【解決手段】第一糸材11と、第一糸材11よりも収縮しやすい第二糸材の双方を構成糸として備えるとともに、第一糸材11が、芯糸20と、芯糸20に対してスパイラル状に巻装される鞘糸(21,22)とを有する繊維製品において、鞘糸(21,22)が、撚り合された複数の機能性線材であるとともに、鞘糸(21,22)のトルク指数が0〜50の範囲に設定される。
第一糸材と、前記第一糸材よりも収縮しやすい第二糸材の双方を構成糸として備えるとともに、前記第一糸材が、芯糸と、前記芯糸に対してスパイラル状に巻装される鞘糸とを有する繊維製品において、
前記鞘糸が、撚り合された複数の機能性線材であるとともに、前記鞘糸のトルク指数が0〜50の範囲に設定される繊維製品。
前記鞘糸が、前記芯糸に近接配置する第一部分と、前記第一部分よりも前記芯糸から離間配置する第二部分とを有し、前記第二部分が、前記第一部分よりも張引にて長さ寸法が大きくされている請求項1に記載の繊維製品。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を、
図1〜
図8を参照して説明する。なお
図2及び
図8では、便宜上、第一糸材と第二糸材の一部にのみ符号を付す。また各図には、適宜、車両用シート前方に符号F、車両用シート後方に符号B、車両用シート上方に符号UP、車両用シート下方に符号DWを付す。
図1の車両用シート2は、シートクッション4と、シートバック6と、ヘッドレスト8を有する。これらシート構成部材は、各々、シート外形をなして乗員を弾性的に支持するクッション材(4P,6P,8P)と、クッション材を被覆する表皮材(4S,6S,8S)を有する。
【0012】
そして本実施例では、シートクッション4の表皮材4S(繊維製品の一例)が通電可能とされており、静電容量式センサの電極又はヒータとして機能する。この表皮材4Sの少なくとも一部は、第一糸材11と第二糸材12を構成糸として有する織物であり、第一糸材11が、芯糸20と、芯糸20に対してスパイラル状に巻装される鞘糸(21,22)を有する(
図2及び
図3を参照、各部材の構成は後述)。そして鞘糸(21,22)が、複数の導電糸(機能性線材の一例)にて構成されることにより、表皮材4Sが通電性を有することとなる。この種の構成では、鞘糸(21,22)の撚り戻りによるスナール(捩れ)が発生することで、鞘糸(21,22)が表皮材4S表面から飛び出すことが懸念される。そこで本実施例では、後述の構成にて、芯糸20に対する鞘糸(21,22)の撚り戻りを極力抑えることとした。以下、各構成について詳述する。
【0013】
[表皮材]
表皮材4Sは、袋状の面状部材であり、複数の表皮ピース(第一表皮ピース40f,第二表皮ピース40s等)を縫合して形成できる(
図1及び
図2を参照)。第一表皮ピース40fは、シート中央形状に倣った略矩形の面状部材であり、第二表皮ピース40sは、シート側部形状に倣った形状の面状部材である。これら各表皮ピースは、布帛(織物,編物,不織布)、皮革(天然皮革,合成皮革)又はこれらの複合材にて適宜形成できる。なお各表皮ピースの裏面側(クッション材を臨む側)には、パッド材14(典型的に発泡樹脂製の面材)と、裏基布16(例えば不織布)を積層状に配置できる。そして本実施例では、第一表皮ピース40fが通電可能な織物であるとともに、第一糸材11(蛇行状に配置する糸材)と、第二糸材12と、接続部材30を有する(
図2及び
図8を参照、各部材等の構成は後述)。そして第一表皮ピース40fを電源9に電気的につなげることにより、表皮材4Sを、静電容量式センサの電極やヒータとして機能させることができる。
【0014】
[第一糸材(芯糸)]
第一糸材11は、第一表皮ピース40fの構成糸であり、芯糸20と、鞘糸(21,22)を有する(
図2及び
図3を参照)。芯糸20は、フィラメント糸、紡績糸、延伸糸及び伸縮加工糸(仮撚加工糸や座屈糸)等の糸材である。芯糸20として、複数の糸材を引き揃えるなどして使用することができ、また単数の糸材を使用することもできる。ここで芯糸20(材質)は特に限定しないが、植物系及び動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維及びこれらの混繊糸を例示できる。天然繊維では、綿、麻又は羊毛が風合いに優れるため、表皮材4Sの構成糸として用いることが好ましい。また化学繊維では、ポリエステル繊維(例えばポリエチレンテレフタレートのフィラメント)やナイロン繊維は耐久性と風合いと強度に優れるため、表皮材4Sの構成糸として用いることが好ましい。
【0015】
(鞘糸)
鞘糸(21,22)は、複数の導電糸(機能性線材の一例)を撚り合わせることで形成できる(
図3を参照)。ここで導電糸は、通電可能な導電性の線材であり、典型的に比抵抗(体積抵抗率とも呼ぶ)が10
0〜10
−12Ω・cmである。「比抵抗(体積抵抗率)」とは、どのような材料が電気を通しにくいかを比較するために用いられる物性値であり、例えば「JIS C 2525 7.2C」に準拠して測定できる。例えば導電糸として、しなやかな金属や合金などの糸材、炭素繊維のフィラメント、メッキ線材が好適に使用できる。メッキ線材は、非導電性又は導電性の線材(芯材)と、金属又は合金のメッキ層を有する。なお導電糸の本数は特に限定しないが典型的に2〜7本である。また鞘糸(21,22)の撚数は、鞘糸の太さ(繊度)、後述のフィラメント数(シングルカバリング、ダブルカバリング)などに応じて適宜設定でき、典型的に20〜2000T/mの範囲に設定できる。
【0016】
(トルク指数)
本実施例では、鞘糸のトルク指数を0〜50の範囲(好ましくは0〜30の範囲、更に好ましくは0〜25の範囲)に設定する。鞘糸のトルク指数(トルク強さ)は、例えば「JIS L1095(2003) 9.17.1 スナール指数A法」に準拠して測定できる。そして鞘糸のトルク指数を上記範囲に設定することで、鞘糸(21,22)が撚り戻ろうとする力を好適に抑えることができる。ここで鞘糸のトルク指数が50より大きいと、鞘糸(21,22)が撚り戻ろうとする力を抑えることができずスナール(捩れ)が発生する危険性が高まる。本実施例では、各鞘糸(21,22)に、芯糸20に近接配置する第一部分と、第一部分よりも芯糸20から離間配置する第二部分とを設けることができる(製造方法は後述)。そして第二部分(芯糸20から遠い部分)の長さ寸法を、第一部分よりも張引にて大きくすることにより、鞘糸(21,22)のトルク指数を上記範囲内に好適に設定できる。
【0017】
ここで第一糸材11中の鞘糸の本数は特に限定しないが、1本(シングルカバリング)、または2本(ダブルカバリング)などの偶数本であることが好ましい。例えば本実施例では、第一鞘糸21と第二鞘糸22を使用してダブルカバリングすることにより、第一糸材11の強度や導電性を向上させることができる。なお各鞘糸21,22の撚り方向はS撚又はZ撚のいずれでもよいが、ダブルカバリングの場合には、一方の鞘糸をS撚とし、他方の鞘糸をZ撚とすることが好ましい。また各鞘糸21,22の撚り方向と、芯糸20に対するカバリングの撚り方向は異なっていることが望ましい。また第一鞘糸21と第二鞘糸22のいずれかを使用してシングルカバリングすることで、第一糸材11の部品点数を抑えて製造コスト等を低減することもできる。
【0018】
[第一糸材の製造]
本実施例では、巻装工程と型付工程にて第一糸材11を作成することができる(
図4〜
図6を参照)。巻装工程:芯糸20に対してスパイラル状に鞘糸(21,22)を巻装する。型付工程:巻装工程に前後して、鞘糸(21,22)を蛇行状に張引することにより、第二部分の長さ寸法を、第一部分の長さ寸法よりも大きくする。ここで第一糸材11の製造装置として、ワイヤ撚線機(チューブラー型、プラネタリー型)、カバリング撚糸機を例示できる。なかでもチューブラー型のワイヤ撚線機は加工速度に優れる(
図4及び
図5を参照)。またプラネタリー型のワイヤ撚線機は撚返し率を100%にすることが可能であり、鞘糸(21,22)のトルクを消すことに優れる。
【0019】
(ワイヤ撚線機)
ワイヤ撚線機WMは、本体部2wと、一対のボビンBW1,BW2と、プレフォーム部10wと、ポストフォーム部12wを有する(
図4及び
図5を参照)。本体部2wは、円筒状の中空部材であり、一側が三角錘状とされて開口(合流部4w)が形成される。本実施例では、本体部2wを、図示しない支持部材に取付けつつ、本体部2wの軸線周りに回転可能とする。また一対のボビン(第一ボビンBW1,第二ボビンBW2)は、本体部2wに並列して収納されており、本体部2wの回転に追従しない状態で保持される。そして第一ボビンBW1に鞘糸(21,22)が巻装されて本体部2w奥方に配置し、第二ボビンBW2に芯糸20が巻装されて合流部4w近くに配置する。本実施例では、芯糸20が、第二ボビンBW2から直線状に引出されつつ合流部4wを通過して装置外に延長する。また鞘糸(21,22)が、第一ボビンBW1から引出されつつ、途中に配置の輪状部材6w,8wにて本体部2wの内面側に湾曲したのち、芯糸20の周囲から合流部4wを通過する。そして本体部2wの回転とともに、芯糸20と鞘糸(21,22)を合流部4wから引出すことで、芯糸20に対して鞘糸(21,22)がスパイラル状に巻装される(巻装工程が行われる)。そして上述の巻装工程に前後して、後述のプレフォーム部10w及びポストフォーム部12wにて型付工程が行われたのち、第一糸材11が、装置外のボビンBW3に巻き取られる。
【0020】
(プレフォーム部)
プレフォーム部10wは、複数の滑車部R1〜R3(同形の円盤体)にて構成されており、合流部4wの近傍に配置できる(
図5を参照)。複数の滑車部R1〜R3は、それぞれ周回りに回転可能とされて、鞘糸(21,22)の延びる方向に互い違いに並列配置する。これら滑車部R1〜R3の間には鞘糸(21,22)の通過可能なクリアランスが設けられる。本実施例では、鞘糸(21,22)にテンションをかけつつ複数の滑車部R1〜R3(プレフォーム部10w)に順次通すことで、鞘糸(21,22)を蛇行状に張引できる。このように芯糸20との合流前(巻装工程前)に鞘糸(21,22)を蛇行状に張引することにより、第二部分の長さ寸法を、第一部分の長さ寸法よりも大きくすることができる(撚り合せ前に鞘糸に型付けを行うプレフォームを行うことができる)。ここで滑車部により鞘糸(21,22)を強く屈曲させるほど型付けの効果が高まるが、このとき鞘糸(21,22)の走行抵抗を考慮して、適度な屈曲角度とすることもできる。
【0021】
(ポストフォーム部)
ポストフォーム部12wは、複数の滑車部R4〜R7(同形の円盤体)にて構成されており、合流部4wとボビンBW3(巻取り用)の間に配置できる(
図4を参照)。複数の滑車部R4〜R7は、それぞれ周回りに回転可能とされて、第一糸材11の延びる方向に互い違いに並列配置する。これら滑車部R4〜R7の間には第一糸材11の通過可能なクリアランスが設けられる。本実施例では、第一糸材11にテンションをかけつつ複数の滑車部R4〜R7(ポストフォーム部12w)に順次通すことで、鞘糸(21,22)を蛇行状に張引できる。このように芯糸20との合流後(巻装工程後)に鞘糸(21,22)を蛇行状に張引することにより、第二部分の長さ寸法を、第一部分の長さ寸法よりも大きくすることができる(撚り合せ後に鞘糸に型付けを行うポストフォームを行うことができる)。なおプレフォーム部10w及びポストフォーム部12wでは、滑車部(R1〜R7)の代わりに円柱部材や輪状部材を用いることができる。
【0022】
(カバリング撚糸機)
ここで巻装工程は、カバリング撚糸機CMを用いて行うこともできる。本実施例のカバリング撚糸機CMは、複数のボビン(CB1〜CB4)を有し、これら複数のボビン(CB1〜CB4)が上方に向けて並列配置する(
図6を参照)。そしてカバリング撚糸機CMでは、ボビンCB1(最下方のボビン)から芯糸20を引出して、ボビンCB2とボビンCB3の中央(孔部)に通しつつ、ボビンCB4(最上方のボビン)に向けて延長する。そしてボビンCB2とボビンCB3からそれぞれ鞘糸(21,22)を取出して、芯糸20の周りにスパイラル状に配置しつつ(巻装工程を行いつつ)ボビンCB4に巻取る。そしてカバリング撚糸機CMにプレフォーム部又はポストフォーム部(いずれも図示省略)を適宜配置することで、型付工程を行うことができる。
【0023】
[第二糸材]
第二糸材12は、第一糸材11よりも収縮しやすい糸材であり、紡績糸、フィラメント、延伸糸又は伸縮加工糸(仮撚加工糸や座屈糸)を例示できる(
図2を参照)。第二糸材12(材質)として、植物系及び動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維及びこれらの混繊維を例示できる。なお天然繊維では、綿、麻又は羊毛が風合いに優れるため、表皮材4Sの構成糸として用いることが好ましい。また化学繊維では、ポリエステル繊維(例えばポリエチレンテレフタレートのフィラメント)やナイロン繊維は耐久性と風合いと強度に優れるため、表皮材4Sの構成糸として用いることが好ましい。なお第二糸材12の繊度は特に限定しないが、例えば30〜3000dtex程度の糸材を使用することができる。
【0024】
[表皮材の製造]
本実施例では、第一表皮ピース40f(織物)の経糸又は緯糸として、第一糸材11と第二糸材12(12a〜12i)を適宜使用する(
図2及び
図7を参照)。例えば経糸としての第二糸材12を整経したのち、緯糸としての第一糸材11と第二糸材12を適宜打ち込むことができる。また経糸として、第一糸材11と第二糸材12を使用することもできる。そして本実施例では、第一表皮ピース40f(織物)のベースとなる部分を第二糸材(例えば経糸としての第二糸材12a〜12c、緯糸としての第二糸材12d〜12i)にて形成する(
図7を参照)。このとき緯糸の一部に第一糸材11を使用して、ベース部分の幅方向に沿うように織り込む。そして第二糸材12a〜12iにて誘導点10a,10b及び拘束点10c(ともに後述)を形成することで、第二糸材12の収縮により第一糸材11を部分的に張引して蛇行状に配置することとした。なお第一糸材11と交差させる第二糸材(誘導点及び拘束点を構成する糸材)は、第一表皮ピース40fの表面意匠を構成する糸材でもよく、表面意匠とは無関係の糸材でもよい。例えば表面意匠とは無関係の(表面側に現れない)第二糸材を誘導点(10a,10b)及び拘束点10cの形成に用いることで、第一糸材11の表面意匠への影響を極力排除できる。
【0025】
(誘導点)
誘導点(第一誘導点10a,第二誘導点10b)は、第一表皮ピース40fの面方向に第一糸材11の変位を許容する部位であり、経糸一部(第二糸材12a,12c)で構成される(
図7を参照)。ここで第二糸材12aと第二糸材12cは第一糸材11(緯糸)よりも外方に配置しており、第一表皮ピース40f表面からの第一糸材11の飛び出しを規制できる。そして第一誘導点10aは、経糸の延びる方向で見て、第一糸材11の一側(
図7で見て上側)の糸飛ばし長さ(緯糸の飛ばし量)が、第一表皮ピース40fの他の箇所に比べて大きい箇所である。また第二誘導点10bは、経糸の延びる方向で見て、第一糸材11の他側(
図7で見て下側)の糸飛ばし長さが他の箇所に比べて大きい箇所である。
【0026】
(拘束点)
拘束点10cは、第一表皮ピース40fの面方向に第一糸材11の変位を許容する範囲が誘導点よりも小さい部位である(
図7を参照)。本実施例の拘束点10cは、経糸他部(第二糸材12b)で構成されており、第一誘導点10aと第二誘導点10bの間に形成される。なお第二糸材12bは第一糸材11よりも外方に配置しており、第一表皮ピース40f表面からの第一糸材11の飛び出しを規制できる。そして本実施例の拘束点10cは、経糸の延びる方向で見て、第一糸材11一側の糸飛ばし長さが第一誘導点10aよりも小さく、また第一糸材11他側の糸飛ばし長さが、第二誘導点10bよりも小さい箇所である。
【0027】
ここで拘束点10cと誘導点10a(10b)の間隔(一周期の長さ)は特に限定しないが、5〜30mm程度が好ましく、より好ましくは10〜25mmである。そして一周期の長さを5〜30mm程度に設定することで、第一糸材11(剛性に優れて蛇行しにくい導電糸)を好適に蛇行させることができる。また隣り合う拘束点10cの間に、単数又は複数の誘導点(10a又は10b)を形成できる。ここで隣り合う拘束点10cの間の距離が広くなると第一糸材11が引っかかりやすくなるため、隣り合う拘束点10cの間に緯糸に対して複数本の誘導点となる経糸を配置してもよい。誘導点を複数形成する場合、各誘導点の糸飛ばし長さを同一とすることができ、また第一糸材11の蛇行の位置(振幅の幅)に合わせて、各誘導点の糸飛ばし長さを適宜変えてもよい。ただし第一糸材11と交差させる第二糸材(誘導点及び拘束点を構成する糸材)として表面意匠に関係しない経糸を用いる場合、30%以下程度に抑えることが表面意匠の自由度のため好ましい。
【0028】
なお第一表皮ピース40f中の第一糸材11の配置本数は特に限定しないが、各種機能を好適に発揮させるために、複数の第一糸材11を、所定間隔をあけつつ平行に配置することが好ましい(
図2を参照)。例えば第一表皮ピース40fにヒータ機能を持たせる場合、第一糸材11同士の間隔寸法W1を1mm〜60mmに設定することができる。また第一表皮ピース40fにセンサ(電極)機能を持たせる場合、第一糸材11同士の間隔寸法W1を60mmの範囲内に設定することが望ましい。第一糸材11同士の間隔寸法W1が60mmを超えると、第一表皮ピース40fのセンサ機能が悪化(静電容量が低下)して電極として機能しないおそれがある。好ましくは第一糸材11の間隔寸法W1の上限値を30mmとすることで、第一表皮ピース40fがより好適なセンサ機能(静電容量)を備える。
【0029】
(仕上げ処理)
本実施例では、第一表皮ピース40fを製織したのち、所定の仕上げ処理を行うことができる(
図2及び
図7を参照)。この仕上げ処理として、精練工程と、染色工程と、熱セット工程と、風合い出し工程と、後加工剤付与工程と、仕上げセット工程を例示でき、これら上述の工程を全て行うこともでき、1又は複数の工程を省略することもできる。上記各工程では、第一表皮ピース40fに熱処理(乾熱処理又は湿熱処理)を施すことが多く、例えば精練や染色工程では90〜155℃前後の熱処理が施されることが多い。そしてこの加熱処理によって、第一表皮ピース40f中の第二糸材12が面方向に収縮する。また熱処理のほかに化学的な薬品による処理にて、第二糸材12が面方向に収縮することもある。なお第一表皮ピース40fの収縮により、織物の地厚感や伸び付与、仕立て栄えにも効果がある。
【0030】
本実施例では、上述の仕上げ処理において、第二糸材12が相対的に収縮することで、第一糸材11(収縮性に劣る糸材)が蛇行状に撓み変形する(
図2及び
図7を参照)。このとき第一糸材11が、拘束点10cにて拘束された箇所を支点として、誘導点10a,10bにおいて山なりに撓み変形する。すなわち第一糸材11が、第一誘導点10aに沿って一側(
図7で見て上側)に向けて山なりに撓み変形するとともに、第二誘導点10bに沿って他側(
図7で見て下側)に向けて山なりに撓み変形する。このように本実施例では、誘導点10a,10bと拘束点10cにて、第一糸材11を面方向にスムーズに蛇行させることにより、第一表皮ピース40fからの第一糸材11の飛び出しを極力阻止できる。そして本実施例では、第一糸材11のトルク指数を0〜50の範囲に設定したことで、鞘糸(21,22)が撚り戻ろうとする力が極力抑えられる。このため上述の仕上げ処理において、鞘糸(21,22)が表皮材4Sから飛び出すことが極力阻止されて、シート性能を好適に維持することができる。
【0031】
[接続部材]
本実施例では、第一表皮ピース40fの向きを調節するなどして、第一糸材11をシート幅方向に向けつつ配置する(
図2を参照)。つぎに第一表皮ピース40fの両末端部に接続部材30をそれぞれ配設して、第一糸材11の両端に電気的につなげる。そして一対の接続部材30を、電源ケーブル(符号省略)などを介して電源9につなげることで、第一表皮ピース40fを通電可能状態とすることができる。ここで接続部材30は、第一糸材11と電源9を電気的につなげる部材であり、導線、導電テープ、導電化された布体を例示できる。
【0032】
[表皮材の使用]
図1及び
図2を参照して、第一表皮ピース40fにて表皮材4Sを形成したのち、クッション材4P上に配置する。このとき本実施例の第一糸材11では、鞘糸(21,22)が撚り戻ろうとする力が極力抑えられており、鞘糸(21,22)にスナールがほとんど発生しない状態とされる。このため本実施例によれば、表皮材4Sの平面内に第一糸材11(鞘糸)が配置されて、鞘糸(21,22)の飛び出しが原因の表皮材4Sの機能低下を極力回避できる。また本実施例では、第一糸材11が表皮材4Sに蛇行状に配置する。このため表皮材4Sの幅方向に力が加わったときでも第一糸材11(蛇行状)が直線となるように変形することで表皮材4Sが力を負担し、第一糸材11に過度の力が加わらず断線を抑制できる。
【0033】
以上説明したとおり本実施例では、第一糸材11における芯糸20に対する鞘糸(21,22)の撚り戻りを極力抑えることができる。また本実施例では、第一糸材11を蛇行状に配置することにより、表皮材4S(第一表皮ピース40f)の平面内に配置させることができる。このため第一表皮ピース40f(織物)の染色・仕上げ加工時及び表皮材4Sの使用時に第一糸材11の特定部位に力が集中することがなくなり断線を抑制できる。そして本実施例では、第一糸材11と交差する第二糸材12を表面意匠と独立させることにより、表皮材4Sの表面意匠に影響を与えることなく第一糸材11を配置できる。
【0034】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されない。
[実施例1]
本実施例の第一糸材では、芯糸と、二種の鞘糸(上撚鞘糸,下撚鞘糸)を使用した。芯糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)糸(280dtex/48f)を使用した。また下撚鞘糸として、7本のSUS304線(線径20μm)をZ撚に1.0mmのピッチ長(1000T/m)でワイヤ撚糸機(株式会社HCI社製、STF-Series(1))を用いて撚糸した糸材を使用した。また上撚鞘糸として、7本のSUS304線(線径20μm)をS撚に1.0mmのピッチ長(1000T/m)でワイヤ撚糸機を用いて撚糸した糸材を使用した。上撚鞘糸と下撚鞘糸のトルク指数はともに1であった。そしてワイヤ撚糸機を用いて下撚鞘糸(Z撚)を、芯糸に対してS撚方向に2mmのピッチ長(500T/m)にてカバリングを行った。このとき下撚鞘糸を、芯糸と合流させる直前に3個の滑車部の間に順次通すことによりプレフォーム(型付)を行った。つづいて芯糸と下撚鞘糸の合流後に、これらを10個の滑車部の間に順次通すことによりポストフォーム(型付)を行ったのち巻き取った。また同様に上撚鞘糸(S撚)を、芯糸に対してZ撚方向に2mmのピッチ長(500T/m)にてカバリングを行いつつ巻取ることで第一糸材を得た。
【0035】
そして本実施例では、
図7の織組織(蛇行組織)にて第一糸材をヨコ打ち込みし、ウォーターリラクサーにてリラックス加工を行い、バックコーティング、ファイナルセットの仕上げ加工を行い、実施例1の織物を作成した。この織物の幅方向の収縮率は機上幅対比12%であった。なお第二糸材の経糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)糸(84dtex/36f/2、Z130T/m)、同糸材の緯糸として、ポリエチレンテレフタレート(PET)糸(167dtex/48f)を使用した。ここで後述の[表2]中、「仕上げ後のスナール発生有無」の評価において、仕上げ後に撚糸が寄り付きスナールを発生した水準を×、スナールが発生しなかった水準を○と評価した。なおスナール発生の有無は、後述の異常加熱部の有無や目視にて判断した。
【0036】
[実施例2]
本実施例では、下撚鞘糸として、7本のSUS304線(線径20μm)をZ撚に0.67mmのピッチ長(1500T/m)で撚糸した糸材を使用した。また上撚鞘糸として、7本のSUS304線(線径20μm)をS撚に0.67mmのピッチ長(1500T/m)で撚糸した糸材を使用した。上撚鞘糸と下撚鞘糸のトルク指数はともに1であった。そして実施例1と同様の手法にて、実施例2の第一糸材及び織物を得た。
【0037】
[実施例3]
本実施例では、下撚鞘糸として、7本のSUS304線(線径20μm)をZ撚に0.50mmのピッチ長(2000T/m)で撚糸した糸材を使用した。また上撚鞘糸として、7本のSUS304線(線径20μm)をS撚に0.50mmのピッチ長(2000T/m)で撚糸した糸材を使用した。上撚鞘糸と下撚鞘糸のトルク指数はともに1であった。そして実施例1と同様の手法にて、実施例3の第一糸材及び織物を得た。
【0038】
[実施例4]
本実施例の第一糸材では、実施例1の芯糸と、実施例2の下撚鞘糸(Z撚、1500T/mで撚糸)2本を使用した。そしてワイヤ撚線機を用いて下撚鞘糸2本を、ともに芯糸に対してS撚方向に2mmのピッチ長(500T/m)にてカバリングを行った。このとき下撚鞘糸2本を、芯糸と合流させる直前に3個の滑車部の間に順次通すことによりプレフォームを行った。つづいて芯糸と下撚鞘糸2本の合流後に、これらを10個の滑車部の間に順次通すことによりポストフォームを行ったのち巻取ることで実施例4の第一糸材を得た。そして実施例1と同様の手法にて、実施例4の織物を得た。
【0039】
[実施例5]
本実施例では、鞘糸(単数)として、7本のSUS304線(線径28μm)をZ撚に0.93mmのピッチ長(1075T/m)で撚糸した糸材を使用した。鞘糸のトルク指数は1であった。そしてワイヤ撚線機を用いて、鞘糸(Z撚)を、実施例1の芯糸に対してS撚方向に2mmのピッチ長(500T/m)にてカバリングを行った。このとき鞘糸(単数)を、芯糸と合流させる直前に3個の滑車部の間に順次通すことによりプレフォームを行った。つづいて芯糸と鞘糸の合流後に、これらを10個の滑車部の間に順次通すことによりポストフォームを行ったのち巻取ることで実施例5の第一糸材を得た。そして実施例1と同様の手法にて、実施例5の織物を得た。
【0040】
[実施例6]
本実施例では、実施例5の鞘糸(Z撚)を、実施例1の芯糸に対してS撚方向に1.0mmのピッチ長(1000T/m)にてカバリングを行った。そして実施例5と同様の手法にて、実施例6の第一糸材及び織物を得た。
【0041】
[実施例7]
本実施例では、実施例5の鞘糸(Z撚)を、実施例1の芯糸に対してS撚方向に4.0mmのピッチ長(250T/m)にてカバリングを行った。そして実施例5と同様の手法にて、実施例7の第一糸材及び織物を得た。
【0042】
[実施例8]
本実施例では、実施例5の鞘糸を、実施例1の芯糸に対してカバリングを行った。このときプレフォームを省略した以外は実施例5と同様の手法にて、実施例8の第一糸材及び織物を得た。
【0043】
[実施例9]
本実施例では、実施例5の鞘糸を、実施例1の芯糸に対してカバリングを行った。このときプレフォーム及びポストフォームを省略した以外は実施例5と同様の手法にて、実施例9の第一糸材及び織物を得た。
【0044】
[実施例10]
本実施例では、芯糸として、クラレ社製ベクトラン(登録商標)T‐102(56dtex/10f)を使用した。その他は実施例5と同様の手法にて、実施例10の第一糸材及び織物を得た。
【0045】
[比較例1]
本比較例では、実施例1の芯糸と、実施例2の鞘糸(上撚鞘糸,下撚鞘糸)を使用した。そしてカバリング撚糸機を用いて、下撚鞘糸(Z撚)を、芯糸に対してS撚方向に2mmのピッチ長(500T/m)にてカバリングを行い、引き続いて上撚鞘糸(S撚)を、芯糸に対してZ撚方向に同ピッチ長にてカバリングを行い、そのまま巻取ることで比較例1の第一糸材を得た。そして実施例1と同様の手法にて、比較例1の織物を得た。
【0046】
[比較例2]
本比較例では、実施例1の芯糸と、実施例5の鞘糸を使用した。そしてカバリング撚糸機を用いて、鞘糸(Z撚)を、芯糸に対してS撚方向に2mmのピッチ長(500T/m)にてカバリングを行い、そのまま巻取ることで比較例2の第一糸材を得た。そして実施例1と同様の手法にて、比較例1の織物を得た。
【0047】
[トルク強さ(トルク指数)の評価試験]
本試験では、サンプルとして、各実施例(各比較例)の第一糸材中、鞘糸(単数)の両端を固定した状態で、残りの糸材(芯糸,他の鞘糸)を除去したものを用いた。鞘糸のトルク強さを、「JIS L1095(2003) 9.17.1 スナール指数A法」に従い評価した。
【0048】
[導電糸の伸度]
鞘糸(導電糸)の伸度を、「JIS L1013 8.5.1」標準時試験に準じて測定した。本試験では、定速伸長形の試験機を用い、つかみ間隔250mm、引張速度250mm/minとした。
【0049】
[製織性の評価試験]
本試験では、各実施例(各比較例)の第一糸材を緯糸として使用した。そしてレピア織機を用いて緯糸回転数300rpmにて緯糸打込みを行い、10m製織時の鞘糸(導電糸)由来の停台回数が1回以下を○、2回以上を×とした。
【0050】
[乗降耐久性試験]
本試験では、シート上での人の動きの一例(上下動、前後動、ツイスト運動)を、臀部模型を備えるロボットによって再現した。より具体的には、20℃の環境の下、臀部模型(座位臀部幅:39cm)を各実施例及び比較例の織物(通電状態)に配置して、77kgの荷重を臀部模型にかけた。そして各織物上で、臀部模型の上下動(50mm)と前後動(30mm)とツイスト運動(15度)をこの順で50万回繰り返した。
【0051】
下記の[表1]に、各実施例の第一糸材の詳細と、各比較例の第一糸材の詳細を示す。また[表2]に、各実施例の第一糸材及び織物の試験結果と、各比較例の第一糸材及び織物の試験結果を示す。
【表1】
【0053】
[結果及び考察]
[表2]を参照して、実施例1〜10では、各鞘糸が好適なスナール指数を有するとともに、上述の試験結果が全て良好であった。そして
図8を参照して、実施例1〜10の第一糸材は、カバリングを行った形状が保持されて織物に蛇行状に配置された。これとは異なり比較例1の織物では、鞘糸(SUS撚糸)が寄り付くスナールが発生していた。比較例1にてスナールが発生した原因は、鞘糸として巻き付けたSUS撚糸をセット(型付け)していないため、鞘糸のトルクが強く、織物が収縮する際に鞘糸が寄り付いたためと考えられる。そして各実施例及び比較例1の第一糸材(SUS撚糸)に0.06Aの電流を流し(通電し)、サーマルカメラで表面温度を測定した。このとき各実施例では温度ムラがほとんど生じなかったが、比較例1では、スナールの部分は単位長さ当たりの鞘糸(SUS撚糸)が長いため、温度が4℃高い(温度ムラが生じた)ことが確認された。また比較例2の第一糸材では、鞘糸(SUS撚糸)のトルクが強く安定した緯打込みが不可能であった。
【0054】
そして乗降耐久試験後の実施例1〜10の織物を通電しても異常加熱部は見られなかった。これとは異なり乗降耐久試験後の比較例1の織物では異常加熱部が見られた。そこで比較例1の織物を分解調査したところ、スナールの根元で異常加熱部が発生しており、鞘糸(撚線を構成する素糸)の一部が断線していた。このことから本実施例によれば、第一糸材における芯糸に対する鞘糸の撚り戻りを極力抑えることができることがわかった。
【0055】
本実施形態の繊維製品は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。本実施例では、機能性線材として導電糸を例示したが、他の機能性線材として、光を伝達する線材(光ファイバー等)や、磁気など電磁気を伝達する線材を例示できる。また本実施例では、繊維製品として表皮材4Sを例示したが、繊維製品の種類を限定する趣旨ではない。繊維製品として、例えば各種表皮材(4S,6S,8S)等の面状部材や、組紐などの線状部材を例示できる。