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特開2016-222800筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222800(P2016-222800A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20161205BHJP
   B43K 7/02 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   C09D11/16
   B43K7/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-109933(P2015-109933)
(22)【出願日】2015年5月29日
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】益田 博考
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA09
2C350HA12
2C350KF03
2C350NA01
2C350NA19
2C350NC44
4J039BC56
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039BE22
4J039BE33
4J039CA04
4J039EA48
4J039GA27
(57)【要約】

【課題】本発明の課題は、ペン先の摩耗を抑制し、かつ、書き味が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を提供することである。
【解決手段】着色剤、有機溶剤、芳香環を有するジホスファイトを含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、有機溶剤、芳香環を有するジホスファイトを含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記芳香環を有するジホスファイトが、(化1)、(化2)の中のから1種以上含んでなることを特徴とする請求項1に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【化1】
【化2】
【請求項3】
前記芳香環を有するジホスファイトの含有量が、インキ組成物全質量に対して、0.1〜5.0質量%であること特徴とする請求項1または2に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項4】
前記筆記具用油性インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)を含んでなることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項5】
前記筆記具用油性インキ組成物に、曳糸性付与樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項6】
前記芳香環を有するジホスファイトのインキ組成物全量に対する含有量をX、曳糸性付与樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をYとした場合、0.1≦X/Y≦30の関係であることを特徴とする請求項5に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項7】
前記筆記具用油性インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度500sec−1において、10〜5000mPa・sであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物をインキ収容筒内に直詰めしたことを特徴とする筆記具。
【請求項9】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを装着し、前記インキ収容筒内に、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したことを特徴とする油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インキ組成物及びそれを用いた筆記具に関し、さらに詳細としては、ペン先の摩耗を抑制し、かつ、書き味を良好とする筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【0002】
従来より、ボールペンや万年筆などの金属類のペン先がある筆記具では、ペン先(ボールペンのチップ、万年筆のペン先など)の摩耗により書き味が悪くなることがあり、特にボールペンは他の種類の筆記具と異なり、先端にステンレス鋼などからなる金属チップ本体と、該金属チップ本体のボール受け座に抱持される超鋼などの金属からなる転写ボールと、からなるボールペンチップをインキ収容筒に装着した構成を有するが、筆記時にボールの回転によって、ボール座に摩耗が発生し、筆跡に線飛び、カスレなどが生じたり、書き味が悪くなるという問題があった。
【0003】
こうした問題を解決するため、ペン先(ボールペンのチップ、万年筆のペン先など)での潤滑性向上を目的として、様々な潤滑剤を用いた筆記具用油性インキ組成物が多数提案されている。
【0004】
このような潤滑剤を用いた筆記具用油性インキ組成物としては、アルキルβ−D−グルコシドを用いたものとしては、特開平5−331403号公報「油性ボールペンインキ」、平均分子量が200〜4000000であるポリエチレングリコールを用いたものとしては、特開平7−196971号公報「油性ボールペン用インキ組成物」、N−アシルアミノ酸、N−アシルメチルタウリン酸、N−アシルメチルアラニンを用いたものとしては、特開2007−176995号公報「油性ボールペン用インキ」、ピロリドンカルボン酸エステルを用いたものとしては、特開2008−88265号公報「ボールペン用油性インキ組成物」等に、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】「特開平5−331403号公報」
【特許文献2】「特開平7−196971号公報」
【特許文献3】「特開2007−176995号公報」
【特許文献4】「特開2008−88265号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜4のような各種潤滑剤を用いた場合、ある程度書き味を向上しつつ、ペン先(ボールペンのチップ、万年筆のペン先など)の摩耗を抑制することはできるが、十分に満足できるものではなく、筆跡に線飛び、かすれ等が発生してしまう問題を抱えていた。
【0007】
本発明の目的は、ペン先の摩耗を抑制し、かつ、書き味が良好である筆記具用油性インキ組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、芳香環を有するジホスファイトを含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
2.前記芳香環を有するジホスファイトが、(化1)、(化2)の中のから1種以上含んでなることを特徴とする第1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【化1】
【化2】
3.前記芳香環を有するジホスファイトの含有量が、インキ組成物全質量に対して、0.1〜5.0質量%であること特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記筆記具用油性インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.前記筆記具用油性インキ組成物に、曳糸性付与樹脂を含んでなることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.前記芳香環を有するジホスファイトのインキ組成物全量に対する含有量をX、曳糸性付与樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をYとした場合、0.1≦X/Y≦30の関係であることを特徴とする第5項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
7.前記筆記具用油性インキ組成物のインキ粘度が、20℃、剪断速度500sec−1において、10〜5000mPa・sであることを特徴とする第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
8.第1項ないし第7項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物をインキ収容筒内に直詰めしたことを特徴とする筆記具。
9.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを装着し、前記インキ収容筒内に、第1項ないし第8項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなる油性ボールペンレフィルを軸筒内に配設したことを特徴とする油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、潤滑性を保ち、ペン先の摩耗を抑制し、かつ、書き味を良好として、筆跡に線飛び、かすれがなく筆跡が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の特徴は、筆記具用油性インキ組成物中に芳香環を有するジホスファイトを含んでなることである。
【0011】
本発明に用いる芳香環を有するジホスファイトは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環を有する亜リン酸エステル類(ホスファイト類)であり、含有することで、潤滑性を保ち、ペン先の摩耗を抑制し、かつ、書き味を良好とすることが可能となることが解った。
【0012】
前記芳香環を有するジホスファイトについて、ジホスファイトでは、2つのホスファイトが金属類に吸着しやすいため、本発明では、金属製のペン先やボールに吸着して、潤滑膜を形成することで、潤滑性を向上する効果が得られる。さらに、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環などの芳香環も金属類に吸着しやすいため、同様に潤滑効果が得られる。そのため、ジホスファイトと芳香環の両方を有する構造であり、その相乗効果によって、より高い潤滑性を有する潤滑膜を形成することで、ペン先の摩耗を抑制し(特にボールペンチップのボール座の摩耗を抑制)、かつ、書き味を良好とするものと推測する。特に、ホスファイトの−P−が金属に強固に吸着することで、長期間の潤滑膜を形成して、潤滑性を保つことが可能になるものと推測する。
【0013】
また、芳香環を有するジホスファイトについて、具体的には、テトラアルキル−4,4 '−イソプロピリデンジフェニルジホスファイトとして、テトラアルキル(C12〜15の混合アルキル)−4,4‘−イソプロピリデンジフェニルジホスファイトなどや、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジフェニルペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。よりペン先の摩耗を抑制することを考慮すれば、テトラアルキル−4,4‘−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト(化1)、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト(化2)が好ましく、さらに、テトラ−4,4‘−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト(化1)は、ペン先で形成されるインキ皮膜を柔らかくする傾向があり、ドライアップ時の書き出し性能を改良しやすいため好ましく、最も好ましくは、テトラ(C12〜15の混合アルキル)−4,4‘−イソプロピリデンジフェニルジホスファイトである。これらのジホスファイトは単独又は2種以上混合して使用してもよい。

【化1】
【化2】
【0014】
また、芳香環を有するジホスファイトの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、潤滑効果が得られないおそれがあり、10.0質量%を越えると、インキ経時安定性に影響するおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1〜10.0質量%が好ましく、より潤滑性、インキ経時安定性を考慮すれば、0.3〜5.0質量%が好ましく、さらに、考慮すれば、0.5〜3.0質量%が最も好ましい。
【0015】
本発明においては、リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)を含んでなることが好ましい。これは、リン酸エステル系界面活性剤において、リン酸基が金属製のペン先やボールなどの金属表面に吸着しやすく、潤滑膜を形成し、ペン先の潤滑性を保ち、ペン先の摩耗(特にボールペンチップのボール座の摩耗)抑制や、書き味がより向上しやすいためである。特に、本発明では、芳香環を有するジホスファイトとリン酸基によって、より多くの潤滑膜を形成して、潤滑性を向上しやすいためより好ましい。
【0016】
リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられ、前記リン酸エステル系界面活性剤のアルキル基は、スチレン化フェノール系、ノニルフェノール系、ラウリルアルコール系、トリデシルアルコール系、オクチルフェノール系などが挙げられる。これらのリン酸エステル系界面活性剤は、単独又は2種以上混合して使用してもよい。その中でも、潤滑性を考慮すれば、アルキル基に含まれる炭素数が5〜18であることが好ましく、さらに考慮すれば、前記炭素数が10〜18であることがより好ましく、最も好ましくは、インキ経時安定性を考慮すれば、前記炭素数12〜18である。アルキル基の炭素数が過度に少ないと、潤滑性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、インキ経時安定性に影響が出やすい傾向があるので注意が必要である。
【0017】
さらに、リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)は、ペン先で形成されるインキ皮膜を柔らかくする傾向があり、ドライアップ時の書き出し性能を改良できることがある。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時ペン先が外部に露出した状態であるため、ドライアップ時の書き出し性能に影響しやすいため、リン酸エステル系界面活性剤を用いることはより好ましい。
そのため、ペン先の摩耗を抑制し、書き味を良好とし、さらに、ドライアップ時の書き出し性能を向上するには、芳香環を有するジホスファイトと、リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)とを併用すると、より効果的であるため、好ましい。
【0018】
また、リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1〜5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキが経時的に不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3〜3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5〜3.0質量%が、最も好ましい。
【0019】
リン酸エステル系界面活性剤(ただし、芳香環を有するジホスファイトを除く)の具体例としては、プライサーフシリーズ(第一工業製薬(株))の中から、プライサーフA217E(アルキル基:炭素数14)、同A219B(アルキル基:炭素数12)、同A215C(アルキル基:炭素数12)、同A208B(アルキル基:炭素数12)、同A208N(アルキル基:炭素数12と13の混合物)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)の中から、フォスファノールRB410(アルキル基:炭素数18)、同RS−610(アルキル基:炭素数13)、同RS−710(アルキル基:炭素数13)等が挙げられる。これらの界面活性剤は単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0020】
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t−ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール系溶剤など、油性ボールペン用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0021】
これら有機溶剤の中でも、グリコールエーテル系溶剤を用いることが好ましい。これは、グリコールエーテル系溶剤を用いると、吸湿しやすいため、チップ先端部が乾燥したときに形成する皮膜の強度を和らげ、ドライアップ時の書き出し性能も向上しやすいためである。
【0022】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10.0〜70.0質量%が好ましい。また、グリコールエーテル系溶剤の含有量は、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、全有機溶剤に対し、10.0〜50.0質量%が好ましく、より好ましくは10.0〜30.0質量%である。
【0023】
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。
【0024】
また、染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等が採用しても良いが、潤滑性の向上とインキ経時安定性を考慮すれば、有機酸と塩基性染料との造塩染料を用いる方が好ましく、その中でも、アルキルベンゼンスルホン酸と塩基性染料との造塩染料を用いる方が好ましい。これは、芳香環を有し、スルホ基(-SOH)を有することで、フェニルスルホン基が、金属に吸着し易い潤滑膜を形成しやすいことで、より潤滑性を向上し、ペン先の摩耗を抑制し、かつ、書き味が良好とする効果が得られやすいためである。また、塩基性染料は、アルキルベンゼンスルホン酸と塩基性染料間のイオン結合力が強い造塩染料とすることで、油性インキ中において、様々な環境下や長期間インキ経時安定性が保ちやすくすることが可能であるため好ましい。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0025】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、DPP系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。潤滑性を考慮すれば、顔料を含有することが好ましい。これは、顔料を用いることで、ボールとペン先の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上し、ペン先の摩耗を抑制しやすい、かつ、書き味が良好としやすいためである。特に、潤滑性の向上を考慮すれば、カーボンブラックを用いる方が好ましい。また、ボールペンチップ内部の隙間関係を考慮し、平均粒子径は、300nm以下が好ましい。より好ましくは、150nm以下である。ここで、平均粒子径とは、体積基準の累積50%平均粒径(D50)のことである。平均粒径の測定は、例えば、レーザ散乱法、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製)によって測定できる。これらの顔料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0026】
本発明で用いる樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、書き味を向上するためには、少なくともポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。ポリビニルブチラール樹脂については、ポリビニルアルコール(PVA) をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造であるが、従来技術としては、ポリビニルブチラール樹脂を顔料分散剤として、好適に用いた技術はあるが、本発明では、書き味を向上しやすくする効果がある。これは、ポリビニルブチラール樹脂は、ボールとペン先(ボール座)との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、特にボール座の摩耗抑制や、書き味を向上しやすくすることが可能となるためである。
【0027】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な潤滑効果や、インキ垂れ下がり抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性によるドライアップ時の書き出し性を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとペン先(ボール座)との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、油性ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、油性ボールペンでは効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、油性インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30〜40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30〜36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0028】
また、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、油性ボールペン組成物中の全樹脂の含有量に対して50質量%以上とし、主たる樹脂として用いることが好ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の50質量%未満となると、その他の樹脂によって、弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味の向上効果が得られなくなりやすく、さらにチップ先端の樹脂皮膜の形成を阻害してしまいインキ垂れ下がりを抑制できないためである。より書き味やインキ垂れ下がり性能を向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して70質量%以上が好ましく、さらにその傾向を考慮すれば、90質量%以上が好ましい。
【0029】
ポリビニルブチラール樹脂については、具体的には、積水化学工業(株)製の商品名;エスレックBH−3(水酸基量:34mol%、平均重合度:1700)、同BH−6(水酸基量:30mol%、平均重合度:1300)、同BX−1(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:1700)、同BX−5(水酸基量:33±3mol%、平均重合度:2400)、同BM−1(水酸基量:34mol%、平均重合度:650)、同BM−2(水酸基量:31mol%、平均重合度:800)、同BM−5(水酸基量:34mol%、平均重合度:850)、同BL−1(水酸基量:36mol%、平均重合度:300)、同BL−1H(水酸基量:30mol%)、同BL−2(水酸基量:36mol%、平均重合度:450)、同BL−2H(水酸基量:29mol%)、同BL−10(水酸基量:28mol%)などや、クラレ(株)製の商品名;モビタールB20H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:250〜500)、同30T(水酸基量:33〜38mol%、平均重合度:400〜650)、同30H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:400〜650)、同30HH(水酸基量:30〜34mol%、平均重合度:400〜650)、同45H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:600〜850)、同60T(水酸基量:34〜38mol%、平均重合度:750〜1000)、同60H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:750〜1000)、同75H(水酸基量:26〜31mol%、平均重合度:1500〜1750)などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、3.0質量%より少ないと、樹脂皮膜形成量が足りないおそれがあり、書き味やインキ垂れ下がり性能が劣りやすく、40.0質量%を越えると、ドライアップ時の書き出し性能やインキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、3.0〜40.0質量%が好ましい。さらに、書き出し性能やインキ垂れ下がり性能を考慮すれば7.0質量%以上が好ましく、30.0質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、10.0〜30.0質量%が好ましい。
【0031】
ポリビニルブチラール樹脂以外の樹脂は、インキ粘度調整樹脂や曳糸性付与樹脂を適宜用いてもよい。特に、曳糸性付与樹脂を配合することで、インキの結着性を高め、チップ先端における余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しやすいため、曳糸性付与樹脂を含有することが好ましく、さらに、吸湿性があるため、形成された皮膜を和らげ、ドライアップ時の書き出し性能も向上しやすいため、好ましい。
【0032】
曳糸性付与樹脂としては、ポリビニルピロリドンが好ましく、具体的には、アイエスピー・ジャパン(株)製の商品名;PVP K−15、PVP K−30、PVP K−90、PVP K−120などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0033】
また、前記曳糸性付与樹脂の含有量は、芳香環を有するジホスファイトのインキ組成物全量に対する含有量をX、曳糸性付与樹脂のインキ組成物全量に対する含有量をYとした場合、0.1≦X/Y≦30が好ましい。これは、0.1>X/Yだと、曳糸性が強くなり、潤滑性が阻害されやすく、X/Y>30だと、曳糸性が劣りやすく、チップ先端における余剰インキ(泣きボテ)の発生を抑制しづらい。より曳糸性のバランスを考慮すれば、1≦X/Y≦20が好ましく、より潤滑性を考慮すれば、3≦X/Y≦15が好ましい。
【0034】
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が10mPa・s未満の場合には、筆跡に滲みやインキ垂れ下がりの影響が出やすいため、また、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度が30000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなる傾向がある。そのため、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度は、10〜30000mPa・sが好ましい。より書き味の向上を考慮すれば、10〜5000mPa・sが好ましく、最も好ましくは、よりインキ垂れ下がりや書き味を考慮すれば、100〜3000mPa・sである。
【0035】
また、その他として、潤滑性やインキ経時安定性を向上させるために、界面活性剤として、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸アルカノールアミド、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンや、陰イオン性界面活性剤および/または陽イオン性界面活性剤の造塩体を、粘度調整剤として、ケトン樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル等の樹脂や脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0036】
また、ボ−ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、書き味や切削等の加工性を考慮すれば洋白製のチップ本体が好ましく、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0037】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。また、ボールの直径は、特に限定されないが、一般的には0.25mm〜2.0mm程度である。
【0038】
実施例1
実施例1の筆記具用油性インキ組成物は、着色剤として染料、有機溶剤としてベンジルアルコール、エチレングリコールモノフェニルエーテル、芳香環を有するジホスファイト(化1)、潤滑剤としてリン酸エステル系界面活性剤、ポリビニルブチラール樹脂、曳糸性付与剤としてポリビニルピロリドンを採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用油性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。尚、ティー・エイ・インスツルメント株式会社製AG−2(ステンレス製40mm2°ローター)を用いて20℃の環境下で、剪断速度500sec−1にてインキ粘度を測定したところ、3000mPa・sであった。
【0039】
着色剤(赤色塩基性染料と有機酸との造塩染料) 5.0質量%
着色剤(青色塩基性染料と有機酸との造塩染料) 5.0質量%
有機溶剤(ベンジルアルコール) 48.8質量%
有機溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル 25.0質量%
芳香環を有するジホスファイト(化1) 1.0質量%
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量%
ポリビニルブチラール樹脂
(エスレックBL−1、水酸基量:36mol%、平均重合度:300)14.0質量%
曳糸性付与剤(ポリビニルピロリドン樹脂) 0.2質量%
【0040】
実施例2〜8
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2〜8の筆記具用油性インキ組成物を得た。
【表1】
【0041】
比較例1〜4
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、配合し、比較例1〜4の筆記具用油性インキ組成物を得た。
【表2】
【0042】
試験及び評価
実施例1〜8及び比較例1〜4で作製した筆記具用油性インキ組成物(0.4g)及びグリース状のインキ追従体を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.5mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(ステンレス綱線)を装着したボールペン用レフィルに充填し、油性ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験及び評価を行った。
【0043】
耐摩耗試験:荷重200、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が10μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm以下であるもの ・・・○
ボール座の摩耗がひどく、筆跡が悪いもの ・・・×
【0044】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかなもの ・・・○
やや重いもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0045】
ドライアップ性能試験:実施例1〜8及び比較例1〜4で作製した筆記具用油性インキ組成物(0.4g)及びグリース状のインキ追従体を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ1.0mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(ステンレス綱線)を装着したボールペン用レフィルに充填し、油性ボールペンを作製し、手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に30分放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレを評価した。
<筆記条件>筆記荷重70gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレが少ない、または、実用上問題ないレベルであるもの ・・・○
筆跡カスレがひどく、実用上問題になるレベルのもの ・・・×
【0046】
実施例1〜8では、耐摩耗試験、書き味、ドライアップ性能試験ともに良好な性能が得られた。
【0047】
比較例1〜4では、芳香環を有するジホスファイトを含有していないため、耐摩耗試験ではボール座の摩耗がひどく筆跡にカスレが発生し、筆記不良になるものや、書き味が重いものがあり、全体的に劣っていた。
【0048】
さらに、詳細なドライアップ性能試験として、実施例1、2(テトラアルキル−4,4'−イソプロピリデンジフェニルジホスファイトを含む)、実施例7、8(テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト)で作製した筆記具用油性インキ組成物を充填した油性ボールペンを用いて、手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に30分放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>
筆記荷重70gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、サンプル3本を走行試験機にて直線書きを行い、筆跡カスレの長さ(mm)の平均値を測定した。
<試験結果>
実施例1:13.3mm、実施例2:13.9mm、実施例7:41.0mm、実施例8:44.5mmという結果となった。
よって、実施例1、2(テトラアルキル−4,4'−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト(化1)を含む)の方が、実施例7、8(テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト(化2))よりもドライアップ性能については、有利であることが分かった。
【0049】
本発明において、潤滑性を向上するために、20℃、剪断速度500sec−1におけるインキ粘度を、5000mPa・s以下の範囲に設定する場合には、インキの垂れ下がりを防止するため、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は筆記具用油性インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該筆記具用油性インキ組成物を充填した、キャップ式、出没式等の筆記具として広く利用することができる。