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特開2016-221828グラビア印刷用シリンダのメッキ層の除去方法及び除去装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-221828(P2016-221828A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】グラビア印刷用シリンダのメッキ層の除去方法及び除去装置
(51)【国際特許分類】
   B41C 1/18 20060101AFI20161205BHJP
   B41N 1/06 20060101ALI20161205BHJP
   B41N 3/00 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   B41C1/18
   B41N1/06
   B41N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-110218(P2015-110218)
(22)【出願日】2015年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】593098554
【氏名又は名称】ツジカワ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】上林 塁
(72)【発明者】
【氏名】川田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】辻川 豊
(72)【発明者】
【氏名】室田 勉
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
【Fターム(参考)】
2H084AA26
2H084AA36
2H084BB02
2H084BB16
2H084CC03
2H114AA03
2H114AA09
2H114AA16
2H114AA17
2H114AA27
2H114DA04
2H114EA08
2H114GA29
2H114GA31
(57)【要約】
【課題】グラビア印刷用シリンダ10からメッキ層5を除去する作業に起因して下地層2が傷付くことを十分に抑制できる除去方法を提供する。
【解決手段】本発明は、シリンダベース1と、下地層2と、バラード層3と、メッキ層5とを備えるシリンダ10からメッキ層5を除去する方法に関する。この方法は、(A)シリンダ10の表面10aからバラード層3にまでカッター30の刃先31aが至るようにシリンダ10に対してカッター30を押し当てる工程と、(B)シリンダ10の長手方向に刃先31aを移動させることによってメッキ層5に切込み線5cを形成する工程と、(C)シリンダ10の長手方向に延びている切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を剥離する工程とをこの順序で含む。カッター30は、筒状部材33の端面33aからの刃先31aの突出長さを調節可能である。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状部を有するシリンダベースと、
前記シリンダベースの前記筒状部の表面に形成された下地層と、
前記下地層よりも外側に形成されたメッキ層と、
前記下地層と前記メッキ層の界面をなすバラード層と、
を備え、前記バラード層から前記メッキ層を剥離可能なバラード方式のグラビア印刷用シリンダの前記メッキ層を除去するための方法であって、
(A)前記シリンダの表面から前記バラード層にまでカッターの刃先が至るように前記シリンダに対して前記カッターを押し当てる工程と、
(B)前記シリンダが回転しないように固定した状態において前記シリンダの長手方向に前記刃先を移動させることによって前記メッキ層に切込み線を入れる工程と、
(C)前記シリンダの長手方向に延びている前記切込み線の全体をきっかけとして前記メッキ層を剥離する工程と、
をこの順序で含み、
前記カッターは、
前記シリンダの表面と当接する当接面と、
前記当接面から前記シリンダに向けて突出している前記刃先と、
前記当接面からの前記刃先の突出長さを調節する突出長さ調節機構と、
を有する、除去方法。
【請求項2】
前記(C)工程は、
(c1)前記シリンダの表面の前記切込み線の近傍領域に、前記切込み線に沿って複数の吸着パッドを配置すること、
(c2)前記複数の吸着パッドが前記シリンダの前記切込み線の近傍領域を吸着した状態において、前記切込み線の位置から前記複数の吸着パッドを相対的に遠ざけることによって、前記シリンダの表面を構成する前記メッキ層に対して剥離する方向の力を加えること、
を含む、請求項1に記載の除去方法。
【請求項3】
前記カッターは、
円盤状のディスクの外周部に形成された前記刃先と、
前記ディスクを収容する開口を有するフレームと、
前記フレームの外面であって前記当接面を構成する外面と、
前記フレームの前記外面に形成された切欠き部と、
前記外面の前記切欠き部からの前記刃先の突出長さを調節する前記突出長さ調節機構と、
を有する、請求項1又は2に記載の除去方法。
【請求項4】
前記カッターは、
前記刃先を端部に有し且つ側面に雄ネジが形成された円柱状部材と、
前記雄ネジと螺合する雌ネジを内面に有する筒状部材と、
前記筒状部材の一方の端面であって前記当接面を構成する端面と、
を有し、
前記円柱状部材の前記雄ネジと、前記筒状部材の前記雌ネジとによって前記突出長さ調節機構が構成されている、請求項1又は2に記載の除去方法。
【請求項5】
筒状部を有するシリンダベースと、
前記シリンダベースの前記筒状部の表面に形成された下地層と、
前記下地層よりも外側に形成されたメッキ層と、
前記下地層と前記メッキ層の界面をなすバラード層と、
を備え、前記バラード層から前記メッキ層を剥離可能なバラード方式のグラビア印刷用シリンダの前記メッキ層を除去するための装置であって、
前記シリンダが回転しないように支持可能なシリンダ支持部と、
前記シリンダの表面から前記バラード層にまで至る切込み線を入れるカッターと、
前記カッターを支持するとともに前記シリンダの長手方向に沿って前記カッターを移動させるカッター移動機構と、
前記カッターによって形成される前記切込み線の全体をきっかけとして前記メッキ層を剥離するメッキ層剥離機構と、
を備え、
前記カッターは、
前記シリンダの表面と当接する当接面と、
前記当接面から前記シリンダに向けて突出している前記刃先と、
前記当接面からの前記刃先の突出長さを調節する突出長さ調節機構と、
を有する、除去装置。
【請求項6】
前記メッキ層剥離機構は、
前記シリンダの長手方向に沿って並ぶように配置された複数の吸着パッドと、
前記複数の吸着パッドを支持する吸着パッド支持部と、
前記シリンダに対する前記吸着パッド支持部の前記シリンダの径方向における位置を変更する吸着パッド位置変更機構と、
を有する、請求項5に記載の除去装置。
【請求項7】
前記カッターは、
円盤状のディスクの外周部に形成された前記刃先と、
前記ディスクを収容する開口を有するフレームと、
前記フレームの外面であって前記当接面を構成する外面と、
前記フレームの前記外面に形成された切欠き部と、
前記外面の前記切欠き部からの前記刃先の突出長さを調節する前記突出長さ調節機構と、
を有する、請求項5又は6に記載の除去装置。
【請求項8】
前記カッターは、
前記刃先を端部に有し且つ側面に雄ネジが形成された円柱状部材と、
前記雄ネジと螺合する雌ネジを内面に有する筒状部材と、
前記筒状部材の一方の端面であって前記当接面を構成する端面と、
を有し、
前記円柱状部材の前記雄ネジと、前記筒状部材の前記雌ネジとによって前記突出長さ調節機構が構成されている、請求項5又は6に記載の除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷用シリンダのメッキ層の除去方法及び除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷用シリンダのタイプの一つとしてバラード方式のシリンダが知られている。このシリンダは、シリンダベースの表面をなす下地層と、この下地層の表面上にメッキ処理によって形成されるメッキ層と、下地層とメッキ層との界面をなすバラード層とを備える。メッキ層は、一般に下地層の表面上に形成される彫刻形成層と、これを保護するための保護層とを有する。
【0003】
バラード方式のシリンダは、その製作過程において、下地層の表面にバラード液と称される液を塗布した後、その上に彫刻形成層と保護層とを順次形成することで、下地層からメッキ層(彫刻形成層及び保護層)を比較的容易に剥離させることができる。これにより、グラビア印刷の終了後、シリンダベース側に下地層を残したまま、メッキ層を剥離することで、シリンダベースを再利用することができる。
【0004】
特許文献1は使用済みグラビア版ロール(シリンダ)のバラードメッキ(メッキ層)の剥ぎ取り方法を開示する。特許文献1の図1(a)は、高圧空気噴射ノズル3を使用してロール周面のバラードメッキMをスパイラル状に剥ぎ取るところを示している。特許文献1の図1(c)は高圧空気噴射ノズル3と軟性シート4とカッター刃5とを併用してバラードメッキを剥ぎ取るところを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−250251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らはグラビア印刷用シリンダからメッキ層を除去する作業を自動化(機械化)することを検討している。本発明者らは種々の除去装置を試作し、その評価を行った。その過程において、シリンダからメッキ層をうまく除去できるものの、メッキ層の除去により露出した下地層が傷付く場合があることを見出した。下地層が傷付いていると、シリンダベースを再利用する前に下地層を修復する必要があったり、傷の程度がひどい場合にはシリンダベースを破棄せざるを得ないこともある。本発明者らは下地層に生じる傷について検討したところ、メッキ層に切込みを入れるために使用したカッターが下地層にまで至ることによって生じる傷と、除去されたメッキ層が下地層に勢いよく当たることによって生じたと認められる傷とがあることが判明した。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、グラビア印刷用シリンダからメッキ層を除去する作業に起因して下地層が傷付くことを十分に抑制できる除去方法及び除去装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、バラード方式のグラビア印刷用シリンダ、すなわち筒状部を有するシリンダベースと、シリンダベースの筒状部の表面に形成された下地層と、下地層よりも外側に形成されたメッキ層と、下地層とメッキ層の界面をなすバラード層とを備えるシリンダからメッキ層を除去するための方法に関する。本発明に係る除去方法は、(A)シリンダの表面からバラード層にまでカッターの刃先が至るようにシリンダに対してカッターを押し当てる工程と、(B)シリンダが回転しないように固定した状態においてシリンダの長手方向に刃先を移動させることによってメッキ層に切込み線を入れる工程と、(C)シリンダの長手方向に延びている切込み線の全体をきっかけとしてメッキ層を剥離する工程とをこの順序で含む。上記(A)工程及び(B)工程で使用するカッターは、シリンダの表面と当接する当接面と、当接面からシリンダに向けて突出している刃先と、当接面からの刃先の突出長さを調節する突出長さ調節機構とを有する。
【0009】
上記除去方法によれば、シリンダからメッキ層を除去する作業に起因して下地層が傷付くことを十分に抑制できる。その理由は以下のとおりである。まず、(A)工程及び(B)工程において上記構成のカッターを使用することで、シリンダの表面からバラード層にまでカッターの刃先が至るものの、下地層には至らないように刃先の突出長さを調節できる。これにより、カッターによってメッキ層に切込み線を形成する作業に起因して下地層が傷付くことを十分に抑制できる。更に、(B)工程によってシリンダの長手方向に延びている切込み線を形成した後、(C)工程において切込み線の全体をきっかけとしてメッキ層を剥離する。切込み線の全体をきっかけとしてメッキ層を剥離することで、剥離中のメッキ層が下地層に当たることを十分に抑制でき、これにより、下地層が傷付くことを十分に抑制できる。
【0010】
下地層に傷が付くのをより一層確実に抑制する観点から、上記(C)工程におけるメッキ層の剥離には複数の吸着パッドを使用することが好ましい。この場合、(C)工程において以下の工程を実施することが好ましい。
(c1)シリンダの表面の切込み線の近傍領域に、切込み線に沿って複数の吸着パッドを配置すること。
(c2)複数の吸着パッドがシリンダの切込み線の近傍領域を吸着した状態において、切込み線の位置から複数の吸着パッドを相対的に遠ざけることによって、シリンダの表面を構成するメッキ層に対して剥離する方向の力を加えること。
【0011】
上記(A)工程及び(B)工程で使用するカッターは、上述のとおり、シリンダの表面と当接する当接面と、当接面からシリンダに向けて突出している刃先と、当接面からの刃先の突出長さを調節する突出長さ調節機構とを有する。カッターのより具体的な態様としては、以下のものが挙げられる。すなわち、カッターの一態様は、円盤状のディスクの外周部に形成された刃先と、ディスクを収容する開口を有するフレームと、フレームの外面であって上記当接面を構成する外面と、フレームの外面に形成された切欠き部と、外面の切欠き部からの刃先の突出長さを調節する突出長さ調節機構とを有する。カッターの他の態様は、刃先を端部に有し且つ側面に雄ネジが形成された円柱状部材と、この雄ネジと螺合する雌ネジを内面に有する筒状部材と、筒状部材の一方の端面であって上記当接面を構成する端面とを有し、円柱状部材の雄ネジと、筒状部材の雌ネジとによって突出長さ調節機構が構成されている。
【0012】
本発明は、バラード方式のグラビア印刷用シリンダからメッキ層を除去するための装置を提供する。本発明に係る除去装置は、シリンダが回転しないように支持可能なシリンダ支持部と、シリンダの表面からバラード層にまで至る切込み線を入れるカッターと、カッターを支持するとともにシリンダの長手方向に沿ってカッターを移動させるカッター移動機構と、カッターによって形成される切込み線の全体をきっかけとしてメッキ層を剥離するメッキ層剥離機構とを備える。カッターは、上記(A)工程及び(B)工程で使用するカッターと同じ構成である。
【0013】
上記除去装置によれば、上記除去方法を好適に実施できる。つまり、この除去装置によれば、シリンダからメッキ層を除去する作業に起因して下地層に傷が付くことを十分に抑制できる。下地層に傷が付くのをより一層確実に抑制する観点から、上記メッキ層剥離機構は、シリンダの長手方向に沿って並ぶように配置された複数の吸着パッドと、複数の吸着パッドを支持する吸着パッド支持部と、シリンダに対する吸着パッド支持部のシリンダの径方向における位置を変更する吸着パッド位置変更機構とを有することが好ましい。かかる構成によれば、まず、シリンダの表面の切込み線の近傍領域において切込み線に沿って複数の吸着パッドを配置することができる。その後、複数の吸着パッドがシリンダの切込み線の近傍領域を吸着した状態において、切込み線の位置から複数の吸着パッドをシリンダの径方向に遠ざけることによって、シリンダの表面を構成するメッキ層に対して剥離する方向の力を加えることができ、これにより切込み線の全体をきっかけとしてメッキ層を剥離できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、グラビア印刷用シリンダからメッキ層を除去する作業に起因して下地層が傷付くことを十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】バラード方式のグラビア印刷用シリンダの一例を示す断面図である。
図2】本発明に係る除去装置の一実施形態の一部の構成を模式的に示す斜視図である。
図3】カッターによってシリンダに切込み線を入れる様子を模式的に示す斜視図である。
図4】カッターの刃先がバラード層に至っている様子を模式的に示す断面図である。
図5図3に示すカッターの斜視図である。
図6図5に示すVI−VI線における断面図である。
図7】切込み線の近傍に複数の吸着パッドを配置した状態を示す模式図である。
図8】切込み線の全体をきっかけとしてメッキ層を複数の吸着パッドで剥離する様子を模式的に示す斜視図である。
図9】カッターの他の例を示す平面図である。
図10】(a)は円盤状のディスクの平面図であり、(b)は(a)に示すb−b線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0017】
<バラード方式のグラビア印刷用シリンダ>
図1はバラード方式のグラビア印刷用シリンダの一例を示す断面図であり、シリンダ10の長手方向に直交する面における断面を示したものである。同図に示すとおり、シリンダ10は、シリンダベース1と、シリンダベース1の表面に設けられた下地層2と、バラード層3と、バラード層3の外側に設けられたメッキ層5とを備える。バラード層3は下地層2とメッキ層5との界面をなしている。メッキ層5は、彫刻形成層5aと保護層5bとを備え、これらの層が下地層2側からこの順で形成されている。グラビア印刷の終了後、シリンダベース1側に下地層2を残したまま、バラード層3を境にメッキ層5を剥離することによってシリンダベース1を再利用することができる。
【0018】
シリンダベース1は、例えば長さ300〜5000mm、外径100〜1500mmの筒状部材である。シリンダベース1の材質として、例えばアルミニウム、鉄などが挙げられる。
【0019】
下地層2は、シリンダベース1の表面を覆うように形成された層である。下地層2の材質として、例えば銅、亜鉛、スズ、ニッケル及びこれらの合金ならびにステンレス及びその他の合金などが挙げられる。
【0020】
バラード層3は、下地層2の表面2fと彫刻形成層5aの裏面5fとの間に位置する。バラード層3は、シリンダ10の製作過程において下地層2の表面2fにバラード液と称される液を塗布することによって形成される。使用するバラード液の種類や塗布量によるが、バラード層3の厚さは例えば60〜130μm程度である。バラード液としては、例えば無水亜硫酸ナトリウム、硝酸銀又はチオ硫酸の水溶液あるいは水を使用できる。バラード液の塗布後に彫刻形成層5a及び保護層5bがメッキ処理によって順次形成される。
【0021】
彫刻形成層5aは、バラード液が塗布された下地層2の表面を覆うように形成されている。彫刻形成層5aはメッキ処理によって形成され、その厚さは例えば60〜300μm程度である。彫刻形成層5aの材質として、例えば銅、亜鉛、スズ及びこれらの合金ならびにステンレス及びその他の合金などが挙げられる。彫刻形成層5aはメッキ処理によって形成され、その後、レーザなどによってグラビア印刷用の凹部が彫刻される。
【0022】
保護層5bは、彫刻形成層5aに形成された版を保護するためのものであり、彫刻形成層5aの表面を覆うように形成されている。保護層5bはメッキ処理によって形成され、その厚さは例えば5〜8μm程度である。保護層5bの材質として、例えばクロム、ニッケル、亜鉛及びこれらの合金などが挙げられる。
【0023】
<除去装置>
図2〜8を参照しながら、シリンダ10からメッキ層5を取り除くための除去装置100について説明する。除去装置100は、シリンダ10を回転自在に支持するシリンダ支持部20(図2参照)と、シリンダ支持部20に支持された状態のシリンダ10を回転させる回転機構(不図示)と、メッキ層5に切込み線5cを入れるためのカッター30(図3〜6参照)と、シリンダ10の長手方向に沿ってカッター30を移動させるカッター移動機構(不図示)と、切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を剥離するメッキ層剥離機構40(図7,8参照)とを備える。以下、各構成について説明する。
【0024】
図2に示すとおり、一対のシリンダ支持部20は、シリンダ10の長手方向に延びる中心線Cを回転中心としてシリンダ10を回転自在に支持する。回転機構によってシリンダ10を図2の矢印Rの方向に回転させることができる。回転機構はシリンダ10の回転をロックする機構を有し、これにより、シリンダ10が回転しないように支持することも可能である。シリンダ支持部20と、回転機構と、カッター移動機構とを備える装置として、例えば旋盤を使用できる。
【0025】
図3に示すとおり、カッター30は図3の矢印Aの方向(シリンダ10の長手方向)に移動する。シリンダ10の矢印Rの方向に回転しないように回転をロックした状態において、カッター30をメッキ層5の表面に押し当てて矢印Aの方向に移動させることで、シリンダ10の一端から他端にかけてシリンダ10に切込み線5cを入れることができる。このとき、カッター30の刃先31aは、下地層2を傷付けないように、下地層2の表面に接触しない位置、すなわち、バラード層3の途中にまで至っている(図4参照)。上述のとおり、バラード層3はバラード液の塗布によって形成される層であるため、十分に強度が低い。従って、シリンダ10の表面10aからバラード層3にまで至る切込み線5cを形成すれば、切込み線5cをきっかけとしてメッキ層5を剥離することができる。
【0026】
図5は、カッター30の斜視図であり、図6図5に示すVI−VI線における断面図である。これらの図に示すとおり、カッター30は、刃先31aを端部に有する円柱状部材31と、円柱状部材31を収容する円筒部材(筒状部材)33とによって構成されている。円筒部材33の端面33aから円錐状の刃先31aが突出している。刃先31aの突出長さ(図6に示す長さL)を調節することで、切込み線5cの深さを設定することができる。円柱状部材31の外径は10〜20mm程度であればよく、円筒部材33の外径は30〜50mm程度であればよい。円柱状部材31、刃先31a及び円筒部材33は十分に高い機械的強度を有していればよい。例えば、円柱状部材31の材質としては、炭素鋼(例えばS45C)または工具鋼(例えばSKD11)が挙げられ、ろう付け加工によって円柱状部材の先端に超硬合金からなる刃先31aを設ければよい。あるいは、円柱状部材31の全体をハイス鋼または超硬合金で形成してもよい。円筒部材33の材質としては、炭素鋼(例えばS45C)、炭素鋼の表面に硬質クロームメッキやチタンコーティングを施したものなどが挙げられる。あるいは、円筒部材33の全体を超鋼合金で形成してもよい。なお、ここでは円錐状の刃先31aを例示したが、刃先31aの態様はこれに限定されるものではない。
【0027】
円柱状部材31の側面には雄ネジ31bが形成されている。雄ネジ31bは、刃先31aを有する端部と反対側の端部31cから刃先31aの方向に向けて側面の途中まで形成されている。一方、円筒部材33の内面には雄ネジ31bと螺合する雌ネジ33bが形成されている。雌ネジ33bは円筒部材33の長手方向の全体にわたって形成されている。雄ネジ31bと雌ネジ33bが螺合しているため、円筒部材33に対して円柱状部材31を回転させることによって刃先31aの突出長さLを調節可能である。
【0028】
図3に示すとおり、カッター30はシリンダ10の表面10aに直交するように押し付けられて使用される。この状態において、円筒部材33の端面33aが表面10aに当接する。円筒部材33の端面33aをシリンダ10の表面10aに当接させた状態で切込み線5cを形成することで、刃先31aの突出長さLに応じた深さの切込み線5cをシリンダ10に形成することができる。刃先31aの突出長さLに応じた深さの切込み線5cをシリンダ10に高い精度で形成するには端面33aと円筒部材33の長手方向とのなす角が十分に高い精度で90°であることが好ましい。なお、シリンダ10の表面10aにカッター30を押し付けるには例えばバネの弾性力を利用した機構(図示せず)を利用することができる。
【0029】
メッキ層剥離機構40は、切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を剥離するためのものである。図7,8に示すとおり、メッキ層剥離機構40は、シリンダ10の長手方向に沿って並ぶように配置された複数の吸着パッド42と、複数の吸着パッド42を保持する吸着パッド支持部45と、吸着パッド支持部45の位置を変更する吸着パッド位置機構(不図示)とを有する。吸着パッド位置変更機構は、シリンダ10に対する複数の吸着パッド42の位置(シリンダ10の表面10aから径方向の位置)を変更するためのものである。
【0030】
図7は、切込み線5cの近傍に複数の吸着パッド42を配置した状態を示す模式図である。シリンダ10の直径にもよるが、切込み線5cから吸着パッド42までに距離は例えば10mm以下であることが好ましい。この距離を10mm以下とすることで、切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を十分安定的に剥離できる。なお、各吸着パッド42は減圧機構(不図示)と連通しており、吸着パッド42の表面をシリンダ10の表面10aに当接させた状態において、その間の空間を減圧することで表面1aに吸着する。吸着パッド42のサイズや吸着力にもよるが、シリンダ10の長手方向において隣り合う吸着パッド42の中心位置の間隔(ピッチ)は50〜300mm程度であればよく、80〜200mm程度であってもよい。
【0031】
図8は、切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を複数の吸着パッド42で剥離する様子を模式的に示す斜視図である。同図に示すとおり、複数の吸着パッド42がシリンダ10の切込み線5cの近傍領域を吸着した状態において、切込み線5cの位置から吸着パッド支持部45をシリンダ10の径方向に遠ざけることによって、シリンダ10の表面10aを構成するメッキ層5に対して剥離する方向(図7に示す矢印B方向)に力を加えることができる。この力によってシリンダ10からメッキ層5を剥がした後、シリンダ支持部20を矢印Rの方向に低速(例えば、5〜20回転/分)で回転させることで、メッキ層5の全体を剥離することができる。メッキ層5を剥がす速度(剥離部分がシリンダ10の周方向に伝わる速度)は5〜10m/分程度とすればよい。
【0032】
なお、本実施形態においては、メッキ層剥離機構40として複数の吸着パッド42を有するものを例示したが、吸着パッド42の代わりに、あるいは、吸着パッド42とともに、例えば、複数のチャックハンド(不図示)を採用してもよい。
【0033】
<除去方法>
次に、使用済みのシリンダ10からメッキ層5を除去する方法について説明する。本実施形態に係る除去方法は、以下の工程(A)〜(C)をこの順序で含む。
(A)シリンダ10の表面10aからバラード層3にまでカッター30の刃先31aが至るようにシリンダ10に対してカッター30を押し当てる工程。
(B)シリンダ10が回転しないように固定した状態においてシリンダ10の長手方向に刃先31aを移動させることによってメッキ層5に切込み線5cを入れる工程。
(C)シリンダ10の長手方向に延びている切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を剥離する工程。
【0034】
下地層2に傷が付くのをより一層確実に抑制する観点から、上記(C)工程におけるメッキ層5の剥離には複数の吸着パッド42が使用される。この場合、(C)工程において以下の工程を実施する。
(c1)シリンダ10の表面10aの切込み線5cの近傍領域に、切込み線5cに沿って複数の吸着パッド42を配置すること。
(c2)複数の吸着パッド42がシリンダ10の切込み線5cの近傍領域を吸着した状態において、切込み線5cの位置から複数の吸着パッド42を相対的に遠ざけることによって、シリンダ10の表面10aを構成するメッキ層5に対して剥離する方向の力を加えること。
【0035】
この除去方法によれば、シリンダ10からメッキ層5を除去する作業に起因して下地層2が傷付くことを十分に抑制できる。その理由は以下のとおりである。まず、(A)工程及び(B)工程においてカッター30を使用することで、シリンダ10の表面10aからバラード層3にまでカッター30の刃先31aが至るものの、下地層2には至らないように刃先31aの突出長さLを調節できる(図6参照)。これにより、カッター30によってメッキ層5に切込み線5cを形成する作業に起因して下地層2が傷付くことを十分に抑制できる(図4参照)。更に、(B)工程によってシリンダ10の長手方向に延びている切込み線5cを形成した後、(C)工程において切込み線5cの全体をきっかけとして複数の吸着パッド42によってメッキ層5を剥離する。切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を剥離することで、剥離中のメッキ層5が下地層2に当たることを十分に抑制でき、これにより、下地層2が傷付くことを十分に抑制できる(図7,8参照)。また、このように剥離によってシリンダ10からメッキ層5を除去することで、メッキ層5を切削によって除去する場合と比較して熱によるシリンダベース1の膨張変形を抑制できる。
【0036】
なお、図8に示す状態から、メッキ層5全体の剥離作業を完了するには、吸着パッド支持部45を図8に示す位置にとどめたまま、シリンダ10を矢印R方向に回転させてもよいし、シリンダ10が矢印R方向に回転しないように回転をロックした状態で、吸着パッド支持部45がシリンダ10から遠ざかりながら移動するようにしてもよい。また、シリンダ10を回転自在の状態としておき、その状態から吸着パッド支持部45を径方向(図8に示す矢印B方向)に遠ざけることによってメッキ層5全体を剥離してもよい。この場合、吸着パッド支持部45がシリンダ10の径方向に遠ざかるにしたがって、シリンダ10は矢印R方向に回転する。
【0037】
上記実施形態に係る除去装置100は、シリンダ10の側面10bに付着しているメッキ層を削るための刃物(不図示)を更に備えてもよい。あるいは、メッキ層5の剥離作業に先立って、側面10bに付着しているメッキ層を切削によって除去する工程を実施してもよい。切削によって除去するメッキ層をシリンダ10の側面10bに限定することで、切削によって生じる熱の影響(シリンダベース1の膨張変形)を最小限にとどめることができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、図5,6に示すカッター30によってメッキ層5に切込み線5cを入れる場合を例示したが、使用するカッターはカッター30に限定されるものではない。すなわち、カッターは、シリンダ10の表面10aと当接する当接面と、当接面からシリンダ10に向けて突出している刃先と、当接面からの刃先の突出長さを調節する突出長さ調節機構とを有していればよい。
【0039】
図9は、カッターの他の例を示す平面図である。同図に示すカッター50は、円盤状のディスク51の外周部に形成された刃先51aと(図10参照)、ディスク51を収容する開口53aを有するフレーム53と、フレーム53の外面であってシリンダ10に対する当接面を構成する外面53bと、フレームの外面に形成された切欠き部53cと、外面53bの切欠き部53cからの刃先51aの突出長さを調節する突出長さ調節機構とを有する。ディスク51は、外周部の全周にわたって刃先51aが形成されている。ディスク51は、支持板54にボルトBで固定されている。刃先51aの切れ味が低下したら、ボルトBを緩めた状態でディスク51を回転させ、再度、ボルトBを締めることで、刃先51aの切れ味が鋭い部分で切込み線5cを形成できる。つまり、ディスク51は長期にわたって使用できるという利点がある。なお、ディスク51の外周部の角度(図10(b)に示す角度θ)は30〜60°程度とすればよい。刃先51aの材質としては、超硬合金やハイス鋼などが挙げられる。
【0040】
カッター50において、調整ハンドル55と、ダイヤルポジションインジケータ56と、テーパーライナー57と、棒状部材58とによって突出長さ調節機構が構成されている。テーパーライナー57は、棒状部材58が挿入される貫通孔を有し、これらの当接部は互いに螺合している。調整ハンドル55を回転させることによって棒状部材58を介してテーパーライナー57が図9の左右方向に移動し、これに伴って支持板54が図9の上下方向に移動するように構成されている。調整ハンドル55として、例えば、ハンドルを1回転させることによってテーパーライナー57が左右方向に1/100mm移動するように構成されたものを使用できる。テーパーライナー57の先端面57aと支持板54の端面54aは、図9に示すように互いに当接しており、且つ、図9の左右方向に対して傾斜している。上記構成からなる突出長さ調節機構を採用することで、外面53bの切欠き部53cからの刃先51aの突出長さを調節することができる。すなわち、図9の左方向にテーパーライナー57を移動させることで、刃先51aの突出長さを長くすることができ、図9の右方向にテーパーライナー57を移動させることで、刃先51aの突出長さを短くすることができる。刃先51aの突出長さを調節することで、外面53bがシリンダ10の表面10aに当接した状態において、刃先51aがバラード層3まで至り且つ下地層2までは至らないようにすることができる。
【0041】
図9に示すとおり、フレーム53はスライドベアリング59を介して移動部材60に支持されている。移動部材60は、シリンダ10の長手方向に対して直交する方向に延びている棒状部材61と、棒状部材61の外側に巻かれたスプリングSと、スプリング圧調整ハンドル62とを有する。スプリングSは、外面53bをシリンダ10の表面10aに押し当てて密着させるとともに、切込み線5cを入れる作業等において生じ得る衝撃を緩和するためのものである。移動機構(不図示)によって移動部材60をシリンダ10の長手方向に移動させることで、シリンダ10に切込み線5cを入れることができる。
【0042】
上記実施形態においては、(C)工程において、切込み線5cの全体に沿って計7個の吸着パッド42を配置し、その後、切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を1回の作業で剥離する場合を例示したが、切込み線5cの全体をきっかけとして最終的にメッキ層5を剥離する限り、この作業を複数回に分けて実施してもよい。例えば、切込み線5cのうち、まず、シリンダ10の端部から長手方向の中心部までの部分に沿って3個の吸着パッド42を配置し、切込み線5cの半分のみをきっかけとしてメッキ層5を剥離し、その後、切込み線5cの残りの半分に沿って計3個の吸着パッド42を配置し、この切込み線5cの残りの半分をきっかけとしてメッキ層5を剥離することによって、最終的に切込み線5cの全体をきっかけとしてメッキ層5を剥離してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…シリンダベース、2…下地層、3…バラード層、5…メッキ層、5a…彫刻形成層、5b…保護層、5c…切込み線、10…グラビア印刷用シリンダ、10a…表面、20…シリンダ支持部、30,50…カッター、31…円柱状部材、31a,51a…刃先、31b…雄ネジ、33…円筒部材(筒状部材)、33a…端面(当接面)、33b…雌ネジ、40…メッキ層剥離機構、42…吸着パッド、51…ディスク、53…フレーム、53a…開口、53b…外面(当接面)、53c…切欠き部、55…調整ハンドル、56…ダイヤルポジションインジケータ、57…テーパーライナー、58…棒状部材、100…除去装置。
図1
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図6
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