特開2016-28823(P2016-28823A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2016-28823焼結性接合材料及びそれを用いた接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-28823(P2016-28823A)
(43)【公開日】2016年3月3日
(54)【発明の名称】焼結性接合材料及びそれを用いた接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20160205BHJP
   C01B 21/06 20060101ALI20160205BHJP
   H05K 3/32 20060101ALN20160205BHJP
【FI】
   B23K20/00 310M
   C01B21/06 A
   H05K3/32 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-151659(P2014-151659)
(22)【出願日】2014年7月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 雅彦
【テーマコード(参考)】
4E167
5E319
【Fターム(参考)】
4E167AA08
4E167AA09
4E167AA29
4E167BA05
4E167CA02
4E167CB03
4E167DA05
5E319BB20
5E319CC11
5E319CD27
5E319CD29
5E319GG20
(57)【要約】
【課題】 水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い温度で高度の接合強度が得られる焼結性接合材料を提供すること。
【解決手段】 窒化銅粒子を含有していることを特徴とするとする焼結性接合材料。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化銅粒子を含有していることを特徴とする焼結性接合材料。
【請求項2】
前記窒化銅粒子の一次粒子の平均粒径が1nm〜5μmであることを特徴とする請求項1に記載の焼結性接合材料。
【請求項3】
前記窒化銅粒子の分解温度が150〜500℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の焼結性接合材料。
【請求項4】
前記窒化銅粒子の含有量が、前記焼結性接合材料100質量%に対して60〜95質量%の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の焼結性接合材料。
【請求項5】
前記焼結性接合材料が分散媒を更に含有しており、該分散媒がエステル類、アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸類及び芳香族炭化水素類からなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の焼結性接合材料。
【請求項6】
被接合面を介して金属部材と被接合体とを接合する方法であって、
前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との間及び/又は両被接合面の外縁部に請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の焼結性接合材料を配置した状態で熱処理を施し、前記焼結性接合材料を焼結せしめて前記金属部材と前記被接合体とを接合せしめることを特徴とする接合方法。
【請求項7】
前記熱処理における処理温度が150〜500℃であることを特徴とする請求項6に記載の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結性接合材料及びそれを用いた接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の多くは、金属部材からなる回路層の上に半導体素子が接合された構造となっている。半導体素子等の電子部品を回路層上に接合する際には、はんだ材を用いた方法が広く使用されているが、半導体素子自体の耐熱性が向上したことで、半導体装置が自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用されることが多くなり接合剤に耐熱性が要求されてきている。しかし、はんだ材を使用して半導体素子等の電子部品と回路層とを接合した場合、これを高温環境下で使用すると、はんだの一部が溶融してしまい、半導体素子等の電子部品と回路層との接合信頼性が低下することが問題となってきている。
【0003】
そこで、はんだ材の代替として、耐熱性・高い熱伝導率・導電性を有する、銀や銅等の金属粒子、或いは金や銀等の金属酸化物粒子と還元剤とを含む金属酸化物ペーストを用いて、半導体素子等の電子部品を回路層に接合する技術が提案されている。金属酸化物粒子と還元剤とを含む金属酸化物ペーストにおいては、金属酸化物粒子が還元剤によって還元されることによって生成する金属粒子が焼結することで、導電性の焼成体からなる接合層が形成され、この接合層を介して半導体素子等の電子部品が回路層に接合されることになる。
【0004】
例えば、特開2013−182901号公報(特許文献1)には、酸化銀粒子と、還元剤と、金属部材の酸化膜を除去する活性剤と、を含んだことを特徴とする、高温環境下における接合信頼性を向上させることができる接合材料、及び、この接合材料を用いたパワーモジュール、パワーモジュールの製造方法が提案されている。しかしながら、特許文献1記載の方法では、接合材料に使用される銀は、イオンマイグレーションが発生して短絡の要因になりやすく、コスト的にも銀は高価であるという問題があった。
【0005】
前記イオンマイグレーションを抑制する方法として、特開2013−91835号公報(特許文献2)には、粒径1000nm以下の銅ナノ粒子を含む液又はペーストであって、銅ナノ粒子の個数基準の粒径分布の粒径ピークは、粒径が1〜35nmの区間、及び、粒径が35nmより大きく1000nm以下の区間にそれぞれ一つ以上あり、銅ナノ粒子は、単一粒子(一次粒子)と、単一粒子の融合体である二次粒子とを含む焼結性接合材料が提案されている。特許文献2記載の方法では、それによって耐酸化性と低温接合性の両立を図っているが、耐酸化性と低温接合性の両立は必ずしも十分なものではなく、更に水素等の危険な還元雰囲気下で処理しなければならないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−182901号公報
【特許文献2】特開2013−91835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い温度で高度の接合強度が得られる焼結性接合材料、並びにそれを用いた接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、接合材料として窒化銅粒子を含有している焼結性接合材料を用いることにより、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い温度においても焼結が可能となりしかも高度の接合強度が得られるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の焼結性接合材料は、窒化銅粒子を含有していることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の焼結性接合材料においては、前記窒化銅粒子の一次粒子の平均粒径が1nm〜5μmであることが好ましい。
【0011】
また、本発明の焼結性接合材料においては、前記窒化銅粒子の分解温度が150〜500℃であることが好ましい。
【0012】
更に、本発明の焼結性接合材料においては、前記窒化銅粒子の含有量が、前記焼結性接合材料100質量%に対して60〜95質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0013】
また、本発明の焼結性接合材料においては、前記焼結性接合材料が分散媒を更に含有しており、該分散媒がエステル類、アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸類及び芳香族炭化水素類からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0014】
本発明の接合方法は、被接合面を介して金属部材と被接合体とを接合する方法であって、前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との間及び/又は両被接合面の外縁部に上記本発明の焼結性接合材料を配置した状態で熱処理を施し、前記焼結性接合材料を焼結せしめて前記金属部材と前記被接合体とを接合せしめること特徴とする方法である。
【0015】
本発明の接合方法においては、前記熱処理における処理温度が150〜500℃であることが好ましい。
【0016】
なお、本発明の焼結性接合材料、及びそれを用いた接合方法によって上記目的が達成される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0017】
すなわち、先ず、本発明の焼結性接合材料は、窒化銅粒子を含有している。この窒化銅粒子は、酸化し難く酸素雰囲気に安定で、かつより低い温度で焼結が可能となる。このような窒化銅粒子を含有する焼結性接合材料とすることにより、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い焼結温度で高度の接合強度を発現することが可能となるものと本発明者らは推察する。
【0018】
また、本発明の接合方法においては、このような窒化銅粒子を含有する焼結性接合材料を金属部材と被接合体とを接合する接合材料として用いた場合、含有する窒化銅粒子が耐酸化性に優れており、水素等の危険なガス雰囲気条件にすることなく安全な方法で接合が可能となり、しかも、窒化銅粒子の存在により低い温度で焼結が可能になるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い温度で高度の接合強度が得られる焼結性接合材料、並びにそれを用いた接合方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0021】
[焼結性接合材料]
先ず、本発明の焼結性接合材料について説明する。すなわち、本発明の焼結性接合材料は、窒化銅粒子を含有していることを特徴とするものである。
【0022】
このような本発明の焼結性接合材料は、金属部材と被接合体とを接合する際に用いられる接合材料として好適に用いることができる。金属部材としては、導電性を有する金属部材であればよく、例えば、半導体装置等の電子部品の電極や配線等の回路層が挙げられる。また、金属部材の金属は特に限定はないが、銅、銀、及び金等が挙げられる。本発明に使用する被接合体は、電子部材であれば特に限定はないが、例えば、半導体素子等が挙げられる。
【0023】
本発明の焼結性接合材料における窒化銅粒子を構成する「窒化銅」とは、窒化されていない銅を実質的に含まない化合物であり、具体的には、X線回折による結晶解析において、窒化銅(CuN)由来のピークが検出され、かつ金属由来のピークが検出されない化合物のことを指す。銅を実質的に含まないとは、限定的ではないが、銅の含有量が窒化銅粒子に対して1質量%以下であることをいう。なお、このような窒素銅粒子としては、前記窒化銅の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、一部窒化されていない銅やアモルファス成分等を含んでいてもよい。
【0024】
また、本発明の焼結性接合材料における窒化銅粒子としては、特に限定されないが、窒化銅粒子の一次粒子の平均粒径が1nm〜5μmであることが好ましく、2nm〜1μmであることがより好ましい。前記一次粒子の平均粒径が、前記下限未満では窒化銅粒子の製造が困難になる傾向にあり、他方、上限を超えると焼結性接合材料の取り扱い性が悪くなる傾向にある。また、本発明において、窒化銅粒子の一次粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)観察又は走査型電子顕微鏡(SEM)観察等により求め、任意の50個以上の窒化銅粒子について各粒子の粒径(直径)を測定し、それらを算術平均して求める。なお、観察写真(図)中、窒化銅粒子の形状が真円状でない場合には、その粒子の断面の最大の外接円の直径として測定する。
【0025】
更に、このような本発明にかかる窒化銅粒子の分解温度としては、150〜500℃であることが好ましく、150〜450℃であることがより好ましい。前記分解温度が、前記下限未満では窒化銅粒子の製造が困難になる傾向にあり、他方、上限を超えると焼結性接合材料の低温での焼結が困難になる傾向がある。なお、分解温度は、示差熱天秤分析(常圧)において、質量減少の変曲点の温度を測定して得られる。
【0026】
また、窒化銅粒子の形態としては、特に限定はなく、球状、角状、針状等が挙げられる。このような本発明に用いられる窒化銅粒子としては、市販品により、又は公知技術による製造により入手可能なものである。例えば、このような窒化銅粒子としては、酸化銅やフッ化銅をアンモニア中で焼成する方法、アルコール中でアンモニアを吹き込みながら酢酸銅等を加熱する方法、等により製造することができる。
【0027】
なお、一般に、金属粒子の粒径が小さくなり、比表面積が増加すると、単位体積当たりの表面自由エネルギーが増加し、その金属粒子の表面の活性度が高くなる。このことから、例えば、一次粒子の粒径が1μm以下の窒化銅微粒子を用いれば、低い温度で金属銅と窒素に分解が可能となり、その結果、低い温度での焼成による接合が可能となることから、電子部材等の被接合体が熱による損傷、例えば、溶融、変形等を受けにくくなる。一方で、金属粒子の粒径が小さくなり、比表面積が増加することで酸化されやすくなり、金属銅が酸化銅に容易に酸化されるのに対し、窒化銅は耐酸化性を有し安定であることが知られている。そのため焼結性接合材料として窒化銅を用いることにより、雰囲気ガスを厳密に限定する必要がなく焼結性接合材料の接合工程を簡略化することが可能となる。
【0028】
更に、本発明にかかる窒化銅粒子としては、焼結性接合材料の取り扱い性の観点から、液状、又はペースト状の分散媒の中に分散していることが好ましく、窒化銅粒子の含有量は焼結性接合材料の取り扱い性の観点から前記焼結性接合材料100質量%に対して60〜95質量%の範囲内にあることが好ましく、65〜95質量%の範囲内にあることがより好ましい。
【0029】
また、このような焼結性接合材料において用いる分散媒としては、窒化銅を分散し、焼結時に残留しないものであれば、液状、又はペースト状であっても特に限定はなく、例えば、水;ケトン類、エステル類、アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、石油系炭化水素類、ワックス類等の炭化水素系化合物が挙げられる。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。ケトン類としては、炭素数3〜20のケトン類が挙げられ、例えば、イソホロン、ジイソブチルケトン等が挙げられる。エステル類としては、炭素数3〜20のエステル類が挙げられ、例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等が挙げられる。アルコール類としては、炭素数1〜22の直鎖又は分岐の飽和アルコール類、炭素数3〜22の直鎖又は分岐の不飽和アルコール類、炭素数6〜22の環状アルコール類が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、セカンダリーブチルアルコール、オクタノール、ノナノール、デカノール、フェノール、テルピネオール等が挙げられる。グリコールエーテル類としては、炭素数3〜20のグリコールエーテル類が挙げられ、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。カルボン酸類としては炭素数1〜10のカルボン酸類が挙げられ、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸等が挙げられる。芳香族炭化水素類としては炭素数6〜20の芳香族炭化水素類が挙げられ、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等が挙げられる。脂肪族炭化水素類としては、炭素数3〜18の飽和、不飽和の脂肪族炭化水素類が挙げられ、例えば、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。石油系炭化水素類としては、ミネラルスピリット、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油等が挙げられる。ワックス類としては、植物系ワックス(ハゼ蝋、ウルシ蝋等)、動物系ワックス(ミツ蝋、鯨蝋等)、鉱物系ワックス(モンタンワックス等)、石油系ワックス(パラフィンワックス等)、合成ワックス等が挙げられる。
【0030】
なお、このような本発明の焼結性接合材料においては、前記焼結性接合材料が分散媒を更に含有しており、該分散媒がエステル類、アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸類及び芳香族炭化水素類からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。このような分散媒を用いることにより、窒化銅の分散が容易となる傾向にある。
【0031】
また、このような本発明の焼結性接合材料における前記分散媒の含有量としては、特に限定されないが、焼結性接合材料の取り扱い性の観点から、前記焼結性接合材料100質量%に対して5〜40質量%の範囲内にあることが好ましく、5〜35質量%の範囲内にあることがより好ましい。
【0032】
また、本発明の焼結性接合材料においては、窒化銅粒子の分散性を向上させるため、更に分散剤を配合することができる。分散剤としては焼結接合時に残留が少なく影響がでにくいものが好ましく、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、キレート剤、水溶性高分子等が挙げられる。
【0033】
アニオン界面活性剤としては、石鹸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0034】
カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
ノニオン界面活性剤としては、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキサイド付加物等のポリアルキレングリコール型;グリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール型が挙げられる。ここで述べた高級アルコールは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルコールであり、アルキルフェノールは通常炭素数6〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和のアルキルフェノールであり、脂肪酸は通常炭素数10〜22の不飽和又は飽和の脂肪酸であり、多価アルコールは通常炭素数3〜12の多価アルコールであり、高級アルキルアミンは通常炭素数8〜22の直鎖又は分岐の不飽和又は飽和の高級アルキルアミンである。
【0035】
キレート剤としては、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。また、水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0036】
このような分散剤の配合量としては、窒化銅の分散性、分散剤の残留性の観点から、窒化銅粒子100質量部に対して60質量部以下であることが好ましい。
【0037】
更に、本発明の焼結性接合材料には、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂、金属フィラー、フラックス等を配合することができる。
【0038】
次に、本発明の焼結性接合材料の製造方法について説明する。焼結性接合材料の製造方法は、特に限定されないが、例えば、前記窒化銅粒子と、前記分散媒とを攪拌混合する方法が挙げられる。攪拌混合の際に用いられる混合機は適宜選択使用されるが、例えば、ホモミキサー、アジテイター、ディスパー、プラネタリーミキサー、アジホモミキサー、ユニバーサルミキサー、アトライター等の混合機を使用することができる。これらは1種又は2種以上の方法を選択することができる。
【0039】
[接合方法]
次に、前記本発明の焼結性接合材料を用いた本発明の接合方法について説明する。すなわち、本発明の接合方法は、被接合面を介して金属部材と被接合体とを接合する方法であって、前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との間及び/又は両被接合面の外縁部に前記本発明の焼結性接合材料を配置した状態で熱処理を施し、前記焼結性接合材料を焼結せしめて前記金属部材と前記被接合体とを接合せしめることを特徴とするものである。このような本発明の接合方法は、金属部材と被接合体とを接合する際に好適に用いることができる。
【0040】
このような本発明の接合方法においては、前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との間及び/又は両被接合面の外縁部に前記本発明の焼結性接合材料を配置した状態として、以下の状態が存在し得る。
(1)前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との間のみに前記本発明の焼結性接合材料を配置した状態。
(2)前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との両被接合面の外縁部のみに前記本発明の焼結性接合材料を配置した状態。
(3)前記金属部材の被接合面と前記被接合体の被接合面との間及び両被接合面の外縁部に前記本発明の焼結性接合材料を配置した状態。
【0041】
また、焼結性接合材料を配置する方法としては、インクジェット法により微細なノズルからペーストを噴出させて基板上の電極及び/又は電子部品の接続部に塗布、付着、注入、コーティング又は充填等する方法、配置する部分を開口したメタルマスクやメッシュ状マスクを用いて必要部分にのみ塗布、付着、注入、コーティング又は充填等を行う方法、ディスペンサを用いて必要部分に塗布、付着、注入、コーティング又は充填等を行う方法等が挙げられる。これらの配置方法は、接合する電極の面積、形状に応じて組み合わせ可能である。
【0042】
また、前記焼結性接合材料の配置量としては、接合対象となる電子部品の大きさ、接着強度等に応じて調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0043】
更に、本発明の接合方法においては、前記熱処理における処理温度が150〜500℃であることが好ましい。前記分解温度が、前記下限未満では窒化銅粒子の分解が困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると電子部材等の被接合体が熱による損傷、例えば、溶融、変形等を受けやすくなる傾向がある。
【0044】
また、前記金属部材と被接合体の接合方法における雰囲気条件は、特に限定されるものではないが、例えば、空気雰囲気、不活性ガス等が挙げられる。回路層等の酸化防止の観点から、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
窒化銅粉末(粒子)(Santa Cruz Biotechnology,Inc.製、「SC−268769」、一次粒子の平均粒径1μm)1gにノナノール250μLを添加し、自転・公転方式混合機(株式会社シンキー製、「SR−500」)を用い、2000rpmで100秒間撹拌して焼結性接合材料を作製した。この焼結性接合材料を銅板(直径10mm、厚さ3mm)の表面にマスクを使用して直径5mmの領域に厚さ0.2mmに塗布した。このペースト膜の上に銅円板(直径5mm、厚さ2mm)を配置した後、窒素ガス雰囲気中、450℃の温度条件で、銅円板の上部から10MPaで10分間加圧して銅板と銅円板を接合し、接合強度測定用試験片を作製した。この試験片は3個作製した。なお、前記銅円板としては、予め、アセトンを用いて脱脂及び5%塩酸液を用いて酸洗浄した後、蒸留水で洗浄したものを用いた。
【0047】
<接合強度測定試験>
前記試験片の接合強度は、前記試験片の銅板と銅円板の接合部の剪断方向に、剪断速度1mm/min、室温の条件で荷重を加え、破断時の最大荷重を測定した。この最大荷重を接合面積(直径5mm)で除し、接合強度(せん断強度)を求めた(なお、上記接合強度は、JIS Z 3198−5「鉛フリーはんだ試験方法−第5部:はんだ継手の引張及びせん断試験方法」(2003年)に従って測定できる。)。焼結性接合材料について、3個の試験片の接合強度を測定し、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
<分解温度測定試験>
実施例1で用いた窒化銅粉末の分解温度の測定を、示差熱熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製、「DTG−50」)を用い、以下の条件で測定した。
〔測定条件〕
雰囲気:窒素ガス(窒素ガス通気量;100ml/min)
昇温温度:10℃/min
サンプル量:3mg
試料容器:白金セル
このような分解温度測定試験により得られた結果を表1に示す。
【0050】
(比較例1)
窒化銅粉末の代わりに銅(Cu)粉末(高純度化学研究所社製、「CUE08PB」、一次粒子の平均粒径1μm)1gを用いた以外は、実施例1と同様にして比較用接合材料を作製した。得られた比較用接合材料について、接合強度測定試験及び分解温度測定試験を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0051】
(比較例2)
窒化銅粉末の代わりに銅(Cu)ナノ粉末(イオリテック社製、「NM−0016−HP」、一次粒子の平均粒径25nm)1gを用いた以外は、実施例1と同様にして比較用接合材料を作製した。得られた比較用接合材料について、接合強度測定試験及び分解温度測定試験を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0052】
(比較例3)
窒化銅粉末の代わりに酸化銅(CuO)粉末(高純度化学研究所社製、「CUO12PB」、一次粒子の平均粒径1μm)1gを用いた以外は、実施例1と同様にして比較用接合材料を作製した。得られた比較用接合材料について、接合強度測定試験及び分解温度測定試験を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0053】
(比較例4)
窒化銅粉末の代わりに酸化銅(CuO)ナノ粉末(シグマアルドリッチ社製、「544868−5G」、一次粒子の平均粒径50nm)1gを用いた以外は、実施例1と同様にして比較用接合材料を作製した。得られた比較用接合材料について、接合強度測定試験及び分解温度測定試験を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0054】
<試験の結果>
表1に示した実施例1の結果と比較例1〜4の結果との比較から明らかなように、実施例1の窒化銅粉末の分解温度は440℃と低く、450℃で銅板と銅円板の接合が可能であった。また、銅板と銅円板の接合強度は2MPa以上であり、強固な焼結組織が形成されていることが確認された。これに対して、比較例1〜4の銅粉末又は酸化銅粉末を用いた場合、450℃では銅粉末及び酸化銅粉末は溶融せず焼結が見られなかった。なお、接合強度は比較例1〜4のいずれにおいても測定不可能であった。
【0055】
表1に示した結果から明らかなように、本発明の焼結性接合材料は、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い温度で高度の接合強度が得られる接合材料であることが確認された。更に、このような焼結性接合材料を用いた接合方法により、水素等の危険なガス雰囲気条件にすることなく安全な方法で接合が可能となり、しかも、比較的低い温度で焼結ができ、これにより接合強度に優れた接合部を得ることが可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、比較的低い温度で高度の接合強度が得られる焼結性接合材料、並びにそれを用いた接合方法を提供することが可能となる。
したがって、本発明の焼結性接合材料は、金属部材と被接合体とを接合する際に用いられる接合材料として好適に用いることができる。特に、半導体装置等の電子部品の電極や配線等の回路層等の金属部材と、半導体素子等の電子部材の被接合体とを接合する際において用いる焼結性接合材料、及びそれを用いた接合方法として有用である。