【解決手段】電磁ブレーキ装置10は、電磁駆動部11と、診断部200と、を備えている。診断部200は、正常状態保存部213と、現在状態取得部209,210と、信号取得部201,202と、判定器207とを備えている。正常状態保存部213は、電磁駆動部11が正常な状態におけるハウジング21に対するコア23,24の状態を保存する。現在状態取得部209、210は、診断時におけるハウジング21に対するコア23,24の状態を取得する。判定器207は、コア23,24の現在の状態の情報と、コアの正常状態の情報と、電流信号に基づいて電磁駆動部11の状態が正常か否かを判定する。
前記正常状態保存部に保存された前記コアの正常状態の情報と、前記正常状態保存部に前記コアの正常状態が保存される際に前記電流信号取得部が取得した前記コイルに流れる正常状態の電流信号情報から、前記判定器で判定するための基準値を導出する基準値導出部を更に備えた
請求項1に記載の電磁ブレーキ装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の電磁ブレーキ装置、巻上機及びエレベータの実施の形態例について、
図1〜
図8を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0013】
1.エレベータの構成
まず、本発明の実施の形態例(以下、「本例」という。)にかかるエレベータの構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、本例のエレベータの構成例を示す概略構成図である。
【0014】
図1に示すように、本例のエレベータ1は、建築構造物100内に形成された昇降路110内を昇降動作する。エレベータ1は、人や荷物を載せる乗りかご2と、ロープ3と、釣合錘4と、巻上機6とを備える。昇降路110は、建築構造物100内に形成され、その頂部には機械室120が設けられている。
【0015】
乗りかご2は、中空の略直方体状に形成されている。この乗りかご2には、人や荷物が載置される。また、乗りかご2は、昇降路110内に設けられたガイドレールに摺動可能に支持されている。そして、乗りかご2は、ガイドレールに沿って昇降路110内を昇降する。また、乗りかご2には、ロープ3を介して釣合錘4が連結されている。
【0016】
巻上機6は、機械室120に配置され、ロープ3を巻き掛けることにより乗りかご2を昇降させる。また、巻上機6の近傍には、ロープ3が装架される反らせ車8が設けられている。
【0017】
巻上機6は、綱車と、ドラム部材6bと、電磁ブレーキ装置10とを有している。綱車には、ロープ3が巻き掛けられる。綱車には、ドラム部材6bが接続されている。ドラム部材6bは、綱車と共に回転駆動する。電磁ブレーキ装置10は、ドラム部材6bの駆動を制動する。
【0018】
[電磁ブレーキ装置]
次に、
図2〜
図4を参照して本例の電磁ブレーキ装置の詳細な構成について説明する。
図2は、電磁ブレーキ装置を示す正面図、
図3は、電磁ブレーキ装置が動作した状態を示す正面図である。
【0019】
図2及び
図3に示すように、電磁ブレーキ装置10は、電磁駆動部11と、支持部12と、第1アーム部13と、第2アーム部14と、制動部材15と、ブレーキパッド16とを有している。また、電磁ブレーキ装置10は、電磁駆動部11の状態を診断する診断部200(
図5参照)を有している。また、第1アーム部13、第2アーム部14、制動部材15及びブレーキパッド16でブレーキ部が構成される。
【0020】
支持部12は、ドラム部材6bの鉛直方向の下方に配置されている。支持部12の一端部には、第1回動軸18を介して第1アーム部13が回動可能に取り付けられている。また、支持部12の他端部には、第2回動軸19を介して第2アーム部14が回動可能に取り付けられている。そして、第1アーム部13と第2アーム部14の間には、ドラム部材6bが配置されている。
【0021】
第1アーム部13及び第2アーム部14におけるドラム部材6bと対向する箇所には、ブレーキパッド16が設けられている。ブレーキパッド16は、ドラム部材6bに押し付けられることで、ドラム部材6bの駆動を制動する。
【0022】
第1アーム部13及び第2アーム部14には、制動部材15が設けられている。制動部材15は、例えば、圧縮コイルばねにより構成される。制動部材15は、第1アーム部13及び第2アーム部14を互いに接近する方向に付勢している。また、ドラム部材6bは、綱車に接続されているため、
図2に示す状態では、巻上機6における綱車の回転駆動は静止される。すなわち、乗りかご2の昇降動作は、静止する。
【0023】
第1アーム部13における第1回動軸18が設けられる端部とは反対側の端部13aと、第2アーム部14における第2回動軸19が設けられる端部とは反対側の端部14aの間には、電磁駆動部11が設けられている。
【0024】
電磁駆動部11は、コイル22を収容するハウジング21と、第1コア23と、第2コア24とを有している。
【0025】
図4は、電磁駆動部11の要部を示す概略構成図である。
図4に示すように、第1コア23及び第2コア24は、それぞれ円柱状に形成されている。第1コア23及び第2コア24は、ハウジング21に設けた筒孔21aに摺動可能に挿入されている。第1コア23は、ハウジング21の一側から筒孔21aに挿入されており、第2コア24は、ハウジング21の他側から筒孔21aに挿入されている。
【0026】
また、ハウジング21における筒孔21aの近傍には、基準マーク21bが設けられている。第2コア24には、コア側マーク24aが設けられている。なお、第1コア23にも同様に、コア側マークが設けられている。
【0027】
第2コア24は、第1ロッド27を介して第1アーム部13の端部13aに連結されている。また、第1コア23は、第2ロッド28を介して第2アーム部14の端部14aに連結されている。
【0028】
コイル22に電流が流れると、ハウジング21の筒孔21a内に磁場が発生する。そして、第1コア23及び第2コア24は、筒孔21a内に吸引される。すなわち、第1コア23及び第2コア24は、互いに接近する方向に移動する。第1コア23が筒孔21a内に吸引されると、第2アーム部14の端部14aは、第2ロッド28を介して第1コア23に押圧される。同様に、第2コア24が筒孔21a内に吸引されると、第1アーム部13の端部13aは、第1ロッド27を介して第2コア24に押圧される。
【0029】
そして、
図3に示すように、第1アーム部13及び第2アーム部14は、制動部材15の付勢力に抗して、互いの端部13a及び端部14aが離反する方向に回動する。これにより、第1アーム部13及び第2アーム部14に設けたブレーキパッド16がドラム部材6bから離れる。これにより、ドラム部材6bの回転駆動することが可能となり、乗りかご2の昇降動作が可能となる。
【0030】
2.診断部の制御系の構成
次に、電磁ブレーキ装置10における診断部の制御系について、
図5を参照して説明する。
図5は、電磁ブレーキ装置10における診断部の各部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【0031】
図5に示すように、診断部200は、電流計測器201と、信号取得器202と、フィルタ処理器203と、摩擦力推定器204と、摩擦係数推定器205と、磁力推定器206と、判定器207と、出力器208とを有している。また、診断部200は、位置計測器209と、回転角計測器210と、正常電流保存部の一例を示す初期電流保存部211と、正常状態保存部の一例を示す初期状態保存部212と、基準値導出部213とを有している。
【0032】
電流計測器201は、電磁駆動部11に接続されており、コイル22に流れる電流値を計測する。電流計測器201は、信号取得器202に接続されている。信号取得器202は、電流計測器201が計測した電流値信号を取得する。信号取得器202は、フィルタ処理器203と、初期電流保存部211に接続されている。そして、信号取得器202は、取得した電流値信号をフィルタ処理器203又は、初期電流保存部211に送信する。
【0033】
電流計測器201と信号取得器202によって電流信号取得部が構成される。
【0034】
フィルタ処理器203は、受信した電流値信号のノイズや診断に不要となる周波数成分を除去する。フィルタ処理器203は、摩擦力推定器204に接続されている。そして、フィルタ処理器203は、フィルタ処理を行った電流値信号を摩擦力推定器204に送信する。
【0035】
摩擦力推定器204は、受信した電流値信号に基づいて、第1コア23及び第2コア24がハウジング21の筒孔21a内を摺動する際の摩擦力を推定する。摩擦力推定器204は、摩擦係数推定器205及び磁力推定器206に接続されている。また、摩擦力推定器204は、推定した摩擦力(以下、「推定摩擦力」という)を摩擦係数推定器205及び磁力推定器206に送信する。
【0036】
摩擦係数推定器205は、受信した推定摩擦力に基づいて第1コア23及び第2コア24とハウジング21の筒孔21a内を摺動する際の摩擦係数を推定する。磁力推定器206は、受信した推定摩擦力に基づいて、コイル22に電流を流した際に生じる磁力を推定する。摩擦係数推定器205及び磁力推定器206は、判定器207に接続されている。そして、摩擦係数推定器205は、推定した摩擦係数を判定器207に送信し、磁力推定器206は、推定した磁力を判定器207に送信する。
【0037】
位置計測器209は、ハウジング21に対する筒孔21aの軸方向における第1コア23及び第2コア24の位置を計測する。回転角計測器210は、ハウジング21に対する筒孔21aの軸心を中心とした周方向における第1コア23及び第2コア24の回転位置(以下、「回転角」という)を計測する。
【0038】
位置計測器209及び回転角計測器210としては、例えば、変位計や、ポテンションメータ等を用いてもよい。また、位置計測器209及び回転角計測器210としては、ハウジング21と第1コア23及び第2コア24を撮影する撮影装置を用いてもよい。そして、撮影装置が撮影した画像から、位置や、回転角を算出するようにしてもよい。撮像装置で回転角を算出する際、ハウジング21に設けた基準マーク21bと、第1コア23又は第2コア24に設けたコア側マーク24aで形成される角度θを回転角として算出するようにしてもよい。
【0039】
また、位置計測器209及び回転角計測器210は、初期状態保存部212及び判定器207に接続されている。位置計測器209は、計測した第1コア23及び第2コア24におけるハウジング21に対する位置を判定器207に送信する。また、回転角計測器210は、計測した第1コア23及び第2コア24におけるハウジング21に対する回転角を判定器207に送信する。
【0040】
なお、位置計測器209と回転角計測器210により現在状態取得部が構成される。
【0041】
初期電流保存部211には、診断を行う前、例えば電磁ブレーキ装置10を設置した際の電流値(以下、「初期電流値」という)が予め保存されている。初期電流値は、電磁ブレーキ装置10を設置した際のコイル22に流れる電流値を、電流計測器201及び信号取得器202により計測することで、取得される。
【0042】
初期状態保存部212には、診断を行う前、例えば電磁ブレーキ装置10を設置した際のハウジング21に対する第1コア23及び第2コア24の、位置(以下、「初期位置」という)と回転角(以下、「初期回転角」という)が予め保存されている。初期位置は、電磁ブレーキ装置10を設置した際の、ハウジング21に対する第1コア23及び第2コア24の位置を位置計測器209で計測することで、取得される。また、初期回転角は、電磁ブレーキ装置10を設置した際の、ハウジング21に対する第1コア23及び第2コア24の回転角を回転角計測器210で計測することで、取得される。
【0043】
なお、本例では、初期位置を位置計測器209で計測し、初期回転角を回転角計測器210で計測した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、初期位置及び初期回転角を、位置計測器209及び回転角計測器210とは別の機器を用いて計測し、初期状態保存部212に保存させるようにしてもよい。
【0044】
初期電流保存部211及び初期状態保存部212は、基準値導出部213に接続されている。初期電流保存部211は、保存されている初期電流値を基準値導出部213に送信する。初期状態保存部212は、保存されている初期位置及び初期回転角を基準値導出部213に送信する。
【0045】
基準値導出部213は、受信した初期電流値、初期位置及び初期回転角に基づいて、基準電流値、基準位置及び基準回転角を導出する。基準値導出部213は、判定器207に接続されている。基準値導出部213は、導出した基準電流値、基準位置及び基準回転角を判定器207に送信する。
【0046】
判定器207は、受信した各種信号に基づいて電磁駆動部11の状態が正常か否かの判定を行う。各種信号としては、摩擦係数推定器205で推定された摩擦係数、磁力推定器206で推定された磁力、位置計測器209で計測された位置、回転角計測器210で計測された回転角、基準値導出部213で導出された、基準電流値、基準位置及び基準回転角である。
【0047】
判定器207は、出力器208に接続されており、判定結果を出力器208に送信する。出力器208は、例えば表示装置、ランプ、ブザー等の使用者に対して判定結果を出力可能な装置で構成されている。そして、出力器208は、受信した判定結果を出力し、使用者に報知する。
【0048】
3.電流波形と電磁駆動部の動作の関係
次に、電流計測器201が計測する電流波形と電磁駆動部11の動作の関係について
図6及び
図7を参照して説明する。
図6は、電流計測器201が計測する電流波形と電磁駆動部11の動作の関係を示す説明図である。なお、
図6に示す縦軸は電流(I)であり横軸は縦軸(t)である。
図7は、第1コア23及び第2コア24の位置の関係を示す説明図である。
【0049】
図6に示すように、交流電源を整流して使用する場合、コイル22に流れる電流は、所定周波数で振動し、時間t1まで立ち上がる。電流値の上昇に伴い、電磁駆動部11におけるハウジング21の内部、すなわち筒孔21a内の吸引力が上昇する。そして、吸引力が制動部材15の付勢力よりも大きくなるタイミング(時間t1、電流I1)で、第1コア23及び第2コア24が互い接近する方向に動く。
【0050】
第1コア23及び第2コア24が動くと、ハウジング21の筒孔21a内の磁場が乱れる。そのため、コイル22には、逆起電力が生じ、電圧が降下する。その結果、
図6に示すように、電流が一時的に降下する。すなわち、電流波形に元々の振動振幅以外の降下現象が生じた場合、第1コア23及び第2コア24が移動したことがわかる。なお、電磁駆動部11の挙動に異常が生じた場合、正常に電磁駆動部11が作動した場合の波形と比較すると、降下現象の現れ方が異なることになる。
【0051】
さらに第1コア23及び第2コア24が接近すると、電流は上昇する。そして、
図7Cに示すように、第1コア23及び第2コア24が接近し、第1コア23及び第2コア24の移動が終わると、電流値は、所定の値である電流I2に至る。なお、電流波形は、電流I2に至る時間t2まで所定周波数で振動する波形が得られる。
【0052】
そして、電磁ブレーキ装置10は、
図3に示すように、第1アーム部13及び第2アーム部14が回動し、ドラム部材6bからブレーキパッド16が離れる。その結果、乗りかご2の昇降動作が可能となる。
【0053】
次に、乗りかご2の昇降動作が終了し、再び電磁ブレーキ装置10が作動する場合について説明する。
このときは、コイル22に電圧が印加されなくなり、電流は急速に降下する。そして、ハウジング21の筒孔21a内の磁場により生じた吸引力が制動部材15の付勢力よりも小さくなると、第1コア23及び第2コア24が、互いに離反する方向に動く。このタイミング(時間t3、電流I3)で電流が変動する。その後、再び降下し、コイル22に流れる電流がなくなる。
【0054】
ここで、電磁ブレーキ装置10が動作する際に電磁駆動部11にハウジング21内に生じる逆起電力の大きさは、電磁駆動部11の磁気回路によって、異なる。例えば、
図7A及び
図7Bに示すように、第1コア23及び第2コア24の初期位置が異なると、第1コア23及び第2コア24の間隔も異なる。したがって、第1コア23及び第2コア24を含む磁気回路の特性も異なるため、逆起電力の大きさも異なる。
【0055】
例えば、初期位置が
図7Aに示すように、第1コア23及び第2コア24の間隔が離れている場合と、
図7Bに示すように、第1コア23及び第2コア24の間隔が近接している場合が存在する。
図7Aに示す場合でも、
図7Bに示す場合でも、第1コア23及び第2コア24は、吸引時には
図7Cに示す位置まで移動する。しかしながら、
図7Aに示す場合と、
図7Bに示す場合とでは、第1コア23及び第2コア24の
図7Cに示す位置までの移動距離が異なる。その結果、電磁駆動部11に生じる逆起電力の大きさも異なる。
【0056】
さらに、
図4に示すように、第1コア23及び第2コア24は、略円筒状に形成されている。しかしながら、第1コア23及び第2コア24には、製造上の微少な偏心が存在している。また、ハウジング21の筒孔21aは、略円筒状に開口されているが、第1コア23及び第2コア24と同様に、ハウジング21の筒孔21aには、製造上の微少な偏心が存在している。そのため、第1コア23及び第2コア24における筒孔21aに対する回転角が異なると、第1コア23及び第2コア24と筒孔21aとの間隔も異なる。その結果、磁気回路の特性が変化し、逆起電力の大きさも異なる。
【0057】
そのため、本例の電磁ブレーキ装置10の診断部200は、上述した第1コア23及び第2コア24の初期位置や初期回転角からの変化に起因する電流の変化を補正している。
【0058】
4.診断部の診断動作
次に、
図8を参照して、診断部200の診断動作について説明する。
図8は、診断部200の診断動作を説明するフローチャートである。
【0059】
なお、初期電流保存部211には、初期電流値が保存されており、初期状態保存部212には、初期位置及び初期回転角が保存されている。そして、基準値導出部213により予め基準位置及び基準回転角が導出されている。
【0060】
まず、電磁駆動部11のコイル22に電流を流し、第1コア23及び第2コア24を
図7Cに示すように吸引する。そして、摩擦係数推定器205は、起動時の電流から摩擦係数μを導出する(ステップS11)。すなわち、電流計測器201は、コイル22に流れた電流値を計測する。次に、電流計測器201が計測した電流値を信号取得器202及びフィルタ処理器203を介して摩擦力推定器204に送信する。摩擦力推定器204は、受信した電流値に基づいて摩擦力を推定し、推定した摩擦力を摩擦係数推定器205及び磁力推定器206に送信する。そして、摩擦係数推定器205は、受信した摩擦力と、電流値に基づいて摩擦係数μを導出する。
【0061】
なお、摩擦係数μは、摩擦力をF、第1コア23又は第2コア24等の稼働部の質量をm、重力加速度をg、ハウジング21に発生した磁力により第1コア23及び第2コア24が筒孔21aの内面に押し付けられる押付力をF
MGとした場合、下記式(1)から算出することができる。
[式1]
F=μ(mg+F
MG)
【0062】
ここで、摩擦力Fは、制動部材15の付勢力及びハウジング21に発生した磁力により第1コア23及び第2コア24が筒孔21aの軸方向に沿って吸引される吸引力から導出される。また、吸引力は、コイル22に流れる電流値、すなわち
図6に示す電流I1から算出することができる。さらに、押付力F
MGは、コイル22に流れる電流値、すなわち
図6に示す電流I1から算出される。この押付力F
MGは、磁気回路の特性によって変化、すなわち第1コア23及び第2コア24の位置及び回転角によって変化する。
【0063】
次に、判定器207は、摩擦係数μが初期摩擦係数μ1から変化したか否かを判定する(ステップS12)。なお、判定器207で用いられる初期摩擦係数μ1は、初期電流保存部211に保存された初期電流値から導出してもよく、予め初期摩擦係数μ1を判定器207に入力してもよい。
【0064】
次に、ステップS12により、判定器207が、摩擦係数μが初期摩擦係数μ1から変化していないと判定した場合(S12がNO判定の場合)、判定器207は、押付力F
MGは初期押付力F
MG1から変化したか否かを判定する(ステップS13)。初期押付力F
MG1は、初期電流保存部211に保存された初期電流値から導出してもよく、予め初期押付力F
MG1を判定器207に入力してもよい。
【0065】
また、ステップS12により、判定器207が、摩擦係数μが初期摩擦係数μ1から変化したと判定した場合(S12がYES判定の場合)、判定器207は、第1コア23及び第2コア24やハウジング21の摩擦係数が変化したと判定し、出力器208に出力する(ステップS14)。そして、出力器208は、第1コア23及び第2コア24やハウジング21の摩擦係数が変化したことを出力し、使用者に報知する。
【0066】
次に、ステップS13により、判定器207が、押付力F
MGは初期押付力F
MG1から変化したと判定した場合(S13がYES判定の場合)、判定器207は、位置や回転角が基準位置及び基準回転角の範囲内か否かを判定する(ステップS15)。
【0067】
すなわち、位置計測器209は、計測したハウジング21に対する第1コア23及び第2コア24の位置を判定器207に送信する。また、回転角計測器210は、計測したハウジングに対する第1コア23及び第2コア24の回転角を判定器207に送信する。さらに、判定器207は、基準値導出部213が予め導出した基準位置及び基準回転角を受信する。そして、判定器207は、受信した位置及び回転角が、基準位置及び基準回転角の範囲内か否かを判定する。
【0068】
ステップS15により、判定器207が、位置や回転角が、位置及び回転角が基準位置及び基準回転角の範囲内であると判定した場合(ステップS15のYES判定の場合)、第1コア23及び第2コア24の位置及び回転角が変化していると判定し、出力器208に出力する(ステップS16)。そして、出力器208は、第1コア23及び第2コア24の位置及び回転角が変化していることを出力し、使用者に報知する。
【0069】
また、ステップS15によい、判定器207が、位置や回転角が、位置及び回転角が基準位置及び基準回転角の範囲内でない判定した場合(ステップS15のNO判定の場合)、ハウジング21、第1コア23及び第2コア24が摩耗していると判定し、出力器208に出力する(ステップS17)。そして、出力器208は、ハウジング21、第1コア23及び第2コア24が摩耗していることを出力し、使用者に報知する。
【0070】
さらに、ステップS13により、判定器207が、押付力F
MGは初期押付力F
MG1から変化していないと判定した場合(S13がNO判定の場合)、判定器207は、電磁駆動部11の摩耗、第1コア23及び第2コア24の位置及び回転角、並びに摩擦係数が正常であると判定する(ステップS18)。
【0071】
また、ステップS18の処理の後、判定器207は、ステップS15の処理の後に、初期電流値の電流波形と、現在計測した電流波形を比較し、電磁ブレーキ装置10が正常か否かの判定を行ってもよい。本例の電磁ブレーキ装置10では、電流波形を比較する前に、摩擦係数μ、押付力F
MG、位置及び回転角の変化を判定している。これにより、電流波形を比較する際に、電磁駆動部11の状態を正確に判定することができる。
【0072】
本例の電磁ブレーキ装置10によれば、電磁駆動部11における製品毎のばらつきを考慮する必要がなくなり、電流波形を比較する際において異常と判定する閾値の幅を狭くすることができる。その結果、電磁駆動部11の診断精度の向上を図ることができ、適切なタイミングで保守点検及び整備を行うことができ、保守点検及び整備にかかる時間を削減することができる。
【0073】
なお、本例では、基準値導出部213を設けて、基準電流値、基準位置及び基準回転角を導出する例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、基準値導出部213を設けずに、初期電流保存部211及び初期状態保存部212を判定器207に接続する。そして、初期電流保存部211及び初期状態保存部212に保存されている初期電流値、初期位置及び初期回転角を用いて電磁駆動部11の状態の判定を行うようにしてもよい。
【0074】
さらに、本例では、第1コア23及び第2コア24を吸引する際の電流値を用いて電磁駆動部11の状態を判定したが、これに限定されるものではない。例えば、第1コア23及び第2コア24を離間する際の電流値(例えば、
図6に示す電流I3)を用いて電磁駆動部11の状態を判定してもよい。または、第1コア23及び第2コア24の吸引時の電流値と、第1コア23及び第2コア24を離間する際の電流値の両方を用いて電磁駆動部11の状態を判定してもよい。
【0075】
なお、電磁ブレーキ装置10では、コイル22に電流を流して電磁駆動部11を起動させる際の状態が重要である。そのため、第1コア23及び第2コア24を離間する際の電流値よりも、第1コア23及び第2コア24を吸引する際の電流値を用いて判定するほうが好ましい。
【0076】
なお、本発明は上述しかつ図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。上述した実施の形態例では、正常状態保存部として、電磁ブレーキ装置10を設置した際の初期状態が保存される初期状態保存部212を用いた例を説明したが、これに限定されるものではない。
【0077】
正常状態保存部としては、電磁駆動部11が正常な状態におけるハウジング21に対する第1コア23及び第2コア24の位置と回転角が保存されるものであればよい。例えば、判定器207が過去の診断で正常であると判定した際の第1コア23及び第2コア24の位置及び回転角が保存されていてもよい。
【0078】
同様に、正常電流保存部として、電磁ブレーキ装置10を設置した際にコイル22に流れる初期の電流値が保存される初期電流保存部211を適用した例を説明したが、これに限定されるものではない。正常電流保存部には、電磁駆動部11が正常な状態でコイル22に流れる電流値が保存されていればよい。例えば、判定器207が過去の診断で正常であると判定した際の電流値が保存されていてもよい。
【0079】
なお、本明細書において、「平行」及び「直交」等の単語を使用したが、これらは厳密な「平行」及び「直交」のみを意味するものではなく、「平行」及び「直交」を含み、さらにその機能を発揮し得る範囲にある、「略平行」や「略直交」の状態であってもよい。