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特開2016-33487ミリ波帯スペクトラム解析装置およびそれに用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-33487(P2016-33487A)
(43)【公開日】2016年3月10日
(54)【発明の名称】ミリ波帯スペクトラム解析装置およびそれに用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 23/165 20060101AFI20160212BHJP
   G01R 23/173 20060101ALI20160212BHJP
   H01P 1/207 20060101ALI20160212BHJP
【FI】
   G01R23/165 A
   G01R23/173 F
   H01P1/207 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-156473(P2014-156473)
(22)【出願日】2014年7月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079337
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 誠志
(72)【発明者】
【氏名】河村 尚志
(72)【発明者】
【氏名】大谷 昭仁
【テーマコード(参考)】
5J006
【Fターム(参考)】
5J006JB00
5J006LA02
5J006LA11
5J006MA00
5J006NA09
(57)【要約】
【課題】導波路内に対向配置された一対の電波ハーフミラーの間隔を可変する構造のミリ波帯フィルタを用いたミリ波帯スペクトラム解析装置において、実装状態におけるミリ波帯フィルタの周波数を正しく対応させる。
【解決手段】所定ステップで通過帯域が変化するミリ波帯フィルタ20の隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号Hを発生し、ミリ波帯フィルタ20に入力した状態で、境界信号Hを観測するための観測周波数範囲を指定する。得られたスペクトラムの前記隣り合う通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、ミリ波帯フィルタ20の間隔制御値に対する通過中心周波数の周波数ずれの有無を検出し、その周波数ずれが小さくなる方向に、フィルタ制御情報記憶手段125のフィルタ制御情報を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトラムの解析対象となる被測定信号を入力させる入力端子(10a)と、
ミリ波帯の第1の周波数帯の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管によって形成される導波路(22、30a、30b)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記第1の周波数帯の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(40A、40B)と、指定された間隔制御値に基づいて前記一対の電波ハーフミラーの間隔を可変し、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記第1の周波数帯の範囲で変化させる間隔可変手段(50)とを有し、前記被測定信号を入力信号として前記導波路の一端に受け、該入力信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出して他端側から出力するミリ波帯フィルタ(20)と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号を、周波数固定の第1のローカル信号のミキシングにより前記第1の周波数帯より低い第2の周波数帯に変換する周波数変換部(100)と、
前記周波数変換部によって前記第2の周波数帯に変換された信号の各周波数成分を、周波数掃引可能な第2のローカル信号を用いて所定の中間周波数帯に変換して、前記各周波数成分のレベルを検出するスペクトラム検出部(110)と、
前記ミリ波帯フィルタの前記通過中心周波数と前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値とを関連付ける情報をフィルタ制御情報として記憶しているフィルタ制御情報記憶手段(125)と、
前記第1の周波数帯のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記フィルタ制御情報記憶手段に記憶されているフィルタ制御情報にしたがって、前記ミリ波帯フィルタの前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値を変化させて、前記観測周波数範囲をカバーするように前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数をその通過帯域幅以下の所定ステップで変化させるとともに、前記スペクトラム検出部の前記第2のローカル信号の周波数を前記所定ステップより狭い間隔で掃引制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる制御部(120)とを備えたミリ波帯スペクトラム解析装置であって、
前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数が前記所定ステップで変化することによって切り換わる二つの隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号を発生する境界信号発生手段(201)と、
所定タイミングに前記境界信号を前記ミリ波帯フィルタに入力させる境界信号入力手段(202)と、
前記境界信号が前記ミリ波帯フィルタに入力されている状態で、前記境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲を前記制御部に指定して前記境界信号のスペクトラムを検出させる境界信号観測指示手段(203)と、
前記境界信号について得られたスペクトラムの前記二つの通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値を前記ミリ波帯フィルタに指定したときに前記所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生ずる周波数ずれの有無を検出する周波数ずれ検出手段(204)と、
前記周波数ずれ検出手段によって検出される周波数ずれが小さくなる方向に、前記フィルタ制御情報記憶手段のフィルタ制御情報を補正するフィルタ制御情報補正手段(205)とを設けたことを特徴するミリ波帯スペクトラム解析装置。
【請求項2】
前記境界信号発生手段は、前記フィルタ制御情報記憶手段に記憶されているフィルタ制御情報に対して前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数と間隔制御値との関係が正しく対応していると仮定した条件の下で、前記所定ステップで切り換わる二つの通過帯域の周波数特性が交わる周波数を基準境界周波数とし、該基準境界周波数を含むスペクトラムを有する境界信号を出力し、
前記周波数ずれ検出手段は、前記境界信号のスペクトラムのうち、前記ミリ波帯フィルタの通過帯域が切り換わる直前の前記基準境界周波数のレベルと、通過帯域が切り換わった直後の前記基準境界周波数のレベルとの差を求めることで、前記周波数ずれの有無を検出していることを特徴とする請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置。
【請求項3】
前記境界信号入力手段による前記境界信号の入力および前記境界信号観測指定手段による観測周波数範囲の指定を、装置起動時に行なうことを特徴とする請求項1または請求項2記載のミリ波帯スペクトラム解析装置。
【請求項4】
前記ミリ波帯フィルタが、第1導波管(21)と、該第1導波管の一端側を僅かに隙間のある状態で受け入れる第2導波管(30)とを含み、前記第1導波管の一端側に前記一対の電波ハーフミラーの一方が配置され、前記第2導波管の導波路内に前記一対の電波ハーフミラーの他方が配置され、前記間隔可変手段が前記第1導波管に対して前記第2導波管を導波路の長さ方向に沿って相対的に移動させる構造を有し、
さらに、前記第2導波管は、所定厚さの板状部に前記第1導波管の一端側を受け入れる口径の第1導波路を形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第1導波路形成体(31)と、所定厚さの板状部に前記第1導波路より小口径の第2導波路を形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第2導波路形成体(32)とで構成され、前記第1導波路形成体と前記第2導波路形成体の板状部を、それぞれの角穴同士が同心に連続するように重ね合わせた状態で連結、分離可能に形成し、前記電波ハーフミラーが前記第1導波路と前記第2導波路の境界部に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のミリ波帯スペクトラム解析装置。
【請求項5】
スペクトラムの解析対象となる被測定信号を入力させる入力端子(10a)と、
ミリ波帯の第1の周波数帯の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管によって形成される導波路(22、30a、30b)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記第1の周波数帯の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(40A、40B)と、指定された間隔制御値に基づいて前記一対の電波ハーフミラーの間隔を可変し、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記第1の周波数帯の範囲で変化させる間隔可変手段(50)とを有し、前記被測定信号を入力信号として前記導波路の一端に受け、該入力信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出して他端側から出力するミリ波帯フィルタ(20)と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号を、周波数固定の第1のローカル信号のミキシングにより前記第1の周波数帯より低い第2の周波数帯に変換する周波数変換部(100)と、
前記周波数変換部によって前記第2の周波数帯に変換された信号の各周波数成分を、周波数掃引可能な第2のローカル信号を用いて所定の中間周波数帯に変換して、前記各周波数成分のレベルを検出するスペクトラム検出部(110)と、
前記ミリ波帯フィルタの前記通過中心周波数と前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値とを関連付ける情報をフィルタ制御情報として記憶しているフィルタ制御情報記憶手段(125)と、
前記第1の周波数帯のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記フィルタ制御情報記憶手段に記憶されているフィルタ制御情報にしたがって、前記ミリ波帯フィルタの前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値を変化させて、前記観測周波数範囲をカバーするように前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数をその通過帯域幅以下の所定ステップで変化させるとともに、前記スペクトラム検出部の前記第2のローカル信号の周波数を前記所定ステップより狭い間隔で掃引制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる制御部(120)とを備えたミリ波帯スペクトラム解析装置の前記ミリ波帯フィルタの制御情報補正方法であって、
前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数が前記所定ステップで変化することによって切り換わる二つの隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号を発生して前記ミリ波帯フィルタに入力させる段階と、
前記境界信号が前記ミリ波帯フィルタに入力されている状態で、前記境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲を前記制御部に指定して前記境界信号のスペクトラムを検出させる段階と、
前記境界信号について得られたスペクトラムの前記二つの通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値を前記ミリ波帯フィルタに指定したときに前記所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生ずる周波数ずれの有無を検出する段階と、
前記検出した周波数ずれが小さくなる方向に、前記フィルタ制御情報記憶手段のフィルタ制御情報を補正する段階とを含んでいることを特徴とするミリ波帯スペクトラム解析装置に用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法。
【請求項6】
前記境界信号の前記ミリ波帯フィルタへの入力および前記境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲の指定を装置起動時に行なうことを特徴とする請求項5記載のミリ波帯スペクトラム解析装置に用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミリ波帯の信号のスペクトラム解析を、正確に行なえるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
信号のスペクトラム解析を広帯域に行なうスペクトラムアナライザは、一般的に、ヘテロダイン型のフロントエンドのローカル周波数を連続的に掃引して、入力信号に含まれる各周波数成分を中間周波数帯に変換し、その信号レベルを検出している。
【0003】
近年の情報化社会の発展とともに、各種通信で用いられる情報量は増大し、従来使用されたマイクロ波帯での周波数資源が不足している。
【0004】
そのため、各種アプリケーションは年々高い周波数領域へと移行し、それらアプリケーションの評価に用いられる測定器(スペクトラム解析装置)に要求される解析周波数もマイクロ波帯からミリ波帯へと移行してきている。
【0005】
現状市販されているスペクトラム解析装置(スペクトラムアナライザ)には、イメージ信号の発生による測定誤差を回避するため、フロントエンドにYTF(YIG Tuned Filter)が使用されているが、そのYTFの動作周波数の上限は60GHz程度であり、それを越える周波数を解析するには、YTFは使用されていない。
【0006】
また、スペクトラムアナライザ単体で測定できる上限周波数(例えば60GHz)を越える(100GHzを越えるような)周波数の信号を解析する場合には、スペクトラムアナライザの外部にミキサを使用し、測定するのが一般的である。通常それらは、主としてハーモニックミキサが使用される。
【0007】
このようなYTFの動作周波数の上限を越える周波数を測定するための周波数変換技術は、例えば特許文献1、2に開示されている。
【0008】
ハーモニックミキサを使用したハーモニックミキシング方式は、図10に示すように、発振器1で例えば40GHz帯の信号Laを発生させて高調波発生器2に入力し、その整数倍、即ち80GHz帯、120GHz帯、160GHz帯、…の高調波Lh2、Lh3、……を発生させてミキサ3に入力し、その所望次数の高調波数LhNで入力信号Sinを、中間周波数帯の信号Sifに変換する方式である(Lh1は40GHzの基本波)。
【0009】
しかしながら、上記のようなハーモニックミキシング方式をフロントエンドに用いたスペクトラムアナライザでは、ミキサ3に対して所望次数のローカル信号以外の多くの高調波成分と、入力信号に含まれる信号成分(ノイズ成分も含まれる)との周波数変換成分がミキサ3の出力側に重畳されて、ノイズフロアのレベルが上昇し、低レベル信号のスペクトラムを認識できなくなってしまう。
【0010】
また、どのような周波数帯に信号成分があるかわからない入力信号のスペクトラムを観測しようとしても、多くの次数の高調波とのヘテロダイン成分(イメージ成分や2次、3次の相互変調成分)が生じてしまい、正しい観測は困難であった。
【0011】
これらの点で、ミリ波帯のうち特に100GHzを越える帯域のスペクトラム解析は、精度の点で十分とは言えなかった。
【0012】
この問題を解決するために、100GHzを越えるミリ波帯の電磁波を単一モード(TE10モード)で伝搬させる導波管型の導波路内に、一対の電波ハーフミラーを対向配置させることでファブリペロー型の共振器を形成し、その一対の電波ハーフミラーの間隔を可変することで共振周波数を変化させることができるミリ波帯フィルタを用いることが考えられる(特許文献3)。
【0013】
このミリ波帯フィルタは100〜140GHzを含む範囲で周波数を可変できるので、この周波数帯を測定範囲とするミリ波帯スペクトラム解析装置の入力部に設け、ミリ波帯フィルタの周波数を、それに続く周波数変換部のローカル信号の周波数に連動させることで、正確なスペクトラム解析が可能となる。
【0014】
上記したように導波管が形成する導波路内に配置した電波ハーフミラーの間隔を可変する機構は、所定口径の第1導波管と、第1導波管の一端側を僅かに隙間のある状態で受け入れる第2導波管とを用い、第1導波管の一端側に一方の電波ハーフミラーを配置し、第2導波管の導波路内に他方の電波ハーフミラーを配置し、第1導波管に対して第2導波管を導波路の長さ方向に沿って相対的に移動させることで実現できる。
【0015】
ここで、内側の第1導波管の外周壁と外側の第2導波管の内周壁との間に設ける隙間は、一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の空間と連続しており、電波ハーフミラー間を往復する電磁波がこの隙間を介して外部に漏れることでフィルタとしての特性が低下してしまう。
【0016】
したがって、この隙間を可能な限り小さくする必要がある。例えば、導波路の口径2ミリ×1ミリ程度の導波管の場合、容認される隙間は数10μm(例えば20〜30μm)以下であるが、これは顕微鏡で確認しなくてはならない寸法である。ところが、上記構造のミリ波帯フィルタのように、第2導波路の内部に第1導波管の先端が入り込む構造では、隙間部分を外部から観察することができず、その隙間のばらつきを確認できず、双方の位置合わせが極めて困難となる。
【0017】
この問題を解決する技術として、本願出願人は、特許文献4において、外側の第2導波管を、厚さ一定の板状部に内側の第1導波管の一端側を受け入れる口径の第1導波路を形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第1導波路形成体と、厚さ一定の板状部に第1導波管と同口径の第2導波路を形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第2導波路形成体とで構成し、第1導波路形成体と第2導波路形成体の板状部を、それぞれの角穴同士が同心に連続するように重ね合わせた状態で連結、分離可能に形成する技術を開示している。
【0018】
この技術を採用することで、内側の第1導波管の外周と外側の第2導波管の第1導波路を形成する角穴との隙間を第1導波路形成体側から観察することができ、その位置合わせを正確に行うことができ、その位置合わせの後に、第2導波路形成体を第1導波路形成体に対して予め位置決めされた位置に連結すれば、第1導波路に対して第2導波路が傾くこともなく、第1導波管の導波路を含めて3つの導波路の位置合わせを正確に行うことができ、フィルタ特性を高く維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第7746052号明細書
【特許文献2】米国特許第5736845号明細書
【特許文献3】特開2013−138401号公報
【特許文献4】特開2013−247381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上記構造のミリ波帯フィルタをスペクトラム解析装置のフロントエンドに組み込む場合に解決すべき新たな問題が生じた。
【0021】
即ち、ミリ波帯フィルタの第1導波管と信号入力端子との間、および、第2導波管と周波数変換部との間を所定の接続回路を介して接続する必要があるが、第2導波管の第2導波路形成体に対して一般的な導波管接続用の規格であるフランジ構造を用いてネジ止め接続すると、そのネジの締め付け力によって第2導波路形成体の外縁部が接続回路のフランジ側に近づくように変形し、それに応じて導波路のある中央部が反対方向に変形し、導波路内の電波ハーフミラーが、第1導波管の電波ハーフミラーに近づいてしまい、共振周波数が高い方にずれてしまう。
【0022】
ミリ波帯フィルタの共振周波数のずれは、ミリ波帯フィルタの第2導波管に対する接続回路のネジ止めによる変形に限らず、周囲の温度変化による金属材の膨張、収縮等を含めた他の種々の要因によって起こることが予想される。
【0023】
したがって、たとえミリ波帯フィルタ単体で、その共振周波数とミラー間隔を制御する情報との関係を表すフィルタ制御情報を予め求めておいても、スペクトラムアナライザに組み込んだ状態では、そのフィルタ制御情報を用いてスペクトラム解析対象となる周波数に対してミリ波帯フィルタの共振周波数を正しく対応させることができず、正しいスペクトラム解析を行なうことができない。
【0024】
また、スペクトラムアナライザに実装した状態での環境変化等による経時的なフィルタ制御情報のずれにも対処できない。
【0025】
本発明は、この問題を解決し、導波路内に対向配置した一対の電波ハーフミラーの間隔を可変することで、そのミラー間隔で決まる共振周波数を可変するミリ波帯フィルタを用いたミリ波帯スペクトラム解析装置において、スペクトラム解析対象となる周波数に対して実装された状態におけるミリ波帯フィルタの周波数を正しく対応させることができるミリ波帯スペクトラム解析装置およびそれに用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置は、
スペクトラムの解析対象となる被測定信号を入力させる入力端子(10a)と、
ミリ波帯の第1の周波数帯の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管によって形成される導波路(22、30a、30b)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記第1の周波数帯の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(40A、40B)と、指定された間隔制御値に基づいて前記一対の電波ハーフミラーの間隔を可変し、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記第1の周波数帯の範囲で変化させる間隔可変手段(50)とを有し、前記被測定信号を入力信号として前記導波路の一端に受け、該入力信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出して他端側から出力するミリ波帯フィルタ(20)と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号を、周波数固定の第1のローカル信号のミキシングにより前記第1の周波数帯より低い第2の周波数帯に変換する周波数変換部(100)と、
前記周波数変換部によって前記第2の周波数帯に変換された信号の各周波数成分を、周波数掃引可能な第2のローカル信号を用いて所定の中間周波数帯に変換して、前記各周波数成分のレベルを検出するスペクトラム検出部(110)と、
前記ミリ波帯フィルタの前記通過中心周波数と前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値とを関連付ける情報をフィルタ制御情報として記憶しているフィルタ制御情報記憶手段(125)と、
前記第1の周波数帯のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記フィルタ制御情報記憶手段に記憶されているフィルタ制御情報にしたがって、前記ミリ波帯フィルタの前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値を変化させて、前記観測周波数範囲をカバーするように前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数をその通過帯域幅以下の所定ステップで変化させるとともに、前記スペクトラム検出部の前記第2のローカル信号の周波数を前記所定ステップより狭い間隔で掃引制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる制御部(120)とを備えたミリ波帯スペクトラム解析装置であって、
前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数が前記所定ステップで変化することによって切り換わる二つの隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号を発生する境界信号発生手段(201)と、
所定タイミングに前記境界信号を前記ミリ波帯フィルタに入力させる境界信号入力手段(202)と、
前記境界信号が前記ミリ波帯フィルタに入力されている状態で、前記境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲を前記制御部に指定して前記境界信号のスペクトラムを検出させる境界信号観測指示手段(203)と、
前記境界信号について得られたスペクトラムの前記二つの通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値を前記ミリ波帯フィルタに指定したときに前記所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生ずる周波数ずれの有無を検出する周波数ずれ検出手段(204)と、
前記周波数ずれ検出手段によって検出される周波数ずれが小さくなる方向に、前記フィルタ制御情報記憶手段のフィルタ制御情報を補正するフィルタ制御情報補正手段(205)とを設けたことを特徴としている。
【0027】
また、本発明の請求項2のミリ波帯スペクトラム解析装置は、請求項1記載のミリ波帯スペクトラム解析装置において、
前記境界信号発生手段は、前記フィルタ制御情報記憶手段に記憶されているフィルタ制御情報に対して前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数と間隔制御値との関係が正しく対応していると仮定した条件の下で、前記所定ステップで切り換わる二つの通過帯域の周波数特性が交わる周波数を基準境界周波数とし、該基準境界周波数を含むスペクトラムを有する境界信号を出力し、
前記周波数ずれ検出手段は、前記境界信号のスペクトラムのうち、前記ミリ波帯フィルタの通過帯域が切り換わる直前の前記基準境界周波数のレベルと、通過帯域が切り換わった直後の前記基準境界周波数のレベルとの差を求めることで、前記周波数ずれの有無を検出していることを特徴としている。
【0028】
また、本発明の請求項3のミリ波帯スペクトラム解析装置は、請求項1または請求項2記載のミリ波帯スペクトラム解析装置において、
前記境界信号入力手段による前記境界信号の入力および前記境界信号観測指定手段による観測周波数範囲の指定を、装置起動時に行なうことを特徴とする。
【0029】
また、本発明の請求項4のミリ波帯スペクトラム解析装置は、請求項1〜3のいずれかに記載のミリ波帯スペクトラム解析装置において、
前記ミリ波帯フィルタが、第1導波管(21)と、該第1導波管の一端側を僅かに隙間のある状態で受け入れる第2導波管(30)とを含み、前記第1導波管の一端側に前記一対の電波ハーフミラーの一方が配置され、前記第2導波管の導波路内に前記一対の電波ハーフミラーの他方が配置され、前記間隔可変手段が前記第1導波管に対して前記第2導波管を導波路の長さ方向に沿って相対的に移動させる構造を有し、
さらに、前記第2導波管は、所定厚さの板状部に前記第1導波管の一端側を受け入れる口径の第1導波路を形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第1導波路形成体(31)と、所定厚さの板状部に前記第1導波路より小口径の第2導波路を形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第2導波路形成体(32)とで構成され、前記第1導波路形成体と前記第2導波路形成体の板状部を、それぞれの角穴同士が同心に連続するように重ね合わせた状態で連結、分離可能に形成し、前記電波ハーフミラーが前記第1導波路と前記第2導波路の境界部に設けられていることを特徴とする。
【0030】
また、本発明の請求項5のミリ波帯スペクトラム解析装置に用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法は、
スペクトラムの解析対象となる被測定信号を入力させる入力端子(10a)と、
ミリ波帯の第1の周波数帯の電磁波をTE10モードで一端から他端に伝搬させる導波管によって形成される導波路(22、30a、30b)と、該導波路の内部を塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向配置され、前記第1の周波数帯の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもつ平面型の一対の電波ハーフミラー(40A、40B)と、指定された間隔制御値に基づいて前記一対の電波ハーフミラーの間隔を可変し、該一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を前記第1の周波数帯の範囲で変化させる間隔可変手段(50)とを有し、前記被測定信号を入力信号として前記導波路の一端に受け、該入力信号から前記共振周波数を通過中心周波数とする帯域の信号成分を抽出して他端側から出力するミリ波帯フィルタ(20)と、
前記ミリ波帯フィルタの出力信号を、周波数固定の第1のローカル信号のミキシングにより前記第1の周波数帯より低い第2の周波数帯に変換する周波数変換部(100)と、
前記周波数変換部によって前記第2の周波数帯に変換された信号の各周波数成分を、周波数掃引可能な第2のローカル信号を用いて所定の中間周波数帯に変換して、前記各周波数成分のレベルを検出するスペクトラム検出部(110)と、
前記ミリ波帯フィルタの前記通過中心周波数と前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値とを関連付ける情報をフィルタ制御情報として記憶しているフィルタ制御情報記憶手段(125)と、
前記第1の周波数帯のうちの所望の観測周波数範囲と周波数分解能が指定されたとき、前記フィルタ制御情報記憶手段に記憶されているフィルタ制御情報にしたがって、前記ミリ波帯フィルタの前記間隔可変手段に指定する前記間隔制御値を変化させて、前記観測周波数範囲をカバーするように前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数をその通過帯域幅以下の所定ステップで変化させるとともに、前記スペクトラム検出部の前記第2のローカル信号の周波数を前記所定ステップより狭い間隔で掃引制御して、前記観測周波数範囲の信号のスペクトラム波形を前記周波数分解能で検出させる制御部(120)とを備えたミリ波帯スペクトラム解析装置の前記ミリ波帯フィルタの制御情報補正方法であって、
前記ミリ波帯フィルタの通過中心周波数が前記所定ステップで変化することによって切り換わる二つの隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号を発生して前記ミリ波帯フィルタに入力させる段階と、
前記境界信号が前記ミリ波帯フィルタに入力されている状態で、前記境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲を前記制御部に指定して前記境界信号のスペクトラムを検出させる段階と、
前記境界信号について得られたスペクトラムの前記二つの通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値を前記ミリ波帯フィルタに指定したときに前記所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生ずる周波数ずれの有無を検出する段階と、
前記検出した周波数ずれが小さくなる方向に、前記フィルタ制御情報記憶手段のフィルタ制御情報を補正する段階とを含んでいることを特徴としている。
【0031】
また、本発明の請求項6のミリ波帯スペクトラム解析装置に用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法は、請求項5記載のミリ波帯スペクトラム解析装置に用いるミリ波帯フィルタの制御情報補正方法において、
前記境界信号の前記ミリ波帯フィルタへの入力および前記境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲の指定を装置起動時に行なうことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
このように、本発明では、入力端子から入力された被測定信号を、導波路内に対向配置した1対の電波ハーフミラーの間隔を可変することで共振周波数を可変させる構造のミリ波帯フィルタに入力し、そのミラー間隔で決まる周波数成分を選択的に通過させ、周波数固定の第1のローカル信号とのミキシングにより第2の周波数帯に変換し、その変換された信号成分を、周波数掃引される第2のローカル信号とのミキシングにより所定の中間周波数帯に変換してそのレベル検出を行なう構成であり、さらに、ミリ波帯フィルタが、第1導波管とその第1導波管の一端側を僅かに隙間のある状態で受け入れる第2導波管とを含み、第1導波管の一端側と第2導波管の導波路内に電波ハーフミラーをそれぞれ配置し、第1導波管に対して第2導波管を導波路の長さ方向に沿って相対的に移動させる構造をもつミリ波帯スペクトラム解析装置において、ミリ波帯フィルタの通過中心周波数が所定ステップで変化することによって切り換わる二つの隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号を発生してミリ波帯フィルタに入力させるとともに、境界信号のスペクトラムを観測するために必要な観測周波数範囲を制御部に指定して境界信号のスペクトラムを検出させ、そのスペクトラムの二つの通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値をミリ波帯フィルタに指定したときに所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生ずる周波数ずれの有無を検出し、検出した周波数ずれが小さくなる方向に、フィルタ制御情報を補正している。
【0033】
このため、ミリ波帯フィルタに接続される回路の接続状態や環境変動などより、ミリ波帯フィルタの所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生じた周波数ずれは、境界信号のスペクトラム解析で得られた二つの通過帯域の境界部におけるレベルの差として現れ、そのレベルの差が小さくなる方向にフィルタ制御情報を補正すれば周波ずれも小さくなって、現状におけるミリ波帯フィルタの通過中心周波数を間隔制御値に正しく対応させることができ、上記周波数ずれによるスペクトラム解析結果への影響を抑制でき、ミリ波帯のスペクトラム解析を正しく行なうことができる。
【0034】
また、請求項3および請求項6のように、境界信号入力手段による境界信号の入力および境界信号観測指定手段による観測周波数範囲の指定を、装置起動時に自動的に行なえば、起動後には、測定者は、現状でのミリ波帯フィルタの間隔制御値と通過中心周波数との対応関係と記憶されているフィルタ制御情報とのずれを意識することなく、ミリ波帯の被測定信号に対するスペクトラム解析を常に正しく行なうことができる。
【0035】
また、請求項4のようにミリ波帯フィルタを第1導波管と第2導波管を含む構成とし、さらに第2導波管を構成する第1導波路形成体と第2導波路形成体を、その板状部が、それぞれの角穴同士が同心に連続するように重ね合わせた状態で連結、分離可能に形成されたものでは、第1導波管に対する第2導波管の位置合わせが容易に行なえ、導波管の相対的な移動をスムースに行なうことができる。また、この構造では、入力端子側あるいは周波数変換部側との回路接続を第2導波路形成体に対して行なうことになり、その接続を例えば所定規格のフランジ構造で行なうとネジの締め付け力に応じて変形が生じて電波ハーフミラーの間隔を変化させてしまい、実際の通過中心周波数と間隔制御値との間にずれが生じやすいが、前記したように実装状態において境界信号のスペクトラム解析によりフィルタ制御情報を現状に合うように補正するので、接続形態によるミラー間隔の変化に容易に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態の構成図
図2】ミリ波帯フィルタの駆動パルス数と通過中心周波数との関係を示す図
図3】ミリ波帯フィルタの通過中心周波数と第2のローカル信号の周波数の可変制御の例を示す図
図4】ミリ波帯フィルタの通過帯域と境界信号の周波数関係を示す図
図5】周波数ずれがない場合のミリ波帯フィルタの通過帯域と検出された境界信号のスペクトラムを示す図
図6】周波数が低い方にずれている場合のミリ波帯フィルタの通過帯域と検出された境界信号のスペクトラムを示す図
図7】周波数が高い方にずれている場合のミリ波帯フィルタの通過帯域と検出された境界信号のスペクトラムを示す図
図8】ミリ波帯フィルタの構造例を示す図
図9】ミリ波帯フィルタの構造例を示す図
図10】ハーモニックミキサの回路図
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明を適用したミリ波帯スペクトラム解析装置10の構成を示している。
【0038】
このミリ波帯スペクトラム解析装置10は、ミリ波帯フィルタ20、周波数変換部100、スペクトラム検出部110、制御部120、フィルタ制御情報記憶手段125、操作部130、表示器140、補正処理部200を有している。
【0039】
ミリ波帯フィルタ20の基本的な構造としては、110〜140GHzのミリ波帯の電磁波をTE10モードで伝搬させる口径2mm×1mm程度の導波管型の導波路20a内に、その導波路を塞ぐようにして対向する一対の電波ハーフミラー40A、40Bを配置し、その間隔d(管内波長λgの1/2に相当)で共振周波数(光速/2dに等しい)が決まる共振器を形成したものであり、入力端子10aから入力されたミリ波帯の被測定信号Sinを、導波路の一端側に受け入れて他端側に伝播させ、間隔dをもって対向する電波ハーフミラーが形成する共振器の共振周波数に等しい通過中心周波数Fcを中心として所定の通過帯域Fwの信号成分を抽出して、他端側から出力する。なお、例えば間隔dを1.5mm、光速を3×10mとすれば、共振周波数は、概算で、
3×10/(3×10−3)=1011Hz=100GHz
となる。
【0040】
このミリ波帯フィルタ20は、電波ハーフミラー間隔dを所定範囲内で可変する間隔可変手段50(スライド機構)を有しており、その間隔可変手段50の駆動源(例えばステッピングモータ)を制御信号で駆動することで、通過中心周波数Fcを第1の周波数帯(例えば110〜140GHz)内で可変できる。このミリ波帯フィルタ20の具体的な構造等に関しては後述する。
【0041】
ミリ波帯フィルタ20から出力される信号Saは、周波数変換部100に入力される。周波数変換部100は、信号Saを周波数固定の第1のローカル信号L1のミキシングにより第1の周波数帯より低い第2の周波数帯に変換するものであり、アイソレータ101、ミキサ102、ローカル信号発生器103、ローパスフィルタ104により構成される。
【0042】
アイソレータ101は、信号Saをミキサ102に入力するとともに、ミキサ102側からミリ波帯フィルタ20への反射成分を抑圧して、ミリ波帯フィルタ20の共振動作に悪影響が出ないようにしている。
【0043】
ローカル信号発生器103は、周波数固定(例えば105GHz)の第1のローカル信号L1を出力する。この100GHzを越える第1のローカル信号L1の生成は、例えば15GHzの固定発振器の出力を逓倍器で7逓倍することで得られる。この逓倍処理では周波数が固定であるので、狭帯域の固定フィルタを用いて不要な次数の高調波を除去できる。この固定フィルタとして上記ミリ波帯フィルタ20(あるいは以下に述べる各ミリ波帯フィルタ)で電波ハーフミラー間の共振周波数が105GHzとなる間隔に固定したものを用いることができる。このミリ波帯フィルタの通過帯域幅は数100MHzであるから、10GHz以上離れた不要次数の高調波と所望次数の高調波とをほぼ完全に分離でき、ミキサ102に不要な高調波を与える心配がない。
【0044】
ミキサ102は、第1の周波数帯(110〜140GHz)の信号Saと、第1のローカル信号L1(105GHz)をミキシングしてその和と差の周波数成分を出力するが、そのうち、第2の周波数帯である差の周波数成分(5〜35GHz)がローパスフィルタ104で抽出される。なお、ミキサ102の特性が和成分の帯域(215GH以上)に応答しない場合、ローパスフィルタ104を省略しても、第2の周波帯の差の周波数成分(5〜35GHz)を出力させることができる。
【0045】
周波数変換部100で第2の周波数帯に変換された信号Sbは、スペクトラム検出部110に入力される。スペクトラム検出部110は、信号Sbに含まれる各周波数成分を、周波数掃引される第2のローカル信号L2を用いて所定中間周波数帯Fifに変換し、各周波数成分のレベルを検出する。
【0046】
このスペクトラム検出部110の構成は、第2の周波数帯(例えば5〜35GHz)の信号のスペクトラム検出が高精度にできるものであれば任意であり、この帯域のスペクトラム解析が可能な既存のスペクトラムアナライザを用いることもできる。
【0047】
ここでは最も簡単な例として、ミキサ111、ローカル信号発生器112、中間周波フィルタ113、レベル検出器114、D/A変換器115、A/D変換器116により構成されているものとする。
【0048】
ミキサ111は、第2の周波数帯の信号Sbを、ローカル信号発生器112から出力される第2のローカル信号L2によりミキシングし、その和と差の周波数成分を出力する。ここで、仮に中間周波数帯を4GHzとし、第2のローカル信号L2の周波数掃引範囲を9〜39GHzとすれば、ミキサ111の出力のうち差の周波数成分を中心周波数4GHzの中間周波フィルタ113で抽出すればよい。なお、実際にはこの4GHzの信号を周波数固定のローカル信号でさらに低い中間周波数帯(数MHz〜数10MHz)に変換して、狭帯域なフィルタを用いて周波数分解能を高くする必要があるが、ここでは最も単純化した構成で考える。
【0049】
レベル検出器114は中間周波数帯に変換された信号を検波することで、信号レベルを電圧に変換して、A/D変換器116に出力する。
【0050】
一方、ローカル信号発生器112は、YIGを共振子として用いたYTOを発振源とし、D/A変換器115から入力される掃引制御信号の電圧に比例した電流でYTOを駆動して、第2のローカル信号L2の周波数を掃引させる。
【0051】
制御部120は、使用者が操作部130によって設定した観測周波数範囲や周波数分解能に応じて、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数の可変制御、スペクトラム検出部110のローカル信号の掃引制御、中間周波数帯の帯域幅(周波数分解能)制御等を行い、観測周波数範囲におけるスペクトラム波形のデータを取得し、その波形データを表示器140に表示させる。
【0052】
ここで、前記したように、ミリ波帯フィルタ20は、導波路内の一対の電波ハーフミラー間隔dを機械的に可変させることで通過中心周波数が変化するが、これを正確な再現性をもって制御するためには、デジタル的なデータで正確に駆動されるステッピングモータを駆動源として用い、そのステッピングモータで変化する電波ハーフミラー間隔とミリ波帯フィルタ21の通過中心周波数と関係を予め求めておく必要がある。
【0053】
例えば、電波ハーフミラー間隔dが機構的制限で決まる最長または最短の状態を基準状態とし、図2の特性Fのように、その基準状態から駆動源であるステッピングモータへ与えるパルスの数(これを間隔制御値としてもよい)と通過中心周波数との関係を予め求めておき、これをフィルタ制御情報として記憶しておく。なお、電波ハーフミラー間隔dは共振波長に比例するので、その間隔dがパルス数に比例する機構を用いていれば、フィルタの通過中心周波数はパルス数に反比例する、つまり非直線的に変化することになる。
【0054】
また、上記したようにミラー間隔を機械的に変化させる構造のフィルタでは、制御信号の最小ステップで可変できる間隔が機械的な制限で決まり、スペクトラム検出部110のような周波数分解能(例えば数100Hz)に応じた微小なステップで可変させることは困難であり、また、図2に示したように間隔と周波数の関係が非直線性であることを考慮すると、30GHz幅の範囲を数100MHzステップ程度(例えば200MHzステップ程度)で可変するのが現実的となる。ただし、フィルタの通過帯域幅(例えば3dB帯域幅)はステップ可変幅以上であることが条件となる。
【0055】
したがって、例えば110GHz〜140GHzの全範囲を1MHzステップで細かくスペクトラム解析する場合、図3のように、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを例えば下限に近い110.1GHzに固定した状態(通過帯域は110.0〜110.2GHzとなる)で、スペクトラム検出部110の第2のローカル信号の周波数FL2
を9.0GHzから9.2GHzまで1MHzステップで200MHz分掃引させて、ミリ波帯フィルタ20を通過した200MHz幅の信号のスペクトラムを取得した後に、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを200MHzだけ高く可変させるという処理を150回繰り返すことで、110GHz〜140GHzの全範囲のスペクトラムを取得させる。
【0056】
つまり、この構成のミリ波帯スペクトラム解析装置10では、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcを固定した状態で、その通過帯域幅(あるいはそれ以下でもよい)のスペクトラム成分をスペクトラム検出部110のローカル信号の掃引により検出してから、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数Fcをその通過帯域幅に近いステップで可変させるという処理を繰り返して、所望の観測周波数範囲のスペクトラムデータを取得することになる。
【0057】
図2に示したようなミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数と間隔制御値(前記した例で言えば駆動装置のステッピングモータへのパルス数や間隔値d等)との関係を示す情報は、フィルタ制御情報記憶手段125に予め記憶されており、制御部120は、フィルタ制御情報記憶手段125から、指定された観測周波数範囲をカバーするのに必要な通過中心周波数に対応する間隔制御値を順次読み出してミリ波帯フィルタ20へ与えることになる。
【0058】
また、制御部120は、上記周波数関係の制御の他に、ミリ波帯フィルタ20、周波数変換部100、スペクトラム検出部110の周波数特性が全帯域にわたって一定でないことによるレベル偏差を補正するためのレベル補正処理(この処理は制御部120内で行なわれるものとする)を行なう。
【0059】
周波数変換部100やスペクトラム検出部110の周波数特性は、予めレベルの既知な基準信号を全観測帯域に入力したときに検出されるスペクトラムが正しくなるような補正データを用意しておき、周波数毎にその補正データでレベル補正を行なえばよい。
【0060】
ミリ波帯フィルタ20については、フィルタの通過中心周波数の損失だけでなく、その両側の通過帯域幅分(前記例では±100MHz)の損失特性(即ち、フィルタの通過特性形状)も問題となるので、図3の(b)のように、通過帯域全体の損失値Loss(1,1)、Loss(1,2)、……を想定される周波数分解能で求めておき、第2の制御モードで掃引される場合には、フィルタの通過中心周波数毎の通過帯域全体の損失データを基に補正処理をする。
【0061】
このような制御を行なうことで、ミリ波帯、特に100GHzを越える領域のミリ波帯の信号に対するスペクトラム解析を行なうことができる。
【0062】
ただし、上記した制御部120の処理では、フィルタ制御情報記憶手段125に記憶されているフィルタ制御情報と、このミリ波帯スペクトラム観測装置10に実装された状態におけるミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数と間隔制御値との関係がずれている場合に対処できない。
【0063】
例えば、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数と間隔制御値との対応関係を単体で測定して得られたフィルタ制御情報をフィルタ制御情報記憶手段125の情報として用いた場合、前記したようにミリ波帯フィルタ20を装置内に実装して入力端子20aや周波数変換部100に接続する際に、導波管に対するネジ止めで回路接続を行なうことによる変形が生じて、ミラー間隔が狭い方あるいは広い方に変化してしまい、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値を与えても、上記変形による間隔変化分だけずれた通過中心周波数となってしまう。
【0064】
仮にミラー間隔が狭くなるような変形が起きた場合、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数と前記したパルス数等の制御値との対応関係が、図2のFの状態からF′の状態にシフトしてしまい、この状態で通過中心周波数をfxにするためのパルス数Pxを与えても、実際の通過中心周波数はF′の特性からfxより高い周波数fx′になってしまう。
【0065】
このように通過中心周波数がずれると、前記した損失分の補正処理もずれた周波数で行なうことになり、被測定信号のスペクトラムのレベルに誤差が生じてしまう。
【0066】
これを解決するために、実施形態のミリ波帯スペクトラム解析装置10には、補正処理部200が設けられている。
【0067】
補正処理部200には、境界信号発生手段201、境界信号入力手段202、境界信号観測指示手段203、周波数ずれ検出手段204およびフィルタ制御情報補正手段205が含まれている。なお、補正処理部200は、例えばミリ波帯スペクトラム解析装置10の装置起動時(電源投入時やリセット動作後)に自動的に動作を開始したり、前記した操作部130に対する特定操作がなされたときに動作を開始するものとする。
【0068】
境界信号発生手段201は、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数が前記した所定ステップで変化することによって切り換わる二つの隣り合う通過帯域にまたがるスペクトラムを有する境界信号Hを発生する。
【0069】
より具体的に言えば、境界信号発生手段201は、フィルタ制御情報記憶手段125に記憶されているフィルタ制御情報に対してミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数と間隔制御値との関係が正しく対応していると仮定した条件の下で、所定ステップで切り換わる二つの通過帯域の周波数特性が交わる周波数(通過帯域が切り換わるときの解析周波数)を基準境界周波数とし、その基準境界周波数を含むスペクトラムを有する境界信号を出力する。
【0070】
図4は、ミリ波帯フィルタ20の通過帯域と境界信号のスペクトラムを表すものであり、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数を前記したように所定のステップ(200MHz)で可変させる際に、図4の(a)のように、ある通過中心周波数fc(n) に設定したときの通過帯域の周波数特性G(n) と、その隣の通過中心周波数fc(n+1) に設定したときの通過帯域の周波数特性G(n+1) とが交わる周波数fp(n) を基準境界周波数とし、その基準境界周波数fp(n) を含むスペクトラムを有する境界信号Hを出力する。なお、この境界信号Hの基準境界周波数fp(n) におけるレベルは、スペクトラム検出部110で検出可能なレベル範囲に設定されている。境界信号Hのスペクトラムの形状は、基準境界周波数およびその前後で大きな変動がないものであれば任意あり、同図(b)に示すように境界周波数fp(n) でピークとなる単峰形や、同図(c)のような台形、あるいは同図(d)のような双峰形であってもよい。
【0071】
境界信号入力手段202は、境界信号Hをミリ波帯フィルタ20に入力させるためのものであり、入力端子20aから入力される被測定信号Sinと、境界信号Hのいずれか一方を選択的にミリ波帯フィルタ20に入力させるスイッチ形式(この場合、通常の観測モードと補正処理モードとの切り替え制御が必要となる)のものや、ミリ波帯フィルタ20に対する被測定信号Sinの入力経路に境界信号Hの信号経路を合流させる方向性結合器形式のもの等が採用できる。
【0072】
境界信号観測指示手段203は、境界信号Hがミリ波帯フィルタ20に入力されている状態で、制御部120に対して境界周波数fp(n) を含む周波数範囲を観測周波数範囲として指定して境界信号Hのスペクトラムを検出させる。
【0073】
この指示を受けた制御部120は、基準境界周波数fp(n) を含む周波数範囲がカバーされるように、ミリ波帯フィルタ20の通過中心周波数が、少なくとも所望の通過中心周波数fc(n) とfc(n+1) となるように間隔制御値を切り替え、所定の分解能(例えば1MHz)で第2ローカル信号の掃引を行う。これによって、スペクトラム検出部110により、基準境界周波数fp(n) を含む周波数範囲のスペクトラムが検出され、前記レベル補正がなされることになる。
【0074】
このようにして得られた境界信号Hのスペクトラムは、周波数ずれ検出手段204によって解析される。周波数ずれ検出手段204は、境界信号Hについて得られたスペクトラムの二つの通過帯域の境界部に生じるレベル差に基づいて、所望の通過中心周波数に対応する間隔制御値をミリ波帯フィルタ20に指定したときに所望の通過中心周波数と実際の通過中心周波数との間に生ずる周波数ずれの有無を検出する。
【0075】
より具体的に言えば、周波数ずれ検出手段204は、境界信号Hのスペクトラムのうち、ミリ波帯フィルタ20の通過帯域が切り換わる直前の基準境界周波数fp(n) のレベルLp(n) と、通過帯域が切り換わった直後の基準境界周波数fp(n) のレベルLp(n)′の差ΔLpを求めることで、周波数ずれの有無を検出している。
【0076】
また、フィルタ制御情報補正手段205は、周波数ずれ検出手段204によって検出される周波数ずれが小さくなる方向(前記レベルの差ΔLpが小さくなる方向)に、フィルタ制御情報記憶手段125のフィルタ制御情報を補正する。このフィルタ制御情報の補正は、間隔制御値に対して通過中心周波数のデータを増減補正する方法と、通過中心周波数のデータに対して間隔制御値を増減補正する方法があり、そのどちらも採用できるが、ここでは間隔制御値に対して増減補正する場合について説明する。
【0077】
なお、通過中心周波数のデータを補正する場合、前記したようにミラー間隔に対して周波数は非直線的に変化するのである通過中心周波数の位置で周波数ずれが小さくなるように周波数データの見かけ上の補正をしてもその補正量で他の通過中心周波数の補正を行なうと誤差が生じるので、通過中心周波数毎に補正量を求める必要がある。
【0078】
これに対し、前記したように間隔補正値を補正する場合には、周波数ずれの要因となる間隔のパラメータを直接的に補正するので、図2に示したように特性がFからF′へシフトした状態であれば、一つの境界周波数で求めた補正量をそのまますべての間隔制御値に反映させることで、シフトした特性F′を見かけ上特性Fに戻すことができる。
【0079】
次に、この補正処理部200の動作について説明する。
図5の(a)は、ミリ波帯フィルタ20の実際の通過中心周波数と間隔制御値の対応関係にずれがない理想的な状態において、通過中心周波数がfc(n) となるように間隔制御値を設定したときの周波数特性G(n) と、通過中心周波数がfc(n+1) となるように間隔制御値を設定したときの周波数特性G(n+1) を表している。
【0080】
この場合、前記したように基準境界周波数fp(n) で両周波数特性が交わっているので、スペクトラム検出部110で検出される境界信号H(スペクトラム形状を単峰形とする)のスペクトラム(レベル補正前のスペクトラム)は、図5の(b)のように、低い方の通過帯域を通過して基準境界周波数fp(n) に達したときのレベルと、高い方の通過帯域に切り換わったときの基準境界周波数fp(n) におけるレベルとの間に差がなく左右対称な形状となり、このスペクトラムに対して、基準境界周波数fp(n) を中心とするほぼ対称なレベル補正処理を行なうことで、図5の(c)のように元の境界信号のスペクトラムに相似した単峰形のスペクトラムが得られる。
【0081】
したがって、この場合、周波数ずれ検出手段204で検出されるレベル差ΔLpはほぼゼロとなり、フィルタ制御情報補正手段205よるフィルタ制御情報の補正処理は行なわれない。
【0082】
これに対し、図6の(a)のように、通過中心周波数がfc(n) となるように間隔制御値を設定したときの通過帯域の周波数特性G(n) と、通過中心周波数がfc(n+1) となるように間隔制御値を設定したときの通過帯域の周波数特性G(n+1) が、Δfだけ低い方にずれている場合、スペクトラム検出部110で検出される境界信号Hのスペクトラムは、図6の(b)のように、低い方の通過帯域を通過して基準境界周波数fp(n) に達したときのレベルLp(n) が上記した正常状態よりΔL1だけ下がり、高い方の通過帯域に切り換わったときの境界周波数fp(n) におけるレベルLp(n)′が、正常状態よりΔL2だけ高くなり、通過中心周波数の切り替え時の基準境界周波数fp(n) におけるレベルがΔL1+ΔL2の差を持って不連続な左右非対称形状となる。
【0083】
このスペクトラムに対して、基準境界周波数fp(n) を中心とするほほ対称なレベル補正処理を行なっても、図6の(c)のように左右非対称なスペクトラム形状となり元の境界信号のスペクトラムは再現されない。
【0084】
したがって、この場合、周波数ずれ検出手段204で検出されるレベル差ΔLpはΔL1+ΔL2に等しい大きな値となるので、フィルタ制御情報補正手段205によるフィルタ制御情報の補正処理が行なわれる。
【0085】
この場合、検出した境界信号のスペクトラムが、基準境界周波数を境にして不連続に増大変化しているので、フィルタ制御情報補正手段205は、通過中心周波数が低い方にずれた(ミラー間隔が広くなる方向にずれた)と認識し、ミリ波帯フィルタ20に対して指定する間隔制御値に負の補正を掛けて、実際のミラー間隔が狭くなる(通過中心周波数が高くなる)方向に制御する。なお、実際の補正は、フィルタ制御情報記憶手段125に記憶されている各間隔制御値に対して共通の補正値を減算補正(直接的補正)するか、制御部120に対してその補正値を通知して、制御部120がミリ波帯フィルタ20に指定する間隔制御値を通知した補正値分減算してもらう(関節的補正)。
【0086】
また逆に、図7の(a)のように、通過中心周波数がfc(n) となるように間隔制御値を設定したときの通過帯域の周波数特性G(n) と、通過中心周波数がfc(n+1) となるように間隔制御値を設定したときの通過帯域の周波数特性G(n+1) が、Δfだけ高い方にずれている場合、スペクトラム検出部110で検出される境界信号Hのスペクトラムは、図7の(b)のように、低い方の通過帯域を通過して基準境界周波数fp(n) に達したときのレベルLp(n) が上記した正常状態よりΔL3だけ上がり、高い方の通過帯域に切り換わったときの基準境界周波数fp(n) におけるレベルLp(n)′が、正常状態よりΔL4だけ低くなり、通過中心周波数の切り替え時の境界周波数fp(n) におけるレベルがΔL3+ΔL4の差を持って不連続な左右非対称形状となる。
【0087】
このスペクトラムに対して、基準境界周波数fp(n) を中心とする対称なレベル補正処理を行なっても、図7の(c)のように左右非対称なスペクトラム形状となり元の境界信号のスペクトラムは再現されない。
【0088】
したがって、この場合も、周波数ずれ検出手段204で検出されるレベル差ΔLpはΔL3+ΔL4に等しい大きな値となるので、フィルタ制御情報補正手段205によるフィルタ制御情報の補正処理が行なわれる。この場合、検出した境界信号のスペクトラムが、基準境界周波数を境にして不連続に減少変化しているので、フィルタ制御情報補正手段205は、通過中心周波数が高い方にずれた(ミラー間隔が狭くなる方向にずれた)と認識し、ミリ波帯フィルタ20に対して指定する間隔制御値に正の補正を掛けて、実際のミラー間隔が広くなる(通過中心周波数が低くなる)方向に制御する。
【0089】
なお、実際の補正処理としては、間隔制御値を元の値に対して一定値Δdだけ減算補正あるいは加算補正して再度レベル差ΔLpを求めるという処理を、レベル差ΔLpが予め設定した許容範囲に入るまで繰り返す方法や、検出したレベル差ΔLpの大きさから、必要な補正値Dを推定し、その推定した補正値Dの分だけ間隔制御値を減算補正あるいは加算補正して再度レベル差ΔLpを求めるという処理を、レベル差ΔLpが予め設定した許容範囲に入るまで繰り返す方法等を採用できる。
【0090】
上記実施形態では、ミリ波帯フィルタ20の構造を簡略化して示したが、実際にミラー間隔を可変するためには、図8に示すミリ波帯フィルタ20′のように、第1導波管21と、第1導波管21の一端側を僅かに隙間のある状態で受け入れる第2導波管30とを含み、第1導波管21の導波路22の一端側に一方の電波ハーフミラー40Aを配置し、第2導波管30の導波路30a、30bの境界部に他方の電波ハーフミラー40Bを配置し、間隔可変手段50によって第1導波管21に対して第2導波管30を導波路の長さ方向に沿って相対的に移動させる構造が基本となる。ここで、電波ハーフミラー40A、40Bの構造ついては任意であるが、基本的には通過させたいミリ波帯の電磁波の一部を反射させ、一部を透過させるものであればよく、単純な形状としては電磁波を反射させる金属の基板に、電磁波を透過させるスリットを設けたものが採用できる。
【0091】
また、さらに導波管同士の位置合わせを容易にするための構造として、図9に示すミリ波帯フィルタ20″のように、第2導波管30を、所定厚さの板状部に第1導波管21の一端側を受け入れる口径の第1導波路30aを形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第1導波路形成体31と、所定厚さの板状部に第1導波路30aより小口径(通常は第1導波管21の導波路22と同一口径とする)の第2導波路30bを形成する角穴が厚さ方向に貫通形成された第2導波路形成体32とで構成し、第1導波路形成体31と第2導波路形成体32の板状部を、それぞれの角穴同士が同心に連続するように重ね合わせた状態でネジ止めなどによって連結、分離可能に形成し、電波ハーフミラー40Bが第1導波路30aと第2導波路30bの境界部に設けた構造が採用できる。
【0092】
この構造の場合、第2導波路形成体32を取り付けない状態で、第1導波管21と第1導波路形成体31とをその導波路が同心となるように位置合わせすることが容易に行なえ、導波管の相対的な移動をスムースに行なうことができる。また、この構造では、入力端子10a側あるいは周波数変換部100側との回路接続を第2導波路形成体32に対して行なうことになり、その接続を例えば所定規格のフランジ構造で行なうとネジの締め付け力に応じて変形が生じて電波ハーフミラーの間隔を変化させてしまい、実際の通過中心周波数と間隔制御値との間にずれが生じやすいが、前記したように実装状態において境界信号のスペクトラム解析によりフィルタ制御情報を現状に合うように補正するので、接続形態によるミラー間隔の変化に容易に対応できる。
【0093】
上記ミリ波体フィルタ20′20″はその基本構造を示したものであり、前記特許文献3、4に示した各種変形例(電磁波漏出防止用の溝を設けた例、ハイパスフィルタやバンドリジェクションフィルタを設けた例等)を採用することも可能である。
【符号の説明】
【0094】
10……ミリ波帯スペクトラム解析装置、20、20′、20″……ミリ波帯フィルタ、21、30……導波路、40A、40B……電波ハーフミラー、50……間隔可変手段、100……周波数変換部、110……スペクトラム検出部、120……制御部、125……フィルタ制御情報記憶手段、130……操作部、140……表示器、200……補正処理部、201……境界信号発生手段、202……境界信号入力手段、203……境界信号観測指示手段、204……周波数ずれ検出手段、205……フィルタ制御情報補正手段
図1
図2
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図6
図7
図8
図9
図10