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特開2016-43280ナノ物質の凝集をコントロールする方法およびナノリスク評価方法
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  • 特開2016043280-ナノ物質の凝集をコントロールする方法およびナノリスク評価方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-43280(P2016-43280A)
(43)【公開日】2016年4月4日
(54)【発明の名称】ナノ物質の凝集をコントロールする方法およびナノリスク評価方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/00 20060101AFI20160307BHJP
   B82Y 35/00 20110101ALI20160307BHJP
   B01J 20/28 20060101ALN20160307BHJP
   B01J 20/22 20060101ALN20160307BHJP
   G01N 33/483 20060101ALN20160307BHJP
   A61K 9/16 20060101ALN20160307BHJP
   A61K 8/02 20060101ALN20160307BHJP
   A61K 8/92 20060101ALN20160307BHJP
   A61K 8/55 20060101ALN20160307BHJP
   B01D 15/00 20060101ALN20160307BHJP
【FI】
   B01J19/00 N
   B82Y35/00
   B01J20/28 A
   B01J20/22 B
   G01N33/483 C
   A61K9/16
   A61K8/02
   A61K8/92
   A61K8/55
   B01D15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2014-167052(P2014-167052)
(22)【出願日】2014年8月20日
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼田 勉
(72)【発明者】
【氏名】水野 志野
(72)【発明者】
【氏名】執行 航希
【テーマコード(参考)】
2G045
4C076
4C083
4D017
4G066
4G075
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045FA16
4C076AA31
4C076AA65
4C076DD63A
4C076EE52A
4C076FF03
4C076FF68
4C076GG50
4C083AD571
4C083AD572
4C083CC01
4C083DD16
4C083FF01
4D017AA00
4D017BA04
4D017BA07
4D017CA11
4D017CB05
4D017EB07
4G066AB09B
4G066AB19B
4G066BA03
4G066BA28
4G066CA01
4G075AA27
4G075AA61
4G075AA65
4G075BB04
4G075CA02
4G075FA20
4G075FB11
(57)【要約】
【課題】 ナノ物質を容易に検出し、生体系への影響を調べるため、ナノ物質の凝集をコントロールする方法およびナノリスク評価方法を提供する。
【解決手段】 本発明のナノ物質の凝集状態をコントロールする方法は、水溶液中の脂質膜(人工細胞膜)にナノ物質を吸着させ、膜の熱力学的性質である揺らぎを変化させることにより行う。膜は温度上昇とともに自身のエントロピーを増大させようとする。これは自身の存在領域を広げることと等価であるため、膜が揺らぐ。また脂質膜の揺らぎにより半径は1〜数マイクロメートル程度上下する。この方法により、膜面上にナノ物質を吸着させ、温度上昇による凝集を通して、どの程度ナノ物質が存在するかを光学顕微鏡で容易に観察することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液中の脂質膜(人工細胞膜)にナノ物質を吸着させ、膜の熱力学的性質である揺らぎを変化させることにより、膜面上におけるナノ物質の凝集状態をコントロールする方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたナノ物質の凝集状態をコントロールする方法を用いるナノリスク評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ物質の凝集状態をコントロールする手法とナノリスク評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在ナノ物質の開発がさかんに進められているが、生体系への安全性(ナノリスク)はほとんど分っておらず、評価系の研究開発が急がれている。ナノ物質を分散させる技術(開発技術)は多く存在するが、存在するナノ粒子を集め生体系への影響を評価する技術はほとんど無い。
分散したナノ物質は、サイズが小さく、高額な特殊な装置(電子顕微鏡、光散乱など)で検出する必要がある。また、非特許文献1には、生体を模倣した人工細胞膜にナノ粒子を吸着させ、膜面上で小さい粒子と大きい粒子を分離する技術が記載されている。このように、生体系へのナノ物質の吸着特性の調査が試みられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】"Size-dependent partitioning of nano/micro-particles mediated by membrane lateral heterogeneity" Tsutomu Hamada, Masamune Morita, Makiyo Miyakawa, Ryoko Sugimoto, Ai Hatanaka, Mun'delanji C. Vestergaard, Masahiro Takagi, J. Am. Chem. Soc., 134, 13990-13996 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナノ物質を容易に検出し、生体系への影響を調べるため、ナノ物質の凝集をコントロールする方法およびナノリスク評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、人工細胞膜(脂質膜)の熱力学的性質を活用することで、温度上昇により膜の揺らぎを増大させ、膜に吸着したナノ物質を凝集させることができた。結果として、凝集させることで物質のサイズが大きくなり、光学顕微鏡で容易に観察できるようになった。
【0006】
すなわち本発明は、以下のものである。
第1の発明は、水溶液中のソフトマターである脂質膜(人工細胞膜)にナノ物質を吸着させ、膜の熱力学的性質である揺らぎをコントロールすることにより、従来困難であった膜面上におけるナノ物質の凝集状態をコントロールする新手法である。
【発明の効果】
【0007】
人工細胞膜(脂質膜)の熱力学的性質を活用することで、温度上昇により膜の揺らぎを増大させ、膜に吸着したナノ物質を凝集させることに成功した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】温度上昇によるナノ粒子の凝集を表す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のソフトマターに関して説明する。ソフトマターとは分子レベルにおいて固体ほど構造に秩序性が高くなく、液体よりも分子の流動性が低い物質に対応する。例:脂質膜、ゲルなど。
本発明で用いる脂質分子に関して説明する。脂質分子種は多岐にわたるが、代表的なものとしてDOPC(ジオレオイルホスファチジルコリン)と呼ばれる、頭部に親水基を側鎖に疎水基を有する両親媒性の分子がある。これら分子を利用して、脂質膜を作成する。
【0010】
本発明で用いる、脂質膜に関して説明する。脂質膜は静置水和法と呼ばれる方法で作成する。有機溶媒中に溶かした脂質分子をガラス容器などに滴下し、有機溶媒を揮発させることにより、脂質フィルムを形成させる。そのフィルムに超純水や各種塩を含んだ水溶液を追加することによりフィルムをガラス璧から剥がし、親水基の頭部が水側、疎水規同士を吸着させ、水-親-疎-疎-親-水となり、球状の脂質二分子膜が水中に形成される。大きさは直径数マイクロメートルから数十マイクロメートルに分布し、大きいものでは百数十マイクロメートルに達する。また脂質膜は、球内部と外部の分子交換は膜同士の融合などが生じない限り、水分子以外は通さない。
【0011】
本発明における、膜揺らぎに関して説明する。膜揺らぎとは、分子の熱振動のスケールよりは大きく、膜の体積に対して膜表面積が大きくなったときに生じる現象になる。熱力学的に説明すると、膜は温度上昇とともに自身のエントロピーを増大させようとする。これは自身の存在領域を広げることと等価であるため、膜が揺らぐ。また脂質膜の揺らぎにより半径は1〜数マイクロメートル程度上下する。
この方法により、図1に示すように、膜面上にナノ物質を吸着させ、温度上昇による凝集を通して、どの程度ナノ物質が存在するかを光学顕微鏡で容易に観察することができる。ナノ物質は、人工物質に加えて花粉やウィルス等の生体物質も含むため、様々なナノ物質の検出キットとして展開が考えられる。
さらに、薬剤などのナノ物質を膜面に吸着させ、凝集・分散状態を制御することで、分子反応の活性-不活性をコントロールすることが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明は、ナノ粒子の凝集・分散状態を温度でスイッチできるため、環境浄化、分析、化粧品、ドラックデリバリーシステム(DDS)、触媒産業などに用いることができる。
図1