【発明が解決しようとする課題】
【0005】
静電吐出方式の液体吐出ヘッドの場合には、ヘッドと対象基板の間に生じる静電気力を利用している。したがって、吐出対象の素材が非導電性素材(誘電性あるいは誘電性の高い素材)に限定されるという制約がある。ピエゾ駆動式等の他の駆動形式の液体吐出ヘッドを用いることも可能であるが、これらは粘性の高い液体を吐出あるいは滴下することが困難である。例えば、UV硬化樹脂等の高粘度樹脂液材、Agペースト等の高粘度金属ペーストを、ナノリットルオーダーあるいはピコリットルオーダーで吐出、滴下することが困難である。
【0006】
そこで、空圧式等の液体ディスペンサのノズル径を0.5mm以下、例えば、0.1mm以下の微小径とし、微小液滴を吐出すること、微細幅で線画を描くこと等が考えられる。しかしながら、このような微小径ノズルから液体を、一定の微小流量で吐出させること(断続して流出させること)、あるいは、一定の微小流量で連続して流出させることは困難である。
【0007】
すなわち、微小径のノズルから微小量の液体を流出させるためには、ノズルから流出する微小量の液体に等しい液体を正確にノズルに向けて供給する必要がある。しかも、微小径のノズルから微小量の液体が正確に流出するように、精度良く管理された圧力で液体をノズルに供給する必要がある。
【0008】
例えば、ノズルに供給される液体の加圧力が低い場合には、ノズルから液体を吐出、あるいは流出させることができない。液体の加圧力を高めると、一度に多量の液体がノズルから吐出あるいは流出し、その後はノズル内の液体圧力が一時的に下がるので、液体の吐出あるいは流出が不安定になる。これが繰り返されてしまい、連続して一定の微細幅で線画等を描くことができない。また、ノズルに対する塗れ上がりにより塗布量が不安定になってしまう。
【0009】
ここで、静電吐出式の液体吐出ヘッド等とは異なり、液体ディスペンサにおける液体流量の制御精度、液体圧力の制御精度は、ナノリットルオーダーからピコリットルオーダーの微量液体をノズルから流出させることができる程には高くない。すなわち、液体を定量供給するために容積形ポンプが一般に使用されている。容積形ポンプを用いてナノリットルオーダー以下の微量の液体を精度良く吐出するためには、ポンプ室を小容量にし、ポンプ室から液体を吐出させるためのプランジャ、スクリューなどの摺動部材とポンプ室の内周面との間のシール性を高い精度で確保する必要がある。しかしながら、このような微量の液体吐出精度を備えたポンプを入手することは困難である。
【0010】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、例えば0.5mm以下の微小径のノズルを用いて、ナノリットルオーダー、さらにはピコリットルオーダーの微量液体を精度良く流出可能な微量液体流出方法、および、当該方法を用いて微量液体を流出する微量液体ディスペンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明は、液体塗布対象の媒体表面に対して所定のギャップを開けて上側から対峙させたノズルの液体流出口から、ナノリットルオーダーからピコリットルオーダーまでの範囲の微量液体を流出させる微量液体流出方法であって、
容積形ポンプの吐出口から送り出される液体を前記ノズルに供給する液体供給路を形成し、
前記容積形ポンプのポンプ室内において前記吐出口に向けて送り出される前記液体の一部を、前記吐出口に向かう方向とは異なる方向に分岐させて、前記ポンプ室から外部に排出する液体分岐路を形成し、
前記容積形ポンプを駆動して、前記ポンプ室内において前記吐出口に向けて一定の第1流量で連続して液体を送り出す動作を行わせることによって、前記液体分岐路を通って、一定の第2流量で連続して排出される液体分岐流を形成すると共に、前記吐出口から前記液体供給路に、一定の第3流量で送り出される液体送出流を形成して、
前記ノズルの前記液体流出口から前記微量液体を一定の前記第3流量で連続して流出させることを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、液体塗布対象の媒体表面に対して所定のギャップを開けて上側から対峙させたノズルの液体流出口から、ナノリットルオーダーからピコリットルオーダーまでの範囲の微量液体を流出させる微量液体流出方法であって、
容積形ポンプの吐出口から送り出される液体を前記ノズルに供給する液体供給路を形成し、
前記容積形ポンプのポンプ室内において前記吐出口に向けて送り出される前記液体の一部を、前記吐出口に向かう方向とは異なる方向に分岐させて、前記ポンプ室から外部に排出する液体分岐路を形成し、
前記容積形ポンプを駆動して、前記ポンプ室内において前記吐出口に向けて一定の第1流量で断続して液体を送り出す動作を行わせることによって、断続して送り出される液体の断続送出に同期して、前記液体分岐路を通って、一定の第2流量で断続して排出される液体分岐流を形成すると共に、前記吐出口から前記液体供給路に、一定の第3流量で断続して送り出される液体送出流を形成して、
前記ノズルの前記液体流出口から前記微量液体を一定の前記第3流量で断続して流出させることを特徴としている。
【0013】
本発明者等は、精度良く定量の微量液体を微小径のノズルから流出させるために、容積形ポンプを小型化し、各構成部分を高精度に製作するという従来の考え方、換言すると、液体漏れを完全に無くして高精度に微量液体を吐出できるようにするという考え方とは逆に、ポンプ室内において積極的に液体漏れを生じさせ、吐出口を介してノズル側に向かう液体量と、吐出口に至ることなくポンプ室外に排出される漏れ液体量との割合を調整することで、結果として、微量液体を精度良く吐出口から吐出させてノズルに供給でき、これによって、ノズルから微量液体を精度良く流出させることができるという着想を得た。
【0014】
この着想に基づき、本発明では、容積形ポンプに、液体漏れを積極的に生じさせる液体分岐路を設けている。例えば、ポンプ吐出容量を100とすると、ポンプに設けた液体分岐路から分岐して排出される分岐流量(積極的な液体漏れ量)を99となるように設定すれば、実質的に、容量が1の微量液体を吐出口から送り出して、ノズルに向けて供給することができる。
【0015】
詳しく説明すると、微小量の液体を送り出すためには、極めて小さなサイズのピストンポンプ、モーノポンプなどの容積形ポンプを製作し、それらのピストン、ねじの液体送り出し部材(摺動部材)を極微量で高精度に動作制御することが必要になる。しかしながら、そのような微小なサイズのポンプを精度良く製作すること、および、微小な分解能、精度で液体送り出し部材を駆動制御することは現状では極めて困難である。
【0016】
これに対して、本発明では、上記のように積極的にポンプ内から吐出口を経由せずに、外部に漏れ出る液体分岐流を形成している。これにより、現在入手可能なサイズの容積形ポンプを用いて実現可能な分解能、精度で液体送り出し部材を駆動制御して、微量液体をノズルに向けて送り出すことができる。例えば、ポンプ吐出容量を100とすると、ポンプに設けた液体分岐路から分岐して排出される分岐流量(積極的な液体漏れ量)を99となるように設定すれば、実質的に、容量が1の微量液体をノズルに向けて送り出すことができる。
【0017】
また、ポンプ室内周面と液体送り出し部材の間の液体漏れ量、液体送り出し部材の駆動機構の制御誤差、変動などに起因して生じる液体送り出し量の変動(誤差)も、吐出口から吐き出される吐出量が1/100であるので、1/100に低減される。よって、吐出容量100で液体を送り出す場合における制御誤差等に起因する吐出量変動率と実質的に同一の変動率で、吐出容量1で液体を送り出すことができる。すなわち、吐出容量100のポンプの誤差に起因する吐出量の変動率が1%であるとすると、本発明によれば、同一の吐出容量100のポンプを用いて吐出容量1で液体を送り出す場合の変動率も当該吐出容量1に対して実質的に1%になり、精度良く微量液体を送り出すことができる。
【0018】
このため、現在入手可能な容積形ポンプの構成部品の精度、その制御機構の制御精度等を高めることなく、液体分岐流路を設けて分岐流量を適切に設定することにより、微量液体を液体供給路に送り出すことができる。換言すると、ポンプの微小容量化、高精度化を追求することなく、微量液体を送出可能な液体送出機構を構築でき、ノズルから微量液体を安定して流出させることが可能になる。
【0019】
さらに詳しく説明すると、ノズルの液体流出口が0.5mm以下、例えば0.1mm以下と微小径の場合には、ノズル内の流路抵抗が大きく、液体の供給圧力を高めないと、微量液体をノズルから流出させることができない。液体の供給圧力が高くなり過ぎると、ノズルの液体流出口から一度に液体が多量に流出し、液体の流出状態が不安定になる。このため、液体が塗布される媒体の表面に、一定の微細幅の線画を安定して描くことができず、また、一定の微量の液滴ドットを安定して吐出できない。
【0020】
本発明では、容積形ポンプのポンプ室内において吐出口に向けて送り出される液体流の一部を分岐させて、当該ポンプ室から外部に排出する。例えば、ポンプ室から吐出口を経由して液体供給路に向けて送り出される液体の流路抵抗を、ポンプ室から排出される液体分岐流が流れる液体分岐通路の流路抵抗に対して適切に設定して、容積形ポンプから液体供給路に送り出されてノズルの液体流出口に向かう液体流量と、容積形ポンプに設けた液体分岐路から外部に排出される液体分岐流の分岐流量との割合を調整する。
【0021】
これにより、例えば、容積形ポンプのポンプ室内において吐出口に向けて送り出される液体のうちのごく一部のみを、吐出口を介して液体供給路に供給でき、それ以外を液体分岐流として、液体供給路に送り出すことなく、容積形ポンプから外部に排出することができる。
【0022】
この結果、容積形ポンプから微小流量の液体を送出できなくても、換言すると、容積形ポンプから液体供給路に向けて送り出し可能な最小送り出し流量が、必要とされる微小流量に比べて大幅に多い場合であっても、ノズルの液体流出口から流出させる微量流量に等しい微小流量の液体を、吐出口から流出させて液体供給路を介してノズルに供給できる。よって、精度良く微量液体をノズルの液体流出口から流出させて、塗布対象の媒体表面に塗布することができる。
【0023】
本発明者等によれば、従来においては不可能であった、0.1mm以下の微細径の液体流出口(ノズル口)から、一定の微量流量で液体を流出させることができ、例えば、0.1mm以下の線画あるいは微細パターンを、塗布対象の媒体表面に精度良く形成できることが確認された。
【0024】
本発明において、前記液体分岐路は、
前記ポンプ室の内周面に開口している流路部分、
前記ポンプ室の前記内周面に沿って摺動して液体の送り出し動作を行う摺動部材に形成した流路部分、および、
前記ポンプ室の前記内周面と前記摺動部材の間に形成した流路部分
のうちのいずれか一つを備えた構成とすることができる。
【0025】
また、前記ポンプ室内において前記吐出口に向かう液体流量と、当該ポンプ室内から前記液体分岐路を介して排出される分岐流量との割合を調整して、前記液体分岐流の前記第2流量を調整することができる。
【0026】
通常は、前記液体分岐路に配置した流量調整弁によって、前記液体分岐流の前記第2流量を調整することが望ましい。液体供給路に流量調整弁を配置することも場合によっては可能である。
【0027】
次に、本発明は、液体塗布対象の媒体表面に対して所定のギャップを開けて上側から対峙させたノズルの液体流出口から、ナノリットルオーダーからピコリットルオーダーまでの範囲の微量液体を流出させる微量液体ディスペンサであって、
内径が500μm以下のノズルと、
前記ノズルに液体を供給する液体供給路と、
所定の加圧状態の液体を、ポンプ室から吐出口を介して前記液体供給路に供給する容積形ポンプと、
前記容積形ポンプの内部に形成され、前記ポンプ室内において前記吐出口に向かう前記液体の一部を当該吐出口に向かう方向とは異なる方向に分岐させて前記ポンプ室から外部に排出する液体分岐路と、
前記容積形ポンプを駆動して、前記ポンプ室内において前記吐出口に向けて一定の第1流量で連続して液体を送り出す動作を行わせることによって、前記液体分岐路を通って、一定の第2流量で連続して排出される液体分岐流を形成すると共に、前記吐出口から前記液体供給路に、一定の第3流量で送り出される液体送出流を形成して、前記ノズルの前記液体流出口から前記微量液体を一定の前記第3流量で連続して流出させる動作制御を行う制御部と
を有していることを特徴としている。
【0028】
また、本発明は、液体塗布対象の媒体表面に対して所定のギャップを開けて上側から対峙させたノズルの液体流出口から、ナノリットルオーダーからピコリットルオーダーまでの範囲の微量液体を流出させる微量液体ディスペンサであって、
内径が500μm以下のノズルと、
前記ノズルに液体を供給する液体供給路と、
所定の加圧状態の液体を、ポンプ室から吐出口を介して前記液体供給路に供給する容積形ポンプと、
前記容積形ポンプの内部に形成され、前記ポンプ室内において前記吐出口に向かう前記液体の一部を当該吐出口に向かう方向とは異なる方向に分岐させて前記ポンプ室から外部に排出する液体分岐路と、
前記容積形ポンプを駆動して、前記ポンプ室内において前記吐出口に向けて一定の第1流量で断続して液体を送り出す動作を行わせることによって、断続して送り出される液体の断続送出に同期して、前記液体分岐路を通って、一定の第2流量で断続して排出される液体分岐流を形成すると共に、前記吐出口から前記液体供給路に、一定の第3流量で断続して送り出される液体送出流を形成して、前記ノズルの前記液体流出口から前記微量液体を一定の前記第3流量で断続して流出させる動作制御を行う制御部と
を有していることを特徴としている。
【0029】
ここで、前記液体分岐路に流量調整弁を配置して、前記流量調整弁によって、前記液体分岐流の前記第2流量を調整することができる。
【0030】
また、前記液体分岐路は、
前記ポンプ室の内周面に開口している分岐路部分、
前記ポンプ室の前記内周面に沿って摺動して液体の送り出し動作を行う摺動部材に形成した分岐路部分、および、
前記ポンプ室の前記内周面と前記摺動部材の間に形成した分岐路部分
のうちのいずれか一つを備えていればよい。