【解決手段】濾波装置1は、雑音信号成分と所望の直流成分を含むアナログの入力信号Xから所望の直流成分の信号を抽出するため、入力信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングし、入力信号の略全ての信号帯域を含んだディジタルの全帯域信号Aに変換するA/D変換部2と、A/D変換部2からの全帯域信号Aと、この全帯域信号Aの1サンプル遅れの信号との差分を算出して差分信号Bを出力する差分器3と、予め設定された基準点Pを差分信号Bから検出する基準点検出部4と、基準点検出部4が基準点Pを検出したときの差分信号Bを基準点Pから積分して積分信号Cを出力する積分器7と、全帯域信号Aと積分信号Cの入力タイミングを一致させて全帯域信号Aから積分信号Cを減算する第1の減算器9とを備える。
【背景技術】
【0002】
各種センサの信号は、測定対象に反応する物理現象を利用して、処理しやすい電圧や電流などの電気信号として変換されるのが通常である。そして、この電気信号は、所定の物理量を定量的に測る際の信号処理の手段となる。また、電気信号に変換された信号は、測定対象に応じて時間周波数特性を有している。
【0003】
ところで、測定対象の物理量のセンシングとそれを電気信号に変換する過程においては、物理現象以外の信号に不要な雑音が重畳された電気信号として出力される。例えば、温度計や秤などの物理量は直流付近の低い周波数域に変換されるが、周囲温度や風などの周囲環境の雑音や電気信号に変換するための供給電圧や電流の雑音は、それ以上の比較的高い周波数の変動を有するのが通常である。このような低域の信号を抽出する際に、直流よりも周波数の高い低周波の変動成分を抽出する手法は、時間周波数の不確定性の関係により、長い処理時間を必要とする技術課題がある。
【0004】
そこで、上述した技術課題を解消するため、雑音発生の学習情報を用いて処理時間の減少を図った研究例として、下記特許文献1に開示されるように、センサ信号をA/D変換し、ディジタル信号処理を用いたローパスフィルタを雑音除去に適用した報告がある。ローパスフィルタは、遮断周波数幅を低く設定することで低い周波数の雑音成分まで除去することが可能になる。
【0005】
例えば、
図5に示す特許文献1の従来の計量装置においては、不図示の計量部から出力されるアナログの計量信号(入力信号X)をディジタル信号に変換するA/D変換部51と、搬送手段が持つ定常的な低周期振動の周期を算出し、その周期に対応したトリガを発生する振動周期算出部52と、搬送手段に測定対象物が無い状態で計量手段が出力する無負荷の計量信号の波形と近似する振動補正波形を振動周期算出部52で算出された周期でなる基本の波形関数から生成するため位相及び振幅を含む波形生成条件を算出して記憶する波形条件記憶部53と、振動周期算出部52から発生されたトリガを基準として波形条件記憶部53に記憶された振動波形を生成するための条件から計量信号を補正するための補正信号を生成する補正波形生成部54と、計量信号(入力信号X)と補正波形生成部54から出力される補正信号との差分により測定対象物の計量値を算出する補正部55と、補正部55が算出した測定対象物の計量値に基づいて良品・不良品などを判定する判定部56と、判定部56の判定結果の表示や各種操作を行う操作表示部57を備えている。この特許文献1の計量装置では、計量信号から高周波成分を除去するために不図示のローパスフィルタを用い、またローパスフィルタによってフィルタ処理された計量信号の交流成分のピーク値を検出して振動周期を算出している。
【0006】
このように、ローパスフィルタによりセンサ信号から雑音成分を除去して、信号成分を高速高精度に抽出する研究が従来から行われていたが、その計算手法は線形演算によるものであった。
【0007】
そして、このような線形演算を用いた信号処理では、解析や評価の手順が一意的に決まる反面、処理遅延時間や時間周波数の不確定性に基づくフィルタの応答時間等には原理的な制約が伴う。具体的には、ローパスフィルタの遮断周波数を低く設定した場合、センシング期間を長くする必要があり、その分だけ応答速度が遅くなるという問題があった。
【0008】
また、センサ信号から雑音成分を除去する際、ローパスフィルタだけではなく、バンドパスフィルタ、ヒルベルト変換手法などが使用される場合がある。しかし、バンドパスフィルタでは、例えば5Hzから40Hzを通過帯域とする低域のバンドパスフィルタを設計したとき、直流信号を減衰させることが極めて困難である。これに対し、ヒルベルト変換手法では、直流は減衰できるが低域の信号が減衰する。しかも、直流成分を抑圧する場合は、ディジタルフィルタのタップ数が著しく増加して処理遅延が著しく増加する。
【0009】
これらのフィルタリング手法は、センサ信号としての電気信号が有する振幅周波数特性や位相周波数特性の雑音の持つ局所性や偏りを利用して、目的となる信号成分である低域成分を抽出している。これらの処理を系(システム)として捉えると、センサ信号が有する周波数位相成分に、処理システムの有するインパルス応答を時間領域で畳み込み演算して、信号の周波数位相成分を加工処理する演算モデルで定式化できる。この畳み込み演算は抽出する低周波成分の周波数が低ければ低いほど、インパルス応答の応答点数を大きくしなければ所望の低域周波数を抽出できない性質を有する。すなわち、処理時間が長くかかり、処理時間は(インパルス応答の応答点数)*(サンプリング時間T)/2で示される。この処理遅延はアナログ的手法を用いても、アナログ処理の主モードである処理系の時定数τという尺度でみると、exp(−t/τ)に比例して、τ時間がその遅延処理時間を意味するため、低域処理はτが大きくなり、正常な信号を伝達するまでの遅延時間を増大させることになる。
【0010】
このようなセンサ信号の持つ処理遅延を許せば、時々刻々と変化する信号の性質を取り逃がすとともに、時間変動していく信号の取得機会損失を引き起こす可能性も生じるため、この処理遅延を少なくする信号処理は極めて重要な技術課題となる。
【0011】
そこで、上述した重要な技術課題を解決するため、処理遅延を少なくする信号処理を実現した濾波装置および濾波方法として下記特許文献2が開示されている。
【0012】
特許文献2に開示される濾波装置および濾波方法では、センサ信号の持つ時空間特性に対して、処理時間の長くかかる上述した畳み込み積分処理による低域信号抽出処理を行わず、所望の低域信号と反対側にある高域信号を抽出して、全体信号から高域処理信号を演算して低域信号を抽出する考え方を採用している。しかも、特許文献2では、信号処理の形態として信号の初期過程から逐次的に処理して結果が出る形態ではなく、信号区間のどこから始めても、その区間、区間ごとに測定結果が抽出できるリアルタイムな手法を採用している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上述した特許文献2に開示される濾波装置および濾波方法は、現信号が有する直流成分を抽出する手法であるが、直流を求めるために相関処理による演算を行い、探索的手法で最適値を求める手段を利用しているので、計算量が少ないとは言い切れず、処理に時間を要するという課題があった。このため、特許文献2に開示される濾波装置および濾波方法の利点を活かしつつ、計算量を大幅に削減して正確な直流成分を得ることができる濾波装置および濾波方法の提供が望まれていた。
【0015】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、計算量を大幅に削減して正確な直流成分を得ることができる濾波装置および濾波方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に記載された濾波装置は、雑音信号成分と所望の直流成分を含むアナログの入力信号Xから前記所望の直流成分の信号Yを抽出するための濾波装置1において、
前記入力信号を所定のサンプリング周期でサンプリングし、前記入力信号の略全ての信号帯域を含んだディジタルの全帯域信号Aに変換するA/D変換部2と、
前記A/D変換部からの全帯域信号と、該全帯域信号の1サンプル遅れの信号との差分、もしくは、該差分による差分信号の1サンプル遅れとの差分を算出して差分信号Bを出力する差分器3と、
予め設定された基準点Pを前記差分信号から検出する基準点検出部4と、
前記基準点検出部が前記基準点を検出したときの前記差分信号を該基準点から積分して積分信号Cを出力する積分器7と、
前記全帯域信号と前記積分信号の入力タイミングを一致させて前記全帯域信号から前記積分信号を減算する第1の減算器9とを備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載された濾波装置は、請求項1の濾波装置において、
前記全帯域信号Aから前記基準点Pを検出するための基準点検出用信号Eを生成する基準点検出用信号生成部10と、
前記基準点検出部4が前記基準点を検出したときは、前記全帯域信号を前記差分器3に入力するとともに、前記全帯域信号を前記第1の減算器9に入力させる経路R1,R3を選択し、前記基準点検出部が前記基準点を検出しないときは、前記全帯域信号を前記基準点検出用信号生成部に入力させるとともに、前記基準点検出用信号生成部からの基準点検出用信号を前記第1の減算器と前記差分器に入力させる経路R2,R4を選択するように経路を切り替える切替器11,12とを備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載された濾波方法は、雑音信号成分と所望の直流成分を含むアナログの入力信号Xから前記所望の直流成分の信号Yを抽出するための濾波方法において、
前記入力信号を所定のサンプリング周期でサンプリングし、前記入力信号の略全ての信号帯域を含んだディジタルの全帯域信号Aに変換するステップと、
前記全帯域信号と、該全帯域信号の1サンプル遅れの信号との差分、もしくは、該差分による差分信号の1サンプル遅れとの差分を算出するステップと、
予め設定された基準点Pを前記差分による差分信号Bから検出するステップと、
前記基準点を検出したときの前記差分信号を該基準点から積分するステップと、
前記全帯域信号と前記積分による積分信号Cの入力タイミングを一致させて前記全帯域信号から前記積分信号を減算するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載された濾波方法は、請求項3の濾波方法において、
前記全帯域信号Aから前記基準点Pを検出するための基準点検出用信号Eを生成するステップと、
前記基準点を検出したときに、前記全帯域信号に基づく差分を算出するとともに、前記全帯域信号と前記積分による積分信号Cの入力タイミングを一致させて前記全帯域信号から前記積分信号を減算する経路R1,R3を選択し、前記基準点を検出しないときに、前記全帯域信号から前記基準点検出用信号を生成し、該全帯域信号から前記基準点検出用信号を減算した減算信号に基づく差分を算出するとともに、前記差分による差分信号と該差分信号を積分した積分信号の入力タイミングを一致させて前記差分信号から前記積分信号を減算する経路R2,R4を選択するように経路を切り替えるステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る濾波装置および濾波方法によれば、予め設定された基準点により特定した交流信号を生成し、この生成した交流信号を入力信号(現信号:全帯域信号)から除去している。これにより、従来の濾波装置および濾波方法と比較して、著しく計算量を削減して正確な直流成分を抽出して出力することができる。
【0021】
また、請求項2に記載された濾波装置および請求項4に記載された濾波方法によれば、所望の直流成分が周期の長い低周波ノイズに埋もれて基準点が検出できない場合であっても、入力信号を利用して基準点を検出するための信号を生成し、基準点を特定した交流信号を現信号から除去して正確な直流信号を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[本発明の技術分野]
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本発明に係る濾波装置および濾波方法は、クラウドコンピュータ網やM2M(Machine to Machine)通信に関連した各種センサネットワークで利用されるセンサ信号の情報処理技術に関し、センサ信号を高度化する信号処理技術である。
【0024】
[本発明の概要説明]
本発明に係る濾波装置および濾波方法は、クラウドコンピュータ網やM2M通信に関連した各種センサとネットワーク間で利用されるセンサ信号などに必ず含まれる低周波信号成分を切り出した測定区間において短時間に抽出処理する技術を提供し、低域の信号成分を減衰させないで所望の信号を濾波するものである。
【0025】
さらに言えば、本発明に係る濾波装置および濾波方法は、センサ信号のもつ時空間特性に対して、処理時間の長くかかる畳み込み積分処理による低域信号抽出処理でなく、所望の低域信号と反対側にある高域信号を抽出して、全体信号から高域処理信号を演算して低域信号を抽出する考え方を採用するとともに、信号区間のどこから始めても、その区間、区間ごとに測定結果が抽出できるリアルタイムな手法を採用するとともに、特許文献2の課題を解決するため、基準点(基準値)を定める決定的な手法を採用することで大幅な計算量の削減を実現するものである。
【0026】
[第1の実施形態による濾波装置の全体構成]
第1の実施形態による濾波装置1(1A)は、
図1に示すように、A/D変換部2、差分器3、基準点検出部4、タイミング生成部5、第1の遅延器6、積分器7、第2の遅延器8、第1の減算器9を備えて概略構成される。
【0027】
A/D変換部2は、アナログの入力信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングしてディジタル信号に変換し、入力信号Xの略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号Aを生成している。この全帯域信号Aは、差分器3に入力されるとともに、第2の遅延器8を介して第1の減算器9に入力される。
【0028】
差分器3は、A/D変換部2から入力される全帯域信号Aと、この全帯域信号Aを1サンプル遅延させた信号との差分を算出している。この算出により得られる差分信号Bは、直流がない交流信号であり、基準点検出部4に入力されるとともに、第1の遅延器6を介して積分器7に入力される。
【0029】
基準点検出部4は、差分器3から入力される差分信号Bに対し、予め設定された基準点Pがあるか否かを検出している。基準点Pは、差分器3の出力の最初の初期値であり、計算量を減らして適正な交流を求めることを考慮して、0を含む0近傍の値(電圧値又は電流値)に設定するのが好ましい。本例では、基準点P=0としている。
【0030】
タイミング生成部5は、基準点検出部4が基準点Pを検出したときに、差分器3の出力を遅延するタイミングを与えるタイミング信号T1と、積分器7で差分信号Bの積分を開始するタイミングを与えるタイミング信号T2とを生成している。
【0031】
第1の遅延器6は、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号T1をトリガとして、差分器3から入力される差分信号Bを所定時間(基準点検出部4の処理にかかった時間相当)遅延させ、積分器7に入力する差分信号Bの遅延時間を調整している。
【0032】
積分器7は、差分器3から第1の遅延器6を介して差分信号Bが入力されると、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号T2をトリガとして、基準点Pを検出した時間から差分信号Bを積分している。積分器7は、入力信号Xの現波形の交流成分のプロフィールを再現するため、差分器3の周波数特性と逆特性を有している。この積分器7による基準点Pから始まる積分値は、明確な基準点Pを有する交流信号による積分信号Cとして第1の減算器9に入力される。
【0033】
第2の遅延器8は、A/D変換部2から入力される全帯域信号Aを、差分器3の差分処理にかかる時間、基準点検出部4の基準点Pの検出処理にかかる時間、第1の遅延器6の遅延時間、積分器7の積分処理にかかる時間の和と同等の時間だけ、その位相特性を保持したまま遅延している。すなわち、第2の遅延器8は、第1の減算器9に入力する全帯域信号Aと、積分器7から第1の減算器9に入力する積分信号Cとの入力タイミングが一致するように、全帯域信号Aの遅延時間を調整している。
【0034】
第1の減算器9は、A/D変換部2から第2の遅延器8を介して入力される全帯域信号Aから積分器7による積分信号Cを減算し、現信号である入力信号Xに含まれる正確な直流成分による所望の直流信号Yを出力している。
【0035】
[第1の実施形態の濾波装置による処理動作例]
第1の実施形態の濾波装置1Aを用いた濾波方法として、入力信号Xから正確な直流成分を抽出して所望の直流信号Yを出力するまでの処理動作について
図2のフローチャートを参照しながら説明する。
【0036】
A/D変換部2は、入力信号(センサ電気信号)Xが入力されると、入力信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングし、入力信号Xの略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号Aを生成する(ST1:サンプリング処理)。このA/D変換部2で生成された全帯域信号Aは、差分器3と第2の遅延器8にそれぞれ入力される。
【0037】
差分器3は、A/D変換部2から全帯域信号Aが入力されると、この全帯域信号Aと、全帯域信号Aの1サンプル遅れの全帯域信号との差分を算出する(ST2:差分処理)。この差分器3で算出された差分信号Bは、基準点検出部4と第1の遅延器6にそれぞれ入力される。
【0038】
基準点検出部4は、差分器3から差分信号Bが入力され、この差分信号Bから予め設定された基準点Pを検出すると、基準点Pを検出した旨の信号をタイミング生成部5に出力する(ST3:基準点検出処理)。
【0039】
タイミング生成部5は、基準点検出部4から基準点Pを検出した旨の信号が入力されると、差分器3の出力を遅延するタイミングを与えるタイミング信号T1と、積分器7の積分を開始するタイミングを与えるタイミング信号T2とを生成する。
【0040】
そして、差分器3の差分信号Bは、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号T1をトリガとして、第1の遅延器6により遅延時間が調整され、積分器7に入力される。
【0041】
積分器7は、差分器3から第1の遅延器6を介して差分信号Bが入力されると、タイミング生成部5のタイミング信号T2をトリガとして、基準点Pを検出した時間から差分信号Bを積分する(ST4:積分処理)。
【0042】
第2の遅延器8は、A/D変換部2から分岐される全帯域信号Aを、差分器3の差分処理にかかる時間、基準点検出部4の基準点Pの検出処理にかかる時間、第1の遅延器6の遅延時間、積分器7の積分処理にかかる時間の和と同等の時間だけ、その位相特性を保持したまま遅延して出力する。
【0043】
そして、第1の減算器9は、A/D変換部2から第2の遅延器8を介して入力される全帯域信号Aから積分器7による積分信号Cを減算し、現信号の入力信号Xに含まれる正確な直流成分を抽出して所望の直流信号Yを出力する(ST5:直流成分抽出処理)。
【0044】
[第2の実施形態による濾波装置の全体構成]
第2の実施形態による濾波装置1(1B)は、
図3に示すように、上述した第1の実施形態による濾波装置1AのA/D変換部2、差分器3、基準点検出部4、タイミング生成部5、第1の遅延器6、積分器7、第2の遅延器8、第1の減算器9の構成に加え、基準点検出用信号生成部10、第1の切替器11、第2の切替器12をさらに備えている。
【0045】
この第2の実施形態による濾波装置1Bでは、基準点検出用信号生成部10、第1の切替器11、第2の切替器12の追加構成により、上述した第1の実施形態による濾波装置1Aの基準点検出部4が基準点Pを検出できないときの問題を解消している。尚、第2の実施形態による濾波装置1Bにおいて、第1の実施形態による濾波装置1Aと同一の構成要素には同一番号を付して説明する。
【0046】
A/D変換部2は、アナログの入力信号Xを所定のサンプリング周期でサンプリングしてディジタル信号に変換し、入力信号Xの略全ての信号帯域を含んだ全帯域信号Aを生成している。この全帯域信号Aは、基準点検出用信号生成部10に入力されるとともに、第1の切替器11及び第2の切替器12の接点切替により差分器3、第2の遅延器8に選択的に入力される。
【0047】
差分器3は、A/D変換部2から第2の切替器12を介して入力される全帯域信号Aと、この全帯域信号Aを1サンプル遅延させた信号との差分を算出している。この算出により得られる差分信号Bは、直流がない交流信号であり、基準点検出部4に入力されるとともに、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号により第1の遅延器6を介して積分器7に入力される。
【0048】
基準点検出部4は、差分器3から入力される差分信号Bに対し、予め設定された基準点Pがあるか否かを検出している。基準点Pは、差分器3の出力の最初の初期値であり、計算量を減らして適正な交流を求めることを考慮して、0を含む0近傍の値(電圧値又は電流値)に設定するのが好ましい。本例では、基準点P=0としている。
【0049】
また、基準点検出部4は、第1の切替器11の接点を切り替えるための切替信号S1と、第2の切替器12の接点を切り替えるための切替信号S2を基準点Pの検出の有無に応じて出力している。
【0050】
タイミング生成部5は、基準点検出部4が基準点Pを検出したときに、差分器3の出力を遅延するタイミングを与えるタイミング信号T1と、積分器7で差分信号Bの積分を開始するタイミングを与えるタイミング信号T2とを生成している。
【0051】
第1の遅延器6は、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号T1をトリガとして、差分器3から入力される差分信号Bを所定時間(基準点検出部4の処理にかかった時間相当)遅延させ、積分器7に入力する差分信号Bの遅延時間を調整している。
【0052】
積分器7は、差分器3から第1の遅延器6を介して差分信号Bが入力されると、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号T2をトリガとして、基準点Pを検出した時間から差分信号Bを積分している。積分器7は、入力信号Xの現波形の交流成分のプロフィールを再現するため、差分器3の周波数特性と逆特性を有している。この積分器7による基準点Pから始まる積分値は、明確な基準点Pを有する交流信号による積分信号Cとして第1の減算器9に入力される。
【0053】
第2の遅延器8は、A/D変換部2と第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続され、A/D変換部2と差分器3との間が第2の切替器12を介して接続されているときに、差分器3の差分処理にかかる時間、第1の遅延器6の遅延時間、積分器7の積分処理にかかる時間の和と同等の時間だけ、A/D変換部2から第2の切替器12を介して入力される全帯域信号Aの位相特性を保持したまま遅延している。
【0054】
また、第2の遅延器8は、基準点検出用信号生成部10と第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続され、差分器3と基準点検出用信号生成部10との間が第2の切替器12を介して接続されているときに、差分器3の差分処理にかかる時間、第1の遅延器6の遅延時間、積分器7の積分処理にかかる時間の和と同等の時間だけ、基準点検出用信号生成部10から第2の切替器12を介して入力される基準点検出用信号Eの位相特性を保持したまま遅延している。
【0055】
第1の減算器9は、A/D変換部2と第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続されているときに、第2の遅延器8により遅延された全帯域信号Aから積分器7による積分信号Cを減算し、現信号である入力信号Xに含まれる正確な直流成分による所望の直流信号Yを出力している。
【0056】
また、第1の減算器9は、基準点検出用信号生成部10と第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続されているときに、第2の遅延器8により遅延された基準点検出用信号Eから積分器7による積分信号Cを減算し、基準点検出用信号Eに含まれる直流成分による直流信号Yを出力している。
【0057】
基準点検出用信号生成部10は、基準点Pを検出するための基準点検出用信号Eを生成するもので、
図3に示すように、信号生成部10a、第3の遅延器10b、第2の減算器10cを備えている。
【0058】
信号生成部10aは、第2の減算器10cと第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続され、第2の減算器10cと差分器3との間が第2の切替器12を介して接続されているときに、A/D変換部2から入力される全帯域信号AのI信号とQ信号を抽出し、この抽出したI信号とQ信号に基づき、全帯域信号Aに対して位相を180度反転した反転信号Dを生成している。この反転信号Dは、第2の減算器10cに入力され、第2の減算器10cで全帯域信号Aから減算されるときの基準点Pとなる信号である。
【0059】
第3の遅延器10bは、第2の減算器10cと第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続され、第2の減算器10cと差分器3との間が第2の切替器12を介して接続されているときに、信号生成部10aの信号生成処理にかかる時間と同等の時間だけ、A/D変換部2から入力される全帯域信号Aを遅延させて出力している。
【0060】
第2の減算器10bは、第2の減算器10cと第2の遅延器8との間が第1の切替器11を介して接続され、第2の減算器10cと差分器3との間が第2の切替器12を介して接続されているときに、第3の遅延器10bで遅延された全帯域信号Aから信号生成部10aで生成された反転信号Dを減算し、この減算により得られる信号(交流的に平均0の信号)を基準点検出用信号Eとして第1の切替器11を介して第2の遅延器8に入力するとともに、第2の切替器12を介して差分器3に入力している。
【0061】
第1の切替器11は、
図3に示すように、2つの固定接点11a,11bと1つの可動接点11cを有している。第1の切替器11は、固定接点11aがA/D変換部2と信号生成部10aと第3の遅延器10bにそれぞれ接続され、固定接点11bが第2の減算器10cと第2の切替器12に接続され、可動接点11cが第2の遅延器8に接続されている。
【0062】
第1の切替器11は、基準点Pの検出の有無に応じた基準点検出部4からの切替信号S1により、可動接点11cが固定接点11a又は固定接点11bに選択的に切り替えられる。さらに説明すると、第1の切替器11は、濾波装置1Bの起動時の初期状態及び基準点検出部4が基準点Pを検出しているときの切替信号S1により、可動接点11cが固定接点11a側に切り替えられる。これにより、A/D変換器2と第2の遅延器8との間を接続する経路R1が選択される。
【0063】
また、第1の切替器11は、基準点検出部4が基準点Pを検出していないときの切替信号S1により、
図3に示すように、可動接点11cが固定接点11b側に切り替えられる。これにより、第2の減算器10cと第2の遅延器8との間を接続する経路R2が選択される。
【0064】
第2の切替器12は、
図3に示すように、2つの固定接点12a,12bと1つの可動接点12cを有している。第2の切替器12は、固定接点12aがA/D変換部2、第2の遅延器8、信号生成部10a、第3の遅延器10bにそれぞれ接続され、固定接点12bが第2の減算器10cと第1の切替器11に接続され、可動接点12cが差分器3に接続されている。
【0065】
第2の切替器12は、基準点Pの検出の有無に応じた基準点検出部4からの切替信号S2により、可動接点12cが固定接点12a又は固定接点12bに選択的に切り替えられる。さらに説明すると、第2の切替器12は、濾波装置1Bの起動時の初期状態や基準点検出部4が基準点Pを検出しているときの切替信号S2により、可動接点12cが固定接点12a側に切り替えられる。これにより、A/D変換器2と差分器3との間を接続する経路R3が選択される。
【0066】
また、第2の切替器12は、基準点検出部4が基準点Pを検出していないときの切替信号S2により、
図3に示すように、可動接点12cが固定接点12b側に切り替えられる。これにより、第2の減算器10cと差分器3との間を接続する経路R4が選択される。
【0067】
[第2の実施形態による濾波装置の処理動作例]
第2の実施形態の濾波装置1Bを用いた濾波方法として、入力信号Xから正確な直流成分を抽出して所望の直流信号Yを出力するまでの処理動作について
図4のフローチャートを参照しながら説明する。
【0068】
尚、
図3に示す第2の実施形態の濾波装置1Bにおいて、基準点Pを検出している状態、すなわち、第1の切替器11の可動接点11cが固定接点11a側に切り替えられ、第2の切替器12の可動接点12cが固定接点12a側に切り替えられている状態では、前述した第1の実施形態の濾波装置1Aと同様の処理動作を行う。
【0069】
第2の実施形態による濾波装置1Bでは、基準点検出部4が基準点Pを検出しないときに、切替信号S1によって第1の切替器11の可動接点11cが固定接点11b側に切り替えられ、切替信号S2によって第2の切替器12の可動接点12cが固定接点12b側に切り替えられる(ST11:接点切替処理)。この状態で、A/D変換部2と差分器3との間の接続およびA/D変換部2と第2の遅延器8との間の接続が切り離され、A/D変換部2からの全帯域信号Aが信号生成部10aおよび第3の遅延器10bにそれぞれ入力される。
【0070】
信号生成部10aは、A/D変換部2から全帯域信号Aが入力されると、この全帯域信号Aに対し、位相を180度反転した反転信号Dを生成する(ST12:反転信号生成処理)。この信号生成部10aで生成された反転信号Dは第2の減算器10cに入力される。
【0071】
第2の減算器10cは、信号生成部10aから入力される反転信号Dを、第3の遅延器10bで遅延された全帯域信号Aから減算し、基準点Pを検出するための基準点検出用信号Eを生成する(ST13:基準点検出用信号生成処理)。この減算により得られる基準点検出用信号Eは、基準点Pを含む交流的に平均0の信号であり、第1の切替器11を介して第2の遅延器8に入力されるとともに、第2の切替器12を介して差分器3に入力される。
【0072】
差分器3は、第2の減算器10cから基準点検出用信号E(交流的に平均0の信号)が入力されると、この基準点検出用信号E(全帯域信号と全帯域信号の1サンプル遅れの信号との差分による差分信号に相当)と、基準点検出用信号Eの1サンプル遅れの基準点検出用信号との差分(2次差分)を算出する(ST14:差分処理)。この差分器3で算出された差分信号Bは、基準点検出部4と第1の遅延器6にそれぞれ入力される。
【0073】
基準点検出部4は、差分器3から差分信号Bが入力されると、この差分信号Bから基準点Pを検出し(ST15:基準点検出処理)、基準点Pを検出した旨の信号をタイミング生成部5に出力する。
【0074】
タイミング生成部5は、基準点検出部4から基準点Pを検出した旨の信号が入力されると、差分器3の出力を遅延するタイミングを与えるタイミング信号T1と、積分器7の積分を開始するタイミングを与えるタイミング信号T2とを生成する。
【0075】
そして、差分器3の差分信号Bは、タイミング生成部5で生成されるタイミング信号T1をトリガとして、第1の遅延器6により遅延時間が調整され、積分器7に入力される。
【0076】
積分器7は、差分器3から第1の遅延器6を介して差分信号Bが入力されると、タイミング生成部5のタイミング信号T2をトリガとして、基準点Pを検出した時間から差分信号Bを積分する(ST16:積分処理)。
【0077】
第2の遅延器8は、第2の減算器10cから第1の切替器11を介して基準点検出用信号Eが入力されると、第2の減算器10cから入力される基準点検出用信号Eに対して差分器3の差分処理にかかる時間、第1の遅延器6の遅延時間、積分器7の積分処理にかかる時間の和と同等の時間だけ、その位相特性を保持したまま遅延して基準点検出用信号Eを第1の減算器9に入力する。
【0078】
そして、第1の減算器9は、第2の遅延器8を介して入力される基準点検出用信号Eから積分器7による積分信号Cを減算し(ST17:減算処理)、基準点検出用信号Eに含まれる直流信号Yを出力する。
【0079】
以上の動作により、全帯域信号Aから生成される基準点検出用信号Eによって基準点検出部4が差分信号Bから基準点Pを検出すると、1つの測定セッションが終了し、次の測定セッションに移行するために、切替信号S1により第1の切替器11の可動接点11cを固定接点11a側に切り替えるとともに、切替信号S2により第2の切替器12の可動接点12cを固定接点12a側に切り替え(ST18:接点切替処理)、前述した
図2のST1〜5の処理を実行する。そして、基準点検出部4が基準点Pを再び検出しなくなると、上述したST11〜18の処理を繰り返し、基準点検出用信号Eによって基準点検出部4が差分信号Bから基準点Pを検出すると、前述した
図2のST1〜5の処理を実行する。
【0080】
尚、上述した濾波装置1A,1Bによる処理動作を測定区間で繰り返して実行し、この処理動作によって得られる直流信号Yの平均化処理を行うようにしてもよい。これにより、測定区間における安定区間に微視点変動がある場合でも、この微視点変動の影響を取り除き、正確な直流成分を抽出して所望の直流信号Yを得ることができ、より精度の高い測定値(直流信号Y)を提供することができる。
【0081】
また、特に図示はしないが、上述した濾波装置1A,1Bにおいて、入力信号Xの直流成分に重畳される雑音を除去するため、A/D変換部2の直後にローパスフィルタを設ける構成としても良い。
【0082】
このように、本発明に係る濾波装置および濾波方法によれば、特許文献2に開示されるような相関処理による演算や相関値の最大値である推定値を見つけるための探索的な手法を必要とせず、予め設定される基準点Pによる決定的な手法、すなわち、基準点Pを特定した交流信号を現信号(全帯域信号A)から除去している。これにより、特許文献2と比較して、著しく計算量を削減して正確な直流成分を抽出することができ、直流付近の周波数成分を損なわない帯域フィルタを構成することができる。
【0083】
また、第2の実施形態による濾波装置1B及び濾波方法によれば、所望の直流成分が周期の長い低周波ノイズに埋もれて基準点Pが検出できない場合であっても、現信号を利用して基準点Pを検出するための基準点検出用信号Eを生成し、この生成した基準点検出用信号Eにより基準点検出部4が差分信号Bから基準点Pを検出している。これにより、基準点Pを特定した交流信号を現信号から除去し、著しく計算量を削減して正確な直流成分を抽出し、所望の直流信号を得ることができる。
【0084】
以上、本発明に係る濾波装置および濾波方法の最良の形態について説明したが、この形態による記述および図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例および運用技術などはすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。