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特開2016-222581硫酸化ビテキシン2”または硫酸化イソビテキシン2”の前駆体、メラニン生成抑制剤およびそれらを含む飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222581(P2016-222581A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】硫酸化ビテキシン2”または硫酸化イソビテキシン2”の前駆体、メラニン生成抑制剤およびそれらを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
   C07D 309/10 20060101AFI20161205BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20161205BHJP
   C07D 311/54 20060101ALI20161205BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALN20161205BHJP
   A61K 8/49 20060101ALN20161205BHJP
【FI】
   C07D309/10CSP
   A23L1/30 Z
   C07D311/54
   A61Q19/02
   A61K8/49
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-109846(P2015-109846)
(22)【出願日】2015年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】石田 均司
【テーマコード(参考)】
4B018
4C062
4C083
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018ME14
4C062AA06
4C062AA17
4C062EE73
4C083AC841
4C083EE16
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安全性の高い茶葉由来の美白成分を有効成分とするメラニン生成抑制剤、及び該美白成分を多く含む飲食品の提供。
【解決手段】式(1)で表される化合物X等を前駆体とする、式(8)で表される硫酸化ビテキシン2”を有効成分とするメラニン生成抑制剤。


【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される化合物X、および下記化学式(2)から(7)で表されるその互変異性体。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【請求項2】
下記化学式(8)で表される硫酸化ビテキシン2”を有効成分とするメラニン生成抑制剤。
【化8】
【請求項3】
請求項2に記載のメラニン生成抑制剤を、前記硫酸化ビテキシン2”量に換算して1日当たり1mg/kg体重以上摂取するための飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全性の高い茶葉由来のメラニン生成抑制剤とそれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ・ソバカス等の色素沈着は、紫外線照射等によって活性化されたメラノサイト(=表皮基底層に存在する色素細胞)がメラニンを過剰に産生し、当該メラニンが隣接する角化細胞内に蓄積することで生じる。この色素沈着の予防・改善方法としては、メラノサイトの活性化を抑えてメラニン生成を抑制し得る成分(すなわち、美白成分)の経口摂取および/または当該成分を配合した皮膚外用剤の塗布が一般的である。しかしながら、美白成分として用いられる化合物(特に化学合成品)の中には安全性が心配されるものもあるため、安全性の高い植物に由来する美白成分を求める消費者も多い。
【0003】
そのような植物として、茶は大変期待される植物である。茶葉は古くから飲用に用いられており、種々の効用とともに安全性が広く認められている。そして、茶葉に含まれるフラボンC配糖体(糖のアノメリック炭素とフラボンが共有結合した化合物)であるチャフロサイドA(chafuroside A、式(1))およびチャフロサイドB(chafuroside B、式(2))には、紫外線照射によるメラノサイトの活性化に対する抑制効果が報告されている(特許文献1および2)。チャフロサイドAとBは構造異性体の関係にあるが互変異性体ではなく、チャフロサイドBの方がチャフロサイドAよりも当該効果に優れることが明らかにされている(特許文献2)。
【0004】
【化1】
【0005】
【化2】
【0006】
このように、チャフロサイドAとB(特に、チャフロサイドB)は植物由来で安全性の高い美白成分だが、茶葉中の含有量が非常に低いという問題があった。特にチャフロサイドBの含有量は非常に低く(通常、チャフロサイドAの1/3程度)、最も多く含まれるウーロン茶葉で2〜3μg/茶葉1g、緑茶葉では2〜30ng/茶葉1g程度である。よって、茶葉からのチャフロサイドAとBの単離は低収率・高コストとなり実用性に乏しいため、類縁のフラボンC配糖体であるイソビテキシン(isovitexin)およびビテキシン(vitexin)から光延反応によってチャフロサイドAおよびBを合成する方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、当該方法は爆発の危険性の高いアゾ試薬を要するため、工業的な大量生産には不向きである。
【0007】
この問題に対して本発明者は、チャフロサイドAおよびBの合成経路に注目し、チャフロサイドAの前駆体としてイソビテキシンの硫酸化体(式3で表されるisovitexin 2”-O-sulfate (硫酸化イソビテキシン2”))を、チャフロサイドBの前駆体としてビテキシンの硫酸化体(式4で表されるvitexin 2”-O-sulfate (硫酸化ビテキシン2”))をそれぞれ同定した(特許文献4参照)。そして、(1)茶葉内で硫酸化ビテキシン2”の含有量を増加させる加熱処理条件と、(2)硫酸化ビテキシン2”からチャフロサイドBへの変換を促進する加熱処理条件は異なることを見出し、茶葉に対して(1)の加熱処理後に(2)の加熱処理を行うことにより、チャフロサイドBを高濃度に含む乾燥茶葉を製造できることを示している(特許文献5)。
【0008】
【化3】
【0009】
【化4】
【0010】
しかしながら、特許文献5の方法は硫酸化ビテキシンからチャフロサイドBが生じる反応を促進する方法である。よって、“硫酸化ビテキシン2”の前駆体”を多く含む茶葉ほど、特許文献5の方法によって硫酸化ビテキシン2”(またはその下流の産物であるチャフロサイドB)含有量の大幅な増加が期待されることになる。けれども、硫酸化ビテキシン2”の上流については研究が進んでなく、当該前駆体については全く未知であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−219076号公報
【特許文献2】WO2012/141255号公報
【特許文献3】特開2005−289888号公報
【特許文献4】WO2010/076879号公報
【特許文献5】特許5229839号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Journal of Agricultural and Food Chemistry,第57巻、6779−6786頁(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、安全性の高い茶葉由来の美白成分を有効成分とするメラニン生成抑制剤、および、該美白成分を多く含む飲食品の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明者が鋭意研究を行った結果、チャフロサイドBのみならず、その前駆体である硫酸化ビテキシン2”も、メラニン生成抑制剤として機能し得ることを見出した。そして、茶葉の熱水抽出物より、当該硫酸化ビテキシン2”を生じ得る前駆体として新規化合物(=化合物X)の同定に成功し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明によって、硫酸化ビテキシン2”を生じる前駆体として、下記化学式(5)から(11)のいずれかで表される化合物Xが提供される。なお、式(6)から(11)で表される化合物はすべて式(5)の互変異性体である。即ち、式(6)で表される化合物及び式(7)で表される化合物は、2つのベンゼン環の間にエノール構造を、式(5)で表される化合物はβ−ジケトン構造を有している。式(6)で表される化合物及び式(7)で表される化合物と式(5)で表される化合物とは、ケト−エノール互変異性体の関係にある化合物である。また、式(8)、式(9)、式(10)で表される化合物及び式(11)で表される化合物は、式(5)で表される化合物、式(6)で表される化合物、又は式(7)で表される化合物において環化付加反応によって生成する化合物であり、閉環(環化)反応と開環反応が可逆的に生じるため、式(5)で表される化合物、式(6)で表される化合物、及び式(7)で表される化合物と互換可能な化合物なのである。
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【0016】
そして、本発明により、硫酸化ビテキシン2”を有効成分とするメラニン生成抑制剤が提供される。
さらに、前記メラニン生成抑制剤を、硫酸化ビテキシン2”量に換算して1日当たり1mg/kg体重以上摂取するための飲食品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、硫酸化ビテキシン2”を有効成分とする植物由来で安全性の高いメラニン生成抑制剤、および、当該硫酸化ビテキシン2”の前駆体である化合物Xが提供される。そして、化合物Xを多く含む茶葉を用いることにより、前記硫酸化ビテキシン2”を含有するメラニン生成抑制剤および飲食品が容易に製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】硫酸化イソビテキシン2”または硫酸化ビテキシン2”を経口投与したマウスに紫外線を照射し、活性化されたメラノサイト数(=DOPA陽性メラノサイト数)を計測した結果である。
図2】化合物Xから硫酸化イソビテキシン2”および硫酸化ビテキシン2”が生成する機構を示した図である。
図3】化合物Xの7種類の互変異性体が相互に生じる機構を示した図である。
図4】NMR解析結果より示唆された化合物X(7種類の互変異性体)の構造を表す図である。
図5】化合物Xのメチル化体として得られる2つ異性体の構造を示した図である。
図6】化合物Xからメチル化体が生じる反応機構を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0020】
[硫酸化ビテキシン2”の前駆体]
本発明において見出された硫酸化ビテキシン2”の前駆体は、下記化学式(5)から(11)のいずれかで表される新規化合物Xである。
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【0021】
この化合物Xは、適切な加熱処理により、硫酸化ビテキシン2”及び/または硫酸化イソビテキシン2”へと効率良く変換される(図2)。すなわち、化合物Xは、本発明者によって初めて見出された、茶葉中に存在する硫酸化ビテキシン2”と硫酸化イソビテキシン2”の共通前駆体である。
本発明者は既に、乾燥茶葉を茶温として120〜170℃の範囲に1分30秒〜4分30秒間維持することで、硫酸化ビテキシン2”の含有量を顕著に増加させられることを報告している(特許文献5)。よって、前記化合物Xを多く含む茶葉に対して当該方法を用いることで、硫酸化ビテキシン2”を多く含む茶葉が得られると考えられる。
なお、その際に好適に用いることができる茶葉としては、特許文献5に記載されたように、不発酵茶である緑茶及び焙じ茶用茶葉(例として、からべに茶、やぶきた茶等)、半発酵茶であるウーロン茶用茶葉(例として、密蘭香、武夷水仙、鳳凰水仙、水仙等)、及び、発酵茶である紅茶用茶葉(例として、キーモン等)等が挙げられる。
【0022】
[メラニン生成抑制剤]
本発明にかかるメラニン生成抑制剤は、下記化学式(4)で表される硫酸化ビテキシン2”を有効成分として含むものである。
【化19】
【0023】
本発明にかかるメラニン生成抑制剤としては、公知の方法(例として、非特許文献1に記載の方法)に従って茶葉から単離した硫酸化ビテキシン2”を用いることができる。また、本願実施例2に示したように、茶葉から化合物Xを単離し、加熱処理によって硫酸化ビテキシン2”に変換したものを用いてもよい。当該化合物Xは、前述した7種類の互変異性体のいずれの形態で摂取・投与してもよく、生体に対して有効である。
本発明にかかるメラニン生成抑制剤は、前記硫酸化ビテキシン2”の含有量に換算して、1日当たり1mg/kg体重以上、さらに好ましくは5mg/kg体重以上、最も好ましくは10〜30mg/kg体重程度摂取することが好ましい。1mg/kg体重未満であると十分な美白効果が認められない場合があり、また、30mg/kg体重より多く摂取しても摂取量の増加に見合った美白効果がさほど期待されないからである。
【0024】
[メラニン生成抑制剤を配合した飲食品]
本発明にかかるメラニン生成抑制剤は、美白効果を期待した飲料または食品に好適に配合することができる。これらの飲食品には、有効成分である硫酸化ビテキシン2”の他に、必要に応じて添加剤を任意に配合することができる。添加剤としては賦形剤、呈味剤、着色剤、保存剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤、機能性素材等が挙げられる。
【0025】
前記機能性素材としては、各種ビタミン類、パントテン酸、葉酸、ビオチン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、アミノ酸、オリゴ糖、プロポリス、ローヤルゼリー、EPA、DHA、コエンザイムQ10、コンドロイチン、乳酸菌、ラクトフェリン、イソフラボン、プルーン、キチン、キトサン、グルコサミン等が挙げられる。
【0026】
前記賦形剤としては、所望の剤型とするときに通常用いられるものであれば特に限定されず、例えば、微粒子二酸化ケイ素のような粉末類、ショ糖脂肪酸エステル、結晶セルロース・カルボキシメチルセルロースナトリウム、リン酸水素カルシウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類等が挙げられる。
【0027】
前記呈味剤としては、果汁エキスであるボンタンエキス、ライチエキス、リンゴ果汁、オレンジ果汁、ゆずエキス、ピーチフレーバー、ウメフレーバー、甘味剤であるアセスルファムK、エリスリトール、オリゴ糖類、マンノース、キシリトール、異性化糖類、茶成分である緑茶、ウーロン茶、バナバ茶、杜仲茶、鉄観音茶、ハトムギ茶、アマチャヅル茶、マコモ茶、昆布茶、ヨーグルトフレーバー等が挙げられる。
前記着色剤、保存剤、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、酸化防止剤には、飲食品に使用される公知のものを適宜選択して配合することができる。
【0028】
本発明にかかるメラニン生成抑制剤の形態としては、アンプル、カプセル、丸剤、錠剤、粉末、顆粒、固形、液体、ゲルまたは気泡、クリーム等の任意の形態を選択することができる。
例として、美容・健康飲料または食品、医薬品、洋菓子類、和菓子類、ガム、キャンデー、キャラメル等の一般菓子類、果実ジュース等の一般清涼飲料水、かまぼこ、ちくわ等の加工水産ねり製品、ソーセージ、ハム等の畜産製品、生めん、ゆでめん、ソバ等のめん類、ソース、醤油、タレ、砂糖、ハチミツ、粉末あめ、水あめ等の調味料、カレー粉、からし粉、コショウ粉等の香辛料、ジャム、マーマレード、チョコレートスプレッド、チーズ、バター、ヨーグルト等の乳製品等が挙げられる。好適には、摂取効率の良さから、経口投与される美容・健康飲料または美容・健康食品等が挙げられる。
また、これらは従来公知の方法により製造することができる。
【0029】
さらに、本発明のメラニン生成抑制剤は、経皮吸収による効果を期待して、皮膚外用剤等の組成物に配合することもできる。皮膚外用剤の形態としては、化粧料、貼付剤、医薬品等が挙げられる。
皮膚外用剤には、有効成分である硫酸化ビテキシン2”以外に、化粧料や医薬品等の皮膚外用剤に通常用いられる成分、例えば、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【実施例】
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に用いた硫酸化ビテキシン2”および硫酸化イソビテキシン2”は、公知の方法(非特許文献1)に従って茶葉より単離したものである。
【0031】
[試験例1:紫外線によるメラノサイト活性化に対する抑制効果の検討]
前述したように、チャフロサイドAおよびBには、紫外線によって誘発されるメラノサイトの活性化に対する抑制効果が知られている(特許文献1および2)。そこで、これらの前駆体である硫酸化ビテキシン2”および硫酸化イソビテキシン2”について、当該効果の有無を検討することとした。
【0032】
<試験方法>
マウスに9日間、硫酸化ビテキシン2”または硫酸化イソビテキシン2”を含む媒体を胃内に強制経口投与した(1mg硫酸化ビテキシン2”または硫酸化イソビテキシン2”/5ml媒体/kg体重あたり、1回/日)。媒体には、0.5%(w/v)メチルセルロース400溶液を用いた。マウスは、5週齢のDBA/2マウス(雄性、日本チャールス・リバー社製)を購入し、1週間の馴化飼育を行った後に実験に用いた。
9日間の投与終了後に、マウスに120mJ/cmの中波長紫外線(UVB)を照射し、翌日(=10日目)皮膚を採取してDOPA反応を行った。当該皮膚について顕微鏡観察を行い、単位面積あたりのDOPA陽性メラノサイト数(=活性化メラノサイト数)を計測した。なお、非投与群(=陽性コントロール)には前記媒体のみを9日間投与した。
各試験群にはマウスを8匹ずつ使用し、平均値および標準偏差を算出した。非投与群との有意性をStudent−t検定によって検定し、有意水準5%未満を統計的有意とした。結果を表1および図1に示す。
【0033】
<結果>
【表1】
【0034】
表1および図1に示されるように、硫酸化ビテキシン2”を経口投与したマウスでは、非投与のマウスと比べて、紫外線照射後のDOPA陽性メラノサイト数が有意に減少していた(76.7%、p<0.05)。これに対し、硫酸化イソビテキシン2”を経口投与したマウスでは、当該DOPA陽性メラノサイト数が減少する傾向は見られたが、統計的に有意ではなかった(p≧0.05)。
よって、硫酸化ビテキシン2”は、紫外線によって誘発されるメラノサイトの活性化を効果的に抑制できること、すなわち、安全な植物由来のメラニン生成抑制剤として機能し得ることが示された。一方で、チャフロサイドAの前駆体である硫酸化イソビテキシン2”は、メラニン生成抑制剤として硫酸化ビテキシン2”よりも劣ることも明らかとなった。
【0035】
[試験例2:茶葉からの化合物Xの単離]
次に、硫酸化ビテキシン2”を生じ得る化合物、すなわち、硫酸化ビテキシン2”の前駆体について、茶葉からの単離を試みた。
【0036】
・ウーロン茶葉(密蘭香茶葉)からのC−配糖体硫化化合物の単離
茶葉(品種:密蘭香)の微粉末400gに50%メタノール水溶液を加えて、50℃で15分間加熱下攪拌して、蜜蘭香の抽出物を得た。得られた抽出液水で希釈して5%メタノール水溶液としてから芳香族系ダイヤイオン(登録商標)HP−20カラムクロマトグラフィー(1000ml,5%メタノール水溶液)に付し、メタノール含量を少しずつ上げながら溶出させた。この方法で得られた目的物を多く含む分画のみを40℃以下で濃縮した。ついで、この得た濃縮物を再度HP−20カラムクロマトグラフィーに付した(300ml、5、10および15と20%メタノール水溶液を展開溶媒に使用)。更に、得た目的物を多く含む画分をSephadex LH−20カラムクロマトグラフィー(3×150cm,展開溶媒メタノール)にかけた。以上の操作を2度行った後、得た目的物の高含有分画から高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Develosil C30−UG−5(250×20mm),またはCadenza CD 18(250×10mm)16%CHCN−20mMCONH(4:21))を用いて目的化合物Xを約3mg得た。なお、標的とした化合物は希蟻酸処理でチャフロサイド前駆体(硫酸化イソビテキシン2”及び/又は硫酸化ビテキシン2”を与える化合物とした。
【0037】
[試験例3:化合物Xの構造決定]
新規化合物であったので以下の方法で構造を決めた。
推定構造
1)高分解質量スペクトルより化合物Xの分子式はC21H22O14Sと決定できた。
Negative mode for C21H21O14S-
実測値529.0673 理論値529.0657
2)化合物Xについて、室温下でMeOHに溶解しておく,あるいは同温度で蟻酸-MeOH(1:1000)で酸処理を行ったところ、ほぼ等モルの硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”が生成した。
1)と2)より化合物Xは下記式(5)で表される化合物と考えられた。
【化20】
【0038】
即ち、化合物Xでは図2に示すような2つのルート(AとB)より同程度の割合で環化反応が起き、次いで脱水反応が生じ、硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”が生成したと推察された。
【0039】
そこで、この推定について以下のような検討を加えた。
化合物Xについて1H-NMR、13C-NMR、DEPT、H-H-COSY、HMBC及びNEOSY測定を行った。そのデータの解析結果を表2および表3に示した。なお、表中の各シグナルの帰属は図3中に示したnumberingを基にしている。
【表2】
【表3】
【0040】
この結果とチャフロサイド前駆体、硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”及びHydroxynaringin誘導体との比較(非特許文献 Quantitation of chafurosides A and B in tea leaves and isolation of prechafurosides A and B from oolong tea leaves. Ishida H, Wakimoto T, Kitao Y, Tanaka S, Miyase T, Nukaya H., J. Agric. Food Chem., 57, 6779-86, 2009、及び川上ら、J. Nat. Med (2009) 63, 46-51)から、本化合物の糖部はglucoseでその2位の水酸基が硫酸化され、その1位のアノメリック炭素がアグリコン部のベンゼン環の炭素原子との間でβ-グリコシド結合していることがうかがえる。そして、アグリコン部は本NMR測定温度(25℃)と溶媒(d6-DMSO溶液)中の条件下では図3に示した環化した化2-1と化2-2、また環化しないで2位がenol化した化2−3と環化しないで4位がenol化した化2-4で表される構造で存在すると推定され、7種の混合体(化合物X、化2−1AとB及び化2−2AとB(各々のAとBはそれぞれ2位のOH基の立体が異なる異性体)、化2−3)と化2−4(各々はenol化の仕様が異なる異性体)の間で高速の互変異性化が起きていると考えられる。
【0041】
しかしながら、表2および3に示したように本結果からは化合物Xで表される化合物の太線部分の構造を確認するにとどまった(図4)。また、全シグナルの各異性体への完全な帰属はできなかった。これらの理由は、本測定は最高レベルの装置で行ったが、本測定条件下では本化合物が溶液中で高速の互変異性化を起こしているために、多くのシグナルにおいてブロード化が起き、そのためにその影響を受けやすいシグナルにおける相関観測が極めて困難となったためと推定される。
【0042】
そこで、本化合物にジアゾメタン、CH2N2を作用させ、メチル化体に誘導し、互変を起こさせて構造決定をすることとした。
単離した化合物(約1mg)にメタノールとエーテルの混液中において室温で過剰量のジアゾメタン(CH)を作用させ(条件:過剰量CHを室温で一夜作用させる)、その後やや過剰量のN(CH3)3を室温下で一夜作用させた。得られたメチル化成績体の一つを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Develosil C30−UG−5(250×20mm),またはCadenza CD C18 (250×10mm)、MeOH-10mHCONHの混合溶媒)で精製し、約0.5mg得た。
【0043】
得た化合物(前記メチル化体)の高分解質量スペクトルより分子式をC24H28O14Sと決定した。
Negative mode for C24H27O14S-
実測値571.1117 理論値571.1127
【0044】
その1H-NMR、13C-NMR、DEPT、H-H-COSY、HMBC及びNEOSY測定を行った。結果の解析結果を表4に示した。なお、表中の各シグナルの帰属は図5中に示したnumberingを基にしている。
【表4】
【0045】
以上のデータの解析結果から、前記メチル化化合物は、図5中に表される構造の化合物、化3Aとして説明できるが、一方化3Bも否定できない。そこで、図6中に示したようにこれにMeOHで希釈した蟻酸を作用させ、環化させたのち、脱水化を行うことでフラボン体(化4)に導いた。又、別途二つのチャフロサイド前駆体、硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”の各々にメタノールとエーテルの混液中において室温で過剰量のジアゾメタン(CH)を作用させ(条件:過剰量CHを室温で一夜作用させる)、その後やや過剰量のN(CH3)3を室温下で一夜成績体に作用させた。このようにして、この両チャフロサイド前駆体の3つのフェノール性水酸基をメチル化したtrimethyl化体(化4Aと化4B)を調整した。ついで、得た両チャフロサイド前駆体のtrimethyl化体と化4との直接比較より化4の構造を硫酸化イソビテキシン2”のtrimethyl化体(図5中の化4A)と決めた。
【0046】
これらの結果から、化合物Xは図2の左側に表される化合物(すなわち、下記化学式(5)で表される化合物)と決定できた。
【化21】
なお、化合物Xは高極性溶液中では図3の右側で表される環化したC−配糖体化合物として主に存在すると考えられる。そのために、環化した化合物の各3ケのフェノール性水酸基はCH2N2でメチルされ、トリメチル化体が生成した。そして今回はその一つを単離できたと説明できる(図6)。
【0047】
なお、化3では4位にケトン基があると2つの水酸基との間のキレート形成が可能となり(下記化学式(12)、左の構造)、これが本構造の安定化に大きく寄与できる。
【化22】
一方、2位にケトン基がある上記化学式(12)の右の構造では、4位がエノール化し、この際に形成される水酸基とそのケトン基間でのキレートが形成され、このキレート形成環部は左側の5置換ベンゼン環とは同一平面上には存在できない。そのためにこの平面に対してほぼ垂直な位置に置かれることになり、上記の4位にケトン基がある場合よりより不安定となる。このことから化3の存在状態は化3Aの状態(上記化学式(12)、左の構造)が主なると理解できる。
【0048】
以上の結果より、化合物Xは、下記式(5)から(11)のいずれかで表される化合物として存在することが強く示唆された。
【0049】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【0050】
[配合例]
本発明にかかるメラニン生成抑制剤を配合した飲食品の配合例を次に挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
配合例1 ソフトカプセル
玄米胚芽油 710mg
硫酸化ビテキシン2” 100mg
エラスチン 130mg
DNA 30mg
葉酸 30mg
【0051】
配合例2 キャンディー
砂糖 2300mg
水飴 1486mg
硫酸化ビテキシン2” 38mg
香料 38mg
【0052】
配合例3 硫酸化ビテキシン2”高含有茶飲料
緑茶抽出液(緑茶の乾燥茶葉20gを熱水1リットルを用いて抽出(80℃、5分間)した後、濾過して得られた上清) 1000g
L−アスコルビン酸ナトリウム 200mg
硫酸化ビテキシン2” 100mg
クエン酸 10mg
図1
図2
図3
図4
図5
図6