【課題】低周波領域で弾性率が低下する熱可塑性樹脂を選択することによって、低周波領域でも感度が良好なエレクトレット材料及びその使用方法、並びに該エレクトレット材料を使用したセンサー及びその使用方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含有するエレクトレット材料であって、該エレクトレット材料における該熱可塑性樹脂の含有率が50質量%以上であり、該エレクトレット材料は多孔質樹脂フィルムを含んでなり、該多孔質樹脂フィルムを−100〜100℃の温度範囲で、1℃/minの昇温速度で周波数1Hzにて損失弾性率(E’’)を測定したとき、損失弾性率(E’’)ピーク温度が0〜40℃であることを特徴とするエレクトレット材料。
請求項1に記載のエレクトレット材料を該エレクトレット材料の前記損失弾性率(E’’)ピーク温度に対して−20〜20℃の範囲で動作させることを特徴とするエレクトレット材料の使用方法。
請求項9に記載のセンサーを、該センサーを構成するエレクトレット材料の前記損失弾性率(E’’)ピーク温度に対して−20〜20℃の範囲で動作させることを特徴とするセンサーの使用方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のエレクトレット材料及びその使用方法、並びにセンサー及びその使用方法について詳細に説明する。
なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「低周波領域」とは、「可聴周波数領域」を包含するものとする。
【0013】
[損失弾性率(E’’)ピーク温度]
本発明のエレクトレット材料は、該エレクトレット材料における該熱可塑性樹脂の含有率が50質量%以上であり、該エレクトレット材料は多孔質樹脂フィルムを含んでなり、該多孔質樹脂フィルムを−100〜100℃の温度範囲で、1℃/minの昇温速度で周波数1Hzにて損失弾性率(E’’)を測定したとき、損失弾性率(E’’)ピーク温度が0〜40℃である。
相転移温度を求める場合において、引張貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E’’)の測定は、JIS−K−7244−1:1998「プラスチック?動的機械特性の試験方法?第1部:通則」及びJIS−K−7244−4:1999「プラスチック-動的機械特性の試験方法-第4部:引張振動-非共振法」に基づいて行う。このとき、−110〜130℃の温度範囲で、1℃/minで定速昇温させながら1Hzの正弦振動をサンプルに加え、動的粘弾性計測装置で引張貯蔵弾性率(E’)[GPa]及び損失弾性率(E’’)[MPa]を測定する。
さらに、温度に対し損失弾性率(E’’)をプロットし、該プロットから損失弾性率(E’’)のピーク温度を読み取る。
【0014】
エレクトレット材料が含んでなる多孔質樹脂フィルムの損失弾性率(E’’)のピーク温度の範囲は0〜40℃が良く、5〜35℃が好ましく、10〜30℃がより好ましく、15〜25℃が更に好ましい。エレクトレット材料における特性上、損失弾性率(E’’)のピーク温度が前記範囲内であれば、室温で本発明の目的とする所期の性能を得ることが出来る。
本発明のエレクトレット材料は、使用環境温度付近の温度に損失弾性率(E’’)のピークを有することから、該温度において引張貯蔵弾性率(E’)に周波数依存性が生じる。
エレクトレット材料に主として用いられる熱可塑性樹脂の特性により観測される損失弾性率(E’’)のピークが変化する。ここで、「主として用いられる熱可塑性樹脂」とは、エレクトレット材料に含まれる熱可塑性樹脂のうち、質量比で最も多く含まれる熱可塑性樹脂の種類を指す。
【0015】
[共鳴周波数]
本発明のエレクトレット材料は、熱可塑性樹脂を含有し、直流コロナ放電により絶縁破壊電圧に達しない電圧で電荷注入を実施したエレクトレット材料を後述の方法で測定した
時、圧電特性による共鳴現象が1kHz〜1MHzの範囲内に現れる。通常圧電性を有する材料の共鳴現象は幅方向、厚み方向、厚み方向、それぞれの方向の共鳴現象が観測され、それぞれ測定するサンプルのサイズや厚みにより共鳴現象が現れる周波数が変化するが、本発明のエレクトレット材料は厚み方向の共鳴現象が1kHz〜1MHzの範囲内に現れる。そのためサンプルのサイズが変化してもエレクトレット材料の厚みは変化しないことから共鳴周波数が変化しない特徴がある。
又、本発明の厚み範囲(10〜500μm)を有する通常の圧電材料の共鳴周波数は1MHzを超えるが、本発明のエレクトレット材料の共鳴周波数はそれよりも遥かに低く、これは本発明のエレクトレット材料が通常の圧電材料に比べて厚み方向の柔軟性が高いことを示している。
【0016】
本発明における共鳴周波数の測定方法は、電荷注入を施したエレクトレット材料の静電容量(C)、および誘電損失(tanδ)を周波数1kHz〜1MHzの範囲で測定し、下記式1により求めた比誘電率(ε
r)及び上記測定で得られた誘電損失(tanδ)を周波数の対数に対してプロットして、比誘電率(ε
r)の変化が最大となる周波数として求めるものである。
ここで、エレクトレット材料に電荷注入を施すのは、後述の通り、絶縁破壊電圧に達しない電圧での直流コロナ放電により実施される。
また、エレクトレット材料の静電容量(C)を測定するために、エレクトレット材料の両表面に電極を設ける必要があり、スパッタ法によるアルミニウム蒸着により、表面抵抗率が1Ω/□以下となるようにして電極を設ける。
また、周波数1kHz〜1MHzの範囲で測定するためにインピーダンスアナライザを使用する。
測定は25℃、相対湿度50%の環境で行い、比誘電率(ε
r)及び上記測定で得られた誘電損失(tanδ)を周波数の対数に対してプロットする関係から、周波数1kHz〜1MHzの範囲を対数で均等間隔となる様にスキャンして測定を行う。
測定で得られた静電容量から、下式(1)により比誘電率(ε
r)を計算する。
ε
r= C×t/A/ε
0 ・・・(式1)
C :エレクトレット材料の静電容量[F]
ε
r : 比誘電率[−]
ε
0 : 真空の誘電率(8.854×10
−12)[F/m]
A : 電極面積[m
2]
t : エレクトレット材料の厚み[m]
そして、プロットしたグラフから誘電損失(tanδ)にピークが観測される周波数付近の比誘電率(ε
r)の変化が最大となる周波数を共鳴周波数として求める。より具体的には、誘電損失(tanδ)のピークが観測される周波数の0.5倍〜2.0倍の周波数の範囲内で比誘電率(ε)の変化が最大となる周波数を共鳴周波数とする。
【0017】
本発明のエレクトレット材料の共鳴周波数の下限は10kHz以上が良く、50kHz以上が好ましく、100kHz以上がより好ましい。一方、本発明のエレクトレット材料の共鳴周波数の上限は1000kHz(1MHz)以下がよく、700kHz以下が好ましく、500kHz以下が更に好ましい。本発明のエレクトレット材料の柔軟性と共鳴周波数とは密接な関係があり、エレクトレット材料の柔軟性が高いと共鳴周波数が低下する傾向がある。共鳴周波数が10kHz以上であれば荷重や気温によりエレクトレット材料の厚みが変化しない程度の剛直性が得られ、共鳴周波数が1MHz以下であればよりエレクトレット材料は特に低周波領域で圧電体としての性能が得られる程度の柔軟性を有する。
【0018】
前記共鳴周波数の測定において、下記式2から誘電率変化率(Se)を求める。
Se=(ε
rB−ε
rA)/ε
rS×100 ・・・(式2)
Se : 誘電率変化率[%]
ε
rS : 共鳴周波数における比誘電率[−]
ε
rB : 共鳴周波数の0.5倍の周波数における比誘電率[−]
ε
rA : 共鳴周波数の2.0倍の周波数における比誘電率[−]
上記式1によれば、共鳴周波数の測定において、真空の誘電率、電極面積、エレクトレット材料の厚みが変化しないことから、比誘電率がエレクトレット材料の静電容量に比例するため、式2を次のように書き換えて算出することができる。
Se=(C
B−C
A)/C
S×100 ・・・(式2’)
Se : 誘電率変化率[%]
C
S : 共鳴周波数における静電容量[F]
C
B : 共鳴周波数の0.5倍の周波数における静電容量[F]
C
A : 共鳴周波数の2.0倍の周波数における静電容量[F]
共鳴周波数前後で観測される誘電率の変化は、共鳴周波数よりも低周波数では非拘束状態で振動していたサンプルが、共鳴周波数より高い周波数では拘束状態となり振動しなくなることにより発生するものである。したがって誘電率変化率(Se)は非拘束状態での振動の大きさを表しており、誘電率変化率(Se)が大きい程、性能が高いエレクトレット材料である。
本発明のエレクトレット材料のSeは、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましく、0.3%以上が更に好ましい。これにより、得られたエレクトレット材料を圧電体として使用した場合に十分な性能を発揮する傾向がある。一方、本発明のエレクトレット材料のSeは、5.0%以下が好ましく、3.0%以下がより好ましく、1.0%以下が更に好ましい。熱可塑性樹脂を使用してSeが5.0%を超えるエレクトレット材料を得ることは技術的に困難である。
【0019】
前記共鳴周波数の測定において、1kHzから共鳴周波数の0.5倍の周波数までの範囲において、周波数(Feq)の対数に対する比誘電率(ε
rf)をプロットすると、比誘電率(ε
rf)の周波数依存性は直線性を示すことがある。
すなわち、上記プロットの直線部分について最小二乗法を用いて下記式3で近似した場合、比誘電率(ε
rf)の周波数依存性はその傾き(a)で表される。
ε
rf =a × log(Feq) + b ・・・(式3)
ε
rf : 比誘電率[−]
Feq: 周波数[Hz]
a : 傾き
b : Y切片
通常、エレクトレット材料として用いられる熱可塑性樹脂は、共鳴周波数より低い週領域ではほぼ一定の比誘電率(ε
rf)を示し、その周波数依存性(a)は0である。
ここで、上記式2を変形して周波数Feq[Hz]に適用した、次式2’’で求められる周波数Feqにおける誘電率変化率(Se
(Feq))の値は、周波数Feqが1kHzから共鳴周波数の0.5倍の周波数までの領域で周波数(Feq)にかかわらず一定で、上記式2におけるSeと同値である。
Se
(Feq)=(ε
r(Feq)−ε
rA)/ε
rS×100 ・・・(式2’’)
Se
(Feq) : 周波数Feqにおける誘電率変化率[%]
ε
rS : 共鳴周波数における比誘電率[−]
ε
r(Feq) : 周波数Feqにおける比誘電率[−]
ε
rA : 共鳴周波数の1.5倍の周波数における比誘電率[−]
一方、本発明のエレクトレット材料は、周波数が低い程比誘電率が高い特徴があり、その周波数依存性(a)は負の値を取る。
ここで、本発明のエレクトレット材料の特性を上記式2’’に適用すると、Feq(周波数)[Hz]が低い程、誘電率変化率(Se
(Feq))が大きくなり、圧電性能が上
昇していく特性を備えている。この現象はエレクトレット材料の損失弾性率(E’’)のピーク付近の温度、すなわちエレクトレット材料の弾性領域で観測される現象であり、本発明のエレクトレット材料の優れた特性を示している。
【0020】
本発明のエレクトレット材料における比誘電率の周波数依存性(a)は、−0.0001以下が好ましく、−0.0002以下がより好ましく、−0.0003以下がさらに好ましい。比誘電率の周波数依存性(a)が該上限値以下の値を取る場合、実用上良好な圧電性能が得られる。一方、比誘電率の周波数依存性(a)は−0.0200以上が好ましく、−0.0150以上がより好ましく、−0.0100以上が更に好ましい。比誘電率の周波数依存性(a)が該下限値以上の値を取る場合、低周波領域における圧電性能が良好になる傾向がある。なお、使用する熱可塑性樹脂の粘弾性を下げるか、誘電率の高い樹脂を使用することでエレクトレット材料における比誘電率の周波数依存性(a)を−0.0050以下に設定した場合、エレクトレット材料としての電荷の蓄積性能が低下して、圧電性能そのものが低下することがある。
【0021】
[貯蔵弾性率比]
本発明のエレクトレット材料は、熱可塑性樹脂を含有し、該エレクトレット材料を25℃、相対湿度50%の環境でJIS−K−7244−4に従って周波数0.01Hzにおいて測定した貯蔵弾性率(E’
(0.01))と周波数100Hzにおいて測定した貯蔵弾性率(E’
(100))とから下記式4により求められる貯蔵弾性率比(A
e)が1.10〜2.00の範囲である。
A
e = E’
(100)/E’
(0.01) ・・・(式4)
A
e : 貯蔵弾性率比[−]
E’
(100) : 周波数100Hzでの貯蔵弾性率[Pa]
E’
(0.01) : 周波数0.01Hzでの貯蔵弾性率[Pa]
相転移温度を求める場合において、引張貯蔵弾性率(E’)の測定は、JIS−K−7244−1:1998「プラスチック?動的機械特性の試験方法?第1部:通則」及びJIS−K−7244−4:1999「プラスチック-動的機械特性の試験方法-第4部:引張振動-非共振法」に基づいて行う。このとき、25℃、相対湿度50%の環境で、0.01Hzの正弦振動をサンプルに加え、動的粘弾性計測装置で0.01Hzにおける引張貯蔵弾性率(E’
(0.01))[GPa]を測定する。同様に、100Hzの正弦振動をサンプルに加え、動的粘弾性計測装置で100Hzにおける引張貯蔵弾性率(E’
(100))[GPa]を測定する。
さらに上記式4に基づいて貯蔵弾性率比を算出(A
e)する。
貯蔵弾性率比が高いエレクトレット材料は、貯蔵弾性率の周波数依存性が高く、比誘電率の周波数依存性も高いものとなる傾向があり、本発明のエレクトレット材料として好ましい。
【0022】
本発明のエレクトレット材料における貯蔵弾性率比は、1.10以上が良く、1.15以上が好ましく、1.20以上がより好ましい。該下限値以上の貯蔵弾性率比を有するエレクトレット材料は、誘電率の周波数依存性が高い傾向があり、所期の圧電性能を得ることができる。一方、本発明のエレクトレット材料における貯蔵弾性率比は2.00以下が良く、1.70以下が好ましく、1.50以下がより好ましい。貯蔵弾性率比が該上限値を超えるエレクトレット材料を製造することは現在の技術では困難である。
なお、エレクトレット材料が平面内で異方性を有する場合、測定サンプルの向きを変えて測定し、最も貯蔵弾性率比が高い値を採用する。
【0023】
[多孔質樹脂フィルム]
(空孔)
エレクトレット材料は、熱可塑性樹脂、空孔形成核剤、及び分散剤を含有してなる熱可
塑性樹脂フィルムを延伸することにより内部に空孔を形成した多孔質樹脂フィルムを含んでなる。多孔質樹脂フィルムには、電荷を蓄積することに適した形状と、多孔質樹脂フィルムに高い圧縮回復性をもたらす形状とを併せもった空孔が形成されている。
多孔質樹脂フィルム内部の個々の空孔の相対する内面に異なる電荷が1組で保持されると考えている。そのため空孔はその内部に電荷を蓄積する為に、単板型コンデンサと同様に、一定以上の面積と高さが必要になる。一定以上の面積がなければ十分な静電容量が得られず性能の優れたエレクトレットを得ることができない。また一定以上の高さ(距離)がなければ空孔内部で放電(短絡)が発生してしまい電荷が蓄積できない。しかしながら逆に高さ(距離)が大きすぎては電荷の分極に不利であり、安定性に優れたエレクトレットを得ることができない。そのため、コア層(A)内部の個々の空孔のサイズ(面積)は大きいほど有効に機能するものと考えられた。しかし過剰に空孔のサイズを大きくしては、隣接する空孔同士が連通してしまい、隣接空孔間で放電(短絡)が発生して逆に電荷を蓄積しにくくなる。
従って、多孔質樹脂フィルムには、任意の断面で観察した場合その観察像上において、電荷を多く蓄積する観点から、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を100個/mm
2以上有することが好ましく、150個/mm
2以上有することがより好ましく、200個/mm
2以上有することが更に好ましく、300個/mm
2以上有することが特に好ましい。一方、隣接する空孔同士の短絡を抑制する観点から、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を3,000個/mm
2以下有することが好ましく、2,500個/mm
2以下有することがより好ましく、2,000個/mm
2以下有することが更に好ましく、1,500個/mm
2以下有することが特に好ましい。
【0024】
また多孔質樹脂フィルム中に有効な空孔の数が増えるほど電荷の蓄積能力が向上し、エネルギーの変換効率が向上すると考えられるが、ある一定サイズ以上の空孔の数が多くなりすぎると、隣接する空孔同士が連通してしまう可能性が高まることや、フィルム自体の強度が低下してしまい、圧縮などの外力に対して回復しづらい構造となる点で好ましくない。圧縮回復性の不足は、圧縮と復元を繰り返して行っているうちに、復元率が低下するなどの弊害を招き、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する機械−電気エネルギー変換用材料としては不都合が発生する場合がある。
【0025】
本発明におけるこのような空孔の形成は、絶縁性が優れる高分子材料である熱可塑性樹脂に無機微細粉末および有機フィラーを含有させ、これを後述する延伸成形することにより達成される。
特に熱可塑性樹脂のガラス転移点乃至融点よりも低い温度で延伸成形することで、有機フィラーを始点(核)とした空孔が形成される。
かかる多孔質樹脂フィルムを有するエレクトレット材料は、下記式5で算出される空孔率が10〜70%であることが好ましい。
【0026】
【数2】
ρ
0:JIS−K−7112で測定した樹脂フィルムの真密度
ρ :JIS−K−7222で測定した樹脂フィルムの密度
電荷を蓄積するのに適したサイズの空孔を数多く得て、電荷の蓄積容量を確保する観点から、エレクトレット材料の空孔率は10%以上であり、15%以上であることがより好ましく、25%以上であることが更に好ましく、30%以上であることが特に好ましい。一方、空孔が連通して電荷が短絡することを抑制したり、多孔質樹脂フィルムの弾性率が
極端に劣り、厚み方向の復元性が低下し、耐久性に劣ることを抑制したりする観点から、エレクトレット材料の空孔率は70%以下であり、65%以下であることがより好ましく、60%以下であることが更に好ましく、55%以下であることが特に好ましい。
【0027】
(使用材料)
本発明のエレクトレット材料は、熱可塑性樹脂50〜98質量%、空孔形成核剤を49.99〜1.99質量%、分散剤を0.01〜10質量%含む(熱可塑性樹脂と空孔形成核剤と分散剤との含有率の合計が100%である)ことが好ましい。
熱可塑性樹脂は本発明の目的とする相転移温度による効果を充分にえる観点から、50質量%以上含むことが必要であり、70質量%以上含むことがより好ましい。一方、得られたエレクトレット材料に十分な空孔を形成する観点から、98質量%以下含むことが必要であり、96質量%以下含むことがより好ましい。
空孔形成核剤として無機微細粉末を使用する場合は、得られたエレクトレット材料に十分な空孔を形成する観点から12.99質量%以上含むことがより好ましく、14.99質量%以上含むことが更に好ましい。一方、エレクトレット材料に形成される空孔の独立性を持たせる観点から、49.99質量%以下含むことが必要であり、29.99質量%以下含むことが更に好ましい。
空孔形成核剤として有機フィラーを使用する場合は、得られたエレクトレット材料に十分な空孔を形成する観点から、1.99質量%以上含むことが必要であり、3.99質量%以上含むことが更に好ましい。一方、エレクトレット材料に形成される空孔の独立性を持たせる観点から、29.99質量%以下含むことがより好ましく、19.99質量%以下含むことが更に好ましい。
分散剤は空孔形成核剤の分散不良による大空孔または連通空孔の発生による電荷の短絡を抑制する観点から、0.01質量%以上含有することが必要であり、0.03質量%以上含むことがより好ましく、0.05質量%以上含むことが更に好ましい。一方、成形性や電荷保持の観点から、10質量%以下含有することが必要であり、5.00質量%以下含むことがより好ましく、2.00質量%以下含むことが更に好ましい。
【0028】
熱可塑性樹脂:
多孔質樹脂フィルムに使用するに適した熱可塑性樹脂としては、電気を通しにくい絶縁性の高分子材料であることが好ましい。例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含むエチレン系樹脂、プロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の官能基含有ポリオレフィン系樹脂;ナイロン−6、ナイロン−6,6等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレートやその共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸、脂肪族ポリエステル等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート、アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン等を使用することができる。これらの熱可塑性樹脂の中では、吸湿性が低く、絶縁性が高いポリオレフィン系樹脂、官能基含有ポリオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ブチレン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、メチルペンテン、シクロブテン類、シクロペンテン類、シクロヘキセン類、ノルボルネン類、トリシクロ−3−デセン類などのオレフィン類の単独重合体、及びこれらオレフィン類の2種類以上からなる共重合体が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、プロピレン系樹脂、エチレンと他のオレフィンとの共重合体、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。
【0030】
これらポリオレフィン系樹脂の中でも、アイソタクティック乃至はシンジオタクティッ
ク及び種々の程度の立体規則性を示すプロピレン単独重合体、またはプロピレンを主成分とし、これとエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンとを共重合させたプロピレン系共重合体を含むプロピレン系樹脂が、非吸湿性、絶縁性に加えて、加工性、ヤング率、耐久性、コスト等の観点から好ましい。
上記プロピレン系共重合体については、2元系でも3元系以上でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。
【0031】
官能基含有ポリオレフィン系樹脂の具体的な例としては、前記オレフィン類と共重合可能な官能基含有モノマーとの共重合体が挙げられる。
係る官能基含有モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン類、酢酸ビニル、ビニルアルコール、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ブチル安息香酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、N−メタロール(メタ)アクリルアミドなどのアクリル酸アミド類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、フェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類が特に代表的である。これら官能基含有モノマーの中から必要に応じ1種類もしくは2種類以上を適宜選択し重合したものを用いることができる。
【0032】
更にこれらポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂を必要によりグラフト変性したものを使用することも可能である。
グラフト変性には公知の手法を用いることができ、具体的な例としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体によるグラフト変性を挙げることができる。該不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を挙げることができる。また上記不飽和カルボン酸の誘導体としては、酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等も使用可能である。具体的には無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジエチルエステル、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、マレイン酸−N−モノエチルアミド、マレイン酸−N,N−ジエチルアミド、マレイン酸−N−モノブチルアミド、マレイン酸−N,N−ジブチルアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、フマル酸−N−モノエチルアミド、フマル酸−N,N−ジエチルアミド、フマル酸−N−モノブチルアミド、フマル酸−N,N−ジブチルアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等を挙げることができる。
グラフト変性物としては、グラフトモノマーをポリオレフィン系樹脂及び官能基含有ポリオレフィン系樹脂に対して一般に0.005〜10質量%、好ましくは0.01〜5質量%を加えて、グラフト変性したものが挙げられる。
【0033】
多孔質樹脂フィルムに使用するに適した熱可塑性樹脂としては、上記の熱可塑性樹脂の中から1種を選択して単独で使用してもよいし、2種以上を選択して組み合わせて使用し
てもよい。
中でも、ガラス転移点が室温付近である熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、ガラス転移点が−20〜20℃である熱可塑性樹脂を用いることがより好ましい。これにより、得られたエレクトレット材料を、該エレクトレット材料に含まれる多孔質樹脂フィルムの損失弾性率(E’’)のピーク温度が室温にあり、該エレクトレット材料を多孔質樹脂フィルムの損失弾性率(E’’)のピーク温度に対して−20〜20℃の範囲で動作させる観点から好ましい。ガラス転移点が室温付近となる熱可塑性樹脂の具体的な例としてはポリプロピレン(Tg:−10℃)が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂を単独でもしくは2種類以上を混合して用いることにより、多孔質樹脂フィルムの損失弾性率(E’’)のピーク温度が0〜40℃であるエレクトレット材料を得ることができる。なお、多孔質樹脂フィルムの損失弾性率(E’’)のピーク温度が0〜40℃の範囲内にあるときはもちろん、0〜40℃の範囲外にあるときであっても、得られたエレクトレット材料を、該エレクトレット材料の前記損失弾性率(E’’)ピーク温度に対して−20〜20℃の範囲で動作させることによっても、本発明の効果が得られる。
【0034】
空孔形成核剤:
多孔質樹脂フィルムに用いられる空孔形成核剤は、これを核としてフィルムに空孔を形成するために添加するものである。多孔質樹脂フィルムに使用するに適した空孔形成核剤としては、無機微細粉末および有機フィラーが挙げられる。これら空孔形成核剤の添加および後述する延伸工程により、フィルムに内部に空孔を形成することが可能となる。空孔形成核剤の含有量を制御することによって、空孔の頻度を制御することが可能であり、空孔形成核剤の粒子径を制御することによって、空孔の高さ及び径を制御することが可能である。
空孔形成核剤の含有率は前述のとおりであるが、空孔形成核剤の含有率が上記下限値以上であれば、後述する延伸工程で、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を十分な数生じ、所要の圧電性能を得ることができる。一方、空孔形成核剤の含有率が上記上限値以下であれば、空孔が多すぎることによるフィルム強度低下を抑制するため、得られたエレクトレットに繰り返し圧縮力を作用させても圧縮回復性が働き、圧電性能が安定することを期待できる。
【0035】
空孔形成核剤の中でも無機微細粉末は、コストが低く、体積平均粒径が豊富である特徴を有する。
無機微細粉末の体積平均粒径(レーザー回折による粒度分布計で測定したメディアン径(D50))は、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を必要な量成形すること考慮して選択する。形成される空孔の大きさが十分大きくなり、所要の圧電性能を得ることができる観点から、体積平均粒径が3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましい。一方、隣接する空孔同士が連通せず電荷が短絡して電荷を蓄積しにくくなることを抑制することや、空孔が大きすぎることによるフィルム強度低下を抑制し、得られたエレクトレットに繰り返し圧縮力を作用させても圧縮回復性が働き、圧電性能が安定することの観点から、体積平均粒径が30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。
無機微細粉末の具体例としては、炭酸カルシウム、焼成クレー、シリカ、けいそう土、白土、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、アルミナ、ゼオライト、マイカ、セリサイト、ベントナイト、セピオライト、バーミキュライト、ドロマイト、ワラストナイト、ガラスファイバーなどが挙げられ、これらの中から1種以上を単独または併用して使用することができる。
【0036】
空孔形成核剤の中でも有機フィラーは体積平均粒径(メディアン径)の整った球状の粒子として入手可能であり、多孔質樹脂フィルムの空孔径分布をシャープにすることができ
、加えて空孔形成後も有機フィラーが空孔の中で柱となって、得られたエレクトレットに繰り返し圧縮力を作用させても圧縮回復性が働き、圧電性能が安定すること(ピラー効果)を期待できる特徴を有する。
有機フィラーの体積平均粒径(レーザー回折による粒度分布計で測定したメディアン径(D50))は、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を必要な量成形すること考慮して選択する。形成される空孔の大きさが十分大きくなり、所要の圧電性能を得ることができる観点から、体積平均粒径が3μm以上であることが好ましく、4μm以上であることがより好ましい。一方、隣接する空孔同士が連通せず電荷が短絡して電荷を蓄積しにくくなることを抑制することや、空孔が大きすぎることによるフィルム強度低下を抑制し、得られたエレクトレットに繰り返し圧縮力を作用させても圧縮回復性が働き、圧電性能が安定することの観点から、体積平均粒径が30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。
【0037】
有機フィラーは、多孔質樹脂フィルムの主成分である熱可塑性樹脂とは異なる種類の樹脂を選択することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合、有機フィラーとしては、架橋アクリル樹脂、架橋メタクリル樹脂、架橋スチレン樹脂、架橋ウレタン樹脂等の、ポリオレフィンとは非相溶であり、架橋によりポリオレフィン系樹脂の混練、延伸成形の際に流動性を有しないものを使用することが好ましい。また、これらの架橋樹脂からなる樹脂粒子は、予め粒子径の整った球状の粒子として入手可能であり、空孔のサイズを容易に調整できることから、より好ましい。
また、延伸工程で有機フィラーが変形せず、その結果目的とする空孔径を得ることを目的として、有機フィラー選択することが好ましい。例えば、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン−6,ナイロン−6,6、環状オレフィン重合体、ポリスチレン、ポリメタクリレート等の重合体であって、ポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば170〜300℃)ないしはガラス転移温度(例えば170〜280℃)を有するものを、溶融混練によりマトリクス樹脂であるポリオレフィン系樹脂中に微分散させることにより使用することができる。
有機フィラーとしては、これらの中から1種以上を単独または併用して使用することができる。
【0038】
空孔形成核剤として無機微細粉末と有機フィラーとを併用する場合は、上記列挙した無機微細粉末の中から1種以上と、上記列挙した有機フィラーの中から1種以上とを併用して使用することができる。この場合もまた、上記と同様の趣旨から体積平均粒径が3〜30μmであることが好ましい。有機フィラーと無機粉末とを併用する場合の体積平均粒径は、個別に無機粉末の同範囲のものを組み合わせて使用しても良く、有機フィラーと無機粉末とを混合した状態をレーザー回折による粒度分布計で測定した体積平均粒径が3〜30μmのものを使用しても良い。有機フィラーと無機粉末とを混合した状態をレーザー回折による粒度分布計で測定した体積平均粒径は3〜30μmであることが好ましく、4〜20μmであることがより好ましく、4〜15μmであることが更に好ましい。
【0039】
分散剤:
多孔質樹脂フィルムに用いられる分散剤は、空孔形成核剤を樹脂中に均一に分散させる結果、エレクトレット材料の性能の均一性を高める目的で使用されるものである。
分散剤を使用しない場合、空孔形成核剤の凝集体がフィルム中に残存し、延伸工程により30μmを超える大きな空孔が生じやすく、連通ボイドの生成による電荷短絡や、多孔質樹脂フィルムの圧縮回復性の低下によって圧電性が低下する傾向があるが、分散剤を使用して空孔形成核剤を均一に分散させることにより、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔を100〜30
00個/mm
2有する多孔質樹脂フィルムが得られやすい。
【0040】
分散剤の具体的な例としては、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、パクセン酸、エルカ酸、リノール酸、 リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの脂肪酸;グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンモノ12−ヒドロキシステアレート、グリセリンモノオレート、グリセリンモノカプリレート、グリセリンモノカプレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジステアレート、グリセリンジベヘネート、グリセリンジオレート、ジグリセリンカプリレート、などのグリセリン脂肪酸;エステルジグリセリンラウレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンオレエート、テトラグリセリンステアレート、デカグリセリンラウレート、デカグリセリンステアレート、デカグリセリンオレート、ポリグリセリンポリリシノレートなどのポリグリセリン脂肪酸エステル;ソルビタンラウレート、ソルビタンパルミテート、ソルビタンステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンオレート、ソルビタントリオレート、ソルビタントリベヘネート、ソルビタンカプリレートなどのソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリオキシエチレングリセリンモノステアレートなどのエチレンオキサイド付加物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、 3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、 3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤;ポリアクリル酸ないしはそれらの塩、ポリメタクリル酸ないしはそれらの塩等が挙げられる。これら分散剤は単独であるいは2種類以上を併用することが出来る。これら分散剤の中でも、添加した樹脂の電気的な性質への影響が小さい脂肪酸を用いることが好ましい。
【0041】
その他の材料:
多孔質樹脂フィルムに使用する熱可塑性樹脂組成物には必要に応じて、熱安定剤(酸化防止剤)、安定剤などを任意に添加することができる。
熱安定剤を添加する場合は、熱可塑性樹脂組成物に対し0.001〜1重量%の範囲内で添加することが好ましい。熱安定剤の具体例としては、立体障害フェノール系、リン系、アミン系等の安定剤を使用することができる。
光安定剤を添加する場合は、熱可塑性樹脂組成物に対し通常0.001〜1重量%の範囲内で添加する。光安定剤の具体例としては、立体障害アミン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等の光安定剤を使用することができる。
【0042】
(表面層)
上記多孔質樹脂フィルムは、保護層の働きを有する目的で、多孔質樹脂フィルムの少なくとも片面に延伸樹脂フィルムからなる表面層を備えていることが好ましい。
多孔質樹脂フィルムの表面に表面層を備えることにより、多孔質樹脂フィルムに形成した空孔が外部と通じて大気放電してしまうことを防ぐことができ、また、電荷注入によるエレクトレット化の際に、多孔質樹脂フィルムの絶縁耐圧を向上し、高電圧下でより多くの電荷を注入することができる。
表面層は、多孔質樹脂フィルムよりも空孔を形成し難い組成を有するか、空孔率が低い構造であることが好ましい。この様な表面層の形成は、多孔質樹脂フィルムよりも表面層の空孔形成核剤の含有量を少なくする手法や、表面層に使用する空孔形成核剤の体積平均粒径を多孔質樹脂フィルムに使用する空孔形成核剤の体積平均粒径より小さくする手法や
、多孔質樹脂フィルムを2軸延伸により形成し、表面層を1軸延伸で形成する手法など、両者の延伸倍率に差異をつける手法により達成できる。
表面層を構成する熱可塑性樹脂としては、多孔質樹脂フィルムに使用する熱可塑性樹脂の項で列挙した種類を用いることができる。
【0043】
表面層は空孔形成核剤を含有していても、含有していなくても良いが、表面層の誘電率などの電気的特性を改質するという観点からは、含有している方が好ましい。表面層に空孔形成核剤を含有する場合は、多孔質樹脂フィルムに使用する空孔形成核剤の項で列挙した種類と同様のものを用いることができ、表面層の空孔形成核剤は多孔質樹脂フィルムの空孔形成核剤とは同種のものを用いてもよいし、異種のものを用いてもよい。
特に有機フィラーは、一般的に熱可塑性樹脂よりも誘電率が高い為に、表面層の電気特性の改質に向いている。特に表面層の熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂などの誘電率の低い樹脂を使用する場合は、有機フィラーを含有させることにより、エレクトレット化処理時の高電圧印加時に、その誘電効果により多孔質樹脂フィルム内部まで電荷を到達させることができる。逆にエレクトレット化処理後は、主成分であるポリオレフィン系樹脂の低い誘電特性により多孔質樹脂フィルム内部の電荷を逃がさず保持する効果が得られる。
表面層に空孔形成核剤を含有する場合は、多孔質樹脂フィルムに使用する分散剤の項で列挙した種類と同様の分散剤を使用することが好ましい。
【0044】
表面層は、延伸されていることが好ましい。表面層は詳細後述する延伸工程によって、厚み(膜厚)の均一性を向上し、絶縁耐圧性などの電気特性の均一性を向上することができる。表面層の厚みが不均一であると、高電圧を用いた電荷注入時に、表面層の薄い部分で局所的な放電集中が発生しやすく、効果的に電荷注入するため電圧を上げることが困難になりやすい。
表面層は単層構造のみならず、2層構造以上の多層構造のものであってもよい。多層構造とする場合は、各層に使用する熱可塑性樹脂、空孔形成核剤、分散剤の種類や含有量を変更することにより、より高い電荷保持性能を備えた多孔質樹脂フィルムの設計が可能となる。
表面層は多孔質樹脂フィルムの少なくとも片面に設けることが好ましく、両面に設けることがより好ましい。表面層を多孔質樹脂フィルムの両面に設ける場合は、表裏それぞれの組成、構成が同一でも良いし、異なっていても良い。
【0045】
多孔質樹脂フィルムに表面に表面層を設ける場合、その厚みは0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更に好ましく、0.7μm以上であることが特に好ましい。これにより、表面層を均一に設けることが容易になり、均一な電荷注入や絶縁耐圧性の向上が期待できる。一方、表面層の厚みは200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更に好ましく、30μm以下であることが特に好ましい。これにより、多孔質樹脂フィルムに電荷注入する際に、多孔質樹脂フィルム内部まで電荷を到達させやすくなる傾向がある。また、表面層は相対的に厚み方向の弾性変形がしにくい層であるため、表面層の厚みを抑えることは、多孔質樹脂フィルムの圧縮弾性率が低下せず、圧電性を維持しやすい傾向がある。
【0046】
(多孔質樹脂フィルムの製造)
多孔質樹脂フィルムの製造には、従来公知の種々の方法が使用できる。例えば、多孔質樹脂フィルムが単層フィルムの場合は、単一のダイスから押し出して、少なくとも1軸方向に延伸すればよい。また、多孔質樹脂フィルムが表面層を有する場合は、フィードブロックやマルチマニホールドを使用した多層ダイスを用いる共押出方式と、複数のダイスを使用する押出ラミネーション方式等が挙げられる。更に多層ダイスによる共押出方式と押
出ラミネーション方式を組み合わせる方法が挙げられる。
多孔質樹脂フィルムの厚み均一性は、絶縁耐圧性が向上するため電荷注入効率が向上し、結果的に圧電効率が向上するため重要である。多孔質樹脂フィルムが表面層を有する場合は、表面層を積層した後に、少なくとも1軸方向に延伸することが好ましい。表面層を積層後に延伸することによって、延伸フィルム同士を積層するよりも、膜厚の均一性が向上し、結果的に電気特性が向上する。
【0047】
本発明において、多孔質樹脂フィルムは樹脂延伸フィルムである。延伸により多孔質樹脂フィルム内部には空孔が多数形成される。多孔質樹脂フィルム中に形成される空孔は電荷を保持する観点から個々の体積が大きく、その数が多く、且つ互いに独立した形状であることが望ましい。空孔の大きさは1方向のみ延伸するよりも、2軸方向に延伸した方が大きくできる。特にフィルムの巾方向、流れ方向の2軸方向に延伸したものは、面方向に引き延ばされた円盤状の空孔を形成できるので、エレクトレット化により空孔内で正負分極した電荷の蓄積をし易く、電荷の保持性能が優れたものとなる。したがって多孔質樹脂フィルムは2軸延伸されていることが好ましい。
【0048】
多孔質樹脂フィルムの延伸は、公知の種々の方法によって行うことができる。具体的には、ロール群の周速差を利用した縦延伸方法、テンターオーブンを使用した横延伸方法、上記縦延伸と横延伸とを正順又は逆順に行う逐次二軸延伸方法、圧延方法、テンターオーブンとリニアモーターの組み合わせによる同時二軸延伸方法、テンターオーブンとパンタグラフの組み合わせによる同時二軸延伸方法などを挙げることができる。又、インフレーションフィルムの延伸方法であるチューブラー法による同時二軸延伸方法を挙げることができる。
【0049】
多孔質樹脂フィルムの延伸は、空孔形成の観点から、多孔質樹脂フィルムに用いる主要な熱可塑性樹脂のガラス転移点温度から、主要な熱可塑性樹脂の結晶部の融点までの温度で行うことが好ましい。また、複層積層物である多孔質樹脂フィルムを延伸する場合は、設定坪量の最も多い層または設定空孔率の最も高い層の延伸効率を考慮して延伸温度を設定するのが適切である。
延伸時の温度は、多孔質樹脂フィルムに質量比で最も多く用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度より高くかつ該熱可塑性樹脂の融点より1〜70℃低い温度が好ましい。具体的には、各層の熱可塑性樹脂がプロピレン単独重合体(融点155〜167℃)である場合は100〜166℃が好ましく、高密度ポリエチレン(融点121〜136℃)である場合は70〜135℃が好ましい。
勿論、多孔質樹脂フィルムの内部の層と表面層にそれぞれ融点またはガラス転移点の異なる熱可塑性樹脂を用いて延伸温度を決定すれば、それぞれの層の空孔率を調整することが可能である。
【0050】
延伸倍率は特に限定されず、多孔質樹脂フィルムに用いる熱可塑性樹脂の延伸特性や前述の設定空孔率等を考慮して適宜決定する。
熱可塑性樹脂としてプロピレン単独重合体ないしはその共重合体を使用する場合の延伸倍率は、一軸方向に延伸する場合は1.2倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。一方、12倍以下が好ましく、10倍以下がより好ましい。また、二軸方向に延伸する場合には面積倍率(縦倍率と横倍率の積)で1.5倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましい。一方、60倍以下が好ましく、50倍以下がより好ましい。
その他の熱可塑性樹脂を使用する場合の延伸倍率は、一軸方向に延伸する場合は1.2倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。一方、10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。また、二軸方向に延伸する場合には面積倍率で1.5倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましい。一方、20倍以下が好ましく、12倍以下がより好ましい。
二軸方向に延伸する場合には、縦倍率と横倍率をできる限り同倍率に設定することが、
電荷の蓄積をし易い円盤状の空孔を形成し、任意方向の断面で観察した空孔の形状や頻度を本発明の好ましい範囲に調整しやすい。そのため二軸方向に延伸する場合には、縦倍率と横倍率との比が0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.7以上であることが更に好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。一方、2.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましく、1.5以下であることが更に好ましく、1.3以下であることが特に好ましい。
また延伸速度は、安定な延伸成形の観点から、20〜350m/分の範囲内とするのが好ましい。
【0051】
(アンカーコート層)
多孔質樹脂フィルムの表面には、他素材(フィルムや蒸着金属膜など)との密着性を向上させるために、片面もしくは両面にアンカーコート層を設けてもよい。
アンカーコート層には、他素材との密着性の観点から、高分子バインダーを用いることが好ましく、係る高分子バインダーの具体的な例としては、ポリエチレンイミン、炭素数1〜12のアルキル変性ポリエチレンイミン、ポリ(エチレンイミン−尿素)等のポリエチレンイミン系重合体;ポリアミンポリアミドのエチレンイミン付加物、及びポリアミンポリアミドのエピクロルヒドリン付加物等のポリアミンポリアミド系重合体;アクリル酸アミド−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸アミド−アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体、ポリアクリルアミドの誘導体、オキサゾリン基含有アクリル酸エステル系重合体等のアクリル酸エステル系重合体;ポリビニルアルコールとその変性体を含むポリビニルアルコール系重合体;ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール等の水溶性樹脂;塩素化ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、アクリル酸変性ポリプロピレン等のポリプロピレン系重合体、加えてポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、アクリルニトリル−ブタジエン共重合体、ポリエステル等の熱可塑性樹脂の有機溶剤希釈樹脂又は水希釈樹脂等が挙げられる。これらの内でもポリエチレンイミン系重合体、ポリアミンポリアミド系重合体、ポリビニルアルコール系重合体、及びポリプロピレン系重合体が、多孔質樹脂フィルムとの密着性に優れ好ましい。
【0052】
多孔質樹脂フィルム上に設けるアンカーコート層の坪量は、固形分換算で、多孔質樹脂フィルムとの密着性を発現する観点から0.001g/m
2以上が好ましく、0.005g/m
2以上がより好ましく、0.01g/m
2以上が特に好ましい。一方、塗工層であるアンカーコート層の膜厚を均一に保つ観点から、5g/m
2以下が好ましく、3g/m
2以下がより好ましく、1g/m
2以下が特に好ましい。塗工層であるアンカーコート層の膜厚を均一に保てない場合、膜厚の振れによって多孔質樹脂フィルムの電気特性の均一性が損なわれたり、アンカーコート層自体の凝集力不足から多孔質樹脂フィルムとの密着性が低下したり、アンカーコート層の表面抵抗値が低下して1×10
13Ω未満となり、表面を伝って電荷が逃げやすくなるために、多孔質樹脂フィルムのエレクトレット化の際に電荷が注入されにくくなり、多孔質樹脂フィルムまで電荷が到達できずに本発明の所期の性能を発現しにくくなったりすることがある。
【0053】
多孔質樹脂フィルム上にアンカーコート層を設ける方法としては、上記高分子バインダーを含む塗工液を多孔質樹脂フィルム上に塗工する方法が好ましい。具体的には、多孔質樹脂フィルム上に公知の塗工装置を用いて上記塗工液の塗膜を形成し、これを乾燥することにより形成することができる。
塗工装置の具体的な例としては、例えば、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、スクイズコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター、サイズプレスコーター等が挙げられる。
多孔質樹脂フィルム上にアンカーコート層を設けるタイミングは、詳細後述するエレク
トレット化処理の前でも後でも差し支えない。
【0054】
(多孔質樹脂フィルムの厚み)
多孔質樹脂フィルムの厚みは、JIS−K−7130:1999「プラスチック−フィルム及びシート−厚さ測定方法」に基づいて、厚み計を用いてフィルム総厚みを測定する。また、多孔質樹脂フィルムが複層フィルムである場合は、測定対象試料を液体窒素にて−60℃以下の温度に冷却し、ガラス板上に置いた試料に対してカミソリ刃を直角に当て切断し断面測定用の試料を作成し、得られた試料について走査型電子顕微鏡を使用して断面観察を行い、空孔形状や組成外観から各層の境界線を判別して、観察像から求められる各層厚みが多孔質樹脂フィルムの厚みに占める割合を決定する。さらに厚み計を用いて求めたフィルム総厚みに各層厚みの前記割合を乗じて求める。
多孔質樹脂フィルムの厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることが特に好ましい。これによりエネルギー変換に有効に機能する大きさの空孔を所望の数量で均一に形成することができる。一方、多孔質樹脂フィルムの厚みは、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。これにより、電荷注入(直流高電圧放電処理)を施してエレクトレット化する際に、層内部まで電荷を到達させることが可能となり、本発明の所期の性能を発揮させることができる。
【0055】
(多孔質樹脂フィルムの表面抵抗値)
多孔質樹脂フィルムの表面抵抗値[Ω]は、JIS−K−6911:1995「熱硬化性プラスチック一般試験方法」に従って、2重リング法の電極を用いて、温度23℃相対湿度50%の条件下にて測定する。
多孔質樹脂フィルムは、少なくとも片方の表面の表面抵抗が1×10
13Ω以上であることが好ましく、5×10
13Ω以上であることがより好ましい。これによりエレクトレット化処理を施す際に、電荷が表面を伝って逃げにくく、充分な電荷注入が行われる。一方、少なくとも片方の表面の表面抵抗が9×10
17Ω以下であることが好ましく、5×10
16Ω以下であることがより好ましい。これにより多孔質樹脂フィルムにゴミや埃が付着し、エレクトレット化処理の際にこれを伝って局所放電を起こし、部分的な多孔質樹脂フィルムの破壊が発生する現象を抑制することができる。
【0056】
[エレクトレット材料]
上記多孔質樹脂フィルムをエレクトレット化することで、本発明のエレクトレット材料が得られる。
本発明のエレクトレット化材料は、上述の通り10kHz〜1MHzの範囲内に共鳴現象が現れる。この共鳴現象は、エレクトレット材料を25℃、相対湿度50%の環境でJIS−K−7244−4に従って周波数0.01Hzにおいて測定した貯蔵弾性率(E’
(0.01))と周波数100Hzにおいて測定した貯蔵弾性率(E’
(100))とから上記式4により求められる貯蔵弾性率比(A
e)が1.10〜2.00であることと密接に関係する。
また、前記共鳴現象は、エレクトレット材料が主として含有する熱可塑性樹脂を、温度に対する引張貯蔵弾性率(E’)の値の変化率が変わる変曲点として求められる相転移温度より高い温度環境においてエレクトレット材料を動作させた場合に観測される。
【0057】
(エレクトレット化)
かかるエレクトレット化処理としては、いくつかの処理方法が挙げられる。例えば、多孔質樹脂フィルムの両面を導電体で保持し、直流高電圧やパルス状高電圧を加える方法(エレクトロエレクトレット化法)やγ線や電子線を照射してエレクトレット化する方法(ラジオエレクトレット化法)などが公知である。
これらの中でも直流高電圧放電を用いたエレクトレット化処理法(エレクトロエレクト
レット化法)は装置が小型であり、且つ作業者や環境への負荷が小さく、本発明のエネルギー変換用フィルム(i)の様な高分子材料のエレクトレット化処理に適しており、好ましい。
【0058】
本発明に用い得るエレクトレット化装置の好ましい例としては、
図2に示す様に直流高圧電源5に繋がった針状電極6とアース電極7の間に多孔質樹脂フィルムを固定し所定の電圧を印加する方法、
図4に示す様に直流高圧電源5に繋がったワイヤー電極10とアース電極7の間に多孔質樹脂フィルムを固定し所定の電圧を印加しながらワイヤー電極10を移動する方法、
図3に示す様に直流高圧電源5に繋がった針状電極8とアースに接続されたロール9の間に所定の電圧を印加しながら多孔質樹脂フィルムを通過させる方法、
図5に示す様に直流高圧電源5に繋がったワイヤー電極11とアースに接続されたロール9の間に所定の電圧を印加しながら多孔質樹脂フィルムを通過させる方法、などが挙げられる。
【0059】
多孔質樹脂フィルムは、直流高電圧放電によるエレクトレット化処理により、より多くの電荷を内部に蓄積することが可能である。
係るエレクトレット化処理の印加電圧は、多孔質樹脂フィルムの厚み、空孔率、樹脂やフィラーの材質、処理速度、用いる電極の形状、材質、大きさ、最終的に得るべきエレクトレット材料の帯電量などにより変更し得るが、5kV以上が好ましく、6kV以上がより好ましく、7kV以上が更に好ましい。これにより、十分な電荷量が注入でき、圧電性能が発揮できる。一方、エレクトレット化処理の印加電圧は、100kV以下が好ましく、70kV以下がより好ましく、50kV以下が更に好ましい。これにより、エレクトレット化処理時に局所的な火花放電が発生して多孔質樹脂フィルムにピンホール等の部分的な破壊が発生したり、エレクトレット化処理時に多孔質樹脂フィルムの表面から端面を伝いアース電極へ電流が流れやすくなり、エレクトレット化の効率が悪くなったりする現象を回避しやすい。
【0060】
エレクトレット化処理において、多孔質樹脂フィルム中に過剰に電荷を注入する場合がある。この場合は処理後のエレクトレット材料が放電を起こし、後加工プロセスで不都合を来す場合がある。そのためエレクトレット化処理後に、余剰電荷の除電処理を行ってもよい。
係る除電処理としては、電圧印加式除電器(イオナイザ)や自己放電式除電器など公知の手法を用いることができる。これら一般的な除電器は多孔質樹脂フィルムの表面電荷の除去はできるが、多孔質樹脂フィルム内部、特に空孔内に蓄積した電荷までは除去できない。したがって除電処理によりエレクトレット材料の性能が大きく低下することはない。
除電処理を行なうことにより、エレクトレット化処理により過剰に与えられた電荷を除去してエレクトレット材料の放電現象の防止が可能となる。
【0061】
エレクトレット化処理は、多孔質樹脂フィルムに用いる主な熱可塑性樹脂のガラス転移点温度以上から結晶部の融点以下の温度で行うことが望ましい。ガラス転移点以上であれば熱可塑性樹脂の非晶質部分の分子運動が活発であり、与えられた電荷に適した分子配列をなすため、効率が良いエレクトレット化処理が可能となる。一方、多孔質樹脂フィルムに用いる主な熱可塑性樹脂の融点を超えてしまうと多孔質樹脂フィルム自体がその構造を維持できなくなってしまうため、本発明の所期の性能を得られないことがある。
【0062】
[導電層(D)]
多孔質樹脂フィルムをエレクトレット化したエレクトレット材料には、少なくとも片方の面に導電層を設けることにより、電力の入出力が可能である。導電層は電極として用いるものであるので、エレクトレット材料の少なくとも片方の面に導電層を設け、JIS−K−7194:1994「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に従っ
て4端子法により測定した表面抵抗値は1×10
−2〜9×10
7Ωに設定されていることが好ましい。
エレクトレット材料の表面抵抗値が9×10
7Ωを超えると電気信号の伝達効率が悪く、電気・電子入出力装置用材料としての性能が低下する傾向にある。一方、1×10
−2Ω未満の導電層を設けることは、塗工の場合、導電層を厚く設ける必要があり、塗工した後に乾燥時の熱により多孔質樹脂フィルムが熱収縮を起こすことがある。また、蒸着する場合は蒸着される金属の熱により、多孔質樹脂フィルムが内部に形成した空孔が潰れてしまったり、多孔質樹脂フィルムが熱収縮を起こしたりすることがある。
【0063】
導電層としては、導電性塗料の塗工による塗膜や金属蒸着膜などが挙げられる。
塗工可能な導電性材料の例としては、金、銀、白金、銅、ケイ素などの金属粒子;スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛などの導電性酸化金属粒子;カーボン粒子等を、ポリアクリル酸エステル、ポリウレタン、ポリエポキシ、ポリエーテル、ポリエステルなどのバインダー樹脂成分の溶液又は分散液に混合したものが挙げられる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性樹脂の溶液又は分散液などが挙げられる。
導電性塗料の塗工は、ダイコーター、バーコーター、コンマコーター、リップコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、リバースコーター、エアーナイフコーター等の従来公知の塗工装置により実施できる。
金属蒸着膜の具体的な例としては、アルミニウム、亜鉛、金、銀、白金、ニッケルなどの金属を減圧下で気化して蒸着させ、多孔質樹脂フィルムの表面に薄膜を形成したもの、または、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の担体上にアルミニウム、亜鉛、金、銀、白金、ニッケルなどの金属を蒸着して形成した金属薄膜を多孔質樹脂フィルムの表面に転写したもの等が挙げられる。
【0064】
多孔質樹脂フィルムの表面への導電層の設置は、エレクトレット化処理前であっても、処理後であっても差し支えない。
導電層の設置をエレクトレット化処理後のエレクトレット材料に行えば、エレクトレット化処理時に導電層を介した電荷の放散を防ぐことが可能である。しかしながら導電層の設置の際に多孔質樹脂フィルムに熱などの負荷が掛かり、電荷が逃げてしまい性能が低下する場合がある。現状では最終的に得られるエレクトレット材料の性能から判断して、導電層はエレクトレット化処理前に設けることが好ましい。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を用いて、本発明を更に具体的に説明する。以下に示す材料、使用量、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
なお、以下に記載される%は、特記しない限り質量%である。また、本明細書中における体積平均粒径は、メディアン径D50として表記している。
表1に、多孔質樹脂フィルムの製造例、実施例に使用する材料をまとめて示す。
【0066】
【表1】
【0067】
[配合例]
表1に記載した通り、熱可塑性樹脂(プロピレン単独重合体71.8質量%及び高密度ポリエチレン10質量%)、空孔形成核剤(炭酸カルシウム18質量%)及び分散剤(オレイン酸)0.2質量%を混合し、210℃に設定した2軸混練機にて溶融混練し、次いで230℃に設定した押出機にてストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにて切断して樹脂組成物(a)のペレットを作成した。
【0068】
[実施例1]
多孔質樹脂フィルム用樹脂組成物aを230℃に設定した1台の押出機にて溶融混練した後、250℃に設定したフィードブロック式多層ダイスの中層に供給すると同時に、表面層となる熱可塑性樹脂組成物b(プロピレン単独重合体)を230℃に設定した2台の押出機にてそれぞれ溶融混練した後、250℃に設定したフィードブロック式多層ダイスの表層に供給してb/a/bの順になる様にダイス内で積層してシート状に押し出し、これを冷却装置により60℃まで冷却して3層構成の無延伸シートを得た。
この無延伸シートを140℃に加熱し、ロール群の周速差を利用して縦方向(MD)に4倍延伸した。次いで、この一軸延伸シートを60℃まで冷却し、テンターオーブンを用いて再び150℃に加熱して横方向(TD)に8倍延伸した後、更にオーブンで160℃まで加熱して熱処理を行った。
次いで60℃まで冷却し、耳部をスリットした後、両面にコロナ表面放電処理を施し、同フィルムの両面に、アンカー剤Aとしてポリアミンポリアミド系重合体溶液(ポリアミンポリアミドのエピクロルヒドリン付加物溶液(星光PMC(株)製、商品名:WS4024、固形分濃度25質量%)を水/2−プロパノール=9/1の混合液で25倍希釈して得た溶液)を、スクイズコーターを用いて乾燥後の塗工量がそれぞれ0.02g/m
2となるように塗工し、80℃のオーブンで乾燥してアンカーコート層を設け、多孔質樹脂フィルムを得た。
得られた多孔質樹脂フィルムは、肉厚が70μm、各層厚みが1μm/68μm/1μm、各層延伸軸数が2軸/2軸/2軸、空孔率が39%、表面抵抗値が両面ともに10
14Ω台であった。また同フィルムの断面観察より、多孔質樹脂フィルム内部に生じた、フィルムの厚み方向に3〜30μmの高さを有し且つフィルムの面方向に50〜500μmの径を有する空孔の計測数は、フィルムの流れ方向で554個/mm
2、フィルムの幅方
向で872個/mm
2であった。
【0069】
[相転移温度の測定]
実施例1で作成した多孔質樹脂フィルムから縦70mm、横3mmの試験片を多孔質樹脂フィルムのMD方向が試験片の縦になるようにして1枚、多孔質樹脂フィルムのTD方向が試験片の縦になるようにして1枚採取した。
次に、JIS−K−7244−1およびJIS−K−7244−4に従い、動的粘弾性計測装置(TAインスツルメンツ社製:RSA3)に試験片をセットした。この時のクランプ間距離は20mmとした。
続いて、−110℃〜130℃の範囲において1℃/minの昇温速度で加熱しながら、1Hzの周波数にて引張貯蔵弾性率(E’)と引張損失弾性率(E’’)を1℃間隔で測定した。次に温度を横軸に、引張貯蔵弾性率(E’)値及び損失弾性率(E’’)値を縦軸にプロットした。得られた結果を
図6に示す。
図6下に示す通り、実施例1の多孔質樹脂フィルムにおける損失弾性率(E’’)ピーク温度は、MD方向を試験片の縦とする向きで18℃、TD方向を試験片の縦とする向きで16℃であった。
【0070】
[貯蔵弾性率比の測定]
実施例1で作成した多孔質樹脂フィルムから縦70mm、横3mmの試験片を多孔質樹脂フィルムのMD方向が試験片の縦になるようにして1枚、多孔質樹脂フィルムのTD方向が試験片の縦になるようにして1枚採取した。
次に、JIS−K−7244−1およびJIS−K−7244−4に従い、動的粘弾性計測装置(TAインスツルメンツ社製:RSA3)に試験片をセットした。この時のクランプ間距離は20mmとした。
続いて、25℃、相対湿度50%の環境で周波数0.01Hzから100Hzまでの範囲で貯蔵弾性率(E’)を対数で均等間隔となる様に16点測定した。得られた結果を
図8に示す。
図8に示す通り、上記周波数領域で貯蔵弾性率(E’)は良い直線性を示した。
次にMD方向を試験片の縦とする向きとTD方向を試験片の縦とする向きのそれぞれについて0.01Hzと100Hzの2点に於ける貯蔵弾性率(E’)を測定した。
MD方向を試験片の縦とする向きの貯蔵弾性率(E’)は100Hzにおいて1.04GPa、0.01Hzにおいて0.74GPaであった。
TD方向を試験片の縦とする向きの貯蔵弾性率(E’)は100Hzにおいて2.39GPa、0.01Hzにおいて1.83GPaであった。
次に、MD方向とTD方向それぞれについて式(4)により貯蔵弾性率比を求めた。
A
e = E’
(100)/E’
(0.01) ・・・(式4)
A
e : 貯蔵弾性率比[−]
E’
(100) : 周波数100Hzでの貯蔵弾性率[Pa]
E’
(0.01) : 周波数0.01Hzでの貯蔵弾性率[Pa]
MD方向を試験片の縦とする向きの貯蔵弾性率比は1.41、TD方向を試験片の縦とする向きの貯蔵弾性率比は1.31であり、これら値は小数点第2位で示した。
【0071】
[エレクトレット材料の作成]
実施例1で作成した多孔質樹脂フィルムの片面に真空蒸着装置(日立ハイテク製、商品名:VE−2030)を用いてアルミニウムを蒸着して導電層を形成した。
次いで主電極の針間距離10mm、主電極−アース電極間距離10mmに設定した
図2に記載のエレクトレット化装置のアース電極盤上に上記で得た蒸着フィルムのアルミニウム蒸着面がアース電極面と接触するように置き、直流電圧を印加した。
印加電圧を1kVから少しずつ上昇させ、局所火花放電により蒸着フィルムが破壊される電圧(絶縁破壊電圧)を測定した。
この絶縁破壊電圧よりも1kV低い電圧で別に作成した蒸着フィルムに電荷注入を行って、エレクトレット化を行い、次にアルミニウム蒸着が形成れていない面に真空蒸着装置(日立ハイテク製、商品名:VE−2030)を用いてアルミニウムを蒸着して導電層を形成しエレクトレット材料を作成した。
得られたエレクトレット材料の表裏の表面抵抗値をJIS−K−7194:1994「導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法」に従い4端子法により測定したところ、表面抵抗値が1Ω以下であった。
【0072】
[共鳴周波数の測定]
上記記載の方法で直流コロナ放電により電荷注入を施したエレクトレット材料にインピーダンスアナライザ(アジレントテクノロジー社製:4194A)に接続し、25℃、相対湿度50%の環境で表裏間の静電容量(C)および誘電損失(tanδ)を周波数1kHz〜1MHzの範囲を対数で均等間隔となる様に電極接触法で201点測定し、得られた静電容量から下式(1)により比誘電率(ε
r)を算出した。
ε
r=C×t/A/ε
0 ・・・(式1)
C :エレクトレット材料の静電容量[F]
ε
r : 比誘電率[−]
ε
0 : 真空の誘電率(8.854×10
−12)[F/m]
A : 電極面積[m
2]
t : エレクトレット材料の厚み[m]
次に上記式1により求めた比誘電率(ε
r)及び上記測定で得られた誘電損失(tanδ)を周波数1kHz〜1MHzの範囲で周波数の対数に対してプロットした。得られた結果を
図7に示す。
図7下に示す通り、誘電損失(tanδ)のピークが318kHzに観測されたので、その0.5倍〜2.0倍の周波数の範囲(159〜636kHz)で比誘電率(ε
r)の変化が最大となる周波数(Sf)を共鳴周波数として求めたところ、326kHzであった。
【0073】
[誘電率変化率の測定]
上記共鳴周波数の測定結果より、式2により誘電率変化率(Se)を算出した。
Se=(ε
rB−ε
rA)/ε
rS×100 ・・・(式2)
Se : 誘電率変化率[%]
ε
rS : 共鳴周波数における比誘電率[−]
ε
rB : 共鳴周波数の0.5倍の周波数における比誘電率[−]
ε
rA : 共鳴周波数の2.0倍の周波数における比誘電率[−]
図7上に示す通り、共鳴周波数は326kHz、ε
rSが1.431[−]、ε
rBが163kHzにおける比誘電率で1.438[−]、ε
rAが652kHzにおける比誘電率で1.426[−]であったので、誘電率変化率(Se)は0.84%と見積もられた。
【0074】
[比誘電率の周波数依存性の測定]
前記共鳴周波数の測定において、1kHzから共鳴周波数の0.5倍の周波数までの範囲において、周波数(Feq)の対数に対する比誘電率(ε
rf)をプロットしたところ、
図7上に示す通り、比誘電率(ε
rf)の周波数依存性は直線性を示した。
さらに、上記プロットの直線部分について最小二乗法を用いて下記式3で近似したところ、比誘電率(ε
rf)の周波数依存性(a)は−0.0042と算出された。
ε
rf =a × log(Feq) + b ・・・(式3)
ε
rf : 比誘電率[−]
Feq: 周波数[Hz]
a : 傾き=−0.0042
b : Y切片=1.4591
一方、電荷注入を行っていない蒸着フィルムについて同様に比誘電率(ε
rf)の周波数依存性を測定したところ、比誘電率は1.26で一定であり、周波数依存性(a)は0であった。
【0075】
測定結果を表2にまとめた。
【表2】
【0076】
表2より、実施例1の多孔質樹脂フィルムの損失弾性率(E’’)ピーク温度は16℃(TD)及び18℃(MD)であり、測定温度(25℃)で良好な圧電性能を発揮することが分かる。
また、式4から求められる周波数0.01Hzと周波数100Hzの貯蔵弾性率比は1.10〜2.00の範囲内であり、低周波領域で貯蔵弾性率が増加していることから、低周波領域(例えば可聴周波数領域)で良好な圧電性能が得られることが分かる。
続いて電荷注入を行ったエレクトレット材料について共鳴周波数の測定を行ったところ、326kHzに共鳴ピークを観測した。電荷注入を行っていない誘電体では、10kHz〜1MHzの範囲内に共鳴周波数が現れないことは周知であり、本発明のエレクトレット材料は電荷注入により圧電体として有効に機能することが分かる。また、誘電率差は0.84%で圧電体としての性能も高いことが分かる。さらに、誘電率(ε
rf)の周波数依存性は−0.0042で、周波数が低い方で圧電性が高い特性であることが分かる。
上記結果から、本発明のエレクトレット材料を該エレクトレット材料の前記損失弾性率(E’’)ピーク温度に対して−20〜20℃の範囲で動作させる使用方法が有用であり
、本発明のエレクトレット材料を使用したセンサー、該センサーを可聴周波数領域で使用する方法、及び該センサーを、該センサーを構成するエレクトレット材料の損失弾性率(E’’)ピーク温度に対して−20〜20℃の範囲で動作させる使用方法が可能であることが分かる。