特開2016-221991(P2016-221991A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2016221991-空気入りタイヤ 図000004
  • 特開2016221991-空気入りタイヤ 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-221991(P2016-221991A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/12 20060101AFI20161205BHJP
【FI】
   B60C19/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-107067(P2015-107067)
(22)【出願日】2015年5月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】城座 彩子
(57)【要約】
【課題】 走行中の遠心力により粘着性シーラントが流動するのを抑制し、それによってパンクシール性能を良好に維持すると共に、粘着性シーラントの偏在に起因する振動の発生等を回避するようにした空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】 タイヤ内表面Sのトレッド部1に対応する領域に毛状繊維11からなる植毛帯10を形成すると共に、該植毛帯10の形成領域に粘着性シーラント21からなるシーラント層20を配置し、毛状繊維11を粘着性シーラント21中に埋没させる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に毛状繊維からなる植毛帯を形成すると共に、該植毛帯の形成領域に粘着性シーラントからなるシーラント層を配置し、前記毛状繊維を前記粘着性シーラント中に埋没させたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記植毛帯の幅を前記トレッド部に埋設されたベルト層の最大幅よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記シーラント層の厚さが1mm〜5mmであり、前記毛状繊維の平均長さが1mm〜5mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記毛状繊維の繊維径が20μm〜100μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記毛状繊維の植毛密度が500本/cm2〜2000本/cm2であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性シーラントからなるシーラント層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、走行中の遠心力により粘着性シーラントが流動するのを抑制し、それによってパンクシール性能を良好に維持すると共に、粘着性シーラントの偏在に起因する振動の発生等を回避するようにした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
パンクシール性能を有する空気入りタイヤとして、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に粘着性シーラントからなるシーラント層を配置したものが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
このようなシーラント層を備えた空気入りタイヤにおいては、釘等の異物がトレッド部に突き刺さった際に、粘着性シーラントが異物に纏わり付き、その異物の脱落に伴って粘着性シーラントがパンク穴に導かれてシール効果を発揮する。そのため、粘着性シーラントはポリマーが架橋されていない流動性を有する粘着性組成物から構成されるのが一般的である。
【0004】
しかしながら、上述のような粘着性シーラントは走行中の遠心力によりトレッド部のセンター側に向かって流動する傾向があり、ショルダー側では粘着性シーラントが減少してしまうという問題がある。そして、走行中の遠心力により粘着性シーラントが上述の如く流動すると、トレッド部の全域にわたってパンクシール性能を良好に維持することが困難になるばかりでなく、粘着性シーラントの偏在によりタイヤ全体としてのバランスが悪くなって振動が発生する等の不都合を生じることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−262260号公報
【特許文献2】特開2004−345469号公報
【特許文献3】特開2011−37399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、走行中の遠心力により粘着性シーラントが流動するのを抑制し、それによってパンクシール性能を良好に維持すると共に、粘着性シーラントの偏在に起因する振動の発生等を回避するようにした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に毛状繊維からなる植毛帯を形成すると共に、該植毛帯の形成領域に粘着性シーラントからなるシーラント層を配置し、前記毛状繊維を前記粘着性シーラント中に埋没させたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に毛状繊維からなる植毛帯を形成すると共に、該植毛帯の形成領域に粘着性シーラントからなるシーラント層を配置し、毛状繊維を粘着性シーラント中に埋没させているので、走行中の遠心力により粘着性シーラントがトレッド部のショルダー側からセンター側に向かって流動するのを毛状繊維のアンカー効果に基づいて抑制することができる。その結果、均一な厚さに維持されたシーラント層に基づいてパンクシール性能を良好に維持することが可能になり、更には、粘着性シーラントの偏在に起因する振動の発生等を回避することが可能になる。
【0009】
本発明において、植毛帯の幅はトレッド部に埋設されたベルト層の最大幅よりも大きくすることが好ましい。植毛帯を十分に広く形成することにより、粘着性シーラントの流動を効果的に抑制することができる。
【0010】
シーラント層の厚さは1mm〜5mmであり、毛状繊維の平均長さは1mm〜5mmであることが好ましい。シーラント層の厚さを適正化することにより、パンクシール性能を良好に維持することができ、毛状繊維の平均長さを適正化することにより、粘着性シーラントの流動を効果的に抑制することができる。
【0011】
毛状繊維の繊維径は20μm〜100μmであることが好ましい。毛状繊維の繊維径を適正化することにより、粘着性シーラントの流動を効果的に抑制することができる。
【0012】
また、毛状繊維の植毛密度は500本/cm2〜2000本/cm2であることが好ましい。毛状繊維の植毛密度を適正化することにより、粘着性シーラントの流動を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
図2図1の空気入りタイヤの要部を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1及び図2は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。
【0015】
図1及び図2に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
【0016】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側に巻き上げられている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0017】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°〜40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。
【0018】
上記空気入りタイヤにおいて、タイヤ内表面Sのトレッド部1に対応する領域には毛状繊維11からなる植毛帯10が形成されている。植毛帯10はタイヤ周方向に沿って連続的に延在している。毛状繊維11はタイヤ内表面Sから突出するように接着剤を介してタイヤ内表面Sに対して密集状態で植毛されている。これら毛状繊維11はタイヤ加硫後にタイヤ内表面Sに対して植毛される。そして、植毛帯10の形成領域には粘着性シーラント21からなるシーラント層20が形成され、毛状繊維11が粘着性シーラント21中に埋没した状態になっている。毛状繊維11はその全体が粘着性シーラント21中に埋没した状態にあることが望ましいが、毛状繊維11の先端が粘着性シーラント21から突き出していても良い。
【0019】
上記空気入りタイヤでは、タイヤ内表面Sのトレッド部1に対応する領域に毛状繊維11からなる植毛帯10を形成すると共に、該植毛帯10の形成領域に粘着性シーラント21からなるシーラント層20を配置し、毛状繊維11を粘着性シーラント21中に埋没させているので、走行中の遠心力により粘着性シーラント21がトレッド部1のショルダー側からセンター側に向かって流動するのを毛状繊維11のアンカー効果に基づいて抑制することができる。このようにして粘着性シーラント21の流動を阻止することにより、トレッド部1の全域にわたって均一な厚さに維持されたシーラント層20に基づいてパンクシール性能を良好に維持することが可能になる。更に、粘着性シーラント21の流動を阻止することにより、粘着性シーラント21の偏在(即ち、タイヤ全体としての質量バランスの不良)に起因する振動の発生等を回避することができる。
【0020】
上記空気入りタイヤにおいては、植毛帯10の幅Wはトレッド部1に埋設されたベルト層7の最大幅WBよりも大きくすると良い。植毛帯10を十分に広く形成することにより、粘着性シーラント21の流動を効果的に抑制することができる。特に、植毛帯10の幅Wはベルト層7の最大幅WBの105%〜130%の範囲にするのが良い。
【0021】
シーラント層20の厚さは1mm〜5mmであると良い。シーラント層20の十分に厚くすることにより、優れたパンクシール性能を発揮することができる。シーラント層20の厚さが1mm未満であると良好なパンクシール性能を発揮することができず、逆に5mm超であると粘着性シーラント21の流動を阻止することが難しくなるため粘着性シーラント21の偏在に起因して高速走行時に振動が誘発し易くなる。上述したシーラント層20の厚さはタイヤセンター位置で測定される厚さであるが、シーラント層20の厚さはその両端部を除く全域において実質的に一定になっている。
【0022】
一方、毛状繊維11の平均長さは1mm〜5mmであると良い。毛状繊維11を十分に長くすることにより、粘着性シーラント21の流動を効果的に抑制することができる。毛状繊維11の平均長さが1mm未満であると粘着性シーラント21の流動を抑制する効果が低下し、逆に5mm超であると繊維同士が絡まり易くなるため加工性の観点から好ましくない。
【0023】
また、毛状繊維11の繊維径は20μm〜100μmであると良い。毛状繊維11の繊維径を上記範囲に設定することにより、粘着性シーラント21の流動防止効果と植毛帯10の加工性を同時に満足することができる。
【0024】
毛状繊維11の植毛密度は、500本/cm2〜2000本/cm2であると良い。毛状繊維11の植毛密度を高くすることで粘着性シーラント21の保持効果・流動防止効果を十分に発揮することができる。毛状繊維11の植毛密度が500本/cm2未満であると粘着性シーラント21の保持効果・流動防止効果が得られ難くなる。また、毛状繊維11の植毛密度を2000本/cm2超とすることは製造上の観点から困難である。
【0025】
毛状繊維11としては、ナイロン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維等の有機繊維からなる短繊維を使用することができる。
【0026】
毛状繊維11の植毛に際しては、毛状繊維11を植毛すべき部位に事前に接着剤を塗布し、その接着剤からなる接着層に対して毛状繊維11を植毛するようにすれば良い。植毛方法は特に限定されるものではないが、静電気植毛加工やファイバーコーティング等の手法を採用することができる。
【0027】
粘着性シーラント21としては、任意の粘着性組成物を使用することができる。粘着性シーラント21はJIS K2207に規定された針入度が30〜100であることが好ましい。このような粘着性シーラント21としては、例えば、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム等を例示することができる。
【実施例】
【0028】
タイヤサイズが195/65R15である空気入りタイヤにおいて、タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に毛状繊維からなる植毛帯を形成すると共に、該植毛帯の形成領域に粘着性シーラントからなるシーラント層を配置し、毛状繊維を粘着性シーラント中に埋没させると共に、シーラント層の厚さ、毛状繊維の平均長さ、毛状繊維の繊維径、毛状繊維の植毛密度を表1のように設定した実施例1〜5のタイヤを製作した。植毛帯を構成する毛状繊維としては、ナイロン短繊維を使用した。
【0029】
タイヤ内表面のトレッド部に対応する領域に毛状繊維からなる植毛帯を設けずに粘着性シーラントからなるシーラント層を配置したこと以外は実施例1〜5と同様の構造を有する従来例1のタイヤを用意した。
【0030】
これら試験タイヤについて、下記の測定方法により、シーラント層の幅変化量及び厚さ変化量を測定し、その結果を表1に併せて示した。
【0031】
シーラント層の幅変化量及び厚さ変化量:
各試験タイヤをリムサイズ15×6JJのホイールに組み付けてドラム試験機に装着し、空気圧200kPa、荷重4.34kN、時速80km/hの条件にて、試験走行を80時間連続で実施した後、シーラント層の幅とシーラント層のタイヤセンター位置での厚さを測定した。シーラント層の幅変化量については、走行前の幅に対する走行後の幅の変化量を求めた。シーラント層の厚さ変化量については、走行前の厚さに対する走行後の厚さの変化量を求めた。いずれも、プラス値は走行後に幅又は厚さが増加したことを意味し、マイナス値は走行後に幅又は厚さが減少したことを意味する。
【0032】
【表1】
【0033】
表1から判るように、実施例1〜5のタイヤは、従来例1との対比において、走行中の遠心力により粘着性シーラントが流動するのを効果的に抑制することができた。つまり、実施例1〜5によれば、走行試験の前後において、パンクシール性能を良好に維持することが可能であり、粘着性シーラントの偏在に起因する振動の発生等を回避することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
10 植毛帯
11 毛状繊維
21 粘着性シーラント
22 シーラント層
図1
図2