【解決手段】エンジン10は、筒内に燃料を噴射する噴射弁12と、排気中の所定成分を酸化雰囲気下で吸蔵し還元雰囲気下で放出,還元する触媒32Aとを具備する。制御装置1は、触媒32Aから所定成分を放出,還元させるパージ処理の要否を判定する判定部3と、パージ処理において、メイン噴射でのメイン噴射量Qmと、メイン噴射の完了後であってトルクに寄与しうるポスト噴射でのポスト噴射量Qpとの噴射比率を設定する設定部4と、噴射比率に応じたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpの各燃料を、噴射弁12から所定の噴射時期にそれぞれ噴射させることでパージ処理を実施する制御部7と、を備える。設定部4は、パージ処理での噴射弁12の目標噴射圧Pp
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照して、実施形態としてのエンジンの制御装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[1.装置構成]
本実施形態の制御装置1は、車両に搭載されたディーゼルエンジン10(以下、エンジン10という)に適用される。
図1には、多気筒のエンジン10に設けられた複数のシリンダ11のうちの一つを示す。シリンダ11内にはピストンが摺動自在に内装され、ピストンの往復運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフトの回転運動に変換される。
【0017】
各シリンダ11への燃料供給用のインジェクタとして、シリンダ11内に直接的に燃料を噴射する筒内噴射弁12が設けられる。筒内噴射弁12からの燃料の噴射量,その噴射時期(噴射開始時点),その噴射期間は、制御装置1で制御される。例えば、制御装置1から筒内噴射弁12に制御パルス信号が伝達され、その制御パルス信号の大きさに対応する期間(噴射期間)だけ、筒内噴射弁12の噴孔が開放される。これにより、燃料噴射量及び噴射期間は制御パルス信号の大きさ(駆動パルス幅)に応じたものとなり、噴射時期は制御パルス信号が伝達された時刻に対応したものとなる。
【0018】
筒内噴射弁12は、コモンレール13Aを含む燃料供給路13を介して流量可変型の燃料ポンプ14に接続される。燃料ポンプ14は、エンジン10や電動機などから駆動力の供給を受けて作動し、燃料タンク内の燃料を燃料供給路13に吐出する。これにより、燃料ポンプ14で加圧された燃料が、燃料供給路13からコモンレール13Aに供給されて蓄えられ、筒内噴射弁12の噴孔が開放されるタイミングで各シリンダ11へと供給される。燃料ポンプ14から吐出される燃料量及びコモンレール13A内の圧力(筒内噴射弁12の噴射圧)は、制御装置1で制御される。
【0019】
本実施形態のエンジン10は、所定条件の成立時に筒内噴射弁12からの燃料供給を遮断する燃料カット機能を有する。この所定条件は、例えば車速が比較的高く、且つ、アクセルペダルの踏み込みがなくエンジンブレーキが作動していることである。一方、燃料カット中にアクセルペダルが踏み込まれた場合や、エンジン回転速度が比較的低回転域まで低下した場合には、燃料カットが終了する。このとき、エンジン10への燃料供給が再開され、アイドル回転速度やアクセル操作量に応じたトルク(エンジン出力)が確保される。
【0020】
各シリンダ11の頂面には、吸気ポート15及び排気ポート16が設けられ、それぞれのポート開口には吸気弁17及び排気弁18が設けられる。吸気ポート15の上流側にはインテークマニホールド20(以下、インマニ20という)が設けられ、このインマニ20には、吸気ポート15側へと流れる空気を一時的に溜めるためのサージタンク21が設けられる。インマニ20の上流端には、電子制御式のスロットル弁22を内蔵したスロットルボディ(図示略)が接続され、このスロットル弁22の開度(スロットル開度)に応じてインマニ20側へ流れる吸気量が調節される。スロットル開度は制御装置1で制御される。スロットルボディの上流側には吸気通路23が接続される。吸気通路23の最上流にはエアフィルタ24が設けられる。
【0021】
一方、排気ポート16の下流側にはエキゾーストマニホールド30(以下、エキマニ30という)が設けられ、このエキマニ30の下流端には排気通路31が接続される。
また、エンジン10には、吸気通路23と排気通路31との両方にまたがって介装され、排気圧を利用して吸気を過給するターボチャージャ25が設けられる。また、吸気通路23におけるターボチャージャ25のコンプレッサよりも下流側には、インタークーラ26が設けられ、圧縮された吸気が冷却される。
【0022】
本実施形態に係るエンジン10には、排気通路31を流通する排気を吸気通路23へ還流させるEGR通路27が設けられる。EGR通路27は、ターボチャージャ25のタービンよりも上流側の排気通路31とコンプレッサよりも下流側の吸気通路23とを連通する。EGR通路27上には、EGR通路27を流通するEGRガスを冷却するEGRクーラ28と、EGRガスの流量を調節するEGR弁29とが設けられる。
【0023】
排気通路31におけるタービンよりも下流側には、排気を浄化する排気浄化装置32が介装される。排気浄化装置32は、触媒32Aとフィルタ32Bとが内蔵されて構成される。触媒32Aは、酸化雰囲気下(排気の空燃比が理論空燃比よりもリーンな状態)で排気中のNOx(所定成分)を硝酸塩として担体上に吸蔵し、還元雰囲気下(排気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな状態)で吸蔵したNOxを放出し、NOxと炭化水素成分とを反応させることでN
2に還元するNOxトラップ触媒である。なお、フィルタ32Bは、排気中の粒子状物質を捕集する多孔質フィルタである。
【0024】
触媒32Aは、吸蔵しうるNOxの量(最大量)が決まっており、吸蔵したNOxの量(以下、NOx吸蔵量Asという)が最大量(飽和状態)に近づくと吸蔵能力が低下する。このため、NOx吸蔵量Asが最大量に近づいた場合には、触媒32AからNOxを放出,還元させるパージ処理(NOxパージ)が実施される。なお、この触媒32Aは、排気中の硫黄成分(所定成分)を吸蔵する性質がある。この硫黄成分が触媒32Aに多く吸蔵されると触媒32AのNOx吸蔵能力が低下することから、触媒32Aから硫黄成分を放出,除去させるパージ処理(Sパージ)が適宜実施される。これらのパージ処理は、制御装置1によって実施される。
【0025】
クランクシャフト近傍には、エンジン10の回転速度を検出する回転速度センサ33が設けられる。また、エンジン10の冷却水の循環経路上における任意の位置には、エンジン10の冷却水温度(水温WT)を検出する冷却水温センサ34が設けられる。さらに、排気通路31における触媒32Aの上流側には、排気の空燃比を検出する空燃比センサ35及び排気温度を検出する排気温センサ36が設けられる。
【0026】
コモンレール13Aには、筒内噴射弁12から噴射される燃料の圧力に対応するコモンレール圧(単に実噴射圧P
ACTとも呼ぶ)を検出する噴射圧センサ37が設けられる。また、吸気通路23におけるエアフィルタ24の下流には、吸気量を検出するエアフローセンサ38が設けられる。各種センサ33〜38で検出された各種情報は、制御装置1に伝達される。なお、エンジン10には、これらのセンサ33〜38のほかにも、アクセルペダルの踏込み量を検出するアクセルポジションセンサや、吸気の圧力,温度,触媒32Aの下流側における空燃比をそれぞれ検出する吸気圧センサ,吸気温センサ,下流空燃比センサ等が設けられる。
【0027】
上述のエンジン10を搭載する車両には、エンジン10に関する点火系,燃料系,吸排気系といった広汎なシステムを総合的に制御する制御装置1が設けられる。この制御装置1は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。制御装置1は、エンジン10の各シリンダ11に対して供給される空気量や燃料噴射量,過給圧等を制御するものである。
【0028】
制御装置1の入力ポートには、前述の各種センサ33〜38が接続される。制御装置1の具体的な制御対象としては、筒内噴射弁12から噴射される燃料噴射量とその噴射時期及び噴射期間,ターボチャージャ25の作動状態,スロットル開度,EGR弁29の開度等が挙げられる。本実施形態では、上記の触媒32Aに対するパージ処理のうち、NOxを放出,還元させるNOxパージについて詳述する。
【0029】
[2.制御構成]
NOxパージでは、吸気が絞られるとともに、還元剤としての燃料が筒内噴射弁12からのポスト噴射によって触媒32Aに供給される。すなわち、NOxパージでは通常燃焼時と比べて、スロットル開度が小さくされるとともに、ポスト噴射での燃料噴射量(以下、ポスト噴射量Qpという)が増やされ、メイン噴射での燃料噴射量(以下、メイン噴射量Qmという)が減らされる。これらによって、触媒32Aの周辺雰囲気が還元雰囲気(リッチ雰囲気)にされるとともに触媒32Aが昇温されて、NOxが除去される。
【0030】
ここでいうポスト噴射とは、触媒32Aのパージ処理を実施,促進するための燃料噴射態様の一つであり、アフター噴射や早期ポスト噴射とも呼ばれる。ポスト噴射の燃料は、メイン噴射よりも遅いタイミングで(メイン噴射の完了時から所定のインターバル時間を空けて)噴射される。そのため、噴射された燃料がシリンダ11内で完全には燃焼せず、一部のみがトルクに寄与する。シリンダ11内で燃焼しなかった燃料は、エキマニ30や排気通路31内での燃焼反応により排気温度を上昇させ、あるいは排気浄化装置32に供給されて還元雰囲気を形成する。
【0031】
ポスト噴射で発生するトルクの大きさは、筒内温度や燃料の噴射タイミングに応じて変化する。例えば、パージ処理の開始直後のように筒内温度が低い状態では、トルク発生量が比較的小さく、筒内温度が上昇するに連れてトルクの発生量が増加する。また、ポスト噴射の噴射タイミングが遅いほど「後燃え傾向」が強まり、トルクに寄与する燃料量が減少してトルク発生量が減少する。反対に、噴射タイミングが早いほど、ポスト噴射の総噴射量に占めるトルク寄与分の割合が増加し、トルク発生量が増加する。本実施形態におけるポスト噴射の実施期間は、メイン噴射の完了後であって、圧縮上死点後(ATDC)120°程度までの期間内に設定される。以下、ポスト噴射が行われる期間をポスト噴射期間kpという。
【0032】
一方、メイン噴射とは、噴射した燃料が基本的には完全燃焼してトルクに寄与する噴射方式であり、圧縮上死点付近で一度だけ燃料噴射する方式や、圧縮上死点よりも前のタイミングと圧縮上死点付近とで複数回に分けて燃料噴射する方式などが含まれる。本実施形態におけるメイン噴射の実施期間は、予め所定のタイミングに設定される。以下、メイン噴射が行われる期間をメイン噴射期間kmという。
【0033】
通常燃焼からNOxパージに切り替えられてから所定の規定時間が経過した後に、スロットル弁22が予め設定されたスロットル開度に制御されて吸気が絞られる。その後、筒内噴射弁12の目標噴射圧P
TGTが通常燃焼時の目標噴射圧Pn
TGTからNOxパージでの目標噴射圧Pp
TGTに変更される。また、排気空燃比の目標値(目標空燃比)が、通常燃焼時の値から予め設定されたNOxパージでの目標空燃比(例えば14)になるように徐々に変更される。NOxパージでの目標噴射圧Pp
TGTは、通常燃焼時の目標噴射圧Pn
TGTよりも高圧である。このようにNOxパージでの目標噴射圧Pp
TGTを高めることで、燃料がより燃焼しやすくなるとともに、短時間で所定量の燃料を噴き切ることが可能となる。なお、目標噴射圧P
TGTは、通常燃焼時の目標噴射圧Pn
TGTからNOxパージ中の目標噴射圧Pp
TGTへとステップ状に切り替えられる。
【0034】
通常燃焼からNOxパージに切り替えられた直後は、目標噴射圧P
TGTがステップ状に高められるのに対し、実噴射圧P
ACTが徐々に高まっていくため、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの間にずれが発生する。この状態(実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束していない状態)では、短時間で所定量の燃料を噴き切ることが難しく、トルクに寄与する燃料量が不足することから、トルクダウンが発生するおそれがある。また、噴射圧のずれが発生した状態では、ポスト噴射された燃料の霧化が悪く、ポスト噴射された燃料が燃えにくいことからも、トルクダウンを引き起こすおそれがある。
【0035】
さらに、NOxパージでは、ポスト噴射した燃料が燃焼しやすいようにシリンダ11内の温度(以下、筒内温度Tcという)が通常燃焼時よりも高温にされる。しかし、NOxパージへの切り替え直後は、筒内温度TcがNOxパージに適した温度まで昇温していないため、ポスト噴射した燃料が燃えにくく、これによってもトルクダウンが発生する可能性がある。
本実施形態の制御装置1は、NOxパージにおけるこれらの課題に鑑みて、通常燃焼からの切り替え直後におけるトルクダウンの発生を抑制すべく、メイン噴射及びポスト噴射の噴射比率を制御する。
【0036】
図1に示すように、制御装置1には、推定部2,判定部3,設定部4,取得部5,補正部6,制御部7が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0037】
推定部2は、触媒32AのNOx吸蔵量Asを推定するものである。NOx吸蔵量Asの推定手法には、種々の公知技術を適用可能である。例えば、エンジン10の運転状態や排気の温度,空燃比,流量等に基づいて推定可能である。推定部2は、車両のメイン電源がオンのときに、常にNOx吸蔵量Asを推定して、その結果を判定部3へ伝達する。
【0038】
判定部3は、NOxパージの要否判定と、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態か否かの判定と、NOxパージの完了判定との三つの判定を行うものである。判定部3は、まず、推定部2から伝達されたNOx吸蔵量Asを所定の第一閾値A1と比較し、As≧A1であればNOxパージが必要であると判定し、As<A1であればNOxパージが不要であると判定する。この第一閾値A1は、触媒32Aに吸蔵されたNOxを除去する必要があるか否か(触媒32Aの飽和状態)を判定するための閾値であり、触媒32Aの容量やエンジン10の運転状態等に基づいて予め設定される。
【0039】
判定部3は、NOxパージが必要であると判定した場合に、エンジン10の負荷や回転速度,排気温度等に基づき、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるか否かを判定する。エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であると判定した場合には、その判定結果を設定部4及び制御部7へ伝達する。一方、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態ではないと判定した場合には、この判定を繰り返す。
【0040】
判定部3は、後述の制御部7によりNOxパージが開始された場合、推定部2から伝達されたNOx吸蔵量Asを所定の第二閾値A2と比較する。判定部3は、As<A2であればNOxパージが完了したと判定し、判定結果を制御部7へ伝達するとともに、再び要否判定を行う。一方、As≧A2であればNOxパージが完了していないと判定し、この判定を繰り返す。第二閾値A2は、触媒32Aに吸蔵されたNOxが除去されたか否かを判定するための閾値であり、上記の第一閾値A1よりも小さい値に予め設定される。
【0041】
設定部4は、NOxパージでのメイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとを設定するものである。本実施形態の設定部4は、判定部3からエンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるという判定結果が伝達された場合に、一回の燃焼サイクルにおける全燃料噴射量である総噴射量Qtを算出するとともに、メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率を設定する。そして、これらの総噴射量Qt及び噴射比率から、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpのそれぞれを設定し、設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpを補正部6へ伝達する。
【0042】
具体的には、設定部4は、NOxパージに切り替える直前の燃料量QnとNOxパージ中の目標空燃比とエアフローセンサ38で検出された吸気量とに基づき、総噴射量Qtを算出する。また、設定部4は、NOxパージ中の目標噴射圧Pp
TGTと、噴射圧センサ37で検出された実際の噴射圧(以下、実噴射圧P
ACTという)とのずれ量に基づいて噴射比率を設定するとともに、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束した場合には、噴射比率を予め設定された所定の噴射比率に固定する。
【0043】
このずれ量は、上述した切り替え直後の目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとのずれを表すパラメータであり、例えば目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの差ΔP(=Pp
TGT-P
ACT)や、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの比がこれに含まれる。なお、この比には、目標噴射圧Pp
TGTに対する実噴射圧P
ACTの比(P
ACT/Pp
TGT)や、NOxパージの前後における目標噴射圧P
TGTの変化量に対する実噴射圧P
ACTの変化量の比〔ΔP
ACT/(Pp
TGT-Pn
TGT)〕や、NOxパージの前後における目標噴射圧P
TGTの変化量に対する、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの差の比〔(Pp
TGT-P
ACT)/(Pp
TGT-Pn
TGT)〕が含まれる。本実施形態では、ずれ量として、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの差ΔPを用いる。
【0044】
メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率の設定手法としては、例えば以下の二つが挙げられる。
(A)メイン噴射量Qmに対するポスト噴射量Qpの比率R(=Qp/Qm)を設定する。
(B)総噴射量Qtに対するメイン噴射量Qmの比率Rm(=Qm/Qt),総噴射量Qtに対する
ポスト噴射量Qpの比率Rp(=Qp/Qt)をそれぞれ設定する(ただしRm+Rp=1)。
【0045】
上記(A)の場合、設定部4は、差ΔPが大きいほど比率Rを所定比率Roよりも低くなるように(差ΔPが小さくなるほど、所定比率Ro以下の範囲内で比率Rが上昇しながら所定比率Roへと近づくように)設定する。そして、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束した(差ΔPが略ゼロになった)時点で比率Rを所定比率Roに設定し、その後は所定比率Roに固定する。この所定比率Roは、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束したときの比率であり、NOxパージ中の目標空燃比,スロットル開度,筒内温度Tc等に基づいて予め設定される。つまり、設定部4は、差ΔPが略ゼロの場合には、比率Rを所定比率Roで固定し、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qmが多くなるように比率Rを変更する。
【0046】
設定部4は、以下の式1に示すように、総噴射量Qtと比率Rとからメイン噴射量Qmを算出して設定する。また、式2に示すように、総噴射量Qtからメイン噴射量Qmを減算することでポスト噴射量Qpを算出して設定する。
メイン噴射量Qm=Qt/(1+R) ・・・式1
ポスト噴射量Qp=Qt−Qm ・・・式2
【0047】
また、上記(B)の場合、設定部4は、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qmの比率Rmが高くなるように設定し、差ΔPが略ゼロになった時点で、比率Rm,Rpをそれぞれ、予め設定された所定の比率に設定する。つまりこの場合においても、設定部4は、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qmが多くなるように、差ΔPが略ゼロのときに設定される所定の比率から比率Rmを変更する。この場合のメイン噴射量Qmは総噴射量Qtに比率Rmを乗算した値として算出される(Qm=Qt×Rm)。なお、ポスト噴射量Qpは、総噴射量Qtに比率Rpを乗算した値として算出してもよく、上記の式2を用いてもよい。
【0048】
ところで、NOxパージでは、上述したようにポスト噴射量Qpが増やされる一方、メイン噴射量Qmが減らされるが、メイン噴射量Qmは、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束した時点で最小値Qmoに設定される。この最小値Qmoは、ゼロよりも大きな値であり、例えば固定値として予め設定される。なお、本実施形態では、NOxパージへの切り替え直前の通常燃焼において、ポスト噴射はされていないものとする。
【0049】
すなわち、メイン噴射量Qmの中には最小値Qmoが必ず含まれるため、総噴射量Qtからこの最小値Qmoを減じた残りの噴射量(以下、割振量Qrという。Qr=Qt-Qmo)を、メイン噴射とポスト噴射とに割り振る噴射比率を設定してもよい。
最小値Qmoを考慮した噴射比率の設定手法としては、例えば以下の二つが挙げられる。ここで、メイン噴射量Qmから最小値Qmoを減算した値のことを「変動メイン噴射量Qmx」と呼ぶ(Qmx=Qm-Qmo)。
(C)変動メイン噴射量Qmxに対するポスト噴射量Qpの比率Rx(=Qp/Qmx)を設定
する。
(D)割振量Qrに対する変動メイン噴射量Qmxの比率Rmx(=Qmx/Qr),割振量Qrに
対するポスト噴射量Qpの比率Rpx(Qp/Qr)をそれぞれ設定する
(ただしRmx+Rpx=1)。
【0050】
上記(C)の場合、比率Rxに基づいて、割振量Qrが変動メイン噴射量Qmxとポスト噴射量Qpとに割り振られる。設定部4は、比率Rxを、差ΔPが大きいほど低く設定するとともに、差ΔPがゼロに近づくほど増大させて、差ΔPが略ゼロとなった時点で予め設定された所定の比率に設定する。つまりこの場合においても、設定部4は、差ΔPが大きいほどメイン噴射量Qm(変動メイン噴射量Qmx)が多くなるように、差ΔPが略ゼロのときに設定される比率から比率Rxを変更する。
【0051】
設定部4は、以下の式3に示すように、割振量Qrと比率Rxとから変動メイン噴射量Qmxを算出し、これに最小値Qmoを加算してメイン噴射量Qmを設定する。また、ポスト噴射量Qpは、上記の式2を用いて設定する。
メイン噴射量Qm=〔Qr/(1+Rx)〕+Qmo ・・・式3
【0052】
上記(D)の場合、設定部4は、差ΔPの減少に伴って比率Rmxを100%から0%に向けて減少させるとともに、比率Rpxを0%から100%に向けて増大させる。つまり、差ΔPが大きいほど比率Rmxを高く設定し、差ΔPが略ゼロになった時点で比率Rmxを0%にするとともに比率Rpxを100%に設定する。この場合のメイン噴射量Qmは、割振量Qrに比率Rmxを乗算した値に最小値Qmoを加算して算出される(Qm=Qr×Rmx+Qmo)。なお、ポスト噴射量Qpは、割振量Qrに比率Rpxを乗算した値として算出してもよく、上記の式2を用いてもよい。
【0053】
取得部5は、NOxパージの開始時点(すなわち、NOxパージへの切り替え直後)における筒内温度(以下、開始筒内温度Tcpという)を取得するものである。開始筒内温度Tcpが低い場合には、ポスト噴射した燃料がより燃えにくくなるうえ、NOxパージに適した温度に対する温度差が大きくなることから、この場合には筒内温度Tcが上昇しやすいように、後述の補正部6において、設定部4で設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpが補正される。取得部5は、この補正に先立ち、開始筒内温度Tcpを取得し、取得した開始筒内温度Tcpを補正部6へ伝達する。
【0054】
取得手法としては、筒内温度Tcを直接的に検出するセンサを設けて、開始筒内温度Tcpを検出する手法が挙げられる。また、筒内温度Tcに関係しうるパラメータを用いて、開始筒内温度Tcpを推定する手法が挙げられる。本実施形態の取得部5は、以下の三つのパラメータのうちの少なくとも一つに基づいて、開始筒内温度Tcpを推定して取得する。
(1)エンジン10の低負荷運転の継続時間LE
(2)燃料カット時間FC
(3)冷却水温センサ34で検出された水温WT
【0055】
継続時間LEは、例えばアイドル運転のような低負荷運転が継続された時間であり、制御装置1によりカウントされる。継続時間LEが長いほど筒内温度Tcが低下するため、継続時間LEと温度低下量又は低下率との関係を予め取得しておくことで、継続時間LEに基づいて開始筒内温度Tcpを推定可能である。なお、本実施形態では、少なくとも継続時間LEの終了時点が、通常燃焼からNOxパージへ切り替える前の所定の第一期間L1内に入っている場合に、開始筒内温度Tcpの推定を行うものとする。
【0056】
すなわち、低負荷運転が所定時間継続し、低負荷運転から中負荷又は高負荷運転を実施したのちにNOxパージへと切り替えられた場合、低負荷運転の継続時間LEの少なくとも一部がNOxパージへの切り替え前の第一期間L1内であれば、継続時間LEに基づいて開始筒内温度Tcpを推定する。一方、継続時間LEがこの第一期間L1よりも前であれば、中負荷又は高負荷運転が第一期間L1以上継続されたことになるため、低負荷運転による温度低下は無視できるものと考えて、継続時間LEに基づく開始筒内温度Tcpの推定は行わない。
【0057】
燃料カット時間FCは、上述した燃料カットが実施された時間(燃料供給が遮断された時間)であり、制御装置1によりカウントされる。燃料カット時間FCが長いほど筒内温度Tcが低下するため、燃料カット時間FCと温度低下量又は低下率との関係を予め取得しておくことで、燃料カット時間FCに基づいて開始筒内温度Tcpを推定可能である。なお、本実施形態では、少なくとも燃料カット時間FCの終了時点が、通常燃焼からNOxパージへ切り替える前の所定の第二期間L2内に入っている場合に、開始筒内温度Tcpの推定を行うものとする。
【0058】
すなわち、燃料カットが所定時間継続したのち、燃料供給が再開されてからNOxパージへと切り替えられた場合、燃料カット時間FCの少なくとも一部がNOxパージへの切り替え前の第二期間L2内であれば、燃料カット時間FCに基づいて開始筒内温度Tcpを推定する。一方、燃料カット時間FCがこの第二期間L2よりも前であれば、燃料供給が再開されてから第二期間L2以上経過したことになるため、燃料カットによる温度低下は無視できるものと考えて、燃料カット時間FCに基づく開始筒内温度Tcpの推定は行わない。なお、上記の第一期間L1,第二期間L2は、低負荷運転の継続時間LE,燃料カット時間FCが筒内温度Tcの低下に及ぼす影響を考慮して予め設定される。
【0059】
水温WTは筒内温度Tcと正の相関を持つパラメータであり、水温WTと筒内温度Tcとの関係を予め取得しておくことで、水温WTに基づいて開始筒内温度Tcpを推定可能である。水温WTに基づく開始筒内温度Tcpの推定は、他のパラメータと異なり、時間に寄らず実施可能である。
【0060】
補正部6は、取得部5で取得された開始筒内温度Tcpが低いほど、設定部4で設定されたメイン噴射量Qmを増やすとともにポスト噴射量Qpを減らすように補正するものである。これにより、より燃焼しやすいメイン噴射での燃料量が増大するので、シリンダ11内の温度が上昇しやすくなる。一方で、メイン噴射量Qmを増やした分、ポスト噴射量Qpを減らして総噴射量Qtを一定に保つことで、燃費悪化が抑制される。補正部6は、補正したメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpをそれぞれ、メイン噴射量Qm′及びポスト噴射量Qp′として設定し、その値を制御部7へ伝達する。
【0061】
補正部6による補正手法としては、例えば開始筒内温度Tcpとメイン噴射量Qmの補正量や補正割合との関係を予めマップとして設定しておき、取得部5から伝達された開始筒内温度Tcpをマップに適用して補正量や補正割合を取得する手法が挙げられる。なお、補正部6による補正は、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束するまでの間だけ(ずれ量がある場合にのみ)実施してもよいし、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束した後も継続して実施してもよい。つまり、補正部6による補正は、メイン噴射及びポスト噴射の噴射比率の制御から独立して実施可能である。また、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束していない状態であっても、開始筒内温度Tcpが所定温度よりも低ければ、補正部6による補正を実施してもよい。すなわち、NOxパージが実施されていることは、補正部6による補正を実施するための必要条件に過ぎない。なお、補正部6は、補正を実施しない場合には、補正量をゼロとし、設定部4から伝達された値をそのままメイン噴射量Qm′,ポスト噴射量Qp′として設定する(Qm′=Qm,Qp′=Qp)。
【0062】
制御部7は、判定部3からエンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるという判定結果が伝達された場合に、エンジン10の運転状態を通常燃焼からNOxパージに切り替えて、NOxパージを実施するものである。制御部7は、NOxパージへ切り替えた規定時間後に、スロットル弁22を所定のスロットル開度に絞って吸気量を減らす。次いで、筒内噴射弁12の目標噴射圧P
TGTを、通常燃焼時の目標噴射圧Pn
TGTからNOxパージでの目標噴射圧Pp
TGTに切り替える。
【0063】
そして、制御部7は、補正部6で設定されたメイン噴射量Qm′及びポスト噴射量Qp′を用い、所定の噴射時期に筒内噴射弁12から燃料を噴射させ、所定の噴射期間内に燃料を噴き切る。具体的には、一回の燃焼サイクルのなかで、メイン噴射期間km内にメイン噴射量Qm′の燃料を噴射させるとともに、ポスト噴射期間kp内にポスト噴射量Qp′の燃料を噴射させる。これらによって、触媒32Aの周辺を還元雰囲気としながら触媒32Aを昇温させて、NOxを放出,還元させる。
【0064】
制御部7は、NOxパージの実施中に、判定部3からNOxパージが完了したという判定結果が伝達された場合には、エンジン10の運転状態をNOxパージから通常燃焼に切り替え、NOxパージを終了する。制御部7は、通常燃焼へ切り替えた時点で、筒内噴射弁12の目標噴射圧P
TGTをNOxパージでの目標噴射圧Pp
TGTから通常燃焼時の目標噴射圧Pn
TGTに切り替える。そして、ドライバの要求する出力等に基づいた通常のエンジン制御を実施する。
【0065】
[3.フローチャート]
図2は、上述のNOxパージの制御手順を説明するためのフローチャートであり、
図3は
図2のサブフローチャートである。
図2のフローは、例えば車両のメイン電源がオフからオンに切り替えられた時点で開始されて、電源がオンの間、制御装置1において所定の演算周期で繰り返し実施される。なお、
図2のフローの開始時点では、エンジン10の運転状態は通常燃焼とされ、フラグFpはFp=0に設定されているものとする。また、推定部2によるNOx吸蔵量Asの推定は電源がオンの間は常に実施されているものとする。
【0066】
図2に示すように、制御装置1では、各センサ33〜38で検出された情報(センサ値)が取得され(ステップS1)、フラグFpがFp=0であるとき(ステップS2)、推定部2で推定されたNOx吸蔵量Asが読み込まれる(ステップS3)。ここで、フラグFpは、NOxパージが必要な状態か否かを判断するためのものであり、Fp=1はNOxパージが必要な状態に対応し、Fp=0はNOxパージが不要な状態に対応する。
【0067】
NOx吸蔵量Asが第一閾値A1以上(As≧A1)であるとき(ステップS4)、フラグFpがFp=1に設定される(ステップS5)。一方、NOx吸蔵量Asが第一閾値A1未満であれば、このフローをリターンする。すなわち、触媒32Aに吸蔵したNOxの量が第一閾値A1以上となった場合には、NOxパージが必要と判定され、次の判定へと進む。次いで、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態であるとき(ステップS6)、後述する
図3のNOxパージが実施される(ステップS7)。そして、推定部2で推定されたNOx吸蔵量Asが再び読み込まれる(ステップS8)。
【0068】
NOx吸蔵量Asが第二閾値A2を下回っていない場合(ステップS9)、このフローをリターンし、再びセンサ値が取得されて(ステップS1)、フラグ判定が行われる(ステップS2)。この場合はフラグFpがFp=1に設定されているので、NOxパージの実施可能判定が行われる(ステップS6)。そして、実施可能であればNOxパージが継続され(ステップS7)、As<A2となったとき(ステップS9)、エンジン10の運転状態がNOxパージから通常燃焼に切り替えられて(ステップS10)、フラグFpがFp=0にリセットされる(ステップS11)。
【0069】
一方、エンジン10がNOxパージを実施できない運転状態の場合(ステップS6)、NOxパージの実施中であれば(ステップS12)、NOxパージを中断し、エンジン10の運転状態を通常燃焼へと切り替えて(ステップS13)、このフローをリターンする。この場合は、フラグFpがFp=1に設定されているため、エンジン10がNOxパージを実施可能な運転状態になった時点でNOxパージが復帰される。なお、NOxパージの実施中でなければ、通常燃焼のままこのフローをリターンする。
【0070】
ステップS7に進んだ場合、
図3に示すように、スロットル弁22がNOxパージでのスロットル開度に制御されることで吸気が絞られ(ステップS20)、規定時間の経過後に(ステップS21)、筒内噴射弁12の目標噴射圧P
TGTがNOxパージ中の目標噴射圧Pp
TGTに設定される(ステップS22)。そして、噴射圧センサ37から実噴射圧P
ACTが取得される(ステップS23)。
【0071】
通常燃焼からNOxパージへと切り替えた直後は目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとに差ΔPが生じることから、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束していない状態では(ステップS24)、これらの差ΔPに基づいて噴射比率が設定される(ステップS26)。一方で、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束したとき(ステップS24)、メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率が予め設定された所定の噴射比率(例えば所定比率Ro)に設定される(ステップS25)。
【0072】
そして、総噴射量Qtが算出されるとともに、設定された噴射比率が用いられて、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpが算出,設定される(ステップS27)。次いで、取得部5において開始筒内温度Tcpが取得され(ステップS28)、補正部6においてメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpが補正され、メイン噴射量Qm′及びポスト噴射量Qp′が設定される(ステップS29)。そして、メイン噴射期間km内にメイン噴射量Qm′の燃料が噴射されるとともに、ポスト噴射期間kp内にポスト噴射量Qp′の燃料が噴射される(ステップS30)。
【0073】
[4.作用]
図4(a)は、エンジン10の運転状態が通常燃焼からNOxパージに切り替えられたときの噴射圧の変化を示したグラフであり、
図4(b),(c)は、噴射圧のずれ量に基づいて設定される噴射比率,噴射量を説明するための図である。なお、
図4(b)には、噴射比率として、上述したメイン噴射量Qmに対するポスト噴射量Qpの比率Rを挙げ、三つのグラフを例示する。
【0074】
上述したように、エンジン10の運転状態が通常燃焼からNOxパージに切り替えられると、スロットル弁22が制御されて吸気が絞られる。
図4(a)に示すように、吸気量が所定値を下回った時点を時刻t
0とすると、この時刻t
0に、一点鎖線で示す目標噴射圧P
TGTが通常燃焼時の目標噴射圧Pn
TGTからNOxパージ中の目標噴射圧Pp
TGTへとステップ状に切り替えられる。実線で示す実噴射圧P
ACTは、時刻t
0から僅かに遅れた時刻t
1に上昇し始め、時刻t
2に目標噴射圧Pp
TGTに収束して、その後は目標噴射圧Pp
TGTと略一致した状態となる。
【0075】
図4(c)に示すように、NOxパージに切り替える直前の通常燃焼では、燃料量Qnがメイン噴射され、ポスト噴射はされていないため、
図4(b)中に太実線に示すように、時刻t
1までの比率Rはゼロに設定される。比率Rは、時刻t
1以降では、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの差ΔTが小さくなるほど上昇し、差ΔPが略ゼロとなる時刻t
2に所定比率Roに設定されて、その後は所定比率Roに固定される。なお、比率Rは、
図4(b)中に細実線や一点鎖線で示すように、曲線的に変化するように設定されてもよい。
【0076】
比率Rがこのように設定されることで、メイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpは、時刻t
1から時刻t
2にかけて徐々に変更され、時刻t
2以降では一定の値に設定される。具体的には、細実線で示すメイン噴射量Qmが、燃料量Qnから徐々に減らされ、時刻t
2において最小値Qmoに設定される。一方、太実線で示すポスト噴射量Qpが、ゼロから徐々に増やされ、時刻t
2において総噴射量Qtから最小値Qmoを減じた値に設定される。このようにメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpが設定されることで、エンジン10の運転状態がNOxパージに切り替えられた直後のトルクダウンが防止される。なお、一点鎖線で示す総噴射量Qtは、時刻t
2に空燃比がNOxパージでの目標空燃比となるように、時刻t
1から徐々に増大される。
【0077】
なお、仮に時刻t
0又は時刻t
1において、メイン噴射量Qmが燃料量Qnから最小値Qmoにステップ状に切り替えられ、ポスト噴射量Qpもゼロから所定量にステップ状に切り替えられたとする。この場合、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに達していないことから、ポスト噴射期間kpの間に所定のポスト噴射量Qpを噴き切ることが難しく、トルクに寄与するポスト噴射量Qpが不足する。さらに、メイン噴射量Qmが最小値Qmoに設定されているため、トルクに寄与するメイン噴射量Qmも減量されている。このように、トルクに寄与する燃料量が少ないことから、トルクの落ち込みが発生するおそれがある。これに対して、上述のNOxパージでは、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの差ΔPに基づいて比率Rを設定し、この比率Rを用いて設定されたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpの燃料が所定の噴射期間km,kpの間に噴射されるので、トルクダウンの発生が効果的に抑制される。
【0078】
[5.効果]
(1)上述の制御装置1では、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとのずれ量(例えば差ΔP)に基づいて、メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの噴射比率(例えば比率R)を設定することから、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTまで変動しつつある燃圧過渡状態において、燃料が燃えやすいメイン噴射での燃料量Qmが多くなるように噴射比率を設定することができる。これにより、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに達していない状態でも、通常燃焼からNOxパージに切り替えた直後のトルクダウンを抑制することができる。
【0079】
また、燃料の噴射比率は、メイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとの加算値である総噴射量Qtとは独立して制御可能であることから、総噴射量Qtの大小に左右されることなくトルクの落ち込みを回避することができる。例えば、吸気量がNOxパージへの切り替え直後に変動した場合であっても、実空燃比を目標空燃比に追従させたままの状態でメイン噴射量Qmとポスト噴射量Qpとを同時に増減させることができる。したがって、エンジン10のトルクダウンを抑制しつつ作動状態を安定化させることができる。
【0080】
(2)上述の制御装置1では、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束した場合に、噴射比率が予め設定された所定の噴射比率に固定されるので、制御構成を簡素化することができる。また、実噴射圧P
ACTが目標噴射圧Pp
TGTに収束する過程で、噴射比率が所定の噴射比率に近づくように制御されるため、
図4中における時刻t
2の前後でのトルク変動や燃焼状態の急変を招くおそれがなく、エンジン10の作動状態をより安定化させることができる。
【0081】
(3)また、上述の制御装置1では、噴射圧のずれ量が大きいほどメイン噴射量Qmが多くなるように(ずれ量が大きいほどメイン噴射量Qmの割合が増大するように)噴射比率が変更される。つまり、ずれ量が大きいほど、燃料が燃えやすいメイン噴射によって多くの燃料が噴射されることになるので、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの間にずれがあっても、通常燃焼からNOxパージに切り替えた直後のトルクダウンを効果的に抑制することができる。
【0082】
(4)上述の制御装置1では、取得部5によって取得された開始筒内温度Tcpが低いほどメイン噴射量Qmを増やすように補正されるため、筒内温度Tcが上昇しやすくなり、NOxパージに適した筒内温度Tcになるまでの時間を短縮することができる。これにより、触媒32Aに吸蔵されたNOxが早期に放出,還元されることになり、パージ処理時間の長期化を抑制することができる。また、燃えやすいメイン噴射量Qmを増やして筒内温度Tcを高めることで、ポスト噴射した燃料が燃えやすくなるため、より効果的にトルクダウンを抑制することができる。
【0083】
(5)さらに上述の制御装置1では、開始筒内温度Tcpが低いほどメイン噴射量Qmを増やすとともにポスト噴射量Qpを減らすように補正される。つまり、メイン噴射量Qmが増えた分、ポスト噴射量Qpが減らされて総噴射量Qtが一定に保たれるので、燃費悪化を抑制することができる。
【0084】
(6)上述の制御装置1では、開始筒内温度Tcpが、エンジン10の低負荷運転の継続時間LE,燃料カット時間FC,水温WTの三つのパラメータのうちの少なくとも一つから推定される。このため、筒内温度Tcを直接的に検出するセンサがなくてもメイン噴射量Qmを補正することができ、コストを低減することができる。また、これらのパラメータを組み合わせて開始筒内温度Tcpを推定して取得することで、推定精度を高めることができる。
【0085】
[6.その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形することが可能である。
上述の実施形態では、目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとのずれ量として差ΔPが用いられる場合を例示したが、ずれ量はこれに限られず、目標噴射圧Pp
TGTに対する実噴射圧P
ACTの比をずれ量としてもよい。あるいは、パージ処理の前後における目標噴射圧P
TGTの変化量(Pp
TGT−Pn
TGT)に対する、実噴射圧P
ACTの変化量の比をずれ量としてもよいし、パージ処理の前後における目標噴射圧P
TGTの変化量(Pp
TGT−Pn
TGT)に対する目標噴射圧Pp
TGTと実噴射圧P
ACTとの差の比をずれ量としてもよい。
【0086】
また、補正部6が、開始筒内温度Tcpが低いほどメイン噴射量Qmを増やすように補正する一方で、ポスト噴射量Qpを一定に保つ(補正量をゼロとする)ようにしてもよい。この場合、総噴射量Qtが増大することになるため、排気空燃比をより早くNOxパージでの目標空燃比(例えば14)に収束させることができる。なお、上述の補正部6は必須ではなく、省略することも可能である。すなわち、制御部7が、設定部4で設定された噴射比率に応じたメイン噴射量Qm及びポスト噴射量Qpの各燃料を、メイン噴射期間km及びポスト噴射期間kpにおいてそれぞれ噴射させる構成としてもよい。この場合、取得部5も省略可能であり、制御構成を簡素化することができる。
【0087】
上述の実施形態では、NOxパージへの切り替え直前の通常燃焼において、ポスト噴射はされていないものとしたが、通常燃焼時の噴射形態は特に限られず、ポスト噴射が行われていてもよい。この場合、通常燃焼からNOxパージへ切り替えられたときの噴射比率の設定において、通常燃焼時のポスト噴射量を考慮すればよい。また、上述の実施形態では、メイン噴射量Qmの最小値Qmoが固定値として設定されている場合を例示したが、最小値Qmoはこれに限られない。例えば、総噴射量Qtに対する最小値Qmoの割合を予め設定しておき、総噴射量Qtを算出したときに最小値Qmoを算出する構成であってもよい。すなわち、最小値Qmoが総噴射量Qtに応じた変数として与えられてもよい。
【0088】
上述の実施形態では、パージ処理としてNOxパージを例示したが、上述したNOxパージに関する制御を、触媒32Aから硫黄成分を放出,除去させるSパージに適用してもよい。
なお、エンジン10は、上述した構成のディーゼルエンジンに限られず、他の構成のディーゼルエンジンであってもよいし、ガソリンエンジンであってもよい。