【課題】作動温度が低温度域(300〜700℃)でも優れた電極性能を有する固体酸化物形燃料電池用カソード及びその製造方法、並びに当該カソードを備えた固体酸化物形燃料電池を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0013】
<1.固体酸化物形燃料電池用カソード>
本発明の固体酸化物形燃料電池用カソード(以下、「本発明のカソード」と称す場合がある。)は、固体電解質の片面に形成された固体酸化物形燃料電池用カソードであって、
当該カソードが、下記式(I)で表されK
2NiF
4型複合酸化物で構成され、
当該カソードにおいて、前記K
2NiF
4型複合酸化物のab面が、固体電解質表面に対して垂直方向に配向している固体酸化物形燃料電池用カソードである。
【0014】
Ln
2NiO
4 ・・・・・(I)
(但し、式(I)において、Lnは、La,Ce,Pr,Nd及びSmからなる群より選択される1種以上の元素である。)
【0015】
図1に示されるK
2NiF
4型構造の模式図においてAサイトはLn、BサイトがNiに相当する。
K
2NiF
4型酸化物は層状構造であるため、導電率(イオン伝導率、電子伝導率)の異方性を有しており、c軸方向の導電率よりもab面方向の導電率の方が高い。
本発明のカソードでは、カソード材である式(I)で表されるK
2NiF
4型複合酸化物(以下、「本発明に係るK
2NiF
4型複合酸化物」、又は単に「K
2NiF
4型複合酸化物」と記載する場合がある。)において、導電率に優れるab面が固体電解質表面に対して垂直方向に配向する結果として、電極反応の起こる反応場がガス供給方向に面するため、優れた電極性能を示す。
【0016】
また、本発明に係るK
2NiF
4型複合酸化物は、導電率の異方性のみならず、熱伝導率の異方性や、磁気異方性を有する。特に磁気異方性は有用であり、K
2NiF
4型複合酸化物は、磁場を印加することにより、磁場印加方向にc軸が配向する性質を利用して磁場印加によりab面を固体電解質表面に対して垂直方向に配向させることができる。詳しくは本発明のカソードの製造方法にて後述する。
【0017】
以下、本発明に係るK
2NiF
4型複合酸化物について詳細に説明する。
式(I)において、Lnは、一般式A
2BO
4のAサイトに入り、La,Ce,Pr,Nd及びSmからなる群より選択される1種以上の元素である。Lnにおけるこれらの元素の割合は、K
2NiF
4型複合酸化物が、K
2NiF
4型の結晶構造を有し、かつ、導電率の異方性(ab面方向の導電率>c軸方向の導電率)を有する範囲で選択される。これらの元素の中でも、ab面における電子伝導性と酸素イオン伝導性に優れる点で、LnとしてNd、Prを含むことが好ましい。また、Nd、Prは磁気応答性に優れるため、磁場印加によってK
2NiF
4型複合酸化物粒子を配向させる、本発明のカソードの製造方法に適する。
LnにおけるNd,Prの割合(原子比)は任意であるが、Prの量が多すぎるとSOFC運転温度での熱安定性が不十分になるおそれがあるため、熱安定性の面からはNdを50atm%以上含むことが好ましく、Ndのみであることが好ましい。
一方で、Prの量が多くなると導電率が向上する傾向にあるため、Nd:Pr=1:1(原子比)である(Nd,Pr)NiO
4が好適な組成の一つである。
【0018】
式(I)において、Niは一般式A
2BO
4のAサイトに入る元素である。そして、本発明の目的を損なわない範囲で、Niの一部を、他の遷移金属元素で置換してもよい。ここで、Niを置換する他の遷移金属元素としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、CoおよびCu等の元素を挙げることができる。
【0019】
ab面における電子伝導性と酸素イオン伝導性に優れ、かつ、高温安定性にも優れる点で、前記K
2NiF
4型複合酸化物が、Nd
2NiO
4であることが好ましい。なお、Nd
2NiO
4は、
図1においてAサイトがNdであり、BサイトをNiである。
また、Nd
2NiO
4は、700〜900mTの比較的弱い磁場でも、磁場印加方向にc軸が配向する。そのため、後述する本発明のカソードの製造方法によって、固体電解質表面に垂直な方向(磁場印加方向に垂直な方向)にab面を配向させることができるという利点もある。
【0020】
また、本発明のカソードは、カソード材である前記K
2NiF
4型複合酸化物のc軸が、固体電解質表面に対する平行方向に対して、ランダムに配向していることが好ましい。
固体電解質表面に対する平行方向に対して、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸が一方向のみに配向する場合でも、固体電解質表面に垂直な方向にab面が配向するため、カソード内部における導電率(イオン伝導率、電子伝導率)自体は向上する。
一方、SOFCにおけるカソード形成時(焼成時)やSOFC運転時において、固体電解質とカソードの熱膨張率の違いから、固体電解質からカソードが剥離(一部剥離含む)する場合がある。この場合、たとえ、カソード内部における導電率が高くても、カソード−固体電解質の界面抵抗が大きくなるため、電極性能が低下するおそれがある。
ここで、層状構造であるK
2NiF
4型複合酸化物は熱膨張率についても結晶異方性を有するため、固体電解質表面に対する平行方向に対して、c軸を一方向のみに配向させると、固体電解質とカソード材(K
2NiF
4型複合酸化物)の熱膨張の相違により電極剥離が起こりやすくなる。
これに対し、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸が、固体電解質表面に対する平行方向に対して、ランダムに配向していれば、固体電解質表面に対する平行方向におけるカソード材(K
2NiF
4型複合酸化物)の熱による膨張、収縮が緩和されるため、固体電解質との熱膨張の相違による電極剥離が抑制される。
【0021】
カソードでは、供給された空気(酸素)から電子を取り出し、酸素イオン(O
2-)を固体電解質に供給するが、本発明のカソードは電子伝導性と酸素イオン伝導性を併せ持つため、カソードの表面積(有効表面積)が大きい方が好ましい。
また、カソードが密な構造であると、温度変動に起因する熱応力によるカソード構造が破壊されるおそれがある。そのため、カソードは、ガス拡散性を有する適度な空隙を有することが好ましい。
【0022】
カソードの厚み(固体電解質に対する垂直方向への厚み)は、固体電解質の形態や使用目的に応じて適宜決定すればよいが、通常、20〜100μm程度である。
上述のように本発明のカソードでは、導電性に優れるab面が固体電解質に対する垂直方向に配向しているため、ランダム組織のカソードと比較して、実質的に反応に関与できる「有効電極面積」が大きくなる。
【0023】
カソード−固体電解質間のイオン伝導性を高まる点で、本発明のカソードは、固体電解質に密着形成されていることが好ましい。カソードの一部が剥離するなどして、カソード−固体電解質間に空隙が生じると、カソード−固体電解質間のイオン伝導がスムーズに行われなくなり、発電性能が低下する。
【0024】
本発明のカソードが形成される固体電解質は、SOFCに使用される従来公知の固体電解質を使用することができる。
固体電解質は、イオン伝導性酸化物からなるガス非透過の緻密膜であり、SOFC発電時には該電解質層を介して酸素イオン(プロトン伝導性酸化物の場合は、プロトン)が伝導する。
【0025】
固体電解質の形態としては、本発明のカソードが形成できる形状であればよく、平板状であっても、チューブ状であってもよいが、よりab面配向性の高いK
2NiF
4型複合酸化物を形成しやすい点では固体電解質の形態は、平板状であることが好ましい。また、平板状であれば、後述する回転磁場を使用したカソードの製造方法において、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸が固体電解質表面に対する平行方向に対して、ランダムに配向しているカソードを再現性よく製造することができる。
また、固体電解質がチューブ状であれば、その形状からカソードとの熱膨張の違いによる熱応力が緩和されるという利点がある。
また、固体電解質は、固体電解質自体が支持体となる固体電解質支持型であってもよく、アノード支持体上に固体電解質層を形成したアノード支持型であってもよい。
【0026】
固体電解質を構成するイオン伝導性酸化物としては、固体電解質は、イオン伝導性、カソード及びアノードの材料との反応性等を考慮して適宜好適なイオン伝導性酸化物からなる固体電解質が選択される。
例えば、酸素イオン伝導性酸化物として、ZrO
2系酸化物、CeO
2系酸化物、LaGaO
3系酸化物などが挙げられる。また、プロトン伝導性化合物として、SrCeO
3系酸化物、SrZrO
3系酸化物、BaCeO
3系酸化物、BaZrO
3系酸化物も使用できる。
この中でも、低温域でのSOFC運転を考慮すると、300〜700℃でのイオン伝導性に優れるイオン伝導性酸化物が好ましく、CeO
2系酸化物、LaGaO
3系ペロブスカイト化合物が好適である。また、ZrO
2系酸化物は高温作動に適するが、酸素イオン伝導性に優れるSc
2O
3安定化ジルコニア(ScSZ)は低温域においても使用できる。
また、プロトン伝導性化合物では、Ba(Ce,Y)O
3等のBaCeO
3系酸化物は、低温域(特には400〜700℃)でのプロトン伝導性に優れるため、好適に使用できる。
【0027】
特にCeO
2系酸化物は、低温域(300〜700℃)での酸素イオン伝導性に優れ、本発明のカソードを構成するK
2NiF
4型複合酸化物と反応することがほとんどないため、本発明の固体酸化物形燃料電池の固体電解質として好適である。
セリア(CeO
2)系酸化物としては、ドーパントにGd
2O
3を使用したGdドープセリア(GDC)や、Sm
2O
3を使用したSmドープセリア(SDC)を好適例として挙げることができる。
【0028】
固体電解質の厚みは、SOFCの内部抵抗の主要な原因の一つであり、固体電解質の機械的強度や緻密性が保たれる範囲で薄いほど好ましい。固体電解質の厚みは、電解質の種類にもよるが、通常、5〜300μm、好ましくは5〜50μm、より好ましくは5〜30μmである。
【0029】
<2.固体酸化物形燃料電池>
本発明の固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、固体電解質と、固体電解質の片面に形成されたカソードと、固体電解質の反対面に形成されたアノードと、を備える固体酸化物形燃料電池であって、カソードが、上記本発明のカソードであることを特徴とする。
【0030】
本発明のSOFCは、固体電解質を支持体としてアノード及びカソードを支持する固体電解質支持型が好適な形態であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、アノードを支持体するアノード支持型であってもよい。
【0031】
固体電解質支持型の場合、一般的には、固体電解質が100〜500μm程度、アノードが20〜100μm程度、カソードが20〜100μm程度であるが、これらは使用目的に応じて適宜変更することができる。
【0032】
以下、
図2に示す構成の固体電解質支持型SOFCについて説明する。なお、固体電解質及びカソードについては上述したため説明を省略し、アノードおよびSOFCの使用条件について説明する。
【0033】
アノードは、SOFCにおける従来公知の材料を用いて形成することができ、アノードが接触する固体電解質におけるイオン伝導性酸化物の種類、原料ガスの組成、反応条件などに応じて適宜選択される。代表的なアノードとして、電極触媒粒子と、酸素イオン伝導性を有するイオン伝導性酸化物粒子からなるアノードが挙げられる。
【0034】
アノードを構成する電極触媒粒子としては、耐熱性と、触媒活性を併せもつという点で、Ni、Co、Fe、Ru、Rh、Pt,Pd及びこれらの合金が挙げられる。
SOFCの作動温度(例えば、300〜1000℃程度)での耐熱性と、触媒活性を併せもつという点で、Ni、Co、Fe、Ru、Rh、Pt,Pd及びこれらの合金が挙げられる。 これらの金属種は、アノードに含まれるイオン伝導性酸化物の種類、原料ガスの組成、反応条件などに応じて適宜選択される。
【0035】
アノードを構成するイオン伝導性酸化物として、上述した固体電解質と同種のイオン伝導性酸化物を用いることが好ましい。
ここで、「同種のイオン伝導性酸化物」は、ベースとなるイオン伝導性酸化物が同一であることを意味し、ドーパントの種類やドープ量は問わない。例えば、セリア系酸化物である場合には、CeO
2がベースとなるイオン伝導性酸化物であり、ドーパントがGd
2O
3やSm
2O
3等である。
【0036】
アノードにおける電極触媒粒子とイオン伝導性酸化物粒子との割合は、アノードにおいて電子伝導性を担う電極触媒粒子が十分に連続して接触し、かつ、イオン伝導性酸化物粒子が十分に連続して接触する範囲であればよく、電極触媒粒子とイオン伝導性酸化物粒子との割合は、通常、体積比30:70〜50:50程度である。
【0037】
アノードは、従来公知のSOFCアノードの製造方法に準じた方法で作製することできる。すなわち、電極触媒前駆体、イオン伝導性酸化物粒子及び溶媒を含むアノードペーストを、スクリーン印刷等により、固体電解質に塗工し、乾燥させて、焼成することで形成することができる。なお、電極触媒前駆体は、SOFC運転条件(300〜1000℃程度、還元雰囲気)にて還元されて電極触媒粒子(金属粒子)となる。
焼成温度は、電極触媒前駆体、イオン伝導性酸化物粒子の種類を考慮して適宜決定される。例えば、電極触媒前駆体が酸化ニッケル(NiO)、イオン伝導性酸化物粒子がセリア系酸化物の場合には、1100〜1500℃、好ましくは1150〜1350℃である。
【0038】
また、上述のカソードの場合と同様に、アノード−固体電解質間のイオン伝導性が高まる点で、アノードは、固体電解質に密着形成されていることが好ましい。アノードの一部が剥離するなどして、アノード−固体電解質間に空隙が生じると、アノード−固体電解質間のイオン伝導がスムーズに行われなくなり、発電性能が低下する。
【0039】
本発明のSOFCの周辺設備において、本発明のSOFC(単セル)以外の構成要素は、公知のSOFCと同様であるため、詳細な説明を省略する。本発明のSOFC(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【0040】
また、本発明のSOFCは、従来公知のSOFCの運転条件に準じる運転方法で使用することができる。すなわち、所定の運転温度(300〜1000℃程度)において、アノードには燃料として、水素、炭化水素燃料、炭化水素改質燃料などを供給し、カソードには酸素を含むガス(通常、空気)を供給することで発電を行うことができる。
本発明のSOFCは、SOFC運転における低温度域である300〜700℃においても、優れた導電率を有するK
2NiF
4型複合酸化物をカソード材として使用し、かつ、K
2NiF
4型複合酸化物において導電率に優れるab面が固体電解質表面に対して垂直方向に配向しているため、300〜700℃において優れた電極性能を示す。そのため、特に300〜700℃において優れたイオン導電率を示す固体電解質(例えば、セリア系酸化物)と組み合わせることにより、300〜700℃においても優れた発電性能を示す。
【0041】
<3.固体酸化物形燃料電池用カソードの製造方法>
次に本発明のカソードを製造する方法について説明する。
上述した本発明のカソードは、以下に説明する製造方法(以下、「本発明のカソードの製造方法」と称す。)によって製造することが好適である。
【0042】
本発明のカソードの製造方法は、一方面にアノードが形成された固体電解質を準備する工程(1)と、
下記式(I)で表されるK
2NiF
4型複合酸化物粒子と、溶媒とを混合し、カソード塗工液を作製する工程(2)と、
固体電解質表面に対して平行方向に磁場を印加した状態で、前記固体電解質のアノードが形成された面の反対面に工程(2)で得られるカソード塗工液を塗工し、塗工したカソード塗工液を乾燥させて焼成前カソード層を形成する工程(3)と、
固体電解質表面に形成された焼成前カソード層を焼成し、前記固体電解質におけるアノード形成面の反対面にカソードを形成する工程(4)と、
を有する。
【0043】
Ln
2NiO
4 ・・・・・(I)
(但し、式(I)において、Lnは、La,Ce,Pr,Nd及びSmからなる群より選択される1種以上の元素である。)
【0044】
なお、式(I)で表されK
2NiF
4型複合酸化物については、<1.固体酸化物形燃料電池用カソード>にて詳述したため、重複する説明は適宜省略する。なお、上述したように、本発明に係るK
2NiF
4型複合酸化物は、磁気異方性、導電率の異方性、熱伝導率の異方性を有する。
【0045】
以下、本発明の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0046】
「工程(1)」
工程(1)は、工程(3)でカソードペーストを塗工するための一方面にアノードが形成された固体電解質を準備する工程である。準備する固体電解質は、アノードが一方面に形成されており、他方面(反対面)が固体電解質であればよく、後述する工程(3)にて、カソード塗工液の塗工が可能であれば、固体電解質自体が支持体となる固体電解質支持型であっても、アノード支持体上に固体電解質層を形成したアノード支持型であってもよい。なお、本発明において、工程(1)における「一方面にアノードが形成された固体電解質を準備する」には、「一方面にアノードが形成された固体電解質を製造すること」のみならず、「市販の一方面にアノードが形成された固体電解質を使用すること」も含まれるものとする。
【0047】
一方面にアノードが形成された固体電解質の形態としては、カソードが形成できる形状であればよく、平板状であっても、チューブ状であってもよい。
ここで、後述するように固体電解質の形態が平板状であれば、回転磁場で磁場を印加することにより、固体電解質表面に対する平行方向に対して、K
2NiF
4型複合酸化物のab面が垂直配向し、かつ、c軸が固体電解質表面に対する平行方向に対して、ランダムに配向するため、カソード内の導電性に優れ、かつ、固体電解質との密着性に優れたカソードを再現性よく製造することができる。
また、固体電解質がチューブ状であれば、その形状からカソードとの熱膨張の違いによる熱応力が緩和されるという利点がある。
【0048】
一方面にアノードが形成された固体電解質におけるアノード、固体電解質については、<1.固体酸化物形燃料電池用カソード>及び<2.固体酸化物形燃料電池>と同様であるため、重複する部分は説明を省略する。
【0049】
以下、一方面にアノードが形成された固体電解質を製造する方法の一形態を説明する。
一方面にアノードが形成された固体電解質は、例えば、所定割合の電極触媒前駆体粒子と、イオン伝導性酸化物粒子と混合し、適当な溶媒で分散したアノードペーストをスクリーン印刷等により、固体電解質に塗工し、所定の温度で焼成することで形成することができる。なお、アノードペーストに含まれる電極触媒前駆体は、SOFC運転条件で電極触媒に転化するものであればよい。
電極触媒金属としては、SOFCの作動温度(300〜1000℃程度)での耐熱性と、アノードとしての電気化学的活性を有するものであれば特に限定されないが、Ni、Cu、Fe、Co、Ag、Pt、Pd、W及びMo等の金属の粒子、あるいはこれらの合金が挙げられる。この中でも、電極触媒活性の高い、Niが好適である。
【0050】
電極触媒前駆体として、通常、電極触媒金属の酸化物粒子が用いられる。電極触媒金属の酸化物粒子の粒径は、0.05〜10μmが好ましく、より好ましくは、0.1〜3μmである。
【0051】
イオン伝導性酸化物粒子は、安定化ジルコニア(ZrO
2)系酸化物、セリア(CeO
2)系酸化物などが挙げられ、通常、SOFC単セルとしたときの固体電解質と同種のイオン伝導性酸化物が用いられる。なお、「同種のイオン伝導性酸化物」は、上記と同義である。イオン伝導性酸化物粒子の粒径は、0.05〜10μmが好ましく、より好ましくは、0.1〜3μmである。
【0052】
なお、アノードペーストに含まれる電極触媒前駆体とイオン伝導性酸化物粒子の割合は、電極触媒前駆体が電極触媒に転化した後に十分な電子伝導性とイオン伝導性を得られる範囲で適宜決定される。
【0053】
アノードペーストの粘度は、塗工に適した粘度になるような範囲で決定される。
粘度調製は、使用するバインダーや溶媒(分散媒)の種類や量、アノードペーストにおける固形分濃度を調節することによって行われる。適当な粘度に調製されたアノードペーストは、固体電解質の片面に塗工され、乾燥させ(焼成前)アノード層を形成したのち、焼成を行うことで、固体電解質に密着したアノードを形成することができる。
焼成温度は、アノード活性層にも含まれるイオン伝導性酸化物の過度の焼結を抑制するために、アノード活性層に含まれるイオン伝導性酸化物粒子の焼結開始温度近傍で決定され、例えば、電解質材料がセリア系酸化物の場合は、1200〜1400℃である。
【0054】
焼成は、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気や、これらに酸素を混合した酸化性雰囲気中で焼成してもよいが、通常、大気雰囲気で行われる。
【0055】
なお、アノード材やカソード材の種類にもよるが、一般的にアノード−固体電解質間の焼付温度はカソード−固体電解質間の焼付温度よりも高温であるため、先に固体電解質の片面にアノードを形成したのちに、他方面(反対面)にカソードを形成する。
【0056】
なお、固体電解質は、<1.固体酸化物形燃料電池用カソード>及び<2.固体酸化物形燃料電池>で説明した固体電解質を使用することができる。
特に、低温域(300〜700℃)で運転するSOFCを想定すると、上述した低温域(300〜700℃)でのイオン伝導性に優れるイオン伝導性酸化物(例えば、CeO
2系酸化物)が好適である。
【0057】
「工程(2)」
工程(2)は、工程(3)で使用する、式(I)で表されるK
2NiF
4型複合酸化物粒子と溶媒とを含むカソード塗工液を作製する工程である。
【0058】
カソード塗工液は、本発明のカソードを構成するカソード材であるK
2NiF
4型複合酸化物粒子が溶媒に分散したものである。なお、カソード塗工液には、必要に応じてK
2NiF
4型複合酸化物粒子、溶媒以外に他の成分を含んでいてもよい。このような他の任意成分として、例えば、分散剤や粘度調整材等が挙げられる。
また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、イオン伝導性を向上させる目的で、カソード塗工液は、K
2NiF
4型複合酸化物粒子以外のイオン伝導性酸化物粒子を含んでもよい。
【0059】
式(I)で表されK
2NiF
4型複合酸化物については、<1.固体酸化物形燃料電池用カソード>で詳述したK
2NiF
4型複合酸化物と同様であるため、ここでの説明を省略する。なお、上述の通り、好適な式(1)で表されるK
2NiF
4型複合酸化物として、LnにNd,Prを含む複合酸化物が挙げられ、具体的には、(Nd,Pr)NiO
4やNd
2NiO
4が例示できる。なお、Nd、Prは磁気応答性に優れるため、工程(3)において、比較的弱い磁場(例えば、1T以下)印加によっても、K
2NiF
4型複合酸化物粒子を配向させることができる。
【0060】
K
2NiF
4型複合酸化物粒子の粒径は、後述する磁場にて配向でき、かつ、カソード成形後に適度な空隙ができる範囲であればよく、通常、0.05〜10μm、好適には0.1〜3μmである。
【0061】
K
2NiF
4型複合酸化物粒子は、目的とするK
2NiF
4型複合酸化物の前駆体となる化合物を適宜調整して合成される。合成方法は、固相反応法や液相反応法のいずれでもよい。
【0062】
固相反応法の場合では、K
2NiF
4型複合酸化物を構成する元素であるLn、Niの酸化物を混合し、固相反応が起こる温度にて焼成すればよく例えば、固相反応法でNd
2NiO
4を合成する場合には、Nd
2O
3粉末とNiO粉末を1:1(モル比)で十分に混合し、1100〜1500℃で焼成することにより、Nd
2NiO
4を合成することができる。焼成後のNd
2NiO
4は塊状であることもあるので、所望の粒径になるように粉砕してもよい。
【0063】
また、液相反応法の場合は、式(I)のK
2NiF
4型複合酸化物を構成する元素であるLn、Niの前駆体を含む溶液からK
2NiF
4型複合酸化物の前駆体を合成し、それを熱処理することにより、合成することができる。
Ln、Niの前駆体としては、たとえば、Ln、Niの硫酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、酢酸塩、塩化物、アンモニウム錯体、リン酸塩、カルボン酸塩、アルコキシドなどが挙げられ、これらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
カソード塗工液に使用される溶媒としては、K
2NiF
4型複合酸化物粒子が均一に分散できる溶媒であればよい。例えば、水、エタノールなどのアルコール類、アセトン、エーテルなどの溶媒を、K
2NiF
4型複合酸化物粒子の粒径や、必要に応じて添加される任意成分(例えば、分散剤や粘度調整材等)の種類によって選択することができる。
【0065】
また、上記方法では、合成したK
2NiF
4型複合酸化物粒子を合成したのちに溶媒に分散した例について説明したが、液相合成法でK
2NiF
4型複合酸化物粒子を合成し、そのままカソード塗工液として使用してもよい。
【0066】
「工程(3)」
工程(3)は、工程(1)で準備した一方面にアノードが形成された固体電解質を使用し、当該固体電解質表面に対して平行方向に磁場を印加した状態で、前記固体電解質のアノードが形成された面の反対面に工程(2)で得られるカソード塗工液を塗工し、塗工したカソード塗工液を乾燥させて焼成前カソード層を形成する工程である。
【0067】
本発明のカソードの製造方法の最大の特徴は工程(3)において、固体電解質表面に対して平行方向に磁場を印加した状態で、前記固体電解質のアノードが形成された面の反対面に、工程(2)で得られる(結晶磁気異方性を有するK
2NiF
4型複合酸化物粒子を含む)カソード塗工液を塗工し、塗工したカソード塗工液を乾燥させて焼成前カソード層を形成することにある。
【0068】
上述したように本発明に係るK
2NiF
4型複合酸化物は結晶磁気異方性を有し、磁場印加方向にc軸が配向する。そのため、固体電解質表面に対して平行方向に磁場を印加した状態で、固体電解質上にカソード塗工液を塗工し、乾燥させると、カソード塗工液に含まれる結晶磁気異方性を有するK
2NiF
4型複合酸化物粒子が、c軸を固体電解質表面に対して平行方向に配向した状態で層(焼成前カソード層)を形成する。
【0069】
ここで、c軸が固体電解質表面に対して平行方向に配向すると、ab面を固体電解質表面に対して垂直方向に配向することになる。結果として、固体電解質表面に対してab面を垂直方向に配向させたK
2NiF
4型複合酸化物粒子からなる焼成前カソード層が形成される。形成された焼成前カソード層を工程(4)で焼成し、K
2NiF
4型複合酸化物粒子を焼結させることにより、固体電解質表面に対してab面を垂直方向に配向させたK
2NiF
4型複合酸化物からなるカソードを得ることができる。
【0070】
工程(3)における「磁場」は、焼成前カソード層においてK
2NiF
4型複合酸化物粒子が固体電解質表面に対してc軸が水平配向し、固体電解質表面に対してab面を垂直方向に配向することができれば、静磁場であっても、時間変動磁場であってもよい。ここで、「静磁場」とは、一定の磁束密度で一定方向に磁場が形成され、時間的に変動しない磁場を意味する。また、「時間変動磁場」とは、磁場を印加される対象物が受ける磁束密度の大きさ及び磁束方向のいずれか又は両方が時間変動する磁場を意味する。すなわち、磁力源自体が移動して磁場を変動させてもよいし、磁力源が固定され、磁場を印加される対象物が移動してもよい。
【0071】
工程(3)における磁場を形成する磁力源としては、永久磁石、電磁石のいずれを用いてもよい。なお、磁束密度の大きさを変動させる場合には電磁石を用い、電流をコントロールすることで、磁束密度の大きさを制御する。なお、真空中では磁束密度Bと磁場Hは、B=μ
0H(μ
0:真空の透磁率)で表される。
【0072】
磁場の強さは、K
2NiF
4型複合酸化物の種類、粒子の大きさ、カソード塗工液の粘度、固体電解質の形状(平板状、チューブ状)や、磁場の種類(静磁場あるいは時間変動磁場)等を考慮して適宜決定され、特に磁場の強さによる配向性が大きく依存する、K
2NiF
4型複合酸化物の種類を考慮して磁場の強さを決定する。例えば、K
2NiF
4型複合酸化物粒子として、磁場により配向しやすいNd
2NiO
4粒子を用いた場合には、700〜900mTであればよく、800〜850mTであることが好ましい。
【0073】
図3の模式図に示すように磁場を印加しない場合(無磁場)では、K
2NiF
4型複合酸化物粒子は特定の方向に配向せず、配向性のないランダム組織となる。一方、工程(3)において印加する磁場が静磁場であると、
図3に示すように固体電解質表面に垂直な方向にab面が配向するが、固体電解質表面に対する平行方向に対して、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸が磁場印加方向の一方向のみに配向する。このようにK
2NiF
4型複合酸化物のc軸が磁場印加方向の一方向のみに配向すると、SOFCにおけるカソード形成時(焼成時)やSOFC運転時において、固体電解質とカソードの熱膨張率の違いから、固体電解質からカソードが剥離(一部剥離含む)しやすくなる。
これに対し、時間変動磁場であると、
図3に示すように固体電解質表面に対する平行方向に対して、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸が一方向のみに配列しないため、上記固体電解質とカソードの熱膨張率の違いに起因するカソードの剥離(一部剥離含む)が起こりづらくなる。そのため、工程(3)において印加する磁場として、よりカソード剥離が起こりづらい時間変動磁場が好ましい。
【0074】
時間変動磁場の中でも、固体電解質表面に対して平行方向に対するc軸の向きをランダム化するために、少なくとも磁束方向が時間変動する磁場であることが好ましく、特には、時間変動磁場が、回転磁場であることが好ましい。ここで、回転磁場としては、磁力源が固体電解質を中心に回転する回転磁場であっても、磁力源が静置し、固体電解質が回転する回転磁場のいずれであってもよい。
図3の模式図に示すように回転磁場であると、固体電解質表面に対する平行方向に対して、360°方向から磁束が印加されることになるため、固体電解質表面に対する平行方向に対して、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸を、確実にランダム配向させることができる。
【0075】
また、工程(3)において印加する磁場が回転磁場の場合の好適な固体電解質の形状は、平板状である。平板状固体電解質では、カソードとの界面が平面であり、曲面にならない。そのため、熱膨張率の違いに起因する熱応力により、固体電解質からのカソードの剥離が起こりやすいが、回転磁場によるカソードの成形を行うと、固体電解質表面に対する平行方向に対して、K
2NiF
4型複合酸化物のc軸がランダム配向され、膨張率の違いに起因する熱応力が緩和され、固体電解質からのカソードの剥離が抑制される。そのため、固体電解質表面に対する垂直方向へのab面配向性が高く、剥離しづらいカソードを得ることができる。
【0076】
工程(3)において印加する磁場が回転磁場の場合の回転速度は、K
2NiF
4型複合酸化物の種類、粒子の大きさ、カソード塗工液の粘度、固体電解質の形状(平板状、チューブ状)や、磁場の種類(静磁場あるいは時間変動磁場)等を考慮して適宜決定されるが、通常、5〜50rpmであり、好適には10〜20rpmである。
【0077】
一方、カソードとの界面が曲面となるチューブ状固体電解質であれば、その形状からカソードとの熱膨張の違いによる熱応力が緩和されるという利点がある。そのため、固体電解質表面に対する平行方向に対してc軸が一方向のみに配列しやすい静磁場あるいは磁束密度の大きさのみが変動する時間変動磁場であっても、固体電解質表面に対する垂直方向へのab面配向性が高く、剥離しづらいカソードを得ることができる。
【0078】
「工程(4)」
工程(4)は、工程(3)で固体電解質表面に形成された焼成前カソード層を焼成し、前記固体電解質におけるアノード形成面の反対面にカソードを形成する工程である。
本工程において、焼成前カソード層が焼結され、固体電解質上にカソードが形成される。
【0079】
昇温速度は、熱膨張率の違いにより、固体電解質からカソード層が剥離しない範囲で決定され、通常、100〜350℃/hである。
【0080】
焼成温度は、K
2NiF
4型複合酸化物や、固体電解質を構成するイオン伝導性酸化物の種類によって適宜好適な温度が設定されるが、通常、900〜1200℃である。
【0081】
焼成は、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気や、これらに酸素を混合した酸化性雰囲気中で焼成してもよいが、通常、大気雰囲気で行われる。
【0082】
上記工程(1)〜(4)により、式(I)で表されK
2NiF
4型複合酸化物で構成され、K
2NiF
4型複合酸化物のab面が、固体電解質表面に対して垂直方向に配向している固体酸化物形燃料電池用カソード、及び該カソードが固体電解質の片面に形成され、固体電解質の反対面にアノードが形成された固体酸化物形燃料電池が形成される。
【実施例】
【0083】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
(1−1)GDC固体電解質の作製
所定量のGDC粉末(Gd
0.1Ce
0.9O
1.95,GDC)(AGCセイミケミカル株式会社)を、90MPaで一軸加圧成形した後、大気中1400℃にて10時間焼成し、GDC固体電解質(厚み:350μm、緻密膜)を得た。
【0085】
(1−2)NiO−GDCアノードペーストの作製
所定量のNiO-GDC粉末(ホソカワミクロン株式会社)と所定量のポリエチレングリコールを混合して、アノードペーストとしてのNiO−GDCペーストを得た。
【0086】
(1−3)カソード塗工液(Nd
2NiO
4懸濁液)の作製
Nd
2NiO
4粉末は固相反応法で合成した。Nd
2O
3粉末(和光純薬工業株式会社)とNiO粉末(住友金属鉱山株式会社)とを目的の組成となるように秤量し、所定の温度で焼成することにより、Nd
2NiO
4粉末を合成した。得られたNd
2NiO
4粉末をボールミルで48時間粉砕した後、エタノール中で超音波撹拌し、Nd
2NiO
4懸濁液(Nd
2NiO
4粉末:エタノール=1:3(重量比))からなるカソード塗工液を調製した。
【0087】
(1−4)SOFCセルの製造
上記(1−1)の方法で得た固体電解質の片面に、上記(1−2)の方法で得たアノードペーストをスクリーンプリントにより塗工し、乾燥させた後、大気中1250℃で2時間焼付を行うことにより、固体電解質の片面にアノード(直径6mm)を形成した。
次いで、アノードが成形された固体電解質基板を、800mTの磁場中に設置し、上記(1−2)の方法で得たカソード塗工液を固体電解質におけるアノードが成形された面の反対面に所定量滴下した後、エタノールが揮発してNd
2NiO
4が堆積、乾燥してNd
2NiO
4層を形成するまで磁場中に放置した。
本実施例における磁場印加方法は、ネオジム磁石を固体電解質を中心に回転させる回転磁場(回転速度:10rpm)であり、電解質表面に対して平行な方向に磁場印加した。
次いで、試料を磁場中から取り出し、1000℃で2時間焼き付け処理を施すことにより、カソード(直径6mm)を形成することにより、実施例1のSOFCを得た。
【0088】
「実施例2」
実施例1の(1−4)SOFCセルの製造において、磁場の印加方法を回転磁場に代えて静磁場とし、電解質表面に対して平行な方向に静磁場(800mT)を印加した以外は、実施例1と同様にして実施例2のSOFCを得た。
【0089】
「比較例1」
実施例1の(1−4)SOFCセルの製造において、磁場印加せずに無磁場でNd
2NiO
4層を形成した以外は実施例1と同様にして比較例1のSOFCを得た。
【0090】
(2)評価
(2−1)XRD
得られた実施例1,2及び比較例1におけるNd
2NiO
4カソードの配向性をX線回折法により評価した結果を
図4に示す。また、Nd
2NiO
4における(hkl)と(00l)の角度の関係を表1に示す。
無磁場で作製された比較例1(ランダム化試料)の結果では、200および020などのa軸またはb軸に起因するピークと共に、004、006および008などc軸に起因するピークが検出された。一方、静磁場中または回転磁場中で作製した実施例1,2では、それらc軸に起因するピークは検出されず、200および020などのa軸またはb軸に起因するピークが、強く検出された。さらにc軸が関係する113ピークは、静磁場中または回転磁場中で作製した実施例1,2では、無磁場の比較例1に比べ強度は弱かった。
これらの結果から、静磁場中または回転磁場中で作製した実施例1,2では結晶のab面が電解質表面に対して垂直となるカソードが形成されていることがわかる。
なお、静磁場中または回転磁場中で作製した試料のXRD結果における111ピークは、無磁場の場合と同様に、比較的強く検出されている。これは、(111)面と(00l)面のなす面角が72.8°と高角度であることに起因する。すなわち、カソード試料が完全配向なら、それらのピークは消滅する。
【0091】
【表1】
【0092】
(2−2)発電性能評価及び微細構造観察
実施例1、2及び比較例1のSOFC単セルの発電性能を評価した。測定条件は以下の通りである。
測定温度:600℃
供給ガス カソード側:Air(50mL/min)
アノード側:H
2−3体積%H
2O(50mL/min)
測定方法:電流-電圧測定(端子電圧降下測定)
【0093】
図5に実施例1,2及び比較例1のSOFCセルの発電性能評価の結果を示す。また、
図6、
図7に発電性能評価後に観察した、実施例1,2のSOFCセルのカソード−電解質界面のSEM像をそれぞれ示す。
【0094】
回転磁場中で作製した実施例1のSOFCセルは、無磁場中で作製した比較例1のSOFCセルよりも高い最大出力密度を示した。また、
図6に示すように実施例1のカソードは固体電解質に密着して形成され、測定後も電解質からの剥離が生じていないことが確認された。
一方、静磁場中で作製した実施例2のSOFCセルは、無磁場中で作製した比較例1のSOFCセルよりも低い最大出力密度を示した。
図7に示されるように静磁場中で作製した実施例2のSOFCセルのカソードは、固体電解質と完全に密着しておらず、カソードと固体電解質が接触していない部分が存在していることがわかる。
【0095】
以上の結果から、回転磁場中で作製した実施例1のSOFCセルのカソードは、イオン伝導性および電子伝導性に優れるNd
2NiO
4のab面が電解質表面に対して垂直であるため、カソード層内における固体電解質に垂直方向へのイオン伝導性および電子伝導性が向上したため、無磁場中で作製した比較例1のSOFCセルと比較して発電性能が向上したと考えられる。
一方、静磁場中で作製した実施例2のSOFCセルのカソードは、Nd
2NiO
4のab面が電解質表面に対して垂直であるが、カソード−固体電解質間の密着性が乏しいことが原因で、発電性能が低かったと考えられる。
【0096】
実施例2のSOFCセルのカソード−固体電解質間の密着性が悪い理由は、磁場印加方向が一方向である静磁場では、
図3に示すようにNd
2NiO
4のc軸は、磁場印加方向の一方向のみを向いているため、Nd
2NiO
4層の焼成時や、SOFC運転時にカソードの熱膨張が異方的に起こり、固体電解質からの剥離が生じやすくなるものと考えられる。一方、実施例1のSOFCセルのカソードは、磁場方向を電解質表面に平行にしたまま回転させ、Nd
2NiO
4層を形成するため、Nd
2NiO
4粒子のc軸方向は、
図3に示すように固体電解質表面方向においてランダムになるため、Nd
2NiO
4粒子のc軸方向が磁場印加方向の一方向のみである実施例2の場合と比較して、Nd
2NiO
4層の焼成時やSOFC運転時にカソードの熱膨張に起因するカソードの固体電解質から剥離が生じにくく、カソードと固体電解質の密着性向上をしたものと考えられる。
【0097】
以上に記したように、電解質表面に対して平行に磁場を印加することによって、カソードの高性能化にとって望ましい組織、つまり、結晶のab面が電解質表面に対して垂直となるカソードが形成されていることがわかる。