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  • 特開2016041404-正浸透造水システム 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-41404(P2016-41404A)
(43)【公開日】2016年3月31日
(54)【発明の名称】正浸透造水システム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20160304BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20160304BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20160304BHJP
【FI】
   C02F1/44 A
   B01D61/00 500
   B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-166031(P2014-166031)
(22)【出願日】2014年8月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】591079487
【氏名又は名称】広島県
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(72)【発明者】
【氏名】出 健志
(72)【発明者】
【氏名】村井 伸次
(72)【発明者】
【氏名】仕入 英武
(72)【発明者】
【氏名】永森 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】玉井 正弘
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006GA14
4D006HA01
4D006HA21
4D006HA41
4D006KA01
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KB30
4D006KE15Q
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA21
4D006MC05
4D006MC51
4D006MC54
4D006MC62
4D006PA01
4D006PB03
4D006PB08
4D006PB70
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶質としてマンノシルエリスリトールリピッド誘導体、またはその誘導体の金属塩などを用いる淡水造水装置であって、原水から淡水を造水する効率を向上させつつ、生産淡水への溶質の混入を最小限に抑えることができる正浸透造水システムの提供。
【解決手段】正浸透膜を有する正浸透装置11と、ろ過膜を有する膜分離装置21と、前記正浸透装置と前記膜分離装置とを接続する希釈吸収液ライン31および高濃度吸収液ライン32とを具備する正浸透造水システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水が供給される供給液流路と溶質を含む吸収液が供給される第1の吸収液流路とを区画する正浸透膜を有する正浸透装置と、
前記第1の吸収液流路から排出された吸収液が供給される第2の吸収液流路と淡水が排出される淡水流路とを区画するろ過膜を有する膜分離装置と、
前記第1の吸収液流路と前記第2の吸収液流路とを接続する希釈吸収液ラインと、
前記第2吸収液流路と前記第1吸収液流路とを接続し、前記第2吸収液流路から前記第1吸収液流路へ吸収液を返送するポンプが設置された高濃度吸収液ラインとを具備し、
前記溶質は、下記一般式
【化1】
(RおよびRの一方が炭素数2乃至16の脂肪酸残基、RおよびRの他方が水素又は親水基であり、RおよびRの両方がアセチル基、RおよびRの一方がアセチル基およびRおよびRの他方が水素、或いはRおよびRの両方が水素であり、Aはカルボン酸又は水素であり、Aの少なくとも1つがカルボン酸である。)
で表される化合物、または前記化合物の金属塩であることを特徴とする正浸透造水システム。
【請求項2】
前記溶質は、前記カルボン酸が−CO(CHnCOOHである化合物、又は前記化合物のナトリウム塩であり、ここでnは2以上の整数であることを特徴とする請求項1に記載の正浸透造水システム。
【請求項3】
前記溶質は、前記カルボン酸が−CO(CHCOOHである化合物、又は前記化合物のナトリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の正浸透造水システム。
【請求項4】
前記希釈吸収液ラインの吸収液に酸を注入する第1のpH調整装置と、前記高濃度吸収液ラインの吸収液にアルカリを注入する第2のpH調整装置とをさらに具備することを特徴とする請求項1に記載の正浸透造水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、正浸透(FO)膜を使った正浸透造水システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半透膜を介して溶質濃度が異なる2種類の水溶液を接触させると、それら溶液の間に浸透圧差が生じる。正浸透法を用いた造水技術では、その圧力差を減らす方向(溶質の濃度差をなくす方向)、即ち溶質濃度が低い方から高い方に水が移動する現象を利用して、原水から淡水を得ることができる。
【0003】
正浸透法では原水(供給液)、例えば海水の塩分濃度より濃度(浸透圧)が高くなるように溶質(水溶性化合物)を溶解させた吸収液(ドロー溶液)を用いて、動力(圧力)をかけることなく、原水側から水を吸収液に移動させる。その後、吸収液中の水と溶質を分離することにより、原水から淡水を得る。さらに、分離した溶質を再度、吸収液に溶解させて、高濃度の溶液に再生し、循環させる。正浸透法では、下水、排水、さまざまな成分が溶解した工業廃水などの原水から淡水を得ることもできる。
【0004】
吸収液の溶質として、例えば揮発性の溶質または温度による溶解度変化の大きい溶質が用いられている。しかし、これらの溶質を用いる場合には、吸収液を加熱、冷却するために熱源が必要となるうえに、溶質を完全に分離することが困難である。
【0005】
また、吸収液の溶質として、いわゆるバイオサーファクタントを用いることが検討されている。バイオサーファクタントは、水中で自己組織化し、巨大構造のコロイド分子となるので、吸収液を加熱、冷却するために熱源なしに、水から分離できることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−50777
【特許文献2】特開2014−87751
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本実施形態の目的は、原水から淡水を造水する効率を向上させつつ、生産淡水への溶質の混入を最小限に抑えられる正浸透造水システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、原水が供給される供給液流路と溶質を含む吸収液が供給される第1の吸収液流路とを区画する正浸透膜を有する正浸透装置と、前記第1の吸収液流路から排出された吸収液が供給される第2の吸収液流路と淡水が排出される淡水流路とを区画するろ過膜を有する膜分離装置と、前記第1の吸収液流路と前記第2の吸収液流路とを接続する希釈吸収液ラインと、前記第2吸収液流路と前記第1吸収液流路とを接続し、前記第2吸収液流路から前記第1吸収液流路へ吸収液を返送するポンプが設置された高濃度吸収液ラインとを具備する正浸透造水システムが提供される。前記溶質は、下記一般式
【化1】
【0009】
(RおよびRの一方が炭素数2乃至16の脂肪酸残基、RおよびRの他方が水素又は親水基であり、RおよびRの両方がアセチル基、RおよびRの一方がアセチル基およびRおよびRの他方が水素、或いはRおよびRの両方が水素であり、Aはカルボン酸又は水素であり、Aの少なくとも1つがカルボン酸である。)
で表される化合物、または前記化合物の金属塩であることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る正浸透造水システムを示す概略図である。
図2】第2の実施形態に係る正浸透造水システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係る正浸透造水システムについて図面を参照して説明する。なお、実施形態は下記の説明に限定されない。
【0012】
(第1実施形態)
第1の実施形態に係る正浸透造水システムについて、図1を参照して説明する。
【0013】
正浸透造水システム1は、正浸透膜(半透膜)12を有する正浸透装置11と、ろ過膜22を有する膜分離装置21と、正浸透装置11と膜分離装置21とを接続する希釈吸収液ライン31と、正浸透装置11と膜分離装置21とを接続する高濃度吸収液ライン32と、高濃度吸収液ライン32上に設置された循環ポンプ41とを有する。
【0014】
前記正浸透装置11は、正浸透膜(半透膜)12で区画された供給液流路13と第1の吸収液流路14を有する。原水ライン15は、正浸透装置11の供給液流路13の上流側に接続されている。排水ライン16は、正浸透装置11の供給液流路13の下流側に接続されている。正浸透装置11の第1の吸収液流路14内を流れる吸収液は、供給液流路13に供給される原水よりも高濃度に溶質を含んでいる。
【0015】
前記膜分離装置21は、ろ過膜22で区画された第2の吸収液流路23と淡水流路24を有する。淡水ライン25は、淡水流路24に接続されている。
【0016】
前記希釈吸収液ライン31は、一端が正浸透装置11の第1の吸収液流路14の下流側に接続され、他端が膜分離装置21の第2の吸収液流路23の上流側に接続されている。第1の吸収液流路14から排出された吸収液、即ち希釈吸収液ライン31内の吸収液は、溶質の濃度が低くなっているため、希釈吸収液と呼ぶ。正浸透装置11の第1の吸収液流路14から排出された希釈吸収液は、希釈吸収液ライン31を通して膜分離装置21の第2の吸収液流路23に供給される。
【0017】
前記高濃度吸収液ライン32は、一端が膜分離装置21の第2の吸収液流路23の下流側に接続され、他端が前記正浸透装置11の第1の吸収液流路14の上流側に接続されている。膜分離装置21の第2の吸収液流路23から排出された吸収液、即ち高濃度吸収液ライン32内の吸収液は、溶質の濃度が高くなっているため、高濃度吸収液と呼ぶ。膜分離装置21の第2の吸収液流路23から排出された高濃度吸収液は、循環ポンプ41により高濃度吸収液ライン32を通して正浸透装置11の第1の吸収液流路14に供給される。即ち、吸収液は正浸透装置11の第1の吸収液流路14と膜分離装置21の第2の吸収液流路23の間を希釈吸収液ライン31および高濃度吸収液ライン32を通して循環される。
【0018】
原水は、海水、下水、排水、工業廃水を用いることができる。原水は、必要に応じて除濁等の前処理を行ってから、原水ライン15を通して正浸透装置11に供給する。
【0019】
正浸透膜(半透膜)12は、材質、形状、大きさ、構造などについて特に制限されず、水を選択的に透過する膜であればよく、例えば逆浸透(RO)膜を用いることもできる。膜の材質は、原水水質、吸収液の種類に応じて適宣選択され、例えば酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、芳香族スルホン、ポリベンゾイミダゾール、グラフェン等を挙げることができる。形状は、例えば平膜、平膜によるスパイラル型モジュール、中空糸型モジュール、円筒型モジュール等を挙げることができる。
【0020】
吸収液は溶質として、水中で自己組織化して、例えばミセル構造、ベシクル構造、リボン構造、または、紐状ミセル構造になる界面活性剤を含んでいる。自己組織化した界面活性剤に対して、膜分離装置21のろ過膜22の細孔径を適切な寸法(例えば0.01〜1μm)に選定することにより、ろ過膜22で溶質としての界面活性剤と水とを容易に分離することが可能になる。
【0021】
界面活性剤としては、石油を原料とする化学合成により生産されるものや、酵母菌(細胞壁をもち、生活環の一定期間を栄養増殖する単細胞の真菌類)、細菌(単細胞の微生物で核膜のない原核生物の一群)の働きにより有機系基質から生産される、いわゆるバイオサーファクタント等が挙げられる。特に、後者のバイオサーファクタントは生分解性が高く、低刺激性で環境に優しく、生産量を確保できるために好ましい。さらに、バイオサーファクタントは水酸基、カルボキシ基、アミノ基、不斉炭素をバランスよくもっているため、水中でミセル構造、リボン構造になるだけでなく、自己組織化により巨大構造のコロイド分子になる。
【0022】
バイオサーファクタントは、親水基の構造から糖型、アミノ酸型、有機酸型、高分子型がある。具体的なバイオサーファクタントには、糖型のソホロリピッド、マンノシルエリスリトールリピッド、マンノシルマンニトールリピッド、マンノシルアラビトールリピッド、マンノシルリビトールリピッド、ラムノリピッド、トレハロリピッド、セルビオリピッドおよびそれらの誘導体などがある。アシルペプチド系のオルニチンリピッド、サーファクチンを用いることもできる。
【0023】
本実施形態では、吸収液の溶質として下記一般式で表されるマンノシルエリスリトールリピッドの誘導体、またはこの誘導体の金属塩を用いる。
【化2】
【0024】
(RおよびRの一方が炭素数2乃至16の脂肪酸残基、RおよびRの他方が水素又は親水基であり、RおよびRの両方がアセチル基、RおよびRの一方がアセチル基およびRおよびRの他方が水素、或いはRおよびRの両方が水素であり、Aは水素又はカルボン酸であり、Aの少なくとも1つがカルボン酸である。3つのAがカルボン酸でもよい。)
以下、上記の誘導体をモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドという。モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドを溶質として用いることによって得られる効果について、以下に詳述する。
【0025】
バイオサーファクタントであるマンノシルエリスリトールリピッドは、下記に示す構造式で表される。このマンノシルエリスリトールリピッドの誘導体のうち、RまたはRの両方が水素で、RまたはRの一方が水素または糖鎖等の親水基であるものは、高い溶解度を示すため、吸収液の溶質に適している。
【化3】
【0026】
(ここで、RおよびRの一方が炭素数2乃至16の脂肪酸残基、RおよびRの他方が水素又は親水基であり、RおよびRの両方がアセチル基、RおよびRの一方がアセチル基およびRおよびRの他方が水素、或いはRおよびRの両方が水素である。)
上記のマンノシルエリスリトールリピッド誘導体を、さらにカルボキシ基を持つ化合物で修飾することにより、エリスリトール部分の一部乃至全てのOH基をカルボン酸に置換した界面活性剤が得られる。例えば、リパーゼ触媒の存在下に、ジカルボン酸であるコハク酸または無水コハク酸とマンノシルエリスリトールリピッドとを反応させると、エリスリトール部分のOH基とコハク酸(または無水コハク酸)のカルボキシ基の一方とがエステル結合し、OH基が他方のカルボキシ基で修飾される。エリスリトール部分のOH基を修飾する化合物は、コハク酸に限らず、カルボキシ基を2個持ったジカルボン酸またはその無水物を用いることができる。
【0027】
必ずしも、マンノシルエリスリトールリピッドのエリスリトール部分にあるOH基のすべてをカルボキシ基で修飾する必要はない。リパーゼ触媒量とジカルボン酸の添加量を調整することで、エリスリトール部分のOH基の1〜3個をカルボキシ基で修飾することができる。
【0028】
例として、前記一般式においてAのすべてをカルボキシ基で修飾したトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドの化学式を下記に示す。
【化4】
【0029】
(RおよびRの一方が炭素数2乃至16の脂肪酸残基、RおよびRの他方が水素又は親水基であり、RおよびRの両方がアセチル基、RおよびRの一方がアセチル基およびRおよびRの他方が水素、或いはRおよびRの両方が水素であり、Rは炭素数が2以上のアルキル鎖である。)
このようなモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドは、エリスリトール部分のOH基をカルボキシ基で修飾していないものと比べて、水中において、カルボキシ基が、カルボン酸イオンになって溶解度が向上する。モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドを、正浸透造水システムの吸収液の溶質として用いることができる。
【0030】
また、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドと水酸化ナトリウムを反応させて得られるナトリウム塩を、正浸透造水システムの吸収液の溶質に用いることができる。モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩を用いた場合、正浸透装置11における浸透圧を向上させ、正浸透膜12の透過水量(フラックス)を増加することができる。
【0031】
例として、トリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩の化学式を下記に示す。
【化5】
【0032】
(RおよびRの一方が炭素数2乃至16の脂肪酸残基、RおよびRの他方が水素又は親水基であり、RおよびRの両方がアセチル基、RおよびRの一方がアセチル基およびRおよびRの他方が水素、或いはRおよびRの両方が水素であり、Rは炭素数が2以上のアルキル鎖である。)
ここで、マンノシルエリスリトールリピッド誘導体へのカルボキシ基の修飾に用いる化合物は、上記のようにカルボン酸であれば何でも構わないが、2つのカルボキシ基の間に炭素数2の炭素鎖を有するジカルボン酸であるコハク酸、またはその無水物である無水コハク酸を用いることが好ましい。コハク酸や無水コハク酸を用いることにより、カルボキシル化に伴うマンノシルエリスリトールリピッド誘導体の分子量の増加を最小限に抑えることができる。その結果、分子量が大きいジカルボン酸を修飾した場合と比較して、溶解度が同じでも、飽和時に吸収液に含まれる溶質のモル数が大きい。そのため、以下の式で表される浸透圧(Π)が高くなり、正浸透装置11における正浸透膜12の透過水量(フラックス)が増加する。
【0033】
Π=CRT
ここで、Π:浸透圧[atm]、C:モル濃度[mol/dm3]、R:気体定数[atm・dm3/K・mol]、T:温度[K]である。
【0034】
膜分離装置21のろ過膜22は、水中で自己組織化した界面活性剤、即ち溶質の分子集合体を透過しない範囲で、できるだけ大きい細孔径を持つことが好ましい。前記細孔径は、例えば0.01〜1μmであることが好ましい。ろ過膜の材質には、例えば、ポリエチレン、ポリオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドン、セラミックを用いることができる。ろ過膜の形状は、例えば、平膜、平膜によるスパイラル型モジュール、中空糸型モジュール、円筒型モジュールとすることができる。なお、ろ過膜として、例えば、上水処理向けの精密ろ過膜(MF)を用いることもできる。また、分画分子量が1000〜10,000Daの限外ろ過膜膜(UF)を用いることもできる。
【0035】
次に、本実施形態に係る正浸透造水システムの作用を説明する。
【0036】
正浸透装置11において、原水ライン15から供給液として原水を供給液流路13に供給すると共に、高濃度吸収液供給ライン32から高濃度吸収液を第1の吸収液流路14に供給する。供給液流路13で原水が流れる間に、正浸透膜12を介して第1の吸収液流路14に流れる吸収液と接触し、原水と高濃度吸収液との間に浸透圧差が生じる。その浸透圧差を駆動力として、水が溶質濃度の低い方から高い方に半透膜中を移動する。即ち、原水中の水が正浸透作用により供給液流路13側から第1の吸収液流路14側に移動する。このとき、供給液は水の高濃度吸収液側への移動により濃縮され、濃縮排水として排水ライン16を通して排水される。
【0037】
原水から水を吸収して希釈された吸収液は、希釈吸収液ライン31を通して膜分離装置21の第2の吸収液流路23に供給される。このとき、希釈吸収液中の溶質である界面活性剤は自己組織化しており、膜分離装置21のろ過膜22の細孔径よりも大きい寸法を持つ分子集合体になっている。また、希釈吸収液には、正浸透装置11における吸収液浸透圧によって圧力が加わっているため、第2の吸収液流路23を流れる希釈吸収液から、例えば、細孔径0.01〜1μmのろ過膜22により淡水のみがろ過水として分離し、淡水流路24に移動する。淡水流路22に移動した淡水は、淡水ライン25を通して飲料水等としてユーザに供給される。
【0038】
一方、希釈吸収液は第2の吸収液流路23で水の一部が淡水側に移動することにより溶質が濃縮されて高濃度吸収液になる。高濃度吸収液は、高濃度吸収液ライン32に排出され、循環ポンプ41の動作により正浸透装置11の第1の吸収液流路14に戻される。吸収液の循環量は、循環ポンプ41の流量を任意に設定することにより適宜調整することができる。膜分離装置21で希釈吸収液をろ過するための圧力は、正浸透装置11で浸透圧として生じた圧力エネルギーを利用するため、循環ポンプ41の運転に必要なエネルギーは、吸収液を循環させ、かつ正浸透装置11の第1の吸収液流路14からの高濃度吸収液の逆流を防ぐ分だけで済むので、消費電力を低く抑えることができる。
【0039】
このような正浸透造水装置1における、正浸透装置11と膜分離装置21との間での吸収液の循環において、吸収液の溶質としてジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩を用いた例を以下に詳述する。
【0040】
正浸透装置11で原水中の水を吸収して濃度が下がった希釈吸収液は、第1の吸収液流路14から希釈吸収液ライン31を通して膜分離装置21の第2の吸収液流路23に供給される。ここで、溶質としてマンノシルエリスリトールリピッドの酸誘導体を用いた場合は、この溶質が自己組織化(ミセル化やベシクル化等)して分子集合体(ミセルやベシクル等)を生じて巨大化する。希釈吸収液を膜分離装置21の第2の吸収液流路23に供給する際、希釈吸収液中の巨大化した溶質の分子集合体は、ろ過膜22の細孔径(例えば0.01〜1μm)より大きいため、ろ過膜22で容易に溶質と淡水とに分離できる。
【0041】
特に、溶質がモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドである場合、水中で溶質がカルボン酸イオンにイオン化して溶解度が向上し、高濃度な吸収液となる。その結果、吸収液中の溶質モル濃度が増加し、正浸透装置11における浸透圧が向上し、正浸透装置11の正浸透膜12の透過水量(フラックス)が増加する。
【0042】
さらに、溶質として、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩を用いた場合、水中で溶質がナトリウムイオンとカルボン酸イオンとに解離し、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのカルボン酸イオン1モルに対して1モル以上のナトリウムイオンが生じる。その結果、吸収液中の溶質モル濃度が増加し、以下の式で表される浸透圧(Π)が向上し、正浸透装置11の正浸透膜12の透過水量(フラックス)が増加する。
【0043】
Π=CRT
ここで、Π:浸透圧[atm]、C:モル濃度[mol/dm3]、R:気体定数[atm・dm/K・mol]、T:温度[K]である。
【0044】
モノカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩が解離すると、カルボン酸イオン1モルに対して最大1モルのナトリウムイオンが生じる。ジカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩が解離すると、カルボン酸イオン1モルに対して最大2モルのナトリウムイオンが生じる。トリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩が解離すると、カルボン酸イオン1モルに対して最大3モルのナトリウムイオンが生じる。吸収液中のナトリウムイオンのモル濃度が高いほど、正浸透装置11の正浸透膜12の透過水量(フラックス)が増加するため、モノカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩よりもジカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩のほうが好ましい。さらに、ジカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩よりもトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩のほうが好ましい。
【0045】
本実施形態によれば、正浸透装置11と膜分離装置21との間での吸収液の循環において、正浸透装置11で吸収液中の溶質モル濃度を原水中の(塩分等の)不純物濃度より高くでき、他方、膜分離装置21のろ過膜22で希釈吸収液を容易にマンノシルエリスリトールリピッドの分子集合体(溶質)と水(淡水)とに分離できる。
【0046】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る正浸透造水システムについて図2を参照して説明する。ただし、前述した図1と同様な部材は同符号を付して説明を省略する。
【0047】
図2に示す正浸透造水システム1は、正浸透装置11と膜分離装置21を接続する、希釈吸収液ライン31上に設けられた第1のpH調整装置51と、高濃度吸収液ライン32上に設けられた第2のpH調整装置52を有する。第1のpH調整装置51は、pH調整剤として塩酸、硫酸等の酸を正浸透装置11から排出された希釈吸収液に注入し、希釈吸収液のpHを酸性側、好ましくはpH3〜5に調整することで、希釈吸収液中のモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩を、カルボン酸に変化させる。モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドは酸性で不溶性であるため、希釈吸収液中で析出し、さらに自己組織化により巨大化した分子集合体になる。その結果、膜分離装置21のろ過膜22で希釈吸収液を容易に溶質と淡水とに分離できる。
【0048】
一方、第2のpH調整装置52では、アルカリpH調整剤として苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)等を膜分離装置22(或いは、循環ポンプ41)から排出された高濃度吸収液に注入し、高濃度吸収液のpHを中性、或いはアルカリ性側、好ましくはpH7〜8に調整することで、溶質をモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドからモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩に変化させる。このナトリウム塩は、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのカルボン酸イオンとナトリウムイオンに解離するため、高濃度吸収液中の溶質が溶解する。
【0049】
以上のとおり、pH調整装置51と52を用いた場合、pH調整装置51と52を用いない場合よりも、膜分離装置21において溶質の分子集合体への自己組織化をより効率的に進行させ、正浸透装置11に導入される高濃度吸収液中の溶質モル濃度をさらに増加させることができる。これにより、正浸透装置11と膜分離装置21との間での吸収液の循環において、正浸透装置11での吸収液中の溶質モル濃度と原水中の(塩分等の)不純物の濃度との差、即ち吸収液と原水との間の浸透圧差をより高くでき、他方、膜分離装置21のろ過膜22で希釈吸収液をより容易に溶質と水淡水とに分離できるので、原水から効率的に淡水を造水することができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば以下に述べる効果を奏する。
【0051】
吸収液は、溶質として水中で自己組織化して、膜分離装置のろ過膜の細孔径より大きい分子集合体を形成する、界面活性剤を含んでいる。このため、希釈吸収液を正浸透装置11と膜分離装置21とを接続する希釈吸収液ライン31に流通させる間、界面活性剤の分子集合体寸法を巨大化できるので、溶質と淡水とを容易に分離できる。
【0052】
また、本実施形態では、高い水溶性を有するマンノシルエリスリトールリピッドの誘導体を、カルボキシ基を持つ化合物で修飾してエリスリトール部分の一部乃至全てのOH基をカルボン酸に置換して得られる、さらに水溶性が向上したモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドを溶質として用いる。また、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドを水酸化ナトリウムと反応させてナトリウム塩を生成することで、水中でナトリウムイオンとモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのカルボン酸イオンに解離する溶質が得られる。その結果、吸収液中の溶質モル濃度が増加することで浸透圧(Π)が向上する。
【0053】
この溶質を含んだ吸収液を用いることにより、膜分離装置21の例えば0.01〜1μmの細孔径を持つろ過膜22で、希釈吸収液を淡水と界面活性剤の分子集合体(溶質)とを容易に分離できると供に、浸透圧を向上させて正浸透装置11の正浸透膜12の透過水量(フラックス)を増加することができる。
【0054】
本実施形態では、第1のpH調整装置51により、正浸透装置11から排出された希釈吸収液のpHを酸性側に調整することで、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのナトリウム塩が、水に対して不溶性のカルボン酸に変化し、吸収液中で析出する。一方、第2のpH調整装置52より、膜分離装置22(或いは、循環ポンプ41)から排出された高濃度吸収液のpHを中性、或いはアルカリ性側に調整することで、モノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドが可溶性のナトリウム塩に変化し、解離してモノ、ジまたはトリカルボキシル化マンノシルエリスリトールリピッドのカルボン酸イオンおよびナトリウムイオンを生じる。そのため、吸収液が、これらのイオンが溶解している高濃度吸収液に戻される。
【0055】
その結果、pH調整装置51と52を設けない場合よりも、正浸透装置11と膜分離装置21の間での吸収液の循環において、正浸透装置11で吸収液中の溶質モル濃度を原水中の不純物の濃度より高くでき、他方、膜分離装置21のろ過膜22で希釈吸収液を容易に溶質と淡水とに分離できる。
【0056】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、原水から淡水を造水する効率を向上させつつ、生産淡水への溶質の混入を最小限に抑えられる。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0058】
1…正浸透造水システム、11…正浸透装置、12…正浸透膜、15…原水ライン、21…膜分離装置、22…ろ過膜、31…希釈吸収液ライン、32…高濃度吸収液ライン、41…循環ポンプ、51…第1のpH調整装置、52…第2のpH調整装置。
図1
図2