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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-223604(P2016-223604A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】管継手
(51)【国際特許分類】
   F16L 19/08 20060101AFI20161205BHJP
   F16L 19/02 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   F16L19/08
   F16L19/02
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-113007(P2015-113007)
(22)【出願日】2015年6月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】393024717
【氏名又は名称】オーケー器材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】村上 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 法文
(72)【発明者】
【氏名】梶野 文則
(72)【発明者】
【氏名】吉井 茂男
(72)【発明者】
【氏名】中田 春男
【テーマコード(参考)】
3H014
【Fターム(参考)】
3H014CA05
3H014GA16
(57)【要約】
【課題】コスト増加を抑制しつつ締付トルクを低減することが可能な管継手を提供する。
【解決手段】管継手は、配管の周囲を囲む環形状を有し、配管に食い込む側である先端部(21A)と、環形状の軸方向(P1)において先端部(21A)と反対側に位置する後端部(21B)と、を有するフェルール(21)と、フェルール(21)の周面(23,24)上に形成された第1潤滑膜(40,41)と、を備えている。先端部(21A)側での第1潤滑膜(40,41)の厚み(T1,T11)は、後端部(21B)側での第1潤滑膜(40,41)の厚み(T2,T21)よりも大きくなっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管(2)を繋ぐための食い込み式の管継手(1)であって、
前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、前記配管(2)に食い込む側である先端部(21A,22A)と、前記環形状の軸方向(P1,P2)において前記先端部(21A,22A)と反対側に位置する後端部(21B,22B)と、を有するフェルール(21,22)と、
前記フェルール(21,22)の周面(23,24,25,26)上に形成された第1潤滑膜(40,41,42,43,48)と、を備え、
前記先端部(21A,22A)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚み(T1,T11,T3,T31)は、前記後端部(21B,22B)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚み(T2,T21,T4,T41)よりも大きい、管継手(1)。
【請求項2】
前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)は、潤滑剤(44)を含み、
前記先端部(21A,22A)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)における前記潤滑剤(44)の濃度は、前記後端部(21B,22B)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)における前記潤滑剤(44)の濃度よりも大きい、請求項1に記載の管継手(1)。
【請求項3】
前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48v)は、前記後端部(21B,22B)から前記先端部(21A,22A)に向かって厚みが徐々に大きくなるように形成されている、請求項1又は2に記載の管継手(1)。
【請求項4】
前記配管(2)が挿入される継手本体(10)と、
前記継手本体(10)に外嵌されるナット(30)と、をさらに備え、
前記ナット(30)には、前記継手本体(10)と嵌合する部分であり、かつ第2潤滑膜(46)が形成されたネジ部(51)が形成され、
前記ネジ部(51)では、圧力面(52)での前記第2潤滑膜(46)の厚み(T5)が非圧力面(53)での前記第2潤滑膜(46)の厚み(T6)よりも大きい、請求項1又は2に記載の管継手(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管継手に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気調和機の冷凍機の配管系統などに使用される管継手であって、配管が挿入される継手本体と、継手本体に外嵌されるナットと、継手本体とナットとの間に配置されるフェルールと、を備えた管継手が知られている。この管継手は、フェルールの先端部により配管の外周を拘束し、当該先端部により押圧して配管を変形させることにより気密性と配管保持力とを確保する食い込み式の管継手である。下記特許文献1には、この種の管継手において、継手本体とナットとが嵌合するネジ部に潤滑剤を塗装することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−207795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示された管継手では、継手本体及びナットのネジ部に潤滑剤を焼付塗装することにより、ナットの締付時における摩擦を低減することができる。しかし、この場合には摩擦が低減される一方で潤滑剤の使用量の増加によりコストが増加するという問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、コスト増加を抑制しつつ締付トルクを低減することが可能な管継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る管継手(1)は、配管(2)を繋ぐための食い込み式の管継手(1)である。上記管継手(1)は、前記配管(2)の周囲を囲む環形状を有し、前記配管(2)に食い込む側である先端部(21A,22A)と、前記環形状の軸方向(P1,P2)において前記先端部(21A,22A)と反対側に位置する後端部(21B,22B)と、を有するフェルール(21,22)と、前記フェルール(21,22)の周面(23,24,25,26)上に形成された第1潤滑膜(40,41,42,43,48)と、を備えている。前記先端部(21A,22A)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚み(T1,T11,T3,T31)は、前記後端部(21B,22B)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚み(T2,T21,T4,T41)よりも大きくなっている。
【0007】
上記管継手(1)では、配管(2)に食い込む側である先端部(21A,22A)における第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚み(T1,T11,T3,T31)が、後端部(21B,22B)における第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚み(T2,T21,T4,T41)よりも大きい。これにより、先端部(21A,22A)を配管(2)に食い込ませるときの摩擦を低減し、締付トルクを低減することができる。また後端部(21B,22B)に比べてトルク上昇への影響が大きい先端部(21A,22A)における第1潤滑膜(40,41,42,43,48)の厚みを相対的に大きくすることにより、潤滑剤の使用量を低減し、コスト削減を図ることができる。したがって、上記管継手(1)によれば、コスト増加を抑制しつつ締付トルクを低減することができる。
【0008】
上記管継手(1)において、前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)は、潤滑剤(44)を含んでいてもよい。前記先端部(21A,22A)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)における前記潤滑剤(44)の濃度は、前記後端部(21B,22B)側での前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)における前記潤滑剤(44)の濃度よりも大きくなっていてもよい。
【0009】
上記構成によれば、先端部(21A,22A)側での第1潤滑膜(40,41,42,43,48)中の潤滑剤(44)の濃度を相対的に大きくすることにより、当該先端部(21A,22A)における潤滑性能をより向上させることができる。その結果、締付トルクの上昇をより効果的に抑制することができる。
【0010】
上記管継手(1)において、前記第1潤滑膜(40,41,42,43,48)は、前記後端部(21B,22B)から前記先端部(21A,22A)に向かって厚みが徐々に大きくなるように形成されていてもよい。
【0011】
上記構成によれば、フェルール(21,22)の周面全体に均一に潤滑剤を塗布した後、先端部(21A,22A)を重力方向下側に向けてフェルール(21,22)を放置することにより、上記厚み変化を有する第1潤滑膜(40,41,42,43,48)を容易に形成することができる。
【0012】
上記管継手(1)は、前記配管(2)が挿入される継手本体(10)と、前記継手本体(10)に外嵌されるナット(30)と、をさらに備えていてもよい。前記ナット(30)には、前記継手本体(10)と嵌合する部分であり、かつ第2潤滑膜(46)が形成されたネジ部(51)が形成されていてもよい。前記ネジ部(51)では、圧力面(52)での前記第2潤滑膜(46)の厚み(T5)が非圧力面(53)での前記第2潤滑膜(46)の厚み(T6)よりも大きくなっていてもよい。
【0013】
上記管継手(1)において、「圧力面(52)」とは、ネジ部(51)のネジ山(50)を構成する一方のネジ面であって、ナット(30)を継手本体(10)に嵌合させて軸方向へ移動させるときに、継手本体(10)から受ける押圧力が他方のネジ面よりも大きい面である。また「非圧力面(53)」とは、上記ネジ山(50)を構成する上記他方のネジ面であって、上記押圧力が一方のネジ面(圧力面(52))よりも小さい面である。
【0014】
上記構成によれば、継手本体(10)からの押圧力が大きい圧力面(52)での第2潤滑膜(46)の厚みを非圧力面(53)よりも大きくすることにより、ナット(30)を継手本体(10)に締結する際のトルク上昇を効果的に抑制することができる。また、圧力面(52)と非圧力面(53)との間で第2の潤滑膜(46)に膜厚差を設けることにより潤滑剤の使用量を低減し、コスト削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コスト増加を抑制しつつ締付トルクを低減することが可能な管継手を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る管継手の断面構造を部分的に示す概略図である。
図2】フロントフェルールの軸方向に沿った断面構造を示す概略図である。
図3】バックフェルールの軸方向に沿った断面構造を示す概略図である。
図4】ナットに軸方向に沿った断面構造を示す概略図である。
図5図4中の領域Vにおけるナットの拡大図である。
図6】バインダー中にPTFE粒子が分散した様子を示す概略図である。
図7】フロントフェルール上に潤滑膜を作製する方法を説明するための概略図である。
図8】ナット回転角と締付トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0018】
<管継手の構造>
まず、本発明の一実施形態に係る管継手1の構造について、図1を参照して説明する。図1は、管継手1の断面構造を部分的に示している。管継手1は、例えば空気調和機の冷凍機などにおいて、配管2同士を繋ぐためのものである。図1では、管継手1の配管2の接続部分における右側部分のみが示されているが、左側も同様の断面構造となっている。
【0019】
管継手1は、継手本体10と、フロントフェルール21と、バックフェルール22と、ナット30と、を主に備えている。管継手1では、継手本体10内に配管2が挿入され、継手本体10にナット30が外嵌される。そして、ナット30を軸方向P0に移動させて締め込むことによりフロントフェルール21及びバックフェルール22の先端部を径方向内側に変形させ、当該先端部を配管2の表面に食い込ませることにより、配管2の保持力及び気密性が確保される。
【0020】
配管2は、冷媒などの流体が通過する中空部が内部に形成された円筒形状を有する。配管2は、変形が容易な銅製の配管であることが好ましいがこれに限られず、アルミニウム製や鋼製などの他の金属製の配管でもよい。
【0021】
継手本体10は、略円筒形状を有し、配管2が挿し込まれる挿入穴が内部に形成された黄銅製の部材である。継手本体10の内径は、配管2の外径よりも大きい。継手本体10は、配管2の軸方向P0に対して略平行な内周面である本体面12と、当該本体面12と繋がり、かつ軸方向P0に対して傾斜する本体傾斜面11と、を有する。本体傾斜面11は、継手本体10の内径が軸方向P0の両端部に向かい拡大される向きに傾斜している。
【0022】
継手本体10の本体面12には、径方向内側へ突出し、配管2の一方端が当接する当接部13が形成されている。当接部13は、継手本体10の内周面(本体面12)に沿って環状に形成されている。
【0023】
継手本体10の外周面には、ナット30の締結時にスパナやレンチなどの工具により掴まれる掴み部14が設けられている。掴み部14は、軸方向P0から見たときの外形が六角形状である。継手本体10の両端部の外周面には、ナット30と嵌合する本体ネジ部15が形成されている。
【0024】
ナット30は、環形状を有する黄銅製の部材であり、継手本体10に外嵌されている。ナット30は、配管2の軸方向P0に対して略平行な内周面であるナット面31と、ナット面31に対して鈍角を成すように当該ナット面31と繋がるナット傾斜面32と、当該ナット傾斜面32と繋がり、かつ配管2が挿入される挿入孔を規定するナット円周面33と、を有する。ナット傾斜面32は、図1に示すように継手本体10の奥に向かうに従って内径が拡大するように傾斜する。ナット30は、継手本体10との締結時に工具により掴んで回転させるため、軸方向P0から見たときの外形が六角形状である。
【0025】
フロントフェルール21は、配管2の周囲を囲む環形状を有する黄銅製の部材である。フロントフェルール21は、継手本体10とナット30との間に配置されている。フロントフェルール21は、先端部21Aと、当該環形状の軸方向において先端部21Aと反対側に位置する後端部21Bと、を有する。フロントフェルール21は、後端部21Bから先端部21Aに向かって外径が徐々に縮小される形状を有する。先端部21Aには、軸方向P0に垂直な先端面27が形成されている。後端部21Bには、軸方向P0に垂直な後端面21Dと、当該後端面21Dの内端に繋がる後端傾斜面21Cと、が形成されている。後端傾斜面21Cは、フロントフェルール21の軸方向の長さが径方向内側に向かい小さくなるように、径方向に対して傾斜する。
【0026】
先端面27の外径は、本体面12の外径よりも大きい。そのため、フロントフェルール21は、ナット30の締結前(図1)において先端部21Aの外周縁部が本体傾斜面11に当接するように配置されている。そして、ナット30を軸方向P0に移動させて締め込むことにより、先端部21Aが本体傾斜面11に押し付けられて径方向内側に変形し、配管2の表面に食い込むことにより配管2が保持される。
【0027】
バックフェルール22は、フロントフェルール21と同様に、配管2の周囲を囲む環形状を有する黄銅製の部材である。バックフェルール22は、先端部22Aと、当該環形状の軸方向において先端部22Aと反対側に位置する後端部22Bと、を有する。バックフェルール22は、後端部22Bから先端部22Aに向かって外径が徐々に縮小され、軸方向の長さがフロントフェルール21よりも小さい形状を有する。
【0028】
バックフェルール22は、継手本体10とナット30との間に配置され、かつ軸方向P0においてフロントフェルール21と隣接して配置されている。バックフェルール22は、ナット30の締結前(図1)において先端部22Aの外周縁部がフロントフェルール21の後端傾斜面21Cに当接し、かつ後端部22Bの外周部分がナット傾斜面32に当接するように配置されている。ナット30を軸方向P0に移動させて締め込むことにより、後端部22Bがナット傾斜面32に押され、かつ先端部21Aが後端傾斜面21Cに押し付けられる。これにより、先端部21Aが径方向内側に変形し、フロントフェルール21と同様に配管2の表面に食い込む。
【0029】
<フェルール上の潤滑膜>
次に、フロントフェルール21及びバックフェルール22上に形成された潤滑膜について、図2及び図3を主に参照して説明する。以下に説明するように、フロントフェルール21及びバックフェルール22の表面上には、ナット30の締結時に発生する摩擦を低減する目的で潤滑膜が形成されている。図2は、フロントフェルール21の軸方向P1に沿った断面構造を示している。図3は、バックフェルール22の軸方向P2に沿った断面構造を示している。
【0030】
まず、フロントフェルール21に形成された潤滑膜の構造について説明する。フロントフェルール21は、軸方向P1に対して略平行な内周面24と、後端部21Bから先端部21Aに向かい径方向内向きに傾斜する外周面23と、を有する。外周面23上には、後端部21Bから先端部21Aに亘り略全面に第1潤滑膜40(48)が形成されている。内周面24上には、後端部21Bから先端部21Aに亘り略全面に第1潤滑膜41(48)が形成されている。
【0031】
第1潤滑膜40,41は、後端部21Bから先端部21Aに向かって厚みが徐々に大きくなるように形成されている。換言すると、第1潤滑膜40,41の厚みは、後端部21Bから先端部21Aに向かって滑らかに増加している。このため、先端部21A側での第1潤滑膜40,41の厚みT1,T11は、後端部21B側での第1潤滑膜40,41の厚みT2,T21よりも大きくなっている。第1潤滑膜40,41は、先端部21A側において最大値が存在し、かつ後端部21B側において最小値が存在する膜厚分布を有する。第1潤滑膜40,41の膜厚は、例えば電磁式膜厚計や渦電流式膜厚計などを用いて測定することができる。
【0032】
図6は、第1潤滑膜40,41の膜構造を拡大して示している。第1潤滑膜40,41は、PTFE(Poly Tetra Fluoro Ethylene)などの潤滑剤44と、アクリル樹脂などのバインダー(結合剤)45と、を有する。潤滑剤44は、図6に示すようにバインダー45中において均一に分散している。潤滑剤44は、PTFEに限られず、例えば二硫化モリブデン(MoS)などの他の固体潤滑剤でもよいが、摩擦を効果的に低減する観点からPTFEであることが好ましい。
【0033】
図2では、第1潤滑膜40,41に含まれる潤滑剤44(図6参照)は、膜中の黒い点により示されている。図2に示すように、先端部21A側での第1潤滑膜40,41における潤滑剤44の濃度(質量濃度)は、後端部21B側での第1潤滑膜40,41における潤滑剤44の濃度よりも大きくなっている。より具体的には、第1潤滑膜40,41における潤滑剤44の濃度は、後端部21Bから先端部21Aに向かって増加している。このため、第1潤滑膜40,41は、先端部21A側において潤滑剤44濃度の最大値を有し、かつ後端部21B側において潤滑剤44濃度の最小値を有する。
【0034】
なお、図2では示されていないが、フロントフェルール21の先端面27、後端面21D及び後端傾斜面21Cにも潤滑膜が形成されていてもよい。
【0035】
次に、バックフェルール22に形成された潤滑膜の構造について説明する。バックフェルール22は、軸方向P2に対して略平行な内周面26と、後端部22Bから先端部22Aに向かって径方向内側に傾斜する外周面25と、を有する。外周面25は、図3に示すように曲面部分と平面部分とを含む。外周面25上には、後端部22Bから先端部22Aに亘り略全面に第1潤滑膜42(48)が形成されている。内周面26上には、後端部22Bから先端部22Aに亘り略全面に第1潤滑膜43(48)が形成されている。
【0036】
第1潤滑膜42,43は、後端部22Bから先端部22Aに向かって厚みが徐々に大きくなるように形成されている。換言すると、第1潤滑膜42,43の厚みは、後端部22Bから先端部22Aに向かって滑らかに増加している。このため、先端部22A側での第1潤滑膜42,43の厚みT3,T31は、後端部22B側での第1潤滑膜42,43の厚みT4,T41よりも大きくなっている。第1潤滑膜42,43は、先端部22A側において最大値が存在し、かつ後端部22B側において最小値が存在する膜厚分布を有する。
【0037】
第1潤滑膜42,43は、上記フロントフェルール21の場合と同様に、PTFEなどの潤滑剤44(図6参照)を含む。図3において、第1潤滑膜42,43に含まれる潤滑剤44は、膜中の黒い点により示されている。図3に示すように、先端部22A側での第1潤滑膜42,43における潤滑剤44の濃度は、後端部22B側での第1潤滑膜42,43における潤滑剤44の濃度よりも大きくなっている。より具体的には、第1潤滑膜42,43における潤滑剤44の濃度は、後端部22Bから先端部22Aに向かって増加している。このため、第1潤滑膜42,43は、先端部22A側において潤滑剤44濃度の最大値を有し、かつ後端部22B側において潤滑剤44濃度の最小値を有する。
【0038】
なお、図3では示されていないが、バックフェルール22の先端面28及び後端面29にも潤滑膜が形成されていてもよい。
【0039】
<ナット上の潤滑膜の構造>
次に、ナット30上に形成された潤滑膜の構造について、図4及び図5を参照して説明する。上記フロントフェルール21及びバックフェルール22と同様に、ナット30の表面上にも締結時の摩擦を低減する目的で潤滑膜が形成されている。図4は、ナット30の軸方向P3に沿った断面構造を示している。図5は、図4中の領域Vにおける拡大図である。
【0040】
ナット30は、内周面にナットネジ部51が形成された雌ネジである。ナットネジ部51は、三角ネジであり、雄ネジである継手本体10の外周面に形成された本体ネジ部15と嵌合する。この嵌合状態でナット30を回転させることにより、軸方向P3に移動させることができる。
【0041】
ナットネジ部51及び本体ネジ部15は、図4に示した本実施形態のような三角ネジに限られず、台形ネジ、角ネジ又は丸ネジなどの他種類のネジでもよい。またナットネジ部51及び本体ネジ部15におけるネジ山の数や角度なども図4の構成に限られず、任意に設計することが可能である。
【0042】
ナットネジ部51は、複数のネジ山50を有する。各ネジ山50は、圧力面52及び非圧力面53を有し、これらの面が所定の角度を成して頂点54で繋がるように構成されている。圧力面52は非圧力面53よりも軸方向P3上側に位置し、非圧力面53は圧力面52よりも軸方向P3下側に位置する。軸方向P3の上側とはナット30が継手本体10から離れる側であり、軸方向P3下側とはナット30が継手本体10に近づく側である。圧力面52は、ナット30を軸方向P3に移動させて締め込む際に、継手本体10(本体ネジ部15)から受ける押圧力が非圧力面53に比べて大きい面である。つまり、圧力面52は、ナット30を締め込むときに雄ネジに対する軸方向P3の推力を発生させる面である。
【0043】
圧力面52及び非圧力面53には、第2潤滑膜46が略全面に亘り形成されている。第2潤滑膜46は、図5に示すように圧力面52及び非圧力面53に沿って一様な膜厚を有していてもよいし、膜厚が変動していてもよい。第2潤滑膜46は、上記第1潤滑膜48と同様に、PTFEなどの潤滑剤がアクリル樹脂などのバインダー中に分散した膜構造を有する。この第2潤滑膜46により、本体ネジ部15とナットネジ部51との間に生じる摩擦が低減される。
【0044】
圧力面52での第2潤滑膜46の厚みT5は、非圧力面53での第2潤滑膜46の厚みT6よりも大きくなっている。より具体的には、圧力面52では、非圧力面53に比べて、第2潤滑膜46の膜厚の最大値、最小値及び平均値のいずれも大きくなっている。このように、圧力面52と非圧力面53との間には、第2潤滑膜46の膜厚差が設けられており、当該膜厚差の大きさは特に限定されない。
【0045】
<潤滑膜の作製方法>
次に、上記第1潤滑膜48及び第2潤滑膜46の作製方法について、図2及び図7を参照して説明する。
【0046】
はじめに、フロントフェルール21上における第1潤滑膜40,41の作製方法について説明する。まず、フロントフェルール21が準備される。次に、フロントフェルール21が別途準備された潤滑剤溶液に浸漬される。この潤滑剤溶液は、PTFEなどの潤滑剤、アクリル樹脂などのバインダー、及びシンナーやベンゼンなどの揮発性有機溶媒からなる。その後、フロントフェルール21が潤滑剤溶液中から取り出される。これにより、図7に示すように、フロントフェルール21の外周面23及び内周面24上に潤滑剤溶液の膜47が均一に塗布される。潤滑剤溶液の膜47は、図7に示すように後端部21Bから先端部21Aに亘り略均一な膜厚で塗布される。
【0047】
次に、先端部21Aを重力方向下側に向けた状態でフロントフェルール21が平坦面上に配置され、常温下で5〜10分間程度放置される(常温乾燥)。この間に重力により膜47が先端部21A側に流動し、当該膜47に含まれる潤滑剤(PTFE)が先端部21A側に集中する。その後、当該膜47に含まれる有機溶媒が完全に揮発することにより、第1潤滑膜40,41が形成される。これにより、図2に示すように後端部21B側よりも先端部21A側での膜厚が大きく、かつ潤滑剤の濃度が高い第1潤滑膜40,41が形成される。
【0048】
バックフェルール22では、上記フロントフェルール21の場合と同様に、潤滑剤溶液に浸漬された後、先端部22Aを重力方向下側に向けて常温乾燥させることにより、第1潤滑膜42,43(図3参照)が形成される。またナット30では、上記フロント及びバックフェルール21,22の場合と同様に、潤滑剤溶液に浸漬された後、ナットネジ部51を重力方向下側に向けて常温乾燥させることにより、第2の潤滑膜46(図5参照)が形成される。
【0049】
<作用効果>
次に、上記管継手1による作用効果について説明する。
【0050】
上記管継手1は、フロントフェルール21と、バックフェルール22と、フロント及びバックフェルール21,22の周面上に形成された第1潤滑膜48と、を備えている。先端部21A,22A側での第1潤滑膜48の厚みT1,T11,T3,T31は、後端部21B,22B側での第1潤滑膜48の厚みT2,T21,T4,T41よりも大きくなっている。
【0051】
上記管継手1では、配管2に食い込む側である先端部21A,22Aにおける第1潤滑膜48の厚みT1,T11,T3,T31が、後端部21B,22Bにおける第1潤滑膜48の厚みT2,T21,T4,T41よりも大きい。これにより、先端部21A,22Aを配管2に食い込ませるときの摩擦を低減し、締付トルクを低減することができる。また後端部21B,22Bに比べてトルク上昇への影響が大きい先端部21A,22Aにおける第1潤滑膜48の厚みを相対的に大きくすることにより、潤滑剤の使用量を低減し、コスト削減を図ることができる。したがって、上記管継手1によれば、コスト増加を抑制しつつ締付トルクを低減することができる。
【0052】
上記管継手1において、第1潤滑膜48は、潤滑剤44を含む。先端部21A,22A側での第1潤滑膜48における潤滑剤44の濃度は、後端部21B,22B側での第1潤滑膜48における潤滑剤44の濃度よりも大きくなっている。これにより、先端部21A,22Aにおける潤滑性能をより向上させることができる。その結果、締付トルクの上昇をより効果的に抑制することができる。
【0053】
上記管継手1において、第1潤滑膜48は、後端部21B,22Bから先端部21A,22Aに向かって厚みが徐々に大きくなるように形成されている。これにより、フェルール21,22の周面全体に均一に潤滑剤溶液を塗布した後、先端部21A,22Aを重力方向下側に向けてフェルール21,22を放置することにより、上記厚み変化を有する第1潤滑膜48を容易に形成することができる。
【0054】
上記管継手1は、配管2が挿入される継手本体10と、継手本体10に外嵌されるナット30と、を備えている。ナット30には、継手本体10と嵌合するナットネジ部51が形成されている。ナットネジ部51では、圧力面52での第2潤滑膜46の厚みT5が非圧力面53での第2潤滑膜46の厚みT6よりも大きくなっている。これにより、ナット30を継手本体10に締結する際のトルク上昇を効果的に抑制することができる。
【0055】
また、圧力面及び非圧力面の両方に対して潤滑剤が均一に塗布された管継手では、トルク上昇を抑制することができる一方で潤滑剤の使用量が増加し、これによりコストが増加するという問題がある。これに対して、上記管継手1では、圧力面52と非圧力面53との間で第2潤滑膜46に膜厚差を設けることにより潤滑剤の使用量を低減し、コスト削減を図ることができる。
【0056】
<変形例>
次に、上記実施形態に係る管継手1の変形例について説明する。
【0057】
上記実施形態において、第1潤滑膜48は、後端部21B,22Bから先端部21A,22Aに向かって滑らかに厚みが増加する場合に限られず、段階的に(ステップ状に)厚みが増加してもよい。また後端部21B,22Bから先端部21A,22Aに向かって厚みが徐々に増加する場合に限られず、後端部21B,22Bから先端部21A,22Aに向かう途中において厚みが急峻に増加してもよい。
【0058】
上記実施形態において、先端部21A,22A側での潤滑剤44の濃度が後端部21B,22B側での潤滑剤44の濃度よりも高い場合に限られず、後端部21B,22Bから先端部21A,22Aに亘って潤滑剤44の濃度が均一でもよい。
【0059】
上記実施形態において、ナット30の圧力面52と非圧力面53との間に第2潤滑膜46の膜厚差が設けられる場合に限られず、当該膜厚差が設けられなくてもよい。
【0060】
上記実施形態において、フロントフェルール21では先端部21Aと後端部21Bとの間で膜厚差を有する第1潤滑膜40,41(図2参照)が形成され、かつバックフェルール22では後端部22Bから先端部22Aに亘り膜厚が均一な潤滑膜が形成されてもよい。またフロントフェルール21では後端部21Bから先端部21Aに亘り膜厚が均一な潤滑膜が形成され、かつバックフェルール22では先端部22Aと後端部22Bとの間で膜厚差を有する第1潤滑膜42,43が形成されてもよい。
【0061】
上記実施形態において、第1潤滑膜48及び第2潤滑膜46に膜厚差を設ける方法は、フェルール21,22及びナット30を潤滑剤溶液に浸漬した後、先端部21,22A及びナットネジ部51を重力方向下側に向けて常温乾燥する方法に限られず、スプレー塗布や刷毛塗りなどにおいてフェルール21,22及びナット30の表面における潤滑剤溶液の塗布量に差を設ける方法でもよい。具体的には、フェルール21,22において先端部後端部21B,22B側よりも先端部21A,22A側での塗布量を増やし、またナット30において非圧力面53よりも圧力面52での塗布量を増やしてもよい。
【0062】
<実験例>
フェルール及びナット上における潤滑膜の作製方法が管継手の締付トルクに与える影響を調査した。
【0063】
まず、フロントフェルール、バックフェルール及びナットをそれぞれ準備した。次に、フロントフェルール、バックフェルール及びナットを、PTFEやバインダーなどを含む潤滑剤溶液にそれぞれ浸漬した。その後、フロントフェルール、バックフェルール及びナットを潤滑剤溶液中から取り出し、種々の条件下で常温乾燥させることにより潤滑膜を作製した。そして、潤滑膜が形成されたフロントフェルール、バックフェルール及びナットを用いた管継手において、ナット回転角の範囲を0〜510°として締付トルクの測定を行った。
【0064】
図8は、上記実験結果を示すグラフであり、横軸はナット回転角(°)を示し、縦軸は締付トルク(N・m)を示している。図8のグラフ中、(1),(3)は、フロントフェルール及びバックフェルールの先端部、並びにナットのネジ部を全て重力方向下側に向けて乾燥処理を行った場合の結果を示している。(2)は、フロントフェルール及びバックフェルールの先端部を重力方向下側に向け、かつナットのネジ部を重力方向上側に向けて乾燥処理を行った場合の結果を示している。(4)は、フロントフェルール及びバックフェルールの先端部を重力方向上側に向け、かつナットのネジ部を重力方向下側に向けて乾燥処理を行った場合の結果を示している。(5)は、フロントフェルール、バックフェルール及びナットの軸方向を水平方向に向けて乾燥処理を行った場合の結果を示している。
【0065】
図8のグラフ中(1)と(5)との比較から明らかなように、フロントフェルール及びバックフェルールの先端部、並びにナットのネジ部を重力方向下側に向けて乾燥処理を行うことにより、締付トルクが大きく低減された。また(2)と(4)との比較から明らかなように、ナットのネジ部を重力方向下側に向けて乾燥処理を行った場合に比べて、フロントフェルール及びバックフェルールの先端部を重力方向下側に向けて乾燥処理を行った場合に締付トルクがより低減された。
【0066】
今回開示された実施形態及びその変形例は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと解されるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
1 管継手、2 配管、10 継手本体、21,22 フェルール(フロントフェルール、バックフェルール)、21A,22A 先端部、21B,22B 後端部、23,24,25,26 周面(内周面、外周面)、30 ナット、48(40,41,42,43) 第1潤滑膜、44 潤滑剤、46 第2潤滑膜、51 ナットネジ部(ネジ部)、52 圧力面、53 非圧力面、P0,P1,P2,P3 軸方向、T1,T2,T3,T4,T5,T6,T11,T21,T31,T41 厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8