上記目的は、重合度2以上の澱粉分解物、転移反応物又は乳糖の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸並びにその塩及びそのラクトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する、血糖値上昇抑制組成物により解決される。本発明は、糖尿病や肥満に関係する疾病を予防又は治療することができるものである。
重合度2以上の澱粉分解物、転移反応物又は乳糖の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸並びにその塩及びそのラクトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する、血糖値上昇抑制組成物。
前記糖カルボン酸が、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸及びラクトビオン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1に記載の血糖値上昇抑制組成物。
前記糖カルボン酸が、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物又はデキストリン酸化物の形態で含まれる、請求項1又は2記載の血糖値上昇抑制組成物。
前記塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、鉄塩、カリウム塩、亜鉛塩及び銅塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制組成物。
前記ラクトンが、マルトビオノラクトン、イソマルトビオノラクトン、マルトトリオノラクトン、イソマルトトリオノラクトン、マルトテトラオノラクトン、マルトヘキサオノラクトン及びラクトビオノラクトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の血糖値上昇抑制組成物。
【背景技術】
【0002】
肥満は様々な疾病の原因となることが知られており、そのような疾病の一つとして糖尿病がある。肥満状態になると、脂肪細胞の肥大が認められ、脂肪細胞のみならず、筋肉細胞や肝細胞などのインスリンの標的細胞が細胞レベルでインスリン感受性の低下を起こす。結果として、糖忍容能が悪化し、最終的に糖尿病が発症する。
【0003】
糖尿病の治療にはインスリン投与がある。しかし、定期的なインスリン注射が必要であり、患者の負担はもとより、高い自己管理能力が求められる。
【0004】
インスリン注射を代替する手段として、経口糖尿病治療薬の服用がある。経口糖尿病治療薬としては、例えば、インスリンの分泌を促進させるスルホニルウレア剤、組織や細胞に働いて血糖値を降下させるインスリン抵抗性改善剤、腸管内での多糖類の分解を阻害するα−グルコシダーゼ阻害剤などがある。しかし、これらの薬剤は、血糖値を過剰に降下させて低血糖を引き起こすことなどの副作用を生じせしめる。
【0005】
上記のような糖尿病の治療法は、侵襲方法による苦痛や副作用が生じるとしても、重篤な糖尿病罹患者に対しては有効である。しかし、軽度の糖尿病患者や糖尿病にまでは至らなくとも血糖値上昇に懸念がある者にとっては、到底有効であるとはいえない。
【0006】
そこで、糖尿病の予防や早期治療に有用な成分や組成物がこれまでに報告されており、例えば、特許文献1及び2には甘藷茎葉の乾燥粉末又は抽出物とα−リポ酸とを含有する抗肥満剤や松樹皮抽出物と食物繊維とを含有する血糖値上昇抑制剤が開示されている。 また、非特許文献1には、難消化性デキストリンが耐糖能を有することが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
確かに、特許文献1及び2に記載の抗肥満剤や血糖値上昇抑制剤、並びに非特許文献1に記載の難消化性デキストリンは、糖尿病の予防や糖尿病の原因となる肥満に対して有効である。しかし、これらは、有効成分が天然物に由来する物質であり、工業的に合成することが困難なものである。また、これらの有効成分の他にも、例えば、呈味性を有する物質が血糖値の上昇を抑制できるものであれば、糖尿病患者や糖尿病予防者にとって非常に有用である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、工業的に合成することが可能であり、かつ、呈味性を有する物質を有効成分として含む、血糖値上昇抑制組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の物質について鋭意検討を積み重ねたところ、驚くべきことに、マルトビオン酸やラクトビオン酸などの重合度2以上の澱粉分解物、転移反応物又は乳糖の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸又はそれらの塩やラクトンを含有する組成物は、グルコースとともに投与した場合に、血糖値上昇抑制作用及び早期の血糖値低下作用を示し、しかもその程度は非特許文献1に記載の難消化性デキストリンと同等又はそれ以上であることを見出した。糖カルボン酸は、特開2012−131750号公報に記載されているとおりに、澱粉分解物であるマルトースや水飴、デキストリン等を原料として工業的規模で化学的に合成することが可能なものである。また、ラクトビオン酸は、特開2012−5401号公報に記載されているとおりに、ラクトースを原料として工業的規模で微生物学的又は酵素学的に合成することが可能なものである。また、糖カルボン酸であるマルトビオン酸やラクトビオン酸は、特開昭47−20372号公報に記載されているとおり、呈味性を改善することができるものである。本発明は、かかる知見に基づき、完成された発明である。
【0012】
したがって、本発明によれば、重合度2以上の澱粉分解物、転移反応物又は乳糖の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸並びにその塩及びそのラクトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含有する、血糖値上昇抑制組成物が提供される。
【0013】
好ましくは、本発明の血糖値上昇抑制組成物において、前記糖カルボン酸が、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸及びラクトビオン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む。
【0014】
好ましくは、本発明の血糖値上昇抑制組成物において、前記糖カルボン酸が、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物又はデキストリン酸化物の形態で含まれる。
【0015】
好ましくは、本発明の血糖値上昇抑制組成物において、前記塩が、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、鉄塩、カリウム塩、亜鉛塩及び銅塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む。
【0016】
好ましくは、本発明の血糖値上昇抑制組成物において、前記ラクトンが、マルトビオノラクトン、イソマルトビオノラクトン、マルトトリオノラクトン、イソマルトトリオノラクトン、マルトテトラオノラクトン、マルトヘキサオノラクトン及びラクトビオノラクトンからなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血糖値上昇抑制組成物を摂取することにより、血糖値の上昇を抑制することができ、さらに血糖値を低下させることも期待できる。また、本発明の血糖値上昇抑制組成物の有効成分であるマルトビオン酸やラクトビオン酸などの重合度2以上の澱粉分解物、転移反応物又は乳糖の還元末端側のアルデヒド基が酸化された糖カルボン酸は呈味性を有する物質であることから、本発明の血糖値上昇抑制組成物は、経口用途に適用することが可能である。
【0018】
本発明の経口用組成物は、糖尿病患者や糖尿病のリスクがある者に対して、抗糖尿病薬の投薬前又は並行して摂取するのに最適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の血糖値上昇抑制組成物は、有効成分として、糖カルボン酸並びにその塩及びそのラクトンからなる群から選ばれる1種又はそれらの2種以上を少なくとも含有することを特徴とする。
【0021】
本発明において糖カルボン酸とは、重合度2以上の澱粉分解物、転移反応物又は乳糖の還元末端側のアルデヒド基が酸化されたものをいい、さらにこれらの塩やラクトンの形態も含む。
【0022】
具体例としては、マルトビオン酸、イソマルトビオン酸、マルトトリオン酸、イソマルトトリオン酸、マルトテトラオン酸、マルトヘキサオン酸、ラクトビオン酸、マルトオリゴ糖酸化物、分岐オリゴ糖酸化物、水飴酸化物、粉飴酸化物、デキストリン酸化物等が挙げられる。本発明において好ましく用いられる糖カルボン酸は、マルトビオン酸及びラクトビオン酸並びにそれらの塩である。
【0023】
本発明で用いられる糖カルボン酸はその形態は問わず、液体、粉末でもよく、遊離の酸のみならず、塩又はラクトンの形態であってもよく、これらを組み合わせてもよい。塩の形態においては、カルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、鉄塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩などが挙げられる。
【0024】
糖カルボン酸は、澱粉分解物、転移反応物又は乳糖を化学的な酸化反応により酸化する方法や、澱粉分解物、転移反応物又は乳糖にオリゴ糖酸化能を有する微生物或いは酸化酵素を作用させる反応により製造することができる。
【0025】
化学的な酸化反応としては、例えば、パラジウム、白金、ビスマスなどを活性炭などに担持させた酸化触媒の存在下で、澱粉分解物、転移反応物又は乳糖と酸素とをアルカリ雰囲気下で接触酸化させることにより糖カルボン酸を得る方法が挙げられる。
【0026】
また、オリゴ糖酸化能を有する微生物を用いた方法としては、例えば、パントエア属、アシネトバクター属、ブルクホルデリア属、アセトバクター属、グルコノバクター属などを用い、澱粉分解物、転移反応物又は乳糖を微生物変換や発酵することにより糖カルボン酸を得る方法が挙げられる。該方法の具体例として、特開2012−5401号公報に記載されている方法が挙げられる。
【0027】
酸化酵素を用いた方法としては、例えば、前記オリゴ糖酸化能を有する微生物由来の酸化酵素を用いて澱粉分解物、転移反応物又は乳糖からマルトビオン酸等を得る方法や、バチラス・ステアロサーモフィラスやテルモアナエロバクター属由来の転移能の高いシクロデキストリン合成酵素を用い、可溶性澱粉又はマルトオリゴ糖とグルコン酸とからなる基質から転移反応で糖カルボン酸を得る方法が挙げられる。
【0028】
化学的な酸化反応による製造方法の一例を挙げれば、まず、50℃に保持した20wt%マルトース溶液 100mlに5wt%白金炭素触媒 3gを加え、100mL/minで酸素を吹き込みながら600rpmで攪拌する。次いで反応pHを10N水酸化ナトリウム溶液を滴下することでpH9.0に維持する。次いで酸化反応終了後、遠心分離とメンブレンフィルターろ過により触媒を取り除き、マルトビオン酸ナトリウム溶液を得ることができる。このように得たマルトビオン酸ナトリウム溶液をカチオン交換樹脂又は電気透析により脱塩することで、マルトビオン酸を得ることができる。
【0029】
また、マルトビオン酸に各種塩類を添加することで、マルトビオン酸塩を調製することが可能であり、マルトビオン酸を用いる場合は脱水操作によりマルトビオノデルタラクトンの調製も可能である。マルトビオノデルタラクトンは水に溶かすと速やかにマルトビオン酸となる。
【0030】
マルトビオン酸カルシウムの製造法については、例えば、上記の方法で得られたマルトビオン酸溶液に炭酸カルシウムなどのカルシウム源を2:1のモル比となるように添加し溶解させる方法などが挙げられる。カルシウム源としては特に限定されないが、例えば、可食性のカルシウムであり、具体的には卵殻粉末、サンゴ粉末、骨粉末、貝殻粉末などの天然素材や炭酸カルシウム、塩化カルシウムなどの化学合成品などがある。
【0031】
糖カルボン酸は、後述する実施例に記載があるとおり、これらと同時的に摂取した糖の影響によって生じる血糖値の上昇を抑制する作用や上昇した血糖値を早期に低下する作用を有する。また、糖カルボン酸は、同時的に摂取した糖の影響だけではなく、糖カルボン酸の摂取の前又は後に摂取した糖の影響を緩和又は低減し得ると考えてよい。
【0032】
糖カルボン酸の使用量は、摂取した場合に血糖値上昇抑制作用を示す程度の量であれば特に限定されず、血糖値上昇抑制組成物の種類や形態などに応じて適宜設定できるが、例えば、血糖値上昇抑制組成物に対して、0.0001wt%〜100wt%、好ましくは0.001wt%〜50wt%、さらに好ましくは0.01wt%〜30wt%である。血糖値上昇抑制組成物が糖などの血糖値上昇成分を含む場合は糖カルボン酸の使用量を多くし、糖カルボン酸とは異なるその他の血糖値上昇抑制成分をさらに含む場合は糖カルボン酸の使用量を減らすことができる。
【0033】
糖カルボン酸の使用形態は特に限定されず、例えば、液体状の糖カルボン酸そのものや液体状の糖カルボン酸を担体に担持させた状態のものを使用することができる。
【0034】
本発明の血糖値上昇抑制組成物は、糖カルボン酸を有効成分として含有することにより、血糖値上昇抑制作用や早期血糖値低下作用を示し得る。ただし、これらの作用のうち、本発明の血糖値上昇抑制組成物は、少なくとも血糖値上昇抑制作用を示すものであればよい。本発明の血糖値上昇抑制組成物は、該作用を得ることを目的とした種々の形態で利用され得る。例えば、特別な処理を加えることなく種々の目的に利用されてもよい。本発明の血糖値上昇抑制組成物は、血糖値上昇抑制剤という態様をとり得る。
【0035】
本発明の血糖値上昇抑制組成物の成人1日の摂取量は特に限定されず、摂取者の血糖値の程度や摂取態様に応じて適宜設定され得るが、例えば、糖カルボン酸の質量換算で、摂取者の体重を基準として、0.1〜5,000mg/kgであり、好ましくは1〜2,000mg/kgであり、より好ましく10〜1,000mg/kgである。
【0036】
上述したとおり、本発明の血糖値上昇抑制組成物の利用形態は特に限定されないが、例えば、経口用血糖値上昇抑制組成物とすることができる。本発明の経口用血糖値上昇抑制組成物の形態は特に限定されず、任意の形態とすることができる。本発明の経口用血糖値上昇抑制組成物の形態としては、例えば、経口摂取に適した形態、具体的には液状、粉末状、粒状、顆粒状、錠状、棒状、板状、ブロック状、固形状、丸状、ペースト状、ハードカプセルやソフトカプセルのようなカプセル状、カプレット状、タブレット状、ゲル状などの各形態が挙げられる。本発明の経口用血糖値上昇抑制組成物の具体例として、形態が液体状の経口用血糖値上昇抑制組成物が挙げられる。
【0037】
本発明の血糖値上昇抑制組成物の使用方法は特に限定されないが、例えば、液状体の形態である場合、この液状体をそのまま、又は水などで希釈するなどして、飲むことにより経口摂取することができる。摂取者の好みなどに応じて、このような液状物と他の固体物とを混ぜて経口摂取してもよい。
【0038】
本発明の血糖値上昇抑制組成物は、糖カルボン酸のみを単一成分とすることができ、又は糖カルボン酸とその他の成分とを組み合わせたものとすることができる。その他の成分としては特に限定されないが、例えば、増粘剤、光沢剤、製造用剤などをその他の成分として用いることができる。これら以外にも、種々の賦形剤、結合剤、滑沢剤、安定剤、希釈剤、増量剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料などをその他の成分として用いることができる。その他の成分の含有量は、本発明の血糖値上昇抑制組成物の形態などに応じて適宜選択することができる。
【0039】
本発明の血糖値上昇抑制組成物は、その血糖値上昇抑制作用や早期の血糖値低下作用により、これを摂取することは、糖尿病罹患者、高血糖値や肥満の者及びそのリスクがある者に対しての健康維持に有用であり、特に糖尿病患者や肥満者の健康維持に非常に有用である。
【0040】
本発明の経口用血糖値上昇抑制組成物は、血糖値上昇抑制という機能を有する。また、糖カルボン酸が呈味性物質であることから、経口用途に適用することが可能である。
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0042】
[例1.マルトオリゴ糖酸化物の血糖値上昇抑制作用]
以下のとおりに、ラットを用いて、マルトビオン酸を含むマルトオリゴ糖酸化物の血糖値上昇抑制作用を評価した。
【0043】
(1)被験物質
実施例としてマルトビオン酸を主成分とするマルトオリゴ糖酸化物(粘性の液体;サンエイ糖化株式会社製)及び参考例として難消化性デキストリン(白色の粉末;松谷化学工業株式会社製)を用いた。また、被験物質とともに投与する糖類として、D−(+)−グルコース(白色の粉末;ナカライテスク株式会社製)を用いた。なお、マルトオリゴ糖酸化物中(HPLC法;固形分換算)には、マルトビオン酸 65wt%に加えて、グルコン酸 3.5wt%、マルトトリオン酸 20.3wt%及びマルトテトラオン酸(重合度4)以上のマルトオリゴ糖酸化物 約11wt%を含む。
【0044】
(2)被験試料
蒸留水を溶媒として、グルコース及び各被験物質を、下記表1に記載の濃度になるように調製して、被験試料とした。
【0045】
【表1】
【0046】
(3)被験動物
6週齢の雄性SD系ラット(九動株式会社から入手)を、試験環境下で6日間馴化した。このようにして、試験には7週齢のラットを用い、試験当日に健常な被験動物の血糖値及び体重がほぼ均一となるように群分けした。馴化の際にはMF固形飼料(オリエンタル酵母工業株式会社製)及び水を自由摂取させた。試験に際しては、SD系ラットを、試験前日から16時間以上絶食させた。
【0047】
(4)試験手順
下記表2に示すとおりに、被験動物を、被験試料投与前(0分)の血糖値及び体重が均一になるように、各群が6匹になるように群分けした(優先順位:血糖値>体重)。グルコース2,000mg/kg及び各群に対応する被験試料を強制経口投与(10mL/kg)した。投与30及び120分後に尾静脈より採血を行い、小型血糖値測定器(グルテストエース;株式会社三和化学研究所製)を用いて血糖値を測定した。血糖値を指標として、マルトオリゴ糖酸化物の血糖値上昇抑制作用を評価した。なお、マルトオリゴ糖酸化物の投与量は、540mg/kgを最高用量として3倍公比で3用量を設定し、それぞれマルトオリゴ糖酸化物高用量群、マルトオリゴ糖酸化物中用量群及びマルトオリゴ糖酸化物低用量群とした。被験物質を含まないグルコースのみを投与する群をコントロール群とし、マルトビオン酸の代わりに難消化性デキストリンを投与する群を難消化性デキストリン群とした。試験手順の概要を図示したものを
図1に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
被験試料の強制経口投与は、被験動物の個体別に、試験日の体重に基づいて、被験試料 10mL/kgを、ゾンデを用いて実施した。また、体重の測定には動物用電子天秤を用いた。
【0050】
(5)統計処理
測定により得られた数値は、各群で平均値(mean)及び標準偏差(S.D.)を算出した。検定は、コントロール群と各被験物質群との間の2群間比較(対応のないt検定)により行った。有意水準は、危険率5%及び1%とした。
【0051】
(6)血糖値測定結果
血糖値の推移結果を表3及び
図2に示す。コントロール群と比較して、難消化性デキストリン群では投与30分後に、血糖値の低下傾向がみられた(p=0.06)。マルトオリゴ糖酸化物高用量群で投与30分後に有意な低下がみられた(p<0.05)。マルトオリゴ糖酸化物中用量群において投与30分後に有意な低下がみられた(それぞれp<0.01、p<0.05)。マルトオリゴ糖酸化物低用量群において投与30分後及び120分後に有意な低下がみられた(p<0.01、p<0.05)。以上のとおり、マルトオリゴ糖酸化物を用いた試験群から、マルトオリゴ糖酸化物はグルコース投与に伴う血糖値の急激な上昇を抑制する作用を有し、さらにより早期にグルコース投与の影響を緩和して血糖値を低下する作用を有することがわかった。
【表3】
【0052】
(7)血糖変化値結果
被験試料投与前(0分)の血糖値を基準とした血糖値の変化を示す血糖変化値の結果を表4及び
図3に示す。コントロール群と比較して、難消化性デキストリン群では、投与30分後に有意な低下がみられた(p<0.05)。マルトオリゴ糖酸化物高用量群では投与30分後に有意な低下がみられた(p<0.05)。マルトオリゴ糖酸化物中用量群では投与30分後に有意な低下がみられた(それぞれp<0.01、p=0.07)。マルトオリゴ糖酸化物低用量群では投与30分後に有意な低下、120分後に低下傾向がみられた(それぞれp<0.05、p=0.05)。以上のとおり、マルトオリゴ糖酸化物を用いた試験群から、マルトオリゴ糖酸化物はグルコース投与に伴う血糖値の急激な上昇を抑制する作用を有し、さらにより早期にグルコース投与の影響を緩和して血糖値を低下する作用を有することがわかった。特に、マルトオリゴ糖酸化物高用量群において、有意な血糖値低下作用がみられた。
【表4】
【0053】
以上のとおり、マルトオリゴ糖酸化物を投与した場合、用量に限らず血糖値上昇抑制作用が確認された。特に、低用量(60mg/kg)であっても血糖値上昇抑制作用が認められたという知見は驚くべきことである。特にマルトオリゴ糖酸化物は、それ自体が糖質であることから、マルトオリゴ糖酸化物によって血糖値の上昇を抑制できる事象は、本発明者らによって初めて見出された非常に特異な現象である。
【0054】
[例2.マルトビオン酸塩及びラクトビオン酸塩の血糖値上昇抑制作用]
以下のとおりに、ラットを用いて、マルトビオン酸塩及びラクトビオン酸塩の血糖値上昇抑制作用を評価した。
【0055】
(1)被験物質
実施例としてマルトビオン酸カルシウム(サンエイ糖化株式会社製)、ラクトビオン酸カルシウム(サンエイ糖化株式会社製)及びマルトオリゴ糖酸化物(サンエイ糖化株式会社製)を用いた。また、被験物質とともに投与する糖類として、D−(+)−グルコース(ナカライテスク株式会社製)を用いた。なお、マルトビオン酸中(HPLC法;固形分換算)には、マルトビオン酸 67.2wt%に加えて、グルコン酸 0.7wt%、マルトトリオン酸 24.4wt%及びマルトテトラオン酸(重合度4)以上のマルトオリゴ糖酸化物 約7.7wt%を含む。マルトビオン酸カルシウム及びラクトビオン酸カルシウムは純品相当のものである。
【0056】
(2)被験試料
蒸留水を溶媒として、グルコース及び各被験物質を、下記表5に記載の濃度になるように調製して、被験試料とした。
【表5】
【0057】
(3)被験動物
8週齢の雄性SD系ラット(九動株式会社から入手)を、試験環境下で6日間馴化した。このようにして、試験には9週齢のラットを用いた。
【0058】
(4)試験手順
下記表6に示すとおりに、被験動物を、被験試料投与前(0分)の血糖値及び体重が均一になるように、各群が5匹になるように群分けした(優先順位:血糖値>体重)。グルコース2,000mg/kg及び各群に対応する被験試料を強制経口投与(10mL/kg)した。以降の試験手順は、例1と同様に実施した。
【0059】
【表6】
【0060】
(5)統計処理
測定により得られた数値は、各群で平均値(mean)及び標準偏差(S.D.)を算出した。検定は、コントロール群と各被験物質群との間の2群間比較(対応のないt検定)により行った。有意水準は、危険率5%及び1%とした。
【0061】
(6)血糖値測定結果
血糖値の推移結果を表7及び
図4に示す。コントロール群と比較して、被験物質群では投与30分後に血糖値の低下傾向がみられた。特に、マルトビオン酸Ca1000群、マルトビオン酸Ca500群及びラクトビオン酸Ca2000群で投与30分後に有意な低下がみられ(p<0.05)、マルトオリゴ糖酸化物60群で投与30分後に格別顕著な低下がみられた(p<0.01)。以上のとおり、マルトオリゴ糖酸化物と同様にマルトビオン酸カルシウム及びラクトビオン酸カルシウムはグルコース投与に伴う血糖値の急激な上昇を抑制する作用を有し、さらにより早期にグルコース投与の影響を緩和して血糖値を低下する作用を有することがわかった。
【0062】
【表7】
【0063】
(7)血糖変化値結果
被験試料投与前(0分)の血糖値を基準とした血糖値の変化を示す血糖変化値の結果を表8及び
図5に示す。コントロール群と比較して、被験物質群では投与30分後に全体的な低下傾向がみられた。特に、マルトビオン酸Ca1000群及びマルトビオン酸Ca500群で投与30分後に有意な低下がみられ(p<0.05)、マルトオリゴ糖酸化物60群で投与30分後に格別顕著な低下がみられた(p<0.01)。また、ラクトビオン酸Ca2000群でも、コントロール群と比較して、有意傾向があることが示された(p<0.10)。以上のとおり、マルトオリゴ糖酸化物と同様にマルトビオン酸カルシウム及びラクトビオン酸カルシウムはグルコース投与に伴う血糖値の急激な上昇を抑制する作用を有し、さらにより早期にグルコース投与の影響を緩和して血糖値を低下する作用を有することがわかった。
【0064】
【表8】