【課題】感度と解像度が高く、ダイナミックレンジが広く、堅牢性が高く、取扱いが容易で、簡易且つ簡便に製造することができる汎用性の高い2次元の放射線検出デバイスとして利用可能な材料としての熱蛍光体を提供すること。
上記熱蛍光層は、上記基材層上に無機化合物塗料を塗工した後、焼成してなり、上記無機化合物塗料の塗工量が該無機化合物塗料に含まれる無機化合物の量で0.001g/cm
【背景技術】
【0002】
放射線の検出は、人間の目では直接見ることができない放射線を可視化する技術であり、放射線線量計、放射線イメージング、放射線治療など科学分野、医療分野、工業分野等の幅広い分野で使用され、種々提案がなされている。
例えば、放射線の被ばく線量を計測のための線量計として、ガラス管に封入された熱蛍光体やペレット状の熱蛍光体を利用した熱蛍光個人被曝線量計などが使用されている。
また、例えば、特許文献1には、熱蛍光板状体を利用した線量計であって、かつ放射線の3次元線量分布を取得することができる放射線線量計として、母体としての四ホウ酸リチウムと、この母体中に存在するマンガン及びアルミニウム(III)とを含む熱蛍光板状体が、複数枚積層されて形成されているものが提案されている。
また、例えば、特許文献2には、放射線の3次元線量分布を取得することが可能である熱蛍光積層体として、四ホウ酸リチウム、酸化マンガン(IV)、及び酸化アルミニウムを含有するものが提案されている。
また、例えば、特許文献3には、放射線に対する相対感度の低下を抑制でき、局所被曝時の線量分布を精度良くかつ簡便に行える生体等価型熱蛍光体二次元素子として、LiFの単位重量に対し、バインダーとして耐熱性樹脂(例えば四フッ化エチレン−エチレン共重合樹脂)を5〜70重量%添加したものを主体としてシート形状に成型し、次いで260℃以下の温度で加熱硬化させるものが提案されている。
また、非特許文献1には、酸化アルミニウムを母体とし、C、Mg及びY、Si及びTi、Cr、Cr及びNi、Na及びTi、をドープした熱蛍光体が開示されている。
【0003】
また、熱蛍光体以外のものとして、例えば、特許文献4及び5には、光輝尽発光(photostimulated luminescence:PSL)を示すイメージングプレート(IP)を利用するオートラジオグラフィーの提案がされている。
また、例えば、特許文献6には、放射線の積算吸収線量を測定するに用いる平板状蛍光ガラス線量計として、ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量を測定する方法に用いる平板状蛍光ガラス線量計が提案されている。
また、例えば、特許文献7には、極めて軽量で、全方向から飛来する中性子に対する正確な評価が可能な積算型中性子線量当量測定器として、含水素有機高分子物質で形成された回転対称形状のボディ(ポリエチレンブロック)と、その表面から第1の所定深さ以上の深さ位置で、回転対称な同一深さ位置に3つ以上配設された、中性子との原子核反応により含水素有機高分子物質から放出される反跳陽子を検出する速中性子検出器と、前記ボディの表面から第2の所定深さ以内の深さ位置で、回転対称な同一深さ位置に3つ以上配設された、中性子との原子核反応によりα線またはγ線を放出する中性子変換材(例えばα線コンバータ)を有する熱中性子検出器と、を備えるものが提案されている。
また、例えば、特許文献8には、蛍光特性を大きく損なう事無く、又、ガンマ線補償用蛍光ガラス素子に対する影響を与える事無く、一般的に使われている熱ルミネセンス線量計と同等の熱中性子感度を持つ新たな蛍光ガラス線量計用ガラスとして、銀活性りん酸塩ガラスに、熱中性子・アルファ線変換剤を添加することにより、放射線照射後に紫外光励起をすると波長500〜800nm領域の蛍光を放出し、蛍光の時間特性が熱中性子・アルファ線変換剤の濃度に依存しないことを特徴とする熱中性子に有感な蛍光ガラス線量計用ガラスが提案されている。
また、上述の放射線治療等の用途においては、放射線治療装置の放射線照射位置、範囲、出力等の調整や治療計画の作成等にも放射線検出デバイスが用いられており、一般的には、放射線誘起架橋反応を利用して放射線の検出を行う、ガフクロミックフィルムが用いられている。
また、定位放射線照射などの高精度な放射線治療計画においては、従来、合成樹脂を含有する組織等価熱蛍光スラブが用いられている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
<全体構成>
本発明の積層型熱蛍光体は、基材層と該基材層の上に形成された熱蛍光層とからなる積層型熱蛍光体であって、
上記基材層は、セラミックス製であって、厚さが所定の厚さであり、
上記熱蛍光層は、上記基材層上に無機化合物塗料を塗工した後、基材との反応により焼結させる等焼成してセラミックス層としてなり、塗工量が所定量である。
以下、詳述する。
なお、以下、「熱蛍光」を「TL」と呼ぶこともある。
【0010】
<基材層>
上記基材層は、セラミックス製である。
これにより、本発明の積層型熱蛍光体の堅牢性が高くなり、取り扱いが容易になる。密度の異なる基材を利用すると目的の密度の熱蛍光板を作成することもできる。
【0011】
(セラミックス)
本明細書において、セラミックスとは、上記金属酸化物を主成分としてなる焼結体を意味し、このようなものとしては、例えば、多結晶体、非晶質ガラス、セラミック−ガラスなどが挙げられる。
【0012】
本発明の上記基材層を構成する上記セラミックスは上記金属酸化物をその主成分とする。
ここで、上記主成分とは、上記セラミックスがその全重量に対して50重量%以上含有することを意味し、好ましくは70重量%以上である。
上記金属酸化物は、セラミックスを形成するものであれば、特に制限されず、例えば、Li、Be、Na、Mg、Al、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、Fr、Ra、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lrなどの金属の酸化物を挙げることができ、これらの金属酸化物は単体または混合物を使用することができる。中でも、MgO・Al
2O
3・SiO
2(コージライト)、Al
2O
3であるのが、
熱蛍光特性の観点から好ましい。
また、上記基材層は、市販品を用いることができ、例えば、千葉セラミックス工業社の超軽量セラミックC-1やイソライト工業のイソプラトン軽量セッターなどを用いることができる。
【0013】
また、上記基材層における上記セラミックスは、発光中心成分を含有し、それ自体が熱蛍光を示してもよい。
本明細書において、上記発光中心成分とは、放射線を照射した熱蛍光体において励起され光を放出する成分をいう。
上記発光中心成分は、特に制限されず、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一つの金属元素を挙げることができる。
上記発光中心成分の含有割合は、セラミックス全体中1重量%未満であるのが好ましく、0.001重量%以上であるのが好ましい。
また、上記発光中心成分の含有形態は、原子やイオンとして配合されていても、酸化物など何らかの化合物として配合されていてもよい。
上記発光中心成分の配合の方法は、特に制限されず、例えば、上記セラミックスに固溶分散させる、上記セラミックスの表面のみに分散させる等により配合させることができる。
【0014】
(第3成分)
また、本発明においては上記基材層に本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々成分を添加することができる。
【0015】
(厚さ)
上記基材層の厚さは、0.1mm以上である。中でも、堅牢性の観点から、2〜3mmであるのが好ましい。
(形状・大きさなど)
上記基材層の大きさは、特に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、用途や目的に合わせて任意にすることができる。
本発明の上記基材層の形状は、特に制限されず、用途や目的に応じて任意の形状、密度にすることができるが、放射線計測に用いる場合、板状体であるのが好ましい。
【0016】
<熱蛍光層>
上記熱蛍光層は、熱蛍光特性を有するもので、上記基材層上に無機化合物塗料を塗工した後、所定の処理をしてなるものである。
以下、詳述する。
【0017】
(無機化合物塗料)
上記無機化合物塗料は、無機化合物と溶剤とを混合してなる塗料であり、無機化合物としては、例えば、4ホウ酸リチウム(Li
2B
4O
7)、3ホウ酸リチウム、7ホウ酸リチウムなどのリチウム含有無機化合物、カルシウム酸化物、ベリリウム酸化物などが挙げられ、使用に際しては単独または2種以上の混合物として用いることができる。中でも、実効原子番号が人体に近い、感度、解像度等の観点から、4ホウ酸リチウム、3ホウ酸リチウム、7ホウ酸リチウム、LiF,BeOを好ましく用いることができる。
また、溶媒としてはエタノール、水、等が挙げられる。
上記無機化合物塗料の粒径(平均粒子径)は、特に制限されないが、解像度、後述する塗工のしやすさ等の観点から、200μm未満であるのが好ましく、100μm以下であるのがより好ましい。
上記塗工の方法は、特に制限されず、例えば、上記無機化合物塗料を基材層の表面に塗布する方法、上記無機化合物塗料に上記基材層を構成するセラミックス板を浸漬(片面だけを付けることを含む)する方法などが挙げられる。
中でも、上記の浸漬させる方法が、上記無機化合物塗料の塗工むらが少ない点などの点で好ましい。
上記塗工における上記無機化合物塗料の量は、特に制限されないが、上記基材層の面積あたりの上記無機化合物塗料の量が、上記無機化合物量として(溶媒を含まない)、0.001g/cm
2以上1.0g/cm
2未満である。この範囲外であると、解像度、感度、ムラの点で要求されるレベルとならない。
なお、上記塗工を行う部分は、特に制限されず、上記基材層の両面、片面部分、一部分などとすることができる。
【0018】
上記所定の処理は、焼成処理である。
上記焼成処理は、無機化合物塗料の融点以上で基材の融点未満で、おおよそ900〜1000℃、例えば四ホウ酸リチウムでは融点(917℃)以上で、好ましくは0.5〜48時間、さらに好ましくは基材と十分に反応するまでの時間加熱処理することにより行うことができる。
【0019】
上記熱蛍光層は、上記無機化合物塗料を焼成することにより、無機化合物がセラミックス化してなるセラミックス層である。
上記熱蛍光層におけるセラミックスの成分は、用いる無機化合物並びに基材層の構成成分によるが、無機化合物の焼成物、無機化合物と基材層の成分との焼成反応物、および未反応で残留した無機化合物の混合物からなるセラミックスになっていると考えられ、例えば、無機化合物として4ホウ酸リチウム(LiB
4O
7)を用いた場合には、焼成反応物としてのケイ酸アルミニウムリチウム(例えば、LiAlSi
2O
6など)のリチウム含有酸化物、ホウ酸ガラス等がセラミックスの構成成分である。
【0020】
(厚さ)
上記熱蛍光層の厚さは、2mm未満であり、感度、解像度、コスト等の観点から、0.1mm未満であるのが好ましい。
【0021】
(形状・大きさなど)
上記熱蛍光層の大きさは、特に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、用途や目的に合わせて任意にすることができる。
本発明の上記熱蛍光層の形状は、特に制限されず、用途や目的に応じて任意の密度、形状にすることができるが、放射線計測に用いる場合、板状体であるのが好ましい。
【0022】
(第3成分)
また、本発明においては熱蛍光層に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々成分を添加することができる。
【0023】
<製造方法>
本発明の積層型熱蛍光体の製造方法の一例を以下に説明する。
本発明の積層型熱蛍光体の製造は、上記基材層上に上記無機化合物塗料を塗工した後、焼成を行うことにより実施できる。
上記基材層の製造は、一般的なセラミックスの製造方法などを用いて行うことができる。具体的には、上記金属酸化物等の原料を、粉砕および混合した後、焼結することなどにより実施することができる。
上記基材層上への上記無機化合物塗料の塗工は、上述の通りである。
また、焼成の条件も上述の通りである。
なお、製造方法のより具体的な説明は、実施例に記載する。
また、上述した以外にも趣旨を逸脱しない範囲で、他の処理も行うことができる。
そのような例としては、成形処理などが挙げられ、焼結処理の前または後に、公知の方法で行うことができる。
上記成形は、用途に応じて適宜決定される任意のものであるが、乾式成形などの公知の成形方法を用いて行うことができ、板状、四角形状、円形状、線状、曲線状などの任意の形状を用いることができる。
【0024】
<使用方法・用途>
本発明の積層型熱蛍光体は、X線、電子線、α線、β線、γ線、中性子線などの放射線を吸収させて放射線のイメージングデバイスとして用いることができる。
その際、上記放射線吸収後の上記積層型熱蛍光体に対して、加熱処理を行うことにより、その吸収した放射線の量に応じて蛍光を発生させ、得られた蛍光を、蛍光読取装置、熱蛍光画像取得装置で検出、定量などを行うことで、放射線の1〜3次元の定量解析などを行うことができる。
ここで上記加熱処理は用いる基材層の形成材料や無機化合物によって任意であるが、基材層の形成材料を超軽量コージライトとし、無機化合物として四ホウ酸リチウムを使用した場合は加熱温度が920〜930℃、加熱時間が30〜120分程度の条件とすることができる。
本発明の積層型熱蛍光体は、実施例に後述するように、簡便に使用することができ、また、解析結果も迅速に得ることができるものである。
本発明の積層型熱蛍光体は、上記の熱蛍光特性を有することから、個人の放射線被ばく量や環境における放射線量を測定する放射線線量計に好適に使用することができる。また、上記の熱蛍光特性に加え、放射線の計測などに用いた場合において高い解像度の熱蛍光特性を有するものであり、放射線の1〜3次元計測に使用することができるものであり、放射線イメージングデバイスなどに用いる放射線の2次元線量計として好適に用いることができる。
【0025】
本発明は上述した実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【実施例】
【0026】
以下、本発明について実施例及び比較例を示してさらに具体的に説明するが本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
[実施例1]
(積層型熱蛍光体の製造)
上記基材層として、MgO・Al
2O
3・SiO
2(コージライト)を主成分とする、軽量セラミックス(商品名:超軽量コージライトC1、千葉セラミック工業社)、大きさ(縦50mm×横50mm×厚さ2mm)を用いた。
上記基材層の上に、上記熱蛍光層を形成した。
上記熱蛍光層の形成は、以下のように行った。
上記無機化合物塗料として、開口が100μmのふるいを通した4ホウ酸リチウム(Li
2B
4O
7)を用い、上記無機化合物塗料5gを、溶媒としてのエタノール20mLに投入し、乳棒と乳鉢でよく攪拌させ、スラリー化した上記無機化合物塗料混合液を作成した。
上記基材層全体をエタノールに浸した上記基材層の片面を、上記無機化合物塗料混合液
に浸して、上記基材層に上記無機化合物塗料を塗工した。
なお、上記無機化合物塗料の塗工量は、上記基材層の面積(cm
2)あたり、0.001g(g/cm
2)であった。
上記無機化合物塗料混合液に浸した上記基材層は40℃で30分処理してエタノールをよく乾かした後、電気炉により920℃、30分間の加熱処理で焼結させて、上記熱蛍光層を形成させ、本発明の積層型熱蛍光体を得た。
なお、上記熱蛍光層の厚みは0.5mm以下であった。
また、焼結処理時間の短縮(920℃、30分程度)により、基材層としてのセラミックスのゆがみが改善した。
【0027】
[実施例2〜15]
無機化合物塗料で用いたふるいの開口の大きさと、無機化合物塗料の塗工量を変えた以外は、実施例1と同様にして、本発明の積層型熱蛍光体を製造した。
詳細は、以下のとおりである。
実施例2、ふるいの開口:100μm、塗工量:0.001(g/cm
2)未満
実施例3、ふるいの開口:100μm、塗工量:0.005(g/cm
2)
実施例4、ふるいの開口:100μm、塗工量:0.010(g/cm
2)
実施例5、ふるいの開口:100μm、塗工量:0.020(g/cm
2)
実施例6、ふるいの開口:250μm、塗工量:0.001(g/cm
2)未満
実施例7、ふるいの開口:250μm、塗工量:0.001(g/cm
2)
実施例8、ふるいの開口:250μm、塗工量:0.005(g/cm
2)
実施例9、ふるいの開口:250μm、塗工量:0.010(g/cm
2)
実施例10、ふるいの開口:250μm、塗工量:0.020(g/cm
2)
実施例11、ふるいの開口:500μm、塗工量:0.001(g/cm
2)未満
実施例12、ふるいの開口:500μm、塗工量:0.001(g/cm
2)
実施例13、ふるいの開口:500μm、塗工量:0.005(g/cm
2)
実施例14、ふるいの開口:500μm、塗工量:0.010(g/cm
2)
実施例15、ふるいの開口:500μm、塗工量:0.020(g/cm
2)
【0028】
[試験例1]
(熱蛍光の測定)
無機化合物塗料の塗工量、粒径と、熱蛍光との関係を調べるため、実施例1〜15の熱蛍光を測定した。
結果を表1に示す。
【表1】
また、粒径と解像度については、粒径が小さいほど解像度が高かった。
【0029】
[試験例2]
(グロー曲線の測定1)
本発明の積層型熱蛍光体のグロー曲線を測定した。
グロー曲線は、X線照射装置(MX80Labo、MedXtecJapan
社製)、
図1に示す装置により、下記条件にて測定を行った。
条件:
照射条件:80kV,1.00mA、1200s、3.64Gy
昇温速度:0.10℃/s
その結果を
図2に示す。
結果から、170℃付近、250℃付近、340℃付近に3つのピークが観測されるのがわかる。
【0030】
[試験例3]
(2次元熱蛍光測定)
本発明の積層型熱蛍光体の2次元熱蛍光測定を行った。
2次元熱蛍光測定は、積層型熱蛍光体の中心に500円硬貨を設置してX線照射を行い、観測された熱蛍光を積算することで行った。
また、2次元TL測定は、
図3に示す装置で行った。
なお、対象試験として、実施例1のふるいを250μmにしたもの(無機化合物塗料の粒径が250μm、塗工量0.010g/cm
2(実施例9))についても行った。
その結果を
図4に示す。
図4に示すように、無機化合物塗料の粒径が100μm(実施例1)の方が、250μm(実施例9)よりも、500円硬貨の辺縁が明瞭に検出されていることがわかる。
結果から、無機化合物塗料の粒子を小さくすると、より反応性が向上し、反応斑が小さくなることがわかる。
粒子が大きいと、反応斑が大きく、解像度が低下する。また、未反応のLi
2B
4O
7に覆われ感度も低下するものと考えられる。
【0031】
[試験例4]
(粉末X線回折分析)
実施例1の積層型熱蛍光体の表面の粉末X線回折分析を下記条件で行った。
条件:
装置名:X線回折装置、Rigaku Corporation社製、RINT2200
Comments 3−90 4deg/min 0.5−5
Goniometer:RINT2000 広角ゴニオメータ
Attachment:標準試料ホルダー
Monochromater:固定モノクロメータ
ScanningMode:2Theta/Theta
ScanningType:Continuos Scanning
X−Ray:40kV/40mA
発散スリット:1/2°
発散縦制限スリット:5mm
散乱スリット:1/2°
受光スリット:0.15mm
モノクロ受光スリット:なし
その結果を
図5に示す。
その結果、コージライトにほとんど等しい回折ピークが観測されたが、ケイ酸アルミニウムリチウム(LiAlSi
2O
6)の回折ピークが観測された。
結果におけるLiAlSi
2O
6は、上記基材層の成分であるコージライトの成分と、上記無機化合物塗料の成分(Li
2B
4O
7)とが、Al
2O
3+SiO
2+LiB
4O
7→LiAlSi
2O
6のように反応することで、形成されたと考えられる。
また、これは、基材層との相互作用や反応によって各層ごとの層化効果ではなく、相乗効果が得られている。その原因は、その界面において反応が起きて、ケイ酸アルミニウムリチウムができていると共にガラス化が生じているであろうことが考えられる。
【0032】
[試験例5]
(グロー曲線の測定2)
実施例1で用いた基材層のグロー曲線を試験例2と同様にして、測定した。
加熱処理を行ったもの、920℃で2時間加熱した基材層について、グロー曲線を測定した。
なお、基材層には、蛍光層の形成を行っていない。
その結果を
図6に示す。
また、試験例1の結果(実施例1の結果)と、熱処理した基材層とを比較した結果を
図7に示す。
結果(
図6)から、基材層(コージライト)自体が熱蛍光を示すことがわかる。
また、熱処理の有無によりグロー曲線が変化することがわかる。
結果(
図7)から、150℃〜250℃でのグローピークは、LiAlSi
2O
6によるものだと考えられる。また、LiAlSi
2O
6は低温側での熱蛍光に寄与していると考えられる。
【0033】
[試験例6]
(グロー曲線の測定3)
表2に示す組成の基材層におけるグロー曲線を試験例2と同様にして、測定した。
【表2】
その結果を
図8に示す。
結果から、Al
2O
3を80%以上含有するセラミックスで高感度であり、かつ含有率が高いほど高感度であり、またTLグロー曲線において170℃と260℃付近に顕著なグローピークが観測されることがわかる。
【0034】
以上の結果から、本発明の積層型熱蛍光体は、汎用性の高い2次元の放射線検出デバイスとして取扱いが容易で、繰り返し利用することが可能であり、さらには感度と解像度が高く、ダイナミックレンジが広く、堅牢性が高いものであることがわかる。