【解決手段】立上り期間中は上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中はピーク電流を通電し、立下り期間中は下降遷移電流を通電し、ベース期間中はベース電流を通電する。ベース期間中の溶接電圧の上昇によって、溶接線上の磁気吹き発生区間を判別して記憶するテスト溶接を行い、実施工時に、溶接線上の記憶された磁気吹き発生区間を溶接するときは、下降遷移電流Iksの下降速度を遅くすることによって立下り期間Tksを長くする。これにより、アークの硬直性が弱くなるベース期間Tbに入る時点でのアーク長を短い状態にすることができるので、磁気吹きが発生してもアークが大きく偏向することを抑制することができ、アーク切れの発生を防止することができる。
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返して溶接するパルスアーク溶接制御方法において、
前記ベース期間中の溶接電圧の上昇によって、溶接線上の磁気吹き発生区間を判別して記憶するテスト溶接を行い、
実施工時に、溶接線上の前記記憶された磁気吹き発生区間を溶接するときは、前記立下り期間を長くする、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
前記下降遷移電流が予め定めた基準電流値に達したときはその値を所定期間維持することによって、前記立下り期間を長くし、前記基準電流値を前記ピーク電流の値よりも小さく前記ベース電流の値よりも大きな値に設定する、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接制御方法。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式パルスアーク溶接は、鉄鋼等の溶接に広く使用されている。このパルスアーク溶接では、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中はピーク電流を通電し、立下り期間中はピーク電流からベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中はベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返して溶接が行われる。パルスアーク溶接では、1パルス周期1溶滴移行状態となるので、溶滴移行状態が安定しているために、スパッタの発生が少なく、美しいビード外観を得ることができる。以下、このパルスアーク溶接について図面を参照して説明する。
【0003】
図7は、パルスアーク溶接における一般的な電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
時刻t1〜t2の立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する上昇遷移電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加する。時刻t2〜t3のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤから溶滴を移行させるために臨界値以上の大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。直径1.2mmの鉄鋼ワイヤの臨界値は、280A程度である。
【0005】
時刻t3〜t4の立下り期間Tk中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流Ikが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する下降遷移電圧が印加する。時刻t4〜t5のベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために臨界値未満の小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したベース電圧Vbが印加する。時刻t1〜t5までの期間を1パルス周期Tfとして繰り返して溶接が行われる。アーク長は、ピーク期間Tp中は長くなり、ベース期間Tb中は短くなる。
【0006】
ところで、良好なパルスアーク溶接を行うためには、平均アーク長を適正値に維持することが重要である。平均アーク長を適正値に維持するために以下のようなアーク長制御(溶接電源の出力制御)が行われる。平均アーク長は、同図(B)で破線で示す溶接電圧平均値Vavと略比例関係にある。このために、溶接電圧平均値Vavを検出し、この検出値が適正な平均アーク長に相当する溶接電圧設定値と等しくなるように同図(A)の破線で示す溶接電流平均値Iavを変化させる出力制御を行う。溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値よりも大きいときは平均アーク長が適正値よりも長いときであるので、溶接電流平均値Iavを小さくしてワイヤ溶融速度を小さくし平均アーク長が短くなるようにする。他方、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値よりも小さいときは平均アーク長が適正値よりも短いときであるので、溶接電流平均値Iavを大きくしてワイヤ溶融速度を大きくし平均アーク長が長くなるようにする。上記の溶接電圧平均値Vavとしては、一般的に溶接電圧Vwをローパスフィルタを通した値(平均値、平滑値)が使用される。また、溶接電流平均値Iavを変化させる手段として、パルス周期Tfを変化させる周波数変調制御が行われている。周波数変調制御では、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値と等しくなるようにパルス周期Tfをフィードバック制御(アーク長制御)している。このときに、立上り期間Tu、ピーク期間Tp、立下り期間Tk、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、ベース期間Tbがフィードバック制御されることでパルス周期Tfが可変される。ピーク期間Tpとピーク電流Ipとの組合せはユニットパルス条件と呼ばれており、1パルス周期1溶滴移行状態になるように設定される。
【0007】
他のアーク長制御の方式としては、パルス幅変調制御がある。パルス幅変調制御では、ピーク期間(パルス幅)Tpがフィードバック制御される。このときは、立上り期間Tu、立下り期間Tk、パルス周期Tf、ピーク電流Ip及びベース電流Ibが所定値に設定され、ピーク期間Tpが可変される。
【0008】
パルスアーク溶接を含む消耗電極式アーク溶接においては、アーク及び母材を通電する溶接電流によってアーク周辺部に磁界が形成されて、この磁界からアークは力を受けて偏向する場合がある。このような状態を、一般的に磁気吹き又はアークブローと呼んでいる。磁気吹きが発生するかは、母材に通電する溶接電流によって形成される磁界の形態によって決まる。溶接している部分が母材の端部から離れているときには、磁界は対称形状に形成されることが多いために、アークは磁界から偏った力を受けることがないので、磁気吹きは発生しにくい。他方、溶接している部分が母材の端部に近いときは、磁界は非対称形状に形成されるために、アークは磁界から偏った力を受けることになり、磁気吹きが発生しやすくなる。したがって、母材の端部の近くとなることが多い溶接開始部分及び溶接終了部分では、磁気吹きが発生しやすい。消耗電極アークの中でも、短絡移行溶接では磁気吹きは発生しにくく、パルスアーク溶接では発生しやすい。これは、短絡移行溶接では、アーク長がパルスアーク溶接に比べて短いために、磁界からの影響を受けにくいためである。他方、パルスアーク溶接では、大電流値のピーク電流Ipが通電しているときは強い磁界が形成され、小電流値のベース電流Ibが通電しているときは弱い磁界が形成されている。パルスアーク溶接では、この磁界の強さの変化が大きいこと、かつ、ベース電流Ibが小さいので磁界から偏った力を受けると直ぐにアークが偏向すること、が原因となって磁気吹きが発生しやすい。したがって、パルスアーク溶接では、磁気吹きによるアークの偏向は、ベース期間Tb中に発生しやすい。
【0009】
図8は、磁気吹きが発生したときのアーク状態を示す図である。同図(A)に示すように、溶接ワイヤ1と母材2との間に通常のアーク3が発生している。この状態で磁気吹きが発生すると、同図(B)に示すように、アーク3は磁界からの力によって大きく偏向し、アーク長が長くなる。さらに偏向が大きくなると、同図(C)に示すように、アークを維持することができなくなりアーク切れが発生する。パルスアーク溶接では、ピーク期間中は大電流が通電するのでアークの硬直性が強く、磁界からの力が作用してもアークはほとんど偏向しない。他方、ベース期間中は小電流が通電するのでアークの硬直性が弱く、磁界からの力によって大きく偏向する。したがって、磁気吹きが発生してアーク切れが生じるのは、ほとんどベース期間中である。アーク切れが発生しない程度の磁気吹きが稀に発生する場合には、溶接状態への影響はほとんどない。しかし、アーク切れを伴う磁気吹きが多数回発生するときは、アーク発生状態が不安定となり、スパッタの大量発生、ビード不良等が生じる。したがって、パルスアーク溶接においては、磁気吹きによるアーク切れを抑制することは良好な溶接品質を得るために重要である。
【0010】
図9は、パルスアーク溶接において磁気吹きが発生したときの電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0011】
ベース期間Tb中の時刻t1において、磁気吹きが発生してアークが偏向すると、同図(B)に示すように、アークの偏向に伴ってアーク長が長くなり、ベース電圧Vbが次第に上昇して大きくなる。一方、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは定電流制御されているので一定値のままである。時刻t2において、磁気吹きによるアークの偏向がさらに大きくなると、アーク長が非常に長くなるためにアークを維持することができなくなり、アーク切れが発生する。アーク切れが発生すると、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは通電しなくなり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは出力最大電圧の無負荷電圧となる。
【0012】
図10は、特許文献1に開示された磁気吹きによるアーク切れを防止するための磁気吹き対策制御を示す電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図において時刻t1〜t2のパルス周期中は磁気吹きが発生していない安定した溶接状態のときを示しており、続く時刻t2〜t3のパルス周期中は磁気吹きが発生した溶接状態のときを示している。
【0013】
ベース期間Tb中の時刻t21において、磁気吹きが発生してアークが偏向したためにアーク長が長くなり、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが通常値から上昇して大きくなる。そして、時刻t22において、ベース電圧Vbの値が、破線で示す予め定めた基準電圧値Vt以上になる。ベース電圧値Vbが上記の基準電圧値Vt以上になったことを判別すると、同図(A)に示すように、ベース電流Ibの値を通常値よりも増加させて200A以上にする。時刻t22〜t23の期間中は、ベース電圧値Vbが上記の基準電圧値Vt以上になっている。この期間中は、同図(A)に示すように、200A以上に増加されたベース電流が通電する。
【0014】
時刻t22〜t23の期間中は、ベース電流Ibの値が200A以上に増加するので、アークがワイヤ送給方向に発生する性質である硬直性が強くなるために、アークの偏向が正常な状態に戻されることになる。このために、同図(B)に示すように、時刻t23において、ベース電圧値Vbは上記の基準電圧値Vt未満になり、その後は急速に減少して通常値に戻る。したがって、磁気吹きは、時刻t21に発生して、時刻t23の直後に解消される。時刻t23において、同図(A)に示すように、ベース電流Ibの値は通常値に戻る。時刻t23〜t3の残りのベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibの値は通常値のままであり、同図(B)に示すように、通常値のベース電圧値Vbが印加する。この期間のアークは、磁気吹きが発生していないので、安定した状態にある。
【0015】
上記において、基準電圧値Vtは、磁気吹きが発生していない状態でのベース電圧値Vbの変動を考慮して、溶接条件に応じて適正値に設定する。例えば、ベース電圧Vbの変動は、ピーク電圧値Vpまで及ぶことはないので、基準電圧値Vtをピーク電圧値Vpに近い値に設定する。また、ベース電圧Vbと基準電圧値Vtとの比較にあたって、ヒステリシスを持たせるようにしても良い。すなわち、ベース電圧Vbが通常値から上昇していくときの基準値を第1基準電圧値Vt1とし、ベース電圧Vbが一旦Vt1以上になりその後に下降するときの基準値を第2基準電圧値Vt2とするものである。このときに、Vt1>Vt2である。また、ベース電圧Vbの上昇率(微分値=dVw/dt)が基準値に達したことによって磁気吹きの発生を判別し、その後にベース電圧Vbの下降率が基準値に達したことによって磁気吹きの解消を判別するようにしても良い。ベース電圧Vbの上昇による従来から行われている種々の磁気吹きの発生の判別方法を使用することができる。上記の増加したベース電流値は、200〜500A程度の範囲で、アークの偏向を修正することができる値に実験によって設定される。
【0016】
このような磁気吹き対策制御を行うことによって、磁気吹きによるアーク切れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法を説明するために、溶接対象となる溶接線Ps−Peを直線として示した図である。同図において、左端Psは溶接開始位置を示し、右端Peは溶接終了位置を示す。この溶接線Ps−Peを、ロボットを使用してパルスアーク溶接する。パルスアーク溶接は、テスト溶接と実施工溶接とに分けて行われる。
【0027】
(1)テスト溶接
図2で後述するように、磁気吹きの発生を判別しながら溶接開始位置Psから溶接線に沿って溶接を開始する。溶接中に磁気吹きの発生を判別した場合は、溶接線上の位置を記憶する。同図においては、溶接線上のA1からA2の間の区間において磁気吹きの発生が判別されたとする。このA1−A2の区間を、磁気吹き発生区間と呼ぶことにする。したがって、同図においては、溶接線は3つの区間に分けられることになる。第1区間Ps−A1は磁気吹きが発生しなかった区間であり、第2区間A1−A2は磁気吹き発生区間であり、第3区間A2−Peは磁気吹きが発生しなかった区間である。すなわち、テスト溶接では、溶接線上の磁気吹き発生区間を判別して記憶する動作を行っている。磁気吹き発生の判別は、上述したように、ベース電圧が基準電圧値以上に上昇したことによって行うことができる。また、ベース電圧の上昇率が基準上昇率以上になったことによって行うこともできる。磁気吹き発生区間A1−A2は、磁気吹き発生を判別したパルス周期が連続している区間として判別することができる。同図では、磁気吹き発生区間が1つの場合であるが、複数の区間が存在する場合がある。また、磁気吹き発生区間の判別に裕度を持たせるために、磁気吹き発生区間の開始位置を、溶接中に最初に磁気吹きの発生が判別された位置よりも所定距離だけ前の位置(溶接開始位置Psを前方の限界とする)にしても良い。同様に、磁気吹き発生区間の終了位置を、溶接中に最後に磁気吹きの発生が判別された位置よりも所定距離だけ後の位置(溶接終了位置Peを後方の限界とする)にしても良い。上記の所定距離は、3〜10mm程度の範囲で実験によって適正値に設定される。また、磁気吹き発生区間を、単位パルス周期当たり基準周期以上に磁気吹きの発生が判別された区間としても良い。例えば、10パルス周期当たり5パルス周期において磁気吹き発生が判別された区間を磁気吹き発生区間とする。単位パルス周期は、10〜100程度の範囲で実験によって適正値に設定され、基準パルス回数は百分率で30〜100%程度の範囲で実験によって適正値に設定される。
【0028】
(2)実施工溶接
実施工に際して、第1区間Ps−A1を溶接するときは、磁気吹きが発生していない区間であるので、
図7で上述した通常のパルスアーク溶接を行う。第2区間A1−A2を溶接するときは、磁気吹きが発生している区間であるので、
図2で後述する磁気吹き対策制御を付加したパルスアーク溶接を行う。第3区間A2−AEを溶接するときは、磁気吹きが発生していない区間であるので、再び
図7で上述した通常のパルスアーク溶接を行う。
【0029】
図2は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法において、テスト溶接を行っているときの各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は磁気吹き発生判別信号Adの時間変化を示し、同図(D)は磁気吹き発生区間信号Pdの時間変化を示す。同図は、上述した
図1において、第2区間A1−A2をテスト溶接しているときである。同図は、上述した
図7及び
図10と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。以下、同図を参照して、テスト溶接時の動作について説明する。
【0030】
同図はテスト溶接時であるので、同図(D)に示すように、磁気吹き発生区間信号PdはLowレベルのままである。
【0031】
時刻t1〜t2のパルス周期Tfにおいて、立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する上昇遷移電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加する。続くピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤから溶滴を移行させるために臨界値以上の大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。続く立下り期間Tk中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流Ikが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する下降遷移電圧が印加する。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために臨界値未満の小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したベース電圧Vbが印加する。アーク長は、ピーク期間Tp中は長くなり、ベース期間Tb中は短くなる。
【0032】
同図は、アーク長制御の方式が周波数変調制御の場合であるので、立上り期間Tu、ピーク期間Tp、立下り期間Tk、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、ベース期間Tb(パルス周期Tf)は溶接電圧Vwの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにフィードバック制御によって定まる。
【0033】
ベース期間Tb中の時刻t11において、磁気吹きが発生してアークが偏向したためにアーク長が長くなり、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが通常値から上昇して大きくなる。そして、時刻t12において、ベース電圧Vbの値が、破線で示す予め定めた基準電圧値Vt以上になる。ベース電圧値Vbが上記の基準電圧値Vt以上になったことを判別すると、同図(C)に示すように、磁気吹き発生判別信号AdがHighレベルに変化する。この磁気吹き発生判別信号Adは、次のパルス周期Tfが開始される時刻t2までHighレベルの状態を維持する。磁気吹き発生判別信号AdがHighレベルに変化してもベース電流Ibは増加させずに通常値を維持する。このために、磁気吹きによるアーク長の偏向が継続するので、ベース電圧Vbは基準電圧値Vtを超えた状態を次のパルス周期Tfが開始される時刻t2まで維持する。
【0034】
同様に、ベース期間Tb中の時刻t21において、磁気吹きが発生してアークが偏向したためにアーク長が長くなり、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが通常値から上昇して大きくなる。これ以降の動作については同様であるので、説明は繰り返さない。
【0035】
図3は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法において、実施工溶接を行っているときの各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は磁気吹き発生判別信号Adの時間変化を示し、同図(D)は磁気吹き発生区間信号Pdの時間変化を示す。同図は、上述した
図2と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。同図は、
図1で上述した磁気吹きが発生する区間である第2区間A1−A2を溶接しているときのタイミングチャートであるので、同図(D)に示すように、磁気吹き発生区間信号PdはHighレベルになっている。以下、同図を参照して、磁気吹きによるアーク切れを防止する制御について説明する。
【0036】
時刻t1〜t2のパルス周期Tfにおいて、立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuが通電し、同図(B)に示すように、磁気吹きのために通常値よりも大きくなっているベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する上昇遷移電圧が印加する。続くピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。続く修正立下り期間Tks中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する修正下降遷移電流Iksが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する下降遷移電圧が印加する。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したベース電圧Vbが印加する。
【0037】
立上り期間Tu、ピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは、上述した
図2のテスト溶接のとき及び磁気吹き発生区間信号PdがLowレベルのときと同一値に設定されている。すなわち、これらのパラメータの値は、同図(D)に示す磁気吹き発生区間信号Pdの状態によらず一定値である。
【0038】
これに対して、修正立下り期間Tksは、
図2のテスト溶接時の立下り期間Tkよりも長い期間に設定される。このために、修正下降遷移電流Iksの下降速度は、下降遷移電流Ikの下降速度よりも遅くなる。すなわち、磁気吹き発生区間信号PdがHighレベルのときは、下降遷移電流の下降速度が遅くなるように修正している。
【0039】
テスト溶接時の立下り期間Tk中は、下降遷移電流Ikがピーク電流Ipからベース電流Ibへと早い下降速度で変化する。しかし、アーク長の変化は溶接ワイヤを溶融させる必要があるので、下降遷移電流Ikの下降速度よりも遅れて変化することになる。このために、ベース期間Tbに入り溶接電流Iwがベース電流Ibに変化しても、アーク長は収束値よりも長い状態をしばらく維持することになる。ベース電流Ibは小電流値であるので、アークの硬直性は弱い。この結果、アーク長が長い状態でアークの硬直性が弱くなるので、磁気吹きによるアークの偏向が生じやすい状態となる。
【0040】
これに対して、同図に示す修正立下り期間Tks中は、修正下降遷移電流Iksがピーク電流Ipからベース電流Ibへと遅い下降速度で変化する。遅い下降速度とは、修正下降遷移電流Iksの下降速度がアーク長の変化速度よりも遅くなる速度である。このようにすると、ベース期間Tbに入り、アークの硬直性が弱くなるベース電流Ibが通電しても、その時点では既にアーク長が収束値に近い短い状態になっている。このために、磁気吹きが発生しても、アーク長の偏向は小さい状態となり、アーク切れを生じるような状態にはならない。この結果、時刻t11〜t3の間、ベース電圧Vbが基準電圧値Vtよりも小さい範囲で増加しているのは、小さなアークの偏向が生じているためである。したがって、同図(C)に示すように、磁気吹き発生判別信号AdはLowレベルのままである。
【0041】
時刻t2〜t3のパルス周期Tf中の動作は、時刻t1〜t2のパルス周期Tf中の動作と同様であるので、説明は繰り返さない。
【0042】
このように、磁気吹き発生区間信号PdがHighレベルのときは、立下り期間中の下降遷移電流の下降速度を遅くすることによって、アークの硬直性が弱くなるベース期間Tbに入る時点でのアーク長を短い状態にすることができる。このために、磁気吹きが発生してもアークが大きく偏向することを抑制することができ、アーク切れの発生を防止することができる。しかも、下降遷移電流の下降速度を遅くしても、溶滴移行状態への影響は小さいために、ビード外観が悪くなることもない。但し、下降速度が遅くなると、スパッタ発生量がやや増加する傾向にあるので、磁気吹き発生区間信号PdがLowレベルであるとき(磁気吹きが発生しない区間のとき)は、下降速度を速くしておく方が良い。したがって、磁気吹き発生区間信号PdがHighレベルのとき、下降速度を遅くするようにしている。
【0043】
上述した各パラメータの数値例を以下に示す。Tu=0.4ms、Tp=1.2ms、Tk=0.4ms、Tks=1.6ms、Ip=450A、Ib=50Aである。この場合、Ikの下降速度は1000A/msとなり、Iksの下降速度は250A/msとなり、4倍遅くなっている。
【0044】
図4は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。溶接装置は、主に破線で囲まれた溶接電源PS、ロボット制御装置RC、ロボット(図示は省略)等から構成されている。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0045】
溶接電源PSは、以下の各ブロックから構成されている。但し、溶接ワイヤ1を送給制御するための回路については、省略している。電源主回路MCは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路MCは、図示は省略するが、交流商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランス、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路を備えている。リアクトルWLは、上記の電源主回路MCの+側出力と溶接トーチ4との間に挿入されており、電源主回路MCの出力を平滑する。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給機(図示は省略)の送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を通って送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。ワイヤ送給機及び溶接トーチ4は、ロボットに搭載されている。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間に溶接電圧Vwが印加し、溶接電流Iwが通電する。
【0046】
電圧検出回路VDは、上記の溶接電圧Vwを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均化回路VAVは、この電圧検出信号Vdを平均化(ローパスフィルタを通す)して、電圧平均信号Vavを出力する。電圧設定回路VRは、所望値の電圧設定信号Vrを出力する。電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr(+)と上記の電圧平均信号Vav(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0047】
V/FコンバータVFは、上記の電圧誤差増幅信号Evに応じた周波数で短時間Highレベルになるトリガ信号であるパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfが短時間Highレベルになる周期が1パルス周期となる。
【0048】
立上り期間設定回路TURは、予め定めた立上り期間設定信号Turを出力する。ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。立下り期間設定回路TKRは、後述するロボット制御装置RCからの磁気吹き発生区間信号Pdを入力として、磁気吹き発生区間信号PdがLowレベルのときは予め定めた立下り期間Tkを立下り期間設定信号Tkrとして出力し、Highレベルのときは予め定めた修正立下り期間Tksを立下り設定信号Tkrとして出力する。上述したように、Tk<Tksである。
【0049】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0050】
電流設定回路IRは、上記のパルス周期信号Tf、上記の立上り期間設定信号Tur、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記の立下り設定信号Tkr、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに、以下の処理を行ない、電流設定信号Irを出力する。
1)立上り期間設定信号Turによって定まる期間中は、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと直線状に上昇する電流設定信号Irを出力する。
2)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力する。
3)続けて、立下り期間設定信号Tkrによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと直線状に下降する電流設定信号Irを出力する。
4)続けて、パルス周期信号Tfが再び短時間Highレベルになるまでの期間中は、ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力する。
【0051】
磁気吹き発生判別回路ADは、上記の電流設定信号Ir、上記のベース電流設定信号Ibr、上記の電圧検出信号Vd及び上記のパルス周期信号Tfを入力として、電流設定信号Irの値がベース電流設定信号Ibrの値と等しい期間(ベース期間Tb)のときの電圧検出信号Vdの値が予め定めた基準電圧値Vt以上になるとHighレベルにセットされ、その後にパルス周期信号TfがHighレベルになるとLowレベルにリセットされる磁気吹き発生判別信号Adを出力する。
【0052】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流設定信号Ir(+)と上記の電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、この電流誤差増幅信号Ei及び後述するロボット制御装置RCからの起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは電流誤差増幅信号Eiに基いてPWM変調制御を行ない上記の電源主回路MC内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、起動信号OnがLowレベル(溶接停止)のときは駆動信号Dvを出力しない。
【0053】
ロボット制御装置RCは、上記の磁気吹き発生判別信号Adを入力として、テスト溶接モード又は実施工溶接モードが選択されて、各モードのときに以下のような動作を行い、起動信号On及び磁気吹き発生区間信号Pdを出力する。
1)テスト溶接モードでは、
図1で上述したように、溶接開始位置Psに溶接トーチ4を移動させた時点で起動信号OnをHighレベルにして出力する。その後は、予め教示されている作業プログラムに従って溶接線に沿って溶接を行う。この溶接中に、磁気吹き発生判別信号Adが1パルス周期中にHighレベルとなった区間を磁気吹き発生区間として記憶する。溶接トーチ4を溶接終了位置Peまで移動させた時点で、起動信号OnをLowレベルにして溶接を終了する。テスト溶接モードでは、Lowレベルの磁気吹き発生区間信号Pdを出力する。
2)実施工溶接モードでは、
図1で上述したように、溶接開始位置Psに溶接トーチ4を移動させた時点で起動信号OnをHighレベルにして出力する。その後は、作業プログラムに従って溶接線に沿って溶接を行う。この溶接中に、溶接トーチ4の位置が記憶した磁気吹き発生区間にあるときは、磁気吹き発生区間信号PdをHighレベルにして出力する。溶接トーチ4を溶接終了位置Peまで移動させた時点で、起動信号OnをLowレベルにして溶接を終了する。
【0054】
上述した実施の形態1によれば、ベース期間中の溶接電圧の上昇によって、溶接線上の磁気吹き発生区間を判別して記憶するテスト溶接を行い、実施工時に、溶接線上の記憶された磁気吹き発生区間を溶接するときは、立下り期間を長くする。実施の形態1では、下降遷移電流の下降速度を遅くすることによって、立下り期間を長くしている。これにより、実施の形態1では、アークの硬直性が弱くなるベース期間Tbに入る時点でのアーク長を短い状態にすることができる。このために、磁気吹きが発生してもアークが大きく偏向することを抑制することができ、アーク切れの発生を防止することができる。かつ、立下り期間を長くしても、溶滴移行状態への影響は小さいために、ビード外観が悪くなることもない。
【0055】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、下降遷移電流が基準電流値に達したときはその値を所定期間維持することによって、立下り期間を長くし、基準電流値をピーク電流の値よりも小さくベース電流の値よりも大きな値に設定する。
【0056】
実施の形態2の発明において、
図1及び
図2の動作は同一であるので、それらの説明は繰り返さない。
【0057】
図5は、本発明の実施の形態2に係るパルスアーク溶接制御方法において、実施工溶接を行っているときの各信号のタイミングチャートである。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は磁気吹き発生判別信号Adの時間変化を示し、同図(D)は磁気吹き発生区間信号Pdの時間変化を示す。同図は、上述した
図3と対応しており、同一の動作についての説明は繰り返さない。同図は、修正立下り期間Tksの動作のみが
図3とは異なっている。以下、同図を参照して、この異なる動作について説明する。
【0058】
同図(D)に示すように、磁気吹き発生区間信号PdがHighレベルであるので、時刻t1〜t2のパルス周期Tfにおいて、修正立下り期間Tks中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipから下降し予め定めた基準電流値Itに達するとその値を所定期間維持し、その後にベース電流Ibに切り換わる修正下降遷移電流Iksが通電する。同図(B)に示すように、下降繊維電圧も電流波形と相似形となる。ここで、Tk<Tksであり、Ib<It<Ipである。
【0059】
基準電流値Itは、ピーク期間Tp中の長いアーク長の状態でも、アークの硬直性によって磁気吹きによるアークの偏向を抑制することができる電流値に設定される。基準電流値Itは、ピーク電流Ipの20%〜40%程度に設定される。所定期間は、磁気吹きによるアークの偏向の影響を受けにくくなるアーク長まで短くなるのに必要な時間に設定される。修正下降遷移電流Iksの前半部分の下降速度は、テスト溶接のとき及び磁気吹き発生区間信号PdがLowレベルのときの下降遷移電流Ikの下降速度と同一値に設定される。
【0060】
上述した各パラメータの数値例を以下に示す。Tu=0.4ms、Tp=1.2ms、Tk=0.4ms、Tks=1.6ms、所定期間=1.3ms、Ip=450A、Ib=50A、It=150Aである。この場合、Ikの下降速度は1000A/msとなり、Iksの前半部分の下降速度も同一値となる。
【0061】
修正立下り期間Tks中は、ピーク電流Ipから基準電流値Itの状態を所定期間維持した後にベース電流Ibへと切り換わる修正下降遷移電流Iksが通電する。このようにすると、ベース期間Tbに入り、アークの硬直性が弱くなるベース電流Ibが通電しても、その時点では既にアーク長が収束値に近い短い状態になっている。このために、磁気吹きが発生しても、アーク長の偏向は小さい状態となり、アーク切れを生じるような状態にはならない。
【0062】
このように、磁気吹き発生区間信号PdがHighレベルのときは、立下り期間中の下降遷移電流を所定期間基準電流値Itに保持することによって、アークの硬直性が弱くなるベース期間Tbに入る時点でのアーク長を短い状態にすることができる。このために、磁気吹きが発生してもアークが大きく偏向することを抑制することができ、アーク切れの発生を防止することができる。しかも、このようにしても溶滴移行状態への影響は小さいために、ビード外観が悪くなることもない。
【0063】
図6は、本発明の実施の形態2に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。溶接装置は、主に破線で囲まれた溶接電源PS、ロボット制御装置RC、ロボット(図示は省略)等から構成されている。同図は、上述した
図2と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図4の電流設定回路IRを第2電流設定回路IR2に置換したものである。以下、同図を参照して、このブロックについて説明する。
【0064】
第2電流設定回路IR2は、パルス周期信号Tf、立上り期間設定信号Tur、ピーク期間設定信号Tpr、立下り設定信号Tkr、ピーク電流設定信号Ipr、ベース電流設定信号Ibr及び磁気吹き発生区間信号Pdを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに、以下の処理を行ない、電流設定信号Irを出力する。
1)立上り期間設定信号Turによって定まる期間中は、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと直線状に上昇する電流設定信号Irを出力する。
2)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力する。
3)続けて、立下り期間設定信号Tkrによって定まる期間中は、磁気吹き発生区間信号PdがLowレベルのときはピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと直線状に下降する電流設定信号Irを出力し、磁気吹き発生区間信号PdがHighレベルのときはピーク電流設定信号Iprの値から磁気吹き発生区間信号PdがLowレベルのときと同一の下降速度で下降し予め定めた基準電流値Itに達するとその値を維持する電流設定信号Irを出力する。
4)続けて、パルス周期信号Tfが再び短時間Highレベルになるまでの期間中は、ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力する。
【0065】
上述した実施の形態2によれば、ベース期間中の溶接電圧の上昇によって、溶接線上の磁気吹き発生区間を判別して記憶するテスト溶接を行い、実施工時に、溶接線上の記憶された磁気吹き発生区間を溶接するときは、立下り期間を長くする。実施の形態2では、下降遷移電流が予め定めた基準電流値に達したときはその値を所定期間維持することによって、立下り期間を長くしている。これにより、実施の形態2では、アークの硬直性が弱くなるベース期間Tbに入る時点でのアーク長を短い状態にすることができる。このために、磁気吹きが発生してもアークが大きく偏向することを抑制することができ、アーク切れの発生を防止することができる。かつ、立下り期間を長くしても、溶滴移行状態への影響は小さいために、ビード外観が悪くなることもない。また、実施の形態2では、磁気吹きの強さに応じて、基準電流値及び/又は所定期間を変化させることで対応することができ、実施の形態1よりも溶接状態への影響を小さくすることができる。
【0066】
上述した実施の形態1及び2に対して、磁気吹きの発生を判別して立下り期間を長くする以前と以後において、立上り期間の開始時点から立下り期間の終了時点までの溶接電流Iwの積分値が一定になるように、ピーク期間Tp及び/又はピーク電流Ipを変化させるようにしても良い。このようにすれば、溶滴移行状態がさらに良好になる。また、上述した実施の形態1及び2では、アーク長制御が周波数変調制御の場合について説明したが、パルス幅変調制御の場合も同様である。