【解決手段】航空機のフラップ3は、母翼2に対して展開可能に設けられるフラップ本体8と、フラップ本体8のスパン方向D2の少なくとも外舷側OTBの端部40における上面301に突設されていて、航空機の機軸方向D1に対して傾斜する傾斜部5と、少なくとも外舷側の端部40における下面302から滑らかに突出する突出部7とを備えている。傾斜部5の前端51を通り機軸方向D1と平行な仮想線よりも、傾斜部5の後端52が、フラップ本体8のスパン方向D2の端部40における側端縁301Aに近接する側に位置している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図1に示す第1実施形態の航空機の主翼1の後縁1Aには、フラップ3が備えられている。
主翼1は、フラップ3が展開可能に設けられる母翼2と、フラップ3とを備えている。
フラップ3は、離着陸時等の低速飛行時に、
図1に示すように母翼2から展開されることで高揚力を発生させる。
フラップ3には、主翼1の翼端1B側に位置するアウトボードフラップ31と、主翼1が設けられる胴体4側に位置するインボードフラップ32とがある。これらアウトボードフラップ31およびインボードフラップ32をフラップ3と総称する。
アウトボードフラップ31およびインボードフラップ32は、同時に展開され、同時に収納される。アウトボードフラップ31とインボードフラップ32との間の隙間S1は、ラバーシールにより封止される。
【0014】
以下では、胴体4に設定された軸線(一点鎖線)に沿った方向のことを機軸方向D1と定義する。機軸方向D1において航空機の機首41側を「前」、尾翼側を「後」というものとする。
また、胴体4の左側および右側のそれぞれにおいて、主翼1のスパン方向における胴体4側を内舷側、その反対側を外舷側というものとする。
さらに、主翼1の負圧面である上面側を「上」、主翼1の正圧面である下面側を「下」というものとする。
なお、図において、「前」を「FWD」、「後」を「AFT」、「上」を「UPR」、「下」を「LWR」、「内舷側」を「INB」、「外舷側」を「OTB」で表すものとする。
【0015】
フラップ3は、航空機の高速での巡航時には、
図2(a)に示すように母翼2に用意された収納部21内に収納されている。そのときフラップ3は母翼2と一体化されており、主翼1の後縁1Aを構成している。収納時にフラップ3の下面302は母翼2の下方に全体的に露出している。
フラップ3は、図示しないアクチュエータにより駆動されることで、後方かつ下方に向けて展開される。このときフラップ3は、図示しないレールによりガイドされる。
図2(b)は、着陸時のフラップ位置にまでフラップ3が展開された状態を示している。このときフラップ3の全体が母翼2から露出しているので主翼1の面積が拡大される。フラップ3の前縁3Aと母翼2の後縁2Aとの間には間隙S2があいている。
【0016】
フラップ3の展開時には、
図2(b)に一点鎖線で示すように、主翼1の下面102側からの気流Fが間隙S2により絞られて、フラップ3の上面301側へと速い速度で流入する。そのことと、フラップ3に迎角が与えられていることにより、フラップ3の上面301側と下面302側との流速差が大きい。そのため、流速差に対応する大きな圧力差が得られるので、高揚力の発生に寄与することができる。
【0017】
フラップ3は、
図1に示すように、展開された状態のとき気流に置かれる翼端40を有している。翼端40は、アウトボードフラップ31の外舷側OTBの端部に該当する。この翼端40では、上述の圧力差によりフラップ3の下面302側から上面301側へと回り込む気流によって翼端渦40Vが生じる。
【0018】
フラップ3の基本形態を示す
図3を参照し、翼端渦40Vについて説明する。
図3に示すように、翼端40の前縁3Aで発生した渦は、フラップ3の上面301側と下面302側とに進路をとる。上側の渦41Vと、下側の渦42Vとは、それぞれ、下面302側から上面301側へと向かう向きで螺旋を描きつつ後方へと流れる。そして、次第に上方へと進む下側の渦42Vと、上側の渦41Vとが合流する。上側の渦41V、下側の渦42V、およびそれらが合流した後の渦43Vを翼端渦40Vと総称する。
【0019】
本実施形態では、インボードフラップ32(
図1)の内舷側INBの端部は胴体4に近接しており、インボードフラップ32とアウトボードフラップ31との間の隙間S1はシールで塞がれている。そのため、インボードフラップ32の両端部およびアウトボードフラップの内舷側INBの端部では翼端渦が生じないか、生じたとしても軽微である。
【0020】
フラップ3の翼端40で生じる翼端渦40Vを形成する気流の圧力は、時間的および空間的に変動しており、その圧力変動が周囲へと拡散されることで騒音が発生する。
フラップ3が途中まで展開される離陸時と比べて、フラップ3が全体的に露出するように最後まで展開される着陸時は(
図2(b))、上面301と下面302との流速差に起因する圧力差が大きくなることで、より大きな騒音が発生する。しかも、着陸時には、騒音を発生するエンジンの出力が低いので、フラップ3の翼端40からの騒音が顕在化する。
【0021】
着陸時の翼端渦40Vに起因する騒音を低減するため、フラップ3は、
図4および
図5に示すように、騒音低減デバイスとしての傾斜部5を上面301の翼端40に備えている。
さらに、本実施形態のフラップ3は、別の騒音デバイスである突出部7をも備えている。
フラップ3は、傾斜部5と、突出部7と、傾斜部5および突出部7が設けられるフラップ本体8とを備えている。フラップ3の各構成要素は、金属や繊維強化樹脂等の適宜な材料を用いて形成することができる。
【0022】
フラップ本体8は、具体的な図示を省略するが、機軸方向D1に沿って配置される複数のリブと、各リブの前端を連結する前スパーと、各リブの後端を連結する後スパーと、上スキンおよび下スキンを備えたボックス構造となっている。
フラップ本体8は、機軸方向D1の寸法よりも主翼1のスパン方向の寸法が長い形状で、横断面が翼形に形成されている。フラップ本体8の両端部にはそれぞれ、エンドリブ80が配置されている。エンドリブ80によってフラップ本体8の端面81が形成されている。フラップ3の収納時、端面81には、母翼2の収納部21に形成された内壁21Aが対向する。本実施形態のアウトボードフラップ31の外舷側OTBの端面81は、機軸方向D1に対して傾斜しているが、機軸方向D1と平行に形成されていてもよい。
【0023】
2つの騒音低減デバイスのうち、まず、翼端渦40Vに干渉する渦を発生させることで騒音低減を図る傾斜部5の構成について説明する。傾斜部5は、フラップ本体8の翼端40に、上面301から面外方向に突出するように設けられていて、機軸方向D1に対して傾斜している。傾斜部5の傾斜角度θ(
図5)は、一例として、約20°である。
本実施形態のフラップ3は、複数の傾斜部5を備えている。いずれの傾斜部5も機軸方向D1に対して同じ向きに傾斜し、所定の長さだけ延びている。
それらの傾斜部5は、フラップ3のスパン方向D2(翼幅)に所定の間隔をおいて配列されている。
傾斜部5は、必ずしも等しい間隔をおいて配列されている必要がない。
また、各傾斜部5は、必ずしも同じ高さや同じ傾斜角度、同じ長さでなくてもよい。
複数の傾斜部5のコード方向D3(
図5)における位置は統一されていなくてもよい。例えば、スパン方向D2に間隔をおきつつ、前後互い違いに位置をずらしながら複数の傾斜部5を配置することができる。
また、複数の列をなすように傾斜部5を配置することもできる。例えば、フラップ3の前縁3Aの付近に1列目の傾斜部5を配置し、それらの傾斜部5よりも後方に2列目の傾斜部5を配置することができる。
【0024】
図4および
図5に示すように、傾斜部5は、前方に位置する前端51と、後方に位置する後端52とを有している。
前端51は、フラップ本体8の前縁3Aの近傍に配置されている。
そして、前端51を通り機軸方向D1と平行な仮想線VL(
図5)を設定すると、この仮想線VLよりも、フラップ本体8の上面301の側端縁301Aに近接する側に後端52が位置している。
つまり、傾斜部5は、前端51から後端52に向かうにつれて上面301の側端縁301Aに近づくように、機軸方向D1に対して傾斜している。
【0025】
本実施形態の傾斜部5は、前端51から後端52まで延びる長さの全体に亘り、断面矩形状に形成されている突条である。これに限らず、傾斜部5の形態を適宜に定めることができる。例えば、スパン方向D2から見たとき三角状に形成されている傾斜部や、スパン方向D2から見たとき半円状に形成されている傾斜部を採用することができる。
【0026】
図4に示すようにフラップ3が着陸時の位置まで展開されているとき、傾斜部5は全長に亘り母翼2から露出している。
一方、巡航時には、
図6に示すように、傾斜部5の後端52が母翼2の後縁2Aよりも前方に位置しており、傾斜部5の全体が母翼2に隠れている。
傾斜部5はフラップ3が展開されているときに気流に曝され、騒音低減効果を発揮する。
【0027】
母翼2に隠れているとき、傾斜部5は、フラップ3の上面301と、母翼2に用意された収納部21の壁21Bとの間のスペースS3内に配置されている。
フラップ3が所定の離陸時の位置まで展開されているとき、傾斜部5は母翼2から露出していても、スペースS3内に配置されていてもよい。
フラップ3が展開されているとき、母翼2とフラップ3との間に母翼2の下面側からの気流が通り抜けるスロットが形成されているので、傾斜部5は、母翼2から露出していなくても、そのスロットを通る気流に曝されることで、騒音低減効果を発揮する。
傾斜部5は、スペースS3内に収容されるように、所定の高さに形成されている。
傾斜部5の上端と収納部21の壁21Bとの間には、所定のクリアランスが設定されている。それによって傾斜部5が母翼や周囲の部材(スポイラ等)に干渉することを避けることができる。
【0028】
傾斜部5の上面301からの高さは、後述するように翼端渦40Vに干渉する渦5V(
図9)を発生させる必要から、傾斜部5の設置されるフラップ本体8の表面に生じる境界層の厚さの2倍以上とするのが好ましい。傾斜部5の上面301からの高さは、母翼2等と干渉しない限りにおいて、適宜に定めることができる。
傾斜部5の長さと高さとの関係は、長さをL、高さをhとすると、L/h>1であることが好ましい。より好ましくは、L/hが3〜10である。L/hが小さ過ぎると、発生する渦5Vが弱くなるので、渦5Vを翼端渦40Vに干渉させることによって得られる騒音低減効果が小さくなる。また、L/hが大き過ぎると、発生する渦5Vが強くなり過ぎて新たな音源となったり、空力性能が低下する。
【0029】
傾斜部5の機軸方向D1に対する傾斜角度θ(
図5)は、翼端渦40Vに干渉する適切な渦5Vを発生させることができる限りにおいて、適宜に定めることができる。
好ましい傾斜部5の傾斜角度θは、10°〜30°である。傾斜角度θが前述の角度範囲よりも小さいと、発生する渦5Vが弱くなるので、渦5Vを翼端渦40Vに干渉させることによって得られる騒音低減効果が小さくなる。また、傾斜角度θが前述の角度範囲よりも大きいと、発生する渦5Vが強くなり過ぎて新たな音源となったり、空力性能が低下する。
後述する風洞試験において優れた騒音低減効果が確認された最適な傾斜角度θは20°である。
【0030】
隣り合う傾斜部5の間の間隔(ピッチ)P(
図5)は、適宜に定めることができるが、好ましくは、高さhに対する比率(P/h)として、2〜10(2以上、10以下)である。その範囲の間隔であれば、隣り合う傾斜部5がそれぞれ発生させた渦5V同士の干渉を抑制しつつ、それらの渦5Vを翼端渦40Vに連続的に十分に干渉させることができる。
一方、P/hが2より小さいと、隣接する傾斜部5がそれぞれ発生する渦5V同士が干渉し、渦5Vのエネルギーが分散し、渦5Vを翼端渦40Vに十分に干渉させることが難しくなる。また、P/hが10より大きいと、各渦5Vと翼端渦40Vとの干渉が断続的となるので、騒音低減を十分に図ることが難しい。
【0031】
フラップ本体8には、適宜な数の傾斜部5を設けることができる。必ずしも複数の傾斜部5を設ける必要はなく、傾斜部5を1つだけフラップ本体8に設けることもできる。
【0032】
傾斜部5は、フラップ本体8の製造時にフラップ本体8と一体に形成することもできるし、フラップ本体8とは別に製作した傾斜部5をフラップ本体8の上面301に接着、締結等の適宜な方法で接合することもできる。
【0033】
フラップ3のコード(翼弦)方向D3(
図5)において、傾斜部5は、後述する下側翼端渦42Vが上方に向かい、上側翼端渦41Vに合流するコード方向D3の位置Ps(
図8(c))よりも前に位置していることが好ましい。そのため、コード方向D3において、傾斜部5の前端51が、フラップ本体8の前縁3Aからフラップ本体8のコード長CL(翼弦長)の0%〜60%の範囲に位置している状態が好ましい。
本実施形態の傾斜部5の前端51は、コード方向D3において、前縁3Aからフラップ本体8のコード長CLの約10%だけ離れている。
【0034】
また、傾斜部5は、隣に位置する側端縁301Aの位置から、スパン方向D2においてコード長CLだけ離れた位置までの領域R(
図5)内に配置されることが好ましい。領域Rに亘り翼端渦40Vによる気流の圧力変動が顕著に大きいので、そこに傾斜部5を配置することにより、翼端渦40Vに起因する騒音を確実に低減することができる。
本実施形態のように複数の傾斜部5を備える場合は、傾斜部5の配列方向(スパン方向D2)において側端縁301Aに最も近い先頭の傾斜部5を側端縁301Aのすぐそばに配置し、その傾斜部5から所定のピッチPをおいて傾斜部5を並べるとよい。
【0035】
次に、別の騒音デバイスである突出部7の構成について説明する。
図7(a)および(b)に示すように、突出部7は、フラップ本体8の翼端40における下面302に、下面302から面外方向に滑らかに突出するように設けられている。なお、
図7(a)で傾斜部5の図示が省略されている。
突出部7は、母翼2から常時露出する下面302に設けられており、着陸時のみならず、離陸時にも騒音低減効果を発揮する。
軽量化のため、突出部7を中空に形成して内部には芯材を配置することが好ましい。
【0036】
突出部7は、
図7(b)に示すように、翼端40の前縁3Aから後縁3Bまで延在しており、前縁3A側から突出部7の長さ方向の中間側に向かって、フラップ本体8からの突出量が滑らかに増加し、その後、後縁3Bに向かって、フラップ本体8からの突出量が滑らかに減少するように、流線形に形成されている。突出部7の長さ方向の中央部7Aは後端側の部分7Bよりも大きく突出している、
【0037】
突出部7は、
図7(a)に示すように、スパン方向D2においても滑らかに突出している。突出部7は、スパン方向D2の端部71から突出部7の幅方向の中間側に向かって、フラップ本体8から滑らかに突出量が増加し、その後滑らかに突出量が減少するように形成されている。
突出部7の中央部7Aは、前方から見たとき半円状を呈している。そして、
図7(b)に示すように、突出部7の幅は中央部7Aから後方にいくにつれて次第に狭まっている。
【0038】
下面302から突出部7が立ち上がる部分は、
図7(b)に示すように、下面302の側端縁302Aに沿った直線L1と、側端縁302Aの前端と後端とを結ぶ湾曲線L2とによって外形が定められている。湾曲線L2は、側端縁302Aに対して内舷側INBに凸である。
【0039】
以下、本実施形態のフラップ3による騒音低減効果について説明する。
騒音を低減するためには、フラップ3に入力される圧力変動を小さくする必要がある。そのためには、翼端渦40Vの圧力変動を小さくすることと、フラップ本体8の表面から翼端渦40Vを遠ざけることが重要である。
【0040】
まず、突出部7の作用について説明する。
図8(a)に示すフラップ本体8単体の場合では、下面302から上面301へと回り込む翼端渦40Vの経路に、下面302と端面81とがなす角部82が存在する。この角部82で気流が転向されることにより翼端渦40Vの圧力が急激に変化する。
それに対して、
図8(b)に示すように、下面302の側端縁302Aから内舷側INBに滑らかな突出部7が設けられていると、下面302からの気流が突出部7を介してスムーズに上面301側へと流れるので、翼端渦40Vの圧力変動が小さい。
しかも、突出部7により、下面302からの気流がフラップ本体8の端面81から離れる向きへとガイドされる。
【0041】
さらに、翼端渦40の気流が下面302から突出部7を介してスムーズに上面301側へと流れることにより、
図8(c)に示すように、フラップ本体8の前縁3Aから下面302側へと進んだ渦42Vが上面301側の渦41Vと早期に合流する。そうすると、渦42Vの進路が
図3に示す場合に対して短縮された分だけ、渦42Vの圧力変動が入力されるフラップ本体8の領域が狭くなる。渦42Vの進路から外れたフラップ本体8の部位からは渦42Vが遠ざかることとなる。
以上より、突出部7によれば、フラップ3の表面を流れる気流の圧力変動が小さくなるので、フラップ3表面の圧力変動が減り、騒音を低減することができる。
【0042】
本実施形態の突出部7の高さおよび幅は、コード方向D3(
図7(b))において変化するフラップ本体8の厚みに対応して変化している。圧力変動を低減するため、フラップ本体8が厚いコード方向D3位置では突出部7の高さおよび幅が大きく、フラップ本体8が薄いコード方向D3位置では突出部7の高さおよび幅が小さい。
突出部7の形状は、本実施形態には限らず、圧力変動の低減を考慮して適宜に定めることができる。
【0043】
次に、傾斜部5の作用について説明する。
傾斜部5は、翼端渦40Vに干渉する渦5Vを発生させる。
図9には、前方から後方に向けてフラップ本体8へと流入する気流F1を直線の矢印で示している。この気流F1は機軸方向D1に平行であり、気流F1に対して傾斜部5が傾斜している。気流F1が傾斜部5に流入し、傾斜部5により転向されることで、曲線の矢印で示す渦5Vが矢印の回転向きに発生する。
図9のように後方から見ると、渦5Vの向きは左回り(反時計回り)の矢印で表される。渦5Vは、右ねじの向きで螺旋状に回転しながら後方へと流れていく(
図10)。この渦5Vの回転の向きは、翼端40で下面302から上面301へと回り込む向きに生じる翼端渦40Vの回転の向きと同様である。発生した渦5Vは、傾斜部5に倣い、後方へと進むにつれて側端縁301A側へと移動する(破線矢印参照)。
渦5Vは、翼端40の上面301に配列された傾斜部5の各々から発生する。
図9には、一つの傾斜部5により発生した渦5Vを代表して示している。他の傾斜部5によってもこれと同様の渦5Vが発生する。
図11(a)や
図16でも同様である。
傾斜部5の各々から発生して側端縁301A側へと移動した渦5Vは、上側翼端渦41Vに干渉する。干渉により上側翼端渦41Vのエネルギが弱まる。弱められた上側翼端渦41V(−)は、同様の向きに回転する渦5Vに巻き込まれる。
【0044】
上側翼端渦41Vを巻き込んだ渦5Vは、
図10(a)に示すように、さらに下側翼端渦42Vをも巻き込んで後方へと流れる。
図10(a)および(b)には、仮に、上側翼端渦41Vが渦5Vにより干渉されないとした場合に、上側翼端渦41Vおよび下側翼端渦42Vが合流して流れる進路F2を一点鎖線の矢印で示している。その進路F2がフラップ本体8の上面301にほぼ沿っているのに対して、渦5Vの進路はフラップ本体8の上面301から離れている(
図10(b))。つまり、上側翼端渦41Vおよび下側翼端渦42Vは、渦5Vにより巻き込まれつつ当初の進路F2から引き上げられるので、フラップ本体8の上面301から遠ざかる。
【0045】
以上のように、傾斜部5により発生させた渦5Vを干渉させることで上側翼端渦41Vを弱め、上側翼端渦41Vおよびそれに合流した下側翼端渦42Vを渦5Vに巻き込むことで、翼端渦40がフラップ3の表面から遠ざけられる。そうすると、フラップ3の表面を流れる気流の圧力変動が小さくなるので、フラップ3の圧力変動が減り、騒音を低減することができる。
【0046】
上述したように、本実施形態の傾斜部5は、フラップ3の上面301において上側翼端渦41Vと下側翼端渦42Vとの合流位置Ps(
図8(c))よりも前であって、フラップ3の前縁3Aの近くに位置しており、傾斜部5により発生した渦5Vは、上側翼端渦41Vに対して、フラップ3の前縁3Aにおける発生からの早い段階で干渉する。渦5Vによる干渉によって上側翼端渦41Vはフラップ3の表面から離れて渦5Vに巻き込まれる。その渦流に下側翼端渦42Vが合流する。
傾斜部5が前縁3Aの近くに配置されていると、渦5Vによる干渉によって翼端渦41Vがフラップ3の表面から早期に離れることとなるので、その分、フラップ3の表面に入力される圧力変動がより一層減少し、騒音をさらに低減することができる。
【0047】
本実施形態によれば、フラップ本体8に傾斜部5を設けるだけで、低騒音化が特に求められる着陸時の騒音を低減することができる。傾斜部5はフラップ3の上面301の僅かな領域を占める小片であって軽量なので、フラップ3の重量を殆ど増加させない。
また、傾斜部5は、フラップ3の収納時には母翼2に隠れているため、巡航時の空力性能に影響しない。
もっとも、傾斜部5の一部または全体が、離陸時に母翼2から露出するコード方向D3における位置にあってもよい。その場合にも、気流に傾斜部5が与える影響は小さく、離陸時の騒音を傾斜部5の作用により低減でき、離陸時における所定の空力性能を実現することができる。
【0048】
以下、傾斜部5の傾斜の向きについて説明する。
図11(a)は、本実施形態の傾斜部5を示し、
図11(b)は、
図11(a)の傾斜部5とは逆向きに傾斜している傾斜部15を示している。
図11(b)に示す傾斜部15は、前端151から後端152に向かうにつれて上面301の側端縁301Aから離れるように、機軸方向D1に対して傾斜している。
前端151を通り機軸方向D1と平行な仮想線VLを設定すると、傾斜部15の後端152は、仮想線VLよりも側端縁301Aから離れる側に位置している。
【0049】
機軸方向D1と平行に気流F1が傾斜部15に流入し、傾斜部15により転向されることで、曲線の矢印で示す渦15Vが矢印の回転向き(時計回り)に発生する。渦15Vは、
図11(a)の傾斜部5により発生する渦5Vとは逆に、左ねじの向きで螺旋状に回転しながら、傾斜部15に倣いつつ後方へと流れていく(破線矢印参照)。この渦15Vは、翼端40で下面302から上面301へと回り込む向きに生じる翼端渦40Vとは回転の向きが逆である。
【0050】
傾斜部15から発生した渦15Vは、傾斜部15に倣い、側端縁301Aから離れていくので、上側翼端渦41Vに対して十分には干渉しない。そのため、上側翼端渦41Vはそのエネルギを維持する。
しかも、渦15Vと翼端渦40Vとは回転の向きが逆なので、渦15Vは、翼端渦40Vを巻き込むことなく、フラップ本体8の上面301へと押し付ける。それによって翼端渦40Vがフラップ本体8の上面301に保持される。
【0051】
以上より、本実施形態の傾斜部5とは逆向きに傾斜した傾斜部15により、翼端渦40Vとは逆向きの渦15Vが発生すると、翼端渦40Vによりフラップ3に入力される圧力変動が増大するので、騒音が助長されてしまう。傾斜部15によりフラップ3の上面301の渦の強さが増大することは、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics;CFD)シミュレーションによって確認されている。
【0052】
航空機の全機模型を用いた風洞試験結果を用いて評価した騒音低減効果について説明する。
図12に、傾斜部5および突出部7を備えた第1実施形態のフラップ3について確認された音圧レベル(SPL;Sound Pressure Level)を三角(△)でプロットしている。また、傾斜部5を備えず、突出部7を備えたフラップについて確認された音圧レベルを四角(□)でプロットしている。比較のため、何ら騒音低減デバイスを備えていない基本形態のフラップ(
図3)について確認された音圧レベルを太線で示している。
図12より、基本形態のフラップ(フラップ本体8)に突出部7を設けると、フラップ騒音のピーク周波数を含む帯域に亘り、騒音低減効果を得ることができる。
そして、突出部7に加え傾斜部5を設けると、より一層の騒音低減効果を得ることができる。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、
図13を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。
第2実施形態に係るフラップ6は、上述の突出部7を翼端40に備えていない代わりに、
図13(a)および(b)に示すように、翼端40の下面302側が滑らかに形成されている。フラップ6は、騒音低減デバイスとして、傾斜部5(
図13(a))を備えている。
図13(b)では傾斜部5の図示を省略する。
フラップ6の翼端40の下面302側に、下面302と端面81とがなす角が丸められることで滑らかに形成されたラウンド部61が存在していると、
図8(a)〜(c)を参照して説明した突出部7による作用と同様の作用が得られる。
つまり、翼端40の下面302からの気流がラウンド部61を介してスムーズに上面301側へと流れるので、翼端渦40Vの圧力変動が小さい。
しかも、ラウンド部61により、下面302からの気流が、端面81から離れる向きへとガイドされる(
図13(b)の矢印参照)。
さらに、気流が下面302からラウンド部61を介してスムーズに上面301側へと流れることにより、
図8(c)に示すのと同様に、下側翼端渦42Vが上側翼端渦41Vと早期に合流するので、下側翼端渦42Vの圧力変動が入力されるフラップ6の領域が狭くなる。
以上より、ラウンド部61によれば、フラップ6の表面を流れる気流の圧力変動が小さくなるので、フラップ6表面の圧力変動が減り、騒音を低減することができる。
【0054】
ラウンド部61が備えられた第2実施形態のフラップ6に、さらに、第1実施形態の突出部7が備えられていてもよい。その場合は、ラウンド部61および突出部7により、フラップ6表面の圧力変動を減らし、騒音を低減することができる。
【0055】
上述した傾斜部5の設置形態の一例を示す。
図14は、傾斜部5をフラップ本体8の上面301にファスナ87を用いて設置する例を示している。
傾斜部5は、ファスナ87が挿入される複数の孔531〜534が形成された台座53と、台座53から起立する突起54とを備えている。台座53は、突起54の両側に略対称に形成されている。
傾斜部5は、ファスナ87によりフラップ本体8に締結される。
ファスナ87として、リベットやボルトを採用することができる。
【0056】
フラップ本体8は、翼端40の上面301から突出していて傾斜部5を設置可能な設置部85を備えている。設置部85は、複数の傾斜部5と同じ数だけ、傾斜部5の各々に対応する位置に配置されている。台座53が配置されるフラップ本体8上の領域を二点鎖線で示している。
各設置部85は、フラップ本体8の前縁3Aの近傍に配置されてファスナ87が挿入される複数のファスナ挿入部851〜854を有している。
ファスナ挿入部851,852は、傾斜部5の台座53の一方側に対応しており、それらのうちファスナ挿入部851は前方に位置し、ファスナ挿入部852は後方に位置している。そして、ファスナ挿入部852は、ファスナ挿入部851を通り機軸方向D1と平行な仮想線VLよりも、側端縁301Aに近接する側に位置している。
傾斜部5の台座53の他方側に対応しているファスナ挿入部853,854の位置関係も上記と同様である。
【0057】
傾斜部5を備えていない既存のフラップにも、設置部85を設け、傾斜部5の台座53とフラップとをファスナ87により締結することにより、傾斜部5を装備することができる。
ファスナ87にボルトを用いると、傾斜部5をフラップ本体8に着脱可能に設けることができるので、交換、修理等のメンテナンス性が向上する。
傾斜部5を締結するため、より多くの数のファスナ87を用いることもできる。
【0058】
〔第3実施形態〕
図15および
図16を参照し、本発明の第3実施形態について説明する。
第3実施形態では、
図15に示すように、アウトボードフラップ31の外舷側OTBの端部に加えて、内舷側INBの端部にも傾斜部5が設けられている。
そして、アウトボードフラップ31の外舷側OTBの端部と、内舷側INBの端部とのそれぞれにおいて、各フラップの下面302から滑らかに突出する突出部7(
図7)が設けられている。
また、インボードフラップ32の外舷側OTBの端部に、傾斜部5が設けられている。その傾斜部5の裏面側、つまりインボードフラップ32の外舷側OTBの端部の下面302にも、滑らかに突出する突出部7(
図7)が設けられている。
図15および
図16において、突出部7の図示を省略する。
【0059】
図15では、アウトボードフラップ31およびインボードフラップ32のいずれも展開されている。しかし、本実施形態では、アウトボードフラップ31およびインボードフラップ32が異なるタイミングで展開される場合がある。
図15に、収納されている状態のアウトボードフラップ31およびインボードフラップ32をそれぞれ二点鎖線で示している。
図15(b)に、アウトボードフラップ31が展開され、インボードフラップ32が収納されている状態を示す。このとき、アウトボードフラップ31の傾斜部5が機能する。
図示を省略するが、インボードフラップ32が展開され、アウトボードフラップ31が収納されている状態のとき、インボードフラップ32の傾斜部5が露出し、機能する。
【0060】
アウトボードフラップ31およびインボードフラップ32のうち、アウトボードフラップ31だけが展開されているとき、アウトボードフラップ31の内舷側INBの端部が、気流中で突出し、翼端渦を発生させる翼端に該当する。
また、インボードフラップ32だけが展開されているとき、インボードフラップ32の外舷側OTBの端部も、気流中で突出し、翼端渦40Vを発生させる翼端に該当する。
そこで、それらの翼端にも傾斜部5を配置し、その翼端で生ずる翼端渦に起因する騒音を低減することが好ましい。
【0061】
インボードフラップ32の外舷側OTBの端部では、アウトボードフラップ31の外舷側OTBの端部(
図8の翼端40)と同様の向きに翼端渦40Vが生じる。そのため、その翼端渦40Vに干渉させる渦5Vを発生させる傾斜部5の傾斜の向きは、アウトボードフラップ31の外舷側OTBの端部に位置する傾斜部5の傾斜の向きと同様である。インボードフラップ32の外舷側OTBに位置する傾斜部5により、第1実施形態で説明したアウトボードフラップ31の外舷側OTBに位置する傾斜部5と同様の作用効果が得られるため、それについての説明は省略する。
【0062】
図16(a)に示すように、アウトボードフラップ31の内舷側の端部40INBでは、
図16(b)に示す外舷側の端部40OTBで生じる翼端渦40VOTBとは逆向きの翼端渦40VINBが生じる。
そのため、その翼端渦40VINBに干渉させることのできる渦の向きも、外舷側の傾斜部5OTBが発生する渦5VOTBの向きとは逆となるから、端部40INBの傾斜部5INBは、外舷側の傾斜部5OTBとは逆向きの傾斜角度で配置される。
但し、外舷側の傾斜部5OTBも内舷側の傾斜部5INBも、仮想線VLを基準とすれば同様の向きに傾斜している。つまり、内舷側の傾斜部5INBの前端51を通り機軸方向D1と平行な仮想線VLよりも、内舷側の傾斜部5INBの後端52は端部40INBの側端縁301Aに近接する側に位置している。
内舷側の端部40INBに位置する傾斜部5INBが発生する渦5VINBの働きにより、翼端渦40VINBを弱め、かつフラップ本体8の表面から遠ざけることができるので、翼端渦40VINBに起因する騒音を低減することができる。
【0063】
図17(a)および(b)はそれぞれ、本発明の変形例を示す。
上述したアウトボードフラップ31およびインボードフラップ32は、互いに隣接して配置されているが、
図17(a)に示すように、所定の間隔S4をおいて配置されていてもよい。アウトボードフラップ31とインボードフラップ32との間に他の部材が配置されていてもよい。
また、本発明において、航空機に備えられるフラップの数に制約はなく、右舷および左舷のそれぞれに、
図17(b)に示すように3つのフラップ31,32,33が配置されていてもよい。
図17(a)および
図17(b)に示す各構成では、全部のフラップ3について、少なくとも外舷側の翼端の上面に傾斜部5が突設されているとともに、少なくとも外舷側の翼端40における下面から、上述した突出部7(図示省略)が滑らかに突出している。
なお、航空機に備えられた複数のフラップのうちの一部についてのみ、傾斜部5および突出部7を設けることもできる。
突出部7に代えて、あるいは、突出部7と併せて、ラウンド部61(
図13)を設けることも可能である。
【0064】
上記以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
本発明は、スローテッドフラップやファウラーフラップ等の適宜な形式のフラップに適用することができる。