特開2016-225581(P2016-225581A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

特開2016-225581波長変換部材及びそれを用いた発光装置
<>
  • 特開2016225581-波長変換部材及びそれを用いた発光装置 図000004
  • 特開2016225581-波長変換部材及びそれを用いた発光装置 図000005
  • 特開2016225581-波長変換部材及びそれを用いた発光装置 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-225581(P2016-225581A)
(43)【公開日】2016年12月28日
(54)【発明の名称】波長変換部材及びそれを用いた発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20161205BHJP
   H01S 5/02 20060101ALI20161205BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20161205BHJP
【FI】
   H01L33/00 410
   H01S5/02
   C09K11/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-113694(P2015-113694)
(22)【出願日】2015年6月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直樹
【テーマコード(参考)】
4H001
5F142
5F173
【Fターム(参考)】
4H001CA01
5F142AA23
5F142AA42
5F142AA62
5F142AA75
5F142DA02
5F142DA15
5F142DA61
5F142DA80
5F142FA24
5F142FA28
5F142GA21
5F142GA29
5F173MA10
5F173MC12
5F173MF10
5F173MF40
(57)【要約】
【課題】ハイパワーのLEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能な波長変換部材、及びそれを用いた発光装置を提供する。
【解決手段】無機バインダー中に蛍光体粉末と熱伝導性フィラーが分散されてなる蛍光体層と、蛍光体層の少なくとも一方の主面に形成され、無機バインダーより高い熱伝導率を有する透光性放熱層と、を含む積層体を備えることを特徴とする波長変換部材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機バインダー中に蛍光体粉末と熱伝導性フィラーが分散されてなる蛍光体層と、
蛍光体層の少なくとも一方の主面に形成され、無機バインダーより高い熱伝導率を有する透光性放熱層と、
を含む積層体を備えることを特徴とする波長変換部材。
【請求項2】
熱伝導性フィラーが透光性放熱層に接触していることを特徴とする請求項1に記載の波長変換部材。
【請求項3】
複数の熱伝導性フィラーが互いに接触していることを特徴とする請求項1または2に記載の波長変換部材。
【請求項4】
蛍光体粉末が熱伝導性フィラーと接触していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項5】
熱伝導性フィラーの平均粒子径が、蛍光体層の厚みの0.1倍以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項6】
熱伝導性フィラーの平均粒子径が10μm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項7】
熱伝導性フィラーが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6にいずれか一項に記載の波長変換部材
【請求項8】
蛍光体層の厚みが1000μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項9】
蛍光体層の両主面に透光性放熱層が形成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項10】
透光性放熱層が透光性セラミックスからなることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の波長変換部材。
【請求項11】
透光性セラミックスが、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス及び酸化イットリウム系セラミックスから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項10に記載の波長変換部材。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備えてなることを特徴とする発光装置。
【請求項13】
光源がレーザーダイオードであることを特徴とする請求項12に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)やレーザーダイオード(LD:Laser Diode)等の発する光の波長を別の波長に変換する波長変換部材、及びそれを用いた発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、蛍光ランプや白熱灯に変わる次世代の発光装置として、低消費電力、小型軽量、容易な光量調節という観点から、LEDやLDを用いた発光装置に対する注目が高まってきている。そのような次世代発光装置の一例として、例えば特許文献1には、青色光を出射するLED上に、LEDからの光の一部を吸収して黄色光に変換する波長変換部材が配置された発光装置が開示されている。この発光装置は、LEDから出射された青色光と、波長変換部材から出射された黄色光との合成光である白色光を発する。
【0003】
波長変換部材としては、従来、樹脂マトリクス中に無機蛍光体粉末を分散させたものが用いられている。しかしながら、当該波長変換部材を用いた場合、LEDからの光により樹脂が劣化し、発光装置の輝度が低くなりやすいという問題がある。特に、LEDが発する熱や高エネルギーの短波長(青色〜紫外)光によってモールド樹脂が劣化し、変色や変形を起こすという問題がある。
【0004】
そこで、樹脂に代えてガラスマトリクス中に蛍光体を分散固定した完全無機固体からなる波長変換部材が提案されている(例えば、特許文献2及び3参照)。当該波長変換部材は、母材となるガラスがLEDの熱や照射光により劣化しにくく、変色や変形といった問題が生じにくいという特徴を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【特許文献2】特開2003−258308号公報
【特許文献3】特許第4895541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、ハイパワー化を目的として、光源として用いるLEDやLDの出力が上昇している。それに伴い、光源の熱や、励起光を照射された蛍光体から発せられる熱により波長変換部材の温度が上昇し、その結果、発光強度が経時的に低下する(温度消光)という問題がある。また、場合によっては、波長変換部材の温度上昇が顕著となり、構成材料(ガラスマトリクス等)が融解するおそれがある。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、ハイパワーのLEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能な波長変換部材、及びそれを用いた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の波長変換部材は、無機バインダー中に蛍光体粉末と熱伝導性フィラーが分散されてなる蛍光体層と、蛍光体層の少なくとも一方の主面に形成され、無機バインダーより高い熱伝導率を有する透光性放熱層と、を含む積層体を備えることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、光源から発せられる励起光を波長変換部材に照射した際に、蛍光体層において発生した熱が、蛍光体層の少なくとも一方の主面に形成された透光性放熱層から効率良く外部に放出される。ここで、蛍光体層には熱伝導性フィラーが分散されているため、蛍光体粉末で発生した熱を熱伝導性フィラーが奪い、透光性放熱層に効率良く伝導させることができる。これにより、蛍光体層の温度上昇を抑制して、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能となる。
【0010】
なお、透光性放熱層における「透光性」とは、励起光、及び蛍光体層から発せられる蛍光を透過させることを意味する。
【0011】
本発明の波長変換部材において、熱伝導性フィラーが透光性放熱層に接触していることが好ましい。このようにすれば、熱伝導性フィラーと透光性放熱層との間で熱伝導経路が形成されるため、熱伝導性フィラーが蛍光体粉末で発生した熱を奪った後、効率良く透光性放熱層に伝導させることができる。
【0012】
本発明の波長変換部材において、複数の熱伝導性フィラーが互いに接触していることが好ましい。このようにすれば、複数の熱伝導性フィラーの間で熱伝導経路が形成されるため、蛍光体粉末で発生した熱を透光性放熱層に伝導させやすくなる。
【0013】
本発明の波長変換部材において、蛍光体粉末が熱伝導性フィラーと接触していることが好ましい。このようにすれば、蛍光体粉末と熱伝導性フィラーの間で熱伝導経路が形成されるため、蛍光体粉末で発生した熱を透光性放熱層に伝導させやすくなる。
【0014】
本発明の波長変換部材において、熱伝導性フィラーの平均粒子径が、蛍光体層の厚みの0.1倍以上であることが好ましい。このようにすれば、熱伝導性フィラーと透光性放熱層または蛍光体粉末、あるいは熱伝導性フィラー同士を接触させやすくなる。結果として、蛍光体粉末で発生した熱を効率良く透光性放熱層に伝達しやすくなる。
【0015】
本発明の波長変換部材において、熱伝導性フィラーの平均粒子径が10μm以上であることが好ましい。
【0016】
本発明の波長変換部材において、熱伝導性フィラーが、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0017】
本発明の波長変換部材において、蛍光体層の厚みが1000μm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の波長変換部材において、蛍光体層の両主面に透光性放熱層が形成されていることが好ましい。このようにすれば、蛍光体層で発生した熱を両主面から透光性放熱層を通じて外部に放出できるため、放熱効率をより一層向上させることができる。
【0019】
本発明の波長変換部材において、透光性放熱層が透光性セラミックスからなることが好ましい。
【0020】
本発明の波長変換部材において、透光性セラミックスが、酸化アルミニウム系セラミックス、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス及び酸化イットリウム系セラミックスからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0021】
本発明の発光装置は、上記の波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備えてなることを特徴とする。
【0022】
本発明の発光装置において、光源がレーザーダイオードであることが好ましい。このようにすれば、発光強度を高めることが可能となる。なお、光源としてレーザーダイオードを用いた場合は、蛍光体層の温度が上昇しやすくなるため、本発明の効果を享受しやすくなる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ハイパワーのLEDやLDの光を照射した場合に、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解を抑制することが可能な波長変換部材、及びそれを用いた発光装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置を示す模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0026】
(1)第1の実施形態に係る波長変換部材
図1は、本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。波長変換部材10は、蛍光体層1と、その一方の主面に形成された透光性放熱層2とを備えた積層体3からなる。蛍光体層1は無機バインダー6中に蛍光体粉末4と熱伝導性フィラー5が分散されてなる。本実施形態に係る波長変換部材10は透過型の波長変換部材である。透光性放熱層2側から励起光を照射すると、入射した励起光の一部が蛍光体層1で波長変換されて蛍光となり、当該蛍光は、透光性放熱層2とは反対側の主面から外部に照射される。
【0027】
図1に示すように、本実施形態では熱伝導性フィラー5の一部は透光性放熱層2に接触している。これにより、熱伝導性フィラー5と透光性放熱層2との間で熱伝導経路Pが形成されるため、熱伝導性フィラー5が蛍光体粉末4で発生した熱を奪った後、効率良く透光性放熱層2に伝導させることができる。また、図1に示すように、複数の熱伝導性フィラー5が互いに接触することにより、熱伝導経路Pがされていても良い。なお、蛍光体粉末4が熱伝導性フィラー5に接触していれば、蛍光体粉末4と熱伝導性フィラー5の間で熱伝導経路Pが形成されるため、蛍光体粉末4で発生した熱を透光性放熱層2に伝導させやすくなる。以上のようにして、本実施形態の波長変換部材10では、蛍光体層1の温度が不当に上昇することを抑制できる。
【0028】
蛍光体粉末4は、励起光の入射により蛍光を出射するものであれば、特に限定されるものではない。蛍光体粉末4の具体例としては、例えば、酸化物蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体、塩化物蛍光体、酸塩化物蛍光体、硫化物蛍光体、酸硫化物蛍光体、ハロゲン化物蛍光体、カルコゲン化物蛍光体、アルミン酸塩蛍光体、ハロリン酸塩化物蛍光体、ガーネット系化合物蛍光体から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。励起光として青色光を用いる場合、例えば、緑色光、黄色光または赤色光を蛍光として出射する蛍光体を用いることができる。
【0029】
蛍光体粉末4の平均粒子径は1〜50μm、特に5〜25μmであることが好ましい。蛍光体粉末4の平均粒子径が小さすぎると、発光強度が低下しやすくなる。一方、蛍光体粉末4の平均粒子径が大きすぎると、発光色が不均一になる傾向がある。
【0030】
なお、本発明において平均粒子径は、レーザ回折法で測定した値を指し、レーザ回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径(D50)を表す。
【0031】
蛍光体層1中における蛍光体粉末4の含有量は5〜80体積%、10〜75体積%、特に20〜70体積%であることが好ましい。蛍光体粉末4の含有量が少なすぎると、所望の発光強度が得られにくくなる。一方、蛍光体粉末4の含有量が多すぎると、蛍光体層1の機械的強度が低下しやすくなる。
【0032】
熱伝導性フィラー5は、無機バインダー6より高い熱伝導率を有している。具体的には、熱伝導性フィラー5の熱伝導率は5W/m・K以上、20W/m・K以上、40W/m・K以上、60W/m・K以上、特に100W/m・K以上であることが好ましい。
【0033】
熱伝導性フィラー5としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム及び窒化ホウ素等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なかでも、熱伝導率の比較的高い酸化マグネシウムまたは窒化アルミニウムを用いることが好ましく、特に熱伝導率の高い窒化アルミニウムを用いることがより好ましい。
【0034】
熱伝導性フィラー5の平均粒子径は10μm以上、15以上、特に20μm以上であることが好ましい。熱伝導性フィラー5の平均粒子径が小さすぎると、十分な放熱効果が得られにくくなる。一方、熱伝導性フィラー5の平均粒子径の上限は特に限定されないが、蛍光体層1の表面平滑性が要求される場合(例えば、蛍光体層1の両主面に透光性放熱層2を設ける場合)は、100μm以下、80μm以下、特に50μm以下であることが好ましい。
【0035】
なお、熱伝導性フィラー5の平均粒子径は蛍光体層1の厚みに応じて適宜選択することが好ましい。具体的には、熱伝導性フィラー5の平均粒子径は蛍光体層1の厚みの0.1倍以上、0.2倍以上、0.3倍以上、特に0.5倍以上であることが好ましい。熱伝導性フィラー5の平均粒子径が蛍光体層1の厚みに対して小さすぎると、放熱効果が十分に得られにくくなる。一方、蛍光体層1の厚みに対する熱伝導性フィラー5の平均粒子径の倍率の上限は特に限定されないが、蛍光体層1の表面平滑性が要求される場合は、熱伝導性フィラー5の平均粒子径は蛍光体層1の厚みの1倍以下、0.8倍以下、特に0.5倍以下であることが好ましい。なお、蛍光体層1の表面平滑性が特に要求されない場合は、熱伝導性フィラー5の平均粒子径は蛍光体層1の厚みの0.8〜1.2倍、さらには0.9〜1.1倍としても良い。そうすることにより、熱伝導性フィラー5と透光性放熱層2とが接触しやすくなるため、熱伝導性フィラー5による放熱効果をより一層高めることができる。
【0036】
蛍光体層1中における熱伝導性フィラー5の含有量は1〜15体積%、2〜13体積%、特に3〜10体積%であることが好ましい。熱伝導性フィラー5の含有量が少なすぎると、所望の放熱効果が得られにくくなる。一方、熱伝導性フィラー5の含有量が多すぎると、蛍光体層1内部の光散乱が過剰となり、蛍光強度が低下しやすくなる。
【0037】
蛍光体層1における無機バインダー6としては、ガラスやポリシラザン等が挙げられる。ガラスとしては、蛍光体粉末4の耐熱性を考慮し、軟化点が250℃〜1000℃、さらには300℃〜850℃であるものを用いることが好ましい。ガラスの具体例としては、ホウケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス等が挙げられる。
【0038】
蛍光体層1の厚みは、励起光が確実に蛍光体に吸収されるような厚みである範囲において、薄い方が好ましい。その理由としては、蛍光体層1が厚すぎると、蛍光体層1における光の散乱や吸収が大きくなりすぎ、蛍光の出射効率が低下する傾向があること、及び、蛍光体層1の温度が高くなって、経時的な発光強度の低下や構成材料の融解が発生しやすくなることが挙げられる。そのため、蛍光体層1の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。蛍光体層1の厚みの下限値は、通常、30μm程度である。
【0039】
透光性放熱層2は、無機バインダー6より高い熱伝導率を有している。具体的には、透光性放熱層2の熱伝導率は5W/m・K以上、10W/m・K以上、特に20W/m・K以上であることが好ましい。また、透光性放熱層2は、励起光、及び蛍光体層1から発せられる蛍光を透過させる。具体的には、透光性放熱層2の波長400〜800nmにおける全光線透過率は10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、特に50%以上であることが好ましい。
【0040】
透光性放熱層2としては、酸化アルミニウム系セラミックス(サファイア等)、酸化ジルコニア系セラミックス、窒化アルミニウム系セラミックス、炭化ケイ素系セラミックス、窒化ホウ素系セラミックス、酸化マグネシウム系セラミックス、酸化チタン系セラミックス、酸化ニオビウム系セラミックス、酸化亜鉛系セラミックス、酸化イットリウム系セラミックス等の透光性セラミック基板が挙げられる。
【0041】
透光性放熱層2の厚みは50〜1000μm、70〜800μm、特に100〜500μmであることが好ましい。透光性放熱層2の厚みが小さすぎると、機械的強度が低下する傾向がある。一方、透光性放熱層2の厚みが大きすぎると、発光装置が大型化する傾向がある。
【0042】
透光性放熱層2の励起光入射側表面に、励起光の反射損失低減や蛍光の前方取り出し向上を目的として、反射防止膜やバンドパスフィルターを設けてもよい。また、蛍光体層1の励起光及び蛍光の出射側表面に、励起光及び蛍光の反射損失低減を目的として反射防止膜を設けてもよい。
【0043】
波長変換部材10は、例えば以下のようにして作製することができる。
【0044】
ガラス粉末と、蛍光体と、バインダー樹脂や溶剤等の有機成分とを含むスラリーを、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルム上にドクターブレード法等により塗布し、加熱乾燥することにより、蛍光体層1用のグリーンシートを作製する。グリーンシートを焼成することにより蛍光体層1を得る。
【0045】
蛍光体層1の一方の主面に透光性放熱層2を積層し、加熱圧着することにより波長変換部材10が得られる。あるいは、ポリシラザン等の無機接着剤を介して蛍光体層1と透光性放熱層2を接合してもよい。
【0046】
(2)第2の実施形態に係る波長変換部材
図2は、本発明の第2の実施形態に係る波長変換部材を示す模式的断面図である。波長変換部材20では、蛍光体層1の両主面に透光性放熱層2、2’が各々形成されている点で、第1の実施形態に係る波長変換部材10と異なる。本実施形態によれば、蛍光体層1で発生した熱を両主面から透光性放熱層2、2’を通じて外部に放出できるため、放熱効率をより一層向上させることができる。具体的には、図2に示すように、波長変換部材20においては、一部の熱伝導性フィラー5が、透光性放熱層2、2’の両方に接触している。あるいは、複数の熱伝導性フィラー5が互いに接触し、かつ、蛍光体層1の両主面近傍に位置している熱伝導性フィラー5が各々透光性放熱層2、2’に接触している。これにより、蛍光体粉末4から熱伝導性フィラー5を経由して、透光性放熱層2、2’の両方に放熱する熱伝導経路Pを形成することができる。
【0047】
なお、透光性放熱層2、2’の厚みは同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、一方の透光性放熱層2の厚みを比較的大きく(例えば0.2mm以上、さらには0.5mm以上)することにより、波長変換部材としての機械的強度が担保される場合は、他方の透光性放熱層2の厚みを比較的小さく(例えば0.2mm未満、さらには0.1mm以下)してもよい。また、透光性放熱層2、2’の材質は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0048】
本実施形態の波長変換部材20は、1つの蛍光体層の両主面に透光性放熱層が積層されてなる積層体から構成されているが、2つ以上の蛍光体層と3つ以上の透光性放熱層とが交互に積層されてなる積層体から構成されていても構わない。その場合は、蛍光体層の温度上昇を抑制しつつ、波長変換部材の発光強度をさらに向上させることが可能となる。
【0049】
(3)第1の実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置
図3は、本発明の第1の実施形態に係る波長変換部材を用いた発光装置の模式的側面図である。本実施形態に係る発光装置は、透過型の波長変換部材を用いた発光装置である。図3に示すように、発光装置30は、波長変換部材10と光源7を備えている。光源7から出射された励起光L0は、波長変換部材10における蛍光体層1により、励起光L0よりも波長の長い蛍光L1に波長変換される。また、励起光L0の一部は、波長変換部材10を透過する。このため、波長変換部材10からは、励起光L0と蛍光L1との合成光L2が出射する。例えば、励起光L0が青色光であり、蛍光L1が黄色光である場合、白色の合成光L2を得ることができる。
【0050】
発光装置30においては、上述の波長変換部材10を用いているため、蛍光体層1に励起光L0が照射されることにより発生した熱を、効率良く外部に放出することができる。よって、蛍光体層1の温度が不当に上昇することを抑制できる。なお、第1の実施形態に係る波長変換部材10に代えて、第2の実施形態に係る波長変換部材20を用いてもよい。
【0051】
光源7としては、LEDやLDが挙げられる。発光装置30の発光強度を高める観点からは、光源7は高強度の光を出射できるLDを用いることが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の波長変換部材を実施例を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
表1は本発明の実施例(No.1〜4)及び比較例(No.5、6)を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
ガラス粉末(日本電気硝子株式会社製ホウケイ酸塩系ガラス粉末GA−13(熱伝導率:0.94W/m・K))、蛍光体粉末(YAG蛍光体、平均粒子径15μm)、熱伝導性フィラー(MgO(熱伝導率:約42W/m・K、平均粒子径:10μm、50μm)またはAlN(熱伝導率:約200W/m・K、平均粒子径:50μm、80μm))を混合し、φ20mmの金型を用いて圧粉体を作製した。混合粉末中の蛍光体粉末の含有量は28.9体積%、熱伝導性フィラーの含有量は表1に示す通りとした。
【0056】
圧粉体を真空下850℃で焼成した後、切削加工を施すことにより、厚み50μmの蛍光体層を得た。蛍光体層を、透光性放熱層である厚み100μmのサファイア基板(熱伝導率:41W/m・K)上に熱圧着して積層させることにより波長変換部材を得た。
【0057】
蛍光体層の熱伝導率はレーザーフラッシュ法により測定した。また、得られた波長変換部材のサファイア基板側からLDの励起光(波長445nm、出力3W)を60秒間照射し、励起光照射位置における蛍光体層とサファイア基板の界面付近におけるガラスマトリクスの状態を観察した。なお、No.6に試料については、サファイア基板を積層させず、蛍光体層のみに励起光を照射した。ガラスマトリクスに変化がない場合を「○」、ガラスマトリクスが融解した場合を「×」として評価した。結果を表1に示す。
【0058】
表1から明らかなように、蛍光体層中に熱伝導性フィラーを配合した試料No.1〜4では、蛍光体層の熱伝導率が2.15W/m・K以上と高く、LD照射試験においてもガラスマトリクスの融解は見られなかった。一方、蛍光体層中に熱伝導性フィラーを配合しなかった試料No.5、では、蛍光体層の熱伝導率が2.08W/m・Kと低く、LD照射試験においてガラスマトリクスが融解した。また、サファイア基板を積層させなかった試料No.6についても、LD照射試験においてガラスマトリクスが融解した。このように、試料No.1〜4は、試料No.5、6と比較して、蛍光体層で発生した熱をサファイア基板側に効率良く放出できるため、温度消光が抑制されると考えられる。
【0059】
なお、試料No.1〜4の比較から、熱伝導性フィラーの平均粒子径が大きいほど、蛍光体層の熱伝導率が高く、放熱効果が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の波長変換部材は、白色LED等の一般照明や特殊照明(例えば、プロジェクター光源、自動車のヘッドランプ光源、内視鏡の光源)等の構成部材として好適である。
【符号の説明】
【0061】
1 蛍光体層
2、2’ 透光性放熱層
3 積層体
4 蛍光体粉末
5 熱伝導性フィラー
6 無機バインダー
7 光源
10、20 波長変換部材
30 発光装置
図1
図2
図3