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特開2016-44113高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-44113(P2016-44113A)
(43)【公開日】2016年4月4日
(54)【発明の名称】高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/58 20060101AFI20160307BHJP
   C22C 29/16 20060101ALI20160307BHJP
   C22C 1/05 20060101ALI20160307BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20160307BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20160307BHJP
【FI】
   C04B35/58 101D
   C22C29/16 H
   C22C1/05 L
   B22F3/10 H
   B23B27/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-172122(P2014-172122)
(22)【出願日】2014年8月27日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】遊佐 斉
(72)【発明者】
【氏名】川村 史朗
(72)【発明者】
【氏名】谷口 尚
【テーマコード(参考)】
3C046
4G001
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF33
3C046FF37
3C046FF39
3C046FF46
3C046FF50
3C046FF53
3C046FF57
4G001BA37
4G001BA61
4G001BB37
4G001BC13
4G001BC52
4G001BC55
4G001BD18
4K018AD10
4K018BA11
4K018DA11
4K018KA15
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】本発明は、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】高圧相WC型TaN紛体20が焼結されており、空隙率が8%以下とされている高圧相WC型TaN焼結体11を用いることにより、前記課題を解決できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧相WC型TaN紛体が焼結されており、空隙率が8%以下とされていることを特徴とする高圧相WC型TaN焼結体。
【請求項2】
焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の高圧相WC型TaN焼結体。
【請求項3】
焼結助剤濃度が5vol%以上10vol%以下であることを特徴とする請求項2に記載の高圧相WC型TaN焼結体。
【請求項4】
TaN型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN固形体を作成する工程と、
前記高圧相WC型TaN固形体を粉砕して、高圧相WC型TaN紛体を作成する工程と、
前記高圧相WC型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程と、を有することを特徴とする高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【請求項5】
前記焼結にベルト装置を用いることを特徴とする請求項4に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記高温高圧が1500℃以上2000℃以下の高温、2.5GPa以上の高圧であることを特徴とする請求項4に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕で高圧相WC型TaN紛体の最大径を1μm以下とすることを特徴とする請求項4に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【請求項8】
高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程で、高圧相WC型TaN紛体に焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金を加えることを特徴とする請求項4に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属系硬質材料は、放電加工による加工が可能なためダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素のような非金属系と比べ、工具等への加工が容易である。そのため、切削工具等に使用されている。
【0003】
切削工具等に使用する金属系硬質材料としては、特に、炭化タングステンが広く用いられている。市場に流通している炭化タングステンの硬度は通常約13GPaである。しかし、炭化タングステンは、鉄系材料を切削する際に、結晶中の炭素成分が鉄と反応するため、工具の摩耗の原因となっている。
【0004】
また、炭化タングステン製の工具は、炭素繊維複合材料の加工に対して摩耗が激しいという弱点がある。この点は、近年、炭素繊維複合材料が用いられるようになった航空機産業等で問題となっている。
【0005】
このような理由から、炭化タングステンに代わる、より硬質な金属系超硬質材料の開発が求められていた。
窒化タンタルはこのような材料として注目されている。
【0006】
例えば、特許文献1は、WC型窒化タンタルおよびその合成方法に関するものであり、出発試料をCoSn型窒化タンタルとして、WC型窒化タンタル焼結体の合成について記載している。しかし、硬度については言及していない。
合成条件として1〜3GPa、1000〜1800℃が記載されている。
【0007】
非特許文献1は、“Crystal structure and superconducting properties of tantalum nitride obtained at high pressures”に関するものであり、CoSn型TaNを出発試料として非化学量論組成のNaCl型TaNの合成に成功したことを述べている。しかし、その記述にとどまり、焼結体・硬度測定については言及していない。
【0008】
非特許文献2は、“Quenching experiment of tantalum nitrides under Static compression”に関するものであり、ピストンシリンダー型高圧装置を使ったCoSn型からWC型相の合成について記載している。しかし、焼結体・硬度測定については言及していない。
【0009】
非特許文献3は、“B1−type and WC−type phase bulk bodies of tantalum nitride prepared by shock and static compression”に関するものであり、衝撃合成でのNaCl型、静的合成でのWC型、NaCl型焼結体合成について記載している。いずれもCoSn型からの合成である。硬度については言及していない。
【0010】
非特許文献4は、静的合成でのWC型、NaCl型焼結体合成について記載している。TaN型からの合成である。両者の焼結体の硬度はWC型が11.3GPa、NaCl型が20.9GPaと低い。その原因は出発試料に低密度のTaN型TaNを用いたため、焼結体の空隙率が大きいことにあると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−305732号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】L.G.Boiko,S.V.Popova,ZhETF Pis.Red.12,No.2 101−102(1970)
【非特許文献2】S.Tashiro,T.Mashimo,H.Sato,E.Ito,Trans.Mat.Res.Soc.Jpn.,Vol 14A,1994
【非特許文献3】T.Mashimo,S.Tashiro,M.Nishida,K.Miyahara,E.Ito,Physica B,239,13−15(1997)
【非特許文献4】H.Yusa,F.Kawamura,T.Taniguchi,et al、J.Appl.Phys.115,103520(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0014】
本発明者は、上記事情を鑑みて、従来の合成条件より、温度圧力が高い条件で、焼結体を製造すれば高硬度にできるのではないかと想到した。従来の方法では、常圧相を出発物質として焼結体を合成していたのに対し、高圧相を合成した後一度1μm以下の大きさに粉砕し、再度、ベルト型高圧装置により2.5GPa以上7.7GPa以下で1500℃以上2000℃以下の高温高圧処理することにより、相転移による、体積収縮が起こりにくくし、空隙を少なくし、焼結体を緻密化でき、高硬度にすることができることに想到した。
試行錯誤することにより、28GPaを超えるビッカース硬度を持つ窒化タンタル焼結体の製造に成功し、また、粉砕した高圧相に、コバルト粉末等の金属を5%以上混合して高温高圧処理することにより緻密化させた場合には、24GPaを超えるビッカース硬度を持つコバルト添加窒化タンタル焼結体を製造できたことを見出して、本発明を完成した。
本発明は、以下の構成を有する。
【0015】
(1) 高圧相WC型TaN紛体が焼結されており、空隙率が8%以下とされていることを特徴とする高圧相WC型TaN焼結体。
【0016】
(2) 焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金が含有されていることを特徴とする(1)に記載の高圧相WC型TaN焼結体。
【0017】
(3) 焼結助剤濃度が5vol%以上10vol%以下であることを特徴とする(2)に記載の高圧相WC型TaN焼結体。
【0018】
(4) TaN型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN固形体を作成する工程と、前記高圧相WC型TaN固形体を粉砕して、高圧相WC型TaN紛体を作成する工程と、前記高圧相WC型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程と、を有することを特徴とする高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【0019】
(5) 前記焼結にベルト装置を用いることを特徴とする(4)に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【0020】
(6) 前記高温高圧が1500℃以上2000℃以下の高温、2.5GPa以上の高圧であることを特徴とする(4)に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【0021】
(7) 前記粉砕で高圧相WC型TaN紛体の最大径を1μm以下とすることを特徴とする(4)に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【0022】
(8) 高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程で、高圧相WC型TaN紛体に焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金を加えることを特徴とする(4)に記載の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高圧相WC型TaN焼結体は、高圧相WC型TaN紛体が焼結されており、空隙率が8%以下とされている構成なので、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を提供できる。
【0024】
本発明の高圧相WC型TaN焼結体の製造方法は、TaN型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN固形体を作成する工程と、前記高圧相WC型TaN固形体を粉砕して、高圧相WC型TaN紛体を作成する工程と、前記高圧相WC型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程と、を有する構成なので、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を容易に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の一例を示す図であって、斜視図(a)、A部拡大図(b)である。
図2】本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の製造方法の一例を示すフローチャート図である。
図3】本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の別の一例を示す図であって、斜視図(a)、A部拡大図(b)である。
図4】試験例で用いたベルト型高圧装置による高圧合成説明図である。
図5】製造した高圧相WC型TaN焼結体の外観を示す写真である。
図6】試料番号1、3、5のX線回析測定結果である。
図7】焼結体合成温度とビッカース硬度との関係をまとめたグラフである。
図8】焼結体の鏡面研磨写真である。(a)は焼結体(試料番号1)の鏡面研磨写真であり、(b)は焼結体(試料番号3)の鏡面研磨写真であり、(c)は焼結体(試料番号5)の鏡面研磨写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(本発明の第1の実施形態)
(高圧相WC型TaN焼結体)
まず、本発明の第1の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の一例について説明する。
図1は、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の一例を示す図であって、斜視図(a)、A部拡大図(b)である。
【0027】
図1(a)に示すように、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体10は、略円板状である。しかし、これに限られるものではなく、略立方体状、略球状等としてもよい。
【0028】
図1(b)に示すように、高圧相WC型TaN焼結体11は、高圧相WC型TaN紛体20が焼結されている。空隙20cを有するが、その割合は低く、空隙率が8%以下とされている。これにより、焼結体を緻密にでき、高硬度とすることができる。
【0029】
(高圧相WC型TaN焼結体の製造方法)
次に、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の製造方法の一例を説明する。
図2は、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の製造方法の一例を示すフローチャート図である。
図2に示すように、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の製造方法は、高圧相WC型TaN固形体作成工程S1と、高圧相WC型TaN紛体作成工程S2と、高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3と、を有する。
【0030】
(高圧相WC型TaN固形体作成工程S1)
TaN型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN固形体を作成する。
前記焼結にベルト装置を用いることが好ましい。また、前記高温高圧が1500℃以上2000℃以下上の高温、2.5GPa以上の高圧であることが好ましい。これらにより、安定して、高圧相WC型TaN固形体を作成できる。
【0031】
なお、2000℃超の温度条件では、NaCl型のTaNが生成し始め、空隙が増加する。
また、圧力に関しては、高いほど空隙を少なくでき、好ましいが、装置の限界から、7.7GPa以下とされている。
【0032】
(高圧相WC型TaN紛体作成工程S2)
前記高圧相WC型TaN固形体を粉砕して、高圧相WC型TaN紛体を作成する。
前記粉砕で高圧相WC型TaN紛体の最大径を1μm以下とすることが好ましい。次の工程で、緻密な焼結体を製造できる。
粉砕装置としては、例えば、振動ミルを用いる。
【0033】
(高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3)
前記高圧相WC型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN焼結体を製造する。
この工程の高温高圧処理に用いる装置及び条件は、高圧相WC型TaN固形体作成工程S1で用いた装置及び条件と同一とする。
即ち、前記焼結にベルト装置を用いることが好ましい。また、前記高温高圧が1500℃以上2000℃以下の高温、2.5GPa以上の高圧であることが好ましい。これらにより、安定して、高圧相WC型TaN焼結体を製造できる。
【0034】
なお、2000℃超の温度条件では、NaCl型のTaNが生成し始め、空隙が増加し、28GPaを超えるビッカース硬度を持つ窒化タンタル焼結体ならびに24GPaを超えるビッカース硬度を持つコバルト添加窒化タンタル焼結体は作成できない。
また、圧力に関しては、高いほど空隙を少なくでき、好ましいが、装置の限界から、7.7GPa以下とされている。
【0035】
(本発明の第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の一例について説明する。
図3は、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の別の一例を示す部分拡大図である。
【0036】
図3(b)に示すように、高圧相WC型TaN焼結体12は、焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金が含有されている他は本発明の第1の実施形態と同様の構成とされている。これにより、TaN粒子間を埋め、靱性を高めることができる。
焼結助剤濃度は、5vol%以上10vol%以下であることが好ましく、5vol%以上8vol%以下であることがより好ましい。これにより、ビッカース硬度を高く維持したまま、靱性を高めることができる。
【0037】
(高圧相WC型TaN焼結体の製造方法)
次に、本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体の製造方法の別の一例を説明する。
【0038】
高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3で、高圧相WC型TaN紛体に焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金を加える他は本発明の第1の実施形態と同様の構成とされている。これにより、TaN粒子間を埋め、靱性を高めた高圧相WC型TaN焼結体を製造することができる。
【0039】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体11、12は、高圧相WC型TaN紛体20が焼結されており、空隙率が8%以下とされている構成なので、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を提供できる。
【0040】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体12は、焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金が含有されている構成なので、高硬度(24GPa以上)であって、靱性の高い高圧相WC型TaN焼結体を提供できる。
【0041】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体12は、焼結助剤濃度が5vol%以上10vol%以下である構成なので、高硬度(24GPa以上)であって、靱性の高い高圧相WC型TaN焼結体を提供できる。
【0042】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体11の製造方法は、TaN型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN固形体を作成する工程と、前記高圧相WC型TaN固形体を粉砕して、高圧相WC型TaN紛体を作成する工程と、前記高圧相WC型TaN紛体を高温高圧で焼結して、高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程と、を有する構成なので、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を容易に製造できる。
【0043】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体11の製造方法は、前記焼結にベルト装置を用いる構成なので、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を容易に製造できる。
【0044】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体11の製造方法は、前記高温高圧が1500℃以上2000℃以下の高温、2.5GPa以上の高圧である構成なので、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を容易に製造できる。
【0045】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体11の製造方法は、前記粉砕で高圧相WC型TaN紛体の最大径を1μm以下とする構成なので、空隙を減らし、緻密な焼結体を製造でき、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体を容易に製造できる。
【0046】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体12の製造方法は、高圧相WC型TaN焼結体を製造する工程S3で、高圧相WC型TaN紛体に焼結助剤としてCr、Mn、Fe、Co、Niの群から選択される一の遷移金属又はこれらの遷移金属からなる合金を加える構成なので、高硬度であって、靱性の高い高圧相WC型TaN焼結体を容易に製造できる。
【0047】
本発明の実施形態である高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
(試験例1:試料番号1)
(高圧相WC型TaN焼結体)
図4は、試験例で用いたベルト型高圧装置による高圧合成説明図である。
図4に示すように、高圧装置断面を見ると、本装置はベルト装置であり、上下方向から中心方向に向けて油圧可能なアンビルと、前記アンビルの間に配置されたガスケットと、ガスケットを囲むように配置されたシリンダーと、を有して概略構成される。
ガスケットは、反応部であり、スチールリングの枠組みの中に、焼結体原料粉末を充填したタンタルカプセルを配置し、タンタルカプセルはNaCl・10%ZrOで取り囲まれ、それを覆うようにカーボンヒータが配置され、更に、カーボンヒータがNaCl・10%ZrOで取り囲まれ、側面にはパイロフィライトが配置され、底面と上面にはモリブデン板、ジルコニア板、ステンレス板がこの順序で外側に向けて配置されて、概略構成されている。
【0049】
(高圧相WC型TaN固形体作成工程S1)
まず、タンタルカプセル内に、焼結体原料粉末としてTaN型TaN紛体を充填し、焼結体合成温度を1400℃、5.5GPaの高圧にして、高圧相WC型TaN固形体を作成した。
【0050】
(高圧相WC型TaN紛体作成工程S2)
次に、粉砕装置として振動ミルを用い、前記高圧相WC型TaN固形体を高圧相WC型TaN紛体の最大径を1μm以下となるまで粉砕して、高圧相WC型TaN紛体を作成した。
【0051】
(高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3)
次に、タンタルカプセル内に、焼結体原料粉末として高圧相WC型TaN紛体を充填し、焼結体合成温度を1400℃、5.5GPaの高圧にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例1)を製造した。
図5は、製造した高圧相WC型TaN焼結体の外観を示す写真である。
光沢のある、径4mmの円板状の焼結体が得られた。
X線回析測定を行った。WC型のピークの他不明ピークが得られた。
ビッカース硬度を測定した。25.5GPaであった。
【0052】
(試験例2:試料番号2)
高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を1550℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例2)を製造した。
ビッカース硬度を測定した。29GPaであった。
【0053】
(試験例3:試料番号3)
高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を1700℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例3)を製造した。
X線回析測定を行った。WC型のピークの他不明ピークが得られた。
ビッカース硬度を測定した。30GPaであった。
【0054】
(試験例4:試料番号4)
高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を1900℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例4)を製造した。
ビッカース硬度を測定した。33.5GPaであった。
【0055】
(試験例5:試料番号5)
高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を2000℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例5)を製造した。
X線回析測定を行った。WC型、NaCl型のピークの他不明ピークが得られた。
ビッカース硬度を測定した。20GPaであった。
【0056】
(試験例6:試料番号6)
出発原料を高圧相WC型TaN紛体およびCoとした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例6)を製造した。
X線回析測定を行った。WC型のピークの他不明ピークが得られた。
ビッカース硬度を測定した。23.5GPaであった。
【0057】
(試験例7:試料番号7)
出発原料を高圧相WC型TaN紛体およびCoとし、高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を1550℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例7)を製造した。
ビッカース硬度を測定した。24.5GPaであった。
【0058】
(試験例8:試料番号8)
出発原料を高圧相WC型TaN紛体およびCoとし、高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を1700℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例8)を製造した。
X線回析測定を行った。WC型のピークの他不明ピークが得られた。
また、ビッカース硬度を測定した。25.5GPaであった。
【0059】
(試験例9:試料番号9)
出発原料を高圧相WC型TaN紛体およびCoとし、高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を1900℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例9)を製造した。
ビッカース硬度を測定した。25.5GPaであった。
【0060】
(試験例10:試料番号10)
出発原料を高圧相WC型TaN紛体およびCoとし、高圧相WC型TaN焼結体製造工程S3の焼結体合成温度を2000℃とした他は試験例1と同様にして、高圧相WC型TaN焼結体(試験例10)を製造した。
X線回析測定を行った。WC型、NaCl型のピークの他不明ピークが得られた。
ビッカース硬度を測定した。22GPaであった。
【0061】
表1は、試験番号1〜10の出発試料、温度圧力条件、X線回折ピーク及びビッカース硬度を示す。
【0062】
【表1】
【0063】
図6は、試料番号1、3、5のX線回析測定結果である。
【0064】
図7は、焼結体合成温度とビッカース硬度との関係をまとめたグラフである。
【0065】
図8は、焼結体の鏡面研磨写真である。(a)は焼結体(試料番号1)の鏡面研磨写真であり、(b)は焼結体(試料番号3)の鏡面研磨写真であり、(c)は焼結体(試料番号5)の鏡面研磨写真である。図8では、同一スケールを使用している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の高圧相WC型TaN焼結体及びその製造方法は、高圧相WC型TaN紛体が焼結されており、空隙率が8%以下とされていることを特徴とする高圧相WC型TaN焼結体に関するものであり、工具等への加工が容易な金属化合物焼結体であって、これまでにない高硬度(24GPa以上)である高圧相WC型TaN焼結体であり、高硬度ブレードなどに利用でき、金属加工装置産業、金属加工産業等において利用可能性がある。
【符号の説明】
【0067】
11、12…高圧相WC型TaN焼結体、20…高圧相WC型TaN紛体、20c…空隙、25…焼結助剤。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8