特開2016-222049(P2016-222049A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222049(P2016-222049A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】始動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20161205BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20161205BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20161205BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20161205BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20161205BHJP
   F02N 11/04 20060101ALI20161205BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20161205BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20161205BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   B60K6/20 360
   B60K6/442ZHV
   B60K6/547
   B60K6/20 310
   F02N11/04 D
   B60W10/00 102
   B60W10/02
   B60W10/06
   F16D25/14 640S
   B60L11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-108608(P2015-108608)
(22)【出願日】2015年5月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】西中村 和寿
(72)【発明者】
【氏名】城 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 友宏
(72)【発明者】
【氏名】岡田 弘
【テーマコード(参考)】
3D202
3D241
3J057
5H125
【Fターム(参考)】
3D202AA02
3D202BB05
3D202BB37
3D202BB64
3D202BB66
3D202BB67
3D202CC01
3D202CC02
3D202CC42
3D202DD01
3D202DD18
3D202DD26
3D202DD39
3D202DD41
3D202FF08
3D202FF13
3D202FF14
3D241AA01
3D241AA04
3D241AA58
3D241AC01
3D241AC11
3D241AD02
3D241AD21
3D241AE09
3D241AE16
3J057AA03
3J057BB03
3J057GA01
3J057GB02
3J057GB05
3J057GB13
3J057GB14
3J057GB22
3J057GB36
3J057GC09
3J057GE07
3J057HH01
3J057JJ01
3J057JJ02
5H125AA01
5H125AC08
5H125AC12
5H125BE05
5H125DD01
5H125EE08
5H125EE31
5H125EE51
5H125EE52
(57)【要約】
【課題】エンジンの共振を抑制しつつ、クランキング時間を短縮可能な始動制御装置を提供することにある。
【解決手段】入力軸クラッチ25を完全係合したときに入力軸クラッチ25よりもエンジン10側にて共振が生じる周波数に応じた回転速度帯を、共振帯RN1とする。クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが、共振帯RN1の下限値よりも下側に設定される第1閾値N1より小さい場合、入力軸クラッチ25を完全係合状態とする。クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが第1閾値N1以上となった場合、入力軸クラッチ25を解放状態とした後に、エンジン回転数Neが共振帯RN1の上限値より大きく、かつ、共振体RN2の下限値より小さい始動回転数Nsとなるまでの間、入力軸クラッチ25をスリップ状態とする。これにより、始動初期において、大きいトルクでのクランキングが可能であるので、クランキング時間を短縮することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)と、
前記エンジンを始動可能に設けられるモータ(11、12)と、
前記エンジンと前記モータとの間に設けられる断続部(25、51、52)と、
を備える動力伝達システム(1、2)において前記エンジンの始動を制御する始動制御装置であって、
前記エンジンの回転速度であるエンジン回転速度を取得する信号取得部(61)と、
前記断続部の前記モータ側と前記エンジン側とが独立して回転する解放状態、前記断続部の前記モータ側と前記エンジン側とが同期して回転する完全係合状態、または、前記解放状態と前記完全係合状態との中間状態であるスリップ状態となるように、前記断続部の係合状態を制御する断続制御部(65)と、
を備え、
前記エンジンを始動する際に、前記エンジン回転速度に応じて係合状態を変更する前記断続部を始動制御断続部とすると、
前記断続制御部は、
前記エンジン回転速度が、前記始動制御断続部を前記完全係合状態としたときに前記始動制御断続部より前記エンジン側にて共振が生じる回転速度帯である完全係合時共振帯の下限値よりも小さい値に設定される判定閾値より小さい場合、前記始動制御断続部を前記完全係合状態とし、
前記エンジン回転速度が前記判定閾値以上となった場合、前記始動制御断続部を前記解放状態とした後に、前記エンジン回転速度が前記完全係合時共振帯の上限値よりも大きく、かつ、前記始動制御断続部を前記スリップ状態としたときに前記始動制御断続部より前記エンジン側にて共振が生じる回転速度帯であるスリップ制御時共振帯の下限値より小さい始動回転速度となるまでの間、前記始動制御断続部を前記スリップ状態とすることを特徴とする始動制御装置。
【請求項2】
前記断続制御部は、前記スリップ制御時共振帯の下限値が前記始動回転速度より大きい範囲で、前記スリップ状態である前記始動制御断続部の係合状態を前記完全係合状態に徐々に近づけることを特徴とする請求項1に記載の始動制御装置。
【請求項3】
前記動力伝達システムには、
前記モータとして、一側に前記エンジンが設けられる入力軸(21)の他側に設けられる第1モータ(11)、および、動力伝達ギア(31、41)を介して前記入力軸と接続される出力軸(29)に設けられる第2モータ(12)が設けられ、
前記断続部として、前記入力軸の前記エンジン側と前記第1モータ側とを断接する入力軸断続部(25)、および、前記動力伝達ギアと前記出力軸とを断接する出力軸断続部(51、52)が設けられ、
車両(90)が停止している状態にて前記エンジンを始動する場合、
前記断続制御部は、前記入力軸断続部または前記出力軸断続部のうちのいずれか1つを前記始動制御断続部として選択することを特徴とする請求項1または2に記載の始動制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの駆動を制御するエンジン制御部(63)をさらに備え、
前記車両が停止している状態にて前記エンジンを始動する場合、
前記断続制御部は、前記エンジン回転速度が前記始動回転速度以上となった場合、前記スリップ状態である前記始動制御断続部を前記完全係合状態とし、
前記エンジン制御部は、前記始動制御断続部を前記完全係合状態とした後に、前記エンジンを点火することを特徴とする請求項3に記載の始動制御装置。
【請求項5】
前記車両が走行している状態にて前記エンジンを始動する場合、
前記断続制御部は、車速および駆動トルクに基づいて決定される始動パターンに応じて前記始動制御断続部を選択し、選択された前記始動制御断続部を前記解放状態から前記スリップ状態とすることを特徴とする請求項3に記載の始動制御装置。
【請求項6】
前記エンジンの駆動を制御するエンジン制御部(63)をさらに備え、
前記車両が走行している状態にて前記エンジンを始動する場合、
前記エンジン制御部は、前記エンジン回転速度が前記始動回転速度以上となった場合、前記エンジンを点火し、
前記断続制御部は、前記エンジンの点火後、前記エンジン回転速度が、前記スリップ状態である前記始動制御断続部の前記モータ側の回転速度と同期可能となった場合、当該始動制御断続部を前記完全係合状態とすることを特徴とする請求項5に記載の始動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、始動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンの始動を制御するエンジン始動制御装置が知られている。例えば特許文献1では、エンジンとモータジェネレータとの間に設けられるクラッチをスリップ制御することで、ダンパに起因する共振を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−201279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、エンジン回転速度が始動回転速度に達するまでの間、クラッチを常にスリップ係合させている。そのため、スリップ状態とするクラッチの温度上昇や摩耗が生じる。また、エンジン回転速度が始動回転速度に達するまでの時間が長くなる。
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エンジンの共振を抑制しつつ、クランキング時間を短縮可能な始動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、動力伝達システムにおいて、エンジンの始動を制御する始動制御装置である。
動力伝達システムは、エンジンと、モータと、断続部と、を備える。モータは、エンジンを始動可能に設けられる。断続部は、エンジンとモータとの間に設けられる。
始動制御装置は、信号取得部と、断続制御部と、を備える。信号取得部は、エンジンの回転速度であるエンジン回転速度を取得する。断続制御部は、断続部のモータ側とエンジン側とが独立して回転する解放状態、断続部のモータ側とエンジン側とが同期して回転する完全係合状態、または、解放状態と完全係合状態との中間状態であるスリップ状態となるように、断続部の係合状態を制御する。
【0006】
ここで、エンジンを始動する際に、エンジン回転速度に応じた係合状態を変更する断続部を、始動制御断続部とする。
断続制御部は、エンジン回転速度が、始動制御断続部を完全係合状態としたときに始動制御断続部よりエンジン側にて共振が生じる回転速度帯である完全係合時共振帯の下限値よりも小さい値に設定される判定閾値より小さい場合、始動制御断続部を完全係合状態とする。また、断続制御部は、エンジン回転速度が判定閾値以上となった場合、始動制御断続部を解放状態とした後に、エンジン回転速度が完全係合時共振帯の上限値よりも大きく、かつ、始動制御断続部をスリップ状態としたときに始動制御断続部よりエンジン側にて共振が生じる回転速度帯であるスリップ制御時共振帯の下限値より小さい始動回転速度となるまでの間、始動制御断続部をスリップ状態とする。
【0007】
本発明では、エンジン回転速度が判定閾値より小さい場合には始動制御断続部を完全係合し、エンジン回転速度が判定閾値以上となると、始動制御断続部を一旦解放した後にスリップ状態とする。始動制御断続部をスリップ状態とすることで、完全係合時よりも共振帯が高回転速度側にシフトする。これにより、共振によるエンジンの振動を抑制した状態にて、エンジン回転速度を始動回転速度まで高めることができる。
【0008】
また、エンジン回転速度が判定閾値より小さくても始動制御断続部をスリップ制御する場合と比較し、始動初期において、大きいトルクでのクランキングが可能であるので、クランキング時間を短縮することができる。また、始動制御断続部をスリップ状態とする期間が短くなるので、始動制御断続部の摩耗や温度上昇を抑制することができる。
【0009】
さらにまた、始動制御断続部を完全係合状態からスリップ状態に切り替える際、始動制御断続部を一旦、解放状態としている。これにより、完全係合時の静止摩擦の影響を受けることなく、動摩擦状態に移行できるので、摩擦係数の変動を抑えることができ、スリップ状態での始動制御断続部の係合状態を制御しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1実施形態による動力伝達システムを示す概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態によるエンジンメインモードを説明する説明図である。
図3】本発明の第1実施形態によるEVメインモードを説明する説明図である。
図4】本発明の第1実施形態による始動制御処理を説明するフローチャートである。
図5】本発明の第1実施形態による停車時始動制御を説明するフローチャートである。
図6】本発明の第1実施形態による走行中始動制御を説明するフローチャートである。
図7】本発明の第1実施形態による第1閾値、第2閾値および第3閾値を説明する説明図である。
図8】本発明の第1実施形態による第3閾値推定マップを説明する説明図である。
図9】本発明の第1実施形態による各始動パターンにおけるクラッチの係合状態およびスリップ制御するクラッチを説明する説明図である。
図10】本発明の第1実施形態による停車時始動制御を説明するタイムチャートである。
図11】本発明の第1実施形態による走行中始動制御を説明するタイムチャートである。
図12】本発明の第2実施形態による動力伝達システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による駆動制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を図1図11に示す。
図1に示すように、動力伝達システム1は、エンジン10、第1モータ11、第2モータ12、動力伝達装置20、および、始動制御装置としての制御装置60等を備え、エンジン10、第1モータ11および第2モータ12の動力を駆動源として用いるハイブリッド車両である車両90に適用される。
【0012】
エンジン10は、例えばガソリン等を燃料とする内燃機関である。
第1モータ11および第2モータ12は、車両90に搭載された図示しないバッテリから供給される電力により回転する電動モータである。また、第1モータ11および第2モータ12は、モータ軸にトルクが入力されることにより発電し、バッテリを充電可能なジェネレータとしても機能する。すなわち、第1モータ11および第2モータ12は、所謂「モータジェネレータ」であるが、本明細書中では単にモータと呼ぶことにする。また、図中では、第1モータ11を「MG1」、第2モータ12を「MG2」と記載する。
本実施形態では、第1モータ11の回転数を第1回転数Nm1、第2モータ12の回転数を第2回転数Nm2とする。本実施形態では、例えば単位[rpm]で表される単位時間あたりの回転数が「回転速度」に対応する。
【0013】
動力伝達装置20は、入力軸21、入力軸クラッチ25、出力軸29、動力伝達機構30、および、変速機構50等を備える。
入力軸21は、エンジン入力軸22、および、モータ入力軸23を有する。
エンジン入力軸22は、一端がエンジン10のクランクシャフトに接続され、他端がモータ入力軸23に対向するように設けられる。エンジン入力軸22には、周知のトーションダンパ15が設けられる。本実施形態では、トーションダンパ15は、エンジン10と後述の第1動力伝達ギア31との間に設けられる。
【0014】
モータ入力軸23は、エンジン入力軸22と同軸に設けられ、一端が第1モータ11のモータ軸に接続される。第1モータ11にて発生した動力は、モータ入力軸23に伝達される。モータ入力軸23の他端は、エンジン入力軸22と対向するように設けられる。
【0015】
入力軸クラッチ25は、エンジン10と第1モータ11との間を断続するものであって、エンジン入力軸22とモータ入力軸23との間に設けられる。本実施形態の入力軸クラッチ25は、油圧式ノーマルクローズタイプの摩擦クラッチである。入力軸クラッチ25を係合すると、エンジン入力軸22とモータ入力軸23との間で、動力伝達が可能となる。また、入力軸クラッチ25を解放すると、エンジン入力軸22とモータ入力軸23とで、動力が伝達されない。
【0016】
出力軸29は、入力軸21に対して平行に設けられ、一端が第2モータ12のモータ軸に接続され、第2モータ12と一体に回転する。すなわち、出力軸29の回転数は、第2回転数Nm2と一致する。第2モータ12にて発生した動力は、出力軸29に伝達される。出力軸29の他端は、デファレンシャルギア94を介して車軸95に接続される。車軸95の両端に設けられる駆動輪96は、動力伝達装置20を経由して伝達された動力により駆動される。
【0017】
動力伝達機構30は、第1動力伝達ギア31、および、第2動力伝達ギア41を有する。
第1動力伝達ギア31は、第1ドライブギア32および第1ドリブンギア33を有する。
第1ドライブギア32は、モータ入力軸23に対して同軸かつ相対回転不能に固定される。第1ドリブンギア33は、第1ドライブギア32に噛み合い、出力軸29に対して相対回転可能に設けられる。第1ドリブンギア33には、第1係合部34が設けられる。第1係合部34は、後述する第1出力軸クラッチ51と係合可能に形成される。
第1ドライブギア32の歯数をNt32、第1ドリブンギア33の歯数をNt33とすると、第1動力伝達ギア31のギア比である第1ギア比ρ1は、式(1)で表される。すなわち、第1ギア比ρ1は、第1ドライブギア32の歯数に対する第1ドリブンギア33の歯数、といえる。
ρ1=Nt33/Nt32 ・・・(1)
【0018】
第2動力伝達ギア41は、第2ドライブギア42および第2ドリブンギア43を有する。
第2ドライブギア42は、モータ入力軸23に対して同軸かつ相対回転不能に固定される。第2ドリブンギア43は、第2ドライブギア42に噛み合い、出力軸29に対して相対回転可能に設けられる。第2ドリブンギア43には、第2係合部44が設けられる。第2係合部44は、後述する第2出力軸クラッチ52と係合可能に形成される。
第2ドライブギア42の歯数をNt42、第2ドリブンギア43の歯数をNt43とすると、第2動力伝達ギア41のギア比である第2ギア比ρ2は、式(2)で表される。すなわち、第2ギア比ρ2は、第2ドライブギア42の歯数に対する第2ドリブンギア43の歯数、といえる。
ρ2=Nt43/Nt42 ・・・(2)
【0019】
本実施形態では、第1動力伝達ギア31がエンジン10側、第2動力伝達ギア41が第1モータ11側に設けられる。また、第2ギア比ρ2(例えば2)は、第1ギア比ρ1(例えば0.5)より大きいものとする。すなわち、ρ1<ρ2である。本実施形態では、第1動力伝達ギア31をハイ(H)ギア、第2動力伝達ギア41をロー(L)ギアとする。
【0020】
変速機構50は、第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52を有する。本実施形態では、第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52は、油圧式ノーマルクローズタイプの摩擦クラッチである。
第1出力軸クラッチ51は、第1係合部34と係合可能に設けられる。第1出力軸クラッチ51と第1係合部34とが係合することで、第1動力伝達ギア31を介して入力軸21と出力軸29との間で、動力伝達が可能となる。
第2出力軸クラッチ52は、第2係合部44と係合可能に設けられる。第2出力軸クラッチ52と第2係合部44とが係合することで、第2動力伝達ギア41を介して入力軸21と出力軸29との間で、動力伝達が可能となる。
第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52は、エンジン10とモータ11、12との間に設けられ、エンジン10とモータ11、12とを断接可能である、といえる。
【0021】
入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51、および、第2出力軸クラッチ52は、いずれも、係合力を制御することで、解放状態、完全係合状態、または、スリップ状態とすることができる。解放状態では、入力軸クラッチ25のエンジン10側とモータ11、12側とで動力が伝達されず、入力軸クラッチ25のエンジン10側であるエンジン入力軸22と、入力軸クラッチ25の第1モータ11側であるモータ入力軸23とは、独立して回転する。完全係合状態では、ロス等を除き、エンジン10側とモータ11、12側とで、動力が完全に伝達される。また、完全係合状態では、エンジン入力軸22とモータ入力軸23とが同期して回転する。スリップ状態は、解放状態と完全係合状態との中間的な状態である。第1出力軸クラッチ51または第2出力軸クラッチ52についても同様である。
【0022】
また、入力軸クラッチ25をスリップ状態としたとき、エンジン回転数Neと第1回転数Nm1との差をスリップ量SL(図10参照。)とする。また、第1出力軸クラッチ51をスリップ状態としたとき、エンジン回転数Neと、第2回転数Nm2を第1ギア比ρ1にて換算した換算回転数Nm5との差をスリップ量SLとする。換算回転数Nm5は、式(3)で表される。
Nm5=Nm2×ρ1 ・・・(3)
【0023】
制御装置60は、動力伝達システム1を制御するものであって、CPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成される。制御装置60における各処理は、予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0024】
制御装置60は、機能ブロックとして、信号取得部61、エンジン制御部63、モータ制御部64、断続制御部としてのクラッチ制御部65を有する。
信号取得部61は、アクセル開度α、車両90の走行速度である車速V、第1回転数Nm1、第2回転数Nm2、エンジン10の回転数であるエンジン回転数Ne、入力軸クラッチ25の油圧Pa、第1出力軸クラッチ51の油圧Pb、第2出力軸クラッチ52の油圧Pc、および、バッテリのSOC(State Of Charge)等を取得する。取得された信号は、制御装置60における各種演算に用いられる。
【0025】
エンジン制御部63は、エンジン10の駆動を制御する。
モータ制御部64は、第1モータ11および第2モータ12の駆動を制御する。
クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51、および、第2出力軸クラッチ52の係合状態を制御する。
【0026】
エンジン始動制御の説明に先立ち、車両90の走行モードを図2および図3に基づいて説明する。走行モードには、エンジンメインモード、および、EVメインモードが含まれる。走行モードは、バッテリのSOCやエンジン水温等に基づいて選択される。
図2に示すように、エンジンメインモードは、主にエンジン10の駆動力を用いて走行するモードであって、車速Vおよび要求される駆動トルクに応じ、用いる駆動源およびギアを選択する。図2中では、「_H」は、第1出力軸クラッチ51を係合することでHギアである第1動力伝達ギア31を動力伝達に用いることを意味し、「_L」は、第2出力軸クラッチ52を係合することで、Lギアである第2動力伝達ギア41を動力伝達に用いることを意味する。図3も同様である。
【0027】
領域R11では、駆動源として、エンジン10および第2モータ12が用いられる。エンジン10の動力伝達には、第1動力伝達ギア31が用いられる。
領域R12では、駆動源として、エンジン10および第2モータ12が用いられる。エンジン10の動力伝達には、第2動力伝達ギア41が用いられる。
領域R13では、駆動源として、エンジン10、第1モータ11および第2モータ12が用いられる。エンジン10および第1モータ11の動力伝達には、第2動力伝達ギア41が用いられる。
領域R14では、駆動源として、エンジン10、第1モータ11および第2モータ12を用いる。エンジン10および第1モータ11の動力伝達には、第1動力伝達ギア31が用いられる。
すなわち、エンジンメインモードでは、車両走行中は、常にエンジン10が駆動している。そのため、エンジンメインモードでは、車両停止中(以下適宜、「停車中」という。)以外には、本実施形態の始動制御処理が行われない。停車中にエンジン10を始動する始動パターンを始動パターンP0とする(図7参照。)。
【0028】
図3に示すように、EVメインモードは、主にモータ11、12の駆動力を用いて走行するモードであって、車速Vおよび要求される駆動トルクに応じ、用いる駆動源およびギアを選択する。
領域R21では、駆動源として、第2モータ12が用いられる。
領域R22では、駆動源として、第1モータ11が用いられる。第1モータ11の動力伝達には、第2動力伝達ギア41が用いられる。
【0029】
領域R23では、駆動源として、第1モータ11および第2モータ12が用いられる。第1モータ11の動力伝達には、第2動力伝達ギア41が用いられる。
領域R24では、駆動源として、エンジン10、第1モータ11および第2モータ12が用いられる。エンジン10の動力伝達には、第1動力伝達ギア31が用いられ、第1モータ11の動力伝達には、第2動力伝達ギア41が用いられる。
領域R25では、駆動源として、エンジン10、第1モータ11および第2モータ12が用いられる。エンジン10および第1モータ11の動力伝達には、第2動力伝達ギア41が用いられる。
【0030】
領域R26では、駆動源として、エンジン10および第2モータ12が用いられる。エンジン10の動力伝達には、第1動力伝達ギア31が用いられる。
領域R27では、駆動源として、エンジン10、第1モータ11および第2モータ12が用いられる。エンジン10および第1モータ11の動力伝達には、第1動力伝達ギア31が用いられる。
EVメインモードでは、車両停止中におけるエンジン10の始動に加え、車両走行中において、車速Vおよび駆動トルク等に応じ、停止しているエンジン10を始動することがある。車両走行中のエンジン始動パターンは、図3中に矢印で示す5つの始動パターンP1〜P5がある。
【0031】
本実施形態では、トーションダンパ15等に起因するエンジン10の共振を抑制しつつ、エンジン10の始動性を向上すべく、クラッチ25、51、52の係合状態を制御している。本実施形態の始動制御処理を図4図6に示すフローチャートに基づいて説明する。始動制御処理は、エンジン10が停止しているときに、制御装置60にて所定の間隔で実行される。以下、図中において、クラッチ25、51、52を、「CL25、51、52」と記載する。
【0032】
最初のステップS11では、エンジン制御部63は、エンジン10の始動指令があるか否かを判断する。なお、以下、「ステップS11」の「ステップ」を省略し、単に「S11」と記す。他のステップについても同様である。エンジン10の始動指令がないと判断された場合(S11:NO)、S12以降の処理を行わない。エンジン10の始動指令があると判断された場合(S11:YES)、S12へ移行する。
S12では、クラッチ制御部65は、現在の走行モードを読み込む。
【0033】
S13では、クラッチ制御部65は、車速Vがゼロ、すなわち車両停車中か否かを判断する。車速Vがゼロでないと判断された場合(S13:NO)、すなわち車両走行中である場合、S16へ移行する。車速Vがゼロであると判断された場合(S13:YES)、すなわち停車中である場合、S14へ移行する。
S14では、クラッチ制御部65は、エンジン10の始動時にスリップ制御するクラッチ(以下適宜、「始動制御クラッチ」という。)を入力軸クラッチ25とする。
S15では、停車時始動制御を行う。
【0034】
停車時始動制御を図5に示す。
S151では、クラッチ制御部65は、図示しない記憶部に記憶されている閾値マップ(図7参照。)を参照し、第1閾値N1、第2閾値N2を読み込み、第3閾値推定マップMa、Mbを選択する。
第1閾値N1は、始動制御クラッチを完全係合状態したとき、始動制御クラッチよりもエンジン10側にて共振が生じる周波数に応じた回転数である共振帯RN1の下限値の下側に設定される値である。第2閾値N2は、始動制御クラッチを完全係合したとき、共振帯RN1の上限値の上側に設定される値である。
【0035】
第3閾値N3は、始動クラッチをスリップ状態としたとき、始動制御クラッチよりもエンジン10側にて共振が生じる周波数に応じた回転数である共振帯RN2の下側に設定される値である。共振帯RN2は、始動制御クラッチのスリップ量SLに応じて変わる。詳細には、共振帯RN2は、スリップ量SLが小さくなる、すなわち完全係合状態に近づくにつれて、低回転数側にシフトする。そのため、第3閾値N3は、始動制御クラッチの油圧に基づいて第3閾値推定マップMa、Mbを用いて算出される。
【0036】
共振帯RN1、RN2は、クラッチ25、51、52の係合状態により、始動制御クラッチからみたエンジン10側の慣性モーメントが異なるので、始動パターンP0〜P5毎に異なる。そのため、図7に示すように、第2閾値N2、および、第3閾値N3の推定に用いる第3閾値推定マップMa、Mbは、閾値マップとして始動パターンP0〜P5毎に関連づけられている。第1閾値N1については、後述の走行中始動制御では用いないため、始動パターンP1〜P5には値が記憶されていない。
【0037】
本ステップでは、クラッチ制御部65は、第1閾値N1として値N10、第2閾値N2として値N20を読み込む。また、クラッチ制御部65は、第3閾値N3の算出に用いる第3閾値推定マップMa、Mbとして、マップMa0、Mb0を選択する。第3閾値推定マップMa、Mbの詳細については後述する。
【0038】
図5に戻り、S152では、クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25を完全係合する。
S153では、モータ制御部64は、第1モータ11を駆動し、第1モータ11からトルクを出力させる。
【0039】
S154では、クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが第1閾値N1未満か否かを判断する。エンジン回転数Neが第1閾値N1未満であると判断された場合(S154:YES)、本ステップを繰り返す。このとき、入力軸クラッチ25は、完全係合状態が継続される。エンジン回転数Neが第1閾値N1以上であると判断された場合(S154:NO)、S155へ移行する。
【0040】
S155では、クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25を解放する。入力軸クラッチ25を解放する期間は、解放後に入力軸クラッチ25をスリップ制御したときに動摩擦状態とすべく、静止摩擦状態を解除可能な程度の時間に設定される。このとき、モータ制御部64は、第1回転数N1が急上昇しないように、第1モータ11の出力トルクを一時的に抑える。
S156では、クラッチ制御部65は、始動制御クラッチである入力軸クラッチ25の係合状態が、所定の係合力で係合されるスリップ状態となるように、入力軸クラッチ25を制御する。また、モータ制御部64は、第1モータ11の出力トルクを、入力軸クラッチ25を解放する前の状態に戻す。
【0041】
S157では、クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが、始動回転数Ns未満か否かを判断する。始動回転数Nsは、共振帯RN1の上限値より大きく、かつ、共振帯RN2の下限値より小さい。エンジン回転数Neが始動回転数Ns以上であると判断された場合(S157:NO)、S160へ移行する。エンジン回転数Neが始動回転数Ns未満であると判断された場合(S157:YES)、S158へ移行する。
【0042】
S158では、クラッチ制御部65は、第3閾値推定マップMa、Mbを用い、入力軸クラッチ25の現在の油圧Paに基づき、第3閾値N3を算出する。
第3閾値推定マップMa、Mbを図8に示す。図8(a)は、始動制御クラッチの油圧と始動制御クラッチの係合力とが関連づけられたマップMaであり、図8(b)は、始動制御クラッチの係合力と第3閾値N3とが関連づけられたマップMbである。図8(a)に示すように、本実施形態のクラッチ25、51、52は、いずれもノーマルクローズであるので、油圧が小さくなるほど、係合力が大きくなる。また、図8(b)に示すように、係合力が大きくなるほど、共振帯RN2が低回転側にシフトするので、第3閾値N3は小さくなる。
【0043】
図5に戻り、S159では、クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが第3閾値N3を超えない範囲で入力軸クラッチ25のスリップ量SLを漸減させる。スリップ量SLを減らすことで、入力軸クラッチ25の係合状態は、完全係合状態に近づく。そして、S157に戻る。
【0044】
エンジン回転数Neが始動回転数Ns以上であると判断された場合(S157:NO)に移行するS160では、クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25を完全係合する。
S161では、エンジン制御部63は、図示しないインジェクタからの燃料噴射を開始し、エンジン10を点火する。
S162では、モータ制御部64は、第1モータ11のトルク出力を停止し、始動制御処理を終了する。
【0045】
図2に戻り、車速Vがゼロでないと判断された場合(S13:NO)に移行するS16では、クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51、および、第2出力軸クラッチ52の係合状態を読み込む。
S17では、クラッチ制御部65は、車速および駆動トルクに基づき、図3に示すマップを参照し、始動パターンを始動パターンP1〜P5のいずれかに決定する。
【0046】
S18では、図9に示す制御クラッチ選択マップを用い、始動パターンP1〜P5に応じ、始動制御クラッチを決定する。図9に示すように、始動制御クラッチ選択マップには、駆動領域の切り替え前後のクラッチ25、51、52の係合状態、および、始動制御クラッチが、始動パターン毎に関連付けられている。始動制御クラッチは、駆動領域の切り替えにより、解放から係合されるクラッチである。図9における「係合」は、完全係合状態を意味する。
【0047】
具体的には、始動パターンP1では、入力軸クラッチ25が解放から係合に切り替わる。また、第1出力軸クラッチ51は解放状態が維持され、第2出力軸クラッチ52は係合状態が維持される。クラッチ制御部65は、始動パターンP1での始動制御クラッチを入力軸クラッチ25とする。
始動パターンP2では、第1出力軸クラッチ51が解放から係合に切り替わる。また、入力軸クラッチ25は解放状態が維持され、第2出力軸クラッチ52は係合状態が維持される。クラッチ制御部65は、始動パターンP2での始動制御クラッチを第1出力軸クラッチ51とする。
始動パターンP3では、入力軸クラッチ25および第1出力軸クラッチ51が解放から係合に切り替わり、第2出力軸クラッチ52が係合から解放に切り替わる。クラッチ制御部65は、始動パターンP3での始動制御クラッチを第1出力軸クラッチ51とする。なお、第1出力軸クラッチ51に替えて、入力軸クラッチ25を始動制御クラッチとしてもよい。
始動パターンP4では、第1出力軸クラッチ51が解放から係合に切り替わり、第2出力軸クラッチ52が係合から解放に切り替わる、また、入力軸クラッチ25は解放状態が維持される。クラッチ制御部65は、始動パターンP4での始動制御クラッチを第1出力軸クラッチ51とする。
始動パターンP5では、第1出力軸クラッチ51が解放から係合に切り替わる。また、入力軸クラッチ25および第2出力軸クラッチ52は、解放状態が維持される。クラッチ制御部65は、始動パターンP5での始動制御クラッチを第1出力軸クラッチ51とする。
【0048】
図4に戻り、S19では、走行中始動制御を行う。走行中始動制御では、すでに回転している出力軸29側から動力伝達装置20を経由して伝達されるトルクを用いて、エンジン10を始動する。
走行中始動制御を図6に示す。
S191では、クラッチ制御部65は、図7に示す閾値マップを参照し、第2閾値N2を読み込み、第3閾値推定マップMa、Mbを選択する。図7に示すように、始動パターンP1〜P5のとき、クラッチ制御部65は、第2閾値N2として、対応する値N21〜N25を読み込む。また、始動パターンP1〜P5のとき、クラッチ制御部65は、第3閾値推定マップMa、Mbとして、対応するマップMa1〜Ma5、Mb1〜Mb5を選択する。
【0049】
S192では、クラッチ制御部65は、図3中のS156と同様、S18にて決定された始動制御クラッチの係合状態が、所定の係合力で係合されるスリップ状態となるように、始動制御クラッチを制御する。また、始動制御クラッチ以外のクラッチで、係合状態が変わるものについては、切り替え後の係合状態とする。例えば、始動パターンP3であれば、入力軸クラッチ25を完全係合状態とし、第2出力軸クラッチ52を解放状態とする(図9参照)。
S193〜S195の処理は、第3閾値N3の算出に用いるマップが異なる点を除き、S157〜S159の処理と同様である。
【0050】
エンジン回転数Neが始動回転数Ns以上であると判断された場合(S193:NO)に移行するS196では、エンジン制御部63は、インジェクタからの燃料噴射を開始し、エンジン10を点火する。
S197では、クラッチ制御部65は、始動制御クラッチを完全係合する。なお、始動制御クラッチが第1出力軸クラッチ51の場合、クラッチ制御部65はエンジン回転数Neが出力軸29と同期可能な回転数となった場合、すなわちエンジン回転数Neと換算回転数Nm5とが一致した場合、第1出力軸クラッチ51を完全係合させるようにしてもよい。また、始動制御クラッチが入力軸クラッチ25の場合、エンジン回転数Neと第1回転数Nm1とが一致したときに、入力軸クラッチ25を完全係合させるようにしてもよい。
すなわち本実施形態では、停車中始動制御では、始動制御クラッチを完全係合した後に燃料噴射および点火を行い、走行中始動制御では、燃料噴射および点火後に、始動制御クラッチを完全係合する。
【0051】
停車中始動制御を図10、走行中始動制御を図11に示すタイムチャートに基づいて説明する。図10は、共通時間軸を横軸とし、(a)が始動制御クラッチの係合状態、(b)がエンジン10および第1モータ11の出力トルク、(c)がエンジン10および第1モータ11の回転数を表している。また、図10(c)において、ハッチングを施した箇所は、共振帯RN1、RN2を示している。図11は、(b)にて第1モータ11の出力トルクが省略され、(c)にて第1回転数Nm1に替えて、換算回転数Nm5としている点を除き、図10と同様である。なお、図10および図11において、説明のためにタイムスケースを適宜拡大、縮小しており、実際の期間の長さとは必ずしも対応していない。以下、外力によるエンジン10の回転駆動を開始してから点火までの時間を「クランキング時間」という。
【0052】
図10に示すように、停車中始動制御にてクランキングを開始する時刻t10からエンジン回転数Neが第1閾値N1となる時刻t11までの期間は、入力軸クラッチ25が完全係合される。そのため、エンジン回転数Neと第1回転数Nm1は一致する。入力軸クラッチ25を完全係合することで、スリップ制御する場合と比較し、エンジン10側に伝達されるトルクが大きくなる。これにより、入力軸クラッチ25をクランキング開始時からスリップ状態とする場合と比較し、大きなトルクでの始動が可能であり、クランキング時間が短縮される。また、入力軸クラッチ25の摩耗や温度上昇が抑制される。
【0053】
時刻t11にてエンジン回転数Neが第1閾値N1となると、入力軸クラッチ25が一時的に解放される。入力軸クラッチ25を一旦解放することで、完全係合時の静止摩擦の影響による摩擦係数の変動を防ぐことができるので、動摩擦状態でのスリップ量SLを適切に制御することができる。また、入力軸クラッチ25を解放することで、第1モータ11の回転数が急上昇するのを避けるべく、モータ制御部64は、第1モータ11の出力を抑えるように制御する。
【0054】
入力軸クラッチ25を解放した後の時刻t12では、入力軸クラッチ25をスリップ状態とする。入力軸クラッチ25をスリップ状態とした場合の共振帯RN2の周波数は、完全係合状態とした場合の共振帯RN1の周波数よりも大きい。すなわち、RN2>RN1である。そのため、入力軸クラッチ25をスリップ状態とすることで、共振帯RN1、RN2を避けて、エンジン回転数Neを始動回転数Nsまで高めることができる。
【0055】
また、入力軸クラッチ25のスリップ制御を開始する時刻t12から、エンジン回転数Neが始動回転数Nsとなる時刻t13までの期間において、スリップ量SLを漸減させる。スリップ量SLが小さくなり、完全係合状態に近づくと、共振帯RN2は、低回転数側にシフトする。そのため、入力軸クラッチ25のスリップ量SLは、共振帯RN2の下限値の下側に設定される第3閾値N3が始動回転数Nsより小さくならない範囲で漸減させる。
スリップ量SLを漸減させ、徐々に完全係合に近づけることで、スリップ量SLを漸減させない場合と比較し、クランキング時間をさらに短縮することができる。また、入力軸クラッチ25の摩耗や温度上昇を低減することができる。
【0056】
時刻t13にて、エンジン回転数Neが始動回転数Nsになると、入力軸クラッチ25の係合状態を完全係合状態に移行させるべくスリップ量SLを減少させる。そして、時刻t14にて、入力軸クラッチ25が完全係合状態となる。また、入力軸クラッチ25を完全係合した後の時刻t15にて、インジェクタからの燃料噴射が開始され、エンジン10が点火される。また、モータ制御部64は、エンジン10の点火後に、第1モータ11からのトルク出力を停止する。
【0057】
図11では、始動制御クラッチが第1出力軸クラッチ51である場合を例として、走行中始動制御を説明する。
走行中始動制御にてクランキングを開始する時刻t20以前には、第1出力軸クラッチ51が解放されている。また、換算回転数Nm5は、第1出力軸クラッチ51が解放されている状態における共振帯RN3よりも大きいものとする。共振帯RN3は、スリップ状態での共振帯RN2より高回転数側である。
【0058】
時刻t20後の時刻t21にて、第1出力軸クラッチ51をスリップ状態とする。また、時刻t21から第1出力軸クラッチ51を完全係合させる時刻t23までの期間において、スリップ量SLを漸減させる。スリップ量SLを漸減させ、徐々に完全係合に近づけることで、スリップ量SLを漸減させない場合と比較し、クランキング時間を短縮することができる。また、入力軸クラッチ25の摩耗を低減することができる。
【0059】
時刻t22にて、エンジン回転数Neが始動回転数Nsになると、インジェクタからの燃料噴射が開始され、エンジン10が点火される。これにより、エンジン回転数Neの上昇速度が速まる。
時刻t23にて、エンジン回転数Neが換算回転数Nm5と一致し、エンジン入力軸22と出力軸29の回転を同期可能となると、第1出力軸クラッチ51の係合状態を完全係合状態に移行させるべくスリップ量SLを減少させる。そして、時刻t24にて、第1出力軸クラッチ51が完全係合状態となる。
【0060】
以上詳述したように、本実施形態の制御装置60は、動力伝達システム1においてエンジン10の始動を制御するものである。
動力伝達システム1は、エンジン10と、第1モータ11および第2モータ12と、クラッチ25、51、52と、を備える。
第1モータ11および第2モータ12は、エンジン10を始動可能に設けられる。
入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52は、エンジン10とモータ11、12との間に設けられる。
【0061】
制御装置60は、信号取得部61と、クラッチ制御部65と、を備える。
信号取得部61は、エンジン10の回転速度であるエンジン回転数Neを取得する。
クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25のモータ11、12側とエンジン10側とが独立して回転する解放状態、入力軸クラッチ25のモータ11、12側とエンジン10側とが同期して回転する完全係合状態、または、解放状態と完全係合状態との中間状態であるスリップ状態となるように、入力軸クラッチ25の係合状態を制御する。第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52も同様に制御される。
【0062】
ここで、エンジンを始動する際に、エンジン回転数Neに応じて係合状態を変更するクラッチを始動制御クラッチとする。
始動制御クラッチを完全係合状態としたときに始動制御クラッチよりもエンジン10側にて共振が生じる回転速度帯を、共振帯RN1とする。また、始動制御クラッチをスリップ状態としたとしたときに始動制御クラッチよりもエンジン10側にて共振が生じる回転速度帯を共振帯RN2とする。
クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが、共振帯RN1の下限値よりも小さい値に設定される第1閾値N1より小さい場合、始動制御クラッチを完全係合状態とする。
また、クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが第1閾値N1以上となった場合、入力軸クラッチ25を解放状態とした後に、エンジン回転数Neが共振帯RN1の上限値よりも大きく、かつ、共振帯RN2の下限値より小さい始動回転数Nsとなるまでの間、始動制御クラッチをスリップ状態とする。
【0063】
本実施形態では、エンジン回転数Neが第1閾値N1より小さい場合には始動制御クラッチを完全係合し、エンジン回転数Neが第1閾値N1以上となると、始動制御クラッチを一旦解放した後にスリップ状態とする。始動制御クラッチをスリップ状態とすることで、完全係合時よりも共振帯が高回転数側にシフトする。これにより、共振によるエンジン10の振動を抑制した状態にて、エンジン回転数Neを始動回転数Nsまで高めることができる。
【0064】
また、エンジン回転数Neが第1閾値N1より小さくても始動制御クラッチをスリップ状態とする場合と比較し、始動初期において、大きいトルクでのクランキングが可能であるので、クランキング時間を短縮することができる。また、始動制御クラッチをスリップ状態とする期間が短くなるので、始動制御クラッチの摩耗や温度上昇を抑制することができる。
【0065】
さらにまた、始動制御クラッチを完全係合状態からスリップ状態に切り替える際、始動制御クラッチを一旦、解放状態としている。これにより、完全係合時の静止摩擦の影響を受けることなく、動摩擦状態に移行できるので、摩擦係数の変動を抑えることができ、スリップ状態での始動制御クラッチの係合状態を制御しやくすなる。
【0066】
クラッチ制御部65は、共振帯RN2の下限値が始動回転数Nsより大きい範囲で、スリップ状態である始動制御クラッチの係合状態を完全係合状態に徐々に近づける。
これにより、クランキング時間をさらに短縮することできる。また、入力軸クラッチ25の摩耗や温度上昇を抑制することができる。
第1出力軸クラッチ51をスリップ状態とする場合についても同様である。
【0067】
動力伝達システム1には、第1モータ11および第2モータ12が設けられる。第1モータ11は、一側にエンジン10が設けられる入力軸21の他側に設けられる。第2モータ12は、動力伝達ギア31、41を介して入力軸21と接続される出力軸29に設けられる。
また、動力伝達システム1には、入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52が設けられる。入力軸クラッチ25は、入力軸のエンジン10側と第1モータ11側とを断接する。第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52は、動力伝達ギア31、41と出力軸29とを断接する。
【0068】
車両90が停止している状態にてエンジン10を始動する場合、クラッチ制御部65は、入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51または第2出力軸クラッチ52のいずれか1つを始動制御クラッチとして選択する。
これにより、複数のモータ、および、複数のクラッチ25、51、52を備える動力伝達システムにおいて、第1モータ11または第2モータ12の駆動力により、エンジン10を適切にクランキングすることができる。また、複数のクラッチを始動制御クラッチとする場合と比較し、スリップ状態とするで生じるロスを低減することができる。
【0069】
制御装置60は、エンジン10の駆動を制御するエンジン制御部63をさらに備える。車両90が停止している状態にてエンジン10を始動する場合、クラッチ制御部65は、エンジン回転数Neが始動回転数Ns以上となった場合、前記スリップ状態である始動制御クラッチを完全係合状態とする。エンジン制御部63は、始動制御クラッチを完全係合状態とした後に、エンジン10を点火する。
これにより、エンジン10が適切に始動され、始動後から十分なトルクを得ることができる。
【0070】
車両90が走行している状態にてエンジン10を始動する場合、クラッチ制御部65は、車速Vおよび駆動トルクに基づいて決定される始動パターンに応じて始動制御クラッチを選択し、選択された始動制御クラッチを解放状態からスリップ状態とする。これにより、駆動中である第1モータ11または第2モータ12の駆動力により、エンジン10を適切にクランキングすることができる。
【0071】
車両90が走行している状態にてエンジン10を始動する場合、エンジン制御部63は、エンジン回転数Neが始動回転数Ns以上となった場合、エンジン10を点火する。クラッチ制御部65は、エンジン10の点火後、エンジン回転数Neが、スリップ状態である始動制御クラッチのモータ11、12側の回転数と同期可能となった場合、当該始動制御クラッチを完全係合状態とする。換言すると、エンジン回転数Neが、スリップ状態である始動制御クラッチのモータ11、12側の回転数と同期可能となるまでの間は、スリップ状態を継続する。これにより、駆動領域を適切に切り替えることができる。
【0072】
本実施形態では、第1モータ11および第2モータ12が「モータ」に対応する。
また、本実施形態では、入力軸クラッチ25、第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52が「断続部」に対応し、クラッチ制御部65が「断続制御部」に対応する。さらにまた、入力軸クラッチ25が「入力軸断続部」に対応し、第1出力軸クラッチ51および第2出力軸クラッチ52が「出力軸断続部」に対応し、始動制御クラッチが「始動制御断続部」に対応する。
本実施形態では、例えば単位[rpm]等で表される回転数が「回転速度」に対応する。具体的には、エンジン回転数Neが「エンジン回転速度」に対応し、始動回転数Nsが「始動回転速度」に対応する。また、共振帯RE1が「完全係合時共振帯」に対応し、共振帯RE2が「スリップ制御時共振帯」に対応し、第1閾値N1が「判定閾値」に対応する。
【0073】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を図12に示す。
本実施形態の動力伝達システム2は、動力伝達装置120が上記実施形態と異なる。動力伝達装置120は、入力軸121、入力軸クラッチ125、出力軸29、動力伝達機構30、および、変速機構50等を備える。
【0074】
入力軸121は、エンジン入力軸122、および、モータ入力軸123を有する。
エンジン入力軸122は、一端がエンジン10のクランクシャフトに接続され、他端がモータ入力軸123に対向するように設けられる。
モータ入力軸123は、エンジン入力軸122と同軸に設けられ、一端が第1モータ11のモータ軸に接続される。第1モータ11にて発生した動力は、モータ入力軸23に伝達される。モータ入力軸123の他端は、エンジン入力軸122と対向するように設けられる。本実施形態では、第1動力伝達ギア31および第2動力伝達ギア41よりもエンジン10側のモータ入力軸123にトーションダンパ115が設けられる。
【0075】
入力軸クラッチ125は、エンジン10と第1モータ11との間を断続するものであって、エンジン入力軸122とモータ入力軸123との間に設けられる。すなわち、本実施形態の入力軸クラッチ125は、第1動力伝達ギア31、第2動力伝達ギア41、および、トーションダンパ115よりもエンジン10側に設けられる。なお、トーションダンパ115と入力軸クラッチ125の位置は、反対でもよい。すなわち、トーションダンパ115が入力軸クラッチ125よりもエンジン10側であって、エンジン入力軸122に設けられてもよい。
【0076】
トーションダンパ115および入力軸クラッチ125は、配置以外の機能等の点については、上記実施形態のトーションダンパ15および入力軸クラッチ25と同様である。
また、始動制御処理は、上記実施形態と同様であり、本実施形態では、入力軸クラッチ125が「入力軸断続部」に対応する。
このように構成しても、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0077】
(他の実施形態)
(ア)モータ
上記実施形態では、動力伝達システムは、2つのモータを備える。他の実施形態では、動力伝達システムが備えるモータの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
(イ)動力伝達ギア
上記実施形態では、動力伝達機構は、2つの動力伝達ギアを備える。他の実施形態では、動力伝達機構が備える動力伝達ギアの数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、動力伝達ギアのギア比は、適宜設定可能である。
【0078】
(ウ)断続部
上記実施形態では、断続部として、入力軸断続部である入力軸クラッチ、ならびに、出力軸断続部である第1出力軸クラッチおよび第2出力軸クラッチが設けられる。他の実施形態では、入力軸断続部または出力軸断続部の一方を省略してもよい。また、出力軸断続部は、動力伝達ギア毎に設けられることが好ましい。
【0079】
上記実施形態のクラッチは、いずれもノーマルクローズタイプのものである。他の実施形態では、断続部は、ノーマルオープンタイプのものであってもよい。また、上記実施形態では、断続部が油圧式の例を説明した。他の実施形態では、断続部は、油圧式の湿式クラッチに限らず、乾式クラッチやシンクロ機構等の噛み合い式クラッチ等、モータ側とエンジン側とを断接可能であれば、どのような構成であってもよい。
【0080】
上記実施形態では、第1出力軸クラッチと第2出力軸クラッチとは、別体である。他の実施形態では、第1出力軸クラッチと第2出力軸クラッチとを一体としてもよい。
上記実施形態では、クラッチの油圧に基づいて第3閾値を演算する。他の実施形態では、クラッチの油圧に替えて、例えば係合部材を押圧するシリンダ等の押圧部材の位置に基づいて第3閾値を演算してもよい。
【0081】
(エ)断続制御部
上記実施形態では、車両停車中にエンジンを始動する場合、入力軸クラッチをスリップ制御し、第1モータの駆動力によりエンジンをクランキングする。他の実施形態では、入力軸クラッチに替えて、出力軸断続部である第1出力軸クラッチまたは第2出力軸クラッチをスリップ制御し、第2モータの駆動力にてエンジンをクランキングしてもよい。第1出力軸クラッチまたは第2出力軸クラッチをスリップ制御してクランキングすることで、完全係合時共振帯と、スリップ制御時共振帯との差が大きくなるので、モータおよびエンジン回転数の制御がより容易になる。
【0082】
上記実施形態では、断続制御部は、車両走行中にエンジンを始動する場合、入力軸クラッチまたは第1出力軸クラッチをスリップ制御する。他の実施形態では、断続制御部は、入力軸クラッチまたは第1出力軸クラッチに替えて、第2出力軸クラッチをスリップ制御してもよい。
上記実施形態では、断続制御部は、スリップ制御する断続部をスリップ状態とした後、徐々にスリップ量を低減し、完全係合状態に近づける。他の実施形態では、断続制御部は、スリップ制御する断続部のスリップ量を一定としてもよい。
【0083】
上記実施形態では、断続制御部は、車両走行中にエンジンを始動する場合、完全係合状態を経ず、解放状態からスリップ状態とし、同期回転が可能になった後に完全係合状態に移行するように断続部を制御する。他の実施形態では、断続制御部は、車両走行中にエンジンを始動する場合も車両停車中と同様、エンジン回転速度が判定閾値より小さい範囲にて完全係合状態とし、エンジン回転速度が判定閾値以上となったとき、一旦解放状態とした後にスリップ状態に移行するように断続部を制御してもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0084】
1、2・・・動力伝達システム
10・・・エンジン
11・・・第1モータ(モータ) 12・・・第2モータ(モータ)
25、125・・・入力軸クラッチ(断続部、入力軸断続部)
51・・・第1出力軸クラッチ(断続部、出力軸断続部)
52・・・第2出力軸クラッチ(断続部、出力軸断続部)
60・・・制御装置(始動制御装置)
61・・・信号取得部
63・・・エンジン制御部
65・・・クラッチ制御部(断続制御部)
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