特開2016-49103(P2016-49103A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日光ケミカルズ株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社コスモステクニカルセンターの特許一覧

<>
  • 特開2016049103-経粘膜吸収評価装置及び評価方法 図000009
  • 特開2016049103-経粘膜吸収評価装置及び評価方法 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2016-49103(P2016-49103A)
(43)【公開日】2016年4月11日
(54)【発明の名称】経粘膜吸収評価装置及び評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20160314BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20160314BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20160314BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20160314BHJP
【FI】
   C12M1/34 Z
   G01N33/68
   C12M3/00 A
   C12Q1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-129743(P2015-129743)
(22)【出願日】2015年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-173684(P2014-173684)
(32)【優先日】2014年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000226437
【氏名又は名称】日光ケミカルズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301068114
【氏名又は名称】株式会社コスモステクニカルセンター
(72)【発明者】
【氏名】松本 ゆき子
(72)【発明者】
【氏名】清水 健司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 大介
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045BB20
2G045DA30
2G045DA36
2G045FB03
4B029AA07
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC11
4B029FA12
4B029FA15
4B029GA03
4B029GB10
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR48
4B063QR77
4B063QS33
4B063QS39
4B063QX01
(57)【要約】
【課題】物質の歯肉粘膜上皮透過量の測定及び透過した物質の有効性評価を同時かつ簡便に行うことができる経粘膜吸収評価装置及びその評価方法を提供すること。
【解決手段】歯肉粘膜上皮等価物と線維芽細胞を組み合わせた共培養装置を用いることにより、物質の粘膜累積透過量の測定と透過した物質が線維芽細胞に作用して得られる有効性評価を同時かつ簡便に行うことができることを見出し、口腔化粧品、医薬部外品及び医薬品の歯肉組織に対する有効性を評価できる装置の完成に至った。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯肉粘膜上皮等価物と評価対象細胞とを用いて、物質の粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができることを特徴とする経粘膜吸収評価装置。
【請求項2】
前記歯肉粘膜上皮等価物が、培養粘膜であることを特徴とする請求項1に記載の経粘膜吸収評価装置。
【請求項3】
前記歯肉粘膜上皮等価物が、再構成粘膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の経粘膜吸収評価装置。
【請求項4】
前記評価対象細胞が、線維芽細胞であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の経粘膜吸収評価装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の経粘膜吸収評価装置を使用して、歯肉粘膜上皮等価物の経粘膜透過量の測定と、歯肉粘膜上皮等価物及び/又は前記評価対象細胞からのコラーゲン産生量、ヒアルロン酸産生量、各種サイトカイン産生量、各種分泌酵素およびタンパク質量及び/又は活性から選択される1種又は2種以上の測定とを同時に行うことを特徴とする評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の歯肉粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができることを特徴とする経粘膜吸収評価装置及びその評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物質の経粘膜吸収は、動物からの摘出組織などを利用して透過した物質量を測定するものであった。一方、物質の有効性評価は、細胞に直接物質を暴露させてその生理活性を評価してきた。そのため、歯肉粘膜に吸収された物質が、実際に標的とする細胞までどのくらい送達されるのか、そして、送達された物質が本当に有効性を示すのかを同時に評価する方法はなく、間接的に考察するのみであった。
【0003】
ところで、共培養物を利用した技術及び評価方法としては、動物細胞の培養構築物として、賦活化する物質をスクリーニングすること等に応用できる共培養物に関する技術(特許文献1)が報告されている。また、皮膚を対象として、物質の有効性や安全性を容易に試験するための装置として、再構成組織のサンプルと、物理的、生物学的及び/又は化学的刺激がサンプルに与える影響、又はサンプルが物理的、生物学的及び/又は化学的刺激に与える影響を検出システムと関連づけた装置や(特許文献2)、再構成皮膚と、評価対象細胞とを用い、物質の皮膚透過量と透過した物質の効果を同時に測定できることを特徴とする経皮吸収評価装置(特許文献3)の報告はされているが、これらの対象は、皮膚であり、歯肉粘膜を対象としていない。
【0004】
歯肉粘膜上皮等価物を利用し、物質の有効性を容易に試験するための装置として、物質の歯肉粘膜透過量と透過した物質の有効性の評価を同時に測定できることを特徴とする経粘膜吸収評価装置及びその評価方法についての報告は、これまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−119010号公報
【特許文献2】特表2008−520199号公報
【特許文献3】特開2011−200224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、従来、物質の歯肉粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができることを特徴とする経粘膜吸収評価装置及びその評価方法については知られていない。従って、新規の物質の歯肉粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時かつ簡便に行うことができる経粘膜吸収評価装置及びその評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、物質の歯肉粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができることを特徴とする経粘膜吸収評価装置及びその評価方法について鋭意研究した結果、歯肉粘膜上皮等価物と、評価対象細胞とを用いた装置、より好ましくは歯肉粘膜上皮等価物として培養粘膜と評価対象細胞とを共培養した装置を用いることにより、物質の歯肉粘膜透過量と透過した物質の有効性の評価を同時に測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0008】
従来、物質の歯肉粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うには困難があったが、本発明に記載の経粘膜吸収評価装置を用いることにより、簡便かつ迅速に、物質の歯肉粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができる。従って、物質及び/又は物質を含む外用組成物がもつ、歯肉粘膜に対する効果を直接的に測定できることから、実際に歯肉粘膜に塗布して有効に作用する物質及び/又は物質を含む外用組成物の開発を効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る、経粘膜吸収評価装置である。
図2】本発明の実施例1に係る経粘膜吸収評価装置(セッティング)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。
本発明に係わる経粘膜吸収評価装置は、歯肉粘膜上皮等価物と、評価対象細胞とを用いるものである。本発明に係わる経粘膜吸収評価装置は、物質の粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができる。
【0011】
本発明で用いる歯肉粘膜上皮等価物としては、培養再構成歯肉粘膜HGE再生ヒト粘膜モデルを用いるのが望ましい。なお、種類の異なる単層培養細胞を共培養するためには、培地の最適化やpHの選定など非常に煩雑な作業を要するが、再構成歯肉粘膜を用いることで簡便に評価対象細胞との安定かつ効率的に共培養物を作成することができる。
【0012】
評価対象細胞としては、線維芽細胞、脂肪細胞、血管内皮細胞などが挙げられる。これらは、有効性の評価目的によって適宜選択されるべきであり、本発明においては線維芽細胞が好ましい。評価対象細胞として線維芽細胞を用いた場合、経粘膜吸収した物質が線維芽細胞におけるコラーゲン産生作用、ヒアルロン酸産生作用、エラスチン産生作用、細胞増殖促進及び/又は抑制作用、各種サイトカイン産生促進及び/又は抑制作用の評価、フィブリリン産生作用、コラーゲナーゼ活性及び/又は産生阻害などの評価をおこなうことができる。各種サイトカインとしては、特に限定されるものではないが、インターロイキン、インターフェロン、TNF、TGF、FGF、KGF、HGF、IGF、エイコサノイド、SCF、MCP及びCSFなどが挙げられる。これらの評価をすることで、抗炎症作用、抗老化作用などの有効性を評価することができる。
【0013】
評価対象となる物質は、主に口腔化粧品、医薬部外品及び/又は医薬品に利用できる成分を対象とし、そのまま歯肉粘膜上皮等価物に塗布することもできるし、水、油性成分、各種溶媒などに溶解又は分散物として、更に乳化製剤として適用することもできる。また、口腔化粧品、医薬部外品、医薬品製剤などを塗布することができる。
【0014】
口腔化粧品及び/又は医薬品に利用できる成分のうち、生理活性成分としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸リン酸エステルマグネシウム、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、トラネキサム酸及びその誘導体、エラグ酸、ルシノール、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、アミノ酸、糖類、ムコ多糖、セラミド、ステロール及びその誘導体、リン脂質及びそれらの誘導体、レチノール及びそれらの誘導体、ビタミンA酸およびそれらの誘導体、トコトリエノール、ユビキノン、アロエ、オウゴン、各種ビタミン類やその誘導体、トコフェロール、酢酸トコフェロール、SOD、β−カロテン、カテキン、ポリフェノール、カフェイン、カカオ、セイヨウキズタ、ビスナジンなどのスリミング剤、カモミラ、シソ、カルニチン、リン脂質及びそれらの誘導体、機能性多糖などが挙げられる。
【0015】
また、生理活性成分などがより効率的に経粘膜吸収され、有効性がより発現される口腔化粧品又は医薬品の剤型を検討するための方法としても利用できるため、口腔化粧品又は医薬品の処方設計の検討に利用すると非常に効率的にそれらの開発を進めることができる。
【0016】
物質の歯肉粘膜上皮透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うには、図1の培地をサンプリングすればよい。物質の粘膜透過量は例えば、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーを用いて定量することができ、透過した物質の有効性の評価は、例えば評価対象細胞として線維芽細胞を用いてコラーゲン産生促進作用を評価する場合は、ELISA法により、また、コラーゲナーゼ活性作用を評価する場合は、擬似基質を用いた活性測定法により評価することができる。
【0017】
図1は、歯肉粘膜上皮等価物と、評価対象細胞とを用いることを特徴とする、物質の粘膜透過量の測定と透過した物質の有効性評価を同時に行うことができることを特徴とする経粘膜吸収評価装置である。
本経粘膜吸収評価装置は、歯肉粘膜上皮等価物3を支持するバスケット2を収容するウェル1を含む。ウェル1が配置されるバスケット2は、ウェル1を着脱可能に固定できてもよい。バスケット2は歯肉粘膜上皮等価物3を支持する底壁7を含む。底壁7は貫通穴8を有する。また、バスケット2に、底膜7を固定するためのインサート9を有するものもある。バスケットという用語は制限的な意味で使用するものではなく、ウェル1内に配置された任意の支持体を含む。
【0018】
ウェル1は、複数(例えば12個)のウェルを有するプレートの一部を固定することができる。ウェル2には、溶液5(例えば、培地など)が充填されている。
歯肉粘膜上皮等価物3は、例えば前述の培養粘膜などである。
評価対象細胞4は、前述の線維芽細胞である。
評価対象となる物質6は、例えば口腔化粧品、医薬部外品及び/又は医薬品に利用できる成分、それを含む溶液、溶解又は分散物、乳化製剤、また、化粧品、オーラルケア製品、医薬品製剤などである。
歯肉粘膜上皮等価物は、例えば、0.2〜5cmの範囲の面積を有する。
【0019】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
リン酸L−アスコルビルマグネシウムを含有する溶液による、経粘膜吸収性を加味した線維芽細胞のI型コラーゲン産生作用
1.試験の概要
リン酸L−アスコルビルマグネシウム(以下、VCPMg)溶液適用後のVCPMgの歯肉粘膜上皮等価物に対する累積透過量及び組織中量、線維芽細胞共培養における透過VCPMgによるI型コラーゲン産生量を、それぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定法及びELISA法にて測定した。
【0021】
2.実験方法
経粘膜吸収試験の前日に線維芽細胞を播種し、SkinEthicTM HGE(SkinEthic社製、歯肉粘膜上皮等価物)をプレインキュベーションした。試験当日SkinEthicTM HGEと線維芽細胞を細胞維持培地で共培養し、試料を適用した。図2は、経粘膜吸収試験のセッティングである(歯肉粘膜等価物3はSkinEthicTM HGE、評価対象細胞4は線維芽細胞、評価対象となる物質6はVCPMg溶液)。VCPMg溶液適用後、48時間までインキュベーションし、経時的にVCPMg累積透過量をHPLCにて測定した。また、48時間後にSkinEthicTM HGEをホモジナイズし、VCPMgの歯肉粘膜上皮における組織中量をHPLCにて測定した。また、共培養した培地を採取し、培養液中のI型コラーゲン産生量をELISA法にて測定した。コントロールとして、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた。
【0022】
3.結果
VCPMgのSkinEthicTM HGE累積透過量を表1に、48時間後の組織中量を表2に、共培養によるI型コラーゲン産生量を表3に示した。VCPMg累積透過量は、適用した濃度および時間依存的に増加した。48時間後のVCPMg組織中量および共培養培地中のコラーゲン産生量は、VCPMgの濃度依存的に増加した。
本結果より、本経粘膜吸収評価装置は、物質の粘膜透過量及び透過した物質が評価対象細胞である線維芽細胞に作用してI型コラーゲン産生量を増加する効果を同時にかつ簡便に評価できることが明らかとなった。

【表1】

【表2】

【表3】
【実施例2】
【0023】
グリチルリチン酸2カリウムを含有する溶液による、経粘膜吸収性を加味したサイトカイン産生抑制作用
1.試験の概要
ドデシル硫酸ナトリウム(以下、SDS)による炎症惹起処理した歯肉粘膜上皮等価物を用いた、グリチルリチン酸2カリウム(以下、GK2)溶液適用後のGK2の歯肉粘膜上皮等価物に対する累積透過量及び組織中量、線維芽細胞共培養における透過GK2によるインターロイキン−1アルファ(IL−1α)産生量を、それぞれ高速液体クロマトグラフィー(HPLC)測定法及びELISA法にて測定した。
【0024】
2.実験方法
経粘膜吸収試験の前日に線維芽細胞を播種し、SkinEthicTM HGE(SkinEthic社製、歯肉粘膜上皮等価物)をプレインキュベーションした。試験当日SkinEthicTM HGEにSDSを1時間適用することで炎症を惹起した。その後SkinEthicTM HGEと線維芽細胞を細胞維持培地で共培養し、試料を適用した。図2は、経粘膜吸収試験のセッティングである(歯肉粘膜等価物3はSkinEthicTM HGE、評価対象細胞4は線維芽細胞、評価対象となる物質6はGK2溶液)。GK2溶液適用後、24時間までインキュベーションし、経時的にGK2累積透過量をHPLCにて測定した。また、24時間後にSkinEthicTM HGEをホモジナイズし、GK2の歯肉粘膜上皮における組織中量をHPLCにて測定した。また、共培養した培地を採取し、培養液中のIL−1α産生量をELISA法にて測定した。コントロールとして、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いた。
【0025】
3.結果
GK2のSkinEthicTM HGE累積透過量を表4に、24時間後の組織中量を表5に、IL−1α産生量を表6に示した。GK2累積透過量は、適用した濃度および時間依存的に増加した。24時間後のGK2組織中量は適用した濃度依存的に増加した。SDSによる炎症惹起で増加した共培養培地中のIL−1α産生量は、GK2の濃度依存的に減少した。
本結果より、本経粘膜吸収評価装置は、物質の粘膜透過量及び透過した物質が評価対象細胞に作用してIL−1α産生量を指標とした抗炎症作用を同時にかつ簡便に評価できることが明らかとなった。

【表4】

【表5】

【表6】
【符号の説明】
【0026】
1 ウェル
2 バスケット
3 歯肉粘膜上皮等価物
4 評価対象細胞
5 溶液
6 物質
7 底壁
8 貫通穴
9 インサート
図1
図2