(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-223284(P2016-223284A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】アンカー、アンカーの製造方法、アンカーの施工方法、及びスリーブ打込治具
(51)【国際特許分類】
E04B 1/41 20060101AFI20161205BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20161205BHJP
F16B 13/06 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
E04B1/41 503G
E04G21/12 105Z
F16B13/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-77572(P2016-77572)
(22)【出願日】2016年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-109225(P2015-109225)
(32)【優先日】2015年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100195305
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 恵
(72)【発明者】
【氏名】田村 知幸
(72)【発明者】
【氏名】中本 隼斗
(72)【発明者】
【氏名】野村 展生
(72)【発明者】
【氏名】木村 勇輝
【テーマコード(参考)】
2E125
3J025
【Fターム(参考)】
2E125AA51
2E125AE01
2E125AG13
2E125BA17
2E125BA18
2E125BB19
2E125BB23
2E125BD01
3J025BA02
3J025BA05
3J025CA03
(57)【要約】
【課題】突出長さを短くでき、且つ施工面に対して強固に取り付け可能なアンカー、その製造方法、及びその施工方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るアンカーは、棒状の固定部材と、固定部材に挿通され、固定部材の軸方向に沿って移動可能な筒状のスリーブと、を備え、固定部材の一端部には、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部が形成され、他端部には、ワイヤに係合可能な係合部が形成されており、スリーブは、固定部材のテーパ部と係合部との間に配置され、スリーブのテーパ部側の端部には、テーパ部によって拡径される拡径部が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の固定部材と、
前記固定部材に挿通され、前記固定部材の軸方向に沿って移動可能な筒状のスリーブと、
を備え、
前記固定部材の一端部には、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部が形成され、他端部には、ワイヤに係合可能な係合部が形成されており、
前記スリーブは、前記固定部材のテーパ部と係合部との間に配置され、
前記スリーブの前記テーパ部側の端部には、前記テーパ部によって拡径される拡径部が形成されている、アンカー。
【請求項2】
前記係合部は、ワイヤを挿通可能な貫通孔を備えている、請求項1に記載のアンカー。
【請求項3】
前記スリーブの拡径部が、前記テーパ部によって施工完了となるように拡径されるまで前記軸方向に移動したときに、外部に露出するように、前記固定部材の外周面に、マーキングが施されている、請求項1または2に記載のアンカー。
【請求項4】
一端部に、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部が形成された棒状部材を準備するステップと、
一端部が拡径可能に形成された拡径部を有する、筒状のスリーブを準備するステップと、
前記棒状部材の他端部側に対し、前記筒状のスリーブを前記拡径部側から挿通するステップであって、前記スリーブにおいて、前記テーパ部側の端部は前記テーパ部によって拡径されるように構成されている、ステップと、
前記棒状部材の他端部に、ワイヤを係合可能な係合部を形成するステップと、
を備えている、アンカーの製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のアンカーを準備するステップと、
施工面に削孔を形成するステップと、
前記施工面と対向するように配置される取付物を準備するステップと、
前記取付物に、前記削孔と対応する貫通孔を形成するステップと、
前記アンカーを、前記取付物の貫通孔に挿通するとともに、当該アンカーのテーパ部側を前記削孔に挿入するステップと、
前記アンカーのスリーブを、前記削孔の奥端部側に移動させることで、前記テーパ部によって前記拡径部を拡径させ、当該拡径部を削孔内壁面に密着させるステップと、
を備えている、アンカーの施工方法。
【請求項6】
前記アンカーの係合部は、前記取付物の貫通孔の内径よりも大きい外径を有している、請求項5に記載のアンカーの施工方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか1項に記載のアンカーの前記スリーブを打ち込むためのスリーブ打込治具であって、
軸方向の一方に打撃面を有する打撃部と、
前記打撃面とは反対側の前記打撃部の端部に連結し、前記打撃部とは反対側の端面で前記スリーブを押圧する押圧面を構成し、当該端面に開口する中空部を有する筒状部と、
を備え、
前記筒状部は、前記中空部の前記幅方向の長さが前記係合部の前記幅方向の長さよりも長く、前記中空部の前記厚み方向の長さが、前記係合部の前記厚み方向の長さよりも長く、かつ前記スリーブの外径よりも短くなるように形成される、
スリーブ打込治具。
【請求項8】
前記係合部は平板状に形成され、当該係合部の幅方向の長さが前記スリーブの外径より長く、当該係合部の厚み方向の長さが前記スリーブの外径よりも短い、
請求項7に記載のスリーブ打込治具。
【請求項9】
前記筒状部の前記端面において、前記押圧面を構成する部分は他の部分より突出している、
請求項7または8に記載のスリーブ打込治具。
【請求項10】
前記打撃部は、棒状に形成され、
前記打撃部の外周面には、複数の凹凸が設けられている、
請求項7から9のいずれか1項に記載のスリーブ打込治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカー、その製造方法、その施工方法、及びアンカーのスリーブを打ち込むためのスリーブ打込治具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、高架道路の高欄より上側に防音パネルを配置した構造物が開示されている。この構造物では、高欄に固定された柱にボルトで防音パネルを取付けているが、ボルトが緩んで防音パネルが落下するのを防止するため、防音パネルから突出した複数のボルトの端部にワイヤを引っ掛けている。すなわち複数の防音パネルをワイヤで数珠繋ぎすることにより、防音パネルが落下するのを防止している。
【0003】
このように、柱や防音パネルにワイヤ連結具や通孔を備えたボルトを取り付けることができない場合、コンクリートに施工アンカーを打設し、ワイヤを複数の防音パネルに架け渡す手法が採用されることがある。ワイヤを通すことができるアンカーとしては、例えば、株式会社ケー・エフ・シー社製の「ホーク・タイワイヤーアンカー」がある。
【0004】
このアンカーは、
図10(a)に示すように、棒状部材400の一端部に拡径可能な円筒状の拡径部410が形成され、他端部にはワイヤが挿通可能な貫通孔420が形成されている。そして、棒状部材400の拡径部410には、これを拡張するための円錐状の先端コーン450が配置されている。このアンカーは、施工面700に形成された削孔701に挿入され、棒状部材400を削孔の奥端部側に押し込むことで施工される。すなわち、棒状部材400が押し込まれると、先端コーン450が拡径部410に進入し、これによって、先端コーン450が拡径部410を押し広げ、削孔内壁面に拡径部410が密着するようになっている。その結果、
図10(b)に示すように、アンカーが削孔701に固定される。その後、棒状部材400の貫通孔420にワイヤ460が挿通される。しかしながら、このアンカーは、あくまでもワイヤ460を通すことを目的としたものであるため、許容荷重を超えて載荷された場合には、
図10(c)に示すように、棒状部材400が先端コーン450を置き去りにして削孔701から抜け出す可能性がある。
【0005】
そこで、コンクリートの施工面に対し、重量の大きい取付物を固定するために、
図11に示すようなアンカーが提案されている。
図11(a)に示すように、このアンカー500は、棒状部材501の一端部に、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部502が形成されている。また、棒状部材501の他端部には、雄ネジ503が形成されている。そして、この棒状部材501に一端部が拡径可能なスリーブ601が挿通されている。このアンカー500を施工するには、まず、施工面700に削孔701を形成する。次に、
図11(b)に示すように、テーパ部502を削孔701側に向け、アンカー500を削孔701に挿入する。続いて、
図11(c)に示すように、円筒状の打撃部材801を棒状部材501の他端部に挿通するとともに、打撃部材801の先端部をスリーブ601の後端部に当接する。この状態で、ハンマー950によって打撃部材801の後端部を打撃し、スリーブ601をテーパ部502側に移動させる。これにより、スリーブ601の先端部がテーパ部502によって拡径し、削孔内壁面に密着する。
【0006】
次に、
図11(d)に示すように、打撃部材801を棒状部材501から取り外すとともに、円筒状の延長スリーブ802を棒状部材501に挿通し、先端を残して雄ネジ503の大部分を覆う。これに続いて、複数の貫通孔901が形成されたパネル900を棒状部材501に取付ける。すなわち、パネル900の各貫通孔901に、施工面700から突出した棒状部材501を挿通する。その後、
図11(e)に示すように、パネル900から突出した各棒状部材501の雄ネジ503に、貫通孔が形成されたアイナット804を取付ける。こうして、複数の貫通孔901から突出した各雄ネジ503にアイナット804を取付けた後、
図12に示すように、複数のアイナット804を結ぶように、各アイナット804の貫通孔にワイヤ805を挿通する。以上の工程を経ると、
図13に示すように施工面700に対してパネル900が取付けられるとともに、パネル900から突出したアンカー500がワイヤ805で連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−371523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この上記
図10〜
図12の方法では、棒状部材501を設置した後に延長スリーブ802及びアイナット804を取り付ける作業が必要となるため、施工が煩雑になるという問題がある。また、アイナット804は、棒状部材501に対してネジ止めされるが、棒状部材501の雄ネジ503の長さが長いと、パネル900からの突出長さが長くなり、邪魔になってしまう。その一方で、雄ネジ503の長さを短くすると、ネジの嵌めあい長が短くなり、振動などによってアイナット804が雄ネジから離脱するおそれがある。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、突出長さを短くでき、且つ施工面に対して強固に取り付け可能なアンカー、その製造方法、及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るアンカーは、棒状の固定部材と、前記固定部材に挿通され、前記固定部材の軸方向に沿って移動可能な筒状のスリーブと、を備え、前記固定部材の一端部には、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部が形成され、他端部には、ワイヤに係合可能な係合部が形成されており、前記スリーブは、前記固定部材のテーパ部と係合部との間に配置され、前記スリーブの前記テーパ部側の端部には、前記テーパ部によって拡径される拡径部が形成されている。
【0011】
この構成によれば、固定部材の他端部にワイヤが係合可能な係合部を備えているため、施工時にワイヤを係合するための部材を取付ける工程が不要になる。また、係合部が予め固定部材に一体的に設けられているため、突出長さを短くすることができるとともに、係合部が離脱することがない。さらに、ワイヤによって係合部が引っ張られると、固定部材が削孔から引き抜かれる方向に力が作用するが、このとき、固定部材のテーパ部が、削孔に密着するスリーブの拡径部に係合し、スリーブをさらに径方向外方に押圧する。そのため、スリーブは削孔内壁面にさらに密着し、スリーブ及び固定部材が削孔から引き抜かれるのを確実に防止することができる。
【0012】
上記アンカーにおいて、係合部の構成は、ワイヤが係合可能であれば、特には限定されないが、例えば、ワイヤを挿通可能な貫通孔を備えることができる。
【0013】
上記アンカーにおいては、前記スリーブの拡径部が、前記テーパ部によって施工完了となるように拡径されるまで前記軸方向に移動したときに、外部に露出するように、前記固定部材の外周面に、マーキングを施すことができる。これにより、施工完了までのスリーブの移動量を視認することができ、アンカーの施工を効率的に行うことができる。
【0014】
本発明に係るアンカーの製造方法は、例えば、一端部に、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部が形成された棒状部材を準備するステップと、一端部が拡径可能に形成された拡径部を有する、筒状のスリーブを準備するステップと、前記棒状部材の他端部側に対し、前記筒状のスリーブを前記拡径部側から挿通するステップであって、前記スリーブにおいて、前記テーパ部側の端部は前記テーパ部によって拡径されるように構成されている、ステップと、前記棒状部材の他端部に、ワイヤを係合可能な係合部を形成するステップと、を備えている。
【0015】
本発明に係るアンカーの施工方法は、例えば、上述したいずれかのアンカーを準備するステップと、施工面に削孔を形成するステップと、前記施工面と対向するように配置される取付物を準備するステップと、前記取付物に、前記削孔と対応する貫通孔を形成するステップと、前記アンカーを、前記取付物の貫通孔に挿通するとともに、当該アンカーのテーパ部側を前記削孔に挿入するステップと、前記アンカーのスリーブを、前記削孔の奥端部側に移動させることで、前記テーパ部によって前記拡径部を拡径させ、当該拡径部を削孔内壁面に密着させるステップと、を備えている。
【0016】
上記施工方法において、前記アンカーの係合部は、前記取付物の貫通孔の内径よりも大きい外径を有するものとすることができる。これにより、アンカーの係合部が抜け止めとなって、取付物が離脱するのを防止することができる。
【0017】
本発明に係るスリーブ打込治具は、上述したいずれかのアンカーの前記スリーブを打ち込むためのスリーブ打込治具であって、軸方向の一方に打撃面を有する打撃部と、前記打撃面とは反対側の前記打撃部の端部に連結し、前記打撃部とは反対側の端面で前記スリーブを押圧する押圧面を構成し、当該端面に開口する中空部を有する筒状部と、を備え、前記筒状部は、前記中空部の前記幅方向の長さが前記係合部の前記幅方向の長さよりも長く、前記中空部の前記厚み方向の長さが、前記係合部の前記厚み方向の長さよりも長く、かつ前記スリーブの外径よりも短くなるように形成される。
【0018】
上記スリーブ打込治具において、前記係合部は平板状に形成され、当該係合部の幅方向の長さが前記スリーブの外径より長く、当該係合部の厚み方向の長さが前記スリーブの外径よりも短くすることができる。
【0019】
上記スリーブ打込治具において、前記筒状部の前記端面では、前記押圧面を構成する部分が他の部分より突出するようにすることができる。
【0020】
上記スリーブ打込治具において、前記打撃部は棒状に形成することができ、前記打撃部の外周面には、複数の凹凸を設けることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、突出長さを短くでき、且つ施工面に対して強固に取り付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアンカーの正面図(a)、左側面図(b)、右側面図(c)、及び断面図(d)である。
【
図4】
図1のアンカーを用いて施工面に施工したパネルの斜視図である。
【
図5】
図4において施工されたアンカーの断面図である。
【
図6】
図1のアンカーの他の例を示す正面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るスリーブ打込治具の正面図(a)、左側面図(b)、右側面図(c)、平面図(d)、(c)のA−A線の断面図(e)、及び(c)のB−B線の断面図(f)である。
【
図8】
図7のスリーブ打込治具の使用状態を示す図である。
【
図9】
図7のスリーブ打込治具の使用方法を示す図である。
【
図10】従来のアンカー及びその施工方法を示す図である。
【
図11】従来のアンカーの施工方法を示す図である。
【
図12】従来のアンカーの施工方法を示す図である。
【
図13】従来のアンカーを用い、施工されたパネルの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るアンカーの一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るアンカーの正面図(a)、左側面図(b)、右側面図(c)、及び断面図(d)である。なお、以下では、説明の便宜のため、アンカーにおいて削孔に挿入される側を「先端側」、その反対側を「後端側」と称することがある。また、削孔の延びる方向及びそれに対応するアンカーの延びる方向を軸方向と称することがある。また、この軸方向を中心に、径方向または周方向という文言により方向を示すこともある。
【0024】
<1.アンカーの構造>
図1に示すように、本実施形態に係るアンカー10は、棒状の固定部材1と、この固定部材1に挿通されるスリーブ2と、を備えている。固定部材1は、円柱状に形成された本体部11を備えており、この本体部11の軸方向の一端部に、ワイヤ用の係合部12が形成されている。この係合部12は、角がなく若干丸みを帯びた矩形状の平板状に形成されており、中央付近にワイヤ5が挿通される貫通孔121が形成されている。また、係合部12の幅方向(
図1(a)の上下方向)の長さ(最大幅)D1は、本体部11の外径D2及びスリーブ2の外径D4よりも長くなっている。反対に、係合部12の厚み方向(
図1(b)の左右方向)の長さD5は、スリーブ2の外径D4よりも短くなっている。一方、本体部11の軸方向の他端部には、先端にいくにしたがって径が大きくなる円錐状のテーパ部13が形成されている。
【0025】
スリーブ2は、初期状態において、固定部材1の本体部11に挿通されているが、使用時には、スリーブ2を本体部11に沿ってテーパ部13側に移動し、テーパ部13によって拡径するようになっている。そのため、スリーブ2の内径は、本体部11の外径よりもやや大きく、テーパ部13の最大径D3よりも小さくなっている。また、スリーブ2のテーパ部13側の端部には、軸方向に延びる複数のスリット21が、周方向に等間隔で形成されており、拡径部22として機能する。そして、これら複数のスリット21がテーパ部13によって周方向に広がることで、スリーブ2の拡径部22は拡径されるようになっている。また、スリーブ2の拡径部22において、スリット21に挟まれた部分の外周面には、凹凸23が形成されている。これにより、拡径したスリーブ2の拡径部22と削孔内壁面との摩擦力を増大させることができる。
【0026】
なお、スリーブ2の内径は、固定部材1の係合部12の最大幅D1よりも小さい。そのため、スリーブ2は、テーパ部13及び係合部12が抜け止めとなって、固定部材1から離脱しないようになっている。また、係合部12の最大幅D1は、テーパ部13の最大径D3よりもやや大きくなっている。
【0027】
<2.アンカーの製造方法>
次に、上記のように構成されたアンカーの製造方法について、
図2を参照しつつ説明する。
図2は、アンカーの製造方法を示す斜視図である。
【0028】
まず、
図2(a)に示すような棒状部材100を準備する。この棒状部材100は、円柱状に形成された本体部11の一端部に、先端にいくにしたがって径が大きくなるテーパ部13が形成されたものである。但し、棒状部材100の本体部11とテーパ部13は、固定部材1の本体部11とテーパ部13と同じであり、この棒状部材100が、後述する加工によって、固定部材1となる。
【0029】
次に、
図2(b)に示すように、上述したスリーブ2を、棒状部材100の他端部側(テーパ部13とは反対側の端部側)から挿通する。これに続いて、棒状部材100の他端部、つまり、スリーブ2から突出した部分を押し潰し、幅がスリーブ2の内径よりも大きい板状に成形する。そして、この板状の部分に貫通孔121を形成すれば、上述した係合部12が形成される。こうして、
図2(c)に示すように、アンカー10が完成する。
【0030】
<3.アンカーの施工方法>
続いて、上記のように構成されたアンカーの施工方法について、
図3〜
図5を参照しつつ説明する。まず、
図3(a)に示すように、コンクリート6の施工面61に対し、板状のパネル7を配置する。このとき、同図に示すように、施工面61とパネル7との間に隙間を形成してもよいし、密着させてもよい。次に、ドリル8によって、パネル7を貫通した上で、これに連続して施工面61に削孔62を形成する。この削孔62の内径は、アンカーのテーパ部13の最大径D3及びスリーブ2の外径よりもやや大きい。
【0031】
続いて、
図3(b)に示すように、アンカー10を、テーパ部13側を削孔62に向け、パネル7の貫通孔71に挿入し、さらに削孔62に挿入する。これに続いて、
図3(c)に示すように、円筒状の打撃部材91を準備する。この打撃部材91は、スリーブ2の後端部を打撃できるような円筒状の先端部を有するとともに、この先端部には平板状の係合部12が挿入される溝(図示省略)が形成されている。そして、この打撃部材91の先端部を、溝に係合部12を挿通した上で、スリーブ2の後端部に当接させる。これに続いて、ハンマー92によって打撃部材91の後端部を打撃すると、スリーブ2は、テーパ部13側へ移動する。そして、ハンマー92の打撃により、スリーブ2が移動するにしたがって、拡径部22は、テーパ部13によって拡径し、削孔内壁面に密着する。こうして、スリーブ2の拡径部22が、削孔内壁面に十分に密着するまで、打撃部材91を打撃すると、アンカー10が削孔62内に強固に固定される。同様にして、複数のアンカー10を施工した後、
図3(d)に示すように、係合部12にワイヤ5を挿通する。このワイヤ5は、
図4に示すように、施工されたアンカー10を結んで複数の取付物に架け渡されるように、各アンカー10の貫通孔121に挿通される。
【0032】
<4.特徴>
以上のように、本実施形態によれば、固定部材1の端部にワイヤ5が係合可能な係合部12が一体的に設けられているため、係合部12が固定部材1から離脱することがなく、施工時にワイヤ5を係合するための部材を取付ける工程が不要になる。また、固定部材1の施工面またはパネル7からの突出長さを短くすることができる。
【0033】
さらに、次の効果もある。すなわち、
図5に示すように、ワイヤ5によって係合部12が引っ張られると、固定部材1が削孔62から引き抜かれる方向に力が作用するが、このとき、固定部材1のテーパ部13は、削孔62に密着するスリーブ2の拡径部22に係合し、スリーブ2を径方向外方に押圧する。そして、固定部材1が引っ張られるにしたがって、テーパ部13はスリーブ2をさらに径方向外方に押圧するため、スリーブ2は削孔内壁面に強固に密着する。その結果、スリーブ2及び固定部材1が削孔62から引き抜かれるのを確実に防止することができる。
【0034】
また、このアンカー10は、既に施工されたパネルに対しても、事後的に取付けることができる。すなわち、パネル及び施工面に貫通孔及び削孔を形成することができれば、アンカー10を取付けることができる。したがって、既に施工されたパネルの取付強度を向上するのに利用することもできる。
【0035】
さらに、このアンカー10は、係合部12及びテーパ部13の外径が、スリーブの内径よりも大きいため、固定部材1からスリーブ2が抜け出るのを防止することができる。したがって、例えば、輸送中に、スリーブ2と固定部材1とが分離するのを防止することができる。
【0036】
<5.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0037】
<5−1>
固定部材1の形状は特には限定されず、上記実施形態では、円柱状に形成しているが、多角柱状に形成することもできる。また、係合部12を板状に形成し、貫通孔121を形成しているが、ワイヤ5が係合可能であれば、その形状は特には限定されない。例えば、U字型のフックなど、ワイヤ5が係合できればよい。また、係合部12の外径は、パネル7等の取付物の貫通孔71よりも大きいことが好ましいが、小さくてもよい。
【0038】
<5−2>
上記実施形態では、棒状部材100の端部を潰して板状にし、これを係合部12としているが、例えば、固定部材1の係合部12と、本体部11とを別体として製造し、摩擦圧接などの手段でこれらを一体的に連結することもできる。
【0039】
<5−3>
さらに、スリーブ2をどの程度軸方向に移動させれば、拡径部22が十分に拡径するかを視認できるようにするため、固定部材1の本体部11の外周面に対し、線状のマーキングを施すことができる。すなわち、
図6(a)に示すように、マーキング111は、初期状態では、スリーブ2に隠れて、外部からは見えないようになっているが、
図6(b)に示すように、拡径部22が十分に拡径するまで、スリーブ2をテーパ部13側に移動させたときには、マーキング111が露出するような位置にマーキング111を付す。これにより、施工者は、マーキング111が見えるまで、スリーブ2をテーパ部13側に移動させれば、スリーブ2の拡径が完了したことを視認することができる。なお、マーキングは、
図6に示すような線状に限定されず、視認できることが可能であれば、図形、突起、凹部など、種々の態様にすることができる。
【0040】
<5−4>
上記実施形態では、パネル7を施工面61に対して取付けたが、本発明に係る取付物は、パネル7に限定されず、貫通孔を形成でき、且つアンカー10を挿通できるものであれば、特には限定されない。したがって、ブロック状など、種々の形態のものを取付物とすることができる。
【0041】
<6.スリーブ打込治具>
上記実施形態では、平板状の係合部12が挿入される溝を有する打撃部材91を用いて、スリーブ2の打ち込みを行っている(上記
図3(c))。しかしながら、このような打撃部材91では、スリーブ2の打ち込みを行う際に、係合部12から溝周囲に荷重が作用しやすく、これによって、当該溝を起点に打撃部材91が破損してしまう可能性がある。そこで、上記スリーブ2の打ち込みでは、打撃部材91に代えて、次のようなスリーブ打込治具を用いてもよい。
【0042】
図7及び
図8を用いて、本発明に係るスリーブ打込治具の一実施形態について説明する。
図7は、本実施形態に係るスリーブ打込治具3の正面図(a)、左側面図(b)、右側面図(c)、平面図(d)、(c)のA−A線の断面図(e)、及び(c)のB−B線の断面図(f)である。
図8は、本実施形態に係るスリーブ打込治具3の使用状態を示す斜視図である。
【0043】
図7に示すように、本実施形態に係るスリーブ打込治具3は、略円形の棒状に形成された打撃部31と、中空部322を有する筒状部32と、を備えている。打撃部31は、軸方向の一方の端部に略円形の打撃面311を備えており、
図8に示すようにスリーブ打込治具3を使用する際の持ち手となる。打撃部31の外周面には、すべり止め用の複数の凹凸313が形成されており、これにより、スリーブ打込治具3は、使用する際に滑りにくくなっている。
【0044】
筒状部32は、打撃部31の外径よりも大きい外径を有する釣鐘状に形成されており、打撃面311とは軸方向反対側の打撃部31の端部312に連結している。この筒状部32では、打撃部31とは軸方向反対側の端面321が、アンカー10のスリーブ2の後端部を押圧する押圧面を構成している。また、中空部322は、この押圧面を構成する端面321に開口しており、断面略楕円形状に形成されている。この中空部322の幅方向(
図7(a)(e)の上下方向)の長さD6は、アンカー10の係合部12の幅方向の長さD1よりも長くなっている。また、中空部322の厚み方向(
図7(d)(f)の上下方向)の長さD7は、アンカー10の係合部12の厚み方向の長さD5よりも長く、かつスリーブ2の外径D4よりも短くなっている。なお、幅方向及び厚み方向は、中空部322の断面形状の長軸方向及び短軸方向に対応している。
【0045】
筒状部32がこのように形成されることによって、
図8に示すようにスリーブ打込治具3を使用する際には、アンカー10の係合部12が中空部322に挿入されるようになっている。そして、後述する
図9(a)(c)に示すように、筒状部32の端面321が、係合部12に干渉することなく、スリーブ2の後端部に当接するようになっている。
【0046】
ここで、本実施形態では、筒状部32の端面321は、周方向に4つの部分(3211、3212)に分かれている。このうち、厚み方向の一対の部分3211は、幅方向の一対の他の部分3212より軸方向に突出している。そのため、本実施形態に係る端面321では、一対の部分3211が、アンカー10のスリーブ2の後端部を押圧する押圧面を構成している。なお、各部分3211の突出する長さは、アンカー10の係合部12の軸方向の長さよりも短くなっている。これにより、係合部12が中空部322に挿入された状態で、各部分3211の端面がスリーブ2の後端部の端面に当接するようになっている。
【0047】
以上のようなスリーブ打込治具3は、金属材料を適宜加工することで作製することができる。例えば、円柱形の鋼材を適宜加工することで打撃部31と筒状部32とが一体形成されたスリーブ打込治具3を作製することができる。
【0048】
(使用方法)
次に、
図9を用いて、上記のように構成されたスリーブ打込治具3の使用方法を説明する。
図9は、スリーブ打込治具3によりスリーブ2を打ち込む過程を示す。なお、
図9(b)〜
図9(d)では、説明の便宜のため、スリーブ打込治具3を上記B−B線の断面で示している。
【0049】
スリーブ打込治具3を使用する前には、上記
図3(a)(b)に示すように、コンクリート6の施工面61に削孔を形成し、アンカー10をテーパ部13側から削孔に挿入する。この状態で、
図9(a)(b)に示すように、スリーブ打込治具3を準備する。具体的には、打撃部31を把持して、筒状部32の端面321をアンカー10の方に向ける。そして、係合部12を中空部322に挿入し、端面321の部分3211をスリーブ2の後端部に当接させる。このとき、中空部322が上記のような寸法で形成されることで、端面321の部分3211をスリーブ2の後端部に当接させても、アンカー10の係合部12が筒状部32の内壁に干渉しないようになっている。
【0050】
次に、
図9(c)に示すように、打撃部31の打撃面311をハンマー92により打撃することで、スリーブ2の打ち込みを行う。ハンマー92で打撃面311を打撃した力は、スリーブ打込治具3を介して、スリーブ2の後端部に伝わる。このとき、アンカー10のスリーブ2以外の部分(特に、係合部12)はスリーブ打込治具3に干渉していないため、ハンマー92で打撃した力は、スリーブ2以外の部分には作用せず、スリーブ2に適切に伝達される。ハンマー92で打撃した力がスリーブ2に伝わると、スリーブ2は削孔の奥側に打ち込まれていき、これに従って、上記
図3(c)と同様に、スリーブ2の拡径部22がテーパ部13によって拡径する。
【0051】
こうして、
図9(d)に示すように、スリーブ2の拡径部22が削孔内壁面に十分に密着するまで、ハンマー92によるスリーブ打込治具3の打撃を繰り返すと、アンカー10は削孔内に強固に固定される。これにより、スリーブ2の打ち込みは完了する。なお、スリーブ2を打ち込むにしたがって、スリーブ2は、削孔内に挿入されていく。このとき、端面321の押圧面を構成する部分3211が突出しているため、施工面61等に端面321が干渉されることなく、スリーブ2を十分に打ち込むことができる。
【0052】
(特徴)
以上のように、本実施形態に係るアンカー10では、スリーブ2よりも軸方向手前側に位置する係合部12が一方向(幅方向)にスリーブ2より大きくなっている。そのため、上記
図3(c)の工程では、係合部12を挿通させる溝を有する打撃部材91を用いた。しかしながら、当該溝に係合部12を挟んだ状態では、打撃部材91を打撃した際に、当該溝付近に大きな力が作用しやすく、これによって、打撃部材91が破損してしまう可能性があった。
【0053】
これに対して、本実施形態に係るスリーブ打込治具3では、中空部322を上記のように形成することで、係合部12に干渉することなくスリーブ2を打ち込むのに、上記打撃部材91のような溝をなくすことができる。そのため、本実施形態に係るスリーブ打込治具3は、上記打撃部材91よりも、高い耐久性を期待することができる。
【0054】
また、上記打撃部材91では、係合部12を溝に挿通させるため、溝の深さ(軸方向の長さ)は、係合部12よりも長くなっている。そのため、打撃部材91が溝の根元付近から破損すると、打撃部材91の先端側が大きな破片となって飛散し、重大な事故を引き起こす可能性があった。
【0055】
これに対して、本実施形態に係るスリーブ打込治具3では、スリーブ2を押圧する各部分3211が、端面321の他の部分3212より突出している。そのため、スリーブ2を打ち込む際にこの部分3211に大きな力が作用してしまい、各部分3211が破損する可能性がある。しかしながら、スリーブ2を押圧する各部分3211と係合部12とは無関係であるため、各部分3211の突出する長さを、上記打撃部材91の溝に比べて十分に短くすることができ、これによって、各部分3211が破損しにくいようにすることができる。また、仮に、各部分3211が破損したとしても、各部分3211の突出する長さを十分に短くすることで、重大な事故を引き起こすような大きな破片が飛散しないようにすることができる。
【0056】
(変形例)
以上、本発明の実施形態に係るスリーブ打込治具について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、係合部12は平板状に形成されており、係合部12の幅方向の長さD1がスリーブ2の外径4より長く、係合部12の厚み方向の長さD5がスリーブ2の外径4よりも短くなっている。しかしながら、係合部12の形状及び寸法はこのような例に限定されなくてもよく、上記スリーブ打込治具3は、上記形状及び寸法以外の形態の係合部を有するアンカーに利用されてもよい。例えば、係合部12の幅方向の長さD1は、スリーブ2の外径D4と同程度又は短くてもよい。
【0058】
また、例えば、上記実施形態では、筒状部32の外径は、打撃部31の外径よりも大きくなっている。しかしなしながら、各部の形状はこのような例に限定されなくてもよい。打撃部31の外径と筒状部32の外径とは同じであってもよいし、打撃部31の外径が筒状部32の外径よりも大きくなっていてもよい。
【0059】
また、例えば、上記実施形態では、打撃部31は、持ち手部を構成するため、軸方向に比較的に長くなっている。しかしながら、打撃部31の軸方向の長さは、このような例に限定されなくてもよく、打撃部31が持ち手にならない程度に短くてもよい。この場合、作業者は、スリーブ2の打ち込み作業を行う際には、筒状部32を把持してもよい。
【0060】
また、例えば、中空部322は、打撃部31まで延びていてもよい。この場合、中空部322は、打撃面311側でも開口していてもよい。このとき、スリーブ打込治具は、軸方向に貫通する貫通孔(中空部)を有し、一方の端面が打撃面を構成し、他方の端面が押圧面を構成する。
【符号の説明】
【0061】
10…アンカー、
1…固定部材、11…本体部、12…係合部、121…貫通孔、
13…テーパ部、
2…スリーブ、21…スリット、22…拡径部、23…凹凸、
5…ワイヤ―、
6…コンクリート、61…施工面、62…削孔、
7…パネル、71…貫通孔、
8…ドリル、
91…打撃部材、92…ハンマー、
100…棒状部材、
111…マーキング、
3…スリーブ打込治具、
31…打撃部、311…打撃面、312…端部、313…凹凸、
32…筒状部、321…端面、
3211…部分(押圧面を構成する部分)、3212…他の部分、
322…中空部