【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、炭化処理されていないアルギン酸粉末を0.1〜30質量部含有するタイヤトレッド用ゴム組成物である。また、該ゴム組成物を用いてなるトレッドを備えた空気入りタイヤである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面は一般路面に比べて著しく摩擦係数が低下し滑りやすくなる。そのため、スタッドレスタイヤやスノータイヤ等の冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッドゴムにおいては、氷上摩擦力を高めて氷上制動性能を向上するために、トレッドゴムを発泡ゴムで形成する手法や、中空粒子やガラス繊維、アルミニウムウィスカー等の硬質材料を配合する手法が、種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ジエン系ゴムにアルギン酸カルシウム粒子を配合することにより、氷上路面での水膜除去効果を発揮して、氷上制動性能を向上させることが開示されている。しかしながら、アルギン酸カルシウム粒子を配合した場合、氷上制動性能と耐摩耗性能を両立することが必ずしも容易でないことが判明した。そのため、耐摩耗性能の低下を抑えながら、氷上制動性能を向上することが求められる。
【0004】
なお、特許文献2には、アルギン酸などの水酸基を有するポリサッカライドを炭化処理することにより得られるメソポーラスカーボンを含有させたゴム組成物が開示されている。しかし老化防止効果を持続させる目的で使用しており、氷上制動性能等については開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0010】
本実施形態に係るゴム組成物は、ジエン系ゴムに、炭化処理されていないアルギン酸粉末を配合してなるものである。
【0011】
該ゴム組成物において、ゴム成分として用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。上記ゴム成分は、好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの2種以上のブレンドである。
【0012】
ジエン系ゴムとして、天然ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドを用いることが好ましく、特に好ましくは、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とのブレンドゴムを用いることである。その場合、BRの比率が少なすぎるとゴム組成物の低温特性が得難くなり、逆に多くなりすぎると加工性の悪化や耐引き裂き抵抗性が低下する傾向になるので、NR/BRの比率は、質量比で30/70〜80/20、更には40/60〜70/30程度であることが好ましい。
【0013】
本実施形態に係るゴム組成物に配合されるアルギン酸粉末は、炭化処理されていないものである。すなわち、特許文献2に記載されたようなアルギン酸を炭化処理することにより得られるメソポーラスカーボンは含まれない。ここで、アルギン酸は、コンブ、ワカメ、カジメなどの褐藻類植物から抽出して得られる直鎖型の高分子多糖類であり、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸からなるヘテロポリマーである。本実施形態では、アルギン酸粉末として、ナトリウム塩やカルシウム塩等のアルギン酸金属塩からなる粉末ではなく、遊離酸型のアルギン酸からなる粉末が用いられる。このような天然多糖類からなるアルギン酸粉末は、吸水性に優れ、吸水すると見かけの粘性が高まることから、ゴム組成物に含有させることにより水膜除去効果を発揮し、氷上制動性能を向上することができる。また、後記の実施例に示されているように、アルギン酸金属塩粉末を用いた場合に比べて、耐摩耗性能の低下を抑えながら、氷上制動性能を向上することができ、更にはウエット制動性能の向上効果も得られることから有利である。
【0014】
該炭化処理されていないアルギン酸粉末の平均粒径は、特に限定されず、例えば1〜200μmでもよく、5〜100μmでもよい。ここで、本明細書において、平均粒径は、レーザー回折・散乱法により測定される値であり、例えば、光源として赤色半導体レーザー(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザー回折式粒度分布測定装置「SALD−2200」により測定される粒度分布(体積基準)の50%粒子径(メディアン径)である。このような炭化処理されていないアルギン酸粉末としては、株式会社キミカからキミカアシッドの商品名で市販されており、使用することができる。
【0015】
該炭化処理されていないアルギン酸粉末の配合量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜30質量部である。配合量が0.1質量部以上であることにより、吸水効果が発揮され、30質量部以下であることにより、耐摩耗性能を維持ないし向上することができる。アルギン酸粉末の配合量は、3〜25質量部でもよく、5〜20質量部でもよく、10〜20質量部でもよい。
【0016】
本実施形態に係るゴム組成物には、該炭化処理されていないアルギン酸粉末とともに、補強性充填剤を配合してもよい。
【0017】
補強性充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを用いることが好ましい。すなわち、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でも、シリカ単独でも、カーボンブラックとシリカの併用でもよい。好ましくは、カーボンブラック、又はカーボンブラックとシリカの併用である。補強性充填剤の配合量は、特に限定されず、例えば上記ジエン系ゴム100質量部に対して10〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜100質量部であり、更に好ましくは30〜80質量部である。
【0018】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。例えば、スタッドレスタイヤ等のウインタータイヤのトレッド部に用いる場合、ゴム組成物の低温性能、耐摩耗性能やゴムの補強性などの観点から、窒素吸着比表面積(N
2SA)(JIS K6217−2)が70〜150m
2/gであり、かつDBP吸油量(JIS K6217−4)が100〜150ml/100gであるものが好ましく用いられる。具体的にはSAF級,ISAF級,HAF級のカーボンブラックが例示される。カーボンブラックの配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜80質量部程度の範囲が好ましく、より好ましくは15〜50質量部である。
【0019】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカのBET比表面積(JIS K6430に記載のBET法に準じて測定)は、特に限定されないが、90〜250m
2/gであることが好ましく、より好ましくは150〜220m
2/gである。配合量としては、ゴムのtanδのバランスや補強性などの観点からジエン系ゴム100質量部に対して10〜50質量部であることが好ましく、より好ましくは15〜50質量部である。
【0020】
シリカを配合する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤を併用することが好ましく、その配合量はシリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤(アミン−ケトン系、芳香族第2アミン系、フェノール系、イミダゾール系等)、加硫剤、加硫促進剤(グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チウラム系等)などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。さらに、植物粒状体(種子の殻、果実の核等の粉砕物)、多孔質性炭化物(木炭、竹炭等)の粉砕物、架橋されたジエン系ポリマー粒子であるポリマーゲルなどの氷上制動性能を向上させる公知の成分を配合することもできる。
【0022】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部であり、更に好ましくは1〜3質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0023】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、ジエン系ゴムに対し、補強性充填剤及び該炭化処理されていないアルギン酸粉末とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加して混練し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で加硫剤及び加硫促進剤を添加して混練することにより、ゴム組成物を調製することができる。
【0024】
このようにして得られるゴム組成物は、空気入りタイヤの接地面を構成するトレッドゴムに用いられ、より好ましくは、スタッドレスタイヤ、スノータイヤなどのウインタータイヤのトレッドのためのゴム組成物として好適に用いられ、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成形することにより、該トレッドを形成することができる。空気入りタイヤのトレッドゴムには、キャップゴムとベースゴムとの2層構造からなるものと、両者が一体の単層構造のものがあるが、接地面を構成するゴムに用いられるので、単層構造のものであれば、当該トレッドゴムが上記ゴム組成物からなり、2層構造のものであれば、キャップゴムが上記ゴム組成物からなる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0026】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階で、硫黄と加硫促進剤を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で硫黄と加硫促進剤を添加混合して(排出温度=90℃)、タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0027】
・天然ゴム:RSS#3
・ブタジエンゴム:宇部興産(株)製「BR150B」
・カーボンブラック:HAF,東海カーボン(株)製「N339 シーストKH」(N
2SA=93m
2/g、DBP=119ml/100g)
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」(BET=205m
2/g)
・パラフィンオイル:JX日鉱日石エネルギー(株)製「プロセスP200」
・シランカップリング剤:エボニックデグサジャパン(株)製「Si69」
・炭化処理されていないアルギン酸粉末:株式会社キミカ製「キミカアシッドSA」
・炭化アルギン酸粉末:株式会社キミカ製「キミカアシッドSA」を炭化処理(真空中、100℃〜450℃で加熱)
・アルギン酸カルシウム:日清紡ケミカル(株)製「フラビカファイン」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・ワックス:日本精≡(株)製「OZOACE0355」
・老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラック6C」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
【0028】
得られた各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製した。タイヤサイズは、195/65R15として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することによりタイヤを製造した。得られた各タイヤについて、耐摩耗性能、氷上制動性能、ウエット制動性能、転がり抵抗性能を評価した(使用リムは、15×5.5JJ)。各測定、評価方法は次の通りである。
【0029】
・耐摩耗性能:上記タイヤ4本を2000ccの4WD車に装着し、一般乾燥路面において2500km毎に左右ローテーションさせながら10000km走行させて、走行後の4本のトレッド残溝深さの平均値を、比較例1を100とする指数表示で示した。数値の大きいものほど耐摩耗性能が良好である。
【0030】
・氷上制動性能:上記タイヤ4本を2000ccの4WD車に装着し、氷盤路(気温−3±3℃)上で40km/h走行からABS作動させて制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、氷上路面での制動性能に優れることを示す。
【0031】
・ウエット制動性能:上記タイヤ4本を2000ccの4WDに装着し、濡れた路面上で90km/h走行からABS作動させて20km/hまで減速時の制動距離を測定し(n=10の平均値)、制動距離の逆数について比較例1の値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど制動距離が短く、濡れた路面での制動性能に優れることを示す。
・転がり抵抗性能:空気圧230kPa、荷重4.4kNとして、転がり抵抗測定用の1軸ドラム試験機にて、室温23℃に設定し、速度80km/hで走行させたときの転がり抵抗を測定した。結果は、転がり抵抗の逆数について比較例1の値を100として指数で表示した。指数が大きいほど転がり抵抗が小さく、転がり抵抗性能(低燃費性)に優れていることを示す。
【0032】
【表1】
【0033】
結果は、表1に示す通りであり、ジエン系ゴム100質量部に対して炭化処理されていないアルギン酸粉末を0.1〜30質量部配合した各実施例であると、コントロールである比較例1に対して、耐摩耗性能、転がり抵抗性能を維持ないし向上しつつ、氷上制動性能、ウエット制動性能を向上することができた。一方で、炭化アルギン酸粉末を用いた比較例2では、耐摩耗性能、氷上制動性能、ウエット制動性能が低下した。また、アルギン酸カルシウムを用いた比較例3では、氷上制動性能の向上の割には、耐摩耗性能が大きく低下した。また、比較例4では炭化処理されていないアルギン酸粉末が多すぎ、耐摩耗性能及び転がり抵抗性能が低下した。