【解決手段】デュアルタイプの波動歯車装置の外歯歯車4は、歯数が異なる第1、第2外歯7、8を備え、波動発生器によって楕円状に撓められる。楕円状に撓められる第1、第2外歯7、8の長軸位置における半径方向撓み量の理論値d
【背景技術】
【0002】
円筒状の外歯歯車を備えた波動歯車装置は、一般に、回転しないように固定される静止側内歯歯車と、回転入力要素である波動発生器と、減速回転出力要素である駆動側内歯歯車と、静止側内歯歯車および駆動側内歯歯車にかみ合い可能で半径方向に撓み可能な円筒状の外歯歯車とを備えている。典型的な波動歯車装置では、外歯歯車は楕円状に撓められて静止側および駆動側の内歯歯車に対して楕円形状の長軸両端の位置でかみ合っている。
【0003】
特許文献1には、静止側内歯歯車の歯数が外歯歯車より2枚多く、駆動側内歯歯車の歯数が外歯歯車と同一の一般的な波動歯車装置が記載されている。外歯歯車の外歯は、その歯筋方向の中央部分で二分され、一方の外歯部分が静止側内歯歯車にかみ合い可能であり、他方の外歯部分が駆動側内歯歯車にかみ合い可能である。波動発生器が回転すると、外歯歯車が、静止側内歯歯車との歯数差に応じた速比で減速回転する。外歯歯車と一体回転する駆動側内歯歯車から、外歯歯車の減速回転が出力される。
【0004】
特許文献2には、静止側内歯歯車の歯数が外歯歯車よりも2枚多く、駆動側内歯歯車の歯数が外歯歯車よりも2枚少ない波動歯車装置が記載されている。この波動歯車装置では、波動発生器が回転すると、外歯歯車が、静止側内歯歯車との歯数差に応じた速比で減速回転する。外歯歯車の回転は、当該外歯歯車と駆動側内歯歯車との間の歯数差に応じた速比で増速されて、駆動側内歯歯車から出力される。駆動側内歯歯車から出力される回転は、波動発生器への入力回転に対して、速比50よりも小さな速比で減速された減速回転になる。
【0005】
一方、特許文献3、4には、2列のボールベアリングを備えた波動発生器を有する波動歯車装置が記載されている。この形式の波動発生器は、楕円状輪郭の外周面を備えた剛性プラグと、この外周面に装着した2列のボールベアリングとから構成される。楕円状に撓められている各ボールベアリングの外輪の外周面の長軸両端の部分によって、可撓性外歯歯車が半径方向の外方に押されて、第1、第2剛性内歯歯車に対するかみ合いが保持される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、外歯歯車として、半径方向に撓み可能な円筒体の外周面に、一方の内歯歯車にかみ合い可能な第1外歯と、他方の内歯歯車にかみ合い可能で第1外歯とは歯数の異なる第2外歯とが形成されたものを用いることが考えられる。このようにすれば、特許文献2に記載されている波動歯車装置と同様に、速比が50未満の波動歯車装置を実現可能である。また、特許文献2に記載の波動歯車装置に比べて、50未満の速比を備えた波動歯車
装置を、より高い自由度で設計可能になる。
【0008】
本明細書においては、撓み可能な円筒体の外周面に、歯数が異なる第1、第2外歯が形成されている外歯歯車を備えた波動歯車装置を、「デュアルタイプの波動歯車装置」と呼ぶものとする。
【0009】
デュアルタイプの波動歯車装置においては、外歯歯車の第1外歯および第2外歯が共通の円筒体の外周面に形成されており、それらの歯底リム部は相互に繋がっている。円筒体が波動発生器によって楕円状に撓められると、歯数の異なる第1、第2外歯は、それぞれ別の内歯歯車にかみ合う。
【0010】
ここで、各外歯の撓み量の設定は、それらの外歯のかみ合い状態、耐摩耗性、および歯底疲労強度に大きく影響を与える。また、各外歯の撓み状態は、第1、第2外歯を支持する波動発生器の各ウエーブベアリングのボール荷重分布に大きく影響を与え、これらのウエーブベアリングの寿命にも影響を与える。
【0011】
第1、第2外歯が独立した歯車の場合には、各歯車を、別個の波動発生器によって、各歯車に適した撓み量となるように楕円状に撓めることができる。これにより、第1、第2外歯をそれぞれ適切なかみ合い状態で対応する内歯にかみ合わせることができる。
【0012】
しかしながら、デュアルタイプの波動歯車装置の場合には、共通の円筒体の外周面に第1、第2外歯が形成されているので、第1、第2外歯をそれらの歯数に応じて異なる撓み量で独立して撓めることができない。また、一方の外歯に適した撓み量で円筒体を撓めると、他方の外歯のかみ合い状態を適切な状態に維持できないことがある。さらに、第1、第2外歯のそれぞれの撓み状態が他方の撓み状態に影響を及ぼすので、双方の撓み状態の相互作用を考慮しないと、各外歯を適切なかみ合い状態となるように撓めることができない。
【0013】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、歯数の異なる第1、第2外歯を適切に撓めて各内歯歯車との間で良好なかみ合い状態を形成可能なデュアルタイプの波動歯車装置を提供することにある。
【0014】
また、本発明の課題は、歯数の異なる第1、第2外歯を適切に撓めることにより、これらを支持する波動発生器のウエーブベアリングのベアリングボール荷重分布の均一化を図ったデュアルタイプの波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明のデュアルタイプの波動歯車装置は、
第1内歯が形成されている剛性の第1内歯歯車と、
前記第1内歯歯車に同軸に並列配置され、第2内歯が形成されている剛性の第2内歯歯車と、
前記第1、第2内歯歯車の内側に同軸に配置され、半径方向に撓み可能な円筒体の外周面に、前記第1内歯にかみ合い可能な第1外歯および前記第2内歯にかみ合い可能で前記第1外歯とは歯数が異なる第2外歯が形成されている可撓性の外歯歯車と、
前記外歯歯車を楕円状に撓めて、前記第1外歯を前記第1内歯に部分的にかみ合わせ、前記第2外歯を前記第2内歯に部分的にかみ合わせる波動発生器と、
を有しており、
前記第1外歯のモジュールをm
1、前記第2外歯のモジュールをm
2とし、
n
1、n
2を正の整数として、前記第1外歯と前記第1内歯の歯数差を2n
1、前記第2外歯と前記第2内歯の歯数差を2n
2と表し、
楕円状に撓められる前記第1外歯の長軸位置における半径方向撓み量の理論値d
1および前記第2外歯の半径方向撓み量の理論値d
2を、それぞれ、
d
1=m
1n
1
d
2=m
2n
2
と表すものとすると、
前記波動発生器によって撓められる前記第1外歯の半径方向撓み量をd
1a、第2外歯の半径方向撓み量をd
2a、ωを1よりも大きな値の係数とすると、これらの半径方向撓み量d
1a、d
2aは、
d
1a=ωd
1
d
2a=ωd
2
であることを特徴としている。
【0016】
すなわち、第1、第2外歯の半径方向撓み量d
1、d
2の双方が、それらの理論値d
1、d
2よりも大きくなるように設定される。具体的には、このような撓み量で第1、第2外歯が撓められるように、波動発生器の輪郭形状が設定される。
【0017】
ここで、係数ωの値は次の範囲内とすることが望ましい。
1.25 ≦ ω ≦ 3
【0018】
外歯歯車を楕円状に撓める前の真円の状態において、その円筒体(歯底リム)の厚みの中央を通る円をリム中立円とする。このリム中立円は、外歯歯車を楕円状に撓めることによって楕円状に変形する。これを楕円状リム中立曲線と呼ぶものとする。外歯歯車の半径方向撓み量は、楕円状リム中立曲線における長軸の半径とリム中立円の半径との差であり、外歯歯車のモジュールをm、2n(n:正の整数)を内歯歯車との歯数差、ωを撓み係数として、ωmnと表される。ω=1の場合の半径方向撓み量mnは、外歯歯車のピッチ円直径を、剛性内歯車を固定した場合の減速比で除した値であり、これが半径方向撓み量の理論値(標準撓み量)である。
【0019】
同一の円筒体の外周面に形成されている歯数の異なる第1、第2外歯の場合には、双方のピッチ円直径がほぼ同一である。よって、半径方向撓み量の理論値mnは歯数の多い方が小さくなる。
【0020】
本発明では、歯数の異なる第1、第2外歯の半径方向撓み量を双方共に、上記のように、理論値よりも大きな値(ω>1)に設定してある。このように第1、第2外歯の撓み量を理論値よりも大きな値に設定すると、双方の外歯を共に良好なかみ合い状態で内歯のそれぞれにかみ合わせることができ、第1、第2外歯の耐摩耗性および歯底疲労強度を高めることが可能である。特に、上記ようにωの値を設定することで、第1、第2外歯の良好なかみ合い状態を形成でき、それらの耐摩耗性および歯底疲労強度を高めることができる。
【0021】
また、波動発生器が、第1、第2外歯をそれぞれ支持している2列のウエーブベアリングを備えている場合には、各ウエーブベアリングのベアリングボール荷重分布の均一化を図ることができる。これにより、ウエーブベアリングの寿命を向上させることができる。
【0022】
次に、本発明のデュアルタイプの波動歯車装置において、第1内歯の歯数をZc1、第2内歯の歯数をZc2、第1外歯の歯数をZf1、第2外歯の歯数をZf2とすると、第1内歯歯車と第1外歯を備えた外歯歯車との間の速比R1、第2内歯歯車と第2外歯を備えた外歯歯車との間の速比R2、および、波動歯車装置の速比Rは、それぞれ次のように表される。
R1=1/{(Zf1−Zc1)/Zf1}
R2=1/{(Zf2−Zc2)/Zf2}
R=(R1・R2−R1)/(−R1+R2)
【0023】
したがって、50未満、例えば、30よりも大幅に低い速比を得ることが可能である。また、従来とは異なり、外歯歯車の外歯として、歯数、モジュールの異なる第1外歯および第2外歯が形成されている。よって、速比設定のための設計の自由度が高く、低い速比の波動歯車装置を従来に比べて、容易に実現できる。
【0024】
本発明のデュアルタイプの波動歯車装置では、一般に、第1外歯の歯数Zf1は第1内歯の歯数Zc1とは異なり、第2外歯の歯数Zf2は第2内歯の歯数Zc2とは異なる。例えば、第1外歯の歯数Zf1を第1内歯の歯数Zc1よりも少なくし、第1内歯の歯数Zc1と第2内歯の歯数Zc2を同一とすることができる。
【0025】
また、波動発生器が回転入力要素とされ、第1内歯歯車および第2内歯歯車のうち、一方が回転しないように固定された静止側内歯歯車とされ、他方が減速回転出力要素である駆動側内歯歯車とされる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照して、本発明を適用したデュアルタイプの波動歯車装置の実施の形態を説明する。
【0028】
図1(a)は本発明の実施の形態に係るデュアルタイプの波動歯車装置(以下、単に「波動歯車装置」と呼ぶ。)を示す端面図であり、
図1(b)は
図1(a)のb−b線で切断した部分を示す縦断面図である。また、
図2は
図1の波動歯車装置の模式図である。波動歯車装置1は、例えば減速機として用いられ、円環状の剛性の第1内歯歯車2と、円環状の剛性の第2内歯歯車3と、半径方向に撓み可能な薄肉弾性体からなる円筒形状の可撓性の外歯歯車4と、楕円状輪郭の波動発生器5とを備えている。
【0029】
第1、第2内歯歯車2、3は、中心軸線1aの方向に、所定の隙間を開けて、同軸に並列配置されている。本例では、第1内歯歯車2は回転しないように固定された静止側内歯歯車であり、その第1内歯2aの歯数はZc1である。第2内歯歯車3は回転自在の状態に支持された駆動側内歯歯車であり、その第2内歯3aの歯数はZc2である。第2内歯歯車3は波動歯車装置1の減速回転出力要素である。
【0030】
円筒形状の外歯歯車4は、第1、第2内歯歯車2、3の内側に同軸に配置されている。外歯歯車4は、半径方向に撓み可能な薄肉弾性体である円筒体6と、この円筒体6の円形外周面に形成した第1外歯7および第2外歯8と、これらの間に形成したカッター逃げ部として機能する隙間9(
図3参照)とを備えている。第1外歯7は、円筒体6の円形外周面において、中心軸線1aの方向における一方の側に形成され、第2外歯8は他方の第2内歯3aの側に形成されている。これら第1、第2外歯7、8は、中心軸線1aの方向が歯筋方向となるように形成されている。
【0031】
すなわち、第1外歯7は第1内歯2aに対峙する側に形成され、その歯数はZf1であ
り、第1内歯2aにかみ合い可能である。第2外歯8は第2内歯3aに対峙する側に形成され、その歯数はZf2であり、第2内歯3aにかみ合い可能である。これらの歯数Zf1、Zf2は異なる。
【0032】
波動発生器5は、楕円状輪郭の剛性プラグ11と、この剛性プラグ11の楕円状外周面に装着した第1ウエーブベアリング12および第2ウエーブベアリング13とを備えている。第1、第2ウエーブベアリング12、13はボールベアリングから形成されている。
【0033】
波動発生器5は外歯歯車4の円筒体6の内周面に嵌め込まれ、円筒体6を楕円状に撓めている。したがって、第1、第2外歯7、8も楕円状に撓められている。楕円状に撓められた外歯歯車4は、その楕円形状の長軸Lmaxの両端位置において、第1、第2内歯歯車2、3にかみ合っている。すなわち、第1外歯7が楕円形状の長軸の両端位置において第1内歯2aにかみ合っており、第2外歯8が長軸の両端位置において第2内歯3aにかみ合っている。
【0034】
波動発生器5は波動歯車装置1の入力回転要素である。波動発生器5の剛性プラグ11は軸穴11cを備えており、ここに、入力回転軸10(
図2参照)が同軸に連結固定される。例えば、モーター出力軸が連結固定される。波動発生器5が回転すると、外歯歯車4の第1外歯7と静止側の第1内歯2aのかみ合い位置、および、外歯歯車4の第2外歯8と駆動側の第2内歯3aのかみ合い位置が円周方向に移動する。
【0035】
第1外歯7の歯数Zf1と第2外歯8の歯数Zf2とは異なり、本例では第2外歯Zf2の歯数の方が多い。また、第1内歯2aの歯数Zc1は第1外歯7の歯数Zf1とは異なり、本例では、第1内歯2aの歯数Zc1の方が多い。第2内歯3aの歯数Zc2と第2外歯8の歯数Zf2とは異なり、本例では、第2内歯3aの歯数Zc2の方が少ない。
【0036】
本例では、外歯歯車4が楕円状に撓められて円周方向の2か所で内歯歯車2、3にかみ合う。したがって、第1外歯7の歯数Zf1と第2外歯8の歯数Zf2との差は、n
0を正の整数とすると、2n
0枚である。同様に、第1内歯2aの歯数Zc1と第1外歯7の歯数Zf1との差は、n
1を正の整数とすると、2n
1枚である。第2内歯3aの歯数Zc2と第2外歯8の歯数Zf2との差は、n
2を正の整数とすると、2n
2枚である。
Zf1=Zf2+2n
0
Zc1=Zf1+2n
1
Zc2=Zf2−2n
2
【0037】
具体例として、各歯数は次のように設定される(n
0=n
1=n
2=1)。
Zc1=62
Zf1=60
Zc2=62
Zf2=64
【0038】
第1内歯歯車2と第1外歯7の間の速比R1、第2内歯歯車3と第2外歯8の間の速比R2は、それぞれ次のようになる。
i1=1/R1=(Zf1−Zc1)/Zf1=(60−62)/60=−1/30
i2=1/R2=(Zf2−Zc2)/Zf2=(64−62)/64=1/32
したがって、R1=−30、R2=32が得られる。
【0039】
波動歯車装置1の速比Rは、速比R1、R2を用いて、次式で表される。よって、本発明によれば、大幅に小さな速比(低減速比)の波動歯車装置を実現できる。(なお、速比のマイナス符号は、出力回転の方向が入力回転の方向とは逆方向であることを示す。)
R=(R1・R2−R1)/(−R1+R2)
=(−30×32+30)/(30+32)
=−930/62
=−15
【0040】
(隙間:カッター逃げ部)
図3は波動歯車装置1の部分拡大断面図であり、外歯歯車4および波動発生器5の第1、第2ウエーブベアリング12、13を示す。第1、第2外歯7、8の間に形成されている隙間9は、第1、第2外歯7、8を歯切するために用いる歯切り用カッターのカッター逃げ部として機能する。
【0041】
まず、第1、第2外歯7、8について説明する。本例の第1、第2内歯2a、3aの歯幅が実質的に同一である。したがって、円筒体6における歯筋方向の中央位置6aを中心として、対称な状態で同一歯幅の第1外歯7および第2外歯8が形成されている。第1内歯2a、第2内歯3aの歯幅が相互に異なる場合には、これに対応させて、第1外歯7、第2外歯8も異なる歯幅とされる。
【0042】
隙間9は、歯筋方向に所定の幅を有し、歯筋方向の中央部分において歯丈方向に最深となる最深部を有している。本例では、歯厚方向から見た場合に、歯筋方向の中央部分が歯筋方向に平行に延びる直線によって規定される最深部9aとなっている。最深部9aにおける歯筋方向の両端には、第1外歯7の歯筋方向の内側端面7aを規定する凹円弧曲線および第2外歯8の歯筋方向の内側端面8aを規定する凹円弧曲線が滑らかに繋がっている。最深部9aを凹曲面によって規定し、両側の内側端面7a、8aを傾斜直線によって規定することもできる。また、最深部9aを直線によって規定し、両側の内側端面7a、8aを傾斜直線によって規定することもできる。
【0043】
本例の隙間9の歯筋方向の幅は、最深部9aから歯丈方向に向けて漸増している。その歯筋方向における最大幅L1は、第1外歯7の歯先円の歯筋方向の内側端7bから、第2外歯8の歯先円の歯筋方向の内側端8bまでの歯筋方向の距離である。
【0044】
ここで、第1外歯7の歯筋方向の外端7cから第2外歯8の歯筋方向の外端8cまでの幅をL、隙間9の歯筋方向における最大幅をL1とすると、
0.1L < L1 < 0.3L
に設定されている。
【0045】
また、隙間9の最深部9aの深さは次のように設定されている。第1外歯7の歯丈をh1、第2外歯8の歯丈をh2、第1外歯7の歯先面7dから最深部9aまでの歯丈方向の深さをt1、第2外歯8の歯先面8dから最深部9aまでの歯丈方向の深さをt2とすると、
0.9h1 < t1 < 1.3h1
0.9h2 < t2 < 1.3h2
に設定されている。
【0046】
デュアルタイプの波動歯車装置1の外歯歯車4においては、第1、第2外歯7、8の歯切りを行うために用いる歯切り用カッターも異なる。したがって、外歯歯車4の歯筋方向の中央部分、すなわち、第1外歯7と第2外歯8の間に、カッター逃げ部として機能する隙間9が形成されている。
【0047】
この隙間9をどのように形成するのかによって、歯筋方向における第1内歯2aに対する第1外歯7の歯当り、および歯面荷重分布が大きく影響を受ける。同様に、歯筋方向に
おける第2内歯3aに対する第2外歯8の歯当り、および歯面荷重分布が大きく影響を受ける。
【0048】
この点に着目して、上記のように、隙間9の最大幅L1を外歯歯車4の幅Lの0.1倍から0.3倍までの範囲内に設定し、その最大深さt1、t2を、第1、第2外歯7、8の歯丈h1、h2の0.9倍から1.3倍までの範囲内に設定している。このように隙間9を形成することで、第1、第2外歯7、8の歯筋方向の歯面荷重分布を均一化でき、第1、第2内歯2a、3aに対する第1、第2外歯7、8の歯筋方向の各位置で歯当りも良好な状態に維持できることが確認された。
【0049】
したがって、速比が30以下の波動歯車装置を容易に実現できると共に、外歯歯車の歯底疲労強度が高く、負荷容量の大きな波動歯車装置を実現できる。
【0050】
(ベアリングボール中心間距離)
次に、
図3を参照して第1、第2ウエーブベアリング12、13のベアリングボール中心間距離について説明する。
【0051】
波動発生器5の剛性プラグ11は、その中心軸線の方向の一方の側に、一定幅の楕円形輪郭の第1外周面11aが形成され、他方の側に、一定幅の楕円状輪郭の第2外周面11bが形成されている。第1外周面11aと第2外周面11bとは、同一形状で同一位相の楕円形状の外周面である。
【0052】
第1外周面11aには、楕円状に撓められた状態で第1ウエーブベアリング12が装着されており、第2外周面11bには、楕円状に撓められた状態で第2ウエーブベアリング13が装着されている。第1、第2ウエーブベアリング12、13は同一サイズのベアリングである。
【0053】
第1ウエーブベアリング12および第2ウエーブベアリング13のベアリングボール中心12a、13aは、外歯歯車4の歯幅方向の中央位置6aから、歯幅方向に等距離の位置にある。また、ベアリングボール中心間距離は、隙間9の最大幅L1の増加に伴って増加するように設定される。さらに、ベアリングボール中心間距離をLoとすると、当該ボール中心間距離Loは次式で示す範囲内の値となるように設定されている。
0.35L < Lo < 0.7L
【0054】
従来においては、外歯歯車の支持面積を広くするために、2列のボールベアリングを備えた波動発生器が使用されている。ボール中心間距離については何ら考慮されておらず、2列のボールベアリングは外歯歯車の歯幅方向の中央部分に寄せて配置されている。
【0055】
本例では、歯数の異なる第1、第2外歯7、8の支持剛性を高め、各外歯7、8の歯筋方向の各位置において内歯2a、3aに対する歯当りを改善できるように、2列のウエーブベアリング12、13のボール中心間距離Loを広げてある。すなわち、上記のように、第1、第2外歯7、8の間に形成されるカッター逃げ部として機能する隙間9の歯筋方向の最大幅L1の増加に伴って、ボール中心間距離Loを広げる(増加させる)ようにしている。また、ボール中心間距離Loの増減の範囲を外歯歯車4の幅Lに対して0.35倍から0.7倍までの範囲としてある。
【0056】
これにより、形成される隙間9の幅に応じて、第1、第2外歯7、8のそれぞれに対して、歯筋方向における適切な位置にボール中心が位置するように、第1、第2ウエーブベアリング12、13を配置できる。これにより、第1、第2外歯7、8のそれぞれの歯幅方向の各位置において、第1、第2外歯7、8を第1、第2ウエーブベアリング12、1
3によって確実に支持できる(波動発生器5の支持剛性を高めることができる。)。
【0057】
この結果、第1、第2外歯7、8の歯幅方向の各位置における歯当りを改善でき、これらの歯底疲労強度を高めることができる。また、波動発生器5の各ウエーブベアリング12、13におけるベアリングボール荷重分布を平均化でき、その最大荷重を低減できるので、波動発生器5の寿命を改善できる。
【0058】
(外歯歯車の撓み量)
本例の外歯歯車4の第1、第2外歯7、8は、上記構成の2列のウエーブベアリング12、13を備えた波動発生器5によって、異なる撓み量で楕円形状に撓められる。第1外歯7のモジュールをm
1、第2外歯8のモジュールをm
2とする。先に述べたように、第1外歯7と第1内歯2aの歯数差は2n
1であり、第2外歯8と第2内歯3aの歯数差は2n
2である。
【0059】
楕円状に撓められる第1外歯7の長軸位置Lmaxにおける半径方向撓み量の理論値d
1および前記第2外歯8の半径方向撓み量の理論値d
2を、それぞれ、
d
1=m
1n
1
d
2=m
2n
2
と表すことができる。
【0060】
本例では、波動発生器5によって撓められる第1外歯7の半径方向撓み量d
1aをその理論値d
1よりも大きな値にしてある。同様に、第2外歯8の半径方向撓み量d
2も、その理論値d
2よりも大きな値にしてある。特に、本例では、半径方向撓み量d
1a、d
2aを、次の範囲内に設定している。
d
1a=ωd
1
d
2a=ωd
2
1.25 ≦ ω ≦ 3
【0061】
図4は外歯歯車4の撓み状態を誇張して示す説明図である。この
図4を参照して説明すると、外歯歯車4を楕円状に撓める前の真円の状態において、その円筒体(歯底リム)6の厚みの中央を通る円をリム中立円Cとする。このリム中立円Cは、外歯歯車4を楕円状に撓めることによって楕円状に変形する。これを楕円状リム中立曲線と呼ぶものとする。外歯歯車4の半径方向撓み量は、楕円状リム中立曲線における長軸Lmaxの半径とリム中立円Cの半径との差である。
【0062】
本例では、第1外歯7の側の半径方向撓み量が第2外歯8の側の半径方向撓み量よりも多い。したがって、
図4において誇張して示すように、長軸Lmaxを含む断面においては、外歯歯車4は、その歯筋方向に沿って、第2外歯8の外端8cから第1外歯7の外端7cに向けて、外端8cからの距離に略比例して撓み量が増加する。上記の半径方向撓み量d1aおよびd2aは、それぞれ第1、第2外歯7、8の平均撓み量である。それらの歯筋方向の中央位置における撓み量(楕円状リム中立曲線C1、C2とリム中立円Cとの差)に略等しい。
【0063】
歯数の異なる第1、第2外歯7、8を、上記のように理論値よりも大きな値に設定することにより、双方の外歯7、8を共に良好なかみ合い状態で、各内歯歯車にかみ合わせることができ、第1、第2外歯7、8の耐摩耗性および歯底疲労強度が改善されることが確認された。また、第1、第2外歯7、8のそれぞれを支持している2列のウエーブベアリング12、13のベアリングボール荷重分布を均一化でき、ウエーブベアリング12、13の寿命を向上できることが確認された。
【0064】
(その他の実施の形態)
なお、上記の例では、第1内歯歯車2を静止側内歯歯車、第2内歯歯車3を駆動側内歯歯車としている。逆に、第1内歯歯車2を駆動側内歯歯車、第2内歯歯車3を静止側内歯歯車とすることもできる。