(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222506(P2016-222506A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】イットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックス
(51)【国際特許分類】
C04B 35/50 20060101AFI20161205BHJP
C01G 17/00 20060101ALI20161205BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20161205BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20161205BHJP
【FI】
C04B35/50
C01G17/00
H01M8/02 K
H01M8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-111702(P2015-111702)
(22)【出願日】2015年6月1日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】小林 清
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 之人
【テーマコード(参考)】
5H026
【Fターム(参考)】
5H026AA06
5H026EE13
5H026HH00
5H026HH08
(57)【要約】
【課題】低温においても酸素イオン伝導度が高く、且つより低い温度で調製することができる、セラミックスを提供する。
【解決手段】
下記式(1):
La
xY
y(GeO
4)
6O
z (1)
(式(1)において、7.5≦x<8.8、1≦y≦2、2.2≦z≦2.7である)で表され、600℃における酸素イオン伝導度が2.3×10
−3[S/cm] 以上である、イットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
LaxYy(GeO4)6Oz (1)
(式(1)において、7.5≦x<8.8、1≦y≦2、2.2≦z≦2.7である)
で表され、600℃における酸素イオン伝導度が2.3×10−3[S/cm]以上である、イットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックス。
【請求項2】
600℃における酸素イオン伝導度が4.5×10−3〜6.5×10−3[S/cm]である、請求項1記載のイットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックス。
【請求項3】
式(1)において、7.7≦x≦8.7、1≦y≦2、2.3≦z≦2.7である、請求項1又は2記載のイットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックス。
【請求項4】
請求項1〜4のいずれか1項記載のイットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックスを含む、固体酸化物燃料電池用の固体電解質。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載のイットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックスを含む、酸素センサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックスに関し、詳細には、イットリウムを含み、比較的低温においても高い酸素イオン伝導性を示す、オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートは、式La
9.33+x(GeO
4)
6O
2+3x/2(0.48>x>0.07)で表される。この物質は高い酸素イオン伝導性を有することから、その焼結体(セラミックス)には固体酸化物燃料電池、及び酸素濃度検出センサー等への応用が期待されている。
【0003】
しかし、該酸素イオン伝導性は、
図1の破線で示すように800℃〜700℃の温度で急激に低下することが報告されている(非特許文献1)。これはランタン・ゲルマネートが上記温度範囲において、六方晶型から三斜晶型へと相変化するためである。
【0004】
ランタンの一部を、ランタンと等原子価のイットリウムで置換することによって、該相変化が抑制されて酸素イオン伝導性が高くなることが報告されている(非特許文献2)。同報告においてランタン・ゲルマネートは固相反応により、1100℃で24時間加熱して調製される。その後、約1時間粉砕され、8000kg/cm
2の圧力でプレスされた後、1300℃で2時間焼結されてランタン・ゲルマネートセラミックスが得られる。
【0005】
ところで、本発明者らはランタン・ゲルマネートの製造方法として、水溶液を用いた錯体重合法(又はゾル‐ゲル法)を開発した(特許文献1)。該方法は固相反応に比べて、簡易であるのみならず、700℃程度の低温で行うことができるという利点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−147365号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroshi Arikawa et al., Solid State Ionics, 136-137 (2000) 31-37
【非特許文献2】E. Kendrick, P.R. Slater, Mater. Res. Bull., 43 (2008) 2509-2513
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記ランタンの一部をイットリウムで置換したランタン・ゲルマネートも、より低温で調製することができれば、産業上好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、上記錯体重合法を応用したところ、驚くことに、非特許文献2で報告されているものよりも顕著に高い酸素イオン伝導性が達成されることを見出した。即ち、本発明は、下記式(1):
La
xY
y(GeO
4)
6O
z (1)
(式(1)において、7.5≦x<8.8、1≦y≦2、2.2≦z≦2.7である)で表され、600℃における酸素イオン伝導度が2.3×10
−3[S/cm] 以上である、イットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックスである。
また、本発明は上記イットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックスを含む固体酸化物燃料電池用の固体電解質及び酸素センサーである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のイットリウム含有ランタン・ゲルマネートセラミックスは、非特許文献2記載のほぼ同等の組成のセラミックスに比べて高い酸素イオン伝導性を示す。この理由は、但し本発明を限定する趣旨ではないが、上記錯体重合法により、固相反応に比べてより均一で微細なセラミックス前駆体が得られ、90%以上の高い相対密度を有するセラミックスがもたらされるからであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(○:実施例4、□:実施例2)、非特許文献1記載のLa
10(GeO
4)
6O
3(破線)、非特許文献2記載のLa
7.8Y
2(GeO
4)
6O
2.8(一点破線)の温度773K(実施例4については673K)〜1273Kにおける酸素イオン伝導度を比較して示すグラフである。
【
図2】
図2は、ランタン・ゲルマネート(第1、2段)、参考例2のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(第3段)、及び実施例1、2、4のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(第6〜4段)、の室温における粉末X線回折である。第5及び6段は、六方晶型ランタン・ゲルマネート及び三斜晶型のランタン・ゲルマネートの粉末X線回折をデジタルパターンで示したものである。
【
図3】
図3は、参考例2のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(第1段)、実施例3、4のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(第3及び2段)、参考例1のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(第4段)の粉末X線回折である。第5及び6段は、
図2のそれらと同様である。
【
図4】
図4は、本発明のイットリウム含有ランタン・ゲルマネート(実施例4)と、イットリウムを含まない三斜晶型のLa
9.8(GeO
4)
6O
2.7の粉末X線回折を比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のイットリウム含有オキシアパタイト型ランタン・ゲルマネートセラミックス(以下、「セラミックス」と略する場合がある)は、下記式(1)で表される。
La
xY
y(GeO
4)
6O
z (1)
式(1)において、7.5≦x<8.8、1≦y≦2、2.2≦z≦2.7であり、好ましくは7.7≦x≦8.7、1≦y≦2、2.3≦z≦2.7である。各パラメータが上記範囲内のセラミックスは、Yを含まないランタン・ゲルマネートに見られる、800℃〜700℃における急激な酸素イオン伝導度の低下が見られず、且つ、600℃において、既知の酸素イオン伝導度のうち最も高い値である2.2×10
−3[S/cm]より高い酸素イオン伝導度を有する。
【0013】
図1は、後述する実施例で調製した本発明のセラミックス(○:実施例4、□:実施例2)、非特許文献1記載のLa
10(GeO
4)O
3(破線)、及び非特許文献2記載のLa
7.8Y
2(GeO
4)O
2.8(一点破線)の、773K(実施例4については673K)〜1273Kにおける酸素イオン伝導度を比較して示すグラフである。同図において、縦軸は酸素イオン伝導度(σ[S/cm]と温度(K)の積の対数、上側横軸は温度(K)、下側横軸は温度の逆数[10
−3/K]である。非特許文献2記載のLa
7.8Y
2(GeO
4)O
2.8の600℃における酸素イオン伝導度は2.2×10
−3[S/cm]である。これに対して、本発明のLa
8.7Y
1(GeO
4)O
2.6及びLa
7.8Y
2(GeO
4)O
2.7は、夫々、6.1×10
−3、4.9×10
−3[S/cm]であり、顕著に高い。
【0014】
好ましくは、本発明のセラミックスは600℃において4.5×10
−3 [S/cm]以上の酸素イオン伝導度を示す。酸素イオン伝導度の上限値については、特に制限はないが、実際上6.5×10
−3[S/cm]程度であると概算される。該酸素イオン伝導度の測定方法の詳細は後述する。
【0015】
上記高い酸素イオン伝導度は、結晶構造に基づく。
図2は、特許文献1記載の方法で合成した粉末を1350℃で焼結した、Yを含まないランタン・ゲルマネート(第1、2段)、後述する参考例2のセラミックス(第3段)、及び実施例1、2、4のセラミックス(第6〜4段)の室温における粉末X線回折を、Laが多い順に比較して示すものである。なお、縦軸は任意スケールの強度である。同図、第5及び6段は、六方晶型ランタン・ゲルマネート及び三斜晶型のランタン・ゲルマネートの粉末X線回折をデジタルパターンで示したものである。三斜晶型は、六方晶型に比べてピークが多く、ピーク自体がブロードになる。
図2において、Yを含まないランタン・ゲルマネートは、第6段に示す三斜晶型の回折パターンと一致する。これに対して、実施例1、2及び4の回折は第5段に示す六方晶型の回折パターンと良い一致を示し、高い酸素イオン伝導度につながっている。
【0016】
図4は、六方晶型と三斜晶型のX線回折における差をより明確に示すために、
図2の第1段目のLa
9.8(GeO
4)
6O
2.7と、同図第4段の実施例4のセラミックスのX線回折を抜き出したものである。矢印で示す2θ(度)において、両者に差があることが分かる。
【0017】
本発明のY含有ランタン・ゲルマネートセラミックスは、以下の工程(1)〜(4)を含む錯体重合法で作ることができる。
(1)ランタン源、イットリウム源、ゲルマニウム源を夫々含む水溶液を調製する工程、
(2)工程(1)で得られる3つの水溶液を所定の比で混合してpHを調整することによって、粘性ゲルを生成する工程、
(3)工程(2)で得られる粘性ゲルを加熱して、粉体状ゲルを得る工程、
(4)工程(3)で得られる粉体状ゲルを焼結する工程。
【0018】
工程(1)において、ランタン源としては例えば硝酸ランタン6水和物を用い、これを0.1〜2モル%、好ましくは1〜2モル%の濃度で水に溶解する。イットリウム源としては例えば硝酸イットリウム6水和物を用い、これを0.1〜2モル%、好ましくは1〜2モル%の濃度で水に溶解する。ゲルマニウム源としては例えば二酸化ゲルマニウムを用い、これを0.005〜0.5モル%、好ましくは0.01〜0.1モル%の濃度で、pH9〜10の希アンモニア水等の塩基性溶液に溶解する。水としては、蒸留水、脱イオン水、超純水等を用いることができる。
【0019】
工程(2)において、工程(1)で得られた各水溶液を、目的とする組成に応じた量比で混合する。混合の順番は任意でよい。次いで、混合液のpHを1〜1.8、好ましくは1.3〜1.8に調整する。調整に用いる酸としてはクエン酸等の有機酸が好ましく、より好ましくは該有機酸当量:(ゲルマニウム、イットリウム及びランタンの合計当量又は価数)が1:1〜1:2、好ましくは1:1.5〜1:1.7である。本工程において、粘性ゲルが得られる。
【0020】
工程(3)において、上記ゲルを、加熱マントルを用いて300〜600℃、好ましくは300〜500℃で加熱する。1〜3時間程度の加熱で、灰状の生成物が得られる。該生成物を粉砕し、好ましくは残留炭素を除去するために700〜800℃で加熱する。このように、固相反応に比べて顕著に低い温度の加熱によって、本発明のセラミックスの前駆体であるY含有ランタン・ゲルマネートを粉体状ゲルの形態で得ることができる。
【0021】
工程(4)において、得られた粉体状ゲルを、空気下で1330〜1400℃で5〜7時間焼結することによって、本発明のセラミックスを得ることができる。
【0022】
得られたセラミックスは、上述のとおり600℃程度の低温においても、優れた酸素イオン伝導度を示し、酸素センサーとして有用であるだけでなく、固体酸化物燃料電池用の固体電解質としても好適である。現在のところ、固体酸化物燃料電池には、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等の固体酸化物電解質が用いられ、700〜1,000℃の高温で運転される。本発明のセラミックスを用いれば電池の運転温度を600℃程度に低下することができるので、エネルギー効率を顕著に向上することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜4、参考例1、2>
下記手順により、表1に示す組成のランタン・ゲルマネートセラミックスを調製した。
(1)硝酸ランタン6水和物を1.9モル%の濃度で、硝酸イットリウム6水和物を1.0モル%の濃度で、夫々、蒸留水に溶解した。二酸化ゲルマニウムをpH9.5の希アンモニア水溶液に0.01モル%の濃度で溶解した。
(2)上記3つの水溶液を、表1に示す各組成になるような量で混合したところ、白色の沈殿が生じた。該沈殿を、硝酸を加えることによって溶解し、得られた反応液に、クエン酸と希アンモニア水を、pHが約1.8になるように添加した。クエン酸当量:(ゲルマニウム、イットリウム及びランタンの合計当量)は約1:1であった。
(3)生成された粘性ゲルを、加熱マントルを用いて673K(400℃)で加熱した。得られた灰状の生成物を粉砕し、残留炭素を除去するために1003K(730℃)で加熱した。
(4)得られた粉体を、空気下で、1623K(1350℃)で6時間焼結した。得られたセラミックスの相安定性は、873Kで12時間加熱することにより確認した。
【0024】
<比較例1>
比較例1として、非特許文献1記載のLa
10(GeO
4)
6O
3のデータを示す。
【0025】
<比較例2>
比較例2として、非特許文献2記載のLa
7.8Y
2(GeO
4)
6O
2.8のデータを示す。
【0026】
<粉末X線測定>
上記工程(3)で得られた粉体について、室温でリガク社製RINT-2500装置を用い(測定条件:CuKα線、12kW(管球電圧40kV、管球300mA))、粉末X線測定を行った。
【0027】
<酸素イオン伝導度測定>
実施例2〜4、参考例2について、下記手順で酸素イオン伝導度を測定した。
直径約16mm、厚み約1mmになるよう1623Kで6時間焼結した試料の両面に白金ペーストを用いて電極を取り付けた。イオン伝導度はプリンストンアプライドリサーチ社製VersaStat 3により交流インピーダンス法で測定した。試料を測定セルに取り付けた後、電気炉温度を1000℃まで1分間に10℃の速度で昇温した。測定温度に達した後、30分から1時間該温度で保持した後にインピーダンス測定を開始した。インピーダンス測定後、50℃おきに降温、温度保持したのちに測定する操作を4000℃まで繰り返した。結果を表1に示す。
【0028】
<セラミックスの相対密度>
実施例2、3、4、参考例2のセラミックスの相対密度をアルキメデス法によって測定した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
図2及び4に関して上述したとおり、実施例1〜4の粉末X線回折は、六方晶型を有し、酸素イオン伝導度が高く、相対密度も90%以上である。比較例2の相対密度に関し、非特許文献2には「理論密度に対する相対密度>85%」とあるのみで、実測値は示されていないが、その酸素イオン伝導度から考えると本発明の実施例には及ばない。参考例1は(
図3、第4段)、X線回折においてLa
2Ge
2O
7のピークが検出され(図中●で示す)、2相含まれていることが分かった。また、参考例2(
図3、第1段)は三斜晶型となっていた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のイットリウム含有ランタン・ゲルマネートセラミックスは600℃程度の低い温度においても酸素イオン伝導性が高い。また、同セラミックスの前駆体は、有機酸を用いた錯体重合法により、固相反応に比べてより低い温度で調製することができる。該イットリウム含有ランタン・ゲルマネートセラミックスは酸素センサー、固体酸化物燃料電池用の固体電解質用途に好適である。