁部8aに前記スプリング6の膨出部64の後端が係止される。前記スプリング6は、筆記ボール4の後方に配置され、中間ボール5を介して前記筆記ボール4を前方に付勢し且つ前記筆記ボール4を前記前端縁部31の内面に密接させる
【0022】
・カップ状部
前記カップ状部63は、外径が前方に向かうに従い次第に拡径される外形状を有する。前記カップ状部63は、隣接する線材同志が密着する密着巻部を少なくとも前端部に備える。前記密着巻部はカップ状部63の前端部または全体に設けられる。
【0023】
前記カップ状部63の前端部は、前記ボール受け座32を構成する各々の内方突起の径方向内方(内方突起の後面の径方向内方)に位置される。それにより、前記各々の内方突起の後面とカップ状部63の前端部外面との間の隙間を小さくでき、筆記時(筆記ボール4の回転時)及び落下衝撃時、中間ボール5がカップ状部63内部から脱落することを一層回避できる。
【0024】
・中間ボール
前記中間ボール5が前記インキ流通孔33の中心部内に配置される。前記カップ状部63の内面で前記中間ボール5の後面が抱持される。前記中間ボール5の前面と前記筆記ボール4の後面とを当接させ、スプリング6により中間ボール5を介して筆記ボール4が前方に付勢される。
【0025】
前記中間ボール5は、筆記ボール4より小さい外径を有する。また、前記中間ボール5は、インキ流通孔33の中心部の内径(内方突起の頂部の仮想内接円の直径)より小さく設定される。
【0026】
尚、前記中間ボール5及び前記筆記ボール4の材質は、特に限定されないが、一般に金属またはセラミックスからなるものが用いられ、硬度の高い材料が選択されることが好ましい。前記中間ボール5及び前記筆記ボール4の材質は、例えば、炭化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックスやステンレス鋼などの金属が用いられる。また、セラミックスと金属性結合材とからなる超硬合金を用いてもよい。このような超硬合金としては、タングステンカーバイトと、コバルトまたはニッケルなどの金属性結合材とからなるものが知られている。前記中間ボール5は、筆記ボール4と同一の材料または異なる材料の何れであってもよい。
【0027】
本実施の形態のボールペン1は、前記スプリング6が、ストレート状のロッド部61と、前記ロッド部61の後端部に複数の巻回により一体に形成されたコイル部62と、前記ロッド部61の前端部に複数の巻回により一体に形成されたカップ状部63とを備え、前記ボール受け座32の中心部に軸方向に貫通するインキ流通孔33を設け、前記インキ流通孔33内に前記中間ボール5を配置し、前記カップ状部63の内面で前記中間ボール5の後面を抱持し、前記中間ボール5の前面と前記筆記ボール4の後面とを当接させたことにより、中間ボール5とロッド部61前端部との安定した接触状態が得られ、中間ボール5を介して確実に筆記ボール4の中心部を前方に付勢でき、その結果、非筆記時の前端縁部31と筆記ボール4との確実なシール性が得られるとともに、筆記時の筆記ボール4の円滑な回転が得られる。前記前端縁部31と筆記ボール4との確実なシール性が得られることにより、非筆記時、ペン先上向き状態におけるペン先からの空気混入や、ペン先下向き状態におけるインキ漏出を確実に防止できる。
【0028】
本実施の形態のボールペン1は、前記カップ状部63は、外径が後方に向かうに従い次第に縮径される形状であることにより、前記カップ状部63によって中間ボール5の後面を広範囲にわたって抱持することができ、筆記時や落下衝撃時に中間ボール5がカップ状部63から脱落することを回避でき、より一層、中間ボール5とロッド部61前端との安定した接触状態が得られる。
【0029】
本実施の形態のボールペン1は、前記カップ状部63の前端部に密着巻部を備えることにより、より一層、前記カップ状部63によって中間ボール5の後面を広範囲にわたって抱持することができ、筆記時や落下衝撃時に中間ボール5がカップ状部63から脱落することを回避でき、中間ボール5とロッド部61の前端部との安定した接触状態が得られる。
【0030】
1 ボールペン
2 ボールペンチップ
3 チップ本体
31 前端縁部
32 ボール受け座(内方突起)
33 インキ流通孔
4 筆記ボール
5 中間ボール
6 スプリング
61 ロッド部
62 コイル部
63 カップ状部
64 膨出部
7 インキ収容筒
71 インキ
72 追従体
8 ホルダー
8a 係止壁部
81 前部
82 鍔部
83 後部
9 尾栓