【解決手段】第1のショットピーニング圧痕が形成されたコイルばね10に、インペラ昇降式ショットピーニング装置50によって第2のショットピーニングが行なわれる。インペラ昇降式ショットピーニング装置50は、下側の座巻支持部84,85および上側の座巻支持部95,96を有するワーク保持機構52と、コイルばね10を圧縮するストレス付与機構90と、コイルばね10を自転させる自転機構100と、上下方向に移動可能な一対のインペラユニット55,56を含む投射機構57とを備えている。座巻部10a,10bの一部で座巻支持部84,85,95,96と接した箇所には、第1のショットピーニング圧痕20からなる第1粗面部21が形成され、第1粗面部21を除く素線11の表面全体に第2のショットピーニング圧痕30からなる第2粗面部31が形成される。
前記ワーク保持機構が、前記下側の座巻支持部が配置されたターンテーブルと、前記下側の座巻支持部が前記第1のチャンバと前記第2のチャンバとにわたって往復するよう前記ターンテーブルを公転軸まわりに回転させる公転機構とを備えたことを特徴とする請求項1に記載のインペラ昇降式ショットピーニング装置。
前記ワーク保持機構が一対の前記下側の座巻支持部を有し、これら下側の座巻支持部が前記ターンテーブル上に前記公転軸を中心として180°対称位置に配置され、前記ターンテーブルが前記公転機構によって180°ずつ回転することを特徴とする請求項2に記載のインペラ昇降式ショットピーニング装置。
前記投射機構が、前記第2のチャンバ内の前記コイルばねの斜め上方からショットを投射するとともに該コイルばねに対して上下方向に移動する第1のインペラユニットと、前記コイルばねの斜め下方からショットを投射するとともに該コイルばねに対して上下方向に移動する第2のインペラユニットとを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のインペラ昇降式ショットピーニング装置。
前記ハウジングが、前記第1のインペラユニットを前記第2のチャンバに対し開位置と閉位置とに回動可能に支持する第1のヒンジ機構と、前記第2のインペラユニットを前記第2のチャンバに対し開位置と閉位置とに回動可能に支持する第2のヒンジ機構とを備えたことを特徴とする請求項4に記載のインペラ昇降式ショットピーニング装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に1つの実施形態に係るコイルばねとインペラ昇降式ショットピーニング装置について、
図1から
図10を参照して説明する。
図1は、塗装されたコイルばね10の一例を示している。
図2は、塗装されたコイルばね10の一部(
図1中にS1で示す部分)の拡大図である。コイルばね10は、螺旋形に巻かれた素線(ワイヤ)11を有している。素線11の表面は、錆止めの塗膜(塗料の皮膜)12によって覆われている。コイルばね10の両端にそれぞれ座巻部10a,10bが形成されている。座巻部10a,10b間には、圧縮荷重の大きさに応じて撓む螺旋形の有効部10cが形成されている。
【0014】
図1において下側の座巻部10aは、素線11の下端から1巻未満の巻数(例えば0.6巻程度)で形成され、例えば車両用懸架装置では下側のばね座に接する。
図1において上側の第2の座巻部10bは、素線11の上端から1巻未満の巻数(例えば0.6巻程度)で形成され、例えば車両用懸架装置では上側のばね座に接する。コイルばね10に圧縮の荷重が負荷されて有効部10cが撓むと、素線11にねじりの応力が生じる。
【0015】
コイルばね10の一例は円筒コイルばねであるが、懸架装置の仕様に応じて、たる形コイルばね、鼓形コイルばね、テーパコイルばね、不等ピッチコイルばねなど、種々の形態のコイルばねが採用される。素線11の一例は断面が円形のばね鋼からなる。自動車の懸架用コイルばねの場合、素線11の線径は8〜21mmが主流である。しかしこれ以外の線径であっても勿論かまわない。
【0016】
素線11の材料であるばね鋼の種類は特に限定されないが、例えば米国の“Society of Automotive Engineers”に準拠するSAE9254が挙げられる。SAE9254の化学成分(mass%)は、C:0.51〜0.59、Si:1.20〜1.60、Mn:0.60〜0.80、Cr:0.60〜0.80、S:最大0.040、P:最大0.030、残部Feである。鋼種の他の例が超高強度ばね鋼であってもよい。
【0017】
図3は、塗装前(塗膜が形成される前)のコイルばね10を示している。
図4は、塗装前のコイルばね10の一部(
図3中にS2で示した部分)の拡大図である。
図3と
図4に示されるように、塗装前の座巻部10a,10bの一部に、それぞれ、多数の微視的凹凸である第1のショットピーニング圧痕20からなる第1粗面部21(
図3と
図4に模式的に濃い梨地模様で示す)が形成されている。
【0018】
第1粗面部21は、下側の座巻部10aと上側の座巻部10bとに、それぞれ複数個所(3〜4箇所)形成されている。これら第1粗面部21は、各座巻部10a,10bの巻き方向に間隔を存してそれぞれ島状に点在している。第1のショットピーニング圧痕20は、以下に説明する第1のショットピーニング工程において、例えば連続式ショットピーニング装置40(
図6に示す)によって第1のショットSH1をコイルばね12に投射することにより、素線11の表面全体に形成される。素線11の表面全体のうち、第1粗面部21を除く素線11の表面に、多数の微視的凹凸である第2のショットピーニング圧痕30からなる第2粗面部31(
図3と
図4に模式的に薄い梨地模様で示す)が形成されている。
【0019】
第2のショットピーニング圧痕30は、後に詳しく説明するインペラ昇降式ショットピーニング装置50によって、第1粗面部21を除く素線11の表面全体に形成される。第2粗面部31の表面粗さは第1粗面部21の表面粗さとは異なっている。表面粗さはショットピーニングの条件によって左右されるため一概には言えないが、例えば第1粗面部21の最大高さが30〜50μm、第2粗面部31の最大高さが20〜30μmというように、第2粗面部31の粗さが第1粗面部21の粗さよりも小さい。
【0020】
図5は、コイルばね10の製造工程の一例を示している。
図5中の成形工程S1において、コイリングマシンを用いて素線11が螺旋形に成形される。熱処理工程S2では、成形工程S1によって素線11に生じた歪み応力を除去するために、焼戻しと焼鈍がなされる。例えば熱処理工程S2において素線11が例えば400〜450℃程度に加熱されたのち徐冷される。ホットセッチング工程S3では、熱処理工程S2の余熱を利用して、温間(250〜350℃)でホットセッチングが行なわれる。ホットセッチングは温間のコイルばね10に加圧装置によって軸線方向の荷重が所定時間付与される。
【0021】
さらに第1のショットピーニング工程S4において、温間で第1のショットピーニングが実施される。第1のショットピーニング工程S4では、第1のショット(例えば粒径が1.1mmのラージサイズのカットワイヤ)が使用される。ただしこれ以外のショットサイズ(例えば0.87〜1.2mm)であってもよい。この第1のショットを、
図6に模式的に示す連続式ショットピーニング装置40によって、例えば250〜300℃の処理温度のもとで、コイルばね10の表面全体に投射する。第1のショットの投射速度は、例えば77m/secである。
【0022】
図6に示された連続式ショットピーニング装置40の一例は、一対のローラ41,42上に載置されたコイルばね10を矢印Fで示す方向に連続的に移動させつつ、ローラ41,42によってコイルばね10を回転させながら、遠心式加速装置(インペラ)43から第1のショットSH1をコイルばね10に投射するように構成されている。
【0023】
この第1のショットピーニングによって、コイルばね10の表面から比較的深い位置まで圧縮残留応力が形成される。しかも素線11の表面に形成されていた酸化皮膜(熱処理による黒皮)が第1のショットピーニングによって除去されるとともに、素線11の表面に第1のショットピーニング圧痕20(
図4に一部を模式的に示す)が形成されるため、後に行なわれる塗装工程S7において塗料が素線11に付着しやすくなる。
【0024】
図5中の第2のショットピーニング工程S5では、
図7から
図10に示すインペラ昇降式ショットピーニング装置50によって、第1のショットピーニング工程S4よりも低い温度(例えば200〜250℃)のもとで、コイルばね10を圧縮した状態で第2のショットピーニング(温間ストレスショットピーニング)が行なわれる。第2のショットピーニング工程S5では、第1のショットピーニング工程S4で使用した第1のショットSH1よりもサイズの小さい第2のショットSH2(例えば粒径が0.4〜0.7mmのスモールサイズのカットワイヤ)がコイルばね10の表面全体に投射される。
【0025】
第2のショットピーニング工程S5(温間ストレスショットピーニング)によって、素線11の表面付近の圧縮残留応力の絶対値を増加させることができる。しかも温間温度域に加熱されたコイルばね10が圧縮された状態でスモールサイズの第2のショットSH2が投射されるため、表面付近の圧縮残留応力を効果的に増加させることができるとともに、素線11の表面の粗さが改善される(表面粗さが小さくなる)ため、コイルばね10の耐久性をさらに向上させることができる。
【0026】
第2のショットピーニング工程S5が終了したのち、必要に応じてセッチング工程S6を実施することにより、コイルばねの無荷重時の長さ(自由長)を調整する。このセッチング工程S6によって、コイルばねのクリープ性(耐へたり性)を向上させることもできる。なお、セッチング工程S6を省略してもよい。次いで、塗装工程S7において、コイルばね全体に防錆塗料が静電塗装等によって塗布される。最後に品質検査が行なわれてコイルばね10の完成となる。
【0027】
図7から
図10は、第2のショットピーニング工程S5に使用されるインペラ昇降式ショットピーニング装置50を示している。
図7は、インペラ昇降式ショットピーニング装置50の一部を示す正面図、
図8は縦断面図、
図8と
図9はそれぞれ横断面図である。
【0028】
インペラ昇降式ショットピーニング装置50は、コイルばね(ワーク)10を収容するハウジング51と、コイルばね10をほぼ垂直に立てた姿勢で保持するワーク保持機構52と、コイルばね10に向けてショットSH2を投射するための第1のインペラユニット55および第2のインペラユニット56を含む投射機構57と、インペラユニット55,56を上下方向に移動させる第1の昇降機構58および第2の昇降機構59とを有している。
【0029】
第1の昇降機構58と第2の昇降機構59の一例は、それぞれ、コントローラによって回転が制御されるサーボモータ58a,59a(
図8に示す)とボールねじ58b,59bなどからなり、サーボモータ58a,59aの回転方向と回転量に応じてインペラユニット55,56をそれぞれ独立して上下方向に一定のストロークY1,Y2で移動させることができるように構成されている。
【0030】
図8と
図9に示されるように、ハウジング51の内部に、第1のチャンバ61と、第2のチャンバ62と、これらチャンバ61,62間に位置する中間チャンバ63,64とが形成されている。第1のチャンバ61には、ハウジング51の外側からコイルばね10を第1のチャンバ61内に出し入れするための開口であるワーク出入口65が形成されている。
【0031】
第2のチャンバ62には、投射機構57を構成する第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56の各投射口55a,56aが配置され、これら投射口55a,56aからコイルばね10に向けてショットSH2が投射されるようになっている。つまり第2のチャンバ62内にて、コイルばね10にショットSH2を投射することによって第2のショットピーニングが行なわれる。
【0032】
図9と
図10に示されるように、第1のチャンバ61と中間チャンバ63,64との間に隔壁70,71が設けられている。第2のチャンバ62と中間チャンバ63,64との間にも隔壁72,73が設けられている。さらに中間チャンバ63,64には、第2のチャンバ62内に投射されたショットSH2が第1のチャンバ61に向かうことを防ぐシール壁74,75が形成されている。
【0033】
図7に示すようにワーク保持機構52は、垂直方向に延びる公転軸X1を中心に回転するターンテーブル79と、ターンテーブル79を公転軸X1まわりに第1の方向R1と第2の方向R2(
図9に示す)とに180°ずつ間欠的に回動させるモータを備えた公転機構80(
図7に示す)と、ターンテーブル79上に配置された一対のワークホルダ81,82とを有している。
【0034】
ワークホルダ81,82には、それぞれ、コイルばね10の下側の座巻部10aに接する下側の座巻支持部84,85が設けられている。ワークホルダ81,82は、公転軸X1を中心として180°回転対称位置に配置されている。ワークホルダ81,82の背後には、第2のチャンバ62内においてコイルばね10に投射されたショットを受け止めるための一対のバックアッププレート86,87が配置されている。
【0035】
一方のワークホルダ81に設けられた下側の座巻支持部84の一例は、上方から挿入された座巻部10aを支持できるようにU形あるいはL形に形成された複数(例えば4つ)の爪部材を有し、これら爪部材がワークホルダ81の周方向に等間隔で配置されている。他方のワークホルダ82に設けられた下側の座巻支持部85も、上方から挿入された座巻部10aを支持できるようにU形あるいはL形に形成された複数(例えば4つ)の爪部材を有し、これら爪部材がワークホルダ82の周方向に等間隔で配置されている。
【0036】
ターンテーブル79を回転させる公転機構80(
図7に示す)は、一方のワークホルダ81が第1のチャンバ61の中央(
図9に示すワーク出し入れポジション)に位置しているときには他方のワークホルダ82を第2のチャンバ62の中央(ショットピーニングポジション)に位置させる。また一方のワークホルダ81が第2のチャンバ62の中央(ショットピーニングポジション)に移動しているときには、他方のワークホルダ82を第1のチャンバ61の中央(ワーク出し入れポジション)に位置させるよう、ターンテーブル79を公転軸X1まわりに180°ずつ間欠的に第1の方向R1と第2の方向R2(
図9に示す)とに回転させる機能を有している。
【0037】
すなわち本実施形態のワーク保持機構52は、下側の座巻支持部84,85を備えた一対のワークホルダ81,82が、ターンテーブル79上に180°回転対称位置に配置されている。そしてターンテーブル79が公転機構80によって180°ずつ公転軸X1を中心として間欠的に回転するように構成されている。このように公転機構80は、下側の座巻支持部84,85が第1のチャンバ61と第2のチャンバ62とにわたって往復するようにターンテーブル70を公転軸X1まわりに回転させる。
【0038】
さらにこの実施形態のインペラ昇降式ショットピーニング装置50は、ワーク保持機構52によって保持されたコイルばね10を圧縮するストレス付与機構90と、ワーク保持機構52によって保持されたコイルばね10を垂直軸(自転軸)X2,X3を中心に自転させる自転機構100とを備えている。
【0039】
ストレス付与機構90は、ワークホルダ81,82の真上に対向して配置された押圧部材91,92と、押圧部材91,92を上下させる流体シリンダ等の押圧駆動源93,94などを備えている。押圧部材91,92には、コイルばね10の上側の座巻部10bと接する上側の座巻支持部95,96が設けられている。
【0040】
一方の押圧部材91に設けられた上側の座巻支持部95の一例は、座巻部10bを支持可能なU形あるいはL形の複数(例えば4つ)の爪部材を有し、これら爪部材が押圧部材91の周方向に等間隔で配置されている。他方の押圧部材92に設けられた座巻支持部96も、座巻部10bを支持可能なU形あるいはL形の複数(例えば4つ)の爪部材を有し、これら爪部材が押圧部材92の周方向に等間隔で配置されている。
【0041】
押圧部材91,92を上下方向に移動させる押圧駆動源93,94は、押圧部材91,92を下側ストローク端まで移動させた状態においてコイルばね10を圧縮し、押圧部材91,92を上側ストローク端まで移動させた状態においてコイルばね10の押圧を解除できるように、上下方向の移動ストロークが設定されている。
【0042】
コイルばね10を回転させる自転機構100は、ワークホルダ81,82を垂直軸X2,X3まわりに回転させる下側回転部101と、押圧部材91,92を垂直軸X2,X3まわりに回転させる上側回転部102とを含んでいる。下側回転部101と上側回転部102とは、それぞれタイミングベルトとサーボモータ等の駆動源によって互いに同期して同一方向に同一の回転数で回転するよう制御回路によって制御される。
【0043】
コイルばね10に向かってショットSH2を投射する投射機構57は、上下方向に移動可能な第1のインペラユニット55と、第2のインペラユニット56とを有している。
図8に示されるように、第1のインペラユニット55は、第2のチャンバ62内のコイルばね10の斜め上方からショットSH2を投射するとともに、第1の昇降機構58によって上下方向に移動する。第2のインペラユニット56は、同じく第2のチャンバ62内のコイルばね10に対して、斜め下方からショットSH2を投射するとともに、第2の昇降機構59によって上下方向に移動するように構成されている。
【0044】
図9と
図10は、第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56を上方から見た横断面図である。第1のインペラユニット55は、モータ110によって回転するインペラ(翼車)111と、インペラ111にショットSH2を供給するディストリビュータ112とを備えている。第2のインペラユニット56も、モータ115によって回転するインペラ116と、インペラ116にショットSH2を供給するディストリビュータ117とを備えている。
【0045】
図9に示されるように、第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とは、上方から見て、第2のチャンバ62内のコイルばね10の中心を通る投射方向の線分P1,P2が、互いに180°以下の角度θ(例えば60°)をなすように配置されている。このため第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とは、互いに干渉し合うことなくコイルばね10に向けてショットSH2を投射することができる。
【0046】
第1のインペラユニット55は、ハウジング51の側部に設けられた上下方向のガイド部材130に沿って昇降可能に支持されている。第1のインペラユニット55は、サーボモータ58aとボールねじ58b等の駆動源を備えた第1の昇降機構58によって、
図8に示す中立位置N1を境に、上昇位置A1と下降位置B1とにわたって往復移動する。
【0047】
しかも第1のインペラユニット55は、ハウジング51に設けられた第1のヒンジ機構131を中心に開閉可能であり、
図9に示すように第2のチャンバ62を閉鎖した状態において確実にロックされる閉位置と、
図10に示すようにメンテナンス等のために第2のチャンバ62を開放した状態の開位置とにわたって、回動することができるようになっている。
【0048】
第2のインペラユニット56も、ハウジング51の側部に設けられた上下方向のガイド部材140に沿って昇降可能に支持されている。第2のインペラユニット56は、サーボモータ59aとボールねじ59b等の駆動源を備えた第2の昇降機構59によって、
図8に示す中立位置N2を境に、上昇位置A2と下降位置B2とにわたって往復移動する。
【0049】
しかも第2のインペラユニット56は、ハウジング51に設けられた第2のヒンジ機構141を中心に開閉可能であり、
図9に示すように第2のチャンバ62を閉鎖した状態において確実にロックされる閉位置と、
図10に示すようにメンテナンス等のために第2のチャンバ62を開放した状態の開位置とにわたって、回動することができるようになっている。
【0050】
図10に示すように、第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とをそれぞれヒンジ機構131,141を中心に開位置に移動させると、第2のチャンバ62が開放されることにより、第2のチャンバ62の内部をハウジング51の外側から臨むことができるとともに、第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56の内部をそれぞれ投射口55a,56a側から臨むことができる。このため第2のチャンバ62やインペラユニット55,56のメンテナンスを行なうことができる。
【0051】
次に、本実施形態のインペラ昇降式ショットピーニング装置50を用いて第2のショットピーニング工程S5(
図5に示す)を行う場合について説明する。
まず、第1のチャンバ61内に位置している一方のワークホルダ81に1個目のコイルばね10を載置する。
図7の左側に描かれたコイルばね10は、圧縮荷重が負荷されていない状態(自由状態)であり、コイルばね10の長さ(自由長)はL1である。このコイルばね10の表面全体には、予め第1のショットピーニング工程S4(
図5に示す)によって、第1のショットピーニング圧痕20が形成されている。
【0052】
第1のチャンバ61内のワーク出し入れポジションで停止しているワークホルダ81の座巻支持部84上にコイルばね10を載置したのち、押圧部材91が下側ストローク端まで降下することにより、下側の座巻支持部84と上側の座巻支持部95との間でコイルばね10が長さL2まで圧縮され、コイルばね10にねじりの応力が与えられる。さらにこのコイルばね10は、ターンテーブル79が180°回転することによって、ワークホルダ81と共に第2のチャンバ62のショットピーニングポジションに搬入される。これと同時に他方のワークホルダ82が第1のチャンバ61に移動してくるため、第1のチャンバ61では2個目のコイルばね10をワークホルダ82に載置できる状態となる。
【0053】
第2のチャンバ62内では、圧縮されたコイルばね10が自転機構100によって回転しつつ、上下方向に移動する第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とによって、第2のショットピーニングが行なわれる。第2のショットピーニングでは、第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とがそれぞれ同期して上下方向に移動し、かつ、圧縮された状態のコイルばね10が自転することにより、コイルばね10の座巻部10a,10bと有効部10cとを含む素線11の表面全体に第2のショットSH2が投射される。このように応力を与えた状態で第2のショットピーニングを行うことにより、コイルばね12の表面付近の圧縮残留応力を高めることができる。
【0054】
本実施形態ではコイルばね10を圧縮した状態で第2のショットピーニングが行なわれるため、自由状態のときよりも素線間の距離が小さい状態でショットSH2が投射される。しかし第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とがそれぞれ上下方向に移動しつつ、コイルばね10が自転しながらコイルばね10の斜め上方と斜め下方からショットSH2が投射されるため、コイルばね10の全体にショットを十分に打ち付けることができる。
【0055】
第2のショットピーニングでは、インペラ昇降式ショットピーニング装置50によって第1のショットピーニング圧痕の上から第2のショットSH2が投射される。このため素線11の表面全体のうち、座巻支持部84,85,95,96と接する箇所を除く素線11の表面に第2のショットSH2が当たる。このため座巻支持部84,85,95,96と接する箇所を除く素線11の表面に、第1のショットピーニング圧痕20(
図3と
図4に示す)よりも表面粗さの小さい多数の第2のショットピーニング圧痕30からなる第2粗面部31が形成される。座巻支持部84,85,95,96と接する箇所には第2のショットSH2が当たらないため、座巻部10a,10bの一部に第1のショットピーニング圧痕20からなる第1粗面部21が島状に残る。
【0056】
第2のチャンバ62内で第2のショットピーニングが行なわれたのち、ターンテーブル79が180°回転することにより、ワークホルダ81上のコイルばね10が第2のチャンバ62から第1のチャンバ61に戻ってくる。これと同時に、他方のワークホルダ82によって保持されている2個目のコイルばね10が第2のチャンバ62に搬入される。
【0057】
第1のチャンバ61に戻ってきたワークホルダ81上のコイルばね10は、押圧部材91が上昇したのち、ワーク出入口65から第1のチャンバ61の外部に取り出される。また第2のチャンバ62に搬入された2個目のコイルばね10は、1個目のコイルばね10と同様に、第2のチャンバ62内において第1のインペラユニット55と第2のインペラユニット56とによってショットピーニングが行われる。
【0058】
ここで、仮に、
図5に示すコイルばねの製造工程において、何らかのミスにより第1のショットピーニング工程S4または第2のショットピーニング工程S5の一方が行なわれなかった場合には、コイルばね10の表面全体が同じ粗さのショットピーニング圧痕のみとなり島状の第1粗面部21が見られない。このため塗装前のコイルばね10であれば、目視によって座巻部10a,10bに島状の第1粗面部21が点在しているか否かを確認することにより、第1のショットピーニングと第2のショットピーニングの双方がなされたか否か(2段ショットピーニングがなされたか否か)を確認することができる。塗装後のコイルばねの場合には、座巻部10a,10bの少なくとも一方の塗膜を剥がして第1粗面部21の有無を観察すればよい。
【0059】
第1粗面部21は第1のショットピーニング圧痕20のみからなるため、第2のショットピーニング圧痕30によって得られる残留応力の増加を期待することはできない。しかし第1粗面部21は応力的に余裕のある座巻部10a,10bのみに島状に形成されるため、第1粗面部21の存在がコイルばね10の耐久性を悪くする原因になることはない。
【0060】
本実施形態のインペラ昇降式ショットピーニング装置50は、第1のチャンバ61と第2のチャンバ62を有し、一対のワークホルダ81,82が交互に第1のチャンバ61と第2のチャンバ62に搬入されるようターンテーブル79が180°ずつ間欠的に回転する。このため第1のチャンバ61において作業員が一方のコイルばね10を出し入れしている間に、第2のチャンバ62においてショットピーニングを行うことができ、複数のコイルばね10に第2のショットピーニング工程S5を能率良く実施することができる。
【0061】
なお本発明を実施するに当たって、ハウジングやワーク保持機構、ストレス付与機構、自転機構、投射機構、昇降機構等の具体的な形状や構成をはじめとして、インペラ昇降式ショットピーニング装置を構成する各要素の態様や構造、配置等を種々に変更して実施できることは言うまでもない。例えば下側の座巻支持部を備えたワークホルダは1つでもよいし、3つ以上でもよい。また本発明に係るコイルばねは車両の懸架装置以外の用途に使用することもできる。