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特開2016-222947耐熱性マグネシウム合金及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-222947(P2016-222947A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】耐熱性マグネシウム合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 23/00 20060101AFI20161205BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20161205BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   C22C23/00
   C22C23/02
   B22D21/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-107787(P2015-107787)
(22)【出願日】2015年5月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】家永 裕一
(72)【発明者】
【氏名】石田 正雄
(57)【要約】
【課題】 レアアースを含まず、200℃程度の高温域において、良好な機械的特性と熱伝導性を両立した耐熱性マグネシウム合金を提供すること。
【解決手段】 質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.3%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、Al+8Ca≧20.5%である、耐熱性マグネシウム合金。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.3%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、
Al+8Ca≧20.5%である、耐熱性マグネシウム合金。
【請求項2】
質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.0%より大きく3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、
Al+8Ca≧20.5%であり、
CaとSiとの組成比Ca/Siが1.5未満である、耐熱性マグネシウム合金。
【請求項3】
質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、
三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相を有する、耐熱性マグネシウム合金。
【請求項4】
質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、熱伝導度が70W/m・K以上であり、かつ、200℃における引張強さが170MPa以上である、耐熱性マグネシウム合金。
【請求項5】
Al/Caが1.70以下である、請求項1〜4のいずれか一項記載の耐熱性マグネシウム合金。
【請求項6】
Mg母相中にCa−Mg−Si系化合物相を有する、請求項1〜5のいずれか一項記載の耐熱性マグネシウム合金。
【請求項7】
Mg母相のMg純度が98.0%以上である、請求項1〜6のいずれか一項記載の耐熱性マグネシウム合金。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項記載の耐熱性マグネシウム合金の製造方法であって、
溶融された金属材料を10K/秒未満の速度で冷却する工程を備える方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一項記載の耐熱性マグネシウム合金の製造方法であって、
溶融された金属材料を冷却して、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相と、Ca−Mg−Si系化合物相と、Mg母相とを晶出させる工程を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性マグネシウム合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは、鉄、アルミニウムに比べて軽量であるため、鉄鋼材料やアルミニウム合金材料からなる部材に代わる軽量代替材として用いることが検討されている。機械的性質や鋳造性等に優れたマグネシウム合金としては、AZ91Dが知られている。
しかし、一般のマグネシウム合金は、200℃程度の高温域において、引張強度及びクリープ伸び等の機械的特性が低下し、ADC12材、A4032−T6材等の耐熱アルミニウム合金に匹敵する高温強度を得ることができない。
【0003】
従来、高い高温強度を満足する商用マグネシウム合金としてはWE54が知られている。しかし、このMg合金は、Yやミッシュメタル等の高価なレアアースを多く添加することにより高い高温強度を実現しているため、コストが高くなる。
【0004】
そこで、レアアースを含有させないで、高温クリープ強度を改善したMg−Al−Ca−Si系合金が提案されている。例えば、特許文献1には、Alを3.0質量%以上7.0質量%以下、Mnを0.1質量%以上0.6質量%以下、Caを1.5質量%以上、Siを0.4質量%以上含有し、残余がMgと不可避不純物であり、Ca/Siの質量比が2.0以上であるマグネシウム合金が記載されている。このマグネシウム合金は、170℃以上の環境で耐クリープ性が高く、クリープ歪みを0.20%以下に抑制されることが示されている。
【0005】
また、特許文献2には、Caを0.5〜5質量%、Siを0.5〜5質量%有し、母相となるMg相中にCaMgSi相を晶出させて耐熱性を備えさせ、Mg相の粒界にAlCa相を晶出させて硬さを向上させたマグネシウム合金が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−1428号公報
【特許文献2】特開2013−19030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のMg−Al−Ca−Si系合金は、高温環境下で使用される製品の素材として十分でなかった。高温部品の素材として従来のマグネシウム合金を用いた場合、使用環境によっては部品温度が過度に高くなり、その結果、部品の機械的強度が低下するため、部品素材にさらに大きな高温強度が必要となる。とくに、エンジンブロック等のエンジン部材は、高温環境下において燃焼室の爆発荷重に長時間耐える高温強度が要求される。
【0008】
そこで、本発明は、200℃程度の高温域において良好な機械的特性を備えたMg−Al−Ca−Si系の耐熱性マグネシウム合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑みて、鋭意検討を行った。従来の耐熱マグネシウム合金は、耐熱アルミニウム合金と比べて十分な放熱性を確保できないため、部品温度が高くなり機械的強度が低下することに着目した。そこで、Mg合金の放熱性を向上させるために熱伝導性について検討し、その結果、Mg母相のMg純度を高く維持することにより、高い熱伝導率を実現できることを見出した。そして、Mg母相の結晶粒界に形成される(Mg,Al)Ca相と、結晶粒内に形成されるCa−Mg−Si系化合物相によって高い高温強度を得ることにより、高温域において良好な高温強度と熱伝導性を両立させた耐熱性マグネシウム合金が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
従来、高い高温強度と高い熱伝導性を両立させた耐熱マグネシウム合金は知られていなかった。上述のとおり、エンジン部材は、高温の燃焼室内での爆発荷重に耐える必要がある。さらに、マグネシウム合金を用いたエンジン部品は、燃焼室温度を適正に保つための放熱性を合わせ持つことにより、軽量化と燃費向上を実現できる。
【0011】
本発明は、Ca、Al及びSiの含有率と、Al及びCaの関係式の値を特定範囲で選択することにより、Mg母相(結晶粒)の周りの結晶粒界において三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相を形成し、マグネシウム合金の強度を向上させる骨格とした。また、Ca−Mg−Si系化合物相を結晶粒内に形成して強度を向上させた。さらに、Mg母相へ合金元素を固溶するのを抑制し、Mg母相のMg純度が高く維持されて、高い熱伝導率が得られた。
具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0012】
(1)質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.3%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、Al+8Ca≧20.5%である。耐熱性マグネシウム合金。
(2)質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.0%より大きく3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、Al+8Ca≧20.5%であり、CaとSiとの組成比Ca/Siが1.5未満である、耐熱性マグネシウム合金。
(3)質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相を有する、耐熱性マグネシウム合金。
(4)質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、熱伝導度が70W/m・K以上であり、かつ、200℃における引張強さが170MPa以上である、耐熱性マグネシウム合金。
(5)Al/Caが1.70以下である、(1)〜(4)のいずれかの耐熱性マグネシウム合金。
(6)Mg母相中にCa−Mg−Si系化合物相を有する、(1)〜(5)のいずれかの耐熱性マグネシウム合金。
(7)Mg母相のMg純度が98.0%以上である、(1)〜(6)のいずれかの耐熱性マグネシウム合金。
(8)(1)〜(7)のいずれかの耐熱性マグネシウム合金の製造方法であって、溶融された金属材料を10K/秒未満の速度で冷却する工程を備える方法。
(9)(1)〜(7)のいずれかの耐熱性マグネシウム合金の製造方法であって、溶融された金属材料を冷却して、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相と、Ca−Mg−Si系化合物相と、Mg母相とを晶出させる工程を備える方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、200℃程度の高温域において良好な機械的特性と熱伝導性を両立させたMg−Al−Ca−Si系の耐熱性マグネシウム合金が得られる。このため、エンジン部材のような高温環境下の使用に適した軽量で高強度の素材を提供でき、自動車等のエンジンにおける軽量化と燃費向上を実現できる。本発明のマグネシウム合金は、良好な放熱性を備えるので、エンジン等の部品の温度を適正に保ち、熱膨張による部品間のクリアランスを適正に維持でき、部品における不具合の発生を防止できる。また、本発明のマグネシウム合金は、高価なレアースを含有しないので、低コストの素材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例6の鋳造マグネシウム合金の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
図2】比較例2の鋳造マグネシウム合金の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
図3】比較例4の鋳造マグネシウム合金の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
図4】実施例3の鋳造マグネシウム合金の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の好適な実施の形態を説明する。なお、本発明は当該実施形態によって限定的に解釈されるものではない。
【0016】
本発明のマグネシウム合金は、質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.3%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、Al+8Ca≧20.5%である、耐熱性マグネシウム合金である。
【0017】
(合金組成)
本発明に係るマグネシウム合金の金属組織は、Mg母相(結晶粒)の周りの結晶粒界には三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相が形成され、また、結晶粒内にはCa−Mg−Si系化合物相が形成される。これらの金属間合物相が高温強度の向上に寄与する。
Caは、上記の(Mg,Al)Ca相、上記のCa−Mg−Si系化合物相の形成に必要な元素であり、後記するように、Al+8Ca≧20.5%を満たす範囲で含有できる。Ca含有量は、過多であると、Mg母相内に固溶する割合が増加し、Mg母相のMg純度を低下させて熱伝導率を低減させる可能性があるため、9.0%未満が好ましく、4.0%以下がより好ましい。また、Caの含有量の下限は、2.5%以上が好ましい。
【0018】
Alは、上記の(Mg,Al)Ca相の形成に必要な元素であり、後記するように、Al+8Ca≧20.5%を満たす範囲で含有できる。Al含有量は、過多であると、Mg母相に固溶する割合が増加し、Mg母相のMg純度を低下させて熱伝導率を低減させる可能性があるため、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、Alの含有量の下限は、0.5%以上が好ましく、1%以上がより好ましい。
【0019】
本発明において、Ca及びAlは、以下の式(1)の関係を満たす必要がある。
Al+8Ca≧20.5% 式(1)
Ca及びAlが上記式(1)の関係を満たす場合は、上記の(Mg,Al)Ca相が形成されて高温強度が向上する。そのため、Al+8Caは、24%以上が好ましい。一方、Al及びCaの含有量が過多であると、Mg母相のMg純度を低下させて熱伝導率を低減させる可能性があるため、Al+8Caの上限は、32%以下が好ましい。
【0020】
本発明において、Al/Caが1.70以下であることが好ましい。上述したように、Alは、Caとともに(Mg,Al)Ca相を形成する。しかし、Alを過多に含有させると、余剰のAlがMg母相中に固溶する割合が増加してMg母相のMg純度を低減させる可能性がある。Al/Caが1.70以下であると、AlのMg母相中への固溶が抑制され、熱伝導性を向上させる点で好ましい。1.0以下でもよい。上記の(Mg,Al)Ca相の形成に関して、Al/Caは、0.2以上が好ましい。
【0021】
Siは、上記のCa−Mg−Si系化合物相の形成に必要な元素である。しかし、Si含有量が多いと、Caと化合した粗大なSiCa系化合物が生成され、(Mg,Al)Ca相が連続した三次元網目状に形成されるのを阻害し、マグネシウム合金の高温強度を低下させる傾向にある。そのため、Siの含有量は、1.3%以下が好ましく、1.0%以下がより好ましい。Ca−Mg−Si系化合物相の形成に関して、Siの含有量は、0.2%以上が好ましい。
【0022】
本発明の耐熱性マグネシウム合金は、Mnを含有することができる。Mnは、マグネシウム合金の耐食性を向上させる作用を有する。Mnの含有量は、好ましくは0.1%以上0.5%以下であり、より好ましくは0.2%以上0.4%以下である。
【0023】
本発明の耐熱性マグネシウム合金は、残部がMgと不可避的不純物である。不可避的不純物は、本マグネシウム合金の特性に影響を与えない範囲で含まれていてもよい。
【0024】
Mg母相のMg純度とは、マグネシウム合金の金属組織における結晶粒中のMgの含有割合である。本発明のマグネシウム合金において、Al以外の配合成分はMgよりも熱伝導率に劣る元素である。このため、Mg母相のMg純度が高いほど、Mg母相の熱伝導率が向上し、マグネシウム合金の熱伝導率が向上する。一方、Mg母相にMg以外の成分が固溶してMg純度が下がると、マグネシウム合金の熱伝導率も低下しやすくなる。Mg母相のMg純度が98.0%以上であると、80.0W/m・K以上の熱伝導率が得られるので好ましい。より好ましくは99.0%以上である。
【0025】
本発明のマグネシウム合金は、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相を有する。マグネシウム合金の鋳造時に、Mg、Ca及びAlが結晶粒界においてネットワーク構造を形成し、マグネシウム合金の高温時の引張強さを向上させる。図1は、実施例6の鋳造マグネシウム合金の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。図1に示すとおり、(Mg,Al)Ca相1は、Mg母相2の周囲に三次元網目状に形成されている。
【0026】
本発明のマグネシウム合金は、Mg母相中にCa−Mg−Si系化合物相を有していることが好ましい。Ca−Mg−Si系化合物相により結晶粒内も補強されることにより、マグネシウム合金の高温強度が向上する傾向にある。図4は、実施例3の鋳造マグネシウム合金の金属組織を示す電子顕微鏡写真である。図4に示すとおり、Mg母相中にCa−Mg−Si系化合物相3が形成されており、200℃で170MPa以上の高温強度を備える。
【0027】
(熱伝導率)
従来の商用マグネシウム合金(AZ91D(比較例5)、WE54(比較例6))は、熱伝導率が51〜52W/m・Kであり、アルミニウム合金(ADC12材)の熱伝導率(92W/m・K)と比べて半分程度であった。そのため、高温部品の素材としての十分な放熱性を確保できなかった。それに対し、本発明のマグネシウム合金は、70.0W/m・K以上の良好な熱伝導率を有しており、高温部品の素材として良好な放熱性が得られるので、エンジン部材用の耐熱性マグネシウム合金として適している。熱伝導率は、高温部品の素材として放熱性を十分確保するには、80.0W/m・K以上がより好ましく、90.0W/m・K以上がさらに好ましい。
【0028】
(高温強度)
一般のマグネシウム合金は、200℃程度の高温域において、引張強さ及び伸び等の機械的特性が低下し、耐熱アルミニウム合金(ADC12材(比較例7)、A4032−T6材等)に匹敵する高温強度を得ることができない。これに対し、本発明のマグネシウム合金は、200℃における引張強さが170MPa以上という高温強度を備える。このため、高温環境下で使用されるエンジン部材用の耐熱性マグネシウム合金として適している。200℃における引張強さは、185MPa以上が好ましく、200MPa以上がより好ましい。
【0029】
本発明のマグネシウム合金は、質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.0%より大きく3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、Al+8Ca≧20.5%であり、CaとSiとの組成比Ca/Siが1.5未満であることも好ましい。Si含有量が多くなると、SiがCaと化合した粗大な化合物が生成され、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相の形成を阻害し、その結果、マグネシウム合金の高温強度も低下する傾向にある。
しかしながら、本発明者は、Si含有量が1.0%より大きく3.0%以下と多くなっても、CaとSiとの組成比Ca/Siが1.5未満であれば、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相が維持され、マグネシウム合金の高温強度も維持されることを見出した。Siは、より好ましくは1.5%以上3.0%以下であり、さらに好ましくは1.5%以上2.5%以下である。なお、組成の数値範囲などについては、上述した好ましい範囲を適宜適用できる。
【0030】
本発明のマグネシウム合金は、質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相を有することも好ましい。Si含有量が多くなると、SiがCaと化合した粗大な化合物が生成され、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相の形成を阻害し、その結果、マグネシウム合金の高温強度も低下する傾向にある。しかしながら、Si含有量が3.0%以下と多くなっても、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相が維持され、マグネシウム合金の高温強度も維持されることを見出した。Siは、より好ましくは1.5%以上3.0%以下であり、さらに好ましくは1.5%以上2.5%以下である。なお、組成の数値範囲などについては、上述した好ましい範囲を適宜適用できる。
【0031】
本発明のマグネシウム合金は、質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを3.0%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、熱伝導度が70W/m・K以上であり、かつ、200℃における引張強さが170MPa以上であることも好ましい。Si含有量が多くなると、SiがCaと化合した粗大な化合物が生成され、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相の形成を阻害し、その結果、マグネシウム合金の高温強度も低下する傾向にある。しかしながら、Si含有量が3.0%以下と多くなっても、熱伝導度が70W/m・K以上であり、かつ、200℃における引張強さが170MPa以上であれば、良好な機械的特性と熱伝導性を両立した耐熱性マグネシウム合金が得られる。なお、組成の数値範囲などについては、上述した好ましい範囲を適宜適用できる。
【0032】
(製造方法)
本発明のマグネシウム合金を製造するには、質量%で、Caを9.0%未満、Alを0.5%以上5.7%未満、Siを1.3%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、Al+8Ca≧20.5%となる金属材料を高温で溶解してもよい。高温で溶解する工程としては、例えば金属材料を黒鉛るつぼに挿入し、高周波誘導溶解をAr雰囲気中で行い、750〜850℃の温度で溶融すればよい。
【0033】
得られた溶融合金は、金型に注入して鋳造すればよい。鋳造する工程においては、溶融された金属材料を所定の速度で冷却すればよい。本発明のマグネシウム合金の製造方法においては、溶融された金属材料を冷却して、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相と、Ca−Mg−Si系化合物相と、Mg母相とを晶出させる工程を備えることが好ましい。これにより、機械的特性と熱伝導性を両立した耐熱性マグネシウム合金を得ることができる。また、冷却速度は10K/秒未満であることが好ましい。10K/秒未満であれば、Mg母相凝固中に母相内の固溶元素が晶出相に排出される時間が十分となりやすく、Mg母相中に固溶元素が残存しにくくなり、熱伝導率が低下しにくくなる。冷却速度は、好ましくは10K/秒以下である。
【0034】
(用途)
本発明のマグネシウム合金は、エンジンブロックやピストンなどの高温強度が必要とされる軽量化部品に適用可能であり、従来のアルミニウム合金製エンジン部品よりも低比重のため、30%以上の軽量化が可能である。また、エンジン部材の昇温や熱膨張を抑え、ピストンやシリンダのクリアランスを適正化でき、燃費向上やエンジンの静粛性にも寄与できる。さらに、鋳造まま材で熱処理を加えずに製造することができ、レアアース無添加で高強度化できることから、従来のマグネシウム合金に比べて安価に製造することも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は当該実施例に限定的に解釈されるものではない。
【0036】
(実施例1)
Mgに、Alを1質量%、Caを3質量%、Siを1質量%、Mnを0.3質量%添加した金属材料をるつぼに挿入し、高周波誘導溶解をAr雰囲気中で行い、750〜850℃の温度で溶融した。得られた溶融合金を金型に注入して鋳造を行った。鋳造時には、溶融された金属材料を冷却した。鋳造により得られた板状の鋳造合金のサイズは50mm幅、8mm厚であった。冷却速度については、冷却速度とデンドライト2次アーム間隔の関係が既知であるAl−Cu共晶合金を、本願実施例と同一の条件で鋳造し、その2次アーム間隔から類推したところ、55K/秒であった。
【0037】
(実施例2〜10、比較例1〜9)
表1のとおり組成を変更した以外は、実施例1と同様に溶解及び鋳造を行い、マグネシウム合金を製造した。なお、比較例5〜7については文献値を用いており、以下の組成比である。
比較例5(商用マグネシウム合金AZ91D):Al 9.23%、Zn 0.78%、Mn 0.31%、残部はMg。
比較例6(商用マグネシウム合金WE54):Y 5.23%、RE 1.54%、Nd 1.78%、Zr 0.51%、残部はMg。
比較例7(商用アルミニウム合金ADC12):Cu 1.93%、Si 10.5%、Mg 0.21%、Zn 0.82%、Fe 0.84%、Mn 0.32%、残部はAl。
【0038】
実施例1〜10及び比較例1〜4、8〜9の鋳造合金から測定ごとに試験体を切り出し、以下の測定を行った。測定結果は表1のとおりである。
【0039】
(熱伝導率)
JIS R 1611に基づき、レーザフラッシュ法で以下のとおり測定した。
1)熱の吸収及び輻射率を良くするため、注号合金試料の表裏面に黒化材(カーボンスプレー)を塗布した。
2)パルスレーザー光を試料表面に照射した。
3)時間と共に試料温度が上昇し,再び下降する温度履歴曲線を得た。
4)式(1)のとおり、温度上昇量θmの逆数から比熱容量Cpを求めた。
Cp=Q/(M・θm) 式(1)
(Q:熱入量(パルス光エネルギー)、M:試料の質量)
5)式(2)のとおり、温度上昇量の1/2だけ温度が上昇するのに要する時間t1/2から熱拡散率αを求めた。
α=0.1388d/t1/2 式(2)
(d:試験片の厚さ)
6)式(3)のとおり、比熱容量Cp、熱拡散率α、試験片の密度ρから熱伝導率λを求めた。
λ = α・Cp・ρ 式(3)
【0040】
熱伝導率で用いた測定装置及び測定条件は以下のとおりである。
測定装置:アルバック理工(株)製 TC7000型
レーザパルス幅:0.4ms
レーザパルスエネルギー:10Joule/pulse以上
レーザ波長:1.06μm(Ndガラスレーザ)
レーザビーム径:10φ
温度測定方法:赤外線センサー(熱拡散率測定)、熱電対(比熱容量測定)
測定温度範囲:室温〜1400℃(比熱容量の同時測定は800℃まで)
測定雰囲気:真空
試料:直径10mm、厚さ2.0mm
【0041】
(引張強さ)
引張試験片は,平行部径6.35mm,標点間距離25.4mmのASTM E8標準試験片形状とした。高周波加熱コイルにて昇温し、30分保持し温度安定後に試験を行った。
ひずみ速度:5×10−4/sec
試験温度:200±2℃
200℃における引張強さの評価基準は以下のとおりであり、Aであれば引張強さとして優れており、Bであれば引張強さとして十分な強度である。
A:200MPa以上
B:170MPa以上200MPa未満
C:140MPa以上170MPa未満
D:140MPa未満
【0042】
(Mg母相のMg純度)
各試料のMg母相を電子顕微鏡で観察し、Mg母相部分の組成を点分析にて5点測定し、その平均値(Mgの質量%)をMg母相純度とした。
測定装置:日本電子株式会社製、JSM−7100型走査電子顕微鏡
:日本電子株式会社製、JED−2300型エネルギー分散形X線分析装置
加速電圧:15kV
観察視野:400倍
【0043】
(ネットワーク組織形態)
各試料の金属組織を電子線後方散乱回折法(EBSD法)で解析し、画像処理にて結晶粒界の長さL1と、三次元網目状に連続した(Mg,Al)Ca相の長さL2とを測定した。ネットワーク形成率をL2/L1×100にて算出し、以下のA〜Cで評価した。測定領域は、試料である鋳造合金の中央部断面のおよそ300μm×200μmの領域であり、400倍に拡大し測定した。
A:ネットワーク形成が良好(80%以上)
B:ネットワーク形成が一部寸断(50〜79%)
C:ネットワーク形成が分断(50%未満)
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すとおり、実施例1〜10は、金属組織中のネットワーク組織形態が良好に形成されており、高温強度も高く、熱伝導性にも優れていた。図1は、実施例6の金属組織を示すものであり、(Mg,Al)Ca相1の連続した三次元網目状のネットワーク構造が密に形成されていた。また、実施例1〜10では、結晶粒内にCa−Mg−Si系化合物相が形成された。
【0046】
比較例1では、高温強度が十分ではなかった。これは、Alが0.3%と少なかったため、(Mg,Al)Ca相のネットワーク構造の形成が十分ではなかったためと考えられる。比較例2も高温強度が低い値となった。これは、AlとCaの関係式(Al+8Ca≧20.5%)を満たしておらず、図2に示すように、金属組織中のネットワーク組織形態が寸断されたためと推察される。
【0047】
比較例3は、高温強度も十分ではなく、熱伝導率も低下した。高温強度については、AlとCaの関係式(Al+8Ca≧20.5%)を満たさなかったため、金属組織中のネットワーク組織形態が寸断されたことが原因と考えられる。また、熱伝導率については、Alの含有量が6質量%と多く、Al/Ca比が6と高かったため、Mg母相へAlが固溶したことが原因と考えられる。
【0048】
比較例4は、Siが2質量%と多く、CaとSiとの組成比Ca/Siも1.5と高かった。このため、SiがCaと化合した粗大な化合物が生成し、図3に示すようにネットワーク形態が崩れ、高温強度も低下したと考えられる。一方、実施例10もSiが2質量%であったが、CaとSiとの組成比Ca/Siが1.25と低かった。このため、ネットワーク形態は、良好に形成されており、高温強度も高く、熱伝導率も71.2W/m・Kであった。また、Si添加量が1質量%である実施例3においては、図4に示すように結晶粒内でCa−Mg−Si系化合物相3が形成され、Mg母相2を補強したと考えられる。
【0049】
比較例5は商用マグネシウム合金AZ91D、比較例6は耐熱マグネシウム合金WE54であり、熱伝導率は、比較例5が51W/m・K、比較例6が52W/m・Kと共に低かった。
【0050】
比較例7は、耐熱アルミニウム合金ADC12であり、熱伝導率は92W/m・Kであるが、Alの含有率の低い実施例1〜4のマグネシウム合金は、95.1〜115W/m・Kであり、比較例7よりも高い熱伝導率を示した。また、Alの含有率の高い実施例5及び実施例7のマグネシウム合金は、比較例7の耐熱アルミニウム合金と同等レベルの熱伝導率を示し、高い高温強度を有していた。実施例6は、Al/Ca比が1.6とやや高いため、Mg母相へのAlの固溶により、実施例5、実施例7よりも熱伝導率が若干低下したと考えられる。また、実施例8、実施例9は、Al/Ca比が2.5、1.67と、実施例6よりも高いため、熱伝導率が実施例6に比べて低下したと考えられる。なお、比較例9は、Al/Ca比が12と非常に高いため、熱伝導率は42.5W/m・Kと大幅に低下した。
【符号の説明】
【0051】
1・・・(Mg,Al)Ca相
2・・・Mg母相
3・・・Ca−Mg−Si系化合物相。
図1
図2
図3
図4