【実施例】
【0030】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に用いた硫酸化ビテキシン2”および硫酸化イソビテキシン2”は、公知の方法(非特許文献1)に従って茶葉より単離したものである。
【0031】
[試験例1:紫外線によるメラノサイト活性化に対する抑制効果の検討]
前述したように、チャフロサイドAおよびBには、紫外線によって誘発されるメラノサイトの活性化に対する抑制効果が知られている(特許文献1および2)。そこで、これらの前駆体である硫酸化ビテキシン2”および硫酸化イソビテキシン2”について、当該効果の有無を検討することとした。
【0032】
<試験方法>
マウスに9日間、硫酸化ビテキシン2”または硫酸化イソビテキシン2”を含む媒体を胃内に強制経口投与した(1mg硫酸化ビテキシン2”または硫酸化イソビテキシン2”/5ml媒体/kg体重あたり、1回/日)。媒体には、0.5%(w/v)メチルセルロース400溶液を用いた。マウスは、5週齢のDBA/2マウス(雄性、日本チャールス・リバー社製)を購入し、1週間の馴化飼育を行った後に実験に用いた。
9日間の投与終了後に、マウスに120mJ/cm
2の中波長紫外線(UVB)を照射し、翌日(=10日目)皮膚を採取してDOPA反応を行った。当該皮膚について顕微鏡観察を行い、単位面積あたりのDOPA陽性メラノサイト数(=活性化メラノサイト数)を計測した。なお、非投与群(=陽性コントロール)には前記媒体のみを9日間投与した。
各試験群にはマウスを8匹ずつ使用し、平均値および標準偏差を算出した。非投与群との有意性をStudent−t検定によって検定し、有意水準5%未満を統計的有意とした。結果を表1および
図1に示す。
【0033】
<結果>
【表1】
【0034】
表1および
図1に示されるように、硫酸化ビテキシン2”を経口投与したマウスでは、非投与のマウスと比べて、紫外線照射後のDOPA陽性メラノサイト数が有意に減少していた(76.7%、p<0.05)。これに対し、硫酸化イソビテキシン2”を経口投与したマウスでは、当該DOPA陽性メラノサイト数が減少する傾向は見られたが、統計的に有意ではなかった(p≧0.05)。
よって、硫酸化ビテキシン2”は、紫外線によって誘発されるメラノサイトの活性化を効果的に抑制できること、すなわち、安全な植物由来のメラニン生成抑制剤として機能し得ることが示された。一方で、チャフロサイドAの前駆体である硫酸化イソビテキシン2”は、メラニン生成抑制剤として硫酸化ビテキシン2”よりも劣ることも明らかとなった。
【0035】
[試験例2:茶葉からの化合物Xの単離]
次に、硫酸化ビテキシン2”を生じ得る化合物、すなわち、硫酸化ビテキシン2”の前駆体について、茶葉からの単離を試みた。
【0036】
・ウーロン茶葉(密蘭香茶葉)からのC−配糖体硫化化合物の単離
茶葉(品種:密蘭香)の微粉末400gに50%メタノール水溶液を加えて、50℃で15分間加熱下攪拌して、蜜蘭香の抽出物を得た。得られた抽出液水で希釈して5%メタノール水溶液としてから芳香族系ダイヤイオン(登録商標)HP−20カラムクロマトグラフィー(1000ml,5%メタノール水溶液)に付し、メタノール含量を少しずつ上げながら溶出させた。この方法で得られた目的物を多く含む分画のみを40℃以下で濃縮した。ついで、この得た濃縮物を再度HP−20カラムクロマトグラフィーに付した(300ml、5、10および15と20%メタノール水溶液を展開溶媒に使用)。更に、得た目的物を多く含む画分をSephadex LH−20カラムクロマトグラフィー(3×150cm,展開溶媒メタノール)にかけた。以上の操作を2度行った後、得た目的物の高含有分画から高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Develosil C30−UG−5(250×20mm),またはCadenza CD 18(250×10mm)16%CH
3CN−20mMCO
2NH
4(4:21))を用いて目的化合物Xを約3mg得た。なお、標的とした化合物は希蟻酸処理でチャフロサイド前駆体(硫酸化イソビテキシン2”及び/又は硫酸化ビテキシン2”を与える化合物とした。
【0037】
[試験例3:化合物Xの構造決定]
新規化合物であったので以下の方法で構造を決めた。
推定構造
1)高分解質量スペクトルより化合物Xの分子式はC
21H
22O
14Sと決定できた。
Negative mode for C
21H
21O
14S
-
実測値529.0673 理論値529.0657
2)化合物Xについて、室温下でMeOHに溶解しておく,あるいは同温度で蟻酸-MeOH(1:1000)で酸処理を行ったところ、ほぼ等モルの硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”が生成した。
1)と2)より化合物Xは下記式(5)で表される化合物と考えられた。
【化20】
【0038】
即ち、化合物Xでは
図2に示すような2つのルート(AとB)より同程度の割合で環化反応が起き、次いで脱水反応が生じ、硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”が生成したと推察された。
【0039】
そこで、この推定について以下のような検討を加えた。
化合物Xについて
1H-NMR、
13C-NMR、DEPT、H-H-COSY、HMBC及びNEOSY測定を行った。そのデータの解析結果を表2および表3に示した。なお、表中の各シグナルの帰属は
図3中に示したnumberingを基にしている。
【表2】
【表3】
【0040】
この結果とチャフロサイド前駆体、硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”及びHydroxynaringin誘導体との比較(非特許文献 Quantitation of chafurosides A and B in tea leaves and isolation of prechafurosides A and B from oolong tea leaves. Ishida H, Wakimoto T, Kitao Y, Tanaka S, Miyase T, Nukaya H., J. Agric. Food Chem., 57, 6779-86, 2009、及び川上ら、J. Nat. Med (2009) 63, 46-51)から、本化合物の糖部はglucoseでその2位の水酸基が硫酸化され、その1位のアノメリック炭素がアグリコン部のベンゼン環の炭素原子との間でβ-グリコシド結合していることがうかがえる。そして、アグリコン部は本NMR測定温度(25℃)と溶媒(d
6-DMSO溶液)中の条件下では
図3に示した環化した化2-1と化2-2、また環化しないで2位がenol化した化2−3と環化しないで4位がenol化した化2-4で表される構造で存在すると推定され、7種の混合体(化合物X、化2−1AとB及び化2−2AとB(各々のAとBはそれぞれ2位のOH基の立体が異なる異性体)、化2−3)と化2−4(各々はenol化の仕様が異なる異性体)の間で高速の互変異性化が起きていると考えられる。
【0041】
しかしながら、表2および3に示したように本結果からは化合物Xで表される化合物の太線部分の構造を確認するにとどまった(
図4)。また、全シグナルの各異性体への完全な帰属はできなかった。これらの理由は、本測定は最高レベルの装置で行ったが、本測定条件下では本化合物が溶液中で高速の互変異性化を起こしているために、多くのシグナルにおいてブロード化が起き、そのためにその影響を受けやすいシグナルにおける相関観測が極めて困難となったためと推定される。
【0042】
そこで、本化合物にジアゾメタン、CH
2N
2を作用させ、メチル化体に誘導し、互変を起こさせて構造決定をすることとした。
単離した化合物(約1mg)にメタノールとエーテルの混液中において室温で過剰量のジアゾメタン(CH
2N
2)を作用させ(条件:過剰量CH
2N
2を室温で一夜作用させる)、その後やや過剰量のN(CH
3)
3を室温下で一夜作用させた。得られたメチル化成績体の一つを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Develosil C30−UG−5(250×20mm),またはCadenza CD C18 (250×10mm)、MeOH-10mHCO
2NH
4の混合溶媒)で精製し、約0.5mg得た。
【0043】
得た化合物(前記メチル化体)の高分解質量スペクトルより分子式をC
24H
28O
14Sと決定した。
Negative mode for C
24H
27O
14S
-
実測値571.1117 理論値571.1127
【0044】
その
1H-NMR、
13C-NMR、DEPT、H-H-COSY、HMBC及びNEOSY測定を行った。結果の解析結果を表4に示した。なお、表中の各シグナルの帰属は
図5中に示したnumberingを基にしている。
【表4】
【0045】
以上のデータの解析結果から、前記メチル化化合物は、
図5中に表される構造の化合物、化3Aとして説明できるが、一方化3Bも否定できない。そこで、
図6中に示したようにこれにMeOHで希釈した蟻酸を作用させ、環化させたのち、脱水化を行うことでフラボン体(化4)に導いた。又、別途二つのチャフロサイド前駆体、硫酸化イソビテキシン2”と硫酸化ビテキシン2”の各々にメタノールとエーテルの混液中において室温で過剰量のジアゾメタン(CH
2N
2)を作用させ(条件:過剰量CH
2N
2を室温で一夜作用させる)、その後やや過剰量のN(CH
3)
3を室温下で一夜成績体に作用させた。このようにして、この両チャフロサイド前駆体の3つのフェノール性水酸基をメチル化したtrimethyl化体(化4Aと化4B)を調整した。ついで、得た両チャフロサイド前駆体のtrimethyl化体と化4との直接比較より化4の構造を硫酸化イソビテキシン2”のtrimethyl化体(
図5中の化4A)と決めた。
【0046】
これらの結果から、化合物Xは
図2の左側に表される化合物(すなわち、下記化学式(5)で表される化合物)と決定できた。
【化21】
なお、化合物Xは高極性溶液中では
図3の右側で表される環化したC−配糖体化合物として主に存在すると考えられる。そのために、環化した化合物の各3ケのフェノール性水酸基はCH
2N
2でメチルされ、トリメチル化体が生成した。そして今回はその一つを単離できたと説明できる(
図6)。
【0047】
なお、化3では4位にケトン基があると2つの水酸基との間のキレート形成が可能となり(下記化学式(12)、左の構造)、これが本構造の安定化に大きく寄与できる。
【化22】
一方、2位にケトン基がある上記化学式(12)の右の構造では、4位がエノール化し、この際に形成される水酸基とそのケトン基間でのキレートが形成され、このキレート形成環部は左側の5置換ベンゼン環とは同一平面上には存在できない。そのためにこの平面に対してほぼ垂直な位置に置かれることになり、上記の4位にケトン基がある場合よりより不安定となる。このことから化3の存在状態は化3Aの状態(上記化学式(12)、左の構造)が主なると理解できる。
【0048】
以上の結果より、化合物Xは、下記式(5)から(11)のいずれかで表される化合物として存在することが強く示唆された。
【0049】
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【化27】
【化28】
【化29】
【0050】
[配合例]
本発明にかかるメラニン生成抑制剤を配合した飲食品の配合例を次に挙げるが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
配合例1 ソフトカプセル
玄米胚芽油 710mg
硫酸化ビテキシン2” 100mg
エラスチン 130mg
DNA 30mg
葉酸 30mg
【0051】
配合例2 キャンディー
砂糖 2300mg
水飴 1486mg
硫酸化ビテキシン2” 38mg
香料 38mg
【0052】
配合例3 硫酸化ビテキシン2”高含有茶飲料
緑茶抽出液(緑茶の乾燥茶葉20gを熱水1リットルを用いて抽出(80℃、5分間)した後、濾過して得られた上清) 1000g
L−アスコルビン酸ナトリウム 200mg
硫酸化ビテキシン2” 100mg
クエン酸 10mg