【解決手段】自動倉庫における地震時の荷物の有効質量を算出する方法は、荷物を振動台3に載置する載置ステップと、荷物を載置した振動台3に水平方向の振動を入力する加振ステップと、加振ステップによって、加速度と水平力の関係を取得する関係取得ステップと、加速度と水平力の関係に基づいて、地震時の荷物の有効質量を算出する有効質量算出ステップとを有している。
前記関係算出ステップは、同じ入力加速度について、前記荷物を前記振動台に固定した場合の水平力に対する前記荷物を前記振動台に固定しない場合の水平力の割合である水平力低減率を算出し、
前記有効質量算出ステップは、前記水平力低減率を用いて、地震時の前記荷物の有効質量を算出する、請求項2に記載の有効質量の算出方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビル式ラックでは、未だに建築基準法による一般建築物の仕様規定(積載荷重)を用い、ラック倉庫の積載荷重の実況とかけ離れた設計を行う実務が続いている。
【0005】
本発明の課題は、ラック倉庫の積載荷重の実況を正確に把握することで、自動倉庫のラックを適切に設計可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
【0007】
本発明の一見地に係る自動倉庫における地震時の荷物の有効質量を算出する方法は、下記のステップを備えている。
◎荷物を振動台に載置する載置ステップ
◎荷物を載置した振動台に水平方向の振動を入力する加振ステップ
◎加振ステップにおいて、加速度と水平力の関係を取得する関係取得ステップ
◎加速度と水平力の関係に基づいて、地震時の荷物の有効質量を算出する有効質量算出ステップ
【0008】
この方法では、自動倉庫に生じる地震時の荷物の滑り及び踊りに関する有効質量が、大規模な実験を行うことなく求められる(有効質量算出ステップ)。その結果、ラック倉庫の積載荷重の実況を正確に把握することで、自動倉庫のラックを適切に設計可能となる。
【0009】
加振ステップは、アクチュエータを用いて振動台に水平方向に振動を加え、
関係算出ステップは、アクチュエータが振動台に振動を加えるのに必要な力を用いて、加速度と力の関係を算出してもよい。
【0010】
関係算出ステップは、同じ入力加速度について、荷物を振動台に固定した場合の水平力に対する荷物を振動台に固定しない場合の水平力の割合である水平力低減率を算出し、
有効質量算出ステップは、水平力低減率を用いて、地震時の荷物の有効質量を算出してもよい。
【0011】
本発明の他の見地に係る自動倉庫のラック設計方法は、下記のステップを備えている。
◎上記の有効質量を算出する方法
◎算出された有効質量を用いて、自動倉庫のラックを設計するステップ
算出された有効質量を用いて自動倉庫のラックを設計することで、例えば適切な強度を有するラックを実現することができ、それによりコストを低減できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ラック倉庫の積載荷重の実況を正確に把握することで、自動倉庫のラックを適切に設計できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.第1実施形態
(1)本実施形態の概要
本実施形態では、例えば、ビル式ラック倉庫の収納物が地震時にラック構造へ与える影響(減衰効果)を、振動実験により把握し、実況に応じた荷重条件による静的な構造計算手法を説明する。
【0015】
(2)測定機器の装置構成
図1を用いて、本発明の一実施形態に用いられる測定機器1を説明する。
図1は、本発明の一実施形態における測定機器の概略構成図である。
測定機器1は、アクチュエータ(ACT)制御の一軸振動台である。
測定機器1は、振動台3を有している。振動台3は、水平方向に振動可能な部材である。振動台3は、
図1の左右方向に振動可能となるように支持台5に支持されている。振動台3は、本体7を有している。本体7は、支持台5の上に置かれている。振動台3は、載置台9を有している。載置台9は、その上に荷物Wが載置される部材である。載置台9は、本体7の上に固定されている。
【0016】
測定機器1は、アクチュエータ11を有している。アクチュエータ11は、水平方向に加振力を発生させる加振装置である。アクチュエータ11は、振動台3の側方に配置されている。アクチュエータ11は、振動台3に接続された動力伝達部13を有している。一例として、アクチュエータ11は、サーボアクチュエータである。
測定機器1は、ロードセル15を有している。ロードセル15は、荷重を測定するセンサである。具体的には、ロードセル15は、加振時の水平力を測定する。ロードセル15は、アクチュエータ11の動力伝達部13に設けられている。
【0017】
測定機器1は、第1加速度計17(
図3)を有している。第1加速度計17は、振動台3の加速度を測定するためのセンサである。一例として、第1加速度計17は、圧電式ピックアップ加速度計である。
測定機器1は、第2加速度計19(
図3)を有している。第2加速度計19は、振動台3の上に置かれた荷物Wの加速度を測定するためのセンサである。一例として、第1加速度計17は、圧電式ピックアップ加速度計である。
【0018】
測定機器1は、第1変位計21及び第2変位計22を有している。第1変位計21は、振動台3に対する荷物Wの水平方向の変位を測定するためのセンサである。第2変位計22は、支持台5に対する振動台3の本体7の水平方向の変位を測定するためのセンサである。第1変位計21は、
図1に示すように、振動台3の本体7の上に設けられている。第2変位計22は、
図1に示すように、支持台5の上に設けられている。一例として、第1変位計21及び第2変位計22は、レーザ式変位判別センサである。
図1では、測定機器1には、荷物Wが搭載されている。具体的には、荷物Wは、パレットPの上に置かれている。パレットPは、載置台9の上に置かれている。
【0019】
(3)測定機器の制御構成
図3を用いて、測定機器の制御構成を説明する。
図3は、測定機器の制御構成図である。
測定機器1は、コントローラ23を有している。コントローラ23は、アクチュエータ11に接続されている。コントローラ23は、アクチュエータ11に制御信号を送信可能である。また、コントローラは、第1加速度計17、第2加速度計19、第1変位計21及び第2変位計22に接続されており、それらセンサからの検出信号を受信可能である。
より具体的には、コントローラ23は、CPU、RAM、ROMを有するコンピュータであり、プログラムを実行することで各種制御を行う。コントローラ23は、データを保存可能なメモリ25を有している。
【0020】
(4)実験方法の概要
測定機器1を用いた実験方法を説明する。この実験方法の目的は、地震時に上層で発生する加速度を地上面で再現し、水平力によって荷重の変化を把握することである。通常のラック構造実験では各層の性状を同時に測定するため、実大の構造試験体を用いたものが一般的である。しかし、本実験は荷物自体の性状をより正確に把握するため、上方に配置された振動台及び荷物が下方の中心に揺動する構造モデルを採用せず、荷物が載せられた台車からなる振動台に弾性リンクを介して駆動源から振動が伝達され、台車及び荷物が水平方向に滑動する構造モデルを採用することで、滑動する荷物への加振力の測定を行う。そして、地震動を受けると建築物は振動するが、その理由は地震動の加速度と逆向きの慣性力が建築物に作用することにある。一般的には、この慣性力を建築物に作用する外力として扱い、これを地震荷重と呼ぶ。
そして、ラック倉庫内の荷物が滑るまたは踊るような現象が発生すると荷物の慣性力が低減されるが、この様な現象を荷物自体の慣性力に対する有効質量として考える。そして、荷物の滑動を考慮した静的計算を行うには、荷物が滑動を生じる層及び有効質量割合の把握が必要になる。そこで、測定機器1を用いた振動実験の方法では、実際に荷物を加振したデータを基に荷物が滑動する層及び有効質量割合を把握する。
【0021】
(5)加振力測定方法
本実験では、建築物に作用する力(慣性力)を地震時に荷物が滑動する時の振動台の水平力ととらえ、荷物自体が建築物に与える力を測定する。
以下、
図1〜
図2を用いて、2種類の積載状態を説明する。
図2は、荷物非固定時の測定機器の概略構成図である。
【0022】
図1では、荷物WがパレットPとともに載置台9の上に置かれており、パレットPは固定治具31によって載置台9に対して水平方向に移動不能になっている(固定状態)。
図2では、荷物WがパレットPとともに載置台9の上に置かれており、パレットPは載置台9に対して水平方向に移動可能になっている(非固定状態)。
上記の2種類の積載状態について、入力加速度を100galから50gal刻みで350galまで加振し、データを取得する。なお、一例として、入力値の波形はサイン波であり、周波数は1.11Hzである。
【0023】
図4を用いて、測定機器による水平力測定制御を説明する。
図4は、測定機器による水平力測定制御のフローチャートである。なお、
図4のフローチャートは一例であり、各ステップの有無及び順番は特に限定されない。また、複数のステップが同時に又は一部が重なって実行されてもよい。
【0024】
ステップS1では、荷物WをパレットPとともに載置台9の上に載置する(荷物を振動台に載置する載置ステップ)。
ステップS2では、荷物WをパレットPとともに載置台9に固定する。
ステップS3では、コントローラ23が加速度を設定する。
【0025】
ステップS4では、コントローラ23が制御信号をアクチュエータ11に送信し、アクチュエータ11を駆動する。これにより、アクチュエータ11が振動台3に対して水平方向振動を加える(荷物を載置した振動台に水平方向の振動を入力する加振ステップ)。
ステップS5では、コントローラ23が、ロードセル15からの検出信号を受信することで、水平力を測定する。水平力は、アクチュエータ11が振動台3に振動を加えるのに必要な力である。
また、コントローラ23が、第2変位計22からの検出信号を受信することで、振動台3の変位量を測定する。コントローラ23は、変位量と水平力からエネルギーを算出する。
【0026】
ステップS6では、荷物W及びパレットPを載置台9に対して固定解除する。
ステップS7では、コントローラ23が制御信号をアクチュエータ11に送信し、アクチュエータ11を駆動する。
ステップS8では、コントローラ23が、ロードセル15からの検出信号を受信することで、水平力を測定する。また、コントローラ23が、第2変位計22からの検出信号を受信することで、荷物Wの変位量を測定する。コントローラ23は、変位量と水平力からエネルギーを算出する。
【0027】
ステップS9では、コントローラ23が、固定時の水平力と非固定時の水平力から水平力低減率を算出する(加振ステップによって、加速度と水平力の関係を取得する関係取得ステップ)。つまり、同じ入力加速度に対して、荷物Wを振動台に固定した場合の水平力に対する荷物Wを振動台に固定しない場合の水平力の割合を算出することで、水平力低減率を得る。コントローラ23は、さらに、両水平力と水平力低減率をメモリ25に保存する。また、コントローラ23が、固定時のエネルギーと非固定時のエネルギーからエネルギー低減率を算出する。コントローラ23は、さらに、両エネルギーとエネルギー低減率をメモリ25に保存する。この方法では、実験における動作に基づいて、必要なデータが得られる。
ステップS10では、全ての加速度について測定が終了したか否かが判断される。終了すれば(ステップS10でYes)、測定は終了する。終了していなければ(ステップS10でNo)、プロセスはステップS2に戻る。このようにして、加速度ごとに固定時の水平力及び非固定時の水平力と、水平力低減率が得られる。また、加速度ごとに固定時のエネルギー及び非固定時のエネルギーと、エネルギー低減率が得られる。
【0028】
上記実施形態では加速度ごとに固定時の水平力と非固定時の水平力が測定されたが、別の例として固定状態では加速度を異ならせて水平力を測定し、その後非固定状態で加速度を異ならせて水平力を測定してもよい。なお、固定時の水平力には、計算値を用いてもよい。
上記実施形態では固定時の水平力測定後に非固定時の水平力を測定したが、別の例として非固定時の水平力を測定した後に固定時の水平力を測定してもよい。
【0029】
上記実施形態では加速度ごとに水平力低減率を算出していたが、別の例として全ての加速度について固定時の水平力と非固定時の水平力を算出した後に、まとめて全ての加速度について水平力低減率を算出してもよい。
上記実施形態ではエネルギーの測定及びエネルギー低減率の算出が行われたが、別の例としてこれらが省略されてもよい。
【0030】
図5〜
図7を用いて、測定結果を説明する。
図5は、固定時及び非固定時の水平力及びエネルギーの測定結果を示す表である。
図6は、入力加速度と水平力の関係を示すグラフである。
図7は、入力加速度とエネルギーの関係を示すグラフである。
図5における荷滑りの有無の判断は、300galで生じた波形の変化を基にしている。また、水平力及びエネルギーの低減率は、固定時の値に対する非固定時の値の割合を表している。
【0031】
入力加速度100〜250galの範囲では、荷物Wと振動台3は一体として振動する(つまり、荷滑りが生じていない)。したがって、非固定時水平力は固定時水平力とはほとんど変わらない。しかし、入力加速度300〜350galの範囲では、荷滑りが生じている(つまり、荷物Wが振動台3上を滑動する)。したがって、非固定時水平力は固定時水平力に対して小さくなっている。つまり、水平力低減率が大きくなっている。具体的には、水平力では26%〜53%の低減効果があることが分かり、したがって水平力の変化を測定することで、荷物Wの滑動による低減効果を定量的に確認できる。
入力加速度100〜250galの範囲では、荷滑りが生じていない。したがって、非固定時エネルギーは固定時エネルギーとはほとんど変わらない。しかし、入力加速度300〜350galの範囲では、荷滑りが生じている。したがって、非固定時エネルギーは固定時エネルギーに対して小さくなっている。つまり、エネルギー低減率が大きくなっている。
【0032】
(6)自動倉庫のラックを設計する方法
(6−1)設計方法の概要
自動倉庫のラックを設計する方法を説明する。一次設計では、最初に、荷重・外力を算出する。具体的には、固定荷重、積載荷重、風圧力、地震力が算出される。一次設計では、続いて応力解析が行われる。具体的には、長期応力と短期応力が算出される。一次設計では、さらに、許容応力度の確認が行われる。具体的には、長期応力度と短期応力度が確認される。
二次設計では、層間変形角の確認、剛性率の確認、偏心率の確認、筋かいの応力割増、筋かい端部・接合部の破断防止、局部座屈等の防止、柱脚部の破断防止、冷間成形角形鋼管柱の耐力比確保が行われる。
なお、上記の設計方法は一例であり、特に限定されない。
【0033】
(6−2)設計方法の詳細
図8を用いて、算出された有効質量を用いて、自動倉庫のラックを設計する方法(上述の一次設計)を説明する。
図8は、自動倉庫のラックを設計する方法を示すフローチャートである。なお、この制御の一部又は全ては、コントローラ23によって実行されてもよいし、他のコントローラによって実行されてもよい。
ステップS21では、上記の振動実験の結果、水平力低減率を用いて、地震時の荷物の有効質量、つまり、実際の荷物が滑動する加速度及び加速度に応じた有効質量割合を把握する。具体的には、振動実験又は実績データから、荷の滑動する加速度及び加速度に応じた滑動時有効質量を把握する(加速度と水平力の関係に基づいて、地震時の荷物の有効質量を算出する有効質量算出ステップ)。なお、実験を繰り返す事で荷物特性が把握でき、設計時には過去の実験結果に基づいて、近似の値を選定することもできる。
例として、滑動加速度300galの有効質量割合は80%であり、滑動加速度400galの有効質量割合は70%であり、滑動加速度500galの有効質量割合は60%である。
【0034】
ステップS22では、静的計算を用いて、地震時の自動倉庫ラックの各層の応答加速度を算出する。具体的には、建築基準法施行令第88条に基づいて、各層地震力P
iは、下記の式で算出される。
P
i=Q
i−Q
i+1(Q
i:各層での地震層せん断力)
Q
i=C
i×ΣW
i(C
i:各層での層せん断力係数、ΣW
i:各層までの累積質量)である。
なお、C
i=Z×R
t×A
i×C
0(Z:地域係数、R
t:振動特性係数、A
i:建築物の振動特性に応じて地震層せん断力係数の建築物の高さ方向の分布を示す値、C
0:標準せん断力係数)である。
【0035】
各層加速度a
iは、下記の式で算出される。
F=m×a(F:力、m:質量、a:加速度)つまりa=F/mより、
a
i=P
i/(DL
i+LL’
i) (DL
i:各層固定荷重、LL’
i:各層積載荷重)
【0036】
ステップS23ででは、各層の応答加速度の値と振動実験で荷滑りが発生した応答加速度の値を比較し、荷物が滑動する加速度を上回る層がある否かを判断する。これにより、積載荷重の有効質量割合を乗じるべき層が特定される。荷物が滑動する加速度を上回る層があれば(ステップS23でYes)、プロセスはステップS24に移行する。荷物が滑動する加速度を上回る層がなければ(ステップS23でNo)、プロセスはステップS25に移行する。
【0037】
ステップS24では、荷滑りによる有効質量を考慮して自動倉庫のラックを設計する。ステップS25では、通常通り、自動倉庫のラックを設計する。
【0038】
以上のように、地震時の有効質量を算出し、自動倉庫のラックを設計することで、例えば適切な強度を有するラックを実現することができ、それによりコストを低減できる。
より詳細には、上述の方法では、動的な実験(載置ステップ及び加振ステップ)を基に、静的な外力を算出する(関係取得ステップ)。したがって、自動倉庫に生じる地震時の荷物の有効質量が、大規模な実験を行うことなく求められる(有効質量算出ステップ)。その結果、ラック倉庫の積載荷重の実況を正確に把握することで、自動倉庫のラックを適切に設計可能となる。より具体的には、従来の設計方法に比べてラックの剛性を低くすることができ、その結果、材料の軽量化を実現でき、さらに建築コストを低くできる。
【0039】
2.他の実施形態
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。