【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人科学技術振興機構、「ナノシートから構築する高機能ナノ構造体」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】基材と、該基材に結合した酸化グラフェンをスペーサとして、該酸化グラフェンに結合したシクロデキストリンとを備えるエンドトキシン吸着剤。シクロデキストリンがγ−シクロデキストリンであり、基材が球状粒子のセルロースである。該吸着剤は、陰イオン交換容量が、0.5meq/g以下である。
基材と酸化グラフェンとを結合させる工程、および前記工程で得られた基材と酸化グラフェンとの結合体とシクロデキストリンとを結合させる工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンドトキシン吸着剤の製造法。
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンドトキシン吸着剤と、エンドトキシンを含有する液体とを接触させることを含む、エンドトキシンの除去された液体の製造方法。
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンドトキシン吸着剤と、目的物質およびエンドトキシンを含有する液体とを接触させることを含む、エンドトキシンを除去する方法。
請求項1〜6のいずれか1項に記載のエンドトキシン吸着剤と、目的物質およびエンドトキシンを含有する液体とを接触させることを含む、エンドトキシンの除去された目的物質を含有する液体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<1>本発明のエンドトキシン吸着剤
本発明のエンドトキシン吸着剤(ET吸着剤)は、基材と、該基材に結合した酸化グラフェン(graphene oxide;GO)と、該酸化グラフェンに結合したシクロデキストリン(cyclodextrin;CyD)とを備える、ET吸着剤である。本発明において、基材、GO、およびCyDを総称して、「部材」という場合がある。
【0011】
<1−1>基材
基材は、GOと結合してET吸着剤を構成できるものであれば、特に制限されない。基材としては、例えば、クロマトグラフィー用の担体等の、物質の分離に用いられる一般的な基材を使用することができる。基材の態様、例えば、材質、形状、サイズ等は、いずれも、本発明のET吸着剤の使用態様等の諸条件に応じて適宜設定できる。
【0012】
基材としては、例えば、セルロース、アガロース、デンプン、アミロース、デキストラン、プルラン、グルコマンナン、キチン、キトサン等の多糖類;ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ナイロン、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等の合成高分子;ガラス、多孔質ガラス、シリカゲル、ヒドロキシアパタイト等の無機材料;およびそれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、官能基が導入(置換)された基材が挙げられる。導入される官能基の種類は、所望のET吸着能が得られる限り、特に制限されない。官能基としては、例えば、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、リン酸基、硫酸基、ホルミル基、アセチル基、水素、ハロゲンが挙げられる。アルキル基としては、例えば、炭素数1〜10、1〜7、1〜5、または1〜3のアルキル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖であってもよく、分岐を有していてもよい。アルコキシ基としては、例えば、炭素数1〜10、1〜7、1〜5、または1〜3のアルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、直鎖であってもよく、分岐を有していてもよい。アルキル基やアルコキシ基の水素は、さらに、それぞれ独立に、その他の官能基、例えば上記例示したような官能基、に置換されていてもよい。ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。基材の材質としては、例えば、本発明のET吸着剤で処理する試料に対して不溶性のものを選択することができる。
【0013】
基材は、GOとの結合用の官能基を有していてよい。GOとの結合用の官能基は、基材が本来的に有するものであってもよく、基材に導入されたものであってもよい。すなわち、基材は、適宜、GOとの結合用の官能基を導入して利用することができる。GOとの結合用の官能基は、GOとの結合に利用できるものであれば特に制限されない。GOとの結合用の官能基としては、例えば、アミノ基が挙げられる。本発明において、「基材」という用語には、特記しない限り、修飾されていない基材に限られず、GOとの結合用の官能基が導入された基材も包含される。すなわち、例えば、「セルロース」という用語には、特記しない限り、修飾されていないセルロースに限られず、アミノ基が導入されたセルロース等の、GOとの結合用の官能基が導入されたセルロースも包含される。なお、基材が有する官能基をGOとの結合に利用した場合、当該官能基の一部または全部は、GOとの結合を形成する。よって、基材が有する官能基をGOとの結合に利用した場合、当該官能基は、GOとの結合後の基材において、残存していてもよく、残存していなくてもよい。本発明において、「基材が官能基を有する」とは、当該官能基をGOとの結合に利用する場合には、特記しない限り、GOとの結合前の基材が当該官能基を有することをいい、GOとの結合後の基材が当該官能基を有するか否かは問わない。
【0014】
基材に官能基を導入する手法は、特に制限されない。基材に官能基を導入する手法は、官能基の種類や基材の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。例えば、基材がセルロース等の水酸基を有する基材である場合、当該水酸基にアミノ基を導入することができる。水酸基へのアミノ基の導入は、常法により行うことができる。例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、p−トルエンスルホン酸クロリド、2−フルオロ−1−
メチルピリジニウム等の活性化剤により基材の水酸基を活性化し、次いで、アンモニアや多価アミン等のアミノ基供与体と反応させることにより、基材の水酸基にアミノ基を導入できる。また、アミノ基をセルロースに導入する手法としては、メタクリル酸グリシジルやアクリル酸グリシジル等のエポキシ基供与体をグラフト反応によりセルロースに導入し、次いでそのエポキシ基にアンモニアや多価アミン等のアミノ基供与体を反応させる方法も挙げられる。
【0015】
基材が塩を形成し得る官能基を有する場合、基材は塩を形成していてもよい。本発明において、「基材」という用語には、特記しない限り、フリー体の基材に限られず、基材の塩も包含される。
【0016】
基材の形状としては、例えば、粒子、繊維、中空糸、チューブ、シート、膜、モノリスカラム等の形状が挙げられる。粒子としては、例えば、球状粒子が挙げられる。膜としては、例えば、平膜、チューブラー膜、中空糸膜が挙げられる。これらの中では、例えば、球状粒子等の粒子が好ましい。球状粒子等の粒子状基材を利用することで、特に、ET吸着剤の比表面積を制御でき、また、バッチ法やカラム法に好適に利用できるET吸着剤が得られる。基材が粒子状基材である場合、その平均粒径は、例えば、1μm以上、5μm以上、10μm以上、20μm以上、30μm以上、40μm以上、または50μm以上であってよく、1000μm以下、500μm以下、300μm以下、200μm以下、150μm以下、または100μm以下であってよい。基材が粒子状基材である場合、その平均粒径は、例えば、20μm〜200μm、または50μm〜100μmであってもよい。本発明において、「平均粒径」とは、レーザ回折・散乱法によって得られた粒度分布における積算値50%での粒径をいう。平均粒径は、具体的には、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0017】
本発明においては、1種の基材を用いてもよく、2種またはそれ以上の基材を用いてもよい。
【0018】
基材としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。基材の製造方法は特に制限されない。基材は、例えば、公知の方法により製造することができる。市販の基材として、具体的には、例えば、球状セルロース粒子であるセルファイン(JNC株式会社)が挙げられる。
【0019】
<1−2>酸化グラフェン
「酸化グラフェン(graphene oxide;GO)」とは、グラフェンの酸化物であり、具体的には、グラフェンに酸素含有基が導入された構造を有する化合物である。「グラフェン」とは、グラファイトを構成する炭素の層として知られる、sp
2結合炭素原子のシート
である。すなわち、「GO」とは、具体的には、sp
2結合炭素原子のシートに酸素含有
基が導入された構造を有する化合物である。酸素含有基としては、例えば、水酸基、エポキシ基、カルボニル基、カルボキシル基が挙げられる。GOにおける酸素含有基の含有量は、特に制限されない。GOは、単層のGOのシートからなるもの(単層GO)であってもよく、2層またはそれ以上のGOのシートが積層してなるもの(多層GO)であってもよく、それらの混合物であってもよい。「2層またはそれ以上」とは、例えば、2〜50層、2〜20層、2〜10層、2〜5層、または2〜3層であってよい。GOは、例えば、単層GOを主成分とするGOの混合物であってよい。「単層GOを主成分とする」とは、例えば、GOの混合物中の単層GOの比率が、50%w/w以上、70%w/w以上、80%w/w以上、90%w/w以上、95%w/w以上、または99%w/w以上であることであってよい。GOの比表面積は、特に制限されないが、例えば、100m
2/g
以上、500m
2/g以上、1000m
2/g以上、1500m
2/g以上、2000m
2/g以上、または2500m
2/g以上であってよい。
【0020】
GOは、基材との結合用の官能基を有していてよい。基材との結合用の官能基は、GOが本来的に有するものであってもよく、GOに導入されたものであってもよい。すなわち、GOは、適宜、基材との結合用の官能基を導入して利用することができる。GOは、そのままでも、例えばGOが本来的に有するカルボキシル基を利用して、基材と結合させることができるが、適宜、基材との結合用の官能基を導入して基材と結合させてもよい。基材との結合用の官能基は、基材との結合に利用できるものであれば特に制限されない。基材との結合用の官能基としては、例えば、カルボキシル基が挙げられる。本発明において、「GO」という用語には、特記しない限り、修飾されていないGOに限られず、基材との結合用の官能基が導入されたGOも包含される。なお、GOが有する官能基を基材との結合に利用した場合、当該官能基の一部または全部は、基材との結合を形成する。よって、GOが有する官能基を基材との結合に利用した場合、当該官能基は、基材との結合後のGOにおいて、残存していてもよく、残存していなくてもよい。本発明において、「GOが官能基を有する」とは、当該官能基を基材との結合に利用する場合には、特記しない限り、基材との結合前のGOが当該官能基を有することをいい、基材との結合後のGOが当該官能基を有するか否かは問わない。
【0021】
GOは、CyDとの結合用の官能基を有していてよい。CyDとの結合用の官能基は、本来的にGOが有するものであってもよく、GOに導入されたものであってもよい。すなわち、GOは、適宜、CyDとの結合用の官能基を導入して利用することができる。GOは、そのままでもCyDと結合させることができるが、適宜、CyDとの結合用の官能基を導入してCyDと結合させてもよい。CyDとの結合用の官能基は、CyDとの結合に利用できるものであれば特に制限されない。本発明において、「GO」という用語には、特記しない限り、修飾されていないGOに限られず、CyDとの結合用の官能基が導入されたGOも包含される。なお、GOが有する官能基をCyDとの結合に利用した場合、当該官能基の一部または全部は、CyDとの結合を形成する。よって、GOが有する官能基をCyDとの結合に利用した場合、当該官能基は、CyDとの結合後のGOにおいて、残存していてもよく、残存していなくてもよい。本発明において、「GOが官能基を有する」とは、当該官能基をCyDとの結合に利用する場合には、特記しない限り、CyDとの結合前のGOが当該官能基を有することをいい、CyDとの結合後のGOが当該官能基を有するか否かは問わない。
【0022】
GOに官能基を導入する手法は、特に制限されない。GOに官能基を導入する手法は、官能基の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。官能基は、例えば、酸素含有基に導入されてもよく、グラフェン構造を維持した領域(SP
2結合を維持した領域)に導入され
てもよく、それらの組み合わせに導入されてもよい。
【0023】
GOが塩を形成し得る官能基を有する場合、GOは塩を形成していてもよい。本発明において、「GO」という用語には、特記しない限り、フリー体のGOに限られず、GOの塩も包含される。
【0024】
本発明においては、1種のGOを用いてもよく、2種またはそれ以上のGOを用いてもよい。
【0025】
GOとしては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。GOの製造方法は特に制限されない。GOは、例えば、公知の方法により製造することができる。GOは、具体的には、例えば、Hummers法(W. S. Hummers, Jr. and R.E. Offeman: J. Am. Chem. Soc. 80 (1958) 1339.)により製造することができる。Hummers法によりGOを製造する具体的な手順については、例えば、実施例の記載を参照することができる。
【0026】
<1−3>シクロデキストリン
「シクロデキストリン(cyclodextrin;CyD)」とは、複数分子のD−グルコースがα−1,4グリコシド結合により結合した環状構造を有する化合物である。CyDは、その空洞に種々の有機分子を包接することが知られている。CyDとしては、例えば、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが挙げられる。それぞれの特徴を表1に示す。表中、「グルコース単位」とは、CyD1分子を形成するグルコース分子の個数、すなわちCyDの環状構造を形成するグルコース分子の個数、をいう。これらの中では、特に、γ−シクロデキストリンが好ましい。
【0028】
CyDは、GOとの結合用の官能基を有していてよい。GOとの結合用の官能基は、CyDが本来的に有するものであってもよく、CyDに導入されたものであってもよい。すなわち、CyDは、適宜、GOとの結合用の官能基を導入して利用することができる。CyDは、そのままでもGOと結合させることができるが、適宜、GOとの結合用の官能基を導入してGOと結合させてもよい。GOとの結合用の官能基は、GOとの結合に利用できるものであれば特に制限されない。本発明において、「CyD」という用語には、特記しない限り、修飾されていないCyDに限られず、GOとの結合用の官能基が導入されたCyDも包含される。なお、CyDが有する官能基をGOとの結合に利用した場合、当該官能基の一部または全部は、GOとの結合を形成する。よって、CyDが有する官能基をGOとの結合に利用した場合、当該官能基は、GOとの結合後のCyDにおいて、残存していてもよく、残存していなくてもよい。本発明において、「CyDが官能基を有する」とは、当該官能基をGOとの結合に利用する場合には、特記しない限り、GOとの結合前のCyDが当該官能基を有することをいい、GOとの結合後のCyDが当該官能基を有するか否かは問わない。
【0029】
CyDに官能基を導入する手法は、特に制限されない。CyDに官能基を導入する手法は、官能基の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
【0030】
CyDが塩を形成し得る官能基を有する場合、CyDは塩を形成していてもよい。本発明において、「CyD」という用語には、特記しない限り、フリー体のCyDに限られず、CyDの塩も包含される。
【0031】
本発明においては、1種のCyDを用いてもよく、2種またはそれ以上のCyDを用いてもよい。
【0032】
CyDとしては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。CyDの製造方法は特に制限されない。CyDは、例えば、公知の方法により製造することができる。
【0033】
<1−4>本発明のET吸着剤
本発明のET吸着剤においては、基材とGOとが結合し、且つ、GOとCyDとが結合
している。言い換えると、本発明のET吸着剤においては、GOを介して、基材とCyDとが結合している。
【0034】
基材とGOとの結合態様は特に制限されない。基材とGOとの結合態様は、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。基材とGOとの結合態様は、共有結合であるのが好ましい。共有結合としては、例えば、アミド結合やエステル結合が挙げられる。
【0035】
GOとCyDとの結合態様は特に制限されない。GOとCyDとの結合態様は、共有結合であってもよく、非共有結合であってもよい。
【0036】
本発明のET吸着剤における各部材の量比は、所望のET吸着能が得られる限り、特に制限されない。本発明のET吸着剤における基材の量比は、例えば、40%w/w以上、60%w/w以上、70%w/w以上、または80%w/w以上であってよく、90%w/w以下、80%w/w以下、または70%w/w以下であってよい。また、本発明のET吸着剤におけるGOの量比は、例えば、1%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、または15%w/w以上であってよく、30%w/w以下、20%w/w以下、または10%w/w以下であってよい。また、本発明のET吸着剤におけるCyDの量比は、例えば、1%w/w以上、5%w/w以上、10%w/w以上、または15%w/w以上であってよく、30%w/w以下、20%w/w以下、または10%w/w以下であってよい。本発明のET吸着剤におけるCyDの量比が大きい程、ET吸着能が向上すると期待される。よって、本発明のET吸着剤におけるCyDの量比は、通常、大きいのが好ましい。
【0037】
本発明のET吸着剤は、陰イオン交換基を有していてもよく、有していなくともよい。陰イオン交換基としては、カルボキシル基等の酸性基が挙げられる。陰イオン交換基は、本発明のET吸着剤を構成する部材が本来的に有するものであってもよく、本発明のET吸着剤を構成する部材に導入されたものであってもよい。本発明のET吸着剤が有する陰イオン交換基の量は、特に制限されないが、例えば、本発明のET吸着剤で処理する試料中に酸性物質等のマイナスチャージを有する物質が存在する場合に当該マイナスチャージを有する物質の非特定的吸着を低減する観点から、少ないのが好ましい場合があり得る。本発明のET吸着剤の陰イオン交換基の量は、陰イオン交換容量(AEC)として、例えば、1meq/g以下、0.7meq/g以下、0.5meq/g以下、0.3meq/g以下、0.1meq/g以下、または0.05meq/g以下であってよい。
【0038】
本発明のET吸着剤は、陽イオン交換基を有していてもよく、有していなくともよい。陽イオン交換基としては、アミノ基等の塩基性基が挙げられる。陽イオン交換基は、本発明のET吸着剤を構成する部材が本来的に有するものであってもよく、本発明のET吸着剤を構成する部材に導入されたものであってもよい。本発明のET吸着剤が有する陽イオン交換基の量は、特に制限されないが、例えば、本発明のET吸着剤で処理する試料中に塩基性物質等のプラスチャージを有する物質が存在する場合に当該プラスチャージを有する物質の非特定的吸着を低減する観点から、少ないのが好ましい場合があり得る。本発明のET吸着剤の陽イオン交換基の量は、陽イオン交換容量(CEC)として、例えば、1meq/g以下、0.7meq/g以下、0.5meq/g以下、0.3meq/g以下、0.1meq/g以下、または0.05meq/g以下であってよい。
【0039】
イオン交換容量は、pH滴定法により定量できる。pH滴定法によりイオン交換容量を定量する具体的な手順については、例えば、実施例の記載を参照することができる。
【0040】
本発明のET吸着剤がイオン交換基を有する場合、イオン交換基は、フリーの状態(塩を形成していない状態)であってもよく、塩を形成していてもよい。塩としては、例えば
、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、塩酸塩、硫酸塩が挙げられる。
【0041】
<2>本発明のET吸着剤の製造法
本発明のET吸着剤の製造法は特に制限されない。本発明のET吸着剤は、例えば、各部材を結合させることにより製造できる。すなわち、本発明のET吸着剤の製造法は、例えば、基材とGOとを結合させる工程、およびGOとCyDとを結合させる工程を含む、ET吸着剤の製造法である。本発明のET吸着剤を製造する際の各部材の結合工程の順番は、最終的に各部材が結合して本発明のET吸着剤が形成される限り、特に制限されない。各部材の結合工程は、それぞれ別個に実施してもよく、一部または全部を同時に実施してもよい。なお、「基材とGOとを結合させる」ことには、GOとCyDとを先に結合させた場合にあっては、GOとCyDとの結合体(GO−CyD結合体)中のGO部位と基材とを結合させることも包含される。また、「GOとCyDとを結合させる」ことには、基材とGOとを先に結合させた場合にあっては、基材とGOとの結合体(基材−GO結合体)中のGO部位とCyDとを結合させることも包含される。
【0042】
本発明のET吸着剤は、例えば、基材とGOとを結合させ、得られた基材−GO結合体とCyDとをさらに結合させることにより、製造できる。すなわち、本発明のET吸着剤の製造法の一態様は、基材とGOとを結合させる工程、および前記工程で得られた基材−GO結合体とCyDとを結合させる工程を含む、ET吸着剤の製造法である。この場合、CyDは、基材−GO結合体中のGO部位と結合すればよい。
【0043】
各部材は、上記例示したような所望の結合態様で結合させることができる。以下、基材とGOとを結合させ、得られた基材−GO結合体とCyDとをさらに結合させる場合について説明するが、それらの説明は、結合工程の順番を変えた場合にも準用できる。
【0044】
基材とGOとを結合させる手法は、特に制限されない。基材とGOとを結合させる手法は、基材が有する官能基の種類やGOが有する官能基の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。基材とGOとは、例えば、基材が有する官能基とGOが有するカルボキシル基等の酸素含有基を利用して、結合させることができる。具体的には、例えば、基材がアミノ基を有する場合、活性化エステル法により、基材のアミノ基とGOのカルボキシル基とでアミド結合を形成させ、以て、基材とGOとを結合させることができる。
【0045】
活性化エステル法は、常法に従って実施することができる。すなわち、具体的には、GOのカルボキシル基を活性化剤と縮合剤で活性化し、次いで、活性化されたGOとアミノ基を有する基材を縮合させることにより、基材−GO結合体が得られる。活性化エステル法における活性化および縮合は、適当な液体媒体中で実施することができる。液体媒体としては、例えば、水、水性緩衝液、有機溶媒が挙げられる。活性化剤としては、例えば、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)やN−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸イミド(HONB)等のN−ヒドロキシ多価カルボン酸イミド類;1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等のN−ヒドロキシトリアゾール類;3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOOBt)等のN−ヒドロキシトリアジン類;2−ヒドロキシイミノ−2−シアノ酢酸エチルエステル;ペンタフルオロフェノールが挙げられる。縮合剤としては、例えば、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)等のカルボジイミド系縮合剤が挙げられる。活性化剤と縮合剤の組み合わせは、特に制限されない。活性化剤と縮合剤の組み合わせとして、具体的には、例えば、NHSとEDC・HClの組み合わせが挙げられる。
【0046】
基材とGOの使用量は、所望のET吸着能が得られる限り、特に制限されない。基材とGOの使用量は、本発明のET吸着剤における各部材の量比や各部材の結合手法等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、基材1gに対して、GOを0.01g以上、0.02g以上、0.05g以上、0.1g以上、0.2g以上、または0.5g以上反応させてもよく、5g以下、2g以下、または1g以下反応させてもよい。また、例えば、GOを基材のアミノ基等の陰イオン交換基に結合させる場合、0.1meq/g以上、0.2meq/g以上、0.3meq/g以上、0.5meq/g以上、または1meq/g以上の当該陰イオン交換基がGOと結合してもよく、10meq/g以下、5meq/g以下、3meq/g以下、または2meq/g以下の当該陰イオン交換基がGOと結合してもよい。
【0047】
基材とGOが結合したことは、物質の構造を同定する適当な手法により確認できる。例えば、アミド結合により基材とGOとを結合させた場合、基材とGOが結合したことは、アミド結合をNMR等の適当な手法で検出することにより確認できる。また、基材とGOが結合したことは、例えば、基材表層へのGOの付加を電子顕微鏡等の適当な手法で視覚的に確認することにより確認できる。
【0048】
基材−GO結合体とCyDとを結合させる手法は、特に制限されない。基材−GO結合体とCyDとを結合させる手法は、GOが有する官能基の種類やCyDが有する官能基の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。基材−GO結合体とCyDとは、例えば、アルカリ条件下でそれらを接触させることにより結合させることができる。アルカリ条件としては、アンモニア水中が挙げられる。
【0049】
基材−GO結合体とCyDの使用量は、所望のET吸着能が得られる限り、特に制限されない。基材−GO結合体とCyDの使用量は、本発明のET吸着剤における各部材の量比や各部材の結合手法等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、基材−GO結合体1gに対して、CyDを、0.05g以上、0.1g以上、0.2g以上、0.5g以上、1g以上、2g以上、5g以上、10g以上、または20g以上反応させてもよく、100g以下、50g以下、または30g以下反応させてもよい。
【0050】
基材−GO結合体とCyDが結合したことは、物質の構造を同定する適当な手法により確認できる。また、基材−GO結合体とCyDが結合したことは、基材−GO結合体と比較して、ET吸着能が向上したことを確認することにより確認できる。
【0051】
得られた本発明のET吸着剤は、適宜ETフリー化して利用することができる。ETフリー化は常法により行うことができる。具体的には、ETフリー化は、例えば、適当な洗浄液を用いて本発明のET吸着剤を1回または複数回洗浄することにより行うことができる。洗浄液としては、特に制限されないが、例えば、NaOH水溶液やNaOHエタノール溶液が挙げられる。洗浄後、遠心や濾過等の適当な固液分離手段により、本発明のET吸着剤と洗浄液とを分離することができる。
【0052】
本発明のET吸着剤は、そのまま、あるいは、適宜、加工等の処理をして提供されてよい。例えば、本発明のET吸着剤は、本発明のET除去方法に好適に利用できる形態で提供されてよい。例えば、本発明のET吸着剤が粒子状や膜状等のカラムに充填するのに適した形状である場合、本発明のET吸着剤をカラムに充填して用いることができる。すなわち、本発明のET吸着剤は、例えば、カラムに充填され、ET除去用のカラムとして提供されてもよい。すなわち、本発明は、本発明のET吸着剤が充填されたET除去用のカラムを提供する。
【0053】
<3>本発明のET吸着剤の利用
本発明のET吸着剤を利用して、ETを除去することができる。すなわち、本発明は、本発明のET吸着剤と、ETを含有する液体とを接触させることを含む、ETを除去する方法を提供する。同方法を「本発明のET除去方法」ともいう。「ETを含有する液体」を「ET含有液」ともいう。本発明のET除去方法により、ETの除去された液体が得られる。すなわち、本発明のET除去方法は、本発明のET吸着剤と、ETを含有する液体とを接触させることを含む、ETの除去された液体の製造方法であってもよい。
【0054】
ET含有液は、ETを含有する液体であれば特に制限されない。ET含有液は、ETに加えて、さらに、ET以外の物質を含有していてもよい。液体としては、例えば、水、水溶液等の溶液、水性懸濁液等の懸濁液が挙げられる。水としては、例えば、注射用水等の医療用水が挙げられる。
【0055】
本発明の一態様においては、ET含有液がETとET以外の物質とを含有する場合に、ET含有液からETを選択的に除去すること、すなわちETとET以外の物質とを分離すること、ができる。ETと分離されるべき「ET以外の物質」を「目的物質」ともいう。すなわち、本発明のET除去方法の一態様は、本発明のET吸着剤と、目的物質およびETを含有する液体とを接触させることを含む、ETを除去する方法である。本発明のET除去方法の一態様により、ETの除去された目的物質を含有する液体が得られる。すなわち、本発明のET除去方法の一態様は、本発明のET吸着剤と、目的物質およびETを含有する液体とを接触させることを含む、ETの除去された目的物質を含有する液体の製造方法であってもよい。また、本発明のET除去方法の一態様により得られたETの除去された目的物質を含有する液体から目的物質を回収することで、ETの除去された目的物質が得られる。すなわち、本発明のET除去方法の一態様は、本発明のET吸着剤と、目的物質およびETを含有する液体とを接触させること、および目的物質を回収することを含む、ETの除去された目的物質の製造方法であってもよい。
【0056】
ET含有液は、例えば、本来的に目的物質およびETを含有するものであってもよく、ETに汚染された目的物質を液媒に溶解または懸濁することにより調製されたものであってもよい。ET含有液は、1種の目的物質を含有していてもよく、2種またはそれ以上の目的物質を含有していてもよい。
【0057】
目的物質は、特に制限されない。目的物質としては、例えば、マイナスチャージを示す物質が挙げられる。また、目的物質としては、例えば、注射用溶液等の医薬品に含まれる有効成分や、人口臓器や人口骨の原料となるポリマー材料等の医薬原料も挙げられる。
【0058】
「マイナスチャージを示す物質」とは、分子内に陰イオンになりやすい官能基を有する物質をいう。「陰イオンになりやすい官能基」とは、当該官能基を有する物質を含有する任意の液体中で陰イオンになりうる官能基をいう。具体的には、例えば、ET含有液中で陰イオンになりうる官能基は「陰イオンになりやすい官能基」である。すなわち、「マイナスチャージを示す物質」は、当該物質を含有する任意の液体中、例えばET含有液中、でマイナスチャージを示すものであってよい。「陰イオンになりやすい官能基」としては、例えば、カルボキシル基、硫酸基、リン酸基等の酸性基が挙げられる。すなわち、「マイナスチャージを示す物質」としては、例えば、酸性物質が挙げられる。「マイナスチャージを示す物質」としては、例えば、マイナスチャージを示す、タンパク質類、ペプチド類、ホルモン類、多糖類、核酸類、脂質類、ビタミン類、人工高分子が挙げられる。マイナスチャージを示すタンパク質やペプチドとしては、例えば、酸性アミノ酸残基を含むタンパク質やペプチドが挙げられる。酸性アミノ酸残基としては、グルタミン酸残基やアスパラギン酸残基が挙げられる。マイナスチャージを示す多糖類としては、例えば、カルボキシメチルセルロースや硫酸化セルロース等の多糖類のポリアニオン誘導体、およびヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸等のグルコサミノグリカンが挙げられる。核酸
はリン酸エステルが分子中に多く含まれている酸性物質であり、核酸としては、例えば、DNAやRNAが挙げられる。本発明のET除去方法においては、例えば、核酸の共存下で、ETを選択的に除去できるのが好ましい。マイナスチャージを示す人工高分子としては、例えば、ポリアクリル酸が挙げられる。これらの「マイナスチャージを示す物質」は、天然物、例えば生体由来物質であってもよく、人工的に改変または合成された物質であってもよい。
【0059】
本発明のET除去方法において、ET含有液は、本発明のET吸着剤との接触前に、適宜、前処理等の処理がなされてもよい。例えば、ET含有液は、希釈または濃縮してから、本発明のET吸着剤と接触させてもよい。ET含有液のpHは、調整されてもよく、調整されなくてもよい。ET含有液のpHは、ETが除去される限り、特に制限されない。ET含有液のpHは、例えば、3〜10、好ましくは4〜9、より好ましくは4〜6であってよい。ET含有液のpHは、例えば、目的物質の各pHにおける安定性を考慮して調整されてもよい。pHの調整は、例えば、緩衝液を用いて行うことができる。緩衝液の種類は特に制限されず、所望のpH等の諸条件に応じて適宜選択することができる。また、ET含有液のイオン強度は、調整されてもよく、調整されなくてもよい。ET含有液のイオン強度は、ETが除去される限り、特に制限されない。
【0060】
本発明のET吸着剤は、そのまま、あるいは、適宜、加工等の処理をして用いてよい。例えば、本発明のET吸着剤が粒子状や膜状等のカラムに充填するのに適した形状である場合、本発明のET吸着剤をカラムに充填して用いることができる。
【0061】
本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させる手段は、特に制限されない。本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させる手段は、本発明のET吸着剤の態様やET含有液の態様等の諸条件に応じて適宜選択できる。本発明のET吸着剤とET含有液との接触は、例えば、固体担体で液体試料を処理する公知の手段を参照して行うことができる。
【0062】
本発明のET吸着剤とET含有液との接触は、例えば、バッチ法により行うことができる。「バッチ法」とは、適当な容器内で本発明のET吸着剤とET含有液とを混合することにより、本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させる手法である。すなわち、例えば、ET含有液に本発明のET吸着剤を投入することにより、本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させることができる。本発明のET吸着剤にETを吸着させた後で混合物から本発明のET吸着剤を取り除くことで、ETの除去された液体が得られる。
【0063】
また、本発明のET吸着剤とET含有液との接触は、例えば、流動的分離法により行うことができる。「流動的分離法」とは、本発明のET吸着剤にET含有液を通液することにより、本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させる手法である。すなわち、例えば、本発明のET吸着剤をカラムに充填して用いる場合には、本発明のET吸着剤が充填されたカラムにET含有液を通液することにより、本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させることができる(カラム法)。また、例えば、本発明のET吸着剤がフィルターとして構成されている場合は、当該フィルターにET含有液を通液することにより、本発明のET吸着剤とET含有液とを接触させることができる。流動的分離法としては、例えば、液体クロマトグラフィー、メンブランクロマトグラフィー、モノリスクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー;中空糸膜、チューブラー膜、平膜、メンブランフィルター、ろ紙等を用いたろ過;固相抽出;吸着カラムを利用した体液等の浄化;等の方法が挙げられる。
【0064】
本発明のET除去方法において、処理速度、すなわち、バッチ法における本発明のET吸着剤とET含有液との接触時間や流動的分離法におけるET含有液の流速(通液速度)は、ETが除去される限り、特に制限されない。処理速度は、例えば、ET含有液におけ
るETの含有量や、目的物質の含有量や種類等の諸条件に応じて適宜設定することができる。また、本発明のET除去方法において、処理温度は、ETが除去される限り、特に制限されない。処理温度は、例えば、目的物質の種類等の諸条件に応じて適宜設定することができる。
【0065】
本発明のET除去方法によって、ET含有液中のETが除去される。ETの除去の程度は、処理後(本発明のET吸着剤との接触後)の液体中のET含有量が、処理前(本発明のET吸着剤との接触前)と比較して低下していれば特に制限されない。「ETが除去される」とは、例えば、処理後の液体中のET含有量が、処理前と比較して、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、または1%以下に低下することであってよい。また、「ETが除去される」とは、例えば、処理後の液体中のET含有量が、0.5EU/mL以下、0.2EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.02EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、0.002EU/mL以下、または0.001EU/mL以下になることであってもよい。本発明のET除去方法においては、特に、希薄なET含有液からETを除去できるのが好ましい。例えば、ET含有量が40EU/mL以下、30EU/mL以下、20EU/mL以下、または10EU/mL以下であるET含有液から、ET含有量が上記例示したような処理後の液体中のET含有量、例えば、0.1EU/mL以下、になるようにETが除去されてよい。また、ETと目的物質の分離を目的とする場合、処理後の液体中に目的物質を残存させる。目的物質の残存の程度は、処理後の液体中に目的物質が所望の量で残存していれば特に制限されない。目的物質は、実質的に除去されないのが好ましい。「目的物質が実質的に除去されない」とは、例えば、処理後の液体中の目的物質の含有量が、処理前と比較して、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上維持されることであってよい。
【0066】
ETが除去されたことは、処理後の液体中のETを定量することにより確認できる。ETの定量法としては、リムルス試薬を用いたリムルス試験が挙げられる。リムルス試験は、常法により行うことができる。リムルス試験は、例えば、比色法、比濁法、またはゲル化法により行うことができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
<1>酸化グラフェンの製造
Hummers法(W. S. Hummers, Jr. and R.E. Offeman: J. Am. Chem. Soc. 80 (1958) 1339.)に従い、酸化グラフェン(GO)を調製した。手順を以下に示す。
【0069】
<1−1>酸化グラファイトの製造
500 mlビーカーにグラファイト粉末2.066 g (0.172 mol) (和光純薬工業株式会社製)、硝酸ナトリウム2.058 g (0.0242 mol)、濃硫酸92 ml (1.64 mol)、撹拌子を入れ、氷浴中で30分攪拌した。これに過マンガン酸カリウム6.000 g (0.0380 mol)を、撹拌しながら、少しずつ加えた。時間が経過すると緑色へ変化した。ビーカーを35℃の水浴に移し、30分攪拌した。時間が経過すると黒色へ変化した。これに水92 mlをパスツールピペットで少
しずつ加えた。ビーカーを95℃の油浴に移し、20分攪拌した。時間が経過すると茶色へ変化した。これに水200 mlを加え、過酸化水素水2.0 mlを0.5 mlずつ添加した。これを1時
間冷却し、酸化グラファイトの懸濁液を得た。懸濁液を遠心分離した (250 ml遠心管×4
、3,000 rpm、10分)。上清を除去し、各遠心管に5%塩酸を100 ml加えて沈殿を洗浄し、遠心分離 (同上) を行った。これを3回繰り返した。上清を除去し、各遠心管に水を100 ml
加えて沈殿を洗浄し、遠心分離 (同上) を行った。これを3回繰り返した (ただし、2回目
は10,000 rpm、3回目は14,000 rpm、時間はどちらも10分)。上清を除去し、200 mlのビーカー2つに沈殿を移し、乾燥機で乾燥し (70℃、24時間)、乾燥した酸化グラファイトを得た。収量は1.371 g、収率は100×(1.371 g / 2.066 g) = 66.4 wt%であった。
【0070】
<1−2>酸化グラフェンの製造
サンプル管に乾燥した酸化グラファイト100 mgと水100 mlを加え、2時間超音波剥離を
行った。これを遠心分離にかけた (250 ml遠心管×4、10,000 rpm、30分)。上清を酸化グラフェン (GO) 溶液として回収した。これを繰り返し、317 ug/ml GO溶液400 mlを得た。この溶液を乾燥させ、酸化グラフェン (GO) を得た。
【0071】
<2>セルロース粒子と酸化グラフェンとの結合
まず、セルロース粒子をクロロメチルオキシランで活性化してエチレンジアミンと反応させ、末端にアミノ基を有するセルロース粒子(Cell-EPOX-EDA)を調製した。次いで、
活性化エステル法により、Cell-EPOX-EDAとGOとをアミド結合させ、セルロース粒子とGO
との結合体(Cellulose-GO)を調製した。手順を以下に示す。
【0072】
<2−1>セルロース粒子のアミノ化
<2−1−1>セルロース粒子へのエポキシ基の導入
500 mlセパラブルフラスコに、湿潤状態のセルロース粒子40 g (Cellufine GC-15, 粒
径45-105μm, JNC株式会社製) と10 wt%水酸化ナトリウム水溶液100 mlを入れ、30℃水浴中で1時間撹拌した。これにクロロメチルオキシラン160 mlを加え、30℃で2時間撹拌した。反応物を、G3ガラスフィルター上でクロロメチルオキシランの臭いがなくなるまで超純水を用いて洗浄し、エポキシ活性化セルロース粒子(Cell-EPOX)を得た。Cell-EPOXのエポキシ基導入量を、チオ硫酸ナトリウムとの反応による水酸化物イオンの生成を指標として常法により決定したところ、542.61μmol/dry-gであった。
【0073】
<2−1−2>エポキシ活性化セルロース粒子へのアミノ基の導入
Cell-EPOXを500 mlセパラブルフラスコに入れ、20 %エチレンジアミン (EDA) 水溶液120 mlとメタノール40 mlを加え、45℃の水浴中で4時間攪拌した。反応物を、G3ガラスフィルター上で超純水を用いて溶液が中性付近になるまで十分に洗浄し、末端にアミノ基を有するセルロース粒子(Cell-EPOX-EDA)を得た。Cell-EPOX-EDAを、アミノ化セルロースまたはCellulose-NH
2という場合がある。Cell-EPOX-EDAをメタノールで分散し、Cell-EPOX-EDAのメタノール分散液を得た。また、Cell-EPOX-EDAは、エタノール等の他の分散媒に分散して保存および利用してもよい。
【0074】
<2−1−3>AEC測定
Cell-EPOX-EDAのアミノ基導入量を、アニオン交換容量 (Anion Exchange Capacity;AEC) として測定した。AECは、逆滴定法により測定した。手順を以下に示す。
【0075】
Cell-EPOX-EDAを24時間以上減圧乾燥し、精秤後三角フラスコに入れた。ファクター既
知の0.1 mol/l塩酸30 mlを加え、振とう機で2時間振とうした(200 rpm, 25℃)。ろ紙を用いてろ過し、ろ液20 mlを蒸留水で100 mlに希釈した。希釈溶液10 mlを別の三角フラスコにとり、ファクター既知の0.05 mol/l水酸化ナトリウムでフェノールフタレインを指示薬として滴定した。Cell-EPOX-EDAのAECは、下記式(I)によって算出すると、1.0 meq/dry-gであった。
AEC (meq/dry-g) = (0.1×f
HCl×30−0.05×f
NaOH×V×30/20)÷W ・・・(I)
f
HCl :使用した塩酸のファクター
f
NaOH :使用した水酸化ナトリウム水溶液のファクター
V :滴定量 (ml)
W :粒子の乾燥重量 (dry-g)
【0076】
<2−2>酸化グラフェンの活性化
バイアル管に<1−2>で得られた酸化グラフェン (GO) 50 mgとMESバッファー100 mlを加え、1時間超音波処理し、分散させた。分散溶液にN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)7 gと1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩8 gを加え、三角フラスコに入れて振とう機で1時間撹拌した(200 rpm, 25℃)。その後、20000 rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿をGOのNHS中間体(活性化GO)として回収した。これをあと4回繰り返し、活性化GOを得た。
【0077】
<2−3>アミノ化セルロースと活性化酸化グラフェンとの結合
三角フラスコに<2−2>で得られた活性化GO 50 mg、<2−1−2>で得られたCell-EPOX-EDA (湿潤状態 10 g;乾燥重量換算で約3.5 g) のメタノール分散液20 mL、およびMESバッファー50 mLを入れて、振とう機で3時間振とうした(200 rpm, 25℃)。その後、20000 rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿をセルロース粒子とGOとの結合体(Cellulose-GO)として回収した。これをあと4回繰り返し、Cellulose-GOを得た。得られたCellulose-GOを50 mLのMESバッファーで再分散させた。
【0078】
<2−4>セルロース粒子への酸化グラフェンの修飾の確認
<2−4−1>IR測定
IR測定により、セルロース粒子へのGOの修飾を確認した。Cellulose-GO粒子には、Cellulose-NH
2粒子(Cell-EPOX-EDA)とGOシートには確認されなかった、アミド結合由来のC=O伸縮振動(1636)とN-H伸縮振動(1545)の二股のピークが確認できた。これによりアミド結合によるセルロース粒子へのGOの修飾が確認できた。
【0079】
<2−4−2>FE−SEM観察
FE-SEMによる表面観察により、セルロース粒子へのGOの修飾を確認した。結果を
図1に示す。Cellulose-GO粒子には、Cellulose-NH
2粒子(Cell-EPOX-EDA)には見られなかった、ひだ状の構造が認められた。このひだ状の構造がGOシートであると考えられる。これによりセルロース粒子へのGOの修飾が確認できた。
【0080】
<2−4−3>AEC測定
Cellulose-GO粒子のAECを、<2−1−3>と同様の手順で算出した。その結果、Cellulose-GO粒子のAEC は、0.5 meq/dry-gであった。Cellulose-GO粒子のAEC は、GOの修飾前であるCellulose-NH
2粒子(Cell-EPOX-EDA)のAEC(1.0 meq/dry-g)の約半分であることから、Cellulose-NH
2粒子(Cell-EPOX-EDA)の約半分のアミノ基がGOのカルボキシル基と反応し、アミド結合を形成したと考えられる。
【0081】
<3>セルロース粒子とGOとの結合体とγ−シクロデキストリンとの結合
三角フラスコにγ−シクロデキストリン (γ-CyD) 1 gをイオン交換水100 mLで溶解さ
せた。その後、アンモニア水500μLと<2−3>で得られたCellulose-GO (湿潤状態 5 g;乾燥重量換算で200 mg) を加えて、振とう機で1時間撹拌した(200 rpm, 25℃)。撹拌後、吸引ろ過装置により、洗浄ろ過を行い、Cellulose-GOとγ-CyDとの結合体(Cellulose-GO-(γ-CyD))を得た。Cellulose-GO-(γ-CyD)およびその中間産物の構造の模式図を
図2に示す。
【0082】
<4>ET吸着能評価
上記<3>で得られたCellulose-GO-(γ-CyD)のET吸着能を測定し、比較例のET吸
着能と比較した。比較例としては、<2−3>で得られたCellulose-GO、並びに、既知のET吸着剤であるcellulose-polylysine(J. LIQ. CHROM. & REL. TECHNOL., 2002, 25(4): 601-614.)およびγ-CyD/HMDI(20/80) copolymer(Anal. Biochem., 2013, Dec 1; 44
3(1): 41-5.)を用いた。なお、cellulose-polylysineは、ポリ(ε−リジン)を固定化
したセルロース粒子である。また、γ-CyD/HMDI(20/80) copolymerは、γ-CyDとイソシアネート系架橋剤であるHMDIとを、モル比1:4で反応させて得られたポリマーである。手順を以下に示す。
【0083】
この実験において、ガラス器具は、250℃で4時間滅菌して用いた。また、シリンジ、メンブランフィルター、チップは、予めγ線照射滅菌してあるものを用いた。また、純水は、オートクレーブにて120℃で30分間滅菌して用いた。
【0084】
ET濃度の測定用に、市販のリムルス試薬(カブトガニ血球抽出物EU-II, 凍結乾燥品,
2 ml用, 和光純薬工業株式会社製)をTris-HCl緩衝液2 mlに溶解し、トキシノメーター
専用チューブに0.1 mlずつ分注し、使用時まで凍結保存した。
【0085】
各吸着剤をガラスフィルター上で0.2M NaOH in 95% EtOH 25 mlで5回洗浄した。洗浄後の吸着剤約0.1 wet-gと0.2M NaOH in 95% EtOH 2 mlを20 ml三角フラスコに入れ、インキュベーター内で25℃、200 rpmで1時間振とうした。次いで、吸着剤をガラスフィルター上で再び0.2M NaOH in 95% EtOH 25 mlで5回洗浄し、さらに、滅菌済みの純水でろ液が中性になるまで洗浄を繰り返した。20 ml三角フラスコに洗浄後の吸着剤0.1 wet-gを秤量し、それに30 EU/mLエンドトキシン(E coli 055:B5由来EVV Endotoxin, 和光純薬工業株式会社製)を含むリン酸緩衝液 (pH 6, イオン強度μ= 0.2) 2 mlを加え、インキュベーター
内で4℃、200 rpmで1時間振とうした。次いで、吸着剤を含む溶液をシリンジで吸い取り
、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液を大塚水 (LPSフリーの蒸留水;大塚製
薬株式会社製) で100倍希釈し、上記リムルス試薬の入ったトキシノメーター専用チュー
ブに0.1 mlずつ加え、ボルテックスでよく混合した。チューブをトキシノメーターに設置し、比濁時間法により、ET残存濃度を決定した。
【0086】
結果を表2に示す。Cellulose-GO-(γ-CyD)は、既知のET吸着剤であるcellulose-polylysineやγ-CyD/HMDI(20/80) copolymerと同様に、0.1 EU/mL未満にまでETを除去することができた。一方、γ-CyDが導入されていないCellulose-GOでも50%程度のET吸着率が認められ、GOとの疎水吸着および微量残存しているアミノ基とのイオン性吸着によりETが吸着される可能性が示唆された。Cellulose-GO-(γ-CyD)の高いET吸着能は、主に
、γ-CyDとの疎水吸着およびGOとの疎水吸着の相乗作用によると考えられる。
【0087】
【表2】