【解決手段】インバータ装置において、インバータ回路2と、インバータ回路2のスイッチング素子を駆動するためのパルス信号を生成する制御回路7と、インバータ回路2の出力電流を検出する電流センサとを備えた。制御回路7は、パルス信号の周波数fを固定したまま、パルス信号の位相差θを変化させるフェーズシフト制御を行い、位相差θの変化可能範囲を超えて制御する場合は、周波数fを変化させる周波数可変制御を行い、フェーズシフト制御を行って出力電力を増加させているときに、電流センサによって検出された出力電流が閾値以上になると、固定された周波数を所定値だけ増加させるようにした。周波数が増加すると表皮効果により負荷の抵抗値が高くなり、出力電流が減少するので、フェーズシフト制御を継続できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、本発明に係るインバータ装置を誘導加熱装置に用いた場合を例として、図面を参照して具体的に説明する。
【0020】
図1は、第1実施形態に係る誘導加熱装置の全体構成を説明するための図である。
【0021】
誘導加熱装置A1は、直流電源1、インバータ装置、コイル5、および、共振用コンデンサ6を備えている。誘導加熱装置A1は、直流電源1が出力する直流電流をインバータ回路2で高周波電流に変換して、コイル5に流すことで、電磁誘導を利用して加熱対象物Bを加熱する。
【0022】
直流電源1は、直流電流を出力するものであり、例えば、電力系統から入力される交流電流を整流する整流回路と、平滑する平滑コンデンサとを備えている。なお、直流電源1は、交流電流を直流電流に変換して出力するものに限られず、例えば、燃料電池、蓄電池、太陽電池などの直流電流を出力するものであってもよい。
【0023】
インバータ装置は、直流電源1から入力される直流電流を高周波電流に変換して、コイル5に出力するものである。インバータ装置は、インバータ回路2と制御回路7とを備えており、以下では「インバータ装置8」と記載する。インバータ装置8の詳細については、後述する。
【0024】
コイル5は、磁界を発生させるためのものであり、導体線を螺線状に巻いたものである。本実施形態では、誘導加熱装置A1を加熱調理用のものとしており、コイル5の上部に加熱対象物Bとして鍋などを配置するので、コイル5を平面的に螺線状に巻いた渦巻形状としているが、これに限られない。コイル5の形状は、加熱対象物Bの形状や配置の状態に応じたものとすればよい。例えば、コイル5を円筒形状に巻いたいわゆるコイル形状として、その中央に加熱対象物Bを配置するようにしてもよい。コイル5は、インバータ装置8から入力される高周波電流が流れることで磁界を変化させる。これにより、この磁界に配置された例えば鍋などの加熱対象物Bに、渦電流が発生する。加熱対象物Bには、渦電流が流れることで電気抵抗によるジュール熱が発生し、自己発熱によって加熱対象物Bは加熱される。
【0025】
共振用コンデンサ6は、コイル5によるインピーダンスを打ち消すためのものであり、コイル5に直列接続されることで直列共振回路を構成している。
【0026】
コイル5と加熱対象物Bとは磁気結合しているので、コイル5、共振用コンデンサ6および加熱対象物Bをまとめて、インバータ装置8に接続された負荷と考えることができる。つまり、誘導加熱装置A1は、直流電源1が出力する直流電流をインバータ装置8が交流電流に変換して、負荷に供給するものである。インバータ装置8は、負荷に供給する電力を制御することができる。本実施形態では、インバータ装置8は、フェーズシフト制御と周波数可変制御とを切り替えて、出力電力を制御する。
【0027】
インバータ装置8は、単相フルブリッジ型のインバータ回路2と制御回路7とを備えている。インバータ回路2は、4個のスイッチング素子2a〜2d、4個のフライホイールダイオード3a〜3d、および、4個のスナバコンデンサ4a〜4dを備えている。本実施形態では、スイッチング素子2a〜2dとしてMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を使用している。なお、スイッチング素子2a〜2dはMOSFETに限定されず、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor : 絶縁ゲート・バイポーラトランジスタ)などであってもよい。また、フライホイールダイオード3a〜3dおよびスナバコンデンサ4a〜4dの種類も限定されない。
【0028】
スイッチング素子2aと2bとは、スイッチング素子2aのソース端子とスイッチング素子2bのドレイン端子とが接続されて、直列接続されている。スイッチング素子2aのドレイン端子は直流電源1の正極側に接続され、スイッチング素子2bのソース端子は直流電源1の負極側に接続されて、ブリッジ構造を形成している。同様に、スイッチング素子2cと2dとが直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子2aと2bで形成されているブリッジ構造を先行アームとし、スイッチング素子2cと2dで形成されているブリッジ構造を追従アームとする。先行アームのスイッチング素子2aと2bとの接続点には出力ラインが接続され、追従アームのスイッチング素子2cと2dとの接続点にも出力ラインが接続されている。これら2つの出力ラインの間に、コイル5と共振用コンデンサ6とが直列接続されている。各スイッチング素子2a〜2dのゲート端子には、制御回路7から出力される駆動信号Pa’〜Pd’(後述)がそれぞれ入力される。
【0029】
各スイッチング素子2a〜2dは、それぞれ駆動信号Pa’〜Pd’に基づいて、オン状態とオフ状態とを切り替えられる。各アームの両端はそれぞれ直流電源1の正極と負極とに接続されているので、正極側のスイッチング素子がオン状態で負極側のスイッチング素子がオフ状態の場合、当該アームの出力ラインの電位は直流電源1の正極側の電位となる。一方、正極側のスイッチング素子がオフ状態で負極側のスイッチング素子がオン状態の場合、当該アームの出力ラインの電位は直流電源1の負極側の電位となる。これにより、直流電源1の正極側の電位と負極側の電位とが切り替えられたパルス状の電圧信号が各出力ラインから出力され、2つの出力ライン間の電圧である線間電圧が交流電圧となる。
【0030】
フライホイールダイオード3a〜3dは、スイッチング素子2a〜2dのドレイン端子とソース端子との間に、それぞれ逆並列に接続されている。すなわち、フライホイールダイオード3a〜3dのアノード端子はそれぞれスイッチング素子2a〜2dのソース端子に接続され、フライホイールダイオード3a〜3dのカソード端子はそれぞれスイッチング素子2a〜2dのドレイン端子に接続されている。フライホイールダイオード3a〜3dは、それぞれスイッチング素子2a〜2dの切り替えによって発生する逆起電力による逆方向の高い電圧がスイッチング素子2a〜2dに印加されないようにするためのものである。
【0031】
スナバコンデンサ4a〜4dは、スイッチング素子2a〜2dのドレイン端子とソース端子との間に、それぞれ接続されている。スナバコンデンサ4a〜4dは、スイッチング素子2a〜2dの切り替えによってドレイン端子とソース端子との間に印加されるサージ電圧を吸収するものである。なお、スナバコンデンサ4a〜4dにそれぞれ抵抗を直列接続してスナバ回路としてもよい。
【0032】
なお、フライホイールダイオード3a〜3dおよびスナバコンデンサ4a〜4dは、いずれか一方のみを備えるようにしてもよいし、いずれも備えないようにしてもよい。
【0033】
制御回路7は、インバータ回路2の制御を行うものであり、直流電源1に入力される交流電力が目標電力になるように制御することで、インバータ回路2の出力電力を制御する。制御回路7は、フェーズシフト制御と周波数可変制御とを切り替えて、出力電力の制御を行う。
【0034】
制御回路7は、フェーズシフト制御を行うことができる範囲では、駆動信号Pa’〜Pd’の周波数(以下では、「駆動周波数f」とする)を固定して、フェーズシフト制御を行う。すなわち、追従アームのスイッチング素子2c(2d)に出力する駆動信号Pc’(Pd’)の位相を先行アームのスイッチング素子2a(2b)に出力する駆動信号Pa’(Pb’)の位相より遅らせるが、この位相差θを変化させることで、出力電力の制御を行う。位相差θを小さくすると、負荷に電圧が印加される時間が短くなり、電流の振幅が小さくなって、インバータ回路2の出力電力が小さくなる。逆に、位相差θを大きくすると、負荷に電圧が印加される時間が長くなり、電流の振幅が大きくなって、インバータ回路2の出力電力が大きくなる。フェーズシフト制御は、位相差θが取り得る最小値θ
minから最大値θ
maxまでの範囲(θ
min≦θ≦θ
max)で、制御を行うことができる。
【0035】
また、制御回路7は、フェーズシフト制御では制御できない範囲(位相差θの変化範囲外)で出力電力を制御する場合、位相差θを固定して、周波数可変制御を行う。すなわち、駆動周波数fを変化させることで、出力電力の制御を行う。直列接続されたコイル5と共振用コンデンサ6とは、直列共振回路を構成しており、駆動周波数fが共振周波数のときに共振状態となって、出力電流が最大になる。本実施形態では、遅れ位相にするために、駆動周波数fを共振周波数より高い周波数の範囲で変化させる。したがって、駆動周波数fを低くすると、電流の振幅が大きくなって、インバータ回路2の出力電力が大きくなる。逆に、駆動周波数fを高くすると、電流の振幅が小さくなって、インバータ回路2の出力電力が小さくなる。
【0036】
図2は、制御回路7が行う制御における駆動周波数fと位相差θの関係を示す図である。
【0037】
図2(a)に示すように、制御回路7は、駆動周波数fを所定周波数f
0に固定して、位相差θを最小値θ
minから最大値θ
maxまでの範囲で変化させることで、出力電力の制御を行う(同図において、点aから点bまでの範囲の太線で示している)。また、制御回路7は、位相差θを最大値θ
maxにした状態よりさらに出力電力を増加させる場合、位相差θを最大値θ
maxに固定して、駆動周波数fを減少させる。これにより、駆動周波数fが取り得る最小値f
minまで、出力電力を増加させることができる(同図において、点bから点cまでの範囲の太線矢印で示している)。逆に、位相差θを最小値θ
minにした状態よりさらに出力電力を減少させる場合、位相差θを最小値θ
minに固定して、駆動周波数fを増加させる。これにより、駆動周波数fが取り得る最大値f
maxまで、出力電力を減少させることができる(同図において、点aから点dまでの範囲の太線矢印で示している)。したがって、制御回路7は、点dから点cまでの範囲(同図の太線矢印参照)で、出力電力を広範囲で制御することができる。また、点aから点bまでの範囲では、駆動周波数fを所定周波数f
0に固定するので、同様に駆動周波数fを所定周波数f
0に固定されている他のインバータ装置8との間で干渉音は発生しない。
【0038】
また、制御回路7は、インバータ回路2の出力電流が過電流にならないように制御している。具体的には、制御回路7は、出力電流が閾値以上になった場合に、駆動周波数fを所定周波数f
0から所定値Δfだけ増加させる。駆動周波数fを所定周波数f
0に固定したまま位相差θをさらに増加させると、スイッチング素子2a〜2dに過電流が流れて故障する場合がある。駆動周波数fを高い周波数にすることで、出力電流の周波数が高くなる。そして、表皮効果により加熱対象物Bの抵抗値が高くなって、出力電流が減少する。これにより、位相差θをさらに増加させることができる。位相差θの増加により出力電流が増加され、出力電流が閾値に達したときには、抵抗値が高くなった分、出力電力は増加している。駆動周波数fを高くした後でも、位相差θを増加させることで出力電流が閾値以上になった場合、制御回路7は、駆動周波数fをさらに所定値Δfだけ増加させる。出力電流を抑制するように駆動周波数fを所定値Δfずつ増加させ、位相差θが最大値θ
maxになるまで出力電力を増加させることができる。
【0039】
図2(b)は、制御回路7が、フェーズシフト制御の途中で、駆動周波数fを所定周波数f
0から増加させている状態を示している。制御回路7は、駆動周波数fを所定周波数f
0に固定して位相差θを大きくしているときに、点bに達する前に出力電流が閾値以上になると、駆動周波数fを所定値Δfだけ増加させる。駆動周波数fがf
1(=f
0+Δf)になったことで、出力電流が減少するので、位相差θをより大きい値まで変化させることができる。制御回路7は、駆動周波数fをf
1に固定して位相差θを大きくすることで、出力電力を増加させる。位相差θが最大値θ
maxになる前に、また出力電流が閾値以上になると、制御回路7は、駆動周波数fをさらに所定値Δfだけ増加させる。駆動周波数fがf
2(=f
1+Δf)になったことで、出力電流が減少するので、位相差θをより大きい値まで変化させることができる。制御回路7は、駆動周波数fをf
2に固定して、位相差θを最大値θ
maxになるまで(点b’参照)大きくすることで、出力電力を増加させる。
【0040】
図1に戻って、制御回路7は、電力算出部71、電力設定部72、電力制御部73、電流検出部74、切替部75、周波数設定部76、周波数制御部77、パルス信号生成部78、および、ドライバ79を備えている。
【0041】
電力算出部71は、電力系統から直流電源1に入力される交流電力の電力値を算出するものである。
図1においては図示されていないが、直流電源1には電力系統と整流回路との間に電流センサおよび電圧センサが設けられている。当該電流センサは、電力系統から直流電源1に入力される交流電流を検出して、電力算出部71に出力している。また、当該電圧センサは、電力系統から直流電源1に入力される交流電圧を検出して、電力算出部71に出力している。電力算出部71は、電流センサおよび電圧センサからの入力に基づいて、直流電源1に入力される交流電力の電力値Pを算出して出力する。なお、電力算出部71を直流電源1に設けて、電力値Pを直流電源1から制御回路7に入力するようにしてもよい。
【0042】
電力設定部72は、電力値Pの目標値P
*を設定するものであり、設定された目標値P
*を出力する。電力設定部72は、図示しない操作手段の操作に応じて、目標値P
*を設定する。操作手段は、例えば、つまみの回動位置により目標値P
*を変化させるものであり、一方方向(例えば反時計回り)につまみを回動させると目標値P
*が小さい値に設定され、他方方向(例えば時計回り)につまみを回動させると目標値P
*が大きい値に設定される。
【0043】
電力制御部73は、インバータ回路2に入力される電力の制御を行うためのものである。電力制御部73は、電力算出部71より出力される電力値Pと、電力設定部72より出力される目標値P
*との電力偏差ΔP(=P
*−P)を入力されて、当該電力偏差ΔPをゼロにするための電力補償値Xを切替部75に出力する。電力制御部73は、例えば、比例積分(PI)制御を行っている。
【0044】
電流検出部74は、インバータ回路2の出力ラインに設けられた電流センサが検出した電流信号に基づいて、インバータ回路2の出力電流の実効値を算出するものである。電流検出部74は、算出した電流実効値Iを切替部75に出力する。
【0045】
切替部75は、電力制御部73より入力される電力補償値Xの出力先を切り替えるものである。切替部75は、パルス信号生成部78より入力される位相差θが最小値θ
minまたは最大値θ
maxになっていない(θ
min<θ<θ
max)場合、電力補償値Xをパルス信号生成部78に出力し、位相差θが最小値θ
minまたは最大値θ
maxに達した(θ=θ
min,θ
max)場合、電力補償値Xを周波数制御部77に出力する。また、切替部75は、電流検出部74より入力される電流実効値Iが閾値I
0以上になった場合、周波数制御部77に周波数増加信号を出力する。
【0046】
図3は、切替部75が行う切替処理を説明するためのフローチャートである。当該切替処理は、インバータ装置8の起動時(すなわち、使用者が操作手段の操作によりスイッチをオンにしたとき)に実行が開始され、インバータ装置8の停止時(すなわち、使用者が操作手段の操作によりスイッチをオフにしたとき)まで継続する。
【0047】
まず、パルス信号生成部78より入力される位相差θが(θ
min<θ<θ
max)であるか否かが判別される(S1)。(θ
min<θ<θ
max)の場合(S1:YES)、電力制御部73より入力される電力補償値Xが、パルス信号生成部78に出力される(S2)。これにより、フェーズシフト制御が行われる。そして、電流検出部74より入力される電流実効値Iが閾値I
0以上であるか否かが判別される(S3)。電流実効値Iが閾値I
0以上の場合(S3:YES)、周波数増加信号が周波数制御部77に出力され(S4)、ステップS1に戻る。周波数制御部77は、周波数増加信号を入力されると、駆動周波数fを所定値Δfだけ増加する。電流実効値Iが閾値I
0より小さい場合(S3:NO)、ステップS1に戻る。
【0048】
ステップS1において、θ=θ
minまたはθ=θ
maxの場合(S1:NO)、電力制御部73より入力される電力補償値Xが、周波数制御部77に出力され(S5)、ステップS1に戻る。これにより、周波数可変制御が行われる。なお、切替部75が行う切替処理は、上述したものに限定されない。
【0049】
周波数設定部76は、インバータ装置8の運転開始時の駆動周波数である所定周波数f
0を設定するものである。周波数設定部76は、図示しない操作手段の操作に応じて、所定周波数f
0を設定する。所定周波数f
0が、負荷の共振周波数から大きく離れている場合や、進み力率になる周波数領域の周波数であった場合、スイッチング素子の損失が増大する。また、所定周波数f
0と近接する誘導加熱装置A1の駆動周波数fとの周波数差が、1kHz〜15kHzであった場合、干渉音が発生する。これらの不都合を回避するために、使用者は、操作手段を操作することで、所定周波数f
0を適宜設定することができる。
【0050】
周波数制御部77は、駆動周波数fを設定するものである。周波数制御部77は、切替部75より入力される電力補償値Xに基づいて、駆動周波数fを設定する。周波数制御部77は、切替部75より電力補償値Xが入力されていない間(フェーズシフト制御が行われている間)は、駆動周波数fを固定する。インバータ装置8の運転開始時には、駆動周波数fとして、周波数設定部76より入力される所定周波数f
0を設定する。そして、切替部75より周波数増加信号が入力されると、駆動周波数fに所定の周波数Δfを加算することで、駆動周波数fを切り替える。一方、切替部75より電力補償値Xが入力されている間(フェーズシフト制御が行われていない間)は、電力補償値Xに応じて、駆動周波数fを変化させる。
【0051】
パルス信号生成部78は、パルス信号Pa〜Pdを生成するものである。パルス信号生成部78は、先行パルス信号生成部781および追従パルス信号生成部782を備えている。
【0052】
先行パルス信号生成部781は、先行アームのスイッチング素子2aおよび2bに入力される駆動信号Pa’およびPb’の元になるパルス信号PaおよびPbを生成して、ドライバ79に出力する。先行パルス信号生成部781は、周波数制御部77より入力される駆動周波数fで、デューティ比が50%であるパルス信号Paを生成して出力する。また、先行パルス信号生成部781は、パルス信号Paを反転させた信号をパルス信号Pbとして出力する。
【0053】
追従パルス信号生成部782は、追従アームのスイッチング素子2cおよび2dに入力される駆動信号Pc’およびPd’の元になるパルス信号PcおよびPdを生成して、ドライバ79に出力する。追従パルス信号生成部782は、周波数制御部77より入力される駆動周波数fで、デューティ比が50%であり、切替部75より入力される電力補償値Xに応じて位相を遅らせたパルス信号Pcを生成して出力する。また、追従パルス信号生成部782は、パルス信号Pcを反転させた信号をパルス信号Pdとして出力する。
【0054】
なお、パルス信号生成部78によるパルス信号の生成方法は、上述したものに限られない。切替部75より入力される電力補償値Xに応じて、パルス信号PcおよびPdの位相の遅れを変化させることができればよい。また、本実施形態においては、デューティ比を50%にした場合について説明しているが、これに限られない。50%はあくまで例示であって、50%以外の所定値としてもよい。
【0055】
ドライバ79は、パルス信号生成部78から入力されるパルス信号Pa〜Pdを増幅して、各スイッチング素子2a〜2dを駆動できるレベルの駆動信号Pa’〜Pd’として出力する。本実施形態では、ドライバ79を、パルストランス方式のゲートドライブ回路としている。なお、ドライバ79は、パルストランス方式のゲートドライブ回路に限定されず、フォトカプラ方式などの他の方式のゲートドライブ回路としてもよい。
【0056】
なお、制御回路7の内部構成は上述したものに限られない。制御回路7は、フェーズシフト制御では制御できない範囲(位相差θの変化範囲外)で出力電力を制御する場合に周波数可変制御を行うものであり、インバータ回路2の出力電流が過電流になる前に駆動周波数fを増加させるものであればよい。
【0057】
また、制御回路7の各部はディジタル回路として実現してもよいし、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路7として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0058】
次に、第1実施形態に係る誘導加熱装置の作用と効果について説明する。
【0059】
切替部75は、パルス信号生成部78より入力される位相差θが最小値θ
minまたは最大値θ
maxになっていない(θ
min<θ<θ
max)場合、電力補償値Xをパルス信号生成部78に出力する。この場合、パルス信号生成部78は、駆動周波数fを所定周波数f
0に固定して、パルス信号Pc(Pd)の位相を、パルス信号Pa(Pb)の位相より、電力補償値Xに応じて遅らせる。これにより、制御回路7は、フェーズシフト制御を行う。また、切替部75は、位相差θが最小値θ
minまたは最大値θ
maxに達した(θ=θ
min,θ
max)場合、電力補償値Xを周波数制御部77に出力する。この場合、パルス信号生成部78は、位相差θを固定して、パルス信号Pa〜Pdの周波数を、周波数制御部77で電力補償値Xに応じて変化された駆動周波数fにする。これにより、制御回路7は、周波数可変制御を行う。制御回路7は、フェーズシフト制御ができる範囲を超える場合、周波数可変制御を行うことで、出力電力を広範囲で制御することができる。また、フェーズシフト制御ができる範囲では、駆動周波数fを所定周波数f
0に固定するので、同様に駆動周波数fを所定周波数f
0に固定されている他のインバータ装置8との間で干渉音は発生しない。
【0060】
また、切替部75は、フェーズシフト制御を行っているときに、電流検出部74より入力される電流実効値Iが閾値I
0以上になった場合、周波数制御部77に周波数増加信号を出力する。周波数制御部77は、切替部75より周波数増加信号が入力されると、駆動周波数fに所定の周波数Δfを加算することで、駆動周波数fを増加させる。駆動周波数fが増加すると、出力電流の周波数も高くなり、表皮効果により加熱対象物Bの抵抗値が高くなって、出力電流が減少する。したがって、位相差θをさらに増加させることができるようになって、フェーズシフト制御できる範囲が広がる。位相差θの増加により出力電流が増加され、出力電流が閾値に達したときには、抵抗値が高くなった分、出力電力は増加している。出力電流を抑制するように駆動周波数fを増加させ、位相差θを最大値θ
maxになるまで変化させることで出力電力を増加させることができる。したがって、出力電流を抑制しながら、出力電力を増加させることができる。
【0061】
なお、本実施形態においては、周波数設定部76が操作手段の操作に応じて所定周波数f
0を設定する場合について説明しているが、これに限られない。例えば、近接する誘導加熱装置A1の駆動周波数fに基づいて、適切な所定周波数f
0を設定するようにしてもよい。この場合、使用者が所定周波数f
0を設定する手間を省くことができる。
【0062】
本実施形態においては、インバータ装置8がフェーズシフト制御と周波数可変制御とを切り替える場合について説明したが、これに限られない。例えば、フェーズシフト制御に代えて、他の周波数固定制御であるパルス幅変調(PWM)制御、振幅変調(PAM)制御、または、パルス密度変調(PDM)制御などを行うようにしてもよいし、これらの制御を組み合わせた制御を行うようにしてもよい。本実施形態においては、フェーズシフト制御を行うので、インバータ回路2はフルブリッジ型であるが、その他の制御を行う場合は、インバータ回路2をハーフブリッジ型としてもよい。
【0063】
本実施形態においては、直流電源1に入力される交流電力がインバータ回路2の出力電力とほぼ同じであることを利用して、直流電源1に入力される交流電力を制御することで、インバータ回路2の出力電力を制御しているが、これに限られない。例えば、インバータ回路2の出力電力を直接制御するようにしてもよい。すなわち、電力算出部71がインバータ回路2の出力電流および出力電圧から出力電力を算出し、電力設定部72が出力電力の目標値を設定するようにしてもよい。また、直流電源1からインバータ回路2に入力される直流電力を制御するようにしてもよい。また、直流電源1に入力される交流電流を制御するようにしてもよいし、当該交流電流から推定される交流電力を制御するようにしてもよい。
【0064】
上記第1実施形態においては、本発明に係るインバータ装置を誘導加熱装置に用いた場合について説明したが、これに限られない。本発明に係るインバータ装置は、ワイヤレス給電用の送電装置や電源装置などの他の装置にも用いることができる。本発明に係るインバータ装置をワイヤレス給電用の送電装置に用いた場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
【0065】
図4は、第2実施形態に係るワイヤレス給電装置を説明するための図である。
【0066】
図4に示すワイヤレス給電装置A2は、高周波電力を送電する送電装置A21、および、送電装置A21が送電した高周波電力を受電する受電装置A22を備えている。
【0067】
送電装置A21は、第1実施形態に係る誘導加熱装置A1と同様の構成であり、
図1に示す誘導加熱装置A1と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。送電装置A21は、直流電源1が出力する直流電流をインバータ回路2で高周波電流に変換し、コイル5に流すことで、コイル5に発生する磁界を変化させる。制御回路7は、システム効率を最大にするために、インバータ回路2への入力電力を一定にする制御を行う。
【0068】
受電装置A22は、コイル5に磁気結合するコイル5’、コイル5’に直列接続されて、直列共振回路を構成する共振用コンデンサ6’、および、コイル5’が受電した高周波電力を消費する負荷9を備えている。負荷9は、高周波電力を整流する整流回路と、負荷9全体の抵抗値を最適な値にするために電圧電流比を変化させるDC/DCコンバータを備えている。
【0069】
第1実施形態に係る誘導加熱装置A1がコイル5に発生する磁界を変化させることで、加熱対象物Bに渦電流を発生させるのに対し、送電装置A21は、コイル5に発生する磁界を変化させることで、受電装置A22のコイル5’に高周波電流を発生させる点が異なる。
【0070】
第2実施形態に係る送電装置A21は、フェーズシフト制御では制御できない範囲(位相差θの変化範囲外)で制御を行う場合に周波数可変制御を行い、インバータ回路2の出力電流が過電流になる前に駆動周波数fを増加させる。したがって、第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0071】
本発明に係るインバータ装置、誘導加熱装置およびワイヤレス給電装置は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るインバータ装置、誘導加熱装置およびワイヤレス給電装置の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。