前記二種以上の樹脂が、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびポリアミドイミド樹脂を含む群から選択される、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
前記樹脂Aがポリフェニレンスルフィド樹脂であり、前記樹脂A以外の樹脂がSP値の異なる二種以上のナイロン樹脂の組合せである、請求項2〜4の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に例示説明する。
ここで、本発明の樹脂組成物は、電気部品、電子部品、自動車部品、一般機械部品など種々の広範な分野に用いることができる。また、本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を用いたことを特徴とする。さらに、本発明の樹脂組成物製造方法は、本発明の樹脂組成物の製造に使用することができる。
【0018】
(樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、最大凝集体直径が800nm以下である微粒子凝集体が、二種以上の樹脂が相溶した相中に分散してなる。かかる分散態様は、電子顕微鏡画像などによれば、あたかも、樹脂が相溶してなる単一相の海中に独立した球状の島が散在するかのように視認することができる。微粒子凝集体の大きさが800nm以下に制限されているため、本発明の樹脂組成物は耐破壊性が良好であり高靭性である。さらに、二種以上の樹脂が相溶状態にあるため、高強度である。ここで、本願において樹脂が「相溶」するとは、二種以上の樹脂が相分離せずに混合され単一相を形成した状態であることを意味する。例えば、二種類の樹脂である樹脂αと樹脂βが相溶した場合には、熱特性や粘弾性特性の温度分散に表れる両者のガラス転移点(Tg)の変曲点が一つになる。具体的には、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry; DSC)によれば、樹脂組成物内で樹脂αと樹脂βが相分離している状態であれば、Tg前後の比熱変化から決定することができる変曲点は、樹脂αのTgと樹脂βのTgについて2ヶ所観察される。しかし、樹脂組成物内で樹脂αと樹脂βが相溶状態にある場合には、ただ一つの変曲点が決定される。また、動的粘弾性測定によれば、損失係数(tanδ)のピークが、相分離状態では2ヶ所に観察され、相溶するとそれが1ヶ所になる。
【0019】
本発明者は、まず、微粒子を配合しない樹脂組成物(複数種の樹脂を配合した樹脂組成物)を用いてフィルムを形成し、フィルムが透明になる状態を確認してプロセスの有効性を見出した。さらに、本発明者は、得られたフィルムについてDSCによりTgを測定し、結果的に、透明なフィルムが得られる複数種の樹脂のあらゆる組合せにおいて、唯一つのTgが決定されることを見出した。なお、ここでは、可視光の透過率が70%以上である場合に、「透明」と判定した。
【0020】
このように見いだされた複数種の樹脂の配合に対して微粒子を添加しフィルムを作製したところ、得られたフィルムにおいて微粒子を添加しない場合と同様に複数種の樹脂の相溶状態が確認された。そして、本発明者は、樹脂組成物内において相溶状態にある複数種の樹脂中において、微粒子が凝集体を形成して樹脂組成物中で分散した状態となることを見いだした。さらに、これまで、(相溶状態を構成しない)樹脂を配合したフィルムに対して微粒子を添加した場合には、微粒子を配合しないフィルムと比較して低強度となることが知られてきたが、驚くべきことに、相溶状態にある複数種の樹脂と、微粒子とを含むフィルムは、従来の相溶状態を構成しない樹脂を配合したフィルムよりも高強度であることを見出した。
【0021】
また、本発明に特徴的な微粒子の凝集体が生成する機構は明らかではないが、相溶状態にある複数種の樹脂に生じるスピノーダル分解が関与すると考えられる。相溶状態にある複数種の樹脂において、スピノーダル分解が進みすぎると相溶状態が崩れてしまう。具体的には以下のような機構が推察される。樹脂組成物内に配合した複数種の樹脂が製造工程で一度相溶し、その後わずかにスピノーダル分解して形成された微小空間に微粒子が集合する。ここで、本発明の樹脂組成物は微粒子凝集体の最大凝集体直径が800nm以下であることを必要とするので、スピノーダル分解が過度に進行して上述した微小空間が大きくなりすぎないようにする必要がある。従って、本発明の樹脂組成物の製造にあたり、混練装置から吐出された組成物を所定時間内に急冷することで、上述した微小空間のサイズを制御することができる。混練装置から吐出された組成物を急冷するまでの時間は、微粒子凝集体の最大凝集体直径が800nm以下となるように、適宜決定することができる。特に、樹脂AとSP値が等しい樹脂を組み合わせた場合に、相溶状態とした樹脂組成物におけるスピノーダル分解速度が遅くなるので好ましい。
【0022】
<微粒子>
図1に示すように、本発明の樹脂組成物中にて、微粒子1は、一個又は二個以上の微粒子からなる微粒子凝集体2として分散している。かかる微粒子凝集体の最大凝集体直径は、800nm以下である必要がある。これは、樹脂組成物中に分散した複数の微粒子凝集体の凝集体直径が800nm超となると、微粒子凝集体が破壊の起点となり樹脂組成物の靭性が低下する虞があるからである。微粒子凝集体は電子顕微鏡画像中で短径と長径の比が2未満である円(楕円)状の凝集体である。最大凝集体直径は、以下のようにして決定することができる。すなわち、樹脂組成物の電子顕微鏡画像中でランダムに10個の微粒子凝集体を選択し、これらの微粒子凝集体一つ一つについて当該微粒子凝集体に含まれる全ての微粒子が内側に入る最小直径の円(三次元解析の場合には球)を定義し、得られた最小直径の値をその微粒子凝集体の直径とする。そして、選択した10個全ての微粒子凝集体について同様にして直径を測定し、それらのうちで最大の直径が測定にかかる樹脂組成物の最大凝集体直径として決定する。
【0023】
凝集体直径の算出にあたり、上記一例にて電子顕微鏡画像を用いるとして説明した。電子顕微鏡観察の方法については、微粒子凝集体を観察できそのサイズを測定できる方法であればどのような方法でも良い。したがって、本発明では微粒子凝集体の観察方法を特に制限しないが、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いることが好ましい。
【0024】
なお、最大凝集体直径が800nm以下であれば本発明の目的を達成可能であるが、500nm以下が好ましく、100nm以下がさらに好ましい。最大凝集体直径が500nm以下であれば、微粒子凝集体のサイズのばらつきを考慮しても、樹脂組成物の靭性への影響がより小さくなり一層良好な力学物性が実現できるからである。さらに本発明の樹脂組成物において、微粒子凝集体の平均凝集体直径も、800nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが特に好ましい。平均凝集体直径を上記数値以下とすることで、樹脂組成物の靭性を一層向上させることができるからである。なお、平均凝集体直径は、例えば、上述した10個の微粒子凝集体について得られた直径の値の数平均値として得られる。
【0025】
上述の通り、本発明の樹脂組成物を製造するにあたり、一個又は複数の微粒子からなる微粒子凝集体の直径を800nm以下に制御する必要がある。このため、本発明で使用する微粒子は、電子顕微鏡観察を行ったときにその視野に観察される数平均一次粒子径は800nm未満である必要がある。好ましくは、微粒子の数平均一次粒子径は400nm未満であり、さらに好ましくは100nm未満であり、より好ましくは、50nm未満である。
【0026】
ここで、一般には、微粒子の数平均一次粒子径が50nm未満である場合、微粒子はその表面活性のために特に凝集し易くなる傾向がある。このような場合に、従来の微粒子の凝集を予防する手法では微粒子の凝集を十分に防ぐことができず、結果的に800nm以上の凝集体が生成されてしまう。しかし、後述する本発明の樹脂組成物製造方法によれば、数平均一次粒子径が50nm未満である微粒子を配合した場合であっても、最大凝集体直径が800nm以下の凝集体とすることができる。この際、後述するカオス混合によれば、樹脂組成物の急速な引き伸ばしで発生する伸張流動により、大きな微粒子凝集体には、微粒子と樹脂組成物間で働く相互作用で発生する剪断力が働き、公知の分散混合と同様の機構で微粒子凝集体が細分化される。この時、微粒子一つ一つを無理に分散させるのではなく、微粒子がある程度凝集すること自体は許容されるため、微粒子凝集体のサイズのばらつきは小さくなり、さらに微粒子自体の特性も損なわれることは無い。従って、カオス混合によれば、結果的に微粒子の添加により付与しようとしていた機能を樹脂組成物に良好に保持させることができる。
【0027】
さらに、本発明で使用する微粒子の最大一次粒子径が400nm未満であることが好ましく、100nm未満であることがより好ましく、50nm未満であることが更に好ましい。最大一次粒子径が上記範囲内の微粒子を使用することで、微粒子の凝集体あるいは微粒子そのもので引き起こされる靱性の低下をより確実に防ぐことが可能となり、樹脂組成物の力学物性を改善できるからである。
【0028】
本発明に用いる微粒子としては、混練過程で溶融しない微粒子が好ましい。樹脂組成物に配合した微粒子が混練過程で溶融すると、かかる樹脂組成物を冷却して取り出したときに微粒子として析出する虞がある。したがって、用いる微粒子の融点(Tm)は、本発明の樹脂組成物に含有させる二種以上の樹脂の融点の最も高いものよりも高いことが必要である。樹脂組成物に一般的に用いられうる樹脂の融点を考慮すると、微粒子の融点は、250℃以上であることが必要であり、300℃以上が好ましく、400℃以上がより好ましい。微粒子の融点が250℃以上であれば、一般的に使用されうる樹脂を配合した樹脂組成物の製造過程で微粒子が溶融せず、樹脂組成物内における微粒子凝集体の最大凝集体直径を制御することができる。特に、微粒子の融点が400℃以上であれば、350℃未満で溶融するすべての樹脂と混練可能となり、汎用性が向上し、好ましい。
【0029】
本発明に用いる微粒子は、特に限定されることなく、樹脂組成物に対して付与したい機能性を有するあらゆる微粒子でありうる。具体的には、無機微粒子や有機微粒子、あるいは有機無機複合微粒子などが挙げられる。微粒子の有する機能性の観点から、例えば、カーボンブラックなどの導電性微粒子、半導体微粒子、誘電体微粒子、熱伝導性が原材料とする樹脂よりも良好な無機微粒子、Fe
2O
3等の磁性体の微粒子、超伝導体の微粒子、屈折率が1.5以上の微粒子などが好ましい。ここで、これらの微粒子のうちナノオーダーの微粒子(「超微粒子」とも称される)は、凝集しやすく大きな凝集体を生成しやすいため公知の混練方法では分散させることが難しい。しかし、後述する本発明の樹脂組成物製造方法は、このような超微粒子に対して特に効果を発揮する。
【0030】
本発明に使用可能な微粒子については、産業技術センター発行「セラミックス材料技術集成」(1979)、(株)技術情報協会発行「高分子添加剤の分離・分析技術」(2011)、裳華房(株)発行日本材料科学会編「超微粒子と材料」(1993)、(株)講談社発行J.B.ドネ、A.ボエット著「カーボンブラック」(1978)、(株)工業調査会発行未踏加工技術協会編「新時代の磁性材料」(1981)、工業図書(株)発行小沼稔、吉田信也、柴田光義編「オプトエレクトロニクスとその材料」(1995)等の文献に記載されている。
【0031】
本発明の樹脂組成物中における微粒子の含有量は、40体積%未満が好ましく、35体積%未満がより好ましく、30体積%未満がさらに好ましい。微粒子の含有量を上記範囲内とすることで、各微粒子凝集体の独立性が保持され、微粒子凝集体の分散性が向上し、樹脂組成物の靭性を一層向上させることができるからである。微粒子の含有量の下限値は、例えば、樹脂組成物に配合する各微粒子に応じたパーコレーション転移の閾値によって定めることができる。かかる閾値以上の微粒子を樹脂組成物に添加することで、樹脂組成物の性状に微粒子由来の性状を付加することができる。具体的には、樹脂組成物の性状に微粒子由来の性状を付加することができる微粒子の最低含有量は、例えば、20体積%である。ここで、樹脂組成物中における微粒子の含有量を上記範囲内とするにあたり、かかる樹脂組成物を製造する際の微粒子の配合量(質量%、kg)を、目的とする樹脂組成物内での含有割合(体積%)から逆算して算出することができる。具体的には、樹脂組成物の製造にあたり、まず、目的とする樹脂組成物内での含有割合(体積%)を決定し、微粒子の比重を乗算して配合量を算出することができる。なお、得られた樹脂組成物について、電子顕微鏡写真から体積分率を求める方法は、以下のようにする。すなわち、本発明にかかる樹脂組成物で観察される高次構造は、微粒子の凝集体で作られる球状の島と、複数種の樹脂が相溶して均一になった海であり、微粒子の凝集体は球であると仮定すると、全体を1とした時の面積分率の平方根を3乗して得られた値を体積分率として近似可能である。本発明の体積%は、この体積分率を100倍した値として得られる。
【0032】
<樹脂>
本発明の樹脂組成物は、少なくとも二種以上の樹脂を含有する。さらに、本発明の樹脂組成物内では、これらの二種以上の樹脂は相溶状態にある。どのような樹脂を採用しても、最大凝集体直径が800nm以下である微粒子凝集体を、二種以上の樹脂が相溶した相中に分散させることで本発明の目的である樹脂組成物の靭性向上は達成することができる。本発明の樹脂組成物に含有される二種類以上の樹脂は、特に限定されないが、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびポリアミドイミド樹脂を含む群から選択されることが好ましい。このような樹脂を含有してなる靭性の高い樹脂組成物は、産業上有利に使用されることができる。
【0033】
[樹脂A]
本発明の樹脂組成物では、含有される二種以上の樹脂のうちの一つの樹脂が、樹脂組成物中で50体積%以上を占めることが好ましい。以下、本発明の樹脂組成物中で50体積%以上を占める樹脂を「樹脂A」として説明する。
【0034】
樹脂Aは、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、ナイロン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびポリアミドイミド樹脂の何れかであり、好ましくはポリフェニレンスルフィド樹脂、ナイロン樹脂、およびポリエステル樹脂の何れかである。樹脂組成物中で最も含有量の多い樹脂をこれらの何れかの樹脂とすることで、産業上有利な特性を有する高靭性の樹脂組成物を提供することができるからである。さらには、樹脂Aはポリフェニレンスルフィド樹脂、又はポリエステル樹脂の中でもポリブチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。特に、エンジニアリングプラスチックとしての様々な利点を兼ね備えることから、樹脂Aとしてポリフェニレンスルフィド樹脂を採用することが特に好ましい。この場合、リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いても架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いても良い。
【0035】
さらに、リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いる場合には、後述する本発明の樹脂組成物製造方法における流動性の向上の観点から、ゲル浸透クロマトグラフ法で求められた分子量分布のピーク分子量が5000〜1000000、特に45000〜90000のものを使用するのが好ましい。なお、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂については、どのような分子量のものでも好適に用いることができる。
【0036】
[樹脂A以外の樹脂]
本発明の樹脂組成物は、上述した樹脂A以外に少なくとも一種の樹脂を含有する。かかる樹脂は、樹脂Aと異なる種類の樹脂、すなわち、樹脂Aと一次構造が異なる樹脂である限りにおいて、あらゆる樹脂から選択し、あるいは使用可能な樹脂として上述した一群から選択することができる。特に、樹脂A以外の樹脂は、SP値の異なる二種以上のナイロン樹脂の組合せであることが好ましい。
【0037】
さらに、樹脂Aとしてポリフェニレンスルフィド樹脂を選択した場合に、ナイロン樹脂を併用することが好ましく、さらに、上述の通り、SP値の異なる二種以上のナイロン樹脂の組合せを採用することがより好ましい。さらに、少なくとも1種ナイロン46を組み合わせるのが好適である。これにより、微粒子凝集体の分散を助けることができ、樹脂組成物の靭性を一層向上させることができるからである。本発明の樹脂組成物に含有させうるナイロン樹脂として、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロンMDX6、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン56、ナイロン6.66、ナイロン6.6T、ナイロン610、ナイロン612、及びナイロン11等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
以下にナイロン樹脂の組合せの例を示す。各ナイロン樹脂について、SMALL法によるSP値及び材料物性解析ソフトウェアであるJ−OCTA(登録商標)を用いて算出したSP値を示す。なお、以下に挙げた組合せは例示にすぎず、本発明の目的を達成する限りにおいて、SP値の異なるナイロン樹脂(第1ナイロン及び第2ナイロン)をどのように組み合わせても良い。
【0040】
表1より明らかなように、SP値については、同じ化合物であっても計算方法により若干異なる値となる。本発明では、SP値の絶対値は重要ではなく、組合せにかかるナイロン樹脂のSP値が異なれば良い。
【0041】
樹脂A以外の樹脂の樹脂組成物中における含有量は、40体積%未満であることが好ましい。樹脂組成物に微粒子の性状を付与するために好適な微粒子の含有量を考慮すると、樹脂A以外の樹脂の樹脂組成物中における含有量は30体積%未満がより好ましい。さらに、樹脂Aとの相溶状態を安定化させる観点から、樹脂A以外の樹脂の樹脂組成物中における含有量は、15体積%未満がさらに好ましく、10体積%未満が特に好ましい。
【0042】
(成形体)
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を含んでなる。本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を含んでなるので、十分に高い靭性を有する。本発明の成形体は、上述した樹脂組成物を、例えば、延伸成形、射出成形(多層成形、サンドイッチ成形などの射出成形を含む)、および押出成形、ブロー成形、インジェクションブロー成形等の既知の成形方法で成形することにより製造することができる。本発明の成形体の用途は特に限定されることなく、例えば、電気部品、電子部品、自動車部品、一般機械部品など種々の広範な分野に用いることができる。
【0043】
(樹脂組成物製造方法)
本発明の樹脂組成物製造方法は、二種以上の樹脂及び微粒子を含み、二種以上の樹脂のうちの樹脂Aが樹脂組成物中で50体積%以上を占める、樹脂組成物の製造方法であって、樹脂Aと微粒子とを混練して樹脂A−微粒子混合物を得る工程(以下、「第一混練工程」という)と、樹脂A−微粒子混合物に対して二種以上の樹脂のうちの樹脂A以外の樹脂を添加してさらに混練して流動状態の樹脂−微粒子混合物を得る工程(以下、「第二混練工程」という)と、樹脂−微粒子混合物を流動状態のまま樹脂−微粒子混合物の流動方向に沿う断面における面間距離が0.1mm以上3mm以下である二つの面ではさまれた間隙を通過させる工程(以下、「通過工程」という)と、通過工程を経た樹脂−微粒子混合物を冷却する工程(以下、「冷却工程」という)を含む。このような樹脂組成物製造方法によれば、簡便な制御により高靭性の樹脂組成物を高効率で製造することができる。かかる樹脂組成物製造方法は、前述の樹脂組成物を得るために好適に使用することができる。
【0044】
ここで、上述した三つの工程は混練機により実施することができる。第一混練工程及び第二混練工程で使用する混練機については、バッチ式混練機でも連続式混練機でも高分子を混練することが可能な機械であれば如何なる機械であっても使用することができる。例えば、バッチ式混練機であれば、バンバリーミキサーやニーダー、ロール式混練機などが使用可能である。一方、第二混練工程で連続式混練機を使用する場合には、かかる連続式混練機に対して接続した所定の面間距離を有する装置により通過工程を実施することができる。このため、通過工程のために追加の樹脂−微粒子混合物の搬送機構を設ける必要はない。しかし、第二混練工程でバッチ式混練機を使用する場合には、通過工程のために追加の樹脂−微粒子混合物の搬送機構を設ける必要がある。すなわち、本発明にかかる樹脂組成物製造方法では、一台の連続式混練機を用いて全工程を実施することができるが、第一混練工程及び第二混練工程でバッチ式混練機を採用した場合には、最終工程で連続式混練機を採用する必要があるため二台以上の混練機を用いて全工程を実施することとなる。換言すれば、本発明の樹脂組成物製造方法は、最終工程にて連続式混練機を使用すること以外は、用いる混練機の台数や混練機の組み合わせに制限はない。例えば、通過工程に用いる所定の面間距離を有する装置も内蔵し、二つの樹脂投入口を有する連続式混練機を用いれば、一台の連続式混練機で上記三つの工程を実施することができる。
【0045】
最終工程である通過工程で使用する連続式混練機としては、例えば、一軸式混練機、二軸式混練機、スクリューが3軸以上の多軸式混練機、また石臼のような剪断力を発生させて混練を進めるKCK混練機などが挙げられる。好ましくは二軸混練機の使用が、トラブル時の取り扱いと混練効率の観点からバランスがとれており、好適である。
なお、第二混練工程でこれらの連続式混練機を用いた場合には、通過工程のための装置は動力部分を含まなくてよく、第二混練工程の設備の吐出口に搬送装置を持たない通過工程のための装置だけを取り付けて運転することができる。
【0046】
<第一混練工程>
本発明の樹脂組成物製造方法では、第一混練工程において樹脂Aと微粒子とを混練して樹脂A−微粒子混合物を得る。第一混練工程では樹脂Aと微粒子とを混練する。このため、樹脂Aと微粒子とを混練する際の温度は、樹脂Aの融点以上であると共に微粒子の融点未満の温度である。従って、第一混練工程で得られた樹脂A−微粒子混合物内では、樹脂Aは流動状態となっているが、微粒子は溶融していない。また、樹脂Aと微粒子とを混練する際の混練機におけるスクリュー回転数は、一般的に樹脂の混練に採用されうる回転数であれば特に限定されないが、製造効率の観点から100rpm以上800rpm以下が好ましい。混練効率を考慮すると高速回転が好ましいが、微粒子と樹脂とを含む混練では、回転数を上げるに従い剪断発熱が大きくなるので、樹脂への影響を考慮すると、好ましくは180rpm以上600rpm以下が、さらに500rpm以下であれば樹脂への影響を少なく分散効率も高くなるので好適である。バッチ式であれば100rpm未満でも混練可能であるが、連続式混練機を用いた場合には微粒子の分散が不十分となるので100rpm未満は好ましくない。
【0047】
<第二混練工程>
第二混練工程では第一混練工程で得られた樹脂A−微粒子混合物に対して、樹脂A以外の樹脂を添加してさらに混練して流動状態の樹脂−微粒子混合物を得る。第一混練工程に続き、第二混練工程でも混練を実施する。このため、第二工程で設定される最も高い混練温度は、樹脂組成物に配合した二種類以上の樹脂の融点のうちで最も高い融点より高く、微粒子の融点未満の温度である。但し、この混練温度については、樹脂組成物に配合した二種類以上の樹脂の融点よりも低い温度であって、樹脂AのTg以上の温度を選択することも可能である。樹脂AのTg以上融点未満の温度とすることで混練効率を一層向上させることができる。なお、最も低い温度の場合でも樹脂AのTg以上に設定しなければ、樹脂Aへ他の樹脂を相溶させることができない。従って、第二混練工程で得られた樹脂−微粒子混合物内では、樹脂A及び樹脂A以外の樹脂は流動状態となっているが、微粒子は溶融していない。また、第二混練工程におけるスクリュー回転数も、一般的に樹脂の混練に採用されうる回転数であれば特に限定されないが、製造効率の観点から100rpm以上800rpm以下が好ましい。混練効率を考慮すると高速回転が好ましいが、微粒子と樹脂を含む混練では、回転数を上げるに従い剪断発熱が大きくなるので、樹脂への影響を考慮すると、好ましくは180rpm以上600rpm以下が、さらに500rpm以下であれば樹脂への影響を少なく分散効率も高くなるので好適である。バッチ式であれば100rpm未満でも混練可能であるが、連続式混練機を用いた場合には微粒子の分散が不十分となるので100rpm未満は好ましくない。
【0048】
<通過工程>
通過工程では、上述した第一及び第二の混練工程を経て調製した樹脂−微粒子混合物に、樹脂−微粒子混合物の流動方向に沿う断面における面間距離が0.1mm以上3mm以下である二つの面ではさまれた間隙を、流動状態のままで通過させる。製造効率の観点から、面間距離は1mm以上3mm以下であることが好ましい。かかる範囲の面間距離の間隙を通過させることによって、樹脂が急速に引き伸ばされ樹脂−微粒子混合物内で連続した層状の剪断流動が発生し、樹脂−微粒子混合物を効率的に混合することができる。このような、樹脂−微粒子混合物内で発生した急速な樹脂の伸張の結果発生した連続した層状の剪断流動による混合を、「カオス混合」という。さらに、間隙の樹脂−微粒子混合物の流動方向に沿う長さは、カオス混合の効果を十分に得る観点から、5mm以上とすることが好ましく、10mm以上とすることが更に好ましく、また、100mm以下とすることが好ましく、50mm以下とすることが更に好ましい。また、間隙の流動方向に垂直な方向の幅は、特に限定されることなく、例えば、5mm以上としても、2000mm超としてもよい。さらに、樹脂組成物が通過する間隙の数は、2つ以上であることが好ましい。また、この間隙は樹脂の流動方向に対して垂直に複数存在していても良い。
【0049】
なお、間隙を形成する、樹脂−微粒子混合物の流動方向に沿う断面における二つの面の形状(以下、「間隙の形状」という)は、それぞれ、平面、曲面、及びこれらの組み合わせが挙げられ、特に、樹脂に対するダメージを回避する観点から、曲面であることが好ましい。間隙の形状を曲面とする場合は、上記範囲内の面間距離である間隙が、上記範囲内の流動方向長さで延在していれば良い。
【0050】
また、樹脂−微粒子混合物に間隙を通過させる際の温度条件は、樹脂−微粒子混合物の流動状態を維持可能な温度であれば良く、上述した第二混練工程と同様の温度条件であれば良い。流動状態の樹脂−微粒子混合物に間隙を通過させることによって、樹脂−微粒子混合物内で連続した層状の剪断流動が発生し、樹脂−微粒子混合物が効率的に混合される。さらに詳細には、かかる混合により樹脂−微粒子混合物に含有される二種類以上の樹脂が相溶状態に導かれる。換言すれば、通過工程を採用することで、上記第一及び第二の混練工程のような通常の混練のみであれば互いに相分離して海島構造を形成する樹脂を用いた場合であっても、海島構造を形成させることなく単一の相を形成させて、かかる単一の相内で微粒子凝集体を均一に分散させることができる。
【0051】
ここで、第一混練工程の時間をt
1、第二混練工程及び通過工程の合計時間をt
2とし、第一混練工程〜通過工程終了までの経過時間をT
tとする(すなわち、T
t=t
1+t
2)と、T
t/4≦t
1≦t
2とすることが好ましい。各工程にかける時間を、上記条件を満たすように設定することで、高効率で微粒子凝集体の分散性が良好な樹脂組成物を得ることができる。
【0052】
上述したとおり、本発明による樹脂組成物製造方法では、第一混練工程で樹脂Aを、第二混練工程で樹脂A以外の樹脂を添加する。ここで、これらの樹脂は、SP値が異なるため、微粒子との親和性が異なる。本発明による樹脂組成物製造方法では、最終的に通過工程を実施するため、順次投入される樹脂の微粒子に対する親和性に関わらず、樹脂組成物内において微粒子凝集体を良好に分散させることができる。通過工程においてSP値の異なる二種類以上の樹脂が相溶状態へと導かれ、単一相を有する樹脂組成物とすることができるからである。
【0053】
さらに、本発明において、二種類以上の樹脂を少なくとも二段階に分けて混練することで、一段階で二種類以上の樹脂と微粒子とを混合した場合と比較して、混練条件を煩雑に制御する必要性が比較的少なくなる理由としては、以下のメカニズムが推察される。まず、第一混練工程で50体積%以上を占める樹脂Aと微粒子を混合した場合に、微粒子が樹脂Aの中に分散される。その後、第二混練工程で樹脂Aよりも体積分率が少ない樹脂A以外の樹脂(以下、「樹脂B」ともいう)を添加すると、樹脂Aに樹脂Bが分散される確率よりも微粒子が樹脂Bに分散される確率は小さくなり、樹脂Bが微粒子を取り込む作用よりも樹脂Aへ樹脂Bの分散が進む作用が大きくなる。一方、一段階で樹脂A、微粒子、樹脂Aよりも体積分率が少ない樹脂Bを添加した場合には、微粒子は樹脂Aと樹脂Bとの体積分率の比率でそれぞれへ分散が進むことになる。
すなわち一段階ですべての組成物を投入すると、樹脂Aだけで無く樹脂Bへ必ず微粒子の分散が進むが、二段階に分けることにより、樹脂Bへ微粒子の分散が進む確率がきわめて小さくなる。その結果、樹脂Aに樹脂Bと微粒子がそれぞれ独立して分散する分散状態の構造が形成され、最終工程である通過工程で樹脂Bと樹脂Aの相溶が進みやすくなる。
【0054】
<冷却工程>
通過工程を経た樹脂−微粒子混合物は、通過工程で使用した連続式混練機から押し出される。押し出された樹脂−微粒子混合物は、冷却工程にて、通過工程終了後所定時間内に所定温度未満に冷却される。これにより、相溶した樹脂のスピノーダル分解を途中で停止させて、樹脂組成物中の微粒子凝集体の最大凝集体直径を800nm以下とすると共に、二種以上の樹脂の相溶状態を保持することができる。通過工程を経た樹脂−微粒子混合物は、通過工程終了後6秒以内に冷却工程に処されることが好ましく、5秒以内に冷却工程に処されることがより好ましい。さらに、通過工程を経た樹脂−微粒子混合物は、樹脂AのTg未満の温度に冷却されることが好ましい。具体的には、通過工程を経た樹脂−微粒子混合物は、冷却工程にて70℃未満に冷却されることが好ましく、50℃未満に冷却されることがより好ましい。
【0055】
<裁断工程>
上述のようにして得られた樹脂組成物は、例えば、以下のようにしてペレット化することができる。
冷却工程を経て得られた樹脂組成物は、一般的な方法に従い、カッター等によりペレットに断裁して、例えば、10mm以下、好ましくは5mm以下、さらに好ましくは3mm以下の大きさのペレットとすることができる。本発明の目的を達成可能な限りにおいて、ペレットの大きさはいかなる大きさであっても良い。
なお、裁断工程を上述した通過工程と冷却工程との間に実施することも可能である。この場合、例えば、通過工程で使用した連続式混練機から押し出された樹脂−微粒子混合物をホットカットする等して所望の大きさのペレットとすることができる。
【0056】
(混練機組合せ例)
以下、本発明の樹脂組成物製造方法にて使用しうる混練機の組合せ例を説明する。下記例により、本発明は特に制限を受けない。下記例にかかる混練機の組合せは、主に生産効率の観点から選択したものである。なお、下記において台数とは、混練機のスクリューを稼働させているモーターの個数を意味している。また、通過工程に用いる混練機として、押出機能が有効な連続式混練機を選択することができる。さらに、通過工程に用いる混練機には、特開2010−137405号明細書あるいは特開2011−26364号明細書に記載された装置(以下、「カオス混合装置」と称する)を取り付けて使用することができる。
【0057】
<システム1>
第一の混練機組合せ例であるシステム1は、カオス混合装置を吐出口に取り付けた二軸混練機又は多軸混練機を一台用いて、その一台で上記第一及び第二の混練工程を実施する。ここで、二軸混練機又は多軸混練機は、樹脂Aと微粒子とを第一の投入口を経て混練機に投入した時点から上述の第一混練工程を時間t
1の間実施した後に他の樹脂を投入できる設備(第二の投入口)を少なくとも1つ有している。そして、上記システム1は、二軸混練機又は多軸混練機による第二混練工程と、カオス混合装置による通過工程とを合わせて時間t
2の間実施する。その後、上記システム1は、カオス混合装置からストランドの形状で押し出された樹脂組成物を30℃の水温で保たれた水槽で急冷後、公知のカッターでストランドを切断しペレット化する。
【0058】
システム1が備えるスクリューセグメントの構成は、例えばニーディングディスク二組、ロータ二組、又はニーディングディスクとロータとの組み合わせ二組など、剪断力を発生するスクリューを少なくとも二組含む。そして、かかる二組のスクリューのうちの一方は、システム1を構成する二軸混練機又は多軸混練機内において、樹脂A以外の樹脂を投入する前の段階に備えられ、他方は、樹脂A以外の樹脂を投入した後の段階に備えられる。
【0059】
なお、システム1では、二軸混練機又は多軸混練機におけるスクリューセグメントの有効長(L/D、但し、L=スクリュー長、D=スクリュー径)は40以上が好ましく、45以上がさらに好ましく、取り扱い易さから上限は80未満であることが好ましい。
【0060】
<システム2>
第二の混練機組合せ例であるシステム2は、二軸混練機又は多軸混練機二台と、二台目の二軸混練機又は多軸混練機に取り付けられたカオス混合装置一台とを備える。この場合、一台目の二軸混練機又は多軸混練機で微粒子と樹脂Aとを時間t
1だけ混練し、二台目の二軸混練機又は多軸混練機で樹脂A以外の樹脂等を添加して混練し、更には二台目の二軸混練機又は多軸混練機に取り付けられたカオス混合装置にてカオス混合して時間t
2の経過後カオス混合装置から押し出す。システム2では、一台目と二台目の二軸混練機又は多軸混練機はそれぞれ、スクリューセグメントとして、少なくとも一組のニーディングあるいはロータの組合せ、又はニーディングディスクとロータの組み合わせを含む。
【0061】
二軸混練機又は多軸混練機を二台用いるシステム2におけるスクリューセグメントの有効長(L/D)は、20以上が好ましいく、30以上がより好ましく、取り扱い易さから上限は80未満であることが好ましい。
なお、二台の二軸混練機又は多軸混練機については、両者を接続して運転しても良い。
【実施例】
【0062】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例および比較例において、最大凝集体直径(nm)、引張強度(Mpa)、衝撃強度(J/m)、並びに樹脂組成物中における樹脂A、樹脂A以外の樹脂、及び微粒子の含有量(体積%)は下記のようにして測定した。
【0063】
<最大凝集体直径>
下記実施例及び比較例に従い製造した樹脂組成物の切片を常法に従って作製し、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM-1400Plus」)でTEM画像を撮影した。撮影したTEM画像上でランダムに選択した10個の微粒子凝集体について、各微粒子凝集体を構成する全微粒子が入る最小円を設定し、それらの直径の最大値(nm)を算出した。
【0064】
<引張強度>
下記実施例及び比較例に従い製造した樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械社製、「EC50SX」)を用いて、成形温度300℃、射出速度50mm/s、射出圧力85Paの条件の下で射出成形し、ISO多目的試験片(4mmt)を作製した。この試験片を用いてISO527に準拠した引張試験を行い、引張強度(MPa)を測定した。
【0065】
<衝撃強度>
上述のようにして得られたISO多目的試験片(3mmt)を用いて、アイゾット衝撃試験器により衝撃試験を行った。なお、試験片にはノッチ(切れ目)をつけた。試験片が破壊された際に印加した衝撃強度の値(J/m)を算出した。
【0066】
<樹脂組成物中における各成分の含有量>
[微粒子凝集体]
上述のようにして撮影した樹脂組成物の電子顕微鏡画像を、三次元画像解析し微粒子凝集体の面積比率を算出した。
電子顕微鏡画像から体積分率を求める方法は、以下のようにする。すなわち、本発明で観察される高次構造は、二種以上の樹脂が相溶した相中に、微粒子凝集体が分散してなる構造であり、微粒子凝集体がsであると仮定すると、電子顕微鏡画像全体の面積を1とした時の面積分率の平方根を3乗して得られた値を樹脂組成物中における微粒子凝集体の体積分率として近似可能である。本発明の体積%は、この体積分率を100倍した値として得られる。
【0067】
[樹脂]
樹脂組成物中における樹脂A及び樹脂A以外の樹脂の含有量(体積%)は以下のようにして算出した。まず、上述のようにして算出した微粒子凝集体の体積%を全樹脂組成物体積である100体積%から減じて、樹脂組成物全体に占める樹脂の体積%を算出する。そして、各樹脂の配合量(重量)を各組成の比重で除し、体積に変換後、体積分率を求めて、その比率を、上述のようにして算出した樹脂組成物全体に占める樹脂の体積分率に乗じて、各樹脂の体積分率を算出する。
【0068】
<原材料>
[樹脂]
樹脂組成物に含有させる二種以上の樹脂を以下から選択した。
PPS1:リニア型ポリフェニレンスルフィド樹脂(東レ株式会社製、商品名「トレリナ(登録商標)」、グレード名「A900」)
PPS2:架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(東ソー株式会社製、商品名「サスティール」、グレード名「B−060P」)
PBT:ポリブチレンテレフタレート樹脂(東レ株式会社製、商品名「トレコン」、グレード名「1401x06」)
ナイロン6樹脂(東レ株式会社製、商品名「アミラン」、グレード名「CM1017」)
ナイロンMXD6樹脂(三菱ガス化学株式会社製、「MXナイロン」、グレード名「S6001」)
ナイロン66樹脂(東レ株式会社製、商品名「アミラン」、グレード名「CM3007」)
PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂(帝人株式会社製PET樹脂、商品名「TR−8550T」)
【0069】
[微粒子]
樹脂組成物に含有させる微粒子を以下から選択した。
カーボンブラック(三菱化学株式会社製、グレード名「#850」、一次粒子径17nm、融点約3550℃)
磁性粉(シーアイ化成株式会社製、商品名「NanoTek」、Fe
2O
3、一次粒子径39nm、融点約1566℃)
【0070】
(実施例1)
<樹脂組成物の製造>
樹脂組成物の製造にあたり、第一及び第二の混練工程を株式会社神戸製鋼所製の二軸混練機HYPERKTX−46(以下単に「KTX−46」とも称する)で実施し、通過工程を特開2011−026364号明細書に従う小平製作所社製のダイ(カオス混合装置)で実施した。KTX−46は12ゾーンに分かれたシリンダーからなり、モーターに近い側から遠い側にかけて樹脂組成物が混合されて流れていく。最もモーターに近い側のゾーンをゾーン1とし、最も遠い側をゾーン12と称することとすると、KTX−46は、ゾーン1にて樹脂Aと微粒子を投入する第一の投入口、ゾーン6にて樹脂A以外の樹脂を投入する第二の投入口を有する。さらに、ゾーン4とゾーン8には、ニーディングディスクとロータの組み合わせによる混練部が設けられており、ゾーン10〜ゾーン12には圧縮用スクリューが設けられており、その他のゾーンには搬送用のスクリューが設けられている。さらに、ダイ(カオス混合装置)の間隙の形状は曲面とし、面の全長及び全幅に渡って面間距離が1mm〜2.5mm、間隙の樹脂−微粒子混合物の流動方向に沿う長さは20mmとした。なお、ダイ(カオス混合装置)はKTX−46の吐出口の先に取り付けた。
【0071】
KTX−46の運転条件は、スクリュー回転数300rpm、290℃とし、ダイ(カオス混合装置)から吐き出される樹脂組成物のストランドを水槽で急冷し、ストランドカッターで切断して樹脂組成物のペレットを作製した。
【0072】
微粒子としてカーボンブラックを、樹脂AとしてPPS1を、樹脂A以外の樹脂としてナイロン6を採用した。4時間かけてKTX−46に対して、第一の投入口よりカーボンブラックを11.25kg/hで、PPS1を20.77kg/hで投入し、第二の投入口よりナイロン6を2.26kg/hで投入した。カーボンブラック、PPS1、及びナイロン6の総投入量は、それぞれ、45kg、83.08kgと9.04kgであった。カーボンブラック及びPPS1をKTX−46に投入してからダイ(カオス混合装置)から樹脂組成物のストランドが吐き出されるまでに要した時間、すなわち、第一混練工程〜通過工程終了までの経過時間T
tは、152秒であった。第一混練工程に要した時間t
1は63秒、第二混練工程及び通過工程の合計時間であるt
2は89秒であった。
得られた樹脂組成物について、最大凝集体直径(nm)、引張強度(Mpa)、衝撃強度(J/m)、並びに樹脂組成物中における樹脂A、樹脂A以外の樹脂、及び微粒子の含有量(体積%)を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(実施例2〜3、6)
樹脂組成物に配合する微粒子及び樹脂を表2のように変更した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を製造した。得られた樹脂組成物について、最大凝集体直径(nm)、引張強度(Mpa)、衝撃強度(J/m)、及び樹脂組成物中における微粒子の含有量(体積%)を測定した。結果を表2に示す。
【0074】
(実施例4,5)
樹脂組成物に配合する微粒子及び樹脂を表2のように変更した。但し、樹脂Aと微粒子とを混練する第一混練工程については、カオス混合装置を取り外したKTX−46を用いた。得られた樹脂A−微粒子混合物と樹脂A以外の樹脂については、カオス混合装置を取り付けたKTX−46で混練を行い、樹脂組成物を製造した。得られた樹脂組成物について、最大凝集体直径(nm)、引張強度(Mpa)、衝撃強度(J/m)、及び樹脂組成物中における微粒子の含有量(体積%)を測定した。結果を表2に示す。
【0075】
(比較例1)
KTX−46に取り付けたダイ(カオス混合装置)を取り外し、実施例1と同様の運転を行い、樹脂組成物を製造した。得られた樹脂組成物について、最大凝集体直径(nm)、引張強度(Mpa)、衝撃強度(J/m)、及び樹脂組成物中における微粒子の含有量(体積%)を測定した。結果を表2に示す。なお、TEM画像中には、海島構造が観察された。具体的には、1μm前後のナイロン6相が「島」となりPPS1層の「海」の中に分散し、さらに、かかる構造中に微粒子凝集体であるカーボンブラックが不均一に分散していた。微粒子凝集体の最大凝集体直径は2200nmであった。
【0076】
(比較例2)
樹脂組成物の製造にあたり、混練工程を一段階のみで実施した以外、すなわち、樹脂組成物に配合した各成分や、KTX−46の運転条件や装置構成は実施例1と同様とした。混練機としては、実施例1と同様にKTX−46を用いるが、本例ではゾーン1の第一の投入口を使用し、ゾーン6の第二の投入口は使用しない。すなわち、第一の投入口より、4時間かけてカーボンブラックを11.25kg/hで、PPS1を20.77kg/hで、ナイロン6を2.26kg/hで、KTX−46に対して投入した。各成分をKTX−46に投入してから、ダイ(カオス混合装置)から樹脂組成物のストランドが吐き出されるまでに要した時間T
tは、150秒であった。
得られた樹脂組成物について、最大凝集体直径(nm)、引張強度(Mpa)、衝撃強度(J/m)、及び樹脂組成物中における微粒子の含有量(体積%)を測定した。結果を表2に示す。なお、TEM画像中には、海島構造が観察された。具体的には、微粒子凝集体であるカーボンブラックの凝集体により取り囲まれた1.5μm前後のナイロン6相が「島」となりPPS1層の「海」の中に分散していた。微粒子凝集体の最大凝集体直径は4000nmであった。
【0077】
【表2】
【0078】
表2より、最大凝集体直径が800nm以下である微粒子凝集体が、二種以上の樹脂が相溶した相中に分散してなる実施例1〜6の樹脂組成物は、最大凝集体直径が800nm超であり、二種類以上の樹脂が相溶せず海島構造を構築している比較例1〜2の樹脂組成物よりも、引張強度に代表される強度や、衝撃強度に代表される靭性に優れる。